説明

超電導限流素子

【課題】中間電極を設けてそれぞれに外付け抵抗を並列接続する内部直列接続型の薄膜限流素子において、電極間の部分素子と同等の許容電界を有する直列限流素子を提供する。
【解決手段】内部直列接続型の直列限流素子は、合金分流保護膜付超電導薄膜の両端および中間部に純金属を蒸着して電極部を形成し、それらの電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続し、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導接続を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路に流れる短絡電流等の過大な電流を限流する超電導限流素子に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、超電導状態においては電気抵抗ゼロで大きな電流を流すことができるが、ある決まった電流値(臨界電流I)より大きな電流を流すと電気抵抗が発生する。さらに電流を大きくして行くと、発生する熱のため超電導体の温度が上昇し、常電導状態になって、より大きな電気抵抗を生じる。
このような超電導体の特徴を生かしたものとして、通常時は抵抗ゼロで、電力系統の短絡事故時には大きな抵抗を発生させて事故電流の増大を抑制する超電導限流器が知られている。
電力自由化を推進して行く上で大きな課題となっているのが、分散電源連系に伴う短絡事故電流の増大である。その対策として最も有望なのが、通常時は低インピーダンス、系統事故時に高インピーダンスとなって事故電流を抑制する限流器の導入である。電力の自由化を推進する立場から、低コストかつ高信頼性の限流器の実現に対する社会的要請は非常に高い。そして、配電系統に導入することを想定すると、大面積超電導薄膜を用いる超電導薄膜限流器が、
(1)コンパクトであり、(2)過電流に対して瞬時に応答することが可能であり、(3)常時発生する交流損失が小さい等、多くの点で優れ、(4)信頼性・性能・占有容積・大容量化への拡張性の観点からも最も優れていると考えられている。
【0003】
超電導薄膜限流器は、液体窒素温度(66〜77.3 K)で動作する薄膜限流素子を電力系統に直列接続し、短絡事故時の電流の増大とともに薄膜を超電導状態(S)から常電導状態(N)に急激に転移(クエンチ)させ、その常電導抵抗によって系統電流を抑制するものであり、SN転移抵抗型限流器とも呼ばれている。従来、金属銅よりも熱伝導率の高いサファイア基板(アルミナ単結晶基板)等の絶縁体基板上に、バッファ層を介してYBaCu(以下YBCOと言う。)等の高温超電導酸化物の薄膜を作製した大面積超電導薄膜が用いられている。
短絡事故直後において、最初に常電導転移した部分で局所的に温度が急上昇して薄膜が破損すると言うホットスポット現象がある。薄膜限流器では、その防止のために、金や銀等の金属を高温超電導薄膜の上に蒸着して常電導転移時の分流保護層とするのが一般的である(非特許文献1,2参照)。
【0004】
しかし、このような金属分流層を付加すると超電導線路の電気抵抗を大きく低下させ、決まった電圧が印加される限流時の発熱を増大させるため、設計する電界(許容電界)が低下し、結果として長い超電導線路を必要とするため、高価な薄膜を多量に使うと言う問題点があった。
これに対し、純金属よりも1桁近く抵抗率の高い金銀合金を超電導薄膜に蒸着して分流保護層とし、かつ、安価な無誘導巻抵抗を並列接続する限流素子も考案され、>40Vpeak/cmと言う従来素子より4倍以上高い許容電界が得られている(特許文献1、非特許文献3、4参照)。この方式の限流素子の大電流容量化に伴うホットスポット現象の深刻化の対策として、外付け抵抗とともに小容量のコンデンサを並列接続することが提案されている(特許文献2、非特許文献5参照)。
【0005】
限流器は電力系統の事故電流の抑制のために用いるものであり、超電導薄膜限流器で想定される定格電圧は、配電系統でも6.6kVrms以上である。40Vpeak/cmと言う非常に高い許容電界を有する、前記の高電界型の限流素子(特許文献1、非特許文献3、4参照)を用いても、6.6kVrmsの定格電圧を達成するためには、2.3m以上の薄膜の全長が必要となる。このため、10cm以上の比較的長尺の矩形型サファイア基板上に蒸着したYBCO薄膜が用いられているが、限流直後の常電導伝搬速度が1−4m/sでそれほど速くないため、1−2サイクル(20−40ms)で全体が常電導転移して均熱化するように素子単位長を約5cmとし、例えば12cm長の矩形薄膜を用いる場合、中間電極を設けて内部直列接続型の素子を構成して、電極間の部分薄膜のそれぞれに外付け抵抗を並列接続する方式(図7参照)が用いられている(非特許文献6参照)。
【0006】
さらに大容量化を図るため、2.7cm×20cmの矩形薄膜を2つの中間電極を用いて3分割するとともに、それを2並列する方式(図8参照)による限流素子モジュールが作製されている(非特許文献7参照)。
図8の内部直列接続型の超電導薄膜限流素子19は、1対の矩形の超電導薄膜の並設体20と、これと並列接続された外付け抵抗3aおよび3bを設けた構成を有する。
超電導薄膜並設体20は、矩形の超電導薄膜20aおよび20bで構成する。
超電導薄膜20a、20bは、それぞれサファイア基板上にセリア等のバッファ層を介して高温超電導薄膜を設け、この高温超電導薄膜上に金銀合金分流層を設ける。
【0007】
