超音波処理装置及び超音波洗浄装置
【課題】簡易な構成で、処理液内の音圧分布を均一化することにより、処理対象物の超音波処理を確実に行うことができる超音波処理装置を提供すること。
【解決手段】処理液を貯留するとともに処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、前記処理槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記処理液に作用する振動伝達部材と、を備え、前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波処理装置。
【解決手段】処理液を貯留するとともに処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、前記処理槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記処理液に作用する振動伝達部材と、を備え、前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、処理槽に貯留した処理液に超音波振動を作用することにより処理液内に浸漬した処理対象物を洗浄する超音波処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、めっき処理を的確に行うため、めっき処理の前工程として、めっき処理の対象となる電子部品用基板等の導体表面の活性化や洗浄を行っている。めっき処理の前工程である洗浄工程を行うための洗浄装置として、洗浄槽の底部に超音波振動発生部が固定された装置や、超音波発生部が独立した投げ込み型の超音波洗浄装置が広く利用されている。
【0003】
通常、超音波洗浄装置を駆動して超音波振動を洗浄液に照射すると定在波が生じる。定在波は、底部から液面に向かう進行波と、進行波が液面に反射することで生じる、液面から底部へ進行する反射波と、が合成され、あたかも波の進行が止まり、振幅が同じ場所で繰り返されているように観測される波動である。
【0004】
振幅が0である定在波の節に、被洗浄物である基板のある部分が位置し、振幅の最大である定在波の腹に、同一の基板の他の部分が位置する場合には、節の部分では洗浄が十分行われない。定在波の腹の部分では基板は過度の音圧を受けてしまい、基板を過度に洗浄するのみならず、基板を破壊する恐れがある。また、同一基板内における洗浄むらのみならず、複数の基板を洗浄する場合には、定在波の腹の位置にある基板と、節の位置にある別の基板では、洗浄や活性化処理にばらつきが生じてしまう。上記ばらつきを防止するために、洗浄液内の音圧分布を均一にすべく種々の洗浄装置が提供されている。
【0005】
図9は、従来の超音波洗浄装置の部分断面図である。超音波洗浄装置801は、洗浄槽803と、被洗浄物である基板807を洗浄液809内で移動させるための昇降部材805と、超音波振動を発生させるための振動子811と、振動子811により発生された超音波振動を洗浄液809に付与するための平滑な振動伝達板815と、を備える。
【0006】
Y方向(図9の上下方向)に往復運動する昇降部材805は、アーム部817と保持部819とを備える。保持部819は、Y方向に立てた状態の複数の基板807を保持する。保持部819は、アーム部材817を介して不図示の昇降駆動手段に連結されている。上記構成において、振動子811を駆動させるとともに、昇降駆動手段により保持部819をY方向に移動させることにより、超音波の節または腹に対応する部分にのみ基板807の所定部分が位置しないように洗浄処理を行っている(特許文献1参照)。
【0007】
図10は、他の従来の超音波洗浄装置の振動発生部の断面図である。振動発生部905は、振動子911及び振動伝達部材915から構成される。図9の振動伝達板815は、その表面が平滑な板状の部材であったが、図10の振動伝達板915は、その表面に複数の半球状凹部917を備える構成である。その他の超音波洗浄装置の構成要素は同じである。
【0008】
半球状凹部917は、単一の振動伝達板915から位相をずらした2つの超音波を付与するための構成である。半球状凹部917の深さは、振動子911の励振周波数の波長の1/4の長さになるように構成されている。また、半球状凹部917の開口部の径は励振周波数の波長の1/2の長さに寸法付けされている。上記構成において、平面部により照射される周波数と、半球状凹部から照射される周波数の位相を異ならせることにより、洗浄液内の音圧分布を、均一にするものである(特許文献2参照。)。
【0009】
さらに、超音波洗浄以外の用途、例えば、新化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡の処理において、超音波を用いた超音波処理装置が利用されている。
【特許文献1】特開2000−228381号公報(段落番号〔0005〕、第1図)
【特許文献2】特開平7−39835号公報(段落番号〔0012〕、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の超音波洗浄装置は、依然として以下のような問題がある。図9の超音波洗浄装置では、洗浄作業を行う際、超音波振動を付与するとともに、保持部を上下方向に移動させる必要があるため、超音波洗浄装置の構造を簡素化するには限界がある。また、保持部を上下方向に移動させても、各基板、若しくは基板の全面にわたり均一な音圧を付与するように制御することは非常に困難である。
【0011】
他方、図10の伝達板を使用した場合に、半球状凹部により照射された音波は、その凹部の曲面の焦点に収束する方向に進行する。よって、洗浄液中において、焦点近傍では音圧が高くなる。また、焦点以外の位置においても音圧のばらつきが残存している。よって、均一な音圧分布を洗浄液内に実現することは困難である。
【0012】
また、音波の波長のほぼ1/2波長の開口部と、ほぼ1/4波長の深さを有する凹部と、凹部の寸法が規定されているため、当該特許文献2の実施例に記載されている励振周波数100KHzを例に取れば凹部の直径は15.4mm、深さは7.7mmとなり、この加工は石英ガラス板に施されることになる。ところがこれを後述の本発明の実施例に照らし合わせると、励振周波数は一般的に用いられる28KHzであり、単純計算で凹部の直径および深さは約4倍となり、特に深さは約30mmに達することで前記石英ガラス板は少なくとも30mmを超える厚さが必要となる。これは加工部材としても加工作業にしても実現は非常に困難である。
【0013】
図11(a)、(b)は、ビアホールが設けられた樹脂付銅箔の洗浄処理後の不良品を示す断面図である。樹脂付銅箔は、銅箔855と樹脂層851の2層からなる積層体であり、樹脂層851は厚さ方向に貫通するビアホール853を備える。図11(a)は、ビアホール853内の洗浄が十分になされなかったことを示す。図に示されているようにビアホール853内に有機付着物等の残渣857が存在している。この場合、ビアホール853内に露出している銅箔部分の活性化処理も十分に施されていない恐れがある。
【0014】
図11(b)には、ビアホール853内に露出している銅箔855に穴859が生じてしまった状態が示されている。穴859の発生は、洗浄が過剰になされたことを意味する。
【0015】
図9の超音波洗浄装置を利用した場合には、洗浄液内を均一にすることが困難であるため、図11(a)(b)に示される不良品を防止することが困難である。
【0016】
図10の超音波洗浄装置を利用した場合には、半球状凹部の曲面の焦点に配置された基板は、図11(b)のような結果となる恐れがある。また、定在波の音圧の平均値を基準として、振動子の出力を調整した場合、定在波の節に相当する位置に配置された被洗浄物には残渣が生じ、定在波の腹に相当する位置に配置された被洗浄物は、ビアホール内の銅箔に穴が開いてしまう。従って、例示した従来技術では、洗浄液中の音圧分布を均一にすることができなかった。
【0017】
上述した従来の超音波洗浄装置における音圧の不均一に起因する課題は、新化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡等の処理においても同様に存在する。これらの処理において、処理槽内の処理液中に音圧が高い部分や低い部分が混在すると、音圧の高い部分では低い部分に比べ処理が促進されるため、処理対象物の処理速度、例えば合成速度、反応速度等にばらつきが生じる。結果として、化合物の合成や化学反応等が不十分となる恐れがある。
