説明

超電導酸化物材料の製造方法

【課題】レーザ照射状況を限定せず、つまり重ね塗りでの厚膜化の場合においても、また基板の両面に製膜する場合においても、背面照射と同じ効果を適用することを可能にする超電導材料の製造方法を提供する。
【解決手段】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(1)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(2)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(3)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(1)と工程(2)の間でレーザ光を照射する際に、超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を塗布した面の直前に散乱機構を設置し、レーザ光をいったん散乱光にしたのちに有機化合物溶液に照射することを特徴とする超電導材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力輸送、電力機器、情報機器分野で用いる超電導物質の製造方法、より詳しくは超電導物質をコーティングした超電導材料膜(限流器、マイクロ波フィルタ、テープ材料、線材)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、溶液分解法で超電導物質を製造する方法に関して、原料となる金属の有機化合物溶液に紫外光(レーザまたはランプ光)を照射する方法が提案されている(特許文献1参照)。
図1に示すものはその方法を図示したものであり、基板上に原料となる塗布溶液を塗った塗布膜に紫外光を照射する方法、仮焼成膜に紫外光を照射する方法、本焼成初期膜に紫外光を照射する方法が提案されている。
この方法によって、原料である有機塗布膜を紫外光で分解することで、均質な前駆体を作ることができ、結果的に特性が優れた超電導材料を得ることができるようになっていた。また、この方法は真空プロセスを使わないために装置が安価ですみ、なおかつ連続製造ができるため大量生産に適している。

さらに上記の応用技術として、基板(支持体)の背面からレーザを照射する方法も出願されている(特許文献2参照)。
図2で示すものはその方法で、原料溶液を塗布した基板の背面からレーザを照射することで従来より高特性の超電導薄膜を作ることができるとされている。
しかし、基板の背面からレーザ照射する方法では、表面からレーザ照射する方法に比べてさらによい効果が現れているものの、重ね塗りで厚膜化する場合は一層目にしか背面照射を適用することができない。なぜならば、重ね塗りでの厚膜化では、最初の層の上に新たに原料溶液を塗布するが、このとき背面側からレーザを照射してもすでにできている一層目の超電導薄膜にレーザが吸収されてしまうからである。
また基板の両面を成膜する際にも、背面照射は最初に塗布した面に対してレーザ照射するときにしか適用できない。なぜならば、片面が超電導薄膜になってしまうと、もう片面に対して背面照射しようとしても最初の超電導薄膜にレーザが吸収されてしまうからである。
このように、背面照射は高特性の超電導薄膜が得られるものの、その特殊なレーザ照射方法により、適用状況が限定されてしまうという問題があった。
【特許文献1】:特開2007-070216
【特許文献2】:特願2006-217678
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は上記のような問題を解決するためになされたもので、レーザ照射状況を限定せず、つまり重ね塗りでの厚膜化の場合においても、また基板の両面に製膜する場合においても、背面照射と同じ効果を適用することを可能にする超電導材料の製造方法を提供する。

【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記目的を達成するために、基板の表面に塗布した原料塗布膜にレーザを照射する際に、光路の途中にレーザ光を散乱させる散乱機構を設置したものである。
すなわち、本発明は、酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(1)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(2)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(3)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(1)と工程(2)の間でレーザ光を照射する際に、超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を塗布した面の直前に散乱機構を設置し、レーザ光をいったん散乱光にしたのちに有機化合物溶液に照射することを特徴とする超電導材料の製造方法である。
また、本発明においては、散乱機構を、酸化アルミニウム(Al2O3)、イットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2,YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンアルミネート(LaAlO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)、ネオジムガレート(NdGaO3)あるいはイットリウムアルミネート(YAlO3)から選ばれる1種の単結晶基板とすることができる。
さらに、本発明では、散乱機構を、酸化アルミニウム(Al2O3)、イットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2,YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンアルミネート(LaAlO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x
Sr1-x)(AlTa1-y)O3)、ネオジムガレート(NdGaO3)あるいはイットリウムアルミネート(YAlO3)から選ばれる1種の単結晶基板中に、酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した基板とすることができる。
また、本発明においては、レーザ光を照射するに際し、レーザビームの強度を、10〜100mJ/cm2の強度とし、オーバーラップ率80〜99%でスキャンして照射することができる。さらにまた、本発明においては、レーザ光を照射するに際し、レーザ光の強度を、50〜80mJ/cm2の強度とし、オーバーラップ率95〜99%でスキャンして照射することができる。また本発明では、基板に代えて、本発明の超電導材料の製造方法により得られた超電導薄膜付基板を用いることができる。

