超音波探傷方法および超音波探傷装置
【課題】鋼材中の欠陥を精度高く検出すること。
【解決手段】超音波プローブ2を走査しながら送受信部3が超音波パルス信号を送信して、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、送受信部3が受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶部5が記憶し、減算用信号取得部7aが、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出し、減算処理部7bが、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する。これにより、エコー性ノイズを除去して、ノイズが低減されたS/N比の高い欠陥エコー信号を得ることができるので、鋼材中の欠陥を精度高く検出することができる。
【解決手段】超音波プローブ2を走査しながら送受信部3が超音波パルス信号を送信して、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、送受信部3が受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶部5が記憶し、減算用信号取得部7aが、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出し、減算処理部7bが、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する。これにより、エコー性ノイズを除去して、ノイズが低減されたS/N比の高い欠陥エコー信号を得ることができるので、鋼材中の欠陥を精度高く検出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体の内部欠陥を検査する超音波探傷方法および超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を用いて被検体の内部の欠陥を非破壊検査する超音波探傷方法が提案されている。この超音波探傷方法では、一般に、鋼管または鋼板等の被検体に超音波探触子(超音波プローブ)を接触させた状態で被検体に対して超音波を送信し、被検体からのエコー信号(探傷信号)を受信して、欠陥で反射した欠陥エコー信号を所定の閾値で検出することによって、被検体の内部の傷等の欠陥を検査する。しかしながら、この探傷信号にはノイズが含まれるため、高いS/N比をもつ欠陥エコー信号を得られず、微小欠陥を精度高く検査できない場合があった。
【0003】
ところで、探傷信号に含まれるノイズには、探傷信号に時間的にランダムに混入する電気ノイズだけでなく、被検材の形状や超音波探触子の配置に起因して探傷信号に同期して一定時間位置に混入するエコー性のノイズがある。例えば、鋼材の表面に近接した欠陥検査における表面エコー信号や、底面に近接した欠陥検査における底面エコー信号や、縦波と横波との間のモード変換により伝搬速度が異なったエコー信号などがエコー性ノイズの要因になり得る。
【0004】
このような背景から、超音波探傷に対するエコー性ノイズの影響を減少させて高いS/N比の欠陥エコー信号を得るための信号処理技術が提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、被検体と超音波探触子とを相対的に走査しながら超音波を送信して得た探傷信号のうち、隣り合う位置で得られた探傷信号波形を差分演算することにより、表面エコー信号と底面エコー信号とを除去することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、複数の超音波探触子から超音波パルスを送信して得た探傷信号のうち、隣り合う超音波探触子で得られた探傷信号波形を差分演算することにより、表面エコー信号と底面エコー信号との影響を軽減させて欠陥エコー信号を顕在化することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、被検体と複数の超音波探触子とを相対的に走査しながら超音波を送信し、被検体を通過した超音波の透過強度を検出し、隣り合う超音波探触子で検出した透過強度の差分を演算することにより、表面の汚れなどによる透過強度の変動の影響を軽減させて欠陥を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−152428号公報
【特許文献2】特開2002−243703号公報
【特許文献3】特開2004−12369号公報
【特許文献4】特開2005−106597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された技術によれば、隣り合う位置間の距離より欠陥の長さが長い場合には、双方の探傷信号に欠陥エコー信号が含まれることになる。このため、隣り合う位置の探傷信号波形の差分演算を行うと、エコー性ノイズのみならず欠陥エコー信号まで減少させることになり、欠陥を見逃してしまうおそれがあった。なお、このような問題を解決するために、特許文献1には、欠陥エコー信号を検出した際、直前の位置の探傷信号波形には欠陥エコー信号が含まれていないものとみなし、それ以降は隣り合う位置の探傷信号波形の代わりに、欠陥エコー信号を検出した直前の位置の探傷信号波形との差分演算を行うことが記載されている。しかしながら、一般に、超音波探傷においては、微小な欠陥の見逃しを防止するために、探傷信号のサンプリング間隔を超音波のビーム幅より小さく設定することから、欠陥エコー信号は徐々に大きくなって出現する。そのため、欠陥エコー信号を所定の閾値で検出した際には、その直前の位置の探傷信号にも欠陥エコー信号が含まれている可能性が高く、いずれにしても欠陥エコー信号を減少させるおそれがあった。
【0009】
また、特許文献3および特許文献4に記載された技術によれば、複数の超音波探触子には特性上のばらつきがあるため、隣り合う超音波探触子により検出される信号波形は、同一のノイズ要因によっても完全に一致するとは限らず、ノイズ低減効果は低い。加えて、特許文献4に記載の透過強度による欠陥検出は、もとより検出精度が低い。