【0018】
そこで、本発明は、より簡易な構成で、液体内の音圧分布を均一化することにより、被洗浄物の洗浄、を確実に行うことができる超音波処理装置を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための手段は、発明者等が、鋭意検討をした結果得られた以下の知見に基づくものである。振動発生部材の振動方向(底面から液面方向(垂直方向))と平行な方向のみに超音波を照射すると、定在波が生じることは避けられない。そこで、振動方向とは平行でない様々な角度の方向に進行する超音波を照射し、振動伝達部材からの超音波と、洗浄槽の壁面及び液面により反射した反射波を積極的に干渉させることにより、洗浄液内の音圧分布を均一化できるという知見を得た。すなわち、垂直成分のみを有する超音波のみではなく、垂直成分及び水平成分を有する反射波を混在させることにより、洗浄液内の音圧分布を均一化する超音波洗浄装置である。
【0020】
上記知見に基づき、本発明の目的を達成するための本発明の超音波洗浄装置の第1の態様は、洗浄液を貯留するとともに被洗浄物を前記洗浄液内に浸漬するための洗浄槽と、前記洗浄槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記洗浄液に作用する振動伝達部材と、を備え、前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波洗浄装置である。
【0021】
また、本発明の超音波洗浄装置の第2の態様によれば、前記振動伝達部材は、前記振動発生部材に接する板状部材と、板状部材上に載置された複数の球状部材と、から構成され、前記複数の凸状球面は、前記複数の球状部材の外周部分により構成される。
【0022】
さらに、本発明の超音波洗浄装置の第3の態様は、処理液を貯留するとともに処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、超音波振動を発生し、前記超音波振動を前記処理液に伝達可能となるように振動伝達領域が配置された振動発生部材と、を備え、前記振動伝達領域において前記処理液に前記超音波振動を伝達する面は、同一面内に配置された複数の突起部を有する超音波処理装置である。
【0023】
また、本発明の超音波処理装置の第4の態様によれば、前記突起部は、凸状曲面を有する。
【0024】
そして、本発明の超音波処理装置の第5の態様によれば、前記凸状曲面は、球状部材、円錐状部材若しくは円錐台形状部材の外周部分から構成される。
【0025】
さらに、本発明の超音波処理装置の第6の様態によれば、前記処理は、化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡等を含む。
【0026】
本明細書中の球状とは、特に言及していなければ、厳密な球のみならず、球が欠けた形状、半球状、楕円球状、丸みを帯びた形状等を含む。
【0027】
また、本明細書において、被洗浄物等の処理対象物に伝達される超音波とは、振動発生部材(振動子)から液体を介して伝わる超音波や、振動発生部材からの超音波が洗浄槽等の処理槽の壁面で反射し被洗浄部材等の処理対象物に伝わる反射波を含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明の超音波処理装置及び超音波洗浄装置によれば、洗浄液等の処理液内の音圧分布を均一にできるので、被洗浄物等の処理対象物に対する洗浄や表面の活性化等の超音波処理を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の超音波洗浄装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の超音波処理装置を洗浄装置に適用した超音波洗浄装置の第1の実施形態の部分断面図である。超音波洗浄装置1は、処理槽すなわち洗浄槽3と、振動発生部材10と、振動伝達部材16と、を備える。洗浄槽3は、上部が開口した略矩形状の槽であって、処理液すなわち洗浄液を貯留するためのものである。また、本実施形態では、処理対象物すなわち被洗浄物である基板7の洗浄槽3に対する出し入れを行うための昇降部材5を設けた。昇降部材5は、アーム部材17と、保持部19と、昇降駆動手段21と、を備える。略L字形状のアーム部材17には、従来から用いられている昇降駆動手段21が連結されている。また、アーム部材17の下端には、保持部19が連結されている。
【0031】
洗浄槽は、さらに不図示の濾過機構や濃度制御機構に連結されている。洗浄槽から排水された洗浄液は、濾過機構のフィルタにより異物を濾過した後、洗浄槽に戻すことで洗浄液の使用効率を高めている。また、濃度制御機構は、洗浄液に含まれる界面活性剤の液中濃度を監視し、その液中濃度を一定値に保つために利用されている。
【0032】
洗浄槽3の底部には、振動発生部材10が設けられている。振動発生部材10は、振動子11と、振動板15と、を備える。洗浄槽3の底面に装着されている振動子11には、制御部18が連結されており、制御部18からの駆動信号により振動子11を駆動して超音波振動を発生する。また、振動子11の上面には、略平坦状の板状部材である振動板15が接着剤で固定されている。さらに、振動板15の上面には、振動伝達部材であるガラス球16が、振動板15の表面をほぼ覆うように敷き詰められている。
【0033】
図2は、洗浄槽内に配置された被洗浄部材の保持部の斜視図である。なお、明瞭化のため昇降部材5のアーム部及びガラス球を省略した。昇降部材5の保持部19の形状について説明する。保持部19は、複数の棒状部材を略直方体状に連結された枠体である。図2において横方向に延在する4つの側枠19aの内、下方に位置する1対の側枠には、基板7を厚さに対応する幅を持つ溝が等間隔で設けられている。
保持部19に装填される基板7は、略矩形状の板状部材である。複数の基板7は、互いに離間して、直立した状態で上記溝に収容されて保持部19に保持される。
【0034】
上記構成の超音波洗浄装置を用いた洗浄方法について図1、図2を参照して説明する。まず、保持部19に所定数の基板7を装填する。次に、昇降駆動手段21を駆動させることで保持部19を下降し、保持部19を基板7とともに洗浄液9内に浸漬させる。制御部18からの駆動信号により振動子11を駆動させ振動板15を超音波振動させる。振動板15に伝達された超音波振動は、ガラス球16に伝達される。さらに、ガラス球16に伝達された超音波振動が洗浄液内に照射される。
【0035】
以下に洗浄液に照射される超音波について図3を用いて説明する。図3は、図1の振動板及びその上に配置された複数のガラス球の一部を示す。
【0036】
振動板15の上下方向23の振動がガラス球16に伝達されると、ガラス球16が上下方向に振動する。ガラス球16の表面から球面状に広がる波(矢印25a、25b、25c方向)が洗浄液中に照射される。
【0037】
ガラス球から照射された音波31は、図1に模式的に示されている。各ガラス球16から放射された音波31は互いに干渉する。また、洗浄槽3の側壁や洗浄液9の液面を反射した音波も干渉する。このように、洗浄液中の音波が互いに反射および干渉を繰り返すことにより、洗浄液中の音圧分布を均一にすることができる。
【実施例】
【0038】
次に、図1に示すガラス球を用いた超音波洗浄装置と、ガラス球を用いない超音波洗浄装置における洗浄液中内の音圧分布を比較した結果を示す。
【0039】
計測に使用した洗浄槽の寸法は、幅800mmx奥行き800mmx高さ800mmである。洗浄槽内の洗浄液は硫酸と硫酸主体の界面活性剤の混合液である。
【0040】
被洗浄物は、縦140mmx横140mmのプリント基板であり、約15,000個のビアホールが設けられている。プリント基板である樹脂付銅箔は、銅箔と樹脂層の2層からなる積層体であり、銅箔の厚さは12μmである。樹脂層を貫通するビアホールは、上穴の径が160μm、下穴の径が100μm、深さが160μmである。また、保持部には24枚の基板が装填されている。ガラス球は直径約10mmで、振動板上のほぼ全面に敷き詰められている。また、振動子の励振周波数は、28kHzとした。
