説明

超音波探触子及びその製造方法

【課題】アルカリ溶液中での使用に耐え得る超音波探触子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】バッキング材6上に固着されて駆動電極7(ab)を両主面に有する圧電素子8と、前記圧電素子8上に設けられた音響整合層9と、前記駆動電極7(ab)に電気的に接続したケーブル13とからなる探触子本体を有し、前記音響整合層9を開口面側として前記音響整合層9上に保護膜16を設けて前記ケーブル13を外部に密閉導出するとともに、前記探触子本体を収容する容器本体14を備えた超音波探触子において、前記容器本体14を金属として前記保護膜16を金属フィルムとして前記容器本体14とともに前記金属フィルム16を耐アルカリ性とし、前記金属フィルム16を前記容器本体14の開口端面に接合して閉塞面とした構成及びその製造法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば工業製品の検査用とした超音波探触子及びその製造方法を技術分野とし、特にアルカリ溶液中で使用される超音波探触子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
超音波探触子は圧電素子からの超音波の送受波によって生体を含む被対象物の欠陥部位等を検査するものとして知られる。このようなものの一つに、例えば被検査体をアルカリ溶液中に浸漬して、機械部品の欠陥部位を検出するものがある。
【0003】
(従来技術の一例)
第3図は超音波探触子の断面図である。超音波探触子3はバッキング材6上に駆動電極7(ab)を両主面に有する圧電素子8を固着する。圧電素子8の放射面側に音響整合層9が設けられる。音響整合層9は例えば樹脂のコーティングやガラスの貼着によって一層構造や二層構造として設けられる。これにより、圧電素子8(PZT、約32Mlail)と超音波媒質(アルカリ溶液、約1.5Mlail)との音響インピーダンスの整合を計り、超音波の伝播損失を防止する。
【0004】
通常では、音響整合層9の厚みは各層ともに超音波波長λの1/4の厚みとして、超音波の尾引き(リンギング)を防止する。各圧電素子8及び音響整合層9の間には充填材10が埋設され、隣接する圧電素子8間の音響的結合を防止して強度を維持する。また、バッキング材6は基台11上に設けられる。
【0005】
圧電素子8の駆動電極7(ab)のうちの音響整合層9側は例えばアース電極6aとして、バッキング材6側は電気パルスの印加される信号電極6bとする。アース電極6aは図示しない導線(アース線)よって共通接続され、信号電極6bは個々に導出される。これらは、例えば圧電素子8とバッキング材6との間に一端側が介在したフレキシブル基板12のアース線及び信号線12aによって導出される。
【0006】
フレキシブル基板12は例えば直接的に同軸ケーブル13に接続する。すなわち、コネクタ等を用いることなく、同軸ケーブル13の芯線13aをフレキシブル基板12の信号線1aに、同アース線を同軸ケーブル13の図示しない網線に接続する。無論、コネクタ等を用いてもよい。
【0007】
そして、これらの探触子本体は基台11の外周がケース14の開口段部に固着され、ケース14の底面側から同軸ケーブル13を密閉して導出する。符号15は接着剤であり、ケース14内に埋設されて探触子本体を固定する。これらの場合、超音波探触子3はアルカリ溶液1中に浸漬されて使用されるので、前述した探触子本体に用いられる接着剤を含む有機物、特に樹脂とした音響整合層9をアルカリ溶液1から保護する必要がある。
【0008】
このことから、例えば特許文献1や2で示されるように、音響整合層9上となる開口面側に保護膜16を設けて閉塞面とする。保護膜16は例えば医用等で使用される耐薬性のポリイミドやポリパラキシリレン系の樹脂とすることが考えられた。これらは例えば樹脂自体のCVDやコーティングあるいは図示しない接着剤を用いたフィルムの貼着によって形成される。
【特許文献1】実開昭64−24559号の全文明細書
【特許文献2】実用新案登録第2570405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の超音波探触子3では、アルカリ溶液中に常時浸漬されて使用されるので、保護膜としての前面に設けたポリイミドやポリパラキシリレンでは、いずれも樹脂であり、耐薬性とはいえ樹脂自体からの浸透を生じたり、耐久性に欠けたりする問題があった。
【0010】
(発明の目的)
