説明

超音波振動子及び超音波洗浄機

【課題】圧電セラミックスや振動体の熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率等を向上させることができる超音波振動子等を提供すること。
【解決手段】超音波振動子100は、圧電セラミックス110と、この圧電セラミックス110で発生する超音波を伝達する振動体120とを備える。そして、圧電セラミックス110と振動体120との間には中間板130が介在している。この中間板130は、その熱膨張係数が、圧電セラミックス110の熱膨張係数と振動体120の熱膨張係数との間の値を有し、かつ、その音響インピーダンスが、圧電セラミックス110の音響インピーダンスと振動体120の音響インピーダンスとの間の値を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスとこの圧電セラミックスで発生する超音波を伝達する振動体とを備える超音波振動子、及び、このような超音波振動子を備える超音波洗浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電セラミックスとこの圧電セラミックスで発生する超音波を伝達する振動体(例えば振動板、振動伝達体、超音波放射板など)とを備える超音波振動子が知られている。このような超音波振動子は、その使用環境が高温であったり、その製造において圧電セラミックスと振動体との接合温度が高温であると、圧電セラミックスと振動体との熱膨張係数の差に起因して、圧電セラミックスと振動体との接合面に熱応力が発生する。その結果、圧電セラミックスや振動体が割れるなど超音波振動子に破損が生じることがある。
【0003】
このような熱応力に起因した破損を解決する方法としては、圧電セラミックスと振動体との接合に弾性接着剤を使用することが考えられる。接合面に生じる熱応力をこの弾性接着剤の弾性変形で吸収することで、圧電セラミックスや振動体の破損を防止できるからである。また、熱応力に起因した破損を解決するもう1つの方法として、特許文献1に開示された方法がある。それは、圧電セラミックスと振動体とを接合する接着層にメッシュ状のステンレスシートを入れることである。接合面に生じる熱応力をこのステンレスシートの弾性変形で吸収することで、圧電セラミックスや振動体の破損を防止できるからである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−22474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電セラミックスと振動体との接合に弾性接着剤を使用した場合には、弾性接着剤の部分で超音波振動そのものが抑制され、超音波の伝達効率や放射効率が低下してしまう。また、接着層にメッシュ状ステンレスシートを入れた場合には、接着層が均一な層ではなくなるため、この場合も、超音波の伝達効率や放射効率が低下してしまう。このように従来は、圧電セラミックスや振動体の熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率や放射効率を向上させることが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、圧電セラミックスや振動体の熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率や放射効率を向上させることができる超音波振動子、及び、このような超音波振動子を備える超音波洗浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その解決手段は、圧電セラミックスと、この圧電セラミックスで発生する超音波を伝達する振動体とを備える超音波振動子であって、前記圧電セラミックスと前記振動体との間に介在させてなる1又は複数の中間板であって、その熱膨張係数が、前記圧電セラミックスの熱膨張係数と前記振動体の熱膨張係数との間の値を有し、かつ、その音響インピーダンスが、前記圧電セラミックスの音響インピーダンスと前記振動体の音響インピーダンスとの間の値を有する1又は複数の中間板を備える超音波振動子である。
【0008】
本発明によれば、圧電セラミックスと、例えば振動板、振動伝達体、超音波放射板など振動体との間に、中間板が介在している。この中間板は、その熱膨張係数が、圧電セラミックスの熱膨張係数と振動体の熱膨張係数との間の値を有する。このため、この超音波振動子は、その使用環境や製造過程で高温に晒されても、圧電セラミックスと中間板との間で生じる熱応力や、中間板と振動体との間で生じる熱応力が、圧電セラミックスと振動体とを直接接合した従来の場合よりも小さくなる。従って、熱応力に起因して圧電セラミックスや振動体が割れるなど超音波振動子に破損が生じることを防止できる。
【0009】
また、本発明の中間板は、その音響インピーダンスが、圧電セラミックスの音響インピーダンスと振動体の音響インピーダンスとの間の値を有する。このため、圧電セラミックスと振動体とを中間板なしに直接接合した場合に比して、圧電セラミックスと中間板、中間板と振動体の間の音響インピーダンスの差が小さくなり、これらの界面での超音波の反射が抑制され、効率よく超音波を伝えることができる。従って、この超音波振動子では、従来に比して超音波の伝導効率や放射効率を向上させることができる。
