説明

超音波探傷装置

【課題】超音波探触子の走行を阻害することなく、また、超音波接触媒質の吸収性能の低下を抑制できる超音波探傷装置の提供。
【解決手段】原子炉圧力容器の表面に沿って超音波探触子12を走行させる走行装置と、原子炉圧力容器の表面に超音波接触媒質を供給する超音波接触媒質供給系統と、超音波探触子12を囲って設けられ、上記供給された上記超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収系統70と、を有する超音波探傷装置であって、超音波接触媒質回収系統70は、少なくとも外周部が多孔質材から形成され、超音波探触子12の上記走行に伴って原子炉圧力容器の表面上を転動しつつ、上記超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体71を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の超音波探傷試験においては、超音波探触子が走査する被検査体表面に水、マシン油、グリセリン等の超音波接触媒質を塗布し、超音波の被検査体への透入を確保しており、自動超音波探傷の場合、超音波探触子の自動走査と共に、超音波接触媒質の供給が自動的に行われることが多いが、超音波接触媒質の自動回収は行われていなかった。
【0003】
下記特許文献1には、超音波接触媒質を供給すると共に回収する超音波接触媒質自動供給回収装置が開示されている。この装置は、超音波探触子の探触面の周りに外嵌され同探触面側の開口部に多孔性金属が充填された超音波接触媒質吸引箱と、該吸引箱に回収ホースにより接続された回収タンク及び空気ポンプとを備え、供給した超音波接触媒質を多孔性金属で吸収し、該吸収した超音波接触媒質を空気ポンプで回収ホースを介して回収タンクに回収する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−245056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術では、超音波探触子の走行に伴って多孔性金属が被検査体表面と接触して擦れながら超音波接触媒質を吸収し回収するので、この多孔性金属を耐摩耗性及び耐久性に優れたニッケル材で作成している。
しかしながら、被検査体表面(従来技術では圧力容器表面)は、通常、滑らか表面であることは少なく、少なからず凹凸が存在するため、被検査体表面と多孔性金属とが擦れると摩擦力が強く作用し、超音波探触子の滑らかな走行を阻害してしまう虞がある。また、当該擦れによって、被検査体表面の錆等が削られて超音波接触媒質と共に多孔性金属に取り込まれると、多孔性金属が目詰まりを起こし、急激に吸収性能が低下してしまう虞がある。また、吸収性能が低下した多孔性金属の交換は、その素材が高価であるため、コストが掛かるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたものであり、超音波探触子の走行を阻害することなく、また、超音波接触媒質の吸収性能の低下を抑制できる超音波探傷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、被検査体表面に沿って超音波探触子を走行させる走行装置と、被検査体表面に超音波接触媒質を供給する超音波接触媒質供給装置と、超音波探触子を囲って設けられ、供給された超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収装置と、を有する超音波探傷装置であって、超音波接触媒質回収装置は、少なくとも外周部が多孔質材から形成され、超音波探触子の走行に伴って被検査体表面上を転動しつつ、超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、外周部が多孔質材から形成された多孔質転動体が、超音波探触子の走行に伴って被検査体表面上を転動するので、被検査体表面と多孔質転動体の外周面との間の相対的な擦れを小さくすることができる。このため、被検査体表面と多孔質転動体の外周面との間に作用する摩擦力が小さくなり、超音波探触子の滑らかな走行を確保することができる。また、被検査体表面上の錆等の削り取りも低減されて目詰まりが起こり難くなる。さらに、従来のような耐摩耗性等の制限もなくなるので、多孔質材の選択の幅が広がり、コスト安で吸収性能の優れたスポンジ材等の多孔質性弾性体を採用できる。
【0008】
