説明

超音波モータ

【課題】起動時ロータに作用する負荷にかかわらず確実に起動する超音波モータを提供することを目的としている。
【解決手段】
摩擦駆動体32は、回転軸12の円周方向に沿って形成される。ロータ11は、回転軸12に支持され、摩擦駆動体32に摩擦係合している。ロータ11は、摩擦駆動体32の振動によって回転軸12の軸心周りに回転する。動力伝達部52は、ロータ11に生じた回転力を、回転軸12を介して被駆動部材50に伝達する。動力伝達部52は、起動時に回転軸12の回転力を被駆動部材50に伝達しない一定の無負荷区間を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカメラのレンズ鏡筒に設けられるレンズを光軸に沿って駆動させる超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波モータとして、回転軸と、円周方向に沿って並べられた複数の櫛歯を有する摩擦駆動体と、回転軸に支持され摩擦駆動体に圧接されるロータとを備える構成が知られている(特許文献1)。このような超音波モータは、高精度な位置決めのために、摩擦駆動体が圧電素子によって超音波振動され、その駆動によってロータが回転させられると共に、ロータの回転が回転軸を介して光学部材に伝達されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02-174569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、起動時ロータが十分に加速しないうちに定格の回転負荷がかかり、起動できない場合が生じることがある。本発明は、起動時ロータに作用する負荷にかかわらず、確実に起動する超音波モータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明における超音波モータは、回転軸と、回転軸の円周方向に沿って形成される摩擦駆動体と、回転軸に支持されるとともに摩擦駆動体に摩擦係合され、摩擦駆動体の振動によって回転軸の軸心周りに回転するロータと、ロータに生じた回転力を、回転軸を介して被駆動部材に伝達する動力伝達部を備え、動力伝達部が、起動時に回転軸の回転力を被駆動部材に伝達しない一定の無負荷区間を有することを特徴としている。
【0006】
回転軸の回転速度の変動に伴う回転速度のピークが1回転の間にN回生じる場合、無負荷区間の大きさは実質的に1/N回転以上であることが好ましい。
【0007】
動力伝達部が、回転軸に形成された当接部と、被駆動部材に形成された突起とを備え、当接部が突起に当接して回転力を伝達するように構成しても良い。
【0008】
無負荷区間は、例えば当接部が突起に当接しない区間である。
【0009】
動力伝達部は、回転軸と一体的な巻取部と、巻取部に巻き取られるための可撓性長尺部材とを備える機構としても良い。この機構では、動力伝達部が、被駆動部材に設けられ可撓性長尺部材の両端が固定されたピンを備えることが好ましく、無負荷区間の大きさを1回転以上とすることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起動時にロータの回転負荷を無くすことによって、超音波モータを確実に起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態における超音波モータを示す断面図である。
【図2】第1の実施形態における回転力伝達部の起動時の初期状態を示し、図1のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】第2の実施形態における超音波モータを示す断面図である。
【図4】第2の実施形態における回転力伝達部の起動時の初期状態を示し、図3のIV‐IV線に沿う断面図である。
【図5】第2の実施形態における回転力伝達部を示し、ギアが始動する直前の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波モータを示す断面図である。超音波モータは、例えばカメラのレンズ鏡筒に設けられ、レンズを光軸方向に駆動するために用いられる。この超音波モータは、レンズ鏡筒内に設けられたカム環の外周側に設けられるポーション型と呼ばれるモータである。
【0013】
超音波モータ10は、円板状の台座31を介してレンズ鏡筒(図示せず)に固定される。台座31の上面側には摩擦駆動体32が形成され、摩擦駆動体32の内周部には筒状体33が設けられる。台座31と摩擦駆動体32と筒状体33によってステータが構成される。筒状体33の内側には回転軸12が設けられる。回転軸12の一端にはロータ11が一体的に取付けられ、他端にはギア50(被駆動部材)が回転自在に設けられる。
【0014】