【発明の効果】
【0005】
以上のように、本発明では基板の表面から照射するので、背面照射の際の厚膜化・両面製膜できないという問題点はない。
また、本発明では散乱機構を設けているので、基板の全面に均一に照射されるという効果もある。
さらに、原料塗布膜に直接レーザを照射しないので、膜への物理的ダメージも緩和され、綺麗な表面状態を保つことができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に本発明の基本的な作用について説明する。レーザ源から発振されたレーザは、原料塗布膜に照射される前に、光路中に設置された散乱機構を透過する。この際、レーザ光は散乱機構によって散乱レーザ光へと変換され、そののちに原料塗布膜に照射される。
このとき、レーザを減衰させるだけならば光路にアッテネータを組み込めばよい。しかし本発明の特徴はレーザを減衰させることではなく、照射されるレーザが散乱機構によって散乱光となることが特徴である。レーザは位相が揃った直進性が高い光であるが、それを敢えて散乱光に変換することに意味があることが判明した。
つまり、原料塗布膜に光が侵入する際に、レーザであれば同じ位相で、すべて同じ方向から光が侵入するため、原料塗布膜中に光が吸収される部分が規則性を持ったうえで偏りができてしまう。一方散乱光であれば、位相が乱れ、原料塗布膜への侵入方向も乱れるのであらゆる角度から光が侵入するため、原料塗布膜中の光が吸収される部分がランダムになるために、全体的に均一に照射されることが判明した。
さらにこの方法を用いることによって、原料塗布膜の膜表面には直接レーザを照射しないため、膜表面への物理的ダメージも緩和される。このことから、直接レーザを照射するよりも綺麗な表面状態にすることができるというメリットがあることが判明した。
このことから本発明を用いれば、表面から照射する方法でありながら、特許文献2で開示された背面照射で特性が向上した原理を適用できること、再現できることが判明した。
【0007】
また、本発明では、レーザ光の照射において、表面に色の変化が現れる条件から表面にクラックが発生する条件までのトータルエネルギー量を照射することができるが、とくに、レーザ光を照射するに際し、レーザビームの強度を、10〜100mJ/cm2の強度とし、スキャンして照射することが好ましいことが判明した。 さらに、より好ましくは、レーザ光の強度を、50〜80mJ/cm2の強度とし、オーバーラップ率80〜99%で好ましくは95〜99%でスキャンして照射する。
次に、この発明実施形態を図に基づいて説明する。図3において、(31)は超電導薄膜の原料塗布膜、(32)は原料塗布膜を支持する基板、(33)はレーザ光である。(34)は、レーザ光を散乱させる散乱機構である。
本発明で使用することができる基板、散乱機構、原料溶液、照射に用いたレーザ光は次のとおりである。
本発明で用いられる基板としては、
(K1)市販のランタンアルミネート(LaAlO3)(100)基板 (K2)市販のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)(100)基板(K3)市販の酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)(100)基板 (K4)市販のネオジムガレート(NdGaO3)(110) 基板(K5)市販のイットリウムアルミネート(YAlO3)(110) 基板(K6)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶(サファイア)R面基板(KC1)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶(サファイア)R面基板に酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した基板(KC2)市販のイットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2, YSZ)(100)にCeO2中間層を形成した基板(KC3)市販の酸化マグネシウム(MgO)(100) 基板にCeO2中間層を形成した基板(KC4)市販のLaAlO3(100)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC5)市販のSrTiO3(100)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC6)市販の((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)(100)基板にCeO2中間層を形成した基板 (KC7)市販のNdGaO3(110) 基板にCeO2中間層を形成した基板 (KC8)市販のYAlO3(110) 基板にCeO2中間層を形成した基板等が挙げられる。なお、中間層は、周知の層形成手段例えば蒸着、スパッタ、パルスレーザ蒸着、塗布熱分解法、塗布光分解法、ゾルゲル法等を利用して形成させることができる。
