説明

超音波プローブ及びその製造法

【課題】 組立て容易な超音波プローブを提供する。
【解決手段】 超音波プローブの製造法において、複数の実質的に同一方向に伸びる貫通孔2を有するバッキングブロック材1の当該貫通孔2に、棒状の端子3をその一方の先端がバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置するように挿入し、前記バッキングブロク材1と棒状の端子3とを固定し、板状の超音波振動子6を前記実質的に同一平面上の端子3対応位置に固着する過程を経る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば溶接部の状態を調べるための超音波検査装置、若しくは超音波を用いて映像化を行なう医療用等の超音波映像装置に用いられる、超音波プローブ及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリクス状に配置された板状の超音波振動子を有する超音波プローブについては、特開2003−149213号公報にその開示がある。板状の超音波振動子は、発生する超音波の周波数を高くすることが可能であり、十分な高解像度化が達成できる利点がある。
【特許文献1】特開平2003−149213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし板状部材(超音波振動子)と前記棒状の端子の一端とを固着して超音波プローブを組み立てることは、それらの取扱い性上、通常容易ではない。そこで本発明が解決しようとする課題は、組立て容易な超音波プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明の超音波プローブの製造法は、複数の実質的に同一方向に伸びる貫通孔2を有するバッキングブロック材1の当該貫通孔2に、棒状の端子3をその一方の先端がバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置するように挿入し、前記バッキングブロック材1と棒状の端子3とを固定し、板状の超音波振動子6を前記同一平面上の端子3対応位置に固着する過程を経ることを特徴とする。前記「端子3」は、振動子6の特性情報を超音波プローブ制御機器に出力したり、当該機器から振動子6に超音波発生のための電圧を印加(入力)する部材である。
【0005】
上記「実質的に同一方向」の「実質的」は、厳密な同一方向が要求されない意味である。例えば上記挿入を容易にするために貫通孔2を僅かなテーパー形状とすること、超音波プローブ端子として機能する程度の若干の貫通孔2方向のずれが存在することも、「実質的に同一方向」である。
【0006】
また上記「実質的に同一平面上」の「実質的」も、厳密な同一平面が要求されない意味である。例えば、板状の超音波振動子6とバッキングブロック材1外面の平滑度が、上記組立て作業に支障を来たすことがなく、且つ超音波振動子6と端子3の一方の先端との電気接続がなされていれば、「実質的に同一平面上」にある。
【0007】
まず、上記棒状の端子3を例えばマトリクス状に直立した状態に維持することは通常困難である。そのため、複数の実質的に同一方向に伸びる貫通孔2を有するバッキングブロック材1を用い、当該貫通孔2に挿入することで、かかる困難性を緩和できる。また前記棒状の端子3をその一方の先端がバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置するようにすることで、前記棒状の端子3の一端の配置位置を揃えることができている。
【0008】
次に、前記バッキングブロック材1と棒状の端子3とを固定する。かかる固定には接着剤4を用いるか、また前記貫通孔2が棒状の端子3を締め付ける力を十分なものとする等により実現する。すると、上記棒状の端子3の一端各々に、板状の超音波振動子6を容易に固着することができる。その理由は、板状の超音波振動子6と電気接続するべき棒状の端子3の一端とが、共に平面をなしており、両者を固定するのに困難性が少ないためである。仮にバッキングブロック材1を用いず棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6とを電気接続しようとすれば、その作業は困難を極めると考えられる。よって上記本発明により、組立て容易な超音波プローブを提供することができ、本発明が解決しようとする課題が解決される。
【0009】
上記「接着剤4」には、絶縁性接着剤、導電性接着剤の両者を含む。但し、導電性接着剤を使用する際には、隣り合う端子3間を絶縁する。しかしかかる絶縁する作業は困難な場合が多いため、絶縁性接着剤を用いるのが有利である。また、接着性を有する異方性導電物質5を用いることもできる。導電性接着剤又は接着性を有する異方性導電物質5を用いることにより、棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6との固着と電気接続の両方を同時に実現することができ、有利な場合がある。