音圧の計測には、本多電子株式会社製の超音波音圧計(HUS−5)を用いた。
【0041】
図4は、洗浄槽内に保持部を浸漬させない状態おける洗浄液の音圧分布を示すグラフ及び表である。図4(a)、(c)は、それぞれガラス球を使用しない超音波洗浄装置、ガラス球を使用した超音波洗浄装置の音圧グラフである。図4(b)、(d)は、それぞれガラス球を使用しない超音波洗浄装置、ガラス球を使用した超音波洗浄装置における洗浄槽の底面に対して垂直方向に延在する同一平面を9つの領域に分割し、各領域の平均音圧を示す表である。グラフ及び表に示された音圧は、いずれも交流電圧の実効値として表され、単位はVrmsである。また、グラフのX軸方向は、洗浄槽の幅方向を示し、Y軸方向は洗浄槽の深さ方向を示す。X1、X3は、洗浄槽の側壁側の領域である。また、Y1は洗浄槽の底面すなわち振動子側の領域であり、Y3は液面側の領域である。
【0042】
図4(a)から明らかなように、液面と底面との中間辺りの領域(X1〜X3、Y2)と、底面(X1〜X3、Y1)、液面(X1〜X3、Y3)近傍の領域が他の領域より音圧が高い傾向にあることがわかる。他方、図4(c)からわかるように、ガラス球を使用した場合には、洗浄液内では深さに関係なく、いずれの場所でも音圧がほぼ等しい。図4(b)に示されるように、ガラス球を使用しない場合には、領域毎に音圧のばらつきが見られる。図4(b)のグラフより、9つの領域の音圧の平均値は、2.42Vrmsであり、音圧の最高値と最低値との差は、4.0Vrmsであることがわかる。
【0043】
図4(d)に示された結果から、ガラス球を用いた洗浄槽では、9つの領域の音圧の平均値は4.46Vrmsとなり、音圧の最高値と音圧の最低値の差は、0.1Vrmsであることがわかる。すなわち、ガラス球を配置した本発明の洗浄槽では、ガラス球を配置しない洗浄槽に比べ、音圧の平均値は、2.04Vrms高く、音圧のばらつきが、3.9Vrms低下していることがわかる。音圧の平均値が高くなったのは、洗浄液内の音圧のばらつきが低下することにより、同一面内の音圧の平均値が底上げされたと考えられる。従って、ガラス球を使用することにより、同じ出力で振動を付与しても、洗浄槽内の音圧の平均値を高く維持できるので、超音波洗浄装置の効率を上げることができる。
【0044】
次に、洗浄槽内の洗浄液内に基板を装填した保持部を浸漬した場合の音圧分布に関し、ガラス球を利用した場合と、ガラス球を利用しない場合について説明する。
【0045】
図5は、洗浄液内に保持部を浸漬した状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。図5(a)、(c)は、それぞれガラス球を利用しない超音波洗浄装置、ガラス球を利用した超音波洗浄装置のグラフである。図5(b)、(d)は、それぞれガラス球を利用しない超音波洗浄装置、ガラス球を利用した超音波洗浄装置に関し、所定の計測深度における同一面を9つの領域に分割し、各領域の平均音圧を表に示したものである。音圧グラフ及び表に示された音圧は、いずれも交流電圧の実効値として表され、単位はVrmsである。また、グラフのx軸方向は、洗浄槽の幅方向を示し、y軸方向は洗浄槽の奥行き方向を示す。また、基板が装填された保持部は、洗浄槽の各壁面からほぼ等距離となるように配置されている。計測深度は、液面から約40cmの深さの洗浄液中とした。
【0046】
図5(a)から明らかなように、ガラス球を使用しない場合、音圧のばらつきに規則性が見られない。また、図5(b)に示されるように、ガラス球を利用しない場合、領域毎に音圧のばらつきが見られる。9つの領域の音圧の最高値と最低値との差は、3.5Vrmsである。
【0047】
ガラス球を用いた洗浄槽では、音圧の最高値と音圧の最低値との差は、1.5Vrmsである。すなわち、ガラス球を配置した本発明の超音波洗浄装置を使用すると、ガラス球を使用しない洗浄槽に比べ、音圧のばらつきを、2.0Vrms低下させることができるので、洗浄槽内の音圧を均一化が図れた。
【0048】
ガラス球を利用しない超音波洗浄装置では、音圧分布が均一な領域に規則性を見ることができないばかりではなく、ばらつき自体が3.5Vrmsと大きい。よって、複数の基板を一度に浸漬して洗浄する場合に均一な洗浄結果を得られない可能性がある。しかし、ガラス球を利用した超音波洗浄装置では、音圧分布に規則性が見られるだけでなく、音圧のばらつきが1.5Vrmsと均一にでき、均一な洗浄結果を得ることが可能となる。つまり上記のように、超音波洗浄装置にガラス球を使用すれば、図4(c)、図4(d)の如く洗浄槽内の音圧分布が均一となり、さらに図5(c)、図5(d)の如く保持部に装填された基板を洗浄液内に浸漬した場合でも音圧分布はガラス球を使用しない場合に比べて音圧分布のばらつきは大幅に低減でき、確実に洗浄作業を行えることが実証された。
【0049】
実際に洗浄した基板を検証したところ、図11に示したような残渣の発生若しくはビアホール内の銅箔部分に穴が生じるという不具合の発生率は、数パーセントのオーダであったものが、ほぼゼロパーセントとなった。
【0050】
上記実施例では、液面から40cm下がった液中の音圧分布について実証した。ここで、その他の深度における液中の音圧分布が問題となる。一般に、深さ方向に関する音圧は、音波の性質上振動源から離れるに従い減衰し、また、液面における音波の反射と透過によっても減衰する。従って、振動源から最も離れた液面に近づくにつれて音圧の減衰が見られたものの、ガラス球を利用した場合には、ガラス球を利用しない場合と比較して、音圧分布を均一化できるという傾向には変わりがないことが判明している。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第2の実施形態について説明する。図6は、超音波洗浄装置の第2の実施形態の断面図である。第1実施形態の超音波洗浄装置1は、ガラス球を振動板の上に配置する構成としたが、第2実施形態の超音波洗浄装置51では、振動板の表面に複数の凸状曲面を設けた構成である。
【0052】
第1の実施形態の超音波洗浄装置1と同様に、第2実施形態の超音波洗浄装置51は、処理槽すなわち洗浄槽53と、振動発生部材60と、を備える。また、本実施形態においても、洗浄槽53内に被洗浄物を搬送するための昇降部材55を設けた。昇降部材55は、アーム部材67と、保持部69と、昇降駆動手段71と、を備える。アーム部材67の先端部には、保持部69が連結されている。
【0053】
洗浄槽53の底部には、振動発生部材60が設けられている。振動発生部材60は、振動子61と、振動板65と、を備える。洗浄槽53の底面に装着されている振動子61には、制御部78が連結されており、制御部78からの駆動信号により振動子61を駆動して超音波振動を発生する。振動子61の上面には、振動板65が接着剤等の固定手段により装着されている。振動板65は、処理液すなわち洗浄液59に接し超音波振動を洗浄液59に伝達できる振動伝達領域68を備える。本実施形態では、振動伝達領域68の所定範囲内(振動板65の上面)に、複数の略半球状の突起部66が同一面状に連続して形成されている。なお、振動板65は、洗浄槽53の底面より若干小さく寸法付けされている。また、洗浄槽53の開口側から見た場合に、保持部69に装填されているすべての基板57(処理対象物)についての振動板65上の投影面より若干広い領域を占めるような数の突起部66が設けられている。なお、突起部66を設ける面積は適宜変更でき、投影面とほぼ同一の領域内に突起部を設ければ良いことは言うまでもない。
【0054】
上記構成の超音波洗浄装置51を用いて、洗浄液59内に保持部69に装填された基板57を浸漬する。振動子61を図中上下方向に駆動させると、その振動が振動板65に伝達される。振動板65に設けられた複数の半球状突起部66の各々の表面から球面状に音波81が伝播する。さらに、各突起部66から照射された音波81と、洗浄槽53の内壁面で反射した反射波とが互いに干渉し合い、音圧のばらつきのない波が形成される。当該波が基板57に到達すると、基板57に対して均一な音圧で洗浄がなされる。
【0055】
第1実施形態の平坦の振動板上にガラス球を配置する構成の代わりに、振動板65自体の表面に略半球状の突起部66を設けるという簡易な構成により、第1実施形態と同様に、洗浄液59中の音圧分布を均一化することができる。