ロータ11は、円形の基板13と、基板13の中心部に形成された円筒状の連結部15と、基板13の外周部に設けられた円筒状の外周壁部14とを有する。連結部15は回転軸12に嵌合され、ネジ70によって回転軸12とロータ11が一体的に結合されている。回転軸12の他端において、ネジ71とワッシャ72によってギア50の抜け止めが施されている。
【0015】
回転軸12の軸方向におけるほぼ中央には、他の部分より外径が大きい大径部16が形成される。筒状体33の内周面と、回転軸12の外周面の間には、軸受37が挿入される。軸受37は、回転軸12に嵌着され、軸受37の内輪部材は、大径部16に係合している。軸受37の外輪部材は、筒状体33に嵌着され、回転軸12はステータに対して回転自在である。
【0016】
軸受37の外輪部材の上端と筒状体33上部に形成されたフランジ部38の間には、コイルばね39が設けられている。コイルばね39は、回転軸12を囲繞し、軸方向に圧縮された状態で設けられている。コイルばね39は、その復元力によって、軸受37を軸方向下方に押圧する。これにより回転軸12を介してロータ11が下向きに付勢され、ロータ11の外周壁部14が、摩擦駆動体32に圧接されて摩擦係合される。
【0017】
摩擦駆動体32は、環状に形成された基部34と、基部34の上面に連設され、円周方向に沿って並べられた複数の櫛歯35とから構成される。基部34の下面には、圧電体36が一体的に取り付けられる。圧電体36には、円周方向に沿って分割された電極(不図示)が取り付けられており、通電する電極や通電するタイミングを位相制御して、時間変化で選択的に圧電体36の伸縮状態を変化させることで、ロータ11の回転方向や回転速度の制御が行われる。本実施形態における超音波モータは4相駆動である。なお、超音波モータの駆動原理はすでに広く知られているので、ここでの詳細説明は省略する。
【0018】
台座31において大径部16に対応する位置には開口40が形成され、大径部16と開口40との間にはギア50の上面に形成された突起51が位置している。大径部16には図2に示すように、径方向に突出する当接部17が形成され、当接部17は突起51に当接可能である。
【0019】
超音波モータ10では、圧電体36に超音波帯域(例えば、20KHz以上)の高周波電圧が印加され、これにより圧電体36が振動する。この振動は摩擦駆動体32に伝達され、櫛歯35の上面に進行波が発生する。この進行波によって、櫛歯35の上面に圧接されたロータ11の外周壁部14が、円周方向に摩擦駆動される。これにより、ロータ11と回転軸12が軸心周りに回転駆動される。回転軸12の回転は、当接部17を介して突起51に伝達され、ギア50が回転する。このギア50の回転力によってカム環(図示せず)が駆動される。すなわち、当接部17と突起51により回転力伝達部52が構成される。
【0020】
図2は超音波モータの起動時の初期状態を表している。当接部17と突起51の間には意図的に所定の大きさのバックラッシBが設けられている。当接部17はバックラッシBの区間(無負荷区間)を通過後、突起51と当接し、当接部17が突起51を押すことによりギア50が回転を始める。
【0021】
超音波モータは一般に、圧電体36への通電形態に起因して回転ムラが生じるが、バックラッシBは、この回転ムラの影響によって超音波モータ10の起動停止を防ぐために設けられている。速度が低い状態で当接部17に負荷がかかった場合、ギア50を回転させることが出来ずに起動しない場合がある。すなわち、ロータ11の起動直後に回転速度が低下した状態で、突然、負荷が掛かった場合、ロータ11が停止してしまう恐れがある。そこで、少なくとも、起動直後に生じる回転速度変動周期を経過して、最低速度より早い速度域で負荷が掛かるように構成すれば、ロータ11は停止することなく回転する。本実施形態では、起動時速度が低い当接部17を、バックラッシBの間に十分に加速し、突起51に当接させることによって超音波モータを確実に起動させるように構成している。
【0022】
本実施形態の超音波モータは、4相で駆動電圧信号の位相差が90度であり、回転速度の変動に伴う回転速度のピークが、ロータ11が1回転する間に4回生じる場合を想定している。この場合、バックラッシBの回転角を1/4回転相当に定めれば、超音波モータが確実に起動する。すなわち、ロータ11が1回転する間に速度のピークがN回生じる場合のバックラッシBの回転角は実質的に1/N回転以上であることが望ましい。
【0023】
図3は、第2の実施形態に係る超音波モータの断面図である。第1の実施形態との相違点は、ギア50と回転軸12との回転力伝達部60である。
【0024】
回転軸12には、他の部分よりも径の小さい円筒状の巻取部18が、開口40に対応する位置に形成されており、巻取部18の中心を通り径方向に貫通するスリット19(図4参照)が設けられている。ギア50の上部で開口部40に対応する位置には、ピン61、62が設けられている。また、巻取部18を取り囲むように筒状体53が設けられている。筒状体53は開口40の壁面によって回転自在に支持される。