【0010】
上記「バッキングブロック材1」は、振動子6に伝播された振動の反射を抑えるダンパーとしての機能を有する。かかる役割を全うするに適した材質としては、硬質ゴムやエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0011】
上記本発明の超音波プローブの製造法において、板状の超音波振動子6を前記同一平面上の端子3対応位置に固着する過程が、複数の板状の超音波振動子6に対し一括して実施する過程であることが好ましい。製造に要する時間の短縮化ができるためである。
【0012】
上記一括に実施する場合において、固着の工程を、導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質5により実現することが、更に好ましい。前述のように、棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6との固着と電気接続の両方を同時に実現することができ、有利だからである。この場合導電性粒子は、棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6との間を電気接続するが、マトリクス状に隣接する超音波振動子6間、及び/又は端子3間を電気接続しない。即ち、各素子間を接続しない。この理由は、棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6との距離が、通常前記導電性粒子径以下程度の極めて短距離であるのに対し、マトリクス状に隣接する超音波振動子6間、及び/又は端子3間の距離は、導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質5では導通できない程度の長距離だからである。
【0013】
上記本発明の超音波プローブの製造法を実施することにより、例えばマトリクス状に配置された複数の板状超音波振動子6を有し、当該振動子6各々が棒状の端子3の一端に固定され、当該端子3とバッキングブロック材1とが固定される超音波プローブであって、前記棒状の端子3の一端と前記バッキングブロック材1外面とが実質的に同一平面上にある本発明の超音波プローブが製造される。
【0014】
また、上記本発明の超音波プローブの製造法を、一つの超音波振動子6を用い、マトリクス状に配置されない超音波プローブに対して転用して実施することにより、板状超音波振動子6が棒状の端子3の一端に固定され、当該端子3とバッキングブロック材1とが固定されてなる超音波プローブであって、前記棒状の端子3の一端と前記バッキングブロック材1外面とが実質的に同一平面上にある超音波プローブが製造される。
【0015】
ここで上記固定が、導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質5により実現されていることが、上述のように、棒状の端子3の一端と板状の超音波振動子6との固着と電気接続の両方を同時に実現することができる観点から好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、組立て容易な超音波プローブを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図面を参照しながら、本発明の超音波プローブの製造法の一例を説明する。
図1(a)は、底面(外面)が平滑なバッキングブロック材1の貫通孔2を観察できる縦断面図である。まず、当該貫通孔2中に銅線や、りん青銅からなる端子3を挿入する(図1(b))。かかる挿入の際には、バッキングブロック材1の底面と棒状の端子3の一端とが実質的に同一平面上に存在するように、当該底面に平滑な台座を密着させた状態で、棒状の端子3が当該台座に接触するまで挿入する。
【0018】
ここで、棒状の端子3の一方の先端をバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置させる別の手段として、図2に示すように当該一端に鍔部9を設け、当該鍔部9がバッキングブロック材1に収容される関係のバッキングブロック材1形状とすることが考えられる。かかる手段では、上記台座を要することなく端子3の一方の先端をバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置させることができる利点がある。但し、鍔部9及びそれを収容するバッキングブロック材1の貫通孔2の成形加工が煩雑である点で不利である。また、鍔部9及びバッキングブロック材1形状に起因して両者の隙間に空気が入り込み易い。空気は極めて超音波を伝播し難いため、超音波映像装置等では超音波プローブを介した情報の入出力の正確性が低下するおそれがある点で不利である。更に、鍔部9が超音波を反射することに起因するノイズが発生するおそれがある点で不利である。
【0019】