本発明は特にアルカリ溶液中での使用に耐え得る超音波探触子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、バッキング材上に固着されて駆動電極を両主面に有する圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた音響整合層と、前記駆動電極に電気的に接続した信号線を有するケーブルとからなる探触子本体を有し、前記音響整合層を開口面側として前記音響整合層上に保護膜を設けて前記ケーブルを外部に密閉導出するとともに、前記探触子本体を収容する容器本体を備えた超音波探触子において、前記容器本体を金属として前記保護膜を金属フィルムとして前記容器本体とともに前記金属フィルムを耐アルカリ性とし、前記金属フィルムを前記容器本体の開口端面に接合して閉塞面とした構成とする。
【0012】
また、請求項4では、その製造方法として、前記容器本体を金属として前記保護膜を金属フィルムとし前記容器本体とともに前記金属フィルムを耐アルカリ性とし、前記容器本体は両端部を開口端として、前記容器本体の一端部の開口端面に前記金属フィルムを溶接して閉塞した後、前記容器本体の送受波面側となる音響整合層の表面を接着剤によって密着した構成とする。
【発明の効果】
【0013】
このような請求項1の構成であれば、音響整合層の表面を含む容器本体の開口面が耐アルカリ性の金属フィルムによる閉塞面となるので、例えば気泡検出システムにおけるアルカリ溶液に浸漬しても特に前面からの侵入を防止して耐久性を向上する。
【0014】
また、請求項4の製造方法であれば、容器本体の一端部の開口端部に金属フィルムを溶接した後、音響整合層の表面を接着剤によって密着するので、溶接を確実にして生産性を高められる。音響整合層の表面に接着剤によって金属フィルムを密着した後の溶接では、金属フィルムにはみだした接着剤の拭き取り工程を要したり、拭き取りきれずに溶接(密閉)を困難にしたりする。
【0015】
(請求項1の従属項)
本発明の請求項2では、請求項1において、前記容器本体は両端部ともに開口端を有する枠状筒体とする。これにより、請求項5での製造方法を実施できる。また、同請求項3では、請求項1において、前記金属フィルムは前記容器本体の開口端面に溶接によって接合する。これにより、金属同士の直接接合となるので
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1図及び第2図は本発明の一実施形態を説明する図で、第1図は超音波探触子の断面図、第2図(ab)は製造工程中の同断面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0017】
超音波探触子3は前述したように駆動電極7(ab)を有する圧電素子8、前面の音響整合層9、背面のバッキング材6及び基台11を有する。そして、駆動電極7(ab)をフレキシブル基板12及び同軸ケーブル13によって導出した探触子本体をケース14に収容する。そして、ケース14の前面(送受波面)に保護膜としての耐アルカリ性の金属フィルム16を接合してなる。
【0018】
ケース14は両端ともに同一内径の金属枠体14aと外周にフランジを有する蓋体14bとからなり、ボルト17によってネジ止めされる。金属枠体14aの内周と蓋体14bのフランジを形成する段部との間には、樹脂からなるオーリング(シールリング)18を介在させて密閉度を維持する。そして、蓋体14bから同軸ケーブル13が密閉導出される。保護膜としての金属フィルム16は金属枠体14aと同一材のステンレスとする。
【0019】
この実施形態では、先ず、両主面を開口面とした金属枠体14の一端側(送受波面側)の開口端面に、金属フィルム16の外周を例えば電子ビームQを照射するビーム溶接によって接合する。この場合、ステンレスの表面には例えばNiメッキを形成し、ニッケルメッキが溶融して接合される。
【0020】
次に、基台11、バッキング材6、圧電素子8及び音響整合層9を順に有して、フレキシブル基板12及び同軸ケーブル13によって駆動電極が導出された探触子本体の超音波送受波面(音響整合層9の表面)を、金属フィルム16の内面に接着剤9によって密着する。
【0021】
この場合、図示しない冶具台上に金属フィルム16の外表面を当接して、探触子本体を押圧して密着させる。接着剤15は金属フィルム16の内面あるいは音響整合層9上に予め塗布されて押圧される。ここでの金属フィルムの厚みは50μmとし、接着剤層の厚みは2μmとして、合計厚みを52μmとする。これにより、超音波周波数例えば2MHzの波長λに対して合計厚みを1/60とする。
【0022】
そして、金属枠体14aの他端側に接着剤(樹脂)15を流し込むとともにオーリング18を介在させて、蓋体14bをボルト17によってネジ止めする(前第1図参照)。なお、同軸ケーブルは図示しない蓋体14bの図示しない貫通孔から密閉導出する。
【0023】
このような構成であれば、金属枠体14aの一端側である音響整合層9の前面(表面)には耐アルカリ性の例えばステンレスとした金属フィルム16を設けて閉塞し、金属枠体14aの他端側にはオイルリング18を介在させて同軸ケーブル13の密閉導出した蓋体14bを設けて閉塞する。
