説明

超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法

【課題】タンデム構成による斜角探傷であっても、カップリングチェックを容易に行えるようにする。
【解決手段】検査対象(鋼管1)に対し超音波8を送波する送波部6と、検査対象(1)からの反射波(9)の一部又は全部を受波する受波部7とを有し、前記送波部6及び前記受波部7が、一又は二以上のアレイ探触子5上の異なる振動子群からなる送受信部を備え、検査対象(1)に対して開口幅が広い超音波ビーム8を集束して送波するようにされた超音波斜角探傷装置のカップリングチェックに際し、超音波ビームの開口幅を探傷時より狭めて、指向性が低い超音波ビームを検査対象(1)表面に略垂直に当て、表面エコーを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法に係り、特に、溶接鋼管の溶接部に発生する微小な欠陥を超音波探傷で精度良く検出するための超音波斜角探傷装置に用いるのに好適なカップリングチェック方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接鋼管では溶接部の品質が非常に重要であり、製造工程においては一般に超音波斜角探傷によって溶接部のオンライン探傷が行われている。この方法は、被検材の検査面に対して斜めに超音波を入射させ、欠陥で反射した反射波から被検材の内外表面欠陥および内部欠陥を検出するものである。通常、例えば電縫管では5MHzで45゜の屈折角を持つ超音波ビームによる反射法が適用され、mmオーダーの大きさの欠陥、例えば溶込不良、溶け落ち、介在物による割れなどの欠陥が検出される。
【0003】
一方、最近では溶接鋼管に対する品質要求が厳しくなり、従来よりも小さい欠陥の検出が求められるようになってきている。例えば、電縫管では冷接欠陥や微小ペネトレータ、レーザー溶接管ではブローホールなどで、これらの欠陥の大きさは数10μm〜数100μmと非常に微小である。また、発生位置は溶接線に沿って内面から外面までのいずれの場所でも発生する可能性があり、欠陥の位置によっては超音波ビームの入射点と帰点が異なってしまう。これらの影響のため、従来実用されている超音波探傷法では検出できない場合が多く、より精度良く検出できる技術が求められている。
【0004】
溶接鋼管などの溶接部に存在する微小欠陥を検出する方法として、アレイ探触子によりフォーカスビームを形成して検出能を向上させ、セクタスキャンによって溶接部の内面側から外面側までをスキャンするようにしてブローホールを検出できるような技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
このような超音波探傷においては、探傷を行なう前や探傷中に探触子から適切にビームが検査対象に入射しているかどうかの確認するカップリングチェックを行う必要がある。
【0006】
そこで、特許文献2では、図6に示す如く、4分の1円柱状のくさび60の表面上に、例えば1〜64CHの超音波振動子62を周状に並べて、くさび60の頂点よりにある16個の超音波振動子を使って垂直探傷を実施することにより、表面エコーを検出して、カップリングチェックを行うことが記載されている。図において、1は鋼管、2は、その溶接部である。
【0007】
【特許文献1】特開平11−183446号公報
【特許文献2】特開2006−47328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、曲率を持ったくさび60が必要であり、また、カップリングチェックを行なう必要がある位置は一箇所(一点)であるため、超音波の入射点が一点に限られてしまうという問題がある。つまり、くさびを用いない、水浸探傷の場合には適用できないし、カップリングチェックを行なう領域が広範囲である場合にも対応できないという問題点を有していた。更に、くさびを用いた場合であっても、くさびは音速が大きく走査線による減衰の差が大きいので、特にリニアアレイ探触子のように走査線の長さが違うと、感度変動が大きくなり、正確なカップリングチェックができない恐れもあった。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、水浸法で、カップリングチェックを行なう領域が広い超音波探傷において、別体のチェック手段を設けることなく、正確なカップリングチェックを容易に行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、検査対象に対し超音波を送波する送波部と、検査対象からの反射波の一部又は全部を受波する受波部とを有し、前記送波部及び前記受波部が、一又は二以上のアレイ探触子上の異なる振動子群からなる送受信部を備え、検査対象に対して開口幅が広い超音波ビームを集束して送波するようにされた超音波斜角探傷装置のカップリングチェックに際し、超音波ビームの開口幅を探傷時より狭めて、指向性が低い超音波ビームを検査対象表面に略垂直に当て、表面エコーを検出することを特徴とする超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法である。