【0008】
また、本発明における散乱機構用の基板としては、
(K1)市販のランタンアルミネート(LaAlO3)(100)である散乱機構基板 (K2)市販のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)(100) である散乱機構基板(K3)市販の酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)(100) である散乱機構基板 (K4)市販のネオジムガレート(NdGaO3)(110) である散乱機構基板(K5)市販のイットリウムアルミネート(YAlO3)(110) である散乱機構基板(K6)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶(サファイア)R面である散乱機構基板(KC1)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶(サファイア)R面基板に酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した散乱機構基板(KC2)市販のイットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2, YSZ)(100)にCeO2中間層を形成した散乱機構基板(KC3)市販の酸化マグネシウム(MgO)(100) 基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板(KC4)市販のLaAlO3(100)基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板(KC5)市販のSrTiO3(100)基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板(KC6)市販の((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)(100)基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板 (KC7)市販のNdGaO3(110) 基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板 (KC8)市販のYAlO3(110) 基板にCeO2中間層を形成した散乱機構基板等が挙げられる。なお、中間層は、周知の層形成手段例えば蒸着、スパッタ、パルスレーザ蒸着、塗布熱分解法、塗布光分解法、ゾルゲル法等を利用して形成させることができる。本発明の具体例を示し、さらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0009】
(KC1)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶R面基板に酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した基板
(31)塗布溶液
(Y1)モル比1:2:3のY、Ba、Cuのアセチルアセトナトをピリジンとプロピオン酸の混合液に溶解し、真空エバポレータを用いて約80℃の溶媒の大部分を除去した後、メタノールに再溶解した溶液
(33)レーザ光
(H1)KrFエキシマレーザ光
を用いて以下のようにして超電導材料を作成した。
塗布溶液Y1を基板KC1に4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際、基板の上に散乱機構KC1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :75mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス
次に、このレーザ照射した試料を、あらかじめ500℃に保ったマッフル炉中に挿入し、30分間この温度に保って仮焼成を行ったのち取り出す。ついで石英製管状炉中で以下の条件で本焼成を行う。まず酸素分圧を100ppmに調整したアルゴンと酸素の混合ガス流中で昇温速度毎分約16℃で770℃まで昇温し、この温度に45分間保ち、ガスを純酸素に切り替えてさらに30分間保ったあと、除冷する。このようにして作製した膜厚約100nmのYBCO膜について誘導法による臨界電流密度Jc=6.4MA/cm2が得られた。これは実用レベルとされる2.0〜3.0MA/cm2を大幅に上回る良好な値であった。