それぞれの金銀合金分流層上には、その長さ方向に所定間隔を設けてそれぞれ4個の電極15a1、15b1、15c1、15d1および15a2、15b2、15c2、15d2を設ける。金銀合金分流層の長さ方向の両端に位置する端部電極15a1と15a2、15d1と15d2を短絡するように超電導テープ19a、19bをそれぞれハンダ付けする。
超電導薄膜20a、20bのそれぞれの金銀合金分流層は、4個の電極15a1、15b1、15c1、15d1および15a2、15b2、15c2、15d2により、区画された領域4a1、4b1、4c1および4a2、4b2、4c2を画成する。
金銀合金層は、金と銀の合金からなる蒸着膜として形成する。
【0008】
上記電極の数は、クエンチの伝搬速度と印加電圧分散の観点から適宜設定することができる。
超電導テープ19aは銅電極6aへワイヤ等の適当な電気的配線手段により接続し、超電導テープ19bは銅電極6bへワイヤ等の適当な電気的配線手段により接続する。
抵抗3aは、無誘導巻分流抵抗11a1、11b1および11c1を中間電極となる銅電極12a1および12b1により1続きの抵抗となるように接続する。
抵抗3bは、同じく、無誘導巻分流抵抗11a2、11b2および11c2を中間電極となる銅電極12a2および12b2により1続きの抵抗となるように接続する。
【0009】
無誘導巻分流抵抗11a1、11a2の巻線の一方の端部を外部接続用電極6aに接続し、無誘導巻分流抵抗11a1、11a2の巻線の他方の端部をそれぞれ中間電極12a1、12a2へ接続し、中間電極12a1、12a2をそれぞれ対応する中間電極15b1、15b2に接続すると共に、中間電極12a1、12a2を短絡する。
同じようにして、無誘導巻分流抵抗11b1、11b2の巻線の一方の端部を中間電極12a1、12a2へ接続し、無誘導巻分流抵抗11b1、11b2の巻線の他方の端部をそれぞれ中間電極12b1、12b2へ接続し、中間電極12b1、12bをそれぞれ対応する中間電極15c1、15c2に接続すると共に、中間電極12b1、12b2を短絡する。
【0010】
同じようにして、無誘導巻分流抵抗11c1、11c2の巻線の一方の端部を中間電極12b1、12b2へ接続し、無誘導巻分流抵抗11c1、11c2の巻線の他方の端部をそれぞれ外部接続用電極6bへ接続する。
このように接続されることにより、超電導薄膜並設体20に対し抵抗3aおよび3bが並列接続される。
なお、図8には示されていないが、この限流素子には、ホットスポット対策として、図に示す無誘導巻き外付け抵抗とともに小容量のコンデンサが、3分割された各部分薄膜に並列接続されている(特許文献2、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2006−528493(WO2006/001226参照)
【特許文献2】特開2008−283106
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】B. Gromoll, G. Ries, W. Schmidt, H.-P. Kraemer, B. Seebacher, B. Utz, R. Nies, H.-W. Neumueller, E. Baltzer, S. Fischer and B. Heismann, “Resistive fault current limiters with YBCO films−100 kVA functional model,” IEEE Trans. Appl. Supercond. 9 (1999) 656-659
【非特許文献2】Ok-Bae Hyun, Hye-Rim Kim, J. Sim, Y.-H. Jung, K.-B. Park, J.-S. Kang, B.W. Lee, and I.-S. Oh, “6.6 kV resistive superconducting fault current limiter based on YBCO films,” IEEE Trans. Appl. Supercond. 15 (2005) 2027-2030
【非特許文献3】H. Yamasaki, M. Furuse, and Y. Nakagawa, “High-power-density fault-current limiting devices using superconducting YBa2Cu3O7 films and high-resistivity alloy shunt layers,” Appl. Phys. Lett. 85 (2004) 4427-4429
【非特許文献4】H. Yamasaki, K. Arai, M. Furuse, K. Kaiho, and Y. Nakagawa, “Low-cost and high-power-density resistive fault-current limiting elements using YBCO thin films and Au-Ag alloy shunt layers,” J. Phys. Conf. Ser. 43 (2006) 937-941
【非特許文献5】K. Arai, H. Yamasaki, K. Kaiho, Y. Nakagawa, M. Sohma, W. Kondo, I. Yamaguchi, and T. Kumagai, “Methods to increase current capacity of superconducting thin-film fault current limiter using Au-Ag alloy shunt layers,” IEEE Trans. Appl. Supercond., in press.