【0011】
又、本発明の請求項2に係る発明は、カップリングチェック時は、アレイ探触子上の振動子群の同時励振数を、探傷時より少なくして、超音波ビームの開口幅を狭めることを特徴とする請求項1に記載のカップリングチェック方法である。
【0012】
又、本発明の請求項3に係る発明は、前記カップリングチェックと探傷を交互に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、タンデム構成による斜角探傷であっても、別体のチェック手段を設けることなく、正確なカップリングチェックを容易に行うことが可能になる。又、音速が大きなくさびを用いた場合は、入射角が大きくなるため走査線による減衰の差が大きくなり、特に長さが長いリニアアレイ探触子において、位置による感度変動が問題となるが、本発明によれば、音速の小さな水を用いることができるので、くさびに比べて位置による感度変動が少ない正確なカップリングチェックを行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を、アレイ探触子を用いて、送波用振動子群と受波用振動子群を異ならせて探傷するタンデム探傷で、局部水浸により、溶接鋼管の溶接部を探傷する場合を例にあげて、以下に図面を参照しながら説明していく。図1は、本発明の構成例を説明する図である。図中、1は被検体である鋼管、2は溶接部、3は肉厚内部の欠陥、4は超音波を伝達させるための水、5はリニアアレイ探触子、6は送波用の振動子群、7は受波用の振動子群、8は送波ビーム、9は欠陥から受波用の振動子群に向かう超音波を示す部分(以下、受波ビームとも呼ぶ)をそれぞれ表す。
【0015】
ここでは、タンデム探傷であるので、図3に示すように、アレイ探触子の振動子群の一部を送波用振動子群とし、溶接部の各探傷位置に対して、所定の集束度で集束し、かつ、所定の偏向角や所定の入射角となるように、各振動子に対して、遅延時間を設定する。そして、溶接部で反射した超音波のうち、正反射成分を主に受波するように、内面反射後に、前記送波用振動子群とは異なる振動子群を用いた受波用振動子群をアレイ探触子の中から選択するように制御される。また、検出能を向上するために、管軸方向に対しても、音響レンズ、または、曲面振動子を用いて集束するようになっている。ここでは1つのアレイ探触子を用いた例で説明するが、2つ以上のアレイ探触子で探傷領域を分割したり、また、それぞれを送波用、受波用とした場合でも、本発明は適用可能である。
【0016】
そして、溶接部は鋼管肉厚方向(管径方向)の内面から外面の範囲にわたって検査する必要があるので、図4に示すように、受波用振動子群、および、送波用振動子群の位置を制御して、超音波の集束位置が厚み方向で変化して、走査するようになっている。管軸方向に関しては、機械的に、鋼管あるいは探触子を移動させることによって、管体の溶接部全てを検査可能としている。図1および図3は、鋼管肉厚方向に走査する過程で、欠陥3の位置に送波ビームおよび受波ビームの集束点が一致するようなタイミングの状態を示したもので、一点鎖線の矢印の向きに超音波ビームが伝播している。また、一点鎖線の両側にある実線が、送波ビーム8および受波ビーム9の幅を示し、その中間に引いてある一点鎖線はそれぞれの走査線を示す。
【0017】
図5は、上述のアレイ探触子を用いた探傷を行なうためのシステム構成を示したものである。被検体サイズ入力部30では、オペレータあるいはプロセスコンピュータから、探傷を行う鋼管の外径、肉厚の値が入力される。アレイ探触子記憶部31には、アレイ探触子5の周波数、振動子ピッチ、振動子数が記憶されている。
【0018】
送受信制御部32では、鋼管のサイズおよびアレイ探触子の仕様に応じて、ビームサイズや送波用アレイ探触子の位置、送波用走査線の数、各走査線の送波用ビームの経路、各走査線の送波用振動子群の振動子数、送波用振動子群の位置、焦点距離、偏向角を計算し、さらに走査線毎に各振動子の遅延時間を計算する。このように決定された上記の各値をここではアレイ送信則と呼ぶ。
【0019】