また、本発明においては、多孔質転動体は、その外周部が多孔質性弾性体から形成されており、超音波接触媒質回収装置は、多孔質転動体の転動経路上の一部において、外周部を押下して弾性変形させつつ吸収した超音波接触媒質を吸引する吸引ノズルを有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、多孔質転動体の外周部を多孔質性弾性体から形成する。この多孔質性弾性体から形成された外周部を吸引ノズルで押下して弾性変形させると、内部に吸収した超音波接触媒質を染み出せながら吸引することでき、吸引効率が向上する。また、この吸引ノズルを多孔質転動体の転動経路上の一部に設ければ、多孔質転動体の転動により、超音波接触媒質を吸収した外周部が次々と送られてきて、結果、外周部全体に亘る超音波接触媒質の吸引を行うことができる。
【0009】
また、本発明においては、吸引ノズルは、多孔質転動体の転動方向と直交する幅方向に亘って設けられているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、吸引ノズルにより多孔質転動体の幅方向に亘る超音波接触媒質の吸引が可能となる。
【0010】
また、本発明においては、多孔質転動体は、超音波探触子の走行方向両側において転動する一対のスポンジローラーと、超音波探触子の走行方向と直交する幅方向両側において無端転動する一対のスポンジベルトと、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、超音波探触子の四方をスポンジローラーとスポンジベルトとで囲うことで、超音波接触媒質の回収を漏れなく行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検査体表面に沿って超音波探触子を走行させる走行装置と、被検査体表面に超音波接触媒質を供給する超音波接触媒質供給装置と、超音波探触子を囲って設けられ、供給された超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収装置と、を有する超音波探傷装置であって、超音波接触媒質回収装置は、少なくとも外周部が多孔質材から形成され、超音波探触子の走行に伴って被検査体表面上を転動しつつ、超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体を有するという構成を採用することによって、外周部が多孔質材から形成された多孔質転動体が、超音波探触子の走行に伴って被検査体表面上を転動するので、被検査体表面と多孔質転動体の外周面との間の相対的な擦れを小さくすることができる。このため、被検査体表面と多孔質転動体の外周面との間に作用する摩擦力が小さくなり、超音波探触子の滑らかな走行を確保することができる。また、被検査体表面上の錆等の削り取りも低減されて目詰まりが起こり難くなる。さらに、従来のような耐摩耗性等の制限もなくなるので、多孔質材の選択の幅が広がり、コスト安で吸収性能の優れたスポンジ材等の多孔質性弾性体を採用できる。
したがって、本発明では、超音波探触子の走行を阻害することなく、また、超音波接触媒質の吸収性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態における超音波探傷装置の原子炉圧力容器に対する据え付け状態を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態における超音波探傷装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における超音波探傷装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態におけるホルダ機構の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態におけるホルダ機構の分解斜視図である。
【図6】本発明の実施形態におけるホルダ機構の底面図である。
【図7】本発明の実施形態における吸引ノズルの構成を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態における吸引ノズルの多孔質転動体に対する押し付け状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における超音波探傷装置10の原子炉圧力容器1に対する据え付け状態を示す概略図である。