【0025】
図4は回転力伝達部60の起動時の初期状態を示す断面図である。スリット19にはリボン63が挿通されていて、リボン63はピン61、62に等分に巻きつけられた状態で、リボン63の端部はピン61、62に各々接着されている。
【0026】
起動と同時に巻取部18は回転を始め、リボン63はこの回転によって巻取部18に巻き取られる。この間、巻取部18は回転するが、ギア50はカム環(図示せず)に噛合して負荷がかかり、その負荷が巻取部18の回転力よりも大きいため、ピン61、62すなわちギア50は軸心周りに回転しない。図5は、巻取部18がリボン63を巻き取る過程を示している。最終的に、リボン63が巻取部18に巻き取られ、巻取部18とピン61、62との間におけるリボン63の張力が負荷よりも大きくなった時点から、回転軸12の回転力が伝達され、ギア50は回転を始める。
【0027】
リボン63の長さを変えることによって無負荷区間、すなわちギア50を回転させること無く回転軸12が回転する区間を調整することが可能である。第1の実施形態と異なり、無負荷区間を1回転以上設けることが出来る。例えば、3回転以上の無負荷区間を設けても良く、リボン63の長さは、回転速度の変動に伴う回転速度のピークが、ロータ11が1回転する間にN回生じる場合、ピン61とピン62を結ぶ直線の長さと、巻取部18の外周の1/Nの長さとの総和以上であれば、超音波モータは確実に起動する。
【0028】
なお、リボン63の代わりに、例えばワイヤーのようにリボン63よりも表面積の小さい紐状の部材を用いても良い。
【符号の説明】
【0029】
10 超音波モータ
11 ロータ
12 回転軸
13 基板
14 外周壁部
15 連結部
16 大径部
17 当接部
18 巻取部
19 スリット
31 台座
32 摩擦駆動体
33 筒状体
34 基部
35 櫛歯
36 圧電体
37 軸受
38 フランジ部
39 コイルばね
40 開口
50 ギア
51 突起
52 回転力伝達部
53 筒状体
60 回転力伝達部
61 ピン
62 ピン
63 リボン
70 ネジ
71 ネジ
72 ワッシャ
B バックラッシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の円周方向に沿って形成される摩擦駆動体と、
前記回転軸に支持されるとともに前記摩擦駆動体に摩擦係合され、前記摩擦駆動体の振動によって前記回転軸の軸心周りに回転するロータと、
前記ロータに生じた回転力を、前記回転軸を介して前記被駆動部材に伝達する動力伝達部を備え、
前記動力伝達部が、起動時に前記回転軸の回転力を前記被駆動部材に伝達しない一定の無負荷区間を有することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記回転軸の回転速度の変動に伴う回転速度のピークが1回転の間にN回生じ、前記無負荷区間の大きさが実質的に1/N回転以上であることを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記動力伝達部が、前記回転軸に形成された当接部と、前記被駆動部材に形成された突起とを備え、前記当接部が前記突起に当接して前記回転力を伝達することを特徴とする請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記無負荷区間が、前記当接部が前記突起に当接しない区間であることを特徴とする請求項3に記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記動力伝達部が、前記回転軸と一体的な巻取部と、
前記巻取部に巻き取られるための可撓性長尺部材とを備えることを特徴とする請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記動力伝達部が、前記被駆動部材に設けられ前記可撓性長尺部材の両端が固定されたピンを備えることを特徴とする請求項5に記載の超音波モータ。
【請求項7】
前記無負荷区間の大きさが1回転以上であることを特徴とする請求項5に記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244854(P2012−244854A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115096(P2011−115096)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(311015207)ペンタックスリコーイメージング株式会社 (81)
【Fターム(参考)】