説明

超電導機器の冷却容器

【課題】超電導機器に交流電源を印加したときに容器に流れる渦電流によって生じる熱の影響を冷媒が受けるのを防止すると共に、容器の小型化及び低コスト化を図る。
【解決手段】交流電源が印加される超電導機器を冷却する冷媒を収容する内槽と、該内槽の外周を真空断熱空間をあけて囲む外槽と、を備えた超電導機器の冷却容器において、前記内槽を形成する内槽材は、絶縁性の繊維強化樹脂材から形成される一方、前記外槽を形成する外槽材は、前記内槽材より強度を有する金属材あるいは樹脂材からなる別材で形成され、前記内槽材の平均肉厚より外槽材の平均肉厚が薄くされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導機器の冷却容器に関し、特に、冷却性能の向上と容器の小型化を図るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導モータ等の超電導機器の冷却容器として、超電導機器を直接的または間接的に冷却する冷媒を収容した内槽と、該内槽を真空断熱空間をあけて囲む外槽とからなる二重槽の冷却容器が用いられている。
【0003】
この種の二重槽の冷却容器は、内外槽ともステンレスやアルミニウム等の金属材により形成し、容器に十分な強度を付与している。
しかしながら、前記金属材からなる容器では熱伝導度が高いために、容器外の室温からの熱伝導により冷媒温度が上昇しやすい問題がある。かつ、超電導機器に交流電源を印加したときに、金属材からなる容器に渦電流が流れ、該渦電流により熱が発生し、容器内の冷媒温度が上昇して蒸発しやすくなり、超電導機器を長時間十分に冷却できず、超電導特性を維持できない問題がある。
【0004】
前記問題に対して、特開平7−74399号公報(特許文献1)で提供されている冷却容器では、内槽および外槽を共にエポキシ樹脂と強化繊維とからなる熱伝導率の小さい繊維強化樹脂で形成し、かつ、内槽または外槽の外面にガス透過量を抑制できるSiO2膜を形成した真空容器が提供されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−74399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、内槽・外槽共に繊維強化樹脂で形成しているため、ステンレス等の金属材と同等な強度を付与するには、内槽・外槽共に槽の厚さを大とする必要があり、冷却容器が大型化しやすい問題がある。
また、ブレイド状の強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂で槽を形成する場合、金型による射出成形が困難であるため、該繊維強化樹脂で塊状の母材を形成し、該母材を切削加工して槽を形成する必要がある。該製造工程は金属板をプレス加工して槽を形成する場合と比較して、内外槽とも繊維強化樹脂製とすると、製造コストが高騰する問題がある。
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、容器の大型化および製造コストの高騰を抑制しながら、冷媒温度の上昇、特に、超電導機器に交流電源を印加したときに容器に流れる渦電流によって生じる冷媒温度の上昇を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、交流電源が印加される超電導機器を冷却する冷媒を収容する内槽と、該内槽の外周を真空断熱空間をあけて囲む外槽と、を備えた超電導機器の冷却容器において、
前記内槽を形成する内槽材は、絶縁性の繊維強化樹脂材から形成される一方、
前記外槽を形成する外槽材は、前記内槽材より強度を有する金属材あるいは樹脂材からなる別材で形成され、
前記内槽材の平均肉厚より外槽材の平均肉厚が薄くされていることを特徴とする超電導機器の冷却容器を提供している。
【0009】
具体的には、前記内槽材は、ガラス繊維あるいは樹脂繊維からなる絶縁性強化繊維に、エポキシ樹脂あるいはフェノール樹脂からなるマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂材からなり、
前記外槽材は、ステンレス、アルミニウム、ブリキ、チタンから選択される金属材、あるいは、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド系樹脂から選択される樹脂材からなり、
前記内槽材および外槽材は、非透気性および非透水性とされている。
【0010】