図に示すように、原子炉圧力容器(被検査体)1の周りには、保温材2が設置されている。この保温材2は、原子炉圧力容器1を囲う原子炉遮蔽壁3に、保温材支持用のブラケットやサポート等により支持されている。原子炉遮蔽壁3には、超音波探傷試験を実施する際、作業員が内部に進入するためのマンホール4が設けられている。
【0014】
原子炉遮蔽壁3の外部には、原子炉圧力容器1に据え付けられた超音波探傷装置10の検査本部10aが設置されている。検査本部10aは、超音波探傷装置10の駆動を制御する制御部と、超音波探傷試験の結果に基づいて検査・解析する検査解析部と、超音波探傷試験を実施する際に用いられる超音波接触媒質(本実施形態では水)を超音波探傷装置10に供給する超音波接触媒質供給タンク及びポンプを含む超音波接触媒質供給部と、超音波探傷試験に用いられた超音波接触媒質を回収する超音波接触媒質回収タンクを含む超音波接触媒質回収部と、を有する。
【0015】
図2及び図3は、本発明の実施形態における超音波探傷装置10を示す斜視図である。
図に示すように、本実施形態の超音波探傷装置10は、所定方向に延在するレール11と、レール11に搭載されてレール11に沿って所定方向に移動自在な超音波探触子12とを有する。超音波探触子12は、レール11に沿って移動自在なホルダ機構13に支持されている。ホルダ機構13は、超音波探触子12を原子炉圧力容器1の表面1aに押し付ける三段スライドの押付機構を有する。ホルダ機構13は、駆動モータ14及び従動プーリ15と、それらの間に架設された駆動ベルト16の回走駆動によってレール11に沿って走行する台車とを含む走行装置17に搭載されている。なお、レール11には、不図示の水準計が取り付けられている。
【0016】
超音波探傷装置10は、原子炉圧力容器1の表面1aに対し据付機構20によって据え付けられている。据付機構20は、原子炉圧力容器1の表面1aに対して着脱自在に据え付けられる第1のフレーム21と、レール11を表面1aに沿って支持すると共に、表面1aに対し垂直な回転軸周りに回転自在とされて第1のフレーム21に支持される第2のフレーム30と、第2のフレーム30の回転方向における位置を位置決めする位置決め部材40と、を有する。
【0017】
第1のフレーム21は、4つの脚部を有する。脚部のうちの2つは、表面1aに対し電磁石により電磁的に磁着する磁着部22から構成され、残りの2つは、首振りが可能なアジャスタフット23から構成されている。第1のフレーム21の中央部には、不図示のクロスローラーベアリングを介して第2のフレーム30を支持する支持フレーム24が固定されている。第2のフレーム30は、その回転軸を軸心とする円環形状のハンドル部32を有する。ハンドル部32は、レール11の据付角度を調整して水平度を確保する際に用いられる。位置決め部材40は、レバー操作によりハンドル部32をロックできるクランプ機構を有する。なお、第2のフレーム30には、レール11をその長さ方向に対し直交する幅方向にスライドさせるスライド機構33が設けられている。スライド機構33は、レール11をその幅方向に移動自在に支持する第1のガイド部34,第2のガイド部35を有する。第1のガイド部34は、LMガイドから構成され、第2のガイド部35は、ボールねじガイドから構成されている。第2のガイド部35の操作ハンドル37aを回転させると、レール11を幅方向にスライドさせることができる構成となっている。
【0018】
図4は、本発明の実施形態におけるホルダ機構13の構成を示す斜視図である。図5は、本発明の実施形態におけるホルダ機構13の分解斜視図である。図6は、本実施形態におけるホルダ機構13の底面図である。図7は、本発明の実施形態における吸引ノズル80の構成を示す斜視図である。図8は、本発明の実施形態における吸引ノズル80の多孔質転動体71に対する押し付け状態を示す図である。
図4に示すように、ホルダ機構13は、ジンバル50に支持されたホルダケース51を有する。ホルダケース51には、超音波探触子12の他に、超音波接触媒質を原子炉圧力容器1の表面1aに供給する超音波接触媒質供給系統(超音波接触媒質供給装置)60と、原子炉圧力容器1の表面1aに供給された超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収系統(超音波接触媒質回収装置)70とが設けられている。
【0019】
超音波接触媒質供給系統60は、検査本部10aの超音波接触媒質供給部を含む。