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、鋼材中の欠陥を精度高く検出可能な超音波探傷方法および超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる超音波探傷方法は、超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷方法において、受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶するステップと、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出すステップと、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算するステップと、前記減算用信号が減算された前記探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記所定パルス回数は、前記所定パルス回数前の探傷信号を受信してから前記処理対象の探傷信号を受信するまでの間の超音波探触子の走査量が、検出されるべき欠陥の長さと超音波パルス信号のビーム幅とを合わせた長さ以上で、かつ探傷信号中のエコー性ノイズの波形が変化しない長さ以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記減算用信号は、前記所定パルス回数以前の複数の探傷信号を同期加算平均して求めることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記受信した探傷信号を記憶する際に、境界エコー信号を基準に整列させて記憶させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる超音波探傷装置は、超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷装置において、受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶する手段と、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出す手段と、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する手段と、前記減算用信号が減算された前記探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査する手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、探傷信号からエコー性ノイズを除去するようにしているので、ノイズが低減されたS/N比の高い欠陥エコー信号を得ることができ、この結果、従来、検出が困難であった微小欠陥等の欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、超音波探触子から超音波パルス信号を送信して得られる探傷信号を説明するための説明図である。
【図2】図2は、超音波探触子から送信された1回分の超音波パルス信号で得られる探傷信号を例示する波形図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図5】図5は、超音波探傷装置による超音波探傷処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、超音波探傷処理を説明するための説明図である。
【図7】図7は、Nを選定する方法の説明図である。
【図8】図8は、Nを選定する方法の説明図である。
【図9】図9は、NおよびNaの選定方法の説明図である。
【図10】図10は、NおよびNaの選定方法の説明図である。
【図11】図11は、探傷信号を境界エコー信号を基準に整列させることによる効果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明にかかる超音波探傷方法および超音波探傷装置の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
まず、図1および図2を参照して、超音波探触子から超音波パルス信号を送信して得られる探傷信号について説明する。図1は、内部に欠陥Fを有する被検体Sの表面Aから底面Bに向かって超音波パルス信号Pを送信した場合に被検体Sを透過して得られる探傷信号を説明するための模式図であり、図2は、図1のように送信されたパルス1回分の超音波パルス信号Pによって得られる探傷信号波形を例示した図である。
【0020】
図1に示すように、被検体Sの表面Aに入射した超音波パルス信号Pは、様々な経路で底面Bを透過して探傷信号として受信される。例えば、図1の経路T1は、超音波パルス信号Pが欠陥Fのない健全部のみを通過する最短経路であり、図2に示す経路T1に対応するピークのように、超音波パルス信号Pは最短時間で探傷信号として受信される。一方、経路T2は、超音波パルス信号Pが健全部のみを通過しながら底面Bおよび表面Aで反射した後に底面Bを透過する最長経路であり、図2に示す経路T2に対応するピークのように、超音波パルス信号Pが探傷信号として受信されるまでの時間が長い。そして、経路F1は、超音波パルス信号Pが底面Bおよび欠陥Fで反射した後に底面Bを透過する経路であり、経路F2は、超音波パルス信号Pが欠陥Fおよび表面Aで反射した後に底面Bを透過する経路である。超音波パルス信号Pが欠陥Fで反射する経路F1および経路F2は、経路T1より長く、且つ、経路T2より短く、図2の経路T1に対応するピークと経路T2に対応するピークとの間に現れる。
【0021】
図2の経路T1に対応するピークと経路T2に対応するピークとの間には、上述した経路F1および経路F2などのように欠陥Fで反射した欠陥エコー信号の他、被検体Sの表面Aに斜めに入射したり縦波と横波との間でモード変換をした超音波が底面Bや表面Aで反射しながら健全部のみを通過した後に受信された多数のエコー性ノイズや、超音波探触子内で反射した残響によるエコー性ノイズが含まれる。本発明は、そのようなエコー性ノイズの影響を低減して欠陥エコー信号を際立たせるための信号処理を行なうものである。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。図3に示すように、この超音波探傷装置10は、被検体の欠陥を非破壊検査するための超音波を送信し、この送信した超音波に起因する探傷信号を受信する探傷信号取得部1と、各種情報を入力する入力部4と、被検体の検査データ等を記憶する記憶部5と、被検体の検査結果等を表示する表示部6と、超音波探傷装置10の各構成部を制御する制御部7とを有する。
【0023】
探傷信号取得部1は、超音波プローブ(超音波探触子)2と送受信部3とを有し、送受信部3から送信された電気信号の超音波信号を、超音波プローブ2から外部に超音波として送信するとともに、超音波プローブ2で受信した超音波を電気信号の探傷信号として送受信部3に出力する。超音波プローブ2は、圧電振動子等を用いて実現され、送受信部3からのパルス信号の印加によって超音波を外部に送信し、外部からの超音波を受波して電気信号に変換する。送受信部3は、超音波プローブ2の共振周波数またはその近傍の周波数のパルス信号を超音波プローブ2に印加することによって超音波パルス信号を超音波プローブ2を介して外部に出力する。
【0024】
なお、本実施の形態においては、超音波を送信する超音波プローブ2と超音波を受信する超音波プローブ2とを別体で構成し、被検体をはさんで対向するように配置している。
【0025】
入力部4は、電源スイッチおよび入力キー等の入力デバイスを用いて実現され、操作者による入力操作に対応して、制御部7に対して各種指示情報を入力する。例えば、入力部4は、被検体の探傷開始または探傷終了等の指示情報、被検体の探傷データの表示を指示する指示情報等を制御部7に入力する。