送受信制御部32では、又、鋼管のサイズおよびアレイ探触子の仕様に応じて、アレイ探触子の位置、受波用走査線の数、各走査線の受波用ビームの経路、各走査線の受波用振動子群の振動子数、受波用振動子群の位置、焦点距離、偏向角を計算し、さらに走査線毎に各振動子の遅延時間を計算する。このように決定された上記の各値をここではアレイ受信則と呼ぶ。さらに、送受信制御部32にて計算されたビームの経路に基づき欠陥検出用のゲート位置を決定してゲート位置記憶部33に記憶する。
【0020】
なお、ここで、アレイ受信則は先に求めたアレイ送信則に基づいて決定しても良いし、反対にアレイ受信則を先に求めてそれに基づいてアレイ送信則を決定しても良い。このようにして決定されたアレイ送信則とアレイ受信則はそれぞれアレイ送信則記憶部34とアレイ受信則記憶部35にて記憶され、以下の送受信制御に用いられる。
【0021】
アレイ送信部36では、アレイ送信則記憶部34に記憶されたアレイ送信則に基づいて、送波用の振動子群を選択し、各素子に遅延時間を付けて送信パルスを発生する。アレイ受信部37では、アレイ受信則記憶部35に記憶されたアレイ受信則に基づいて、受波用の振動子群を選択し、各素子に遅延時間を付けて信号を加算し、探傷波形を得る。ゲート部38では、ゲート部記憶部33に記憶されたゲート位置の信号を抽出する。
【0022】
欠陥判定部40では、判定しきい値入力部39に入力された欠陥判定しきい値と、ゲート内の信号強度とを比較し、信号強度がしきい値以上であれば欠陥と判定する。このようにして1走査線の探傷が終了したら、アレイ送信則記憶部34に記憶されたアレイ送信則に基づいて、次の送波用の振動子群を選択し、以下上記と同様に探傷を繰り返し行う。なお、欠陥の判定については、信号強度がしきい値以上となる場合が複数回あった時に欠陥と判定するようにしても良い。
【0023】
リニアアレイ探触子5は、図1に示すように局部水浸ノズル50にて保持される構造となっている。この局部水浸ノズル50は、リニアアレイ探触子5に対して給水口52を設けて水柱を形成するようにされている。しかしながら、このような局部水浸ノズルの構造であっても、なんらかの操業異常によって、水流の乱れや気泡の発生などの可能性があるので、検査中、定期的にカップリングが正常か否かを確認する必要がある。一般的には、管体外面あるいは内面からの反射波を受波して、その信号強度が所定の強度になっているか否かによって、カップリングが正常となっているか判断すればよい。
【0024】
まず、図1(a)のような、通常のタンデム探傷と同じように送波ビームと受波ビームを形成してカップリングチェックができるか検討する。この場合、斜角探傷であり、そのビーム設定は、ビームを集束させるため、振動子を多く用い、開口幅を広くしている。例えば、開口幅20.8mm、同時励振素子数26CH(ピッチ0.8mm)等である。そして、超音波の入射角は例えば18.9°に設定されるので、このような入射角では表面エコーをほとんど検出できずカップリングをチェックできない。そこで、表面エコーを検出するために、およそ−15°〜−23°(振動子の場所によって異なる)の偏向角を付けて、超音波の入射角を0°にすれば良いと考えられるが、実際には、管軸方向を集束させるための音響レンズまたは曲面振動子の影響で、このような偏向角を付けることは困難である。なぜならば、音響レンズまたは曲面振動子の焦点距離は、アレイの位置によって異なるため、開口が大きいと位相が乱れてしまい、遅延時間制御で偏向角を設定することが困難となるからである。
【0025】
そこで、本発明では、探傷時の設定とは異なる、図1(b)に示すような、開口幅を振動子1〜4CH程度を用いて、狭くし、指向角が広い超音波ビームを鋼管1の表面に照射する。このとき、遅延時間制御は基本的に行わないようにする。このようにすると、開口幅は0.8〜3.2mmとなり、指向角が広くなり、約垂直に表面に入射した表面エコーを検出できるようになる。
【0026】
例えば、開口幅0.8mmであると、2MHzの成分は指向角±36°、開口幅1.6mmであると、2MHzの成分は指向角±18°である。探傷に使う周波数は、例えば5〜15MHzの範囲であるが、実際には2MHz程度の成分も含まれているため、表面エコーを検出できるようになる。あるいは、開口が4CH程度であれば、位相の乱れは少ないため、遅延時間制御で偏向角を設定することもでき、表面エコーを検出できるようになる。
【0027】
そして、得られた、表面エコーの信号強度に基づいて、カップリングが良好か否かを判断する。
【0028】