【0056】
(他の実施形態)
以下に、振動伝達板の表面に設けることができる突起部の他の実施形態について説明する。図7(a)〜(c)は、振動板の表面に設けられた突起部の種々の実施形態を示す。図7(a)は、複数の円錐形状突起部116を互いに隣接して振動板115上に設けた構成である。図7(b)は、複数の円錐形状突起部216を振動板215上に設けている点で、図7(a)の構成と同じであるが、複数の円錐形状突起部216を互いに離間させて設けた構成である。図7(c)は、複数の円錐台形状突起部316が、隣接して振動板316の上面に設けた構成である。なお、図7(a)〜(c)の振動板の下面には、不図示の振動子(図1の11参照。)が装着されている。なお、突起部116、216、316は、振動板115、215、315とは別体とし、実施形態1のように振動伝達部材として用いることも可能である。
【0057】
上記構成において、振動子を振動すると、振動板115、215、315の突起部116、216、316を有する面から超音波振動が洗浄液内に照射される。各突起部から照射される音波の内、各突起部の曲面状の側面から照射される超音波は、それぞれ曲面状に進行する進行波となる。その進行波が互いに、若しくは、進行波の一部が洗浄槽の内壁に反射して形成される反射波と干渉し合い、音圧にばらつきのない波が洗浄液内に形成される。よって、図7(a)〜(c)の何れの構成であっても、洗浄液中の音圧分布を均一にできる。
【0058】
なお、図7(a)、(b)のように、円錐状突起部を用いる場合には、底面の径の長さが、円錐の高さ寸法と等しいか、大きくなるように寸法付けすることが望ましい。突起部の側面が、垂直面に近づくにつれて、各突起部から放射される音波の水平成分同士が打ち消しあう割合が多くなり、結果として音波の垂直成分のみが放射されることとなる。この場合には、従来の超音波洗浄装置で見られる定在波を形成してしまい、本発明の効果が得られない恐れがあるからである。
【0059】
また、突起部の形状は、球状体、半球状、円錐状に限定されることなく、凸状の曲面を有する突起部であれば、洗浄液内に伝播する音波の音圧分布を均一にすることが可能である。さらに、突起部の形状は、音波の上方成分と水平成分を有する音波を放射できれば良いので、例えば、多角錐であっても良い。その斜面から照射される音波は、上方向成分のみならず水平方向成分を有し、各突起部から放射される音波が互いに干渉し合うからである。
【0060】
また、上記したすべての実施形態では、単一の振動子に対して一の振動伝達板を装着する構成としたが、図8に示すように、複数の振動子111を設ける構成とすることもできる。この場合には、洗浄液内に浸漬される基板の寸法や数の変更に伴う基板の投影面の変化に対応して、必要な領域に位置する振動子のみを駆動することにより、効率的に洗浄処理を行うことができる。
【0061】
さらに、第1の実施形態では、振動伝達板のほぼ全面に球状部材を配置したが、本発明はこれに制限されることはない。すなわち、洗浄槽の開口側から見て保持部に装填された基板の底面に対する投影面のほぼ全領域を占めるような数の、複数の球状部材若しくは突起部を配置することが好ましい。なお、隣接する球状部材若しくは突起部同士を接触した状態で並置する必要は必ずしもない。球状部材間及び突起部間に延在する振動板の平坦部で形成される垂直方向の超音波と、突起部からの球面状の超音波が干渉し合い形成される波が、垂直成分のみを有する波ではなく、水平成分をも有する波とすることができる範囲であれば、球状部材若しくは突起部を互いに離間して配置することができる。
また、複数の球状部材や突起部の各々について、曲面の曲率を均一にする必要はなく、曲率が異なる種々の球状部材や突起部とすることも可能である。
【0062】
さらに、何れの実施形態においても、洗浄槽の底部に振動伝達板を設ける構成としたが、本発明は本構成に限定されることはない。例えば、洗浄槽の底部のみならず、内壁面に、上述した突起部を設ける構成とすることもできる。
【0063】
本発明の超音波洗浄装置に用いる洗浄液は、実施形態や実施例に記載した洗浄液に限定されることなく、希硫酸溶液、有機溶剤、弗硝酸液等を適宜用いることができることは言うまでもない。
【0064】
また、実施形態や実施例では、本発明の超音波処理装置を、電子部品を洗浄するための超音波洗浄装置の活性処理に適用した例を示したが、本発明の超音波処理装置は、処理液の音圧分布を均一にできるので、活性処理時に発生する処理液の泡の消泡、脱泡等の効果や、導電性ペーストや誘電体ペーストなどの混合物や化合物の合成、フィラーと溶媒とバインダを混練したスラリーなどの混合物や化合物の分散、乳化及び抽出、希硫酸を用いて酸化膜を除去するなどの化学反応の促進、物質の分散等を目的とした装置に適用しても、列記した各処理を被処理対象物に対して確実に行うことが可能である。
【0065】
例えば、本発明の超音波処理装置は、液体と固体、液体と液体、の間の化学反応を進行させる装置や、超音波により酸化作用、還元作用を促進する反応溶液を用いて液体処理を行う装置に適用できる。
【0066】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態及び実施例は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第1の実施形態の部分断面図である。
【図2】洗浄槽内に配置された被洗浄部材の保持部に斜視図である。
【図3】図1の振動伝達板及びその上に配置されたガラス球の一部を示す。
【図4】洗浄液内に保持部を浸漬させる前の状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。
【図5】洗浄液内に保持部を浸漬した状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。
【図6】本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第2の実施形態の断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、他の実施形態の突起部の部分断面図である。
【図8】複数の振動子を示す斜視図である。
【図9】従来の超音波洗浄装置の部分断面図である。
【図10】他の従来の超音波洗浄装置の振動発生部材の断面図である。
【図11】ビアホールが設けられた樹脂付銅箔の洗浄処理後の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 超音波洗浄装置
3 洗浄槽
5 昇降部材
10 振動発生部材
16 振動伝達部材
19 保持部
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、処理槽に貯留した処理液に超音波振動を作用することにより処理液内に浸漬した処理対象物を洗浄する超音波処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、めっき処理を的確に行うため、めっき処理の前工程として、めっき処理の対象となる電子部品用基板等の導体表面の活性化や洗浄を行っている。めっき処理の前工程である洗浄工程を行うための洗浄装置として、洗浄槽の底部に超音波振動発生部が固定された装置や、超音波発生部が独立した投げ込み型の超音波洗浄装置が広く利用されている。
【0003】
通常、超音波洗浄装置を駆動して超音波振動を洗浄液に照射すると定在波が生じる。定在波は、底部から液面に向かう進行波と、進行波が液面に反射することで生じる、液面から底部へ進行する反射波と、が合成され、あたかも波の進行が止まり、振幅が同じ場所で繰り返されているように観測される波動である。
【0004】
振幅が0である定在波の節に、被洗浄物である基板のある部分が位置し、振幅の最大である定在波の腹に、同一の基板の他の部分が位置する場合には、節の部分では洗浄が十分行われない。定在波の腹の部分では基板は過度の音圧を受けてしまい、基板を過度に洗浄するのみならず、基板を破壊する恐れがある。また、同一基板内における洗浄むらのみならず、複数の基板を洗浄する場合には、定在波の腹の位置にある基板と、節の位置にある別の基板では、洗浄や活性化処理にばらつきが生じてしまう。上記ばらつきを防止するために、洗浄液内の音圧分布を均一にすべく種々の洗浄装置が提供されている。
