説明

超音波探触子及び超音波探傷装置

【課題】簡単な構造で、超音波の伝搬経路に空気が入りにくい超音波探触子を提供する。
【解決手段】超音波探触子本体1と探触子ホルダ2には、超音波探触子本体1の超音波送受信面に接するように、布製の袋体3が設けられ、袋体3中には高分子吸収体4が収納されている。この高分子吸収体4に給水管5から水を供給すると、高分子吸収体4は水を吸収して膨潤し、袋体3の中一杯に広がり、袋体3を押し広げる。余った水は、袋体3の外にも流れ出るが、排水管6からも排水される。この状態で、(a)に示すように、袋体3を被検体7に押し付けて超音波探傷を行う。その際、膨潤した高分子吸収体4は、互いに密着し、その界面での超音波の反射量は極わずかであって、超音波の透過状態は水中を透過する場合とほとんど変わらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子、及びそれを用いた超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷技術には、色々な方法が知られている。その第1は、直接接触法と呼ばれているものであり、超音波探触子と被検体との間に、水などの超音波伝達物質を介在させた状態で、超音波探触子を直接被検体に押し当てて探傷を行う方法である。その第2は、局部水浸法と呼ばれるもので、超音波探触子と被検体との間に、局部的な水の層を作り、超音波探触子から放出される超音波を、この水層を通して被検体中に伝達し、被検体から戻ってくる超音波を、この水層を通して、超音波探触子で受信する方法である。その第3は、水浸法と呼ばれるもので、超音波探触子と被検体を水中に置いて探傷を行うものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、直接接触法の場合、大量の水等の接触媒体を供給しないと、超音波探触子と被検体との間に空気が入り、安定した探傷が行えないという問題点がある。又、被検体に凹凸があると、探触子と被検体の間に隙間ができ、この隙間に空気が入りやすく、特に安定した探傷ができないという問題点がある。よって、直接接触法は、自動超音波探傷法には不向きな方法である。
【0004】
局部水浸法の場合も、水層を形成しているシール部材と被検体の間に隙間ができると、そこから空気が侵入し、安定した探傷が行えないという問題点がある。この場合も、被検体に凹凸があると、シール部材と被検体の間に隙間ができやすく、ここから空気が侵入して、特に安定した探傷ができないという問題点がある。
【0005】
水浸法の場合は、超音波の伝搬経路に空気が入ることを防止できるので安定した探傷を行うことができるが、超音波探触子と被検体全体を水浸しなくてはならず、大型の被検体の場合には、設備が大型になると言う問題点や、被検体の取り扱いが複雑になるという問題点がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、簡単な構造で、超音波の伝搬経路に空気が入りにくい超音波探触子、及びそれを使用した超音波探傷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための第1の手段は、高分子吸収体を、当該高分子吸収体が水を吸収したときの前記高分子吸収体を通過させず水を通過させる大きさの穴を複数有する、被検面の凹凸に応じて変形可能な袋体で包み込んだものを、超音波の送受信面に取り付けたことを特徴とする超音波探触子である。
【0008】
本手段においては、高分子吸収体(高吸水性樹脂、高分子水吸収体、高吸水性高分子を含む)が水を含んで膨張して互いに密着した状態となり、超音波を安定して透過させる。袋体に設けられた穴は、水を吸収したときの高分子吸収体を通過させないので、高分子吸収体が外部に漏れ出すことはない。しかし、水は透過させるので、高分子吸収体に吸収された水の一部が袋体より流れ出して被検体の表面を濡らし、超音波の通りを良くする。袋体は、被検面の凹凸に応じて変形可能とされているので、被検体に凹凸があったとしても、袋体と中の高分子吸収体がそれに倣って変形し、袋体と被検体のと間に空気が入り込むことを防止できる。なお、「穴」とは、編まれた線状体で形成されるメッシュ(例えば、後記第2の手段で示すようなもの)でもよい。
【0009】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、前記袋体が布又は目の細かい網で形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
袋体を形成する物質としては、布が入手しやすく、かつ、そのメッシュを調節することにより、高分子吸収体を安定して収納し、かつ、適量の水を透過させることができる。又、その厚さ、硬さを調整することにより、通常の状態では所定の形状を保ち、かつ、被検体の凹凸に倣うようにすることができる。しかし、所定の形状を保つことは必須の条件でなく、変形しても、超音波の伝搬が妨げられなければ問題はない。同様のことは、極細銅線等を用いた目の細かい網でも実現できる。
【0011】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段、又は第2の手段であって、前記袋体中に水を供給する給水管を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
給水管を通して高分子吸収体に水を供給することにより、この超音波探触子を連続して使用することができる。
【0013】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第1の手段又は第2の手段であって、前記袋体中に水と高分子吸収体を供給する給水管と、前記袋体からの水と高分子吸収体を排出する排水管を設けたことを特徴とするものである。
【0014】
本手段は、前記第3の手段と異なり、袋体の中に、水と一緒に高分子吸収体を供給し、袋体から排出される水と高分子吸収体を排出管から排出する。これによって、袋体に適度な膨らみを維持させつつ、袋体が破裂しないようにすることができる。よって、袋体の中は、いつも高分子吸収体で満たされた状態となり、前記第3の手段と同様の効果が得られる。
【0015】
前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のうちいずれかの超音波探触子を有することを特徴とする超音波探傷装置である。
【0016】
本手段においては、超音波の伝搬経路に空気が入り込むことを避けることができるので、安定して超音波探傷を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単な構造で、超音波の伝搬経路に空気が入りにくい超音波探触子、及びそれを使用した超音波探傷装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例である超音波探触子を示す図である。図1において、超音波探触子本体1は、探触子ホルダ2に収納されている。超音波探触子本体1と探触子ホルダ2には、超音波探触子本体1の超音波送受信面に接するように、布製の袋体3が設けられ、袋体3中には高分子吸収体4が収納されている。