前記構成からなる冷却容器によれば、超電導機器を冷却する冷媒を収容した内槽を繊維強化樹脂により形成しているため、超電導機器に交流電源を印加しても内槽に渦電流が発生しない。よって、内槽は発熱しないため、冷媒の温度を上昇させることなく長時間にわたって超電導機器の超電導特性を維持できる温度に冷却することができる。
また、冷却容器の外槽は金属材等により形成しているため、超電導機器に交流電源を印加すると外槽に渦電流が発生して発熱する場合もあるが、内槽と外槽との間に真空断熱空間を設けているため、外槽が発熱しても内槽内の冷媒に熱の影響を与えることがない。
特に、二重槽の冷却容器の内槽を繊維強化樹脂により形成する一方、外槽を強度の高い金属材で形成すれば、外槽を薄肉にして冷却容器の小型化を図ることができると共に、製造が容易であり、低コスト化を図ることができる。
【0011】
前記超電導機器が超電導モータ、超電導変圧器、超電導限流器、超電導発電機、超電導リアクトル、超電導電力貯蔵装置からなり、前記冷媒が液体窒素、液体水素、液体酸素、液体ヘリウム、液体ネオンあるいは液体アルゴンからなる。
【発明の効果】
【0012】
前述したように、本発明によれば、超電導機器および冷媒を収容した内槽を繊維強化樹脂により形成しているため、超電導機器に交流電源を印加しても内槽に渦電流が発生しない。よって、内槽は発熱しないため、冷媒の温度を上昇させることなく長時間にわたって超電導機器を冷却することができる。
また、冷却容器の外槽は金属材等により形成しているため、超電導機器に交流電源を印加すると外槽に渦電流が発生して発熱する場合もあるが、内槽と外槽との間に真空断熱空間を設けているため、外槽が発熱しても内槽内の冷媒に熱の影響を与えることがない。
特に、二重槽の冷却容器の内槽を繊維強化樹脂により形成する一方、外槽を強度の高い金属材で形成すれば、外槽を薄肉にして冷却容器の小型化を図ることができると共に、製造が容易であり、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態を示す。
本実施形態の超電導機器の冷却容器10は、交流電源が印加される超電導モータ30を内部に収容して、液体窒素40からなる冷媒により超電導モータ30を冷却し、該超電導モータ30の超電導特性を長時間維持するものである。
【0014】
前記冷却容器10は、それぞれ断面環状で非透気性および非透水性の内槽11と外槽12からなる二重槽としており、内槽11と外槽12との間に真空断熱空間13を設けている。
前記内槽11は、ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させた繊維強化樹脂により形成している一方、外槽12は金属材であるステンレスからなり、繊維強化樹脂からなる内槽11の平均肉厚よりもステンレスからなる外槽12の平均肉厚を薄くしている。また、内槽11と外槽12は、真空断熱空間13の真空状態を維持することのできる強度を有するものとし、外槽12の強度を内槽11の強度よりも高くしている。
前記内槽11と外槽12との間には、部分的に熱伝導率の低い繊維強化樹脂材からなるスペーサ14を配置し、該スペーサ14を内槽11の外面および外槽12の内面に固定して、該スペーサ14により内槽11を外槽12の内部に位置決めして収容している。なお、内槽11を外槽12内に吊り下げて位置決めしてもよい。
【0015】
前記内槽11には配管接続用の貫通穴11aを設けており、液体窒素タンク(図示せず)から冷媒である液体窒素40を導入する冷媒導入管15と、超電導モータ30を冷却することにより気化した窒素を排出する冷媒排出管16をそれぞれ貫通穴11aに挿入して内槽11に接続している。これら冷媒導入管15、冷媒排出管16の外周面と貫通穴11aの内周面との間には、シール材17を介在させて内槽11内の液体窒素40が漏れないように密閉している。
前記内槽11に接続した冷媒導入管15と冷媒排出管16は、それぞれ外槽12に設けた貫通穴12aを貫通させて外部に引き出しており、冷媒導入管15、冷媒排出管16の外周面と外槽12の貫通穴12aの内周面との間にシール材18を介在させて、内槽11と外槽12の間に形成した真空断熱空間13を密閉している。
【0016】
また、超電導モータ30の回転駆動軸31を挿通するための駆動軸挿通管19を内槽11と外槽12にそれぞれ設けた貫通穴11b、12bを貫通させて設けており、該駆動軸挿通管19の外周面と貫通穴11b、12bの内周面との間にシール材20を介在させている。駆動軸挿通管19の内端19aは、超電導モータ30のケース外面に接続して、駆動軸挿通管19内に内槽11内の液体窒素40が流入しないようにしている。