【0005】
図9は、従来の超音波洗浄装置の部分断面図である。超音波洗浄装置801は、洗浄槽803と、被洗浄物である基板807を洗浄液809内で移動させるための昇降部材805と、超音波振動を発生させるための振動子811と、振動子811により発生された超音波振動を洗浄液809に付与するための平滑な振動伝達板815と、を備える。
【0006】
Y方向(図9の上下方向)に往復運動する昇降部材805は、アーム部817と保持部819とを備える。保持部819は、Y方向に立てた状態の複数の基板807を保持する。保持部819は、アーム部材817を介して不図示の昇降駆動手段に連結されている。上記構成において、振動子811を駆動させるとともに、昇降駆動手段により保持部819をY方向に移動させることにより、超音波の節または腹に対応する部分にのみ基板807の所定部分が位置しないように洗浄処理を行っている(特許文献1参照)。
【0007】
図10は、他の従来の超音波洗浄装置の振動発生部の断面図である。振動発生部905は、振動子911及び振動伝達部材915から構成される。図9の振動伝達板815は、その表面が平滑な板状の部材であったが、図10の振動伝達板915は、その表面に複数の半球状凹部917を備える構成である。その他の超音波洗浄装置の構成要素は同じである。
【0008】
半球状凹部917は、単一の振動伝達板915から位相をずらした2つの超音波を付与するための構成である。半球状凹部917の深さは、振動子911の励振周波数の波長の1/4の長さになるように構成されている。また、半球状凹部917の開口部の径は励振周波数の波長の1/2の長さに寸法付けされている。上記構成において、平面部により照射される周波数と、半球状凹部から照射される周波数の位相を異ならせることにより、洗浄液内の音圧分布を、均一にするものである(特許文献2参照。)。
【0009】
さらに、超音波洗浄以外の用途、例えば、新化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡の処理において、超音波を用いた超音波処理装置が利用されている。
【特許文献1】特開2000−228381号公報(段落番号〔0005〕、第1図)
【特許文献2】特開平7−39835号公報(段落番号〔0012〕、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の超音波洗浄装置は、依然として以下のような問題がある。図9の超音波洗浄装置では、洗浄作業を行う際、超音波振動を付与するとともに、保持部を上下方向に移動させる必要があるため、超音波洗浄装置の構造を簡素化するには限界がある。また、保持部を上下方向に移動させても、各基板、若しくは基板の全面にわたり均一な音圧を付与するように制御することは非常に困難である。
【0011】
他方、図10の伝達板を使用した場合に、半球状凹部により照射された音波は、その凹部の曲面の焦点に収束する方向に進行する。よって、洗浄液中において、焦点近傍では音圧が高くなる。また、焦点以外の位置においても音圧のばらつきが残存している。よって、均一な音圧分布を洗浄液内に実現することは困難である。
【0012】
また、音波の波長のほぼ1/2波長の開口部と、ほぼ1/4波長の深さを有する凹部と、凹部の寸法が規定されているため、当該特許文献2の実施例に記載されている励振周波数100KHzを例に取れば凹部の直径は15.4mm、深さは7.7mmとなり、この加工は石英ガラス板に施されることになる。ところがこれを後述の本発明の実施例に照らし合わせると、励振周波数は一般的に用いられる28KHzであり、単純計算で凹部の直径および深さは約4倍となり、特に深さは約30mmに達することで前記石英ガラス板は少なくとも30mmを超える厚さが必要となる。これは加工部材としても加工作業にしても実現は非常に困難である。
【0013】
図11(a)、(b)は、ビアホールが設けられた樹脂付銅箔の洗浄処理後の不良品を示す断面図である。樹脂付銅箔は、銅箔855と樹脂層851の2層からなる積層体であり、樹脂層851は厚さ方向に貫通するビアホール853を備える。図11(a)は、ビアホール853内の洗浄が十分になされなかったことを示す。図に示されているようにビアホール853内に有機付着物等の残渣857が存在している。この場合、ビアホール853内に露出している銅箔部分の活性化処理も十分に施されていない恐れがある。
【0014】
図11(b)には、ビアホール853内に露出している銅箔855に穴859が生じてしまった状態が示されている。穴859の発生は、洗浄が過剰になされたことを意味する。
【0015】
図9の超音波洗浄装置を利用した場合には、洗浄液内を均一にすることが困難であるため、図11(a)(b)に示される不良品を防止することが困難である。
【0016】
図10の超音波洗浄装置を利用した場合には、半球状凹部の曲面の焦点に配置された基板は、図11(b)のような結果となる恐れがある。また、定在波の音圧の平均値を基準として、振動子の出力を調整した場合、定在波の節に相当する位置に配置された被洗浄物には残渣が生じ、定在波の腹に相当する位置に配置された被洗浄物は、ビアホール内の銅箔に穴が開いてしまう。従って、例示した従来技術では、洗浄液中の音圧分布を均一にすることができなかった。
【0017】
上述した従来の超音波洗浄装置における音圧の不均一に起因する課題は、新化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡等の処理においても同様に存在する。これらの処理において、処理槽内の処理液中に音圧が高い部分や低い部分が混在すると、音圧の高い部分では低い部分に比べ処理が促進されるため、処理対象物の処理速度、例えば合成速度、反応速度等にばらつきが生じる。結果として、化合物の合成や化学反応等が不十分となる恐れがある。
【0018】
そこで、本発明は、より簡易な構成で、液体内の音圧分布を均一化することにより、被洗浄物の洗浄、を確実に行うことができる超音波処理装置を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための手段は、発明者等が、鋭意検討をした結果得られた以下の知見に基づくものである。振動発生部材の振動方向(底面から液面方向(垂直方向))と平行な方向のみに超音波を照射すると、定在波が生じることは避けられない。そこで、振動方向とは平行でない様々な角度の方向に進行する超音波を照射し、振動伝達部材からの超音波と、洗浄槽の壁面及び液面により反射した反射波を積極的に干渉させることにより、洗浄液内の音圧分布を均一化できるという知見を得た。すなわち、垂直成分のみを有する超音波のみではなく、垂直成分及び水平成分を有する反射波を混在させることにより、洗浄液内の音圧分布を均一化する超音波洗浄装置である。
【0020】
上記知見に基づき、本発明の目的を達成するための本発明の超音波洗浄装置の第1の態様は、洗浄液を貯留するとともに被洗浄物を前記洗浄液内に浸漬するための洗浄槽と、前記洗浄槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記洗浄液に作用する振動伝達部材と、を備え、前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波洗浄装置である。
【0021】
また、本発明の超音波洗浄装置の第2の態様によれば、前記振動伝達部材は、前記振動発生部材に接する板状部材と、板状部材上に載置された複数の球状部材と、から構成され、前記複数の凸状球面は、前記複数の球状部材の外周部分により構成される。
【0022】
さらに、本発明の超音波洗浄装置の第3の態様は、処理液を貯留するとともに処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、超音波振動を発生し、前記超音波振動を前記処理液に伝達可能となるように振動伝達領域が配置された振動発生部材と、を備え、前記振動伝達領域において前記処理液に前記超音波振動を伝達する面は、同一面内に配置された複数の突起部を有する超音波処理装置である。
【0023】
また、本発明の超音波処理装置の第4の態様によれば、前記突起部は、凸状曲面を有する。
【0024】
そして、本発明の超音波処理装置の第5の態様によれば、前記凸状曲面は、球状部材、円錐状部材若しくは円錐台形状部材の外周部分から構成される。