【0026】
記憶部5は、ハードディスク等の記憶メディアを用いて実現され、制御部7によって指示された被検体の検査データ等の各種情報を記憶する。とくに本実施の形態において、記憶部5は、後述するように、常時、最新の超音波パルス信号以前に送信されたパルスに対応する探傷信号の複数回分((N+Na)回分)以上を記憶している。
【0027】
表示部6は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスを用いて実現され、制御部7によって表示指示された各種情報を表示する。具体的には、表示部6は、超音波探傷による被検体の検査データ(例えば、微小傷等の欠陥情報等)を表示する。また、表示部6は、検査対象の被検体から得られた探傷信号の波形情報等を表示してもよい。
【0028】
制御部7は、処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPU等を用いて実現され、上述した超音波探傷装置10の各構成部を制御する。また、制御部7は、減算用信号を取得する減算用信号取得部7aと、探傷信号から減算用信号を減算する信号処理を行なう減算処理部7bとを有し、後述する超音波探傷処理を実行する。
【0029】
なお、制御部7はFPGAを用いて実現することも可能である。図4に、制御部7にFPGAを用いて実現する場合の超音波探傷装置の構成を示す。この場合には、図4に示すように、記憶部5はメモリを用い、制御部7内に含めて構成し、以下に説明する超音波探傷処理をハードウェア上で実現する。その他の構成は図3と同様である。
【0030】
次に、図5および図6を参照して、超音波探傷装置10による超音波探傷処理手順について説明する。図5は超音波探傷処理手順を示すフローチャートであり、図6は超音波探傷処理を説明するための説明図である。図5に示すフローチャートは、例えば、操作者が入力部4を操作して被検体に対する超音波探傷指示入力があったタイミングで開始となり、超音波探傷処理はステップS1の処理に進む。
【0031】
ステップS1の処理では、制御部7が、記憶部5に常時、超音波探傷処理の対象とする探傷信号(例えば、受信した最新の探傷信号)に対応する超音波パルス信号より以前に送信された超音波パルス信号により得られた探傷信号の少なくとも(N+Na)回分を記憶させる処理を開始する。記憶させる対象の探傷信号は、少なくとも、最新の超音波パルス信号よりパルス(N+Na)回前までの各パルスに対応する探傷信号とする。すなわち、図6に示すように、最新の超音波パルス信号をi番目のパルスとして、i番目のパルスに対応する探傷信号について超音波探傷処理を行なう場合に、制御部7は、記憶部5に少なくとも、(i−N−Na)番目〜i番目のパルスに対応する(N+Na)回分の探傷信号を記憶させる。これにより、ステップS1の処理は完了し、超音波探傷処理はステップS2の処理に進む。
【0032】
なお、NおよびNaの値は、例えば操作者が入力部4を操作することにより、ステップS1の処理前に予め指定されるものとする。
【0033】
また、超音波パルス信号が送信されるたびに、最新の超音波パルス信号に対応する探傷信号が受信される。したがって制御部7は、(i+1)番目の超音波パルス信号に対応する探傷信号が受信されるたびに記憶部5に新たに記憶する。併せて、制御部7が、記憶部5に記憶されている探傷信号のうち最も古いものを削除してもよい。つまり、この場合には、制御部7は、(i−N−Na)番目のパルスに対応する探傷信号を削除してもよい。
【0034】
ステップS2の処理では、図6に示すように、減算用信号取得部7aが、記憶部5からi番目の超音波パルス信号より(N+Na)回前からN回前までのパルスNa回分に対応する探傷信号を取り出して、周知の同期加算平均処理を行なうことにより、減算用信号を取得する。
【0035】
ここで、i番目のパルスに対応する探傷信号のj番目のサンプリング点(全n個)での振幅をx(i,j)とし、このi番目の超音波パルス信号に対応する探傷信号に対して超音波探傷処理を行なう場合に、減算用信号のj番目のサンプリング点での振幅r(i,j)は、次式(1)で表すことができる。なお、サンプリング点の位置は、超音波パルス信号が送信されてからの時間に比例する。
【数1】
【0036】
以上の演算処理を行なうことにより、ステップS2の処理は完了し、超音波探傷処理はステップS3の処理に進む。
【0037】
ステップS3の処理では、減算処理部7bは、図6に示すように、超音波探傷処理の対象の探傷信号からステップS2で取得した減算用信号を減算する処理を行なう。本実施の形態では、最新の超音波パルス信号に対応する探傷信号を超音波探傷処理の対象とする。
【0038】
ここで、i番目のパルスに対応する探傷信号を対象として、探傷信号から減算用信号を減算する処理で得られる信号のj番目のサンプリング点での振幅y(i,j)は、次式(2)で表すことができる。
【数2】
【0039】
制御部7は、以上の減算処理により得られる信号に含まれる被検体の欠陥エコー信号を検出することによって、鋼材の欠陥を検査する。これにより、ステップS3の処理は完了し、一連の超音波探傷処理は終了する。
【0040】
以上の超音波探傷処理を行なうことにより、健全部での探傷信号を減算用信号とすれば、欠陥エコー信号を含む探傷信号から減算用信号を減算する処理を行うことで、健全部での探傷信号にも欠陥部での探傷信号にも等しく含まれるエコー性ノイズを除去することができる。そして、図6に示すように、欠陥エコー信号を含む欠陥部での探傷信号に対して上記の超音波探傷処理を行なった結果に得られる信号y(i,j)は、図6の点線で囲まれる部分に示されるように、欠陥エコー信号の強度(振幅)が際立つので、欠陥エコー信号を見逃すおそれが少なくなる。欠陥エコー信号の強度に適宜な閾値を設定することで、欠陥と判定することができる。
【0041】
なお、減算用信号を超音波探傷処理の対象の探傷信号の直前の探傷信号ではなくN回以上前のパルスに対応する探傷信号としたことにより、長い欠陥を探傷する場合にも、減算用信号に欠陥部での探傷信号を適用してしまう可能性を低くすることができる。
【0042】
ここで、図7および図8を参照して、上記のNの選定方法について説明する。図7および図8は欠陥の検出精度について説明するための図であり、超音波探触子を欠陥の上を通る線上を走査しながら超音波パルス信号を送信して受信する欠陥エコー信号の強度とパルス回数との関係を示すイメージ図である。図7はごく小さい点状の欠陥の上を走査する場合を示し、図8は長さが超音波パルス信号のビーム幅より長い欠陥(連続型欠陥)の上を走査する場合を示す。図7に示すように、欠陥がごく小さい点状で、その長さがパルス間の走査量(パルス時間間隔と超音波探触子の走査速度の積)より十分に短い場合には、欠陥の真上を中心としたピークが現れ、その裾野の幅は超音波のビーム幅に相当する。一方、図8に示すように、欠陥の長さがビーム幅よりも長い場合には、欠陥の長さに相当する台形状のピークが現れ、裾野の幅は欠陥の長さとビーム幅との和に相当する。
【0043】