【非特許文献6】K. Arai, H. Yamasaki, K. Kaiho, M. Furuse, Y. Nakagawa, M. Sohma, and I. Yamaguchi, “Normal zone propagation in superconducting thin-film fault current limiting elements with Au-Ag alloy shunt layers,” J. Phys. Conf. Ser. 97 (2008) 12031
【非特許文献7】H. Yamasaki, K. Arai, K. Kaiho, Y. Nakagawa, M. Sohma, W. Kondo, I. Yamaguchi, and T. Kumagai, “Development of 500 V/200 A fault-current-limiting modules made of large MOD-YBCO thin films with Au-Ag alloy shunt layers,” Program & Abstracts of the 21st International Symposium on Superconductivity (2008) 163
【非特許文献8】J. Duron, L. Antognazza, M. Decroux, F. Grilli, S. Stavrev, B. Dutoit, and O. Fischer, “3-D finite element simulations of strip lines in a YBCO/Au fault current limiter,”IEEE Trans. Appl. Supercond. 15 (2005) 1998-2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本件発明者らは、2.7cm幅で長さ20cmの高温超電導YBCO薄膜(膜厚150nm、予想される直流臨界電流≧155Apeak)、および、同サイズのYBCO薄膜(膜厚160nm、予想される直流臨界電流≧167Apeak)を、金属基材超電導テープを用いて並列に接続し、図8に示すような限流素子を作製した。
薄膜に、ほぼ金−23wt%銀の組成の合金膜を約60nmの膜厚でスパッタ蒸着した後、両端および中央の2カ所に銀を7−8mm幅で蒸着して電極とし(3分割された各部分薄膜の有効長が5.7cm)、ホットスポット対策のため、合金線の無誘導巻で作製した外付け分流抵抗および、120マイクロファラッドのコンデンサ(図示省略)を3分割された各部分薄膜に並列接続している。なお、中間電極における、外付け抵抗やコンデンサ、2枚の薄膜同士の接続は、ハンダと常電導の銅リードを用いて行った。外付け分流抵抗は、各部分薄膜当り0.35オームで、薄膜の抵抗は約1.9オームであるので、薄膜がクエンチすると、通電電流の大半は外付け抵抗に分流する。
図9は、上記の限流素子を用いた場合の限流試験結果を示す図である。同図に示すように、限流素子に流れる全電流(Itotal)は、限流素子がなければ2.5kArmsになる速度で急増するが、超電導薄膜のクエンチに伴って、604A付近から増加速度が緩やかになるとともに、薄膜の両端の薄膜電圧(Vfilm)が急激に増加した。そして、高温超電導薄膜の両端に590Vpeakの交流電圧が印加された状態で、薄膜が焼損することなく5サイクル(100msec)の通電が可能であった。このとき、素子有効長17cmにおける平均電界は、E=34.7V/cmであった。
【0014】
図9において、V1は図8の電極6aと12a2の間の電圧値、同じくV2は図8の電極12a2と12b2の間の電圧値、V3は図8の電極12b2と6bの間の電圧値を意味する。また、Vfilmは図8の電極6aと6bの間の電圧を意味する。全電流Itotalは図8の電極6aと6bの間の電流を意味する。なお、V2の立ち上がり点を矢印で示す。
しかし、図10に示す、さらに高い電圧を印加した実験では、3つの各部分のうち、最後にクエンチが生じた中央部分(V2区間)で薄膜が破損し、5−6cm長の部分素子で得られている仕様値(平均電界43V/cm以上)を達成できなかった。
図10において、V1は図8の電極6aと12a2の間の電圧値、同じくV2は図8の電極12a2と12b2の間の電圧値、V3は図8の電極12b2と6bの間の電圧値を意味する。また、Vfilmは図8の電極6aと6bの間の電圧を意味する。全電流Itotalは図8の電極6aと6bの間の電流を意味する。なお、V2の立ち上がり点を矢印で示す。