超音波接触媒質供給系統60は、検査本部10aから供給されてくる超音波接触媒質を4つのチューブ61に分岐させる分岐部62を有する。分岐部62と接続された4つのチューブ61は、超音波探触子12の探触子シューの4隅に形成された供給口63(図6参照)にそれぞれ連通するように接続される。
【0020】
超音波接触媒質回収系統70は、検査本部10aの超音波接触媒質回収部を含む。
超音波接触媒質回収系統70は、図5及び図6に示すように、少なくとも外周部が多孔質材から形成され、超音波探触子12の走行に伴って原子炉圧力容器1の表面1a上を転動しつつ、超音波接触媒質供給系統60から供給された超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体71を有する。
多孔質転動体71は、外周部がスポンジ材(多孔質性弾性体)で形成された一対のスポンジベルト72と、同じく外周部がスポンジ材で形成された一対のスポンジローラー73とから構成される。スポンジローラー73は、超音波探触子12の走行方向(図6において紙面左右方向)両側に設けられている。スポンジベルト72は、超音波探触子12の走行方向と直交する幅方向(図6において紙面上下方向)両側に設けられている。
【0021】
スポンジベルト72は、タイミングベルトの周りにポリウレタンスポンジ(本実施形態ではソフラス(商品名))を設けて構成されている。また、スポンジローラー73は、中空円筒形の樹脂芯材(本実施形態では塩化ビニール芯)の周りにポリウレタンスポンジ(本実施形態ではソフラス(商品名))を設けて構成されている。本実施形態では、スポンジベルト72とスポンジローラー73とを常に同期して回転させ、安定して均一な吸水量を確保するために、スポンジベルト72のギアとスポンジローラー73の芯とをシャフト74を通して同軸固定としている。シャフト74は、ベアリング75を介してホルダケース51に回転自在に支持されている。
【0022】
超音波接触媒質回収系統70は、スポンジベルト72が無端転動する転動経路の一部においてその外周部を押下して弾性変形させる吸引ノズル80(80A)と、スポンジローラー73が転動する転動経路の一部においてその外周部を押下して弾性変形させる吸引ノズル80(80B)とを有する(図4及び図5参照)。吸引ノズル80Aは、各スポンジベルト72に対応して2つ設けられている。また、吸引ノズル80Bは、各スポンジローラー73に対応して2つ設けられている。吸引ノズル80A,80Bは、それぞれホルダケース51に支持されている。吸引ノズル80Aの吸引口81は、図7(a)に示すように、スポンジベルト72の幅方向全体に亘るように拡大している。吸引ノズル80Bの吸引口81は、図7(b)に示すように、スポンジローラー73の幅方向全体に亘るように拡大している。
【0023】
図8に示すように、吸引ノズル80Aは、その吸引口81をスポンジベルト72の外周部に押し付けて設けられている。吸引ノズル80Aは、スポンジベルト72の外周部に対する押付量を調整する押付量調整機構90を有する。押付量調整機構90は、吸引ノズル80Aに一体的に固定されたフランジ91と、フランジ91に設けられてホルダケース51に対し螺合する螺子部材92と、を有する。この構成によれば、螺子部材92のホルダケース51に対する螺入量の調整により、吸引ノズル80Aのスポンジベルト72の外周部に対する押付量が調整される。なお、吸引ノズル80Bも同構成となっており、押付量調整機構90を有する。
【0024】
吸引ノズル80には、吸引口81と連通する吸引チューブ取付口82が設けられている。吸引チューブ取付口82には、図4に示すように、吸引用真空発生器83に接続されるチューブ84が着脱自在に取り付けられる構成となっている。吸引用真空発生器83は、検査本部10aから供給される高圧空気を、分岐部85を介してチューブ86に向けて流通させることで、分岐部85に接続されたチューブ84内を負圧状態にし、吸引ノズル80に吸引力を発現させ、さらに、吸引ノズル80から吸引された超音波接触媒質を高圧空気と共にチューブ86に向けて排出する構成となっている。なお、チューブ86は、検査本部10aの超音波接触媒質回収タンクと接続される。
【0025】
本実施形態では、4つ全ての吸引ノズル80で同時に吸引を行うと、吸引用真空発生器83による十分な吸引力が得られないことから、超音波接触媒質を最も吸収する位置にある多孔質転動体71(本実施形態では、超音波探傷試験の走行時に超音波探触子12の下方に位置するスポンジベルト72)に対応して設けられた吸引ノズル80Aのみにチューブ84が接続されている。