これに基づいて、本実施の形態では、N回のパルス間の走査量が欠陥の長さより十分に長くなるようにNを選定する。これにより、減算用信号に欠陥部での探傷信号を適用して減算処理を行った結果、欠陥エコー信号まで低減させる事態を防止している。
【0044】
ただし、N回のパルス間の走査量の分だけ離れた位置で被検体の形状が変化しないようにNを選定する。被検体の形状が変化すると、健全部での探傷信号に含まれるエコー性ノイズの波形が、超音波探傷処理の対象の探傷信号のエコー性ノイズの波形と異なるため、減算処理によるノイズ低減の効果を望めなくなる。
【0045】
また、減算用信号を複数回(Na回)のパルスに対応する探傷信号を同期加算平均して求めることにより、各探傷信号に含まれる電気的なランダムノイズや音響接触媒質中の気泡などに起因した瞬間的なエコー性ノイズの影響を低減している。
【0046】
減算用信号を複数回(Na回)のパルスに対応する探傷信号を同期加算平均して求めることにより、さらに、超音波探触子が欠陥を通過した後に健全部で得られる探傷信号に対して超音波探傷処理を行なう際に、減算用信号に通過した欠陥部での欠陥エコー信号を含む探傷信号が含まれる場合にも、その欠陥エコー信号の影響を低減できる。健全部での探傷信号から欠陥エコー信号を含む減算用信号を減算する処理を行なうと、健全部にあたかも欠陥があるかのように虚エコー信号が検出される事象が発生するが、これにより、減算用信号に欠陥エコー信号が含まれていてもその影響を低減でき、虚エコー信号の発生を低減できる。
【0047】
図9および図10に、上記NおよびNaを変更して本実施の形態の超音波探傷処理を適用した場合の欠陥エコー信号の強度を示す。図9、図10とも、横軸にN,Naの組合せを示し、縦軸に各組合せに対応する超音波探傷処理後の欠陥エコー信号強度を、連続型欠陥の場合、点状欠陥の場合、欠陥がない場合のそれぞれについて示している。また、N=生、Na=生とは、超音波探傷処理を行なわない場合の欠陥エコー信号強度である。
【0048】
図9は、Naを4として、Nを変更した場合であって、N=1は、隣接する超音波パルス信号に対応する探傷信号を減算用信号に含めることを意味している。この図9によれば、N=1の場合に、いずれの欠陥についても超音波探傷処理後の欠陥エコー信号強度が低減すること、またNが大きくなるほど欠陥エコー信号強度の低減が改善されることがわかる。記憶部5の容量の制約にもよるが、Nを50以上にすることが望ましい。
【0049】
図10は、Nを30として、Naを変更した場合であって、Na=1は、単一の探傷信号を減算用信号とすることを意味している。この図10によれば、Naが大きくなるほど欠陥エコー信号強度の低減が改善されることがわかる。Naを10以上にすることが望ましい。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態の超音波探傷処理によれば、健全部での探傷信号に等しく含まれるエコー性ノイズを除去できるので、欠陥エコー信号があれば際立たせることができ、微小な欠陥も見逃すおそれが小さい。また、長い欠陥に対しても簡易な処理でエコー性ノイズを低減させて欠陥エコー信号を際立たせることができる。
【0051】
なお、上記の実施の形態の超音波探傷処理を実施する際には、被検体の振動などの影響でエコーの位置がぶれる場合があるため、各サンプリング点での探傷信号を整列させ、エコー性ノイズの時間位置を一致させることが望ましい。探傷信号の整列には、例えば図2中の経路T1、T2に対応するピークに示されるような、表面エコー信号や底面エコー信号などの境界エコー信号を基準にすればよい。例えば、境界エコー検出手段を設け、検出した境界エコー信号を基準に探傷信号を記憶部5に記憶させることで実現できる。
【0052】
図11に、境界エコー信号を基準にして各探傷信号を整列させる場合の効果を例示する。図11の上段に探傷信号を示し、中段および下段に、上段の探傷信号の一部を横軸の時間軸を拡大して示す。このうち中段は減算処理を行う前の探傷信号を示し、下段はN=50,Na=4として減算用信号を取得して減算処理を行った後の探傷信号を示す。中段の減算処理前の探傷信号および下段の減算処理後の探傷信号としては、それぞれ、境界エコー信号による整列を行わない探傷信号と、経路T1に対応するピークを基準に整列を行った探傷信号と、経路T2に対応するピークを基準に整列を行った探傷信号を示す。この図11によれば、各探傷信号の境界エコー信号による整列を行わないと、本実施の形態の超音波探傷処理によっても、被検体の振動などの影響でエコーの位置がぶれ、探傷領域にノイズや経路T2に対応するピークが残る場合がある。一方、経路T1に対応するピークを基準に探傷信号を整列させると、経路T2に対応するピークが低減されつつも探傷領域に残る場合があるが、経路T2に対応するピークを基準に探傷信号を整列させると、良好に探傷領域のエコー性ノイズを低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0053】
1 探傷信号取得部
2 超音波プローブ(超音波探触子)
3 送受信部
4 入力部
5 記憶部
6 表示部
7 制御部
7a 減算用信号取得部
7b 減算処理部
10 超音波探傷装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体の内部欠陥を検査する超音波探傷方法および超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を用いて被検体の内部の欠陥を非破壊検査する超音波探傷方法が提案されている。この超音波探傷方法では、一般に、鋼管または鋼板等の被検体に超音波探触子(超音波プローブ)を接触させた状態で被検体に対して超音波を送信し、被検体からのエコー信号(探傷信号)を受信して、欠陥で反射した欠陥エコー信号を所定の閾値で検出することによって、被検体の内部の傷等の欠陥を検査する。しかしながら、この探傷信号にはノイズが含まれるため、高いS/N比をもつ欠陥エコー信号を得られず、微小欠陥を精度高く検査できない場合があった。
【0003】
ところで、探傷信号に含まれるノイズには、探傷信号に時間的にランダムに混入する電気ノイズだけでなく、被検材の形状や超音波探触子の配置に起因して探傷信号に同期して一定時間位置に混入するエコー性のノイズがある。例えば、鋼材の表面に近接した欠陥検査における表面エコー信号や、底面に近接した欠陥検査における底面エコー信号や、縦波と横波との間のモード変換により伝搬速度が異なったエコー信号などがエコー性ノイズの要因になり得る。
【0004】