同様の限流試験を、同一サイズではあるが、臨界電流やその均質性が異なる超電導薄膜を用いて作製した、複数の図8の限流素子モジュールに対して行ったが、図9よりも低い印加電圧の試験で、最後にクエンチが生じた部分で薄膜の破損が生じ、結果として、図8の構成では、部分素子に対する許容電界の仕様値(E>43V/cm)を達成できないことがわかった。
【0015】
図8の構成の限流素子モジュールの限流試験では、最後にクエンチが生じた部分で薄膜の破損が生じた。その1つの原因は、図9、10からわかるように、最後のクエンチが生ずる時の通電電流が、最初のクエンチ時よりも大きいことがあげられる。本件発明者等は、その他の原因として、定常通電時や、電流急増によって最初のクエンチが生ずる時には、薄膜に流れる電流は薄膜の長手方向にほぼ直線的に流れているのに対し、2番目や、最後のクエンチ時には、その前にクエンチした部分薄膜に接続している外付け抵抗から銅リード・中間電極を介して薄膜に流入する電流が、接続抵抗の不均一のため、長手方向に直線的に流れていないことを考えた(図11参照)。
例えば、L字型の薄膜のコーナーのように電流経路が直線的ではなく、直角に折れ曲がっている場合には、限流時の電界の急増によってコーナーの部分の薄膜が破損しやすいことが述べられている(非特許文献8参照)。本件発明者等も、矩形状の薄膜に小さな切り欠きを入れて臨界電流を少し低減させた素子の限流試験を行ったことがあり、切り欠きがない場合には薄膜の破損が生じないはずの電圧を印加した時に、切り欠きのすぐ外側で薄膜が破損した経験を有する。これらの実験事実から、電流経路が直線的ではなく曲がっていることが、ホットスポットの問題を深刻化させる大きな要因となることがわかる。
【0016】
本発明の目的は、薄膜の途中の中間電極に外付け抵抗を接続するような長尺の超電導限流素子において、ホットスポットの発生を防止するようにした超電導限流素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
図8の、薄膜の途中の中間電極に外付け抵抗を接続するような長尺の薄膜を有する構成の限流素子モジュールでは、最初や、2番目のクエンチが生じた直後に、クエンチした薄膜に接続している外付け抵抗から銅リード・中間電極を介して薄膜に電流が流入するわけであるが、接続抵抗の不均一のため、その電流が長手方向に直線的に流れていないことが実験結果から推察される。
図11において、金銀合金層付高温超電導薄膜の領域4a1にクエンチ13が発生すると、電流路14が矢印のように偏倚して形成される。
そこで、薄膜の両端電極における並列接続と同様に、中間電極においても、金属基材超電導テープとハンダを用いて超電導並列接続すれば、接続抵抗が均一になり、2番目、3番目のクエンチが生ずる時の電流経路を薄膜の長手方向に直線的にできる(図12参照)との知見を得た。
図12に示す本発明の例では、金銀合金層付高温超電導薄膜の領域4a1にクエンチ13aが発生したとき、電流路14aが矢印のように偏倚せず平行に形成される。
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために、発明を実施するための基本的な形態として以下の態様をとる。
(1)2枚の超電導薄膜を並列接続するやり方として、図1の素子構成となるように、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導接続を行う。
詳細には、本発明で提案する限流素子は、分流保護膜付超電導薄膜の両端および中間部に純金属を蒸着して電極部を形成し、それらの電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導接続を行うことを特徴とし、電極間の各部分薄膜に外付けの分流抵抗を接続する内部直列接続型の超電導限流素子とする(図1参照)。なお、該超電導限流素子は、限流時の保護として、コンデンサを並列接続することができる。
(2)図1は、2枚の薄膜を並列接続した例であるが、図2のような1枚の薄膜のみを用いる場合でも、各電極と外付けの分流抵抗との接続の際に、電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続する構成とすることもできる。
(3)特に、超電導テープは、ビスマス系超電導酸化物を銀もしくは銀合金からなるシース材を用いて作製したテープとすることもできる。
(4)これまで、分流保護層として金銀合金層を設けた高温超電導薄膜限流素子の例について述べてきたが、本発明はそれに限ることなく、純金属または金銀合金以外の合金からなる蒸着膜を分流保護層とする高温超電導薄膜を用いることもできる。
【発明の効果】
【0019】