【0025】
さらに、本発明の超音波処理装置の第6の様態によれば、前記処理は、化合物の合成、分散、乳化若しくは抽出、化学反応の促進、物質の分散、又は処理液の消泡若しくは脱泡等を含む。
【0026】
本明細書中の球状とは、特に言及していなければ、厳密な球のみならず、球が欠けた形状、半球状、楕円球状、丸みを帯びた形状等を含む。
【0027】
また、本明細書において、被洗浄物等の処理対象物に伝達される超音波とは、振動発生部材(振動子)から液体を介して伝わる超音波や、振動発生部材からの超音波が洗浄槽等の処理槽の壁面で反射し被洗浄部材等の処理対象物に伝わる反射波を含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明の超音波処理装置及び超音波洗浄装置によれば、洗浄液等の処理液内の音圧分布を均一にできるので、被洗浄物等の処理対象物に対する洗浄や表面の活性化等の超音波処理を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の超音波洗浄装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の超音波処理装置を洗浄装置に適用した超音波洗浄装置の第1の実施形態の部分断面図である。超音波洗浄装置1は、処理槽すなわち洗浄槽3と、振動発生部材10と、振動伝達部材16と、を備える。洗浄槽3は、上部が開口した略矩形状の槽であって、処理液すなわち洗浄液を貯留するためのものである。また、本実施形態では、処理対象物すなわち被洗浄物である基板7の洗浄槽3に対する出し入れを行うための昇降部材5を設けた。昇降部材5は、アーム部材17と、保持部19と、昇降駆動手段21と、を備える。略L字形状のアーム部材17には、従来から用いられている昇降駆動手段21が連結されている。また、アーム部材17の下端には、保持部19が連結されている。
【0031】
洗浄槽は、さらに不図示の濾過機構や濃度制御機構に連結されている。洗浄槽から排水された洗浄液は、濾過機構のフィルタにより異物を濾過した後、洗浄槽に戻すことで洗浄液の使用効率を高めている。また、濃度制御機構は、洗浄液に含まれる界面活性剤の液中濃度を監視し、その液中濃度を一定値に保つために利用されている。
【0032】
洗浄槽3の底部には、振動発生部材10が設けられている。振動発生部材10は、振動子11と、振動板15と、を備える。洗浄槽3の底面に装着されている振動子11には、制御部18が連結されており、制御部18からの駆動信号により振動子11を駆動して超音波振動を発生する。また、振動子11の上面には、略平坦状の板状部材である振動板15が接着剤で固定されている。さらに、振動板15の上面には、振動伝達部材であるガラス球16が、振動板15の表面をほぼ覆うように敷き詰められている。
【0033】
図2は、洗浄槽内に配置された被洗浄部材の保持部の斜視図である。なお、明瞭化のため昇降部材5のアーム部及びガラス球を省略した。昇降部材5の保持部19の形状について説明する。保持部19は、複数の棒状部材を略直方体状に連結された枠体である。図2において横方向に延在する4つの側枠19aの内、下方に位置する1対の側枠には、基板7を厚さに対応する幅を持つ溝が等間隔で設けられている。
保持部19に装填される基板7は、略矩形状の板状部材である。複数の基板7は、互いに離間して、直立した状態で上記溝に収容されて保持部19に保持される。
【0034】
上記構成の超音波洗浄装置を用いた洗浄方法について図1、図2を参照して説明する。まず、保持部19に所定数の基板7を装填する。次に、昇降駆動手段21を駆動させることで保持部19を下降し、保持部19を基板7とともに洗浄液9内に浸漬させる。制御部18からの駆動信号により振動子11を駆動させ振動板15を超音波振動させる。振動板15に伝達された超音波振動は、ガラス球16に伝達される。さらに、ガラス球16に伝達された超音波振動が洗浄液内に照射される。
【0035】
以下に洗浄液に照射される超音波について図3を用いて説明する。図3は、図1の振動板及びその上に配置された複数のガラス球の一部を示す。
【0036】
振動板15の上下方向23の振動がガラス球16に伝達されると、ガラス球16が上下方向に振動する。ガラス球16の表面から球面状に広がる波(矢印25a、25b、25c方向)が洗浄液中に照射される。
【0037】
ガラス球から照射された音波31は、図1に模式的に示されている。各ガラス球16から放射された音波31は互いに干渉する。また、洗浄槽3の側壁や洗浄液9の液面を反射した音波も干渉する。このように、洗浄液中の音波が互いに反射および干渉を繰り返すことにより、洗浄液中の音圧分布を均一にすることができる。
【実施例】
【0038】
次に、図1に示すガラス球を用いた超音波洗浄装置と、ガラス球を用いない超音波洗浄装置における洗浄液中内の音圧分布を比較した結果を示す。
【0039】
計測に使用した洗浄槽の寸法は、幅800mmx奥行き800mmx高さ800mmである。洗浄槽内の洗浄液は硫酸と硫酸主体の界面活性剤の混合液である。
【0040】
被洗浄物は、縦140mmx横140mmのプリント基板であり、約15,000個のビアホールが設けられている。プリント基板である樹脂付銅箔は、銅箔と樹脂層の2層からなる積層体であり、銅箔の厚さは12μmである。樹脂層を貫通するビアホールは、上穴の径が160μm、下穴の径が100μm、深さが160μmである。また、保持部には24枚の基板が装填されている。ガラス球は直径約10mmで、振動板上のほぼ全面に敷き詰められている。また、振動子の励振周波数は、28kHzとした。
音圧の計測には、本多電子株式会社製の超音波音圧計(HUS−5)を用いた。
【0041】
図4は、洗浄槽内に保持部を浸漬させない状態おける洗浄液の音圧分布を示すグラフ及び表である。図4(a)、(c)は、それぞれガラス球を使用しない超音波洗浄装置、ガラス球を使用した超音波洗浄装置の音圧グラフである。図4(b)、(d)は、それぞれガラス球を使用しない超音波洗浄装置、ガラス球を使用した超音波洗浄装置における洗浄槽の底面に対して垂直方向に延在する同一平面を9つの領域に分割し、各領域の平均音圧を示す表である。グラフ及び表に示された音圧は、いずれも交流電圧の実効値として表され、単位はVrmsである。また、グラフのX軸方向は、洗浄槽の幅方向を示し、Y軸方向は洗浄槽の深さ方向を示す。X1、X3は、洗浄槽の側壁側の領域である。また、Y1は洗浄槽の底面すなわち振動子側の領域であり、Y3は液面側の領域である。
【0042】
図4(a)から明らかなように、液面と底面との中間辺りの領域(X1〜X3、Y2)と、底面(X1〜X3、Y1)、液面(X1〜X3、Y3)近傍の領域が他の領域より音圧が高い傾向にあることがわかる。他方、図4(c)からわかるように、ガラス球を使用した場合には、洗浄液内では深さに関係なく、いずれの場所でも音圧がほぼ等しい。図4(b)に示されるように、ガラス球を使用しない場合には、領域毎に音圧のばらつきが見られる。図4(b)のグラフより、9つの領域の音圧の平均値は、2.42Vrmsであり、音圧の最高値と最低値との差は、4.0Vrmsであることがわかる。
【0043】
図4(d)に示された結果から、ガラス球を用いた洗浄槽では、9つの領域の音圧の平均値は4.46Vrmsとなり、音圧の最高値と音圧の最低値の差は、0.1Vrmsであることがわかる。すなわち、ガラス球を配置した本発明の洗浄槽では、ガラス球を配置しない洗浄槽に比べ、音圧の平均値は、2.04Vrms高く、音圧のばらつきが、3.9Vrms低下していることがわかる。音圧の平均値が高くなったのは、洗浄液内の音圧のばらつきが低下することにより、同一面内の音圧の平均値が底上げされたと考えられる。従って、ガラス球を使用することにより、同じ出力で振動を付与しても、洗浄槽内の音圧の平均値を高く維持できるので、超音波洗浄装置の効率を上げることができる。
【0044】
次に、洗浄槽内の洗浄液内に基板を装填した保持部を浸漬した場合の音圧分布に関し、ガラス球を利用した場合と、ガラス球を利用しない場合について説明する。
【0045】