このような背景から、超音波探傷に対するエコー性ノイズの影響を減少させて高いS/N比の欠陥エコー信号を得るための信号処理技術が提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、被検体と超音波探触子とを相対的に走査しながら超音波を送信して得た探傷信号のうち、隣り合う位置で得られた探傷信号波形を差分演算することにより、表面エコー信号と底面エコー信号とを除去することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、複数の超音波探触子から超音波パルスを送信して得た探傷信号のうち、隣り合う超音波探触子で得られた探傷信号波形を差分演算することにより、表面エコー信号と底面エコー信号との影響を軽減させて欠陥エコー信号を顕在化することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、被検体と複数の超音波探触子とを相対的に走査しながら超音波を送信し、被検体を通過した超音波の透過強度を検出し、隣り合う超音波探触子で検出した透過強度の差分を演算することにより、表面の汚れなどによる透過強度の変動の影響を軽減させて欠陥を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−152428号公報
【特許文献2】特開2002−243703号公報
【特許文献3】特開2004−12369号公報
【特許文献4】特開2005−106597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された技術によれば、隣り合う位置間の距離より欠陥の長さが長い場合には、双方の探傷信号に欠陥エコー信号が含まれることになる。このため、隣り合う位置の探傷信号波形の差分演算を行うと、エコー性ノイズのみならず欠陥エコー信号まで減少させることになり、欠陥を見逃してしまうおそれがあった。なお、このような問題を解決するために、特許文献1には、欠陥エコー信号を検出した際、直前の位置の探傷信号波形には欠陥エコー信号が含まれていないものとみなし、それ以降は隣り合う位置の探傷信号波形の代わりに、欠陥エコー信号を検出した直前の位置の探傷信号波形との差分演算を行うことが記載されている。しかしながら、一般に、超音波探傷においては、微小な欠陥の見逃しを防止するために、探傷信号のサンプリング間隔を超音波のビーム幅より小さく設定することから、欠陥エコー信号は徐々に大きくなって出現する。そのため、欠陥エコー信号を所定の閾値で検出した際には、その直前の位置の探傷信号にも欠陥エコー信号が含まれている可能性が高く、いずれにしても欠陥エコー信号を減少させるおそれがあった。
【0009】
また、特許文献3および特許文献4に記載された技術によれば、複数の超音波探触子には特性上のばらつきがあるため、隣り合う超音波探触子により検出される信号波形は、同一のノイズ要因によっても完全に一致するとは限らず、ノイズ低減効果は低い。加えて、特許文献4に記載の透過強度による欠陥検出は、もとより検出精度が低い。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、鋼材中の欠陥を精度高く検出可能な超音波探傷方法および超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる超音波探傷方法は、超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷方法において、受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶するステップと、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出すステップと、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算するステップと、前記減算用信号が減算された前記探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記所定パルス回数は、前記所定パルス回数前の探傷信号を受信してから前記処理対象の探傷信号を受信するまでの間の超音波探触子の走査量が、検出されるべき欠陥の長さと超音波パルス信号のビーム幅とを合わせた長さ以上で、かつ探傷信号中のエコー性ノイズの波形が変化しない長さ以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記減算用信号は、前記所定パルス回数以前の複数の探傷信号を同期加算平均して求めることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる超音波探傷方法は、上記発明において、前記受信した探傷信号を記憶する際に、境界エコー信号を基準に整列させて記憶させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる超音波探傷装置は、超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷装置において、受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶する手段と、前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出す手段と、前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する手段と、前記減算用信号が減算された前記探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査する手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、探傷信号からエコー性ノイズを除去するようにしているので、ノイズが低減されたS/N比の高い欠陥エコー信号を得ることができ、この結果、従来、検出が困難であった微小欠陥等の欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、超音波探触子から超音波パルス信号を送信して得られる探傷信号を説明するための説明図である。
【図2】図2は、超音波探触子から送信された1回分の超音波パルス信号で得られる探傷信号を例示する波形図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図5】図5は、超音波探傷装置による超音波探傷処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、超音波探傷処理を説明するための説明図である。
【図7】図7は、Nを選定する方法の説明図である。
【図8】図8は、Nを選定する方法の説明図である。
【図9】図9は、NおよびNaの選定方法の説明図である。
【図10】図10は、NおよびNaの選定方法の説明図である。
【図11】図11は、探傷信号を境界エコー信号を基準に整列させることによる効果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明にかかる超音波探傷方法および超音波探傷装置の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
まず、図1および図2を参照して、超音波探触子から超音波パルス信号を送信して得られる探傷信号について説明する。図1は、内部に欠陥Fを有する被検体Sの表面Aから底面Bに向かって超音波パルス信号Pを送信した場合に被検体Sを透過して得られる探傷信号を説明するための模式図であり、図2は、図1のように送信されたパルス1回分の超音波パルス信号Pによって得られる探傷信号波形を例示した図である。