【0010】
ここで、「圧電セラミックス」は、電気信号により超音波振動を生じさせるものであればよく、その形状や種類等は特に限定されない。
「振動体」は、圧電セラミックスで発生する超音波を伝達するものであればよく、超音波振動子の用途などに応じて、その形状や材質等は適宜選択できる。振動体は、例えば、金属や樹脂、ガラスなどの材質から形成できる。
「中間板」は、上記の要件を満たすものであれば、その形状や形態等は適宜選択できる。中間板は、例えば、金属や樹脂、ガラス、セラミックスなどの材質から形成できる。
【0011】
更に、上記の超音波振動子であって、前記圧電セラミックスの厚みが、これを伝わる超音波の波長λpの1/2に相当し、前記中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、前記振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2である超音波振動子とすると良い。
【0012】
本発明によれば、圧電セラミックスの厚みが、これを伝わる超音波の波長λpの1/2に相当する。また、中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2±1/10の範囲内である。このため、圧電セラミックスを半波長共振させ、また中間板及び振動体をほぼ半波長共振させることができる。従って、超音波振動子の超音波出力を向上させることができる。
【0013】
なお、中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、ちょうど1/2とならない場合も含むのは、以下の理由による。
即ち、圧電セラミックスと中間板、中間板と振動体との間には、それぞれ接着層が介在するため、これらの接着層の厚さによる影響がある。また、圧電セラミックスと中間板、中間板と振動体は、互いに材質及び特性(縦弾性係数や熱膨張率など)が異なっており、接着層を介して互いに拘束し合っている。このため、中間板及び振動体を実際に伝わる超音波振動の音速は、これらを拘束しないフリーの状態で測定したときの音速に比してずれた値となると考えられる。これらの影響により、圧電セラミックス、中間板、及び振動体を有する超音波振動子において、超音波出力が最大となる場合の、中間板の厚みの波長λiに対する割合と、振動体の厚みの波長λvに対する割合との和が、1/2より1/10の範囲内で、若干ずれた値となる場合もあるからである。
【0014】
更に、前記の超音波振動子であって、前記圧電セラミックスの厚みのこれを伝わる超音波の波長λpに対する割合と、前記中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、前記振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2である超音波振動子とすると良い。
【0015】
本発明によれば、圧電セラミックスの厚みのこれを伝わる超音波の波長λpに対する割合と、中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2±1/10の範囲内である。このため、圧電セラミックス、中間板及び振動体を全体で、ほぼ半波長共振させることができる。従って、この場合も超音波振動子の超音波出力を向上させることができる。
なお、圧電セラミックスの厚みのこれを伝わる超音波の波長λpに対する割合と、中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、ちょうど1/2とならない場合も含むのは、以下の理由による。即ち、圧電セラミックスと中間板、中間板と振動体との間には、それぞれ接着層が介在するため、これらの接着層の厚さによる影響がある。また、圧電セラミックスと中間板、中間板と振動体は、材質及び特性(縦弾性係数や熱膨張率など)が異なっており、接着層を介して互いに拘束し合っている。このため、圧電セラミックス、中間板及び振動体を実際に伝わる超音波振動の音速は、これらを拘束しないフリーの状態で測定したときの音速に比してずれた値となると考えられる。これらの影響により、圧電セラミックス、中間板、及び振動体を有する超音波振動子において、超音波出力が最大となる場合の、圧電セラミックスの厚みの波長λpに対する割合と、中間板の厚みの波長λiに対する割合と、振動体の厚みの波長λvに対する割合との和が、1/2より1/10の範囲内で、若干ずれた値となる場合もあるからである。
【0016】
更に、上記のいずれかに記載の超音波振動子であって、前記振動体は、石英ガラスからなり、前記中間板は、低熱膨張セラミックスからなる超音波振動体とすると良い。
【0017】
石英ガラスは熱膨張係数が小さく、圧電セラミックスの熱膨張係数との差が大きいため、振動体を石英ガラスから形成し、従来のように圧電セラミックと振動体とを直接接合した超音波振動子では、熱応力に起因した破損が特に生じやすい。従って、振動体が石英ガラスからなる場合、本発明のように圧電セラミックスと振動体との間に中間板を介在させると、より効果的に、超音波振動子の熱応力に起因した破損を防止できる。