【0019】
超音波吸収体4は、紙おむつや生理用ナプキン等に使用されている吸水性ポリマーであり、その体積に対して100〜1000倍もの水を吸収して膨潤するものである。例えば、
サンダイヤポリマー株式会社製の商品名アクアパールとして販売されているものを使用することができる。
【0020】
この高分子吸収体4に給水管5から水を供給すると、高分子吸収体4は水を吸収して膨潤し、袋体3の中一杯に広がり、袋体3を押し広げる。余った水は、袋体3の外にも流れ出るが、排水管6からも排水される。
【0021】
この状態で、図1(a)に示すように、袋体3を被検体7に押し付けて超音波探傷を行う。その際、膨潤した高分子吸収体4は、互いに密着し、その界面での超音波の反射量は極わずかであって、超音波の透過状態は水中を透過する場合とほとんど変わらない。高分子吸収体4から袋体3の外側に流れ出した水は、袋体3と被検体7の境界面を潤し、超音波の透過状態を良好にする。
【0022】
袋体3の布のメッシュは、膨潤した高分子吸収体4を通過させず、水を通過させるような大きさとしておく。又、袋体3の布の硬さと厚さは、超音波探触子本体1と探触子ホルダ2が円筒状であれば、ある程度円筒状が保たれ、かつ、被検体7の凹凸に倣えるようなものとしておく。しかし、ある程度円筒状が保たれることは必須の条件でなく、袋体3が変形しても、超音波の伝達が妨げられなければ問題はない。又、この布は、被検体7に接触して相対移動するので、耐摩耗製のあるものを使用するのが望ましい。例として、洗濯時に用いる保護袋に使用されている布や、極細銅線等を用いた目の細かい網を用いることができる。
【0023】
図1(b)は、被検体7に凹部がある場合の探傷状態を示すものである。袋体3が被検体7の凹部に倣って変形するので、被検体7と袋体3との間に空気が入り込まず、探傷状態が妨げられることがない。
【0024】
なお、図1においては、給水管5と排水管6とを設けて水を連続給水しているが、超音波探触子を連続使用するのでなければ、給水管5と排水管6とを設けず、使用の都度、適当な時間間隔で、袋体3を水に浸して高分子吸収体4を膨潤させて使用するようにしてもよい。又、供給する水の量が非常に少なく、袋体3を通して外部に排出可能であれば、給水管5のみを設けて排水管6を設ける必要はない。
【0025】
さらに、図1においては、給水管5と排水管6を袋体3の外側に設けているが、図2に示すように、超音波探触子本体1と探触子ホルダ2を袋帯で包み込むようにし、水と共に高分子吸収体4を袋体3中に供給し、余った水と高分子吸収体4を袋体3中から排出するようにしてもよい。そして、水量と高分子吸収体の供給量と排出量を調節することにより、袋体に適度な膨らみを維持させつつ、袋体が破裂しないようにする。このようにしても、袋体3中は高分子吸収体4で満たされ、安定した探傷を行うことができる。さらに、図1の場合は、超音波が袋体を2回通過するが、図2の場合には、1回しか通過しないので、図2のようにした方が、図1のような場合より、超音波の減衰が若干少ない。
【0026】
なお、図1に示すような超音波探触子を、被検体7から引き離しても、高分子吸収体の水保持力が強いので、袋体3中に空気が入ることがない。よって、再び超音波探触子を被検体7に接触させれば、直ちに探傷を開始することができ、従って、遠隔操作が容易であり、自動超音波探傷の場合に有利である。
【0027】
さらに、従来法に比較して使用する水の量が少なくて済むので、その分ランニングコストを安価にすることができる。なお、図1においては、垂直探傷用超音波探触子を例として示したが、本発明が射角探傷用探触子にも使用できることは言うまでもない。
【0028】
図3は、本発明の実施例である超音波探触子を用いた場合のBエコーの大きさを、水浸法の場合と比較して示した図である。Bエコーの大きさを同じ大きさに保つための超音波探傷装置のゲインは、水浸法の場合には35.5dBであり、同じ超音波探触子本体を用いている本発明の実施例の超音波探触子を用いた場合は、38.0dBであった。よって、両者のゲインの差は、2.5dBであり、他の例においても、2〜4dBであった。よって、本発明の実施例における超音波の減衰は非常に小さく、探傷上問題とならないことが分かる。
【0029】
本発明の実施の形態である超音波探傷装置においては、超音波探触子が通常のものと異なるだけであり、他に違いはないので、その説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の1例である超音波探触子を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の例である超音波探触子を示す図である。
【図3】本発明の実施例である超音波探触子を用いた場合のBエコーの大きさを、水浸法の場合と比較して示した図である。
【符号の説明】
【0031】
1…超音波探触子本体、2…探触子ホルダ、3…袋体、4…高分子吸収体、5…給水管、6…排水管、7…被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子吸収体を、当該高分子吸収体が水を吸収したときの前記高分子吸収体を通過させず水を通過させる大きさの穴を複数有する、被検面の凹凸に応じて変形可能な袋体で包み込んだものを、超音波の送受信面に取り付けたことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記袋体が布又は目の細かい網で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記袋体中に水を供給する給水管を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記袋体中に水と高分子吸収体を供給する給水管と、前記袋体からの水と高分子吸収体を排出する排水管を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の超音波探触子を有することを特徴とする超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−8745(P2008−8745A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179338(P2006−179338)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(591248577)東京理学検査株式会社 (5)
【Fターム(参考)】