【0020】
図1に示すように、被検体Sの表面Aに入射した超音波パルス信号Pは、様々な経路で底面Bを透過して探傷信号として受信される。例えば、図1の経路T1は、超音波パルス信号Pが欠陥Fのない健全部のみを通過する最短経路であり、図2に示す経路T1に対応するピークのように、超音波パルス信号Pは最短時間で探傷信号として受信される。一方、経路T2は、超音波パルス信号Pが健全部のみを通過しながら底面Bおよび表面Aで反射した後に底面Bを透過する最長経路であり、図2に示す経路T2に対応するピークのように、超音波パルス信号Pが探傷信号として受信されるまでの時間が長い。そして、経路F1は、超音波パルス信号Pが底面Bおよび欠陥Fで反射した後に底面Bを透過する経路であり、経路F2は、超音波パルス信号Pが欠陥Fおよび表面Aで反射した後に底面Bを透過する経路である。超音波パルス信号Pが欠陥Fで反射する経路F1および経路F2は、経路T1より長く、且つ、経路T2より短く、図2の経路T1に対応するピークと経路T2に対応するピークとの間に現れる。
【0021】
図2の経路T1に対応するピークと経路T2に対応するピークとの間には、上述した経路F1および経路F2などのように欠陥Fで反射した欠陥エコー信号の他、被検体Sの表面Aに斜めに入射したり縦波と横波との間でモード変換をした超音波が底面Bや表面Aで反射しながら健全部のみを通過した後に受信された多数のエコー性ノイズや、超音波探触子内で反射した残響によるエコー性ノイズが含まれる。本発明は、そのようなエコー性ノイズの影響を低減して欠陥エコー信号を際立たせるための信号処理を行なうものである。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷装置の構成を模式的に示したブロック図である。図3に示すように、この超音波探傷装置10は、被検体の欠陥を非破壊検査するための超音波を送信し、この送信した超音波に起因する探傷信号を受信する探傷信号取得部1と、各種情報を入力する入力部4と、被検体の検査データ等を記憶する記憶部5と、被検体の検査結果等を表示する表示部6と、超音波探傷装置10の各構成部を制御する制御部7とを有する。
【0023】
探傷信号取得部1は、超音波プローブ(超音波探触子)2と送受信部3とを有し、送受信部3から送信された電気信号の超音波信号を、超音波プローブ2から外部に超音波として送信するとともに、超音波プローブ2で受信した超音波を電気信号の探傷信号として送受信部3に出力する。超音波プローブ2は、圧電振動子等を用いて実現され、送受信部3からのパルス信号の印加によって超音波を外部に送信し、外部からの超音波を受波して電気信号に変換する。送受信部3は、超音波プローブ2の共振周波数またはその近傍の周波数のパルス信号を超音波プローブ2に印加することによって超音波パルス信号を超音波プローブ2を介して外部に出力する。
【0024】
なお、本実施の形態においては、超音波を送信する超音波プローブ2と超音波を受信する超音波プローブ2とを別体で構成し、被検体をはさんで対向するように配置している。
【0025】
入力部4は、電源スイッチおよび入力キー等の入力デバイスを用いて実現され、操作者による入力操作に対応して、制御部7に対して各種指示情報を入力する。例えば、入力部4は、被検体の探傷開始または探傷終了等の指示情報、被検体の探傷データの表示を指示する指示情報等を制御部7に入力する。
【0026】
記憶部5は、ハードディスク等の記憶メディアを用いて実現され、制御部7によって指示された被検体の検査データ等の各種情報を記憶する。とくに本実施の形態において、記憶部5は、後述するように、常時、最新の超音波パルス信号以前に送信されたパルスに対応する探傷信号の複数回分((N+Na)回分)以上を記憶している。
【0027】
表示部6は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスを用いて実現され、制御部7によって表示指示された各種情報を表示する。具体的には、表示部6は、超音波探傷による被検体の検査データ(例えば、微小傷等の欠陥情報等)を表示する。また、表示部6は、検査対象の被検体から得られた探傷信号の波形情報等を表示してもよい。
【0028】
制御部7は、処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPU等を用いて実現され、上述した超音波探傷装置10の各構成部を制御する。また、制御部7は、減算用信号を取得する減算用信号取得部7aと、探傷信号から減算用信号を減算する信号処理を行なう減算処理部7bとを有し、後述する超音波探傷処理を実行する。
【0029】
なお、制御部7はFPGAを用いて実現することも可能である。図4に、制御部7にFPGAを用いて実現する場合の超音波探傷装置の構成を示す。この場合には、図4に示すように、記憶部5はメモリを用い、制御部7内に含めて構成し、以下に説明する超音波探傷処理をハードウェア上で実現する。その他の構成は図3と同様である。
【0030】
次に、図5および図6を参照して、超音波探傷装置10による超音波探傷処理手順について説明する。図5は超音波探傷処理手順を示すフローチャートであり、図6は超音波探傷処理を説明するための説明図である。図5に示すフローチャートは、例えば、操作者が入力部4を操作して被検体に対する超音波探傷指示入力があったタイミングで開始となり、超音波探傷処理はステップS1の処理に進む。
【0031】
ステップS1の処理では、制御部7が、記憶部5に常時、超音波探傷処理の対象とする探傷信号(例えば、受信した最新の探傷信号)に対応する超音波パルス信号より以前に送信された超音波パルス信号により得られた探傷信号の少なくとも(N+Na)回分を記憶させる処理を開始する。記憶させる対象の探傷信号は、少なくとも、最新の超音波パルス信号よりパルス(N+Na)回前までの各パルスに対応する探傷信号とする。すなわち、図6に示すように、最新の超音波パルス信号をi番目のパルスとして、i番目のパルスに対応する探傷信号について超音波探傷処理を行なう場合に、制御部7は、記憶部5に少なくとも、(i−N−Na)番目〜i番目のパルスに対応する(N+Na)回分の探傷信号を記憶させる。これにより、ステップS1の処理は完了し、超音波探傷処理はステップS2の処理に進む。
【0032】
なお、NおよびNaの値は、例えば操作者が入力部4を操作することにより、ステップS1の処理前に予め指定されるものとする。
【0033】
また、超音波パルス信号が送信されるたびに、最新の超音波パルス信号に対応する探傷信号が受信される。したがって制御部7は、(i+1)番目の超音波パルス信号に対応する探傷信号が受信されるたびに記憶部5に新たに記憶する。併せて、制御部7が、記憶部5に記憶されている探傷信号のうち最も古いものを削除してもよい。つまり、この場合には、制御部7は、(i−N−Na)番目のパルスに対応する探傷信号を削除してもよい。
【0034】