また、中間板として低熱膨張セラミックスを用いることで、前述した熱膨張係数と音響インピーダンスの条件を満たす中間板を容易に形成できる。
【0018】
また、他の解決手段は、上記のいずれかに記載の超音波振動子を備える超音波洗浄機である。
【0019】
このような超音波洗浄機は、超音波振動子が、前述したように、熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率や放射効率を向上させることができるため、信頼性が高く、高性能なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施形態1)
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態1に係る超音波振動子100を示す。この超音波振動子100は、圧電セラミックス110と振動体120と中間板130とからなる。具体的には、圧電セラミックス110と振動体120との間に、接着層141,142を介して、中間板130が介在している。
【0021】
このうち、圧電セラミックス110は、図示しないリード線を通して与えられる高周波入力によって共振し、その厚み方向に3MHzの超音波振動を生じる。この圧電セラミックス110は、直径20mm、厚み0.70mmの円板形状をなす。この厚みは、これを伝わる超音波の波長λp(1.4mm)の1/2に相当する。また、この圧電セラミックス110は、その熱膨張係数が1.80×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが32.3×106(N・s/m3)である。
【0022】
振動体120は、直径20mm、厚み0.20mmの円板形状をなし、石英ガラスで形成されている。この振動体120の厚み(0.20mm)の、これを伝わる超音波の波長λv(1.81mm)に対する割合は、0.11である。また、この振動体120は、その熱膨張係数が0.47×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが13.2×106(N・s/m3)である。
【0023】
次に、中間板130について説明する。中間板130は、直径20mm、厚み0.45mmの円板形状をなす。この中間板130の厚み(0.45mm)の、これを伝わる超音波の波長λi(1.52mm)に対する割合は、0.30である。また、この中間板130は、低熱膨張セラミックスから形成されている。そして、この中間板130は、その熱膨張係数が1.40×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが14.3×106(N・s/m3)である。
【0024】
このような超音波振動子100は、中間板130の熱膨張係数(1.40×10-6(1/℃))が、圧電セラミックス110の熱膨張係数(1.80×10-6(1/℃))と振動体120の熱膨張係数(0.47×10-6(1/℃))との間の値である。このため、この超音波振動子100がその使用環境や製造過程で高温に晒されても、圧電セラミックス110と中間板130との間で生じる熱応力や、中間板130と振動体120との間で生じる熱応力が、圧電セラミックスと振動体とを直接接合する従来形態の超音波振動子よりも小さくなる。従って、熱応力に起因して圧電セラミックス110や振動体120が割れるなど超音波振動子110に破損が生じることを防止できる。
【0025】
特に、振動体120は石英ガラスからなるため、その熱膨張係数が0.47×10-6(1/℃)と小さく、圧電セラミックス110の熱膨張係数(1.80×10-6(1/℃))との差が大きい。このため、圧電セラミックスと振動体とを直接接合する従来形態の超音波振動子では、熱応力に起因して圧電セラミックスや振動体が割れるなど破損が生じやすい。しかし、上述したように、本実施形態1では、中間板130を介在させて、発生する熱応力を小さくしているので、超音波振動子100に破損が生じるのをより効果的に防止できる。
【0026】
また、中間板130の音響インピーダンス(14.3×106(N・s/m3))は、圧電セラミックス110の音響インピーダンス(32.3×106(N・s/m3))と振動体120の音響インピーダンス(13.2×106(N・s/m3))との間の値である。このため、圧電セラミックス110と振動体120とを中間板130なしに直接接合した場合に比して、圧電セラミックス110と中間板130、中間板130と振動体120の間の音響インピーダンスの差が小さくなり、これらの界面での超音波の反射が抑制され、効率よく超音波を伝えることができる。従って、この超音波振動子100では、従来に比して超音波の伝導効率や放射効率を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態1では、前述したように、圧電セラミックス110の厚みが、これを伝わる超音波の波長λpの1/2に相当する。したがって、この圧電セラミックス110を、半波長共振させることができることが判る。