また、棒状の端子3の一方の先端をバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置させる更に別の手段は、バッキングブロック材1の貫通孔2内に端子3を挿入し、例えば後述する接着剤4にてバッキングブロック材1と端子3を固定した後、前記バッキングブロック材1外面を端子3と共にヤスリで研削する等である。かかる手段によれば、端子3の一方の先端をバッキングブロック材1外面と実質的に同一平面上に位置させる際の、端子3の貫通孔2方向の位置精度を極めて良好なものとすることができる利点がある。
【0020】
また、端子3をバッキングブロック材1に挿入する別の手段は、図3に示すように、予め複数の端子3を台座等にマトリクス状に固定し(図3(a))、その後バッキングブロック材1の貫通孔2を、固定された端子3位置に合わせて端子3を貫通孔2内に収容する手段(図3(b))等が考えられる。かかる手段は、端子3を予め固定する工程における端子3の取扱い性上の困難性、バッキングブロック材1と端子3との位置合わせ工程の困難性を有しているため、上記図1(a)から図1(b)の過程を経る工程に比して不利である。
【0021】
次に、バッキングブロック材1上面全域に絶縁性のエポキシ系接着剤4を塗布する。その際には棒状の端子3側面の一部にも当該接着剤4が塗布されるため、バッキングブロック材1と棒状の端子3とが固定される(図1(c))。更にエポキシ系の絶縁性接着剤に導電性粒子としてのSn−Ag−Cu系合金を5乃至50重量%混入した異方性導電物質5を、バッキングブロック材1の底面に塗布する(図1(d))。
【0022】
上記導電性粒子に代えて、Ni単体、銅等の導電材料を表面にメッキしたポリマー等を用いることができる。また粒子形状はボール状やフレーク状とすることができる。また粒子径は略一定であることが好ましい。マトリクス状に振動子6及び端子3の一端が配置されている場合には、例えば一部の振動子6と端子3の一端の間に過剰に大きな粒径の導電性粒子が存在すると、隣接する他の振動子6と端子3の一端の間に小さな粒径の導電性粒子が存在しても、そこでは両者間の電気接続が確保できない場合があると考えられるためである。また導電性粒子の混入比は、バッキングブロック材1の外面と実質的に同一平面上に露出した棒状の端子3の一端の面積が大きければ小さくて足り、当該面積が小さければ大きくすることが好ましい。その理由は、当該面積が小さければ、前記混入比を大きくして、全ての端子に前記導電性粒子が接触する確率を大きくすることで、確実に端子3と振動子6との電気接続を実現するためである。
【0023】
次に、板状超音波振動子6をバッキングブロック材1底面及び棒状の端子3の一端の対応位置に固着させる(図1(e))。かかる固着により、対向する板状超音波振動子6と棒状の端子3の一端との電気接続が、前記異方性導電物質5により実現された。しかし、前記異方性導電物質5によっても、隣接する棒状の端子3の一端同士の電気接続は実現されなかった。ここで板状超音波振動子6を固着させる、超音波プローブ組立て作業の一部は、固着される側の形状が、板状超音波振動子6同様に平滑なバッキングブロック材1底面及び棒状の端子3の一端であったため、両者の平滑面を合わせて積層する作業であり、極めて容易だった。
【0024】
上記板状超音波振動子6は、厚みが0.1mm〜0.3mmのPbZrTiO(PZT)からなるセラミック圧電体である。1枚の大型の板状超音波振動子6に格子状の切れ目8をダイシング等で形成し、マトリクス状に配置された端子3と個々の超音波振動子6(肉厚部)とが対向するようにした(図1(e))。前記切れ目8は、マトリクス状に区画された各々の振動子6が、各々独立した素子の構成部材として機能させるためのものである。
【0025】
ここで図4に示すように、板状の超音波振動子6を前記実質的に同一平面上の端子3対応位置に固着するに先立って、若しくは当該固着と同時に、各々の棒状の端子の一端と板状超音波振動子とが、個別に導電性接着剤4’又は導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質で接続する過程を経ることが好ましい。前記「個別に」接続するためには、ここでの導電性接着剤4’又は異方性導電物質を、端子3位置若しくは当該端子3と対応する振動子6位置にディスペンサによる吐出やスクリーン印刷の手法により供給する。「個別に」接続するとは、隣接する端子3や素子を短絡させないように、供給された導電性接着剤4’又は異方性導電物質間に所定の距離を確保しながら接続することを意味する。短絡が防止されるため、導電性接着剤4’や、導電性粒子含有率の高い異方性導電物質の使用が許容される。その許容の結果、端子3と振動子6との電気接続の確実性が飛躍的に向上する。
【0026】
図4に示したのは、板状超音波振動子と棒状の端子の一端との固定の結果、各々の棒状の端子の一端と板状超音波振動子とが、個別に導電性接着剤4’又は導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質により接続されている、上記本発明の超音波プローブである。前記固定は、図4に示す通り絶縁性の接着剤4により実現されている。