ステップS2の処理では、図6に示すように、減算用信号取得部7aが、記憶部5からi番目の超音波パルス信号より(N+Na)回前からN回前までのパルスNa回分に対応する探傷信号を取り出して、周知の同期加算平均処理を行なうことにより、減算用信号を取得する。
【0035】
ここで、i番目のパルスに対応する探傷信号のj番目のサンプリング点(全n個)での振幅をx(i,j)とし、このi番目の超音波パルス信号に対応する探傷信号に対して超音波探傷処理を行なう場合に、減算用信号のj番目のサンプリング点での振幅r(i,j)は、次式(1)で表すことができる。なお、サンプリング点の位置は、超音波パルス信号が送信されてからの時間に比例する。
【数1】
【0036】
以上の演算処理を行なうことにより、ステップS2の処理は完了し、超音波探傷処理はステップS3の処理に進む。
【0037】
ステップS3の処理では、減算処理部7bは、図6に示すように、超音波探傷処理の対象の探傷信号からステップS2で取得した減算用信号を減算する処理を行なう。本実施の形態では、最新の超音波パルス信号に対応する探傷信号を超音波探傷処理の対象とする。
【0038】
ここで、i番目のパルスに対応する探傷信号を対象として、探傷信号から減算用信号を減算する処理で得られる信号のj番目のサンプリング点での振幅y(i,j)は、次式(2)で表すことができる。
【数2】
【0039】
制御部7は、以上の減算処理により得られる信号に含まれる被検体の欠陥エコー信号を検出することによって、鋼材の欠陥を検査する。これにより、ステップS3の処理は完了し、一連の超音波探傷処理は終了する。
【0040】
以上の超音波探傷処理を行なうことにより、健全部での探傷信号を減算用信号とすれば、欠陥エコー信号を含む探傷信号から減算用信号を減算する処理を行うことで、健全部での探傷信号にも欠陥部での探傷信号にも等しく含まれるエコー性ノイズを除去することができる。そして、図6に示すように、欠陥エコー信号を含む欠陥部での探傷信号に対して上記の超音波探傷処理を行なった結果に得られる信号y(i,j)は、図6の点線で囲まれる部分に示されるように、欠陥エコー信号の強度(振幅)が際立つので、欠陥エコー信号を見逃すおそれが少なくなる。欠陥エコー信号の強度に適宜な閾値を設定することで、欠陥と判定することができる。
【0041】
なお、減算用信号を超音波探傷処理の対象の探傷信号の直前の探傷信号ではなくN回以上前のパルスに対応する探傷信号としたことにより、長い欠陥を探傷する場合にも、減算用信号に欠陥部での探傷信号を適用してしまう可能性を低くすることができる。
【0042】
ここで、図7および図8を参照して、上記のNの選定方法について説明する。図7および図8は欠陥の検出精度について説明するための図であり、超音波探触子を欠陥の上を通る線上を走査しながら超音波パルス信号を送信して受信する欠陥エコー信号の強度とパルス回数との関係を示すイメージ図である。図7はごく小さい点状の欠陥の上を走査する場合を示し、図8は長さが超音波パルス信号のビーム幅より長い欠陥(連続型欠陥)の上を走査する場合を示す。図7に示すように、欠陥がごく小さい点状で、その長さがパルス間の走査量(パルス時間間隔と超音波探触子の走査速度の積)より十分に短い場合には、欠陥の真上を中心としたピークが現れ、その裾野の幅は超音波のビーム幅に相当する。一方、図8に示すように、欠陥の長さがビーム幅よりも長い場合には、欠陥の長さに相当する台形状のピークが現れ、裾野の幅は欠陥の長さとビーム幅との和に相当する。
【0043】
これに基づいて、本実施の形態では、N回のパルス間の走査量が欠陥の長さより十分に長くなるようにNを選定する。これにより、減算用信号に欠陥部での探傷信号を適用して減算処理を行った結果、欠陥エコー信号まで低減させる事態を防止している。
【0044】
ただし、N回のパルス間の走査量の分だけ離れた位置で被検体の形状が変化しないようにNを選定する。被検体の形状が変化すると、健全部での探傷信号に含まれるエコー性ノイズの波形が、超音波探傷処理の対象の探傷信号のエコー性ノイズの波形と異なるため、減算処理によるノイズ低減の効果を望めなくなる。
【0045】
また、減算用信号を複数回(Na回)のパルスに対応する探傷信号を同期加算平均して求めることにより、各探傷信号に含まれる電気的なランダムノイズや音響接触媒質中の気泡などに起因した瞬間的なエコー性ノイズの影響を低減している。
【0046】
減算用信号を複数回(Na回)のパルスに対応する探傷信号を同期加算平均して求めることにより、さらに、超音波探触子が欠陥を通過した後に健全部で得られる探傷信号に対して超音波探傷処理を行なう際に、減算用信号に通過した欠陥部での欠陥エコー信号を含む探傷信号が含まれる場合にも、その欠陥エコー信号の影響を低減できる。健全部での探傷信号から欠陥エコー信号を含む減算用信号を減算する処理を行なうと、健全部にあたかも欠陥があるかのように虚エコー信号が検出される事象が発生するが、これにより、減算用信号に欠陥エコー信号が含まれていてもその影響を低減でき、虚エコー信号の発生を低減できる。
【0047】
図9および図10に、上記NおよびNaを変更して本実施の形態の超音波探傷処理を適用した場合の欠陥エコー信号の強度を示す。図9、図10とも、横軸にN,Naの組合せを示し、縦軸に各組合せに対応する超音波探傷処理後の欠陥エコー信号強度を、連続型欠陥の場合、点状欠陥の場合、欠陥がない場合のそれぞれについて示している。また、N=生、Na=生とは、超音波探傷処理を行なわない場合の欠陥エコー信号強度である。
【0048】
図9は、Naを4として、Nを変更した場合であって、N=1は、隣接する超音波パルス信号に対応する探傷信号を減算用信号に含めることを意味している。この図9によれば、N=1の場合に、いずれの欠陥についても超音波探傷処理後の欠陥エコー信号強度が低減すること、またNが大きくなるほど欠陥エコー信号強度の低減が改善されることがわかる。記憶部5の容量の制約にもよるが、Nを50以上にすることが望ましい。
【0049】
図10は、Nを30として、Naを変更した場合であって、Na=1は、単一の探傷信号を減算用信号とすることを意味している。この図10によれば、Naが大きくなるほど欠陥エコー信号強度の低減が改善されることがわかる。Naを10以上にすることが望ましい。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態の超音波探傷処理によれば、健全部での探傷信号に等しく含まれるエコー性ノイズを除去できるので、欠陥エコー信号があれば際立たせることができ、微小な欠陥も見逃すおそれが小さい。また、長い欠陥に対しても簡易な処理でエコー性ノイズを低減させて欠陥エコー信号を際立たせることができる。
【0051】
なお、上記の実施の形態の超音波探傷処理を実施する際には、被検体の振動などの影響でエコーの位置がぶれる場合があるため、各サンプリング点での探傷信号を整列させ、エコー性ノイズの時間位置を一致させることが望ましい。探傷信号の整列には、例えば図2中の経路T1、T2に対応するピークに示されるような、表面エコー信号や底面エコー信号などの境界エコー信号を基準にすればよい。例えば、境界エコー検出手段を設け、検出した境界エコー信号を基準に探傷信号を記憶部5に記憶させることで実現できる。