また、振動体120の厚みの、これを伝わる超音波の波長λvに対する割合は、0.11であり、中間板130の厚みの、これを伝わる超音波の波長λiに対する割合は、0.30である。従って、これらの割合の和は、1/2±1/10の範囲内である0.41である。このため、振動体120及び中間板130を、ほぼ半波長共振させることができる。
よって、この超音波振動子100では、さらに超音波出力を向上させることができる。
【0028】
なお、振動体120の厚みの、これを伝わる超音波の波長λvに対する割合(0.11)と、中間板130の厚みの、これを伝わる超音波の波長λiに対する割合(0.30)との和(0.41)が、ちょうど1/2(=0.5)とならなかったのは、以下の理由によるものと考えられる。
まずは、圧電セラミックス110と中間板130、中間板130と振動体120との間に介在する接着層141,142の厚み(それぞれ0.1mm程度)による影響が考えられる。
そのほか、圧電セラミックス110と中間板130、中間板130と振動体120は、互いに材質及び特性(縦弾性係数や熱膨張率など)が異なっているのに、接着層141,142を介して互いに拘束し合っている。このため、中間板130及び振動体120を実際に伝わる超音波振動の音速は、これらを拘束しないフリーの状態で測定したときの音速に比してずれた値となると考えられる。
これらの影響により、超音波振動子100において、超音波出力が最大となるように中間板130及び振動板120の厚みを調整すると、中間板130の厚みの波長λiに対する割合と、振動体120の厚みの波長λvに対する割合との和が、1/2より若干ずれた値(本例では0.41)となったと考えられる。
【0029】
ここで、具体的にその効果を示すと、本実施形態1の超音波振動子100は、その超音波出力が160mV〜180mVであった。これに対し、中間板130の代わりに、厚み約0.2mmのステンレスメッシュを圧電セラミックス110と振動体120との間に介在させた、従来形態の超音波振動子では、その超音波出力が80mV〜135mVしかなかった。なお、超音波出力は、本多電子製超音波音圧計HUS−5による電圧値として測定した。
【0030】
次いで、図2を参照しつつ、本実施形態1に係る超音波洗浄機150を説明する。この超音波洗浄機150は、超音波をシリコンチップなどのワークWに照射して、ワークWを洗浄するものである。
この超音波洗浄機150は、上記の超音波振動子100と、これを固定するガイド160とを備える。ガイド160には、貫通孔160cが形成されている。そして、ガイド160と超音波振動子100の振動体120との間にパッキン170を介在させ、貫通孔160c内に振動体120が露出するようにして、超音波振動子100がガイド160に固定されている。
【0031】
このような超音波洗浄機150は、超音波振動子100が、前述したように、熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率を向上させることができるため、信頼性が高く、高性能である。
【0032】
(実施形態2)
次いで、第2の実施の形態について説明する。なお、上記実施形態1と同様な部分の説明は、省略または簡略化する。本実施形態2では、圧電セラミックス210、振動体220及び中間板230の大きさが、それぞれ上記実施形態1の超音波振動子100における圧電セラミックス110、振動体120及び中間板130と異なる。それ以外は、概略上記実施形態1と同様であるので、その説明を省略または簡略化する。
【0033】
本実施形態2では、圧電セラミックス210は、その厚み方向に1.5MHzの超音波振動を生じる。この圧電セラミックス210の厚みは1.0mmである。また、上記実施形態1と同様にこの圧電セラミックス210も、その熱膨張係数が1.80×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが32.3×106(N・s/m3)である。
【0034】
振動体220は、その厚みが0.2mmである。また、上記実施形態1と同様にこの振動体220も、その熱膨張係数が0.47×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが13.2×106(N・s/m3)である。
【0035】
中間板230は、その厚みが0.2mmである。また、上記実施形態1と同様にこの中間板130も、その熱膨張係数が1.40×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが14.3×106(N・s/m3)である。
【0036】
本実施形態2では、圧電セラミックス210の厚み(1.0mm)の、これを伝わる超音波の波長λp(2.86mm)に対する割合が0.35である。また、中間板230の厚み(0.20mm)の、これを伝わる超音波の波長λi(3.10mm)に対する割合が0.065である。更に、振動体220の厚み(0.20mm)の、これを伝わる超音波の波長λv(3.68mm)に対する割合が0.054である。そして、これらの割合の和は、1/2±1/10の範囲内である0.47である。このため、圧電セラミックス210、中間板230及び振動体220を、ほぼ半波長共振させることができる。従って、この場合も超音波振動子200の超音波出力を向上させることができる。また、このような超音波振動し200を用いた超音波洗浄機250も、熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率を向上させることができるため、信頼性が高く、高性能である。
