説明

超音波洗浄装置

【課題】簡単な構成で均一な洗浄ができる低コストの超音波洗浄装置を提供する。
【解決手段】少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子と、該振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記発振器は発振周波数を周期的に変化させることができるものであり、少なくとも前記1つの洗浄槽に備えられる複数の超音波振動子のうち少なくとも2つは互いに異なる固有周波数を有するものである超音波洗浄装置、及び少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた少なくとも1つの超音波振動子と、該振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものである超音波洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波洗浄装置に関し、より詳しくは、簡単な構成で均一な洗浄ができる低コストの超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品や半導体部品等の洗浄には超音波洗浄装置が用いられている。超音波洗浄装置は、例えば洗浄液を収容するための洗浄槽と、該洗浄槽の外壁面に備えられた例えばセラミック製の圧電素子からなる超音波振動子と、それを駆動する発振器とを備えるものである。そして、発振器により超音波振動子の固有周波数に相当する周波数の変調電圧を印加すると、超音波振動子が固有周波数で振動し、その振動により洗浄槽に収容された洗浄液中に超音波が照射され、洗浄液面や槽壁等を境界とする定在波が形成される。そして、定在波の腹に当たる洗浄液が大きく振動し、この振動による音圧で、保持治具等により洗浄槽中に保持された洗浄物が洗浄される。
【0003】
しかし、洗浄液中の定在波の波形は、洗浄槽の形状、超音波振動子の設置位置や周波数、洗浄液の液種、液温、液深等により決定されるので、上記条件が一定の下では定在波の腹と節の位置も変わらない。そして定在波の節の位置では洗浄液がほとんど振動しないので、洗浄物のうちで定在波の節の位置に保持されたものは洗浄が充分に行なわれない。このため、充分な洗浄が行なわれなかったり、また均一に洗浄ができず洗浄ムラが発生するなどの問題があった。
【0004】
このため、定在波の腹の位置を変え、洗浄物に定在波の腹の部分が一様に当たるようにして洗浄ムラや洗浄不足を解消し、均一に洗浄するために、超音波振動子に印加する周波数を時間的に変化させたり、周波数が互いに異なる複数の超音波振動子を備える超音波洗浄装置が開示されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0005】
また、洗浄物の位置を時間的に変え、洗浄物に定在波の腹の部分が一様に当たるようにして洗浄ムラや洗浄不足を解消し、均一に洗浄するために、洗浄液中で洗浄物を上下動させて洗浄物の位置を変える方法も行なわれていた。
【0006】
一方、近年、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話のレンズ、また医療用レンズ、あるいはこれらと共に用いられる電子部品や金属加工部品等の需要の増加に伴い、これらの小型精密部品を洗浄するのに適する小型の洗浄装置に対する要求が高まってきた。
【0007】
【特許文献1】特開平7−171526号公報
【特許文献2】特開平8−131978号公報
【特許文献3】特開2001−198421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡単な構成で均一な洗浄ができる低コストの超音波洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明は、少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子と、該超音波振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記発振器は発振周波数を周期的に変化させることができるものであり、少なくとも前記1つの洗浄槽に備えられる複数の超音波振動子のうち少なくとも2つは互いに異なる固有周波数を有するものであることを特徴とする超音波洗浄装置を提供する(請求項1)。
【0010】
このように、少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子と、該振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を洗浄槽中に保持する保持治具とを具備し、発振器が発振周波数を周期的に変化させることができるものであり、少なくとも1つの洗浄槽に備えられる複数の超音波振動子のうち少なくとも2つが互いに異なる固有周波数を有するものであれば、1つの発振器で周期的に変化させた発振周波数により異なる固有周波数の超音波振動子をタイミングをずらして駆動できる。このようにして、洗浄液中に発生する定在波の波長、振幅を時間的に変動させ、定在波の腹の位置を移動できるので、洗浄液の超音波振動モードが均一となり、均一で効果的な洗浄が可能となる。また、1つの発振器で複数の超音波振動子を駆動するので、発振器等の部品点数の削減、制御回路構成の簡易化による低コスト化が可能になる。また洗浄装置の小型化にも適するものとなる。