【実施例2】
【0010】
実施例1で作成した超電導薄膜付基板上に、塗布溶液Y1を4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際基板の上に散乱機構KC1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :75mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した膜厚約200nmのYBCO膜について、誘導法によるJc値は4.5MA/cm2であった。

【実施例3】
【0011】
実施例1で作成した超電導薄膜付き基板を挟んで反対の面に塗布溶液Y1を4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際基板の上に散乱機構KC1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :75mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した片面の膜厚約100nm、両面製膜のYBCO膜について、誘導法によるJc値は最初に製膜した面が6.3MA/cm2、あとから製膜した面が5.8MA/cm2であった。

【0012】
(比較例1)
実施例1において、レーザ照射を行わない他は同様にして作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJcは測定限界(0.1MA/cm2)以下であった。

【0013】
(比較例2)
実施例1において、フルエンスを20mJ/cm2にして散乱機構を設置せずにレーザ照射を行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc=6.0MA/cm2が得られた。

【0014】
(比較例3)
実施例1において、散乱機構は設置せずに基板の背面からレーザ照射を行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc=6.2MA/cm2が得られた。実施例1と比較すると同程度の特性であるが、背面照射法だけでは、厚さ100nmまでしか製膜できずこれ以上厚膜化することができなかった。また、片面にしか製膜することができなかった。

【実施例4】
【0015】
塗布溶液Y1を基板K1に4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際、基板の上に散乱機構K6を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :25mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc値は0.4MA/cm2であった。
【実施例5】
【0016】
塗布溶液Y1を基板K1に4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際、基板の上に散乱機構K1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :50mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc値は0.3MA/cm2であった。

【実施例6】
【0017】
塗布溶液Y1を基板K1に4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際、基板の上に散乱機構KC1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :75mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc値は測定限界0.5MA/cm2であった。

【実施例7】
【0018】
塗布溶液Y1を基板KC4に4000rpm、10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、室温でレーザ光H1を縦方向にスキャンして照射した。その際、基板の上に散乱機構KC1を設置して、超電導物質を形成する金属の有機化合物に照射されるレーザを散乱光として照射した。照射条件は下記の通りであった。
室温、大気中
フルエンス :65mJ/cm2
周波数 :100Hz
オーバーラップ率 :99%
パルス数 :30000パルス

レーザ照射後の工程は実施例1と同じように行って作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法によるJc値は3.7MA/cm2であった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の超電導材料の製造方法は、電力輸送、電力機器、情報機器分野で用いる超電導物質をコーティングした超電導材料膜例えば、限流器、マイクロ波フィルタ、テープ材料、線材の製造方法に適用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】超電導薄膜を製造する工程において、塗布した原料溶液にレーザ照射を行うもの(表面照射:従来技術)
【図2】図1で示されるプロセスにおいて、原料溶液を塗布した基板の反対の面からレーザを照射するもの(背面照射:特願2006-217678で示される従来技術)
【図3】本件発明(乱機構を通してレーザを照射する方法)の概念図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(1)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(2)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(3)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(1)と工程(2)の間でレーザ光を照射する際に、超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を塗布した面の直前に散乱機構を設置し、レーザ光をいったん散乱光にしたのちに有機化合物溶液に照射することを特徴とする超電導材料の製造方法。
【請求項2】
散乱機構が、酸化アルミニウム(Al2O3)、イットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2,YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンアルミネート(LaAlO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x Sr1-x)(AlTa1-y)O3)、ネオジムガレート(NdGaO3)あるいはイットリウムアルミネート(YAlO3)から選ばれる1種の単結晶基板である請求項1に記載した超電導材料の製造方法。
【請求項3】
散乱機構が、酸化アルミニウム(Al2O3)、イットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2,YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンアルミネート(LaAlO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((La x
Sr1-x)(AlTa1-y)O3)、ネオジムガレート(NdGaO3)あるいはイットリウムアルミネート(YAlO3)から選ばれる1種の単結晶基板中に、酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した基板である請求項1に記載した超電導材料の製造方法。
【請求項4】
レーザ光を照射するに際し、レーザビームの強度を、10〜100mJ/cm2の強度とし、オーバーラップ率80〜99%でスキャンして照射することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかひとつに記載した超電導材料の製造方法。
【請求項5】
レーザ光の強度を、50〜80mJ/cm2の強度とし、オーバーラップ率95〜99%%で
スキャンして照射することを特徴とする請求項4に記載した超電導材料の製造方法。
【請求項6】
基板に代えて、請求項1〜5の超電導材料の製造方法により得られた超電導薄膜付基板を用いる超電導材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−252641(P2009−252641A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101536(P2008−101536)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】