その他、超音波振動子200及び超音波洗浄機250において、上記実施形態1と同様な部分は、上記実施形態1と同様な作用効果を奏する。
【0037】
なお、圧電セラミックス210の厚みの、これを伝わる超音波の波長λpに対する割合が(0.35)、中間板230の厚みの、これを伝わる超音波の波長λiに対する割合(0.065)、及び、振動体220の厚みの、これを伝わる超音波の波長λvに対する割合(0.054)の和が、ちょうど1/2(=0.5)とならなかったのは、以下の理由によるものと考えられる。
まずは、圧電セラミックス210と中間板230、中間板230と振動体220との間に介在する接着層241,242の厚み(それぞれ0.1mm程度)による影響が考えられる。そのほか、圧電セラミックス210と中間板230、中間板230と振動体220は、互いに材質及び特性(縦弾性係数や熱膨張率など)が異なっているのに、接着層241,242を介して互いに拘束し合っている。このため、圧電セラミックス210、中間板230及び振動体220を実際に伝わる超音波振動の音速は、これらを拘束しないフリーの状態で測定したときの音速に比してずれた値となると考えられる。これらの影響により、超音波振動子200において、超音波出力が最大となるように中間板230及び振動板220の厚みを調整すると、圧電セラミックス210の厚みの波長λpに対する割合と、中間板230の厚みの波長λiに対する割合と、振動体220の厚みの波長λvに対する割合との和が、1/2より若干ずれた値(本例では0.47)となったと考えられる。
【0038】
(実施形態3)
次いで、第3の実施の形態について説明する。なお、上記実施形態1または2と同様な部分の説明は、省略または簡略化する。本実施形態3では、圧電セラミックス110,210、振動体120,220及び中間板130,230の形状や大きさ等が、それぞれ上記実施形態1,2と異なる。それ以外は、概略上記実施形態1,2と同様である。
【0039】
図3に本実施形態3に係る超音波振動子300を示す。この超音波振動子300も、圧電セラミックス310と振動体320と中間板330とからなり、圧電セラミックス310と振動体320との間に中間板330が介在している。
このうち、圧電セラミックス310は、その厚み方向に1MHzの超音波振動を生じる。この圧電セラミックス310は、直径20mm、厚み2.0mmの円板形状をなす。この厚みは、これを伝わる超音波の波長λp(4.0mm)の1/2に相当する。また、この圧電セラミックス310は、その熱膨張係数が1.80×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが32.3×106(N・s/m3)である。
【0040】
振動体320は、圧電セラミックス310側に位置する径大な基端部320kと、この基端部320kから圧電セラミックス310とは反対方向に突出する径小な先端部320tとからなり、全体が石英ガラスで形成されている。基端部320kは、直径35mm、厚み11mmの円柱形状をなす。また、先端部320tは、直径17mm、厚み22mmの円柱形状をなす。従って、この振動体320の総厚みは、33mmである。また、この振動体320は、その熱膨張係数が0.47×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが13.2×106(N・s/m3)である。
【0041】
次に、中間板330について説明する。中間板330は、直径20mm、厚み0.20mmの円板形状をなす。この中間板330は、低熱膨張セラミックスから形成されている。この中間板330は、その熱膨張係数が1.40×10-6(1/℃)であり、その音響インピーダンスが14.3×106(N・s/m3)である。
なお、本実施形態3では、圧電セラミックス310の厚みは、実施形態1と同様、これを伝わる超音波の波長λpの1/2に相当する。しかし、振動体320及び中間板330の厚みは、実施形態1と異なり、これらを伝わる超音波の波長λv、λiに対する割合の和が、1/2、この整数倍、あるいはれこれらに近い値とはなっていない。
【0042】
このような超音波振動子300もまた、超音波振動子300がその使用環境や製造過程で高温に晒されても、圧電セラミックス310と中間板330との間で生じる熱応力や、中間板330と振動体320との間で生じる熱応力が、圧電セラミックスと振動体とを直接接合する従来形態の超音波振動子よりも小さくなる。従って、熱応力に起因して圧電セラミックス310や振動体320が割れるなど超音波振動子300に破損が生じることを防止できる。
【0043】
また、中間板330の音響インピーダンスは、圧電セラミックス310の音響インピーダンスと振動体320の音響インピーダンスとの間の値である。このため、圧電セラミックス310と振動体320とを直接接合した場合に比して、圧電セラミックス310と中間板330、中間板330と振動体320の間の音響インピーダンスの差が小さくなり、これらの界面での超音波の反射が抑制され、効率よく超音波を伝えることができる。従って、この超音波振動子300も、従来に比して超音波の伝導効率や放射効率を向上させることができる。