2枚の薄膜を並列接続するやり方として、図1の素子構成となるように、両端の電極のみならず中間の電極を含むすべての電極においても超電導接続を行う。
本発明で提案する限流素子は、分流保護膜付超電導薄膜の両端および中間部に純金属を蒸着して電極部を形成し、それらの電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導接続を行うことを特徴とし、電極間の領域に対応する各部分薄膜に外付けの分流抵抗を接続する内部直列接続型の超電導限流素子である(図1参照)。なお、該超電導限流素子は、限流時の保護として、コンデンサを並列接続することができる。
これにより、分流保護膜付超電導薄膜の両端および中間部に純金属を蒸着して電極部を形成し、それらの電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導並列接続を行う内部直列接続型の限流素子を製作することにより、部分素子と同等の許容電界を有する直列限流素子を製作できる。
図1は、2枚の薄膜を並列接続した例であるが、図2のような1枚の薄膜のみを用いる場合でも、各電極と外付けの分流抵抗との接続の際に、電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続する構成とすることもできる。このようにすると、電流リードとの接続抵抗を低減・均一化することができ、電流経路を直線状とする効果を有し、限流特性を向上することができる。
特に、ビスマス系超電導酸化物を銀もしくは銀合金からなるシース材を用いて作製したテープとすることもできる。このようにすると、容易にハンダを溶着することができるため、本特許で提案する限流素子に用いる金属基材超電導テープとして好ましいものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1である内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の構成図である。
【図2】本発明の超電導薄膜を1枚とした内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の構成図である。
【図3】図1のD1−D2断面図である。
【図4】2.7cm幅で20cm長の2枚の超電導薄膜を用いた、本特許で提案する内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の限流試験結果である。
【図5】図4におけるクエンチ発生直後の短い時間の要部拡大図である。
【図6】円形の超電導薄膜を用いた、本特許で提案する内部直列接続型の超電導薄膜限流素子である。
【図7】超電導薄膜を1枚とした超電導薄膜限流素子の構成図である。
【図8】非特許文献7で提案する内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の概念図である。
【図9】2.7cm幅で20cm長の2枚の超電導薄膜を用いた、非特許文献7で提案する内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の限流試験結果である。
【図10】図9よりも少し高い電圧を印加した場合の限流試験結果である。
【図11】図8の場合のクエンチ発生時の説明図である。
【図12】図1の場合のクエンチ発生時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために、発明を実施するための基本的な形態として以下の態様をとる。
(1)2枚の薄膜を並列接続するやり方として、図1の素子構成となるように、両端の電極のみならず中間の電極を含んですべての電極において超電導接続を行う。
本発明で提案する限流素子は、分流保護膜付超電導薄膜の両端および中間部に純金属を蒸着して電極を形成し、それらの電極にハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって、両端の電極のみならず中間の電極においても超電導接続を行うことを特徴とし、電極間の各部分薄膜に外付けの分流抵抗を接続する内部直列接続型の超電導限流素子である(図1参照)。なお、該超電導限流素子は、限流時の保護として、コンデンサを並列接続することができる。
(2)図1は、2枚の薄膜を並列接続した例であるが、図2のような1枚の薄膜のみを用いる場合でも、各電極と外付けの分流抵抗との接続の際に、電極部にハンダを介して金属基材超電導テープを接続する構成とすることもできる。
(3)特に、超電導テープをビスマス系超電導酸化物を銀もしくは銀合金からなるシース材を用いて作製したテープとすることもできる。