図5は、洗浄液内に保持部を浸漬した状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。図5(a)、(c)は、それぞれガラス球を利用しない超音波洗浄装置、ガラス球を利用した超音波洗浄装置のグラフである。図5(b)、(d)は、それぞれガラス球を利用しない超音波洗浄装置、ガラス球を利用した超音波洗浄装置に関し、所定の計測深度における同一面を9つの領域に分割し、各領域の平均音圧を表に示したものである。音圧グラフ及び表に示された音圧は、いずれも交流電圧の実効値として表され、単位はVrmsである。また、グラフのx軸方向は、洗浄槽の幅方向を示し、y軸方向は洗浄槽の奥行き方向を示す。また、基板が装填された保持部は、洗浄槽の各壁面からほぼ等距離となるように配置されている。計測深度は、液面から約40cmの深さの洗浄液中とした。
【0046】
図5(a)から明らかなように、ガラス球を使用しない場合、音圧のばらつきに規則性が見られない。また、図5(b)に示されるように、ガラス球を利用しない場合、領域毎に音圧のばらつきが見られる。9つの領域の音圧の最高値と最低値との差は、3.5Vrmsである。
【0047】
ガラス球を用いた洗浄槽では、音圧の最高値と音圧の最低値との差は、1.5Vrmsである。すなわち、ガラス球を配置した本発明の超音波洗浄装置を使用すると、ガラス球を使用しない洗浄槽に比べ、音圧のばらつきを、2.0Vrms低下させることができるので、洗浄槽内の音圧を均一化が図れた。
【0048】
ガラス球を利用しない超音波洗浄装置では、音圧分布が均一な領域に規則性を見ることができないばかりではなく、ばらつき自体が3.5Vrmsと大きい。よって、複数の基板を一度に浸漬して洗浄する場合に均一な洗浄結果を得られない可能性がある。しかし、ガラス球を利用した超音波洗浄装置では、音圧分布に規則性が見られるだけでなく、音圧のばらつきが1.5Vrmsと均一にでき、均一な洗浄結果を得ることが可能となる。つまり上記のように、超音波洗浄装置にガラス球を使用すれば、図4(c)、図4(d)の如く洗浄槽内の音圧分布が均一となり、さらに図5(c)、図5(d)の如く保持部に装填された基板を洗浄液内に浸漬した場合でも音圧分布はガラス球を使用しない場合に比べて音圧分布のばらつきは大幅に低減でき、確実に洗浄作業を行えることが実証された。
【0049】
実際に洗浄した基板を検証したところ、図11に示したような残渣の発生若しくはビアホール内の銅箔部分に穴が生じるという不具合の発生率は、数パーセントのオーダであったものが、ほぼゼロパーセントとなった。
【0050】
上記実施例では、液面から40cm下がった液中の音圧分布について実証した。ここで、その他の深度における液中の音圧分布が問題となる。一般に、深さ方向に関する音圧は、音波の性質上振動源から離れるに従い減衰し、また、液面における音波の反射と透過によっても減衰する。従って、振動源から最も離れた液面に近づくにつれて音圧の減衰が見られたものの、ガラス球を利用した場合には、ガラス球を利用しない場合と比較して、音圧分布を均一化できるという傾向には変わりがないことが判明している。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第2の実施形態について説明する。図6は、超音波洗浄装置の第2の実施形態の断面図である。第1実施形態の超音波洗浄装置1は、ガラス球を振動板の上に配置する構成としたが、第2実施形態の超音波洗浄装置51では、振動板の表面に複数の凸状曲面を設けた構成である。
【0052】
第1の実施形態の超音波洗浄装置1と同様に、第2実施形態の超音波洗浄装置51は、処理槽すなわち洗浄槽53と、振動発生部材60と、を備える。また、本実施形態においても、洗浄槽53内に被洗浄物を搬送するための昇降部材55を設けた。昇降部材55は、アーム部材67と、保持部69と、昇降駆動手段71と、を備える。アーム部材67の先端部には、保持部69が連結されている。
【0053】
洗浄槽53の底部には、振動発生部材60が設けられている。振動発生部材60は、振動子61と、振動板65と、を備える。洗浄槽53の底面に装着されている振動子61には、制御部78が連結されており、制御部78からの駆動信号により振動子61を駆動して超音波振動を発生する。振動子61の上面には、振動板65が接着剤等の固定手段により装着されている。振動板65は、処理液すなわち洗浄液59に接し超音波振動を洗浄液59に伝達できる振動伝達領域68を備える。本実施形態では、振動伝達領域68の所定範囲内(振動板65の上面)に、複数の略半球状の突起部66が同一面状に連続して形成されている。なお、振動板65は、洗浄槽53の底面より若干小さく寸法付けされている。また、洗浄槽53の開口側から見た場合に、保持部69に装填されているすべての基板57(処理対象物)についての振動板65上の投影面より若干広い領域を占めるような数の突起部66が設けられている。なお、突起部66を設ける面積は適宜変更でき、投影面とほぼ同一の領域内に突起部を設ければ良いことは言うまでもない。
【0054】
上記構成の超音波洗浄装置51を用いて、洗浄液59内に保持部69に装填された基板57を浸漬する。振動子61を図中上下方向に駆動させると、その振動が振動板65に伝達される。振動板65に設けられた複数の半球状突起部66の各々の表面から球面状に音波81が伝播する。さらに、各突起部66から照射された音波81と、洗浄槽53の内壁面で反射した反射波とが互いに干渉し合い、音圧のばらつきのない波が形成される。当該波が基板57に到達すると、基板57に対して均一な音圧で洗浄がなされる。
【0055】
第1実施形態の平坦の振動板上にガラス球を配置する構成の代わりに、振動板65自体の表面に略半球状の突起部66を設けるという簡易な構成により、第1実施形態と同様に、洗浄液59中の音圧分布を均一化することができる。
【0056】
(他の実施形態)
以下に、振動伝達板の表面に設けることができる突起部の他の実施形態について説明する。図7(a)〜(c)は、振動板の表面に設けられた突起部の種々の実施形態を示す。図7(a)は、複数の円錐形状突起部116を互いに隣接して振動板115上に設けた構成である。図7(b)は、複数の円錐形状突起部216を振動板215上に設けている点で、図7(a)の構成と同じであるが、複数の円錐形状突起部216を互いに離間させて設けた構成である。図7(c)は、複数の円錐台形状突起部316が、隣接して振動板316の上面に設けた構成である。なお、図7(a)〜(c)の振動板の下面には、不図示の振動子(図1の11参照。)が装着されている。なお、突起部116、216、316は、振動板115、215、315とは別体とし、実施形態1のように振動伝達部材として用いることも可能である。
【0057】
上記構成において、振動子を振動すると、振動板115、215、315の突起部116、216、316を有する面から超音波振動が洗浄液内に照射される。各突起部から照射される音波の内、各突起部の曲面状の側面から照射される超音波は、それぞれ曲面状に進行する進行波となる。その進行波が互いに、若しくは、進行波の一部が洗浄槽の内壁に反射して形成される反射波と干渉し合い、音圧にばらつきのない波が洗浄液内に形成される。よって、図7(a)〜(c)の何れの構成であっても、洗浄液中の音圧分布を均一にできる。
【0058】
なお、図7(a)、(b)のように、円錐状突起部を用いる場合には、底面の径の長さが、円錐の高さ寸法と等しいか、大きくなるように寸法付けすることが望ましい。突起部の側面が、垂直面に近づくにつれて、各突起部から放射される音波の水平成分同士が打ち消しあう割合が多くなり、結果として音波の垂直成分のみが放射されることとなる。この場合には、従来の超音波洗浄装置で見られる定在波を形成してしまい、本発明の効果が得られない恐れがあるからである。
【0059】
また、突起部の形状は、球状体、半球状、円錐状に限定されることなく、凸状の曲面を有する突起部であれば、洗浄液内に伝播する音波の音圧分布を均一にすることが可能である。さらに、突起部の形状は、音波の上方成分と水平成分を有する音波を放射できれば良いので、例えば、多角錐であっても良い。その斜面から照射される音波は、上方向成分のみならず水平方向成分を有し、各突起部から放射される音波が互いに干渉し合うからである。
【0060】
また、上記したすべての実施形態では、単一の振動子に対して一の振動伝達板を装着する構成としたが、図8に示すように、複数の振動子111を設ける構成とすることもできる。この場合には、洗浄液内に浸漬される基板の寸法や数の変更に伴う基板の投影面の変化に対応して、必要な領域に位置する振動子のみを駆動することにより、効率的に洗浄処理を行うことができる。