【0044】
具体的にその効果を示すと、本実施形態3の超音波振動子300は、その超音波出力が40mV〜50mVであった。これに対し、中間板330の代わりに、厚み約0.2mmのステンレスメッシュを圧電セラミックス310と振動体320との間に介在させた、従来形態の超音波振動子では、その超音波出力が30mV〜40mVしかなかった。
その他、この超音波振動子300について、上記実施形態1または2と同様な部分は、上記実施形態1または2と同様な作用効果を奏する。
【0045】
次いで、図4を参照しつつ、本実施形態3に係る超音波洗浄機350を説明する。この超音波洗浄機350は、超音波をシリコンチップなどのワークWに照射して、ワークWを洗浄するものである。
この超音波洗浄機350は、上記の超音波振動子300と、これを固定するガイド360とを備える。ガイド360には、貫通孔360cが形成されている。そして、この貫通孔360cに、超音波振動子300のうち、振動体320の先端部320tが挿通されている。また、振動体320の基端部320kとガイド360とは、パッキン370を介して固定されている。
【0046】
このような超音波洗浄機350は、超音波振動子300が、前述したように、熱応力に起因した破損を防止しつつ、超音波の伝達効率を向上させることができるため、信頼性が高く、高性能である。
その他、この超音波洗浄機350についても、上記実施形態1または2と同様な部分は、上記実施形態1または2と同様な作用効果を奏する。
【0047】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態1〜3に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態1〜3では、介在する中間板130が1つである場合を示したが、複数の中間板を介在させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態1,2に係る超音波振動子を示す説明図である。
【図2】実施形態1,2に係る超音波洗浄機を示す説明図である。
【図3】実施形態3に係る超音波振動子を示す説明図である。
【図4】実施形態3に係る超音波洗浄機を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
100,200,300 超音波振動子
110,210,310 圧電セラミックス
120,220,320 振動体
130,230,330 中間板
141,142,241,242,341,342 接着層
150,250,350 超音波洗浄機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックスと、この圧電セラミックスで発生する超音波を伝達する振動体とを備える超音波振動子であって、
前記圧電セラミックスと前記振動体との間に介在させてなる1又は複数の中間板であって、
その熱膨張係数が、前記圧電セラミックスの熱膨張係数と前記振動体の熱膨張係数との間の値を有し、かつ、
その音響インピーダンスが、前記圧電セラミックスの音響インピーダンスと前記振動体の音響インピーダンスとの間の値を有する1又は複数の中間板を備える
超音波振動子。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波振動子であって、
前記圧電セラミックスの厚みが、これを伝わる超音波の波長λpの1/2に相当し、
前記中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、前記振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2±1/10の範囲内である
超音波振動子。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波振動子であって、
前記圧電セラミックスの厚みのこれを伝わる超音波の波長λpに対する割合と、前記中間板の厚みのこれを伝わる超音波の波長λiに対する割合と、前記振動体の厚みのこれを伝わる超音波の波長λvに対する割合との和が、1/2±1/10の範囲内である
超音波振動子。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の超音波振動子であって、
前記振動体は、石英ガラスからなり、
前記中間板は、低熱膨張セラミックスからなる
超音波振動体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の超音波振動子を備える超音波洗浄機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−288289(P2007−288289A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110406(P2006−110406)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】