超電導モータ30の回転駆動軸31は、駆動軸挿通管19を通して冷却容器10の外部に突出させており、電源(図示せず)より交流電源が印加されて超電導モータ30を稼動させたときに発生する回転駆動軸31のトルクが駆動伝達手段32に伝達されることにより所要の回転動力を得られる構成としている。
【0017】
前記構成によれば、超電導モータ30および液体窒素40を収容した内槽11を繊維強化樹脂により形成しているため、超電導モータ30に交流電源を印加しても内槽11に渦電流が発生しない。よって、内槽11は発熱しないため、液体窒素40の温度を上昇させることなく長時間にわたって超電導モータ30を冷却することができる。
また、冷却容器10の外槽12は金属材であるステンレスにより形成しているため、超電導モータに交流電源を印加すると外槽12に渦電流が発生して発熱するが、内槽11と外槽12との間に真空断熱空間13を設けているため、外槽12が発熱しても内槽11内の液体窒素40に熱の影響を与えることがない。
さらに、外槽12を強度の高い金属材であるステンレスで形成しているため、外槽12を薄肉にして冷却容器10の小型化を図ることができると共に、内槽11と外槽12の両方を繊維強化樹脂で形成する場合と比較して製造が容易であり、低コスト化を図ることができる。
【0018】
なお、本実施形態では、内槽11をガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させた繊維強化樹脂により形成しているが、ガラス繊維あるいは樹脂繊維からなる絶縁性強化繊維にフェノール樹脂を含浸させた繊維強化樹脂材により形成してもよい。
また、外槽12をステンレスにより形成しているが、アルミニウム、ブリキまたはチタン等の他の金属材、あるいは、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル樹脂またはポリアミド系樹脂等の樹脂により形成してもよい。
【0019】
前記実施の形態はすべての点で例示であって、これら実施形態に限定されず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の超電導機器の冷却容器は、自動車等の駆動用モータや、その他発電機、変圧器、超電導電力貯蔵装置(SMES)等の超電導機器を冷却する容器として好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の超電導機器の冷却容器を示す図面である。
【符号の説明】
【0022】
10 超電導機器の冷却容器
11 内槽
12 外槽
13 真空断熱空間
30 超電導モータ(超電導機器)
40 液体窒素(冷媒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源が印加される超電導機器を冷却する冷媒を収容する内槽と、該内槽の外周を真空断熱空間をあけて囲む外槽と、を備えた超電導機器の冷却容器において、
前記内槽を形成する内槽材は、絶縁性の繊維強化樹脂材から形成される一方、
前記外槽を形成する外槽材は、前記内槽材より強度を有する金属材あるいは樹脂材からなる別材で形成され、
前記内槽材の平均肉厚より外槽材の平均肉厚が薄くされていることを特徴とする超電導機器の冷却容器。
【請求項2】
前記内槽材は、ガラス繊維あるいは樹脂繊維からなる絶縁性強化繊維に、エポキシ樹脂あるいはフェノール樹脂からなるマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂材からなり、
前記外槽材は、ステンレス、アルミニウム、ブリキ、チタンから選択される金属材、あるいは、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド系樹脂から選択される樹脂材からなり、
前記内槽材および外槽材は、非透気性および非透水性とされている請求項1に記載の超電導機器の冷却容器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−76682(P2009−76682A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244331(P2007−244331)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】