【0061】
さらに、第1の実施形態では、振動伝達板のほぼ全面に球状部材を配置したが、本発明はこれに制限されることはない。すなわち、洗浄槽の開口側から見て保持部に装填された基板の底面に対する投影面のほぼ全領域を占めるような数の、複数の球状部材若しくは突起部を配置することが好ましい。なお、隣接する球状部材若しくは突起部同士を接触した状態で並置する必要は必ずしもない。球状部材間及び突起部間に延在する振動板の平坦部で形成される垂直方向の超音波と、突起部からの球面状の超音波が干渉し合い形成される波が、垂直成分のみを有する波ではなく、水平成分をも有する波とすることができる範囲であれば、球状部材若しくは突起部を互いに離間して配置することができる。
また、複数の球状部材や突起部の各々について、曲面の曲率を均一にする必要はなく、曲率が異なる種々の球状部材や突起部とすることも可能である。
【0062】
さらに、何れの実施形態においても、洗浄槽の底部に振動伝達板を設ける構成としたが、本発明は本構成に限定されることはない。例えば、洗浄槽の底部のみならず、内壁面に、上述した突起部を設ける構成とすることもできる。
【0063】
本発明の超音波洗浄装置に用いる洗浄液は、実施形態や実施例に記載した洗浄液に限定されることなく、希硫酸溶液、有機溶剤、弗硝酸液等を適宜用いることができることは言うまでもない。
【0064】
また、実施形態や実施例では、本発明の超音波処理装置を、電子部品を洗浄するための超音波洗浄装置の活性処理に適用した例を示したが、本発明の超音波処理装置は、処理液の音圧分布を均一にできるので、活性処理時に発生する処理液の泡の消泡、脱泡等の効果や、導電性ペーストや誘電体ペーストなどの混合物や化合物の合成、フィラーと溶媒とバインダを混練したスラリーなどの混合物や化合物の分散、乳化及び抽出、希硫酸を用いて酸化膜を除去するなどの化学反応の促進、物質の分散等を目的とした装置に適用しても、列記した各処理を被処理対象物に対して確実に行うことが可能である。
【0065】
例えば、本発明の超音波処理装置は、液体と固体、液体と液体、の間の化学反応を進行させる装置や、超音波により酸化作用、還元作用を促進する反応溶液を用いて液体処理を行う装置に適用できる。
【0066】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態及び実施例は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第1の実施形態の部分断面図である。
【図2】洗浄槽内に配置された被洗浄部材の保持部に斜視図である。
【図3】図1の振動伝達板及びその上に配置されたガラス球の一部を示す。
【図4】洗浄液内に保持部を浸漬させる前の状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。
【図5】洗浄液内に保持部を浸漬した状態の音圧分布を示すグラフ及び表である。
【図6】本発明の超音波処理装置を超音波洗浄装置に適用した第2の実施形態の断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、他の実施形態の突起部の部分断面図である。
【図8】複数の振動子を示す斜視図である。
【図9】従来の超音波洗浄装置の部分断面図である。
【図10】他の従来の超音波洗浄装置の振動発生部材の断面図である。
【図11】ビアホールが設けられた樹脂付銅箔の洗浄処理後の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 超音波洗浄装置
3 洗浄槽
5 昇降部材
10 振動発生部材
16 振動伝達部材
19 保持部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を洗浄液に作用することにより洗浄液内の被洗浄体を洗浄する超音波洗浄装置であって、
前記洗浄液を貯留するとともに前記被洗浄物を前記洗浄液内に浸漬するための洗浄槽と、
前記洗浄槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、
前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記洗浄液に作用する振動伝達部材と、を備え、
前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記振動伝達部材は、前記振動発生部材に接する板状部材と、板状部材上に載置された複数の球状部材と、から構成され、前記複数の凸状球面は、前記複数の球状部材の外周部分により構成される請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
超音波振動を処理液に作用することにより処理液内の処理対象物を処理する超音波処理装置であって、
前記処理液を貯留するとともに前記処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、
超音波振動を発生し、前記超音波振動を前記処理液に伝達可能となるように振動伝達領域が配置された振動発生部材と、を備え、
前記振動伝達領域において前記処理液に前記超音波振動を伝達する面には、同一面内に配置された複数の突起部を有する超音波処理装置。
【請求項4】
前記突起部は、凸状曲面を有する請求項3に記載の超音波処理装置。
【請求項5】
前記凸状曲面は、球状部材、円錐状部材若しくは円錐台形状部材の外周部分から構成される請求項4に記載の超音波処理装置。
【請求項6】
前記処理は、物品の洗浄、混合物の合成、若しくは分散、化学反応の促進、又は処理液の消泡若しくは脱泡の処理であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の超音波処理装置。
【請求項1】
超音波振動を洗浄液に作用することにより洗浄液内の被洗浄体を洗浄する超音波洗浄装置であって、
前記洗浄液を貯留するとともに前記被洗浄物を前記洗浄液内に浸漬するための洗浄槽と、
前記洗浄槽の底面に装着され、超音波振動を発生する振動発生部材と、
前記振動発生部材に接し、前記振動発生部材からの超音波振動を前記洗浄液に作用する振動伝達部材と、を備え、
前記振動伝達部材の表面に、複数の凸状球面を設けた超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記振動伝達部材は、前記振動発生部材に接する板状部材と、板状部材上に載置された複数の球状部材と、から構成され、前記複数の凸状球面は、前記複数の球状部材の外周部分により構成される請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
超音波振動を処理液に作用することにより処理液内の処理対象物を処理する超音波処理装置であって、
前記処理液を貯留するとともに前記処理対象物を前記処理液内に浸漬するための処理槽と、
超音波振動を発生し、前記超音波振動を前記処理液に伝達可能となるように振動伝達領域が配置された振動発生部材と、を備え、
前記振動伝達領域において前記処理液に前記超音波振動を伝達する面には、同一面内に配置された複数の突起部を有する超音波処理装置。
【請求項4】
前記突起部は、凸状曲面を有する請求項3に記載の超音波処理装置。
【請求項5】
前記凸状曲面は、球状部材、円錐状部材若しくは円錐台形状部材の外周部分から構成される請求項4に記載の超音波処理装置。
【請求項6】
前記処理は、物品の洗浄、混合物の合成、若しくは分散、化学反応の促進、又は処理液の消泡若しくは脱泡の処理であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の超音波処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−21362(P2007−21362A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207093(P2005−207093)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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