【0011】
この場合、前記超音波洗浄装置は複数の洗浄槽を備え、該複数の洗浄槽のうち少なくとも2つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子を前記1つの発振器により駆動するものであることが好ましい(請求項2)。
このように、複数の洗浄槽のうち2つ以上の洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子を1つの発振器により駆動するものとできるので、発振器等の部品点数の削減、回路構成の簡易化の効果がより顕著なものとなる。特に小型の洗浄槽では、必要な電力も小さなものとなるため、このように構成するメリットが大きい。
【0012】
また、前記複数の洗浄槽は、液種、液温、液深のうち少なくとも一つが互いに異なる洗浄液を収容するものとできる(請求項3)。
このように、液種、液温、液深(液量)等の洗浄条件のうち少なくとも一つが互いに異なる洗浄液を収容するものの場合、各洗浄槽に洗浄条件の差異に応じた超音波振動子を備える必要がある。従来はそれに応じて各洗浄槽に異なる発振器を用意する必要があったが、本発明では、発振器の周波数を周期的に変化させて異なる固有周波数を有する超音波振動子を振動させるので、何れの洗浄槽も同一の発振器で駆動できる。
【0013】
また、前記超音波振動子の固有周波数は、25〜70kHzの範囲内であることが好ましい(請求項4)。
このように、超音波振動子の固有周波数が25〜70kHzの範囲内で互いに異なるものであれば、このような固有周波数の振動子は従来の超音波洗浄装置に用いられるものであり、安価で信頼性の高いものを使用できる。またこのような周波数範囲で周期的に変化させることができる発振器も容易に準備できるので好ましい。
【0014】
また、前記超音波振動子の固有周波数の周波数間隔は、0.5〜5kHzのいずれかであることが好ましい(請求項5)。
このように、超音波振動子の互いに異なる固有周波数の周波数間隔が0.5〜5kHzのいずれかであれば、超音波振動子の数が多くても、発振器の限られた可変周波数領域内でそれらに異なる周波数を割り当てることができ、また定在波の位置を移動させて洗浄物を均一に洗浄するのに充分な周波数間隔とできる。なお、周波数間隔は等間隔であっても、不等間隔であってもよい。
【0015】
また、前記発振器は、繰返し周期が4〜12回/minであることが好ましい(請求項6)。
このように、発振器の繰返し周期が4〜12回/minであれば、定在波の位置を移動させて洗浄物を均一に洗浄するのに充分な繰り返し周期であり、また後述する揺動機構と組み合わせる場合にも適する繰り返し周期である。
【0016】
また、前記超音波洗浄装置は、前記保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものであることが好ましい(請求項7)。
このように、保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものであれば、保持治具により洗浄液中に保持される洗浄物を円弧揺動させることができ、洗浄物は様々な状態の定在波に確実に当たることとなるので、より均一な洗浄が可能になる。また洗浄液を攪拌する効果も得られるので、より高い洗浄効果が得られる。
【0017】
また、前記揺動機構は、前記発振器の繰返し周期と同期させて前記保持治具を円弧揺動させるものであることが好ましい(請求項8)。
このように、揺動機構が発振器の繰返し周期と同期させて保持治具を円弧揺動させるものであれば、定在波の振幅が特に大きい位置に常に洗浄物を移動させることができ、より高い洗浄効果を得ることができる。
【0018】
また、前記円弧揺動の揺動幅は、前記超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることが好ましい(請求項9)。
このように、円弧揺動の揺動幅が超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであれば、これらの条件により決定される定在波の腹がより一様に洗浄物に当たるような揺動幅とできるので、より効果的に均一な洗浄ができる。
【0019】
また、前記揺動機構は、モーターと、該モーターにより回転運動する少なくとも1組の偏心カムと、該偏心カムに軸支され前記保持治具を支持する支持機構とを具備し、前記モーターにより回転運動する前記偏心カムが前記支持機構を円弧揺動させることにより、前記保持治具を円弧揺動させるものであることが好ましい(請求項10)。
このように、モーターにより回転運動する偏心カムが、偏心カムに軸支される支持機構を円弧揺動させることにより、保持治具を円弧揺動させるものであれば、偏心カムの回転運動により作り出される円弧揺動運動が支持機構を介して効果的に保持治具に伝達するので、保持治具に保持された洗浄物を簡単に且つ効果的に円弧揺動することができる。
【0020】
また、前記揺動機構は、前記偏心カムに前記支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであることが好ましい(請求項11)。