【0052】
図11に、境界エコー信号を基準にして各探傷信号を整列させる場合の効果を例示する。図11の上段に探傷信号を示し、中段および下段に、上段の探傷信号の一部を横軸の時間軸を拡大して示す。このうち中段は減算処理を行う前の探傷信号を示し、下段はN=50,Na=4として減算用信号を取得して減算処理を行った後の探傷信号を示す。中段の減算処理前の探傷信号および下段の減算処理後の探傷信号としては、それぞれ、境界エコー信号による整列を行わない探傷信号と、経路T1に対応するピークを基準に整列を行った探傷信号と、経路T2に対応するピークを基準に整列を行った探傷信号を示す。この図11によれば、各探傷信号の境界エコー信号による整列を行わないと、本実施の形態の超音波探傷処理によっても、被検体の振動などの影響でエコーの位置がぶれ、探傷領域にノイズや経路T2に対応するピークが残る場合がある。一方、経路T1に対応するピークを基準に探傷信号を整列させると、経路T2に対応するピークが低減されつつも探傷領域に残る場合があるが、経路T2に対応するピークを基準に探傷信号を整列させると、良好に探傷領域のエコー性ノイズを低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0053】
1 探傷信号取得部
2 超音波プローブ(超音波探触子)
3 送受信部
4 入力部
5 記憶部
6 表示部
7 制御部
7a 減算用信号取得部
7b 減算処理部
10 超音波探傷装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷方法において、
受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶するステップと、
前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出すステップと、
前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算するステップと、
前記減算用信号が減算された探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査するステップと、
を含むことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
前記所定パルス回数は、前記所定パルス回数前の探傷信号を受信してから前記処理対象の探傷信号を受信するまでの間の超音波接触子の走査量が、検出されるべき欠陥の長さと超音波パルス信号のビーム幅とを合わせた長さ以上で、かつ探傷信号中のエコー性ノイズの波形が変化しない長さ以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記減算用信号は、前記所定パルス回数以前の複数の探傷信号を同期加算平均して求めることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記受信した探傷信号を記憶する際に、境界エコー信号を基準に整列させて記憶させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波探傷方法。
【請求項5】
超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷装置において、
受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶する手段と、
前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出す手段と、
前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する手段と、
前記減算用信号が減算された探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査する手段と、
を備えたことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項1】
超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷方法において、
受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶するステップと、
前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出すステップと、
前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算するステップと、
前記減算用信号が減算された探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査するステップと、
を含むことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
前記所定パルス回数は、前記所定パルス回数前の探傷信号を受信してから前記処理対象の探傷信号を受信するまでの間の超音波接触子の走査量が、検出されるべき欠陥の長さと超音波パルス信号のビーム幅とを合わせた長さ以上で、かつ探傷信号中のエコー性ノイズの波形が変化しない長さ以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記減算用信号は、前記所定パルス回数以前の複数の探傷信号を同期加算平均して求めることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記受信した探傷信号を記憶する際に、境界エコー信号を基準に整列させて記憶させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波探傷方法。
【請求項5】
超音波探触子を走査しながら超音波パルス信号を送信し、該超音波パルス信号に起因する探傷信号を受信することによって、連続的に鋼材中の欠陥を検査する超音波探傷装置において、
受信した複数パルス回数分の探傷信号を記憶する手段と、
前記記憶した探傷信号から処理対象の探傷信号より所定パルス回数前の探傷信号を減算用信号として取り出す手段と、
前記処理対象の探傷信号から前記減算用信号を減算する手段と、
前記減算用信号が減算された探傷信号に基づいて鋼材中の欠陥を検査する手段と、
を備えたことを特徴とする超音波探傷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−11526(P2013−11526A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144720(P2011−144720)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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