なお、超音波探傷装置10の原子炉圧力容器1に対する据付位置や据付角度によって、超音波接触媒質を最も吸収する位置にある多孔質転動体71が変わるので、適宜、適切な吸引ノズル80にチューブ84を付け替えるのが好ましい。ちなみに、吸引用真空発生器83による十分な吸引力が得られるならば、4つ全ての吸引ノズル80で同時吸引する構成であってもよい。
【0026】
続いて、上記構成の超音波探傷装置10を用いた超音波探傷試験における超音波接触媒質の回収動作について説明する。
原子炉圧力容器1の表面1aに沿って超音波探触子12を走行させるにあたり、先ず、ホルダ機構13の押付機構を用いて超音波探触子12を表面1aに押し付ける。この時、ホルダ機構13のホルダケース51に回転自在に支持された多孔質転動体71の外周部が表面1aに接触する。次に、超音波接触媒質供給系統60は、表面1aに超音波接触媒質を供給する。具体的には、検査本部10aに設けられた超音波接触媒質供給タンクからポンプにより圧送されてきた超音波接触媒質が、分岐部62にて4つのチューブ61に分岐し、各供給口63から原子炉圧力容器1の表面1aに供給される。供給口63から流出した超音波接触媒質は、超音波探触子12の探触面に広がり、探触面と表面1aとの微小隙間を充填することによって、超音波を効果的に原子炉圧力容器1に透入させる。
【0027】
超音波探触子12が、走行装置17によりレール11に沿って走行すると、それに伴って多孔質転動体71が原子炉圧力容器1の表面1a上を転動する。超音波接触媒質は、超音波探触子12の走行に伴って継続的に供給され、超音波探触子12の探触面から移動したものは、自重により原子炉圧力容器1の表面1aに沿って垂れ落ちる。垂れ落ちた超音波接触媒質は、超音波探触子12の四方を囲って表面1a上を転動する多孔質転動体71に接触し、吸収される。本実施形態では、超音波探触子12の下方に位置するスポンジベルト72に、垂れ落ちた超音波接触媒質が主に吸収されることとなる。
【0028】
スポンジベルト72に吸収された超音波接触媒質は、超音波探触子12の走行に伴ってスポンジベルト72と共に転動し、吸引ノズル80Aが設けられた位置に至る(図8参照)。この位置では、吸引ノズル80Aがスポンジベルト72の外周部をその幅方向に亘って所定量で押下しているので、当該弾性変形により保持できなくなった超音波接触媒質がスポンジベルト72の外周部表面に染み出すこととなる。外周部表面に染み出した超音波接触媒質は、吸引用真空発生器83により負圧状態とされている吸引口81から吸引され、チューブ84内を流通して分岐部85に至る。そして、分岐部85に至った超音波接触媒質は、高圧空気と共にチューブ86に導かれ、検査本部10aの超音波接触媒質回収タンクに回収されることとなる。
【0029】
したがって、上述した本実施形態によれば、原子炉圧力容器1の表面1aに沿って超音波探触子12を走行させる走行装置17と、原子炉圧力容器1の表面1aに超音波接触媒質を供給する超音波接触媒質供給系統60と、超音波探触子12を囲って設けられ、上記供給された上記超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収系統70と、を有する超音波探傷装置10であって、超音波接触媒質回収系統70は、少なくとも外周部が多孔質材から形成され、超音波探触子12の上記走行に伴って原子炉圧力容器1の表面1a上を転動しつつ、上記超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体71を有するという構成を採用することによって、原子炉圧力容器1の表面1aと多孔質転動体71の外周面との間の相対的な擦れを小さくすることができる。このため、原子炉圧力容器1の表面1aと多孔質転動体71の外周面との間に作用する摩擦力が小さくなり、超音波探触子12の滑らかな走行を確保することができる。また、原子炉圧力容器1の表面1a上の錆等の削り取りも低減されて目詰まりが起こり難くなる。さらに、従来のような耐摩耗性等の制限もなくなるので、多孔質材の選択の幅が広がり、コスト安で吸収性能の優れたスポンジ材を採用できる。
したがって、本実施形態では、超音波探触子12の走行を阻害することなく、また、超音波接触媒質の吸収性能の低下を抑制できる。
【0030】