このように、揺動機構が偏心カムに支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであれば、洗浄条件に応じて軸支する位置を変えるだけで揺動幅を容易に調整することができ、洗浄条件が異なっても洗浄物を均一に洗浄できる揺動幅とできる。
【0021】
また、前記軸支する位置は、前記偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであることが好ましい(請求項12)。
このように、軸支する位置が偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであれば、軸支する位置を簡単に変えることができるので、揺動幅を容易に調整することができ、洗浄物を均一に洗浄できる揺動幅とできる。
【0022】
また、本発明は、少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた少なくとも1つの超音波振動子と、該超音波振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものであることを特徴とする超音波洗浄装置を提供する(請求項13)。
【0023】
このように、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた少なくとも1つの超音波振動子と、該超音波振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を洗浄槽中に保持する保持治具とを具備し、且つ保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備する超音波洗浄装置であれば、保持治具により洗浄液中に保持される洗浄物を円弧揺動させることができ、洗浄物は洗浄液中に発生する様々な状態の定在波に確実に当たることとなるので、より均一な洗浄が可能になる。また洗浄液を攪拌する効果も得られるので、より高い洗浄効果が得られる。
【0024】
この場合、前記円弧揺動の揺動幅は、前記超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることが好ましい(請求項14)。
このように、円弧揺動の揺動幅が超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであれば、これらの条件により決定される定在波の腹がより一様に洗浄物に当たるような揺動幅とできるので、より効果的に均一な洗浄ができる。
【0025】
また、前記揺動機構は、モーターと、該モーターにより回転運動する少なくとも1組の偏心カムと、該偏心カムに軸支され前記保持治具を支持する支持機構とを具備し、前記モーターにより回転運動する前記偏心カムが前記支持機構を円弧揺動させることにより、前記保持治具を円弧揺動させるものであることが好ましい(請求項15)。
このように、モーターにより回転運動する偏心カムが、偏心カムに軸支される支持機構を円弧揺動させることにより、保持治具を円弧揺動させるものであれば、偏心カムの回転運動により作り出される円弧揺動運動が支持機構を介して効果的に保持治具に伝達するので、保持治具に保持された洗浄物を簡単に且つ効果的に円弧揺動することができる。
【0026】
また、前記揺動機構は、前記偏心カムに前記支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであることが好ましい(請求項16)。
このように、揺動機構が偏心カムに支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであれば、洗浄条件に応じて軸支する位置を変えるだけで揺動幅を容易に調整することができ、洗浄条件が異なっても洗浄物を均一に洗浄できる揺動幅とできる。
【0027】
また、前記軸支する位置は、前記偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであることが好ましい(請求項17)。
このように、軸支する位置が偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであれば、軸支する位置を簡単に変えることができるので、揺動幅を容易に調整することができ、洗浄物を均一に洗浄できる揺動幅とできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡単な構成で均一な洗浄ができる低コストの超音波洗浄装置が提供される。特に小型の洗浄槽を具備する装置により、小型の精密部品等を均一かつ低コストで洗浄するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明について詳述する。
前述のように、超音波洗浄装置の洗浄ムラや洗浄不足等の問題を解決するために、様々な技術が開示されているが、これらは超音波振動子毎に発振装置を備えるものであったり、複雑な制御方法を必要とするものであった。また、洗浄物を上下動する方法では、上記問題に対する充分な効果が得られなかった。
また、近年、小型の超音波洗浄装置に対する要求が高まってきており、装置の導入コスト削減等のため、均一な洗浄が可能であって低コストなものが望まれていた。
【0030】