(4)これまで、分流保護層として金銀合金層を設けた高温超電導薄膜限流素子の例について述べてきたが、本発明はそれに限ることなく、純金属または金銀合金以外の合金からなる蒸着膜を分流保護層とする高温超電導薄膜を用いることもできる。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施の形態1を図に基づいて詳細に説明する。
本発明で開示する限流素子の実証のため、図9、10の結果を得た2枚の薄膜と特性が近い2枚の薄膜を用い、両端の電極のみならず中間の電極においても、ハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって2枚の薄膜を超電導並列接続した、図1の構成の素子モジュールを作製した。
具体的な例を示すと以下のようになる、即ち、2.7cm幅で長さ20cmのYBCO薄膜22a(図3参照:膜厚160nm、予想される直流臨界電流≧160Apeak)、および、同サイズのYBCO薄膜22b(図示省略:膜厚160nm、予想される直流臨界電流≧155Apeak)の2枚の薄膜に、ほぼ金−23wt%銀の組成の合金膜21a、21bを約60nmの膜厚でスパッタ蒸着した後、両端および中央の2カ所に銀を7−8mm幅で蒸着して電極とし(3分割された各部分薄膜の有効長が5.7cm)、両端の電極、および、中間電極に、ハンダを介して金属基材超電導テープを接続することによって2枚の薄膜を超電導並列接続した。なお、ホットスポット対策のため、合金線の無誘導巻で作製した外付け分流抵抗(0.35オーム)および、120マイクロファラッドのコンデンサ(図示省略)を電極により3分割された各領域に対応する各部分薄膜に並列接続している。用いた金属基材超電導テープは、ビスマス系超電導酸化物を銀からなるシース材を用いて作製したテープである。
【0023】
図1は本発明の実施例1である内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の構成図である。
図2は図1の上半分により構成した超電導薄膜を1枚とした内部直列接続型の超電導薄膜限流素子の構成図である。
図3(a)は図1のD1−D2の断面図を示す。図3(b)は他の実施例の断面図を示す。
図1の内部直列接続型の超電導薄膜限流素子1は、1対の超電導薄膜2aおよび2bからなる超電導薄膜並設体2と、これと並列接続された外付け抵抗3aおよび3bを設けた構成を有する。
但し、図1の実施例に制限されることなく、本発明の超電導薄膜並設体2は、図2に示すような1枚の超電導薄膜2aで構成したものであってもよい。
同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
超電導薄膜2aは、サファイア基板7a上にセリア等のバッファ層23aを介して高温超電導薄膜22aを設け、この高温超電導薄膜22a上に金銀合金分流層21aを設ける。
金銀合金分流層上には、その長さ方向に所定の間隔で電極を設ける。電極の数はホットスポットとの関係で設けられる。
金銀合金分流層の長さ方向両端には端部電極5a1と5d1を設け、両端の内部には中間電極5b1と5c1を必要数設ける。これら電極上には超電導テープ9a、9b、9cおよび9dをハンダ付けする。
なお、超電導薄膜2bは、超電導薄膜2aと同様に設ける。
超電導テープ9a、9b、9cおよび9dは、それぞれ超電導薄膜2aと超電導薄膜2bの対応する電極間、すなわち、電極5a1と5a2を超電導テープ9aで接続し、電極5b1と5b2を超電導テープ9bで接続し、電極5c1と5c2を超電導テープ9cで接続し、電極5d1と5d2を超電導テープ9dで接続する。
【0024】
金銀合金分流層21aと21bは、金と銀の合金からなる蒸着膜として形成する。
超電導テープ9a、9b、9cおよび9dは、金属基材超電導テープとして形成され、ビスマス系超電導酸化物を銀もしくは銀合金からなるシース材を用いて作製される。
高温超電導薄膜22a、22b上の上記金銀合金層は、電極5a1と5b1、5b1と5c1、5c1と5d1によりそれぞれ領域4a1、4b1、4c1が画成され、電極5a2と5b2、5b2と5c2、5c2と5d2によりそれぞれ領域4a2、4b2、4c2が画成される。上記電極の数はホットスポットとの関係で決められる。
超電導テープ9aは銅電極6aへワイヤ等の適当な電気的配線手段により接続し、超電導テープ9dは銅電極6bへワイヤ等の適当な電気的配線手段により接続する。
【0025】
銅電極6aおよび6bは外部接続用電極を構成する。
抵抗3aは、無誘導巻分流抵抗11a1、11b1および11c1を銅電極12a1および12b1により1続きの抵抗となるように接続する。
抵抗3bは、同じく、無誘導巻分流抵抗11a2、11b2および11c2を銅電極12a2および12b2により1続きの抵抗となるように接続する。