【0024】
したがって、アルカリ溶液中に浸漬しても金属フィルム16からの浸透もなくアルカリ溶液との化学反応による溶解もない。これにより、アルカリ溶液が内部に侵入することがないので、例えば前述した検査システムに適用できる。なお、耐アルカリ性の金属であれば基本的に適用でき、例えばAl(アルミ)等の両性金属はアルカリ溶液と反応して溶解するので適用できない。
【0025】
また、この実施形態では、金属筒体14aの一端側に金属フィルム16を接合した後、探触子本体の表面(音響整合層9の表面)を接着剤9によって金属フィルム16に密着させる。したがって、電子ビームによる作業性を良好にして、送受波面側を確実に閉塞面にできる。
【0026】
例えば音響整合層9の表面に金属フィルム16を先に設けた場合は、金属フィルム16の外周に残存した接着剤の余剰分を完全に拭き取らなければならないので、工程数を増やして作業性が悪くなる。また、完全に拭き取れずに残存した場合は、ビーム溶接による密閉度が損なわれる。
【0027】
また、金属フィルム16と接着剤との厚みの合計を52μmとして超音波の波長λに対して1/60とする。したがって、超音波の波長λに対して無視できる厚みなので、超音波の伝播損失やインピーダンスの不整合等を無視できる。なお、概ね、λ/20以下であれば無視できる。
【0028】
(他の事項)
上記実施例では、複数個の圧電素子8を並べた配列型の場合を例示したが、圧電素子が単板の場合でも適用できる。また、駆動電極7(ab)はフレキシブル基板12及び同軸ケーブルによって導出したが、駆動電極が7(ab)が最終的に同軸を含むケーブルによって外部に導出されればよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に一実施形態(物)を説明する超音波探触子の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態(製造方法)を説明する工程中の超音波探触子の断面図である。
【図3】従来例を説明する超音波探触子の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
3 超音波探触子、6 バッキング材、7 駆動電極、8 圧電素子、9 音響整合層、10 充填材、11 基台、12 フレキシブル基板、13 同軸ケーブル、14 ケース、15 接着剤、16 保護膜(金属フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキング材上に固着されて駆動電極を両主面に有する圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた音響整合層と、前記駆動電極に電気的に接続した信号線を有するケーブルとからなる探触子本体を有し、前記音響整合層を開口面側として前記音響整合層上に保護膜を設けて前記ケーブルを外部に密閉導出するとともに、前記探触子本体を収容する容器本体を備えた超音波探触子において、前記容器本体を金属として前記保護膜を金属フィルムとして前記容器本体とともに前記金属フィルムを耐アルカリ性とし、前記金属フィルムを前記容器本体の開口端面に接合して閉塞面としたことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1において、前記容器本体は両端部ともに開口端を有する枠状筒体である超音波探触子。
【請求項3】
請求項1において、前記金属フィルムは前記容器本体の開口端面に溶接によって接合した超音波探触子。
【請求項4】
バッキング材上に固着されて駆動電極を両主面に有する圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた音響整合層と、前記駆動電極に電気的に接続した信号線を有するケーブルとからなる探触子本体を有し、前記音響整合層を開口面側として前記音響整合層上に保護膜を設けて前記ケーブルを外部に密閉導出するとともに、前記探触子本体を収容する容器本体を備えた超音波探触子の製造法において、前記容器本体を金属として前記保護膜を金属フィルムとし前記容器本体とともに前記金属フィルムを耐アルカリ性とし、前記容器本体は両端部を開口端として、前記容器本体の一端部の開口端面に前記金属フィルムを溶接して閉塞した後、前記容器本体の送受波面側となる音響整合層の表面を接着剤によって密着したことを特徴とする超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−85413(P2008−85413A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259968(P2006−259968)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】