【0027】
次に、音響整合層7を振動子6の切れ目8存在面とは反対側の面に固定する(図1(f))。音響整合層7は、厚み25μm〜200μmのポリイミドフィルムやセラミック粉末を含有するエポキシ樹脂を好適に使用することができる。本実施の形態では、ポリイミドフィルムをエポキシ系接着剤にて振動子6に貼付する工程を経た。音響整合層7は、端子3の振動面と空気間の音響インピーダンスの差を軽減し、効率よく超音波を送受信するための役割を担う。以上の過程を経ることで本発明の超音波プローブの製造法が完了し、本発明の超音波プローブを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えば溶接部の状態を調べるための超音波検査装置、若しくは超音波を用いて映像化を行なう医療用等の超音波映像装置及びその関連産業における利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の超音波プローブを製造する過程を示す縦断面図である。
【図2】本発明の超音波プローブの一例を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る超音波プローブ製造の一過程を示す縦断面図である。
【図4】本発明の超音波プローブにおいて、各々の棒状の端子の一端と板状超音波振動子とが、個別に導電性接着剤で接続されている状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1. バッキングブロック材
2. 貫通孔
3. 端子
4. 接着剤
4’.導電性接着剤
5. 異方性導電物質
6. 振動子
7. 音響整合層
8. 切れ目
9.鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状超音波振動子が棒状の端子の一端に固定され、当該端子とバッキングブロック材とが固定されてなる超音波プローブであって、
前記棒状の端子の一端と前記バッキングブロック材外面とが実質的に同一平面上にあることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
マトリクス状に配置された複数の板状超音波振動子を有し、当該振動子各々が棒状の端子の一端に固定され、当該端子とバッキングブロック材とが固定される超音波プローブであって、
前記棒状の端子の一端と前記バッキングブロック材外面とが実質的に同一平面上にあることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項3】
固定が、導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質により実現されていることを特徴とする請求項2記載の超音波プローブ。
【請求項4】
板状超音波振動子と棒状の端子の一端との固定の結果、各々の棒状の端子の一端と板状超音波振動子とが、個別に導電性接着剤又は導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質により接続されていることを特徴とする請求項2記載の超音波プローブ。
【請求項5】
複数の実質的に同一方向に伸びる貫通孔を有するバッキングブロック材の当該貫通孔に、棒状の端子をその一方の先端がバッキングブロック材外面と実質的に同一平面上に位置するように挿入し、前記バッキングブロック材と棒状の端子とを固着し、板状の超音波振動子を前記同一平面上の端子対応位置に固着する過程を経ることを特徴とする超音波プローブの製造法。
【請求項6】
板状の超音波振動子を前記同一平面上の端子対応位置に固着する過程が、複数の板状の超音波振動子に対し一括して実施する過程であることを特徴とする請求項5記載の超音波プローブの製造法。
【請求項7】
板状の超音波振動子を前記同一平面上の端子対応位置に固着する過程を、導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質により実現することを特徴とする請求項6記載の超音波プローブの製造法。
【請求項8】
板状の超音波振動子を前記同一平面上の端子対応位置に固着するに先立って、若しくは当該固着と同時に、各々の棒状の端子の一端と板状超音波振動子とが、個別に導電性接着剤又は導電性粒子と絶縁性接着剤との混合物からなる異方性導電物質で接続する過程を経ることを特徴とする請求項5記載の超音波プローブの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−128884(P2006−128884A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312213(P2004−312213)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(500157837)箕輪興亜株式会社 (15)
【Fターム(参考)】