無誘導巻分流抵抗11a1、11a2の巻線の一方の端部を外部接続用電極6aに接続し、無誘導巻分流抵抗11a1、11a2の巻線の他方の端部をそれぞれ銅電極12a1、12a2へ接続し、銅電極12a1、12aをそれぞれ対応する超電導テープ9bに接続する。
【0026】
同じようにして、無誘導巻分流抵抗11b1、11b2の巻線の一方の端部を銅電極12a1、12a2へ接続し、無誘導巻分流抵抗11b1、11b2の巻線の他方の端部をそれぞれ銅電極12b1、12b2へ接続し、銅電極12b1、12bをそれぞれ対応する超電導テープ9cに接続する。
同じようにして、無誘導巻分流抵抗11c1、11c2の巻線の一方の端部を超電導テープ9cに接続し、無誘導巻分流抵抗11c1、11c2の巻線の他方の端部をそれぞれ外部接続用電極6bへ接続する。
このように接続されることにより、超電導薄膜並設体2に対し抵抗3aおよび3bが並列接続される。
【0027】
図2は図1の構成の上半分の1枚の超電導薄膜2aで構成した実施例である。
図2において、図1中の符号と同じ符号は、図1の説明を援用して、ここでは説明を省略する。
図3(a)は図1のD1−D2の断面図を示す。図3(b)は他の実施例の断面図を示す。
図3(a)では、超電導薄膜2aは、サファイア基板7a上にセリア等のバッファ層23aを介して高温超電導薄膜22aを設け、この高温超電導薄膜22a上に金銀合金分流層21aを設ける。
金銀合金分流層21a上には、電極(銀又は金)5a1を設ける。電極(銀又は金)5a1上の所定箇所には、超電導テープ9aをハンダ付けする。
なお、超電導薄膜2bは、図示省略するが、超電導薄膜2aと同様の構成を有する。
図3(b)は、他の実施例で、図3(a)の例における電極5a1を、金銀合金分流層21aを介さず、直接高温超電導薄膜22a上に設けた例である。
【0028】
図4は図1の限流素子を用いた場合の限流試験結果を示す図である。同図に示すように、限流素子に流れる全電流(Itotal)は、限流素子がなければ2.26kArmsになる増加速度(全電流の時間変化の傾き)で急増するが、薄膜のクエンチに伴って、途中から電流の増加速度が緩やかになるとともに、薄膜の両端の薄膜電圧(Vfilm)が急激に増加した。そして、高温超電導薄膜の両端にVfilm=778Vpeakの交流電圧が印加された状態で、薄膜が焼損することなく5サイクル(100msec)の通電が可能となった。
このとき、素子有効長17cmにおける平均電界は、E=45.8V/cmであった。
図4において、V1は図1の電極6aと12a2の間の電圧値、同じくV2は図1の電極12a2と12b2の間の電圧値、V3は図1の電極12b2と6bの間の電圧値を意味する。また、Vfilmは図1の電極6aと6bの間の電圧を意味する。全電流Itotalは図1の電極6aと6bの間の電流を意味する。
図5は、図4におけるクエンチ発生直後の短い時間のグラフの要部拡大図である。
図5は、図4の特性を時間幅で130msから152msの間で拡大表示した図である。図5から、V2区間で最後にクエンチを発生させていることがわかる。
図5におけるV1は図1の電極6aと12a2の間の電圧値、同じくV2は図1の電極12a2と12b2の間の電圧値、V3は図1の電極12b2と6bの間の電圧値を意味する。また、Vfilmは図1の電極6aと6bの間の電圧を意味する。全電流Itotalは図1の電極6aと6bの間の電流を意味する。
この結果から、本構成の超電導薄膜限流素子モジュールによれば、45Vpeak/cm以上の高い許容電界を有する、内部直列接続型の超電導薄膜限流素子を製作できることが実証された。このモジュールの定格電圧は500Vrms、定格電流は200Armsであって、その8直列で4kVrms,200Armsとなり、3φ6.6kV/200A限流器の1相分を構成する。
【実施例2】
【0029】
図6は本発明の実施例2の構成図である。
図6は、5インチ径YBCO薄膜限流素子モジュールを示す。
図6では、5インチ径の円盤状のサファイア基板7c上に、バッファ層を介して渦巻状にほぼ均等幅の金銀合金層付高温超電導薄膜4fを設け、この金銀合金層付高温超電導薄膜4fの長さ方向(渦巻方向)に適当な間隔を設けて中間電極5h、5iおよび5jを設ける。中間電極の数はホットスポットとの関係で決められる。
金銀合金層付高温超電導薄膜4fの両端には端部電極5kと5gを設け、その両端内には中間電極5h、5iおよび5jを設ける。
電極5k、5g、5h、5iおよび5j上には、超電導テープ9g、9h、9i、9j、9kをハンダ付けする。
図6の例は、定格電圧1.27kVrms、定格電流100Armsのモジュールになる。