確認する方法としては、例えば、図2(a)〜(c)に示すように、横軸を受波振動子位置(管体の周方向に対応)、縦軸に伝播時間をとり、各伝播時間に対応する信号強度を明暗で示すような表示を行なわせて、その表示状態を確認すればよい。たとえば、アレイ探触子全面に水が満たされて、全ての振動子(つまり、局部水浸ノズルの管体周方向の全ての領域)において表面エコーを受波できる状態で、カップリングが良好であれば、図2(a)に示すように表面全体に渡る所定の信号強度の表面エコーが得られる(図では、大きい信号強度を黒い点で表示し、信号強度が低い場合は白表示としている)。これに対して、水の一部が足りず、一部の振動子が水でなく空気と接しているような状態では、水と接していない箇所は超音波が伝播しないため、カップリングが不良となり、図2(b)に示すように、一部の振動子では表面エコーが得られず、表示では、図2(a)に対して一部が消失することになる(図では、黒い点が表示されていない箇所)。さらに、図2(c)に示すように、水が不足する領域が広がると、表面エコーが得られる振動子数が少なくなるので、表示においては表面エコーの大部分が消失する(図では、黒い点が表示される領域が少なくなっている)。図2は開口2chでのデータである。
【0029】
なお、図2のような表示画面を用いなくとも、受波振動子を変更したときに、各々の受波振動子で受信した波形において、表面エコーが得られる伝播時間範囲(ゲート範囲)に所定の所定強度以上の信号があるか否かを判断するようにしてもよく、その判断手法は特に問わない。このようにして、表面エコーの強度が所定の閾値より低下したら、カップリング不良と判定することができる。
【0030】
又、斜角探傷(タンデム探傷)のスキャンと、カップリングチェックのスキャンを、送受信制御部を用いて、適宜切り替えることができるので、例えば、交互に行い、常に安定した状態で検査を行なうことが可能となる。カップリング不良は広い範囲で発生するため、カップリングチェックのスキャンでは、一素子ずつ移動させる必要はなく、アレイ探触子の長さの範囲を、例えば3〜5か所程度で分割して、それらを同時に行なうようにして、移動させてもよい。
【0031】
本実施例においては、カップリングチェック時は、アレイ探触子上の振動子群の同時励振数を、探傷時より少なくして、超音波ビームの開口幅を狭めるようにしていたので、構成が簡略である。
【0032】
なお、給水口及び給水出射口の位置や形状は、実施例に限定されない。検査対象も鋼管に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例を説明する図
【図2】前記実施例のカップリングチェックの様子を示す図
【図3】同じく斜角探傷の様子を示す図
【図4】同じく走査の手順例を示す図
【図5】本発明に係る超音波探傷装置の機能構成例を示す図
【図6】特許文献1に記載された従来技術を示す斜視図
【符号の説明】
【0034】
1…鋼管
2…溶接部
3…欠陥
4…水
5…アレイ探触子
6…送波用の振動子群
7…受波用の振動子群
8…送波ビーム
9…受波ビーム
30…被検体サイズ入力部
31…アレイ探触子記憶部
32…送受信制御部
33…ゲート位置記憶部
34…アレイ送信則記憶部
35…アレイ受信則記憶部
36…アレイ送信部
37…アレイ受信部
38…ゲート部
39…判定しきい値入力部
40…欠陥判定部
50…局部水浸ノズル
52…給水口
54…給水出射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に対し超音波を送波する送波部と、
検査対象からの反射波の一部又は全部を受波する受波部とを有し、
前記送波部及び前記受波部が、一又は二以上のアレイ探触子上の異なる振動子群からなり、かつ、局部水浸ノズル内に保持される送受信部を備え、
検査対象に対して開口幅が広い超音波ビームを集束して送波するようにされた超音波斜角探傷装置のカップリングチェックに際し、
超音波ビームの開口幅を探傷時より狭めて、指向性が低い超音波ビームを検査対象表面に略垂直に当て、表面エコーを検出することを特徴とする超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法。
【請求項2】
カップリングチェック時は、アレイ探触子上の振動子群の同時励振数を、探傷時より少なくして、超音波ビームの開口幅を狭めることを特徴とする請求項1に記載のカップリングチェック方法。
【請求項3】
前記カップリングチェックと探傷を交互に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波斜角探傷装置のカップリングチェック方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−286639(P2008−286639A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131980(P2007−131980)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】