また、本実施形態においては、多孔質転動体71は、その外周部がスポンジ材から形成されており、超音波接触媒質回収系統70は、多孔質転動体71の転動経路上の一部において、上記外周部を押下して弾性変形させつつ上記吸収した上記超音波接触媒質を吸引する吸引ノズル80を有するという構成を採用することによって、スポンジ材から形成された外周部を吸引ノズル80で押下して弾性変形させると、内部に吸収した超音波接触媒質を染み出せながら吸引することでき、吸引効率が向上する。また、この吸引ノズル80を多孔質転動体71の転動経路上の一部に設ければ、多孔質転動体71の転動により、超音波接触媒質を吸収した外周部が次々と送られてきて、結果、外周部全体に亘る超音波接触媒質の吸引を行うことができる。また、本実施形態においては、吸引ノズル80は、多孔質転動体71の転動方向と直交する幅方向に亘って設けられているという構成を採用することによって、多孔質転動体71の幅方向に亘る超音波接触媒質の吸引が可能となる。
【0031】
また、本実施形態においては、多孔質転動体71は、超音波探触子12の走行方向両側において転動する一対のスポンジローラー73と、超音波探触子12の走行方向と直交する幅方向両側において無端転動する一対のスポンジベルト72と、を有するという構成を採用することによって、超音波探触子12の四方をスポンジローラー73とスポンジベルト72とで囲うことで、超音波接触媒質の回収を漏れなく行うことが可能となる。
【0032】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、被検査体として原子炉圧力容器を例示して説明したが、これに限られず、他の圧力容器に対しても本発明を適用できる。また、圧力容器に限られず、他の円筒型被検査体に対しても本発明を適用できる。
【0034】
また、例えば、上記実施形態では、多孔質転動体71は、モータ等の駆動装置を有しない構成について説明したが、駆動装置を有する構成であっても良い。この場合、駆動装置は、多孔質転動体71の転動駆動を、走行装置17による超音波探触子12の走行駆動と同期させるように制御することが好ましい。この構成によれば、超音波探触子12のより円滑な走行が可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1…原子炉圧力容器(被検査体)、1a…表面、10…超音波探傷装置、12…超音波探触子、17…走行装置、60…超音波接触媒質供給系統(超音波接触媒質供給装置)、70…超音波接触媒質回収系統(超音波接触媒質回収装置)、71…多孔質転動体、72…スポンジベルト、73…スポンジローラー、80(80A,80B)…吸引ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体表面に沿って超音波探触子を走行させる走行装置と、前記被検査体表面に超音波接触媒質を供給する超音波接触媒質供給装置と、前記超音波探触子を囲って設けられ、前記供給された前記超音波接触媒質を吸収して回収する超音波接触媒質回収装置と、を有する超音波探傷装置であって、
前記超音波接触媒質回収装置は、
少なくとも外周部が多孔質材から形成され、前記超音波探触子の前記走行に伴って前記被検査体表面上を転動しつつ、前記超音波接触媒質を吸収する多孔質転動体を有することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記多孔質転動体は、その外周部が多孔質性弾性体から形成されており、
前記超音波接触媒質回収装置は、
前記多孔質転動体の転動経路上の一部において、前記外周部を押下して弾性変形させつつ前記吸収した前記超音波接触媒質を吸引する吸引ノズルを有することを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記吸引ノズルは、前記多孔質転動体の転動方向と直交する幅方向に亘って設けられていることを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記多孔質転動体は、
前記超音波探触子の走行方向両側において転動する一対のスポンジローラーと、
前記超音波探触子の走行方向と直交する幅方向両側において無端転動する一対のスポンジベルトと、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107991(P2012−107991A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257104(P2010−257104)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】