【0030】
実施例の場合、例えば、金銀合金層付高温超電導薄膜4fの超電導線路約11cmごとに無誘導巻並列抵抗11a3、11b3、11c3および113dを接続する。
例えば、外部接続用電極5kと5gの間に流れる限流電流を200Armsとするためには、並列抵抗値は1つ1.6Ω強になる。
外付け抵抗は金銀合金層付高温超電導薄膜4fに設けた超電導テープに抵抗分割するように接続される。
【0031】
図6の円形大面積膜使用例は、5インチ径サファイア基板上にYBCO薄膜を設けた例である。YBCOの大面積薄膜は、円形のものの方が矩形形状のものに対し、膜質の均一化が容易である。
YBCOの大面積薄膜は、ウェットエッチングでパターニングすることができる。
YBCO超電導薄膜上に金銀合金薄膜を蒸着し、その金銀合金薄膜上に銀または金層からなる電極5g、5h、5i、5j、および5kを蒸着し、各電極用の超電導テープをハンダ付けして設ける。
図6に示す5インチ径YBCO薄膜素子限流モジュールは、例えば、9インチ×9インチのFRP板上に配置する。
ほぼ均等幅の金銀合金層付高温超電導薄膜4fは、その渦巻方向と直角方向の幅は、例えば、約1.6cm幅で、その渦巻に沿った長さは、例えば、約45cm長とする。
図6の薄膜素子限流モジュール1素子の定格電流は、例えば、90×1.6/√2で、約102Armsで、その許容電圧は、0.04×45kVpeak=1.8kVpeakで、約1.27kVrmsが期待できる。
YBCOの大面積薄膜のパターン間の最大電圧は、1.2kVpeak程度となり、そのパターン間の間隔は、8mm間隔とすれば、絶縁耐圧をほぼ満たす(一応、空気中の沿面放電実験で検証が必要である)。
(他の実施例)
本発明の金銀合金分流層付高温超電導薄膜は、略均等幅で抵抗分割できるような長さを有する構造であれば、任意の形状、例えば、三次元の螺旋状、球面にのる形状等も採りうる。
【符号の説明】
【0032】
1 超電導薄膜限流素子
2a、2b 超電導薄膜
3a、3b 外付け抵抗
4a1、4b1、4c1、4a2、4b2、4c2 領域
5a1、5b1、5c1、5d1、5a2、5b2、5c2、5d2 電極
6a、6b 外部接続用銅電極
7a、7b サファイア基板(アルミナ単結晶基板)
9a、9b、9c、9d 超電導テープ
11a1、11b1、11c1、11a2、11b2、11c2 無誘導巻分流抵抗
12a1、12b1、12a2、12b2 銅電極
21a 金銀合金分流層
22a 高温超電導薄膜
23a セリア等のバッファ層
24a ハンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に離間して複数の金又は銀層からなる電極を有する超電導薄膜と、前記電極間に超電導テープを介して接続した抵抗とを有し、
前記超電導薄膜は、サファイア基板上にバッファ層を介して高温超電導薄膜を設け、この高温超電導薄膜上に金銀合金分流層を設け、
分割するための電極として金銀合金分流層上に銀又は金層を設け、
超電導テープを前記電極層上にハンダ付けしたことを特徴とする超電導薄膜限流素子。
【請求項2】
前記電極層は、金銀合金分流層を介さずに、直接高温超電導薄膜上に設けたことを特徴とする請求項1記載の超電導薄膜限流素子。
【請求項3】
前記超電導薄膜を並設して超電導薄膜並設体を構成し、
前記超電導薄膜の超電導テープを共通にしたことを特徴とする請求項1記載の超電導薄膜限流素子。
【請求項4】
前記超電導テープは、金属基材超電導テープとして形成され、銀もしくは銀合金からなるシース材を用いて作製してなるビスマス系超電導酸化物としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の超電導薄膜限流素子。
【請求項5】
前記超電導薄膜上に形成された金銀合金層を、純金属または合金からなる蒸着膜としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の超電導薄膜限流素子。
【請求項6】
前記電極に並列にコンデンサを接続したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の超電導薄膜限流素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−263036(P2010−263036A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111809(P2009−111809)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】