そこで本発明者らは、このような要求に応えるため、従来は1つの洗浄槽に備えられる複数の超音波振動子として固有周波数が同一のものが用いられ、これを駆動する発振器の周波数を可変としていたのに対し、少なくとも2つが互いに固有周波数が異なる複数の超音波振動子を、周期的に変化する発振器により駆動することに想到した。このようにすれば、複数の超音波振動子のうち、発振周波数と整合する固有周波数の超音波振動子が主に振動する。その結果、発振周波数の周期的な変化により周波数が整合する超音波振動子が経時的に変わっていくので、異なる周波数で振動する超音波振動子がタイミングをずらして振動することとなる。こうして洗浄液中に発生する定在波の波長、振幅が時間的に変動し、定在波の腹の位置も移動するので、洗浄液の超音波振動モードが均一となり、均一で効果的な洗浄が可能となる。また、1つの発振器で複数の振動子を駆動できるので、発振器等の部品点数の削減、回路構成の簡易化が可能になる。また、従来の超音波洗浄装置で採用されていた洗浄物を上下動させる方法では、洗浄物は幅の狭い限られた範囲内を直線的に移動するのみであり、充分な均一洗浄の効果が得られなかった。これに対して本発明者らは、洗浄物を円弧揺動させれば、洗浄物は様々な状態の定在波に確実に当たることとなり、より均一な洗浄が可能になること、また洗浄液を攪拌する効果も得られるので、より高い洗浄効果が得られることに想到した。そして、上記方法を実現する最良の装置構成について精査し、本発明を完成させた。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明の一つの実施形態に従う超音波洗浄装置の一例を示す概略図である。
この超音波洗浄装置10は、洗浄液1を収容する例えば縦断面が多角形の洗浄槽2と、多角形洗浄槽2の各面に備えられた複数の超音波振動子3a、3b、3c、3dと、超音波振動子3a〜3dを駆動させる1つの発振器4と、洗浄物5を洗浄槽中に保持する洗浄カゴ等の保持治具6とを具備するものである。そして、発振器4は発振周波数を周期的に変化させることができるものであり、超音波振動子3a〜3dは互いに異なる固有周波数を有するものである。
超音波洗浄装置10は、このような構成により、均一で効果的な洗浄が可能となり、また発振器等の部品点数の削減、制御回路構成の簡易化による低コスト化が可能になる。また洗浄装置に小型化にも適するものとなる。具体的な作用については後述する。
【0033】
多角形洗浄槽2の開口周縁部には洗浄液受け7が具備され、洗浄槽2からオーバーフローした洗浄液が洗浄液受け7により受けられ、その後回収、再利用等できるものが好ましい。図1では例示的に超音波振動子を4つ備える場合について示すが、複数であれば特に限定はされず、洗浄槽の形状、容積や洗浄物の種類等に応じて決定することができる。洗浄槽が例えば容積2〜3リットル程度の小型のものであれば、例えば3〜10個程度の超音波振動子を備えるものとできる。容積20〜30リットル程度のものであれば、18〜80個程度の超音波振動子を備えるものとできる。また、洗浄液1は、例えば純水や有機溶剤であり、液温は例えば5〜90℃とできる。
この場合、1つの洗浄槽に備えられる超音波振動子の数が多い場合等には、必ずしも全ての超音波振動子の固有周波数が相互に異なるようにする必要はない。例えば、50個の超音波振動子を備える場合には、それらを5グループに分け、5種類の固有周波数を有するものを用い、1つの洗浄槽に配置するようにすることもできる。
【0034】
また、超音波洗浄装置10は洗浄槽2の他に図示しない複数の洗浄槽を備え、複数の洗浄槽のうち少なくとも2つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子を1つの発振器により駆動することもできる。例えば、洗浄槽が8個ある場合には、1つの発振器で全ての洗浄槽の超音波振動子を駆動してもよいし、2つの発振器でそれぞれ4個の洗浄槽の超音波振動子を駆動してもよい。このようにすれば、発振器等の部品点数の削減、回路構成の簡易化の効果がより顕著なものとなる。
また、1つの洗浄槽に備えられる超音波振動子は固有周波数が互いに異なるものであるが、洗浄槽が異なれば、固有周波数が同じ超音波振動子があってもよい。
【0035】
そして、この複数の洗浄槽は、液種、液温、液深(液量)のうち少なくとも一つが互いに異なる洗浄液を収容するものとできる。洗浄液の液種、液温、液深等の洗浄条件が異なる場合、適切な定在波を発生させるために、各洗浄槽にこの洗浄条件の差異に応じた超音波振動子を備える必要があるので、従来はそれに応じて各洗浄槽に異なる発振器を用意する必要があったが、本発明では、発振器の周波数を周期的に変化させ、異なる固有周波数を有する超音波振動子を具備するので、何れの洗浄槽も同一の発振器で駆動できる。
【0036】
図2は、図1の超音波洗浄装置の作用を説明する説明図であり、(a)〜(f)は発振器の発振周波数に対する各超音波振動子が照射する超音波の様子を示す説明図であり、(g)は発振器の周波数に対する各超音波振動子の振幅強度を概略的に示すグラフである。
【0037】
はじめに、各超音波振動子3a〜3dの固有周波数がそれぞれf1〜f4であるとする。
まず、発振周波数がfsである場合、発振周波数は各超音波振動子3a〜3dの固有周波数のいずれとも整合しないので、各超音波振動子は、発振周波数fsで駆動された場合には小さい振幅で振動し、斜線部で概略的に示すように振幅の小さい超音波を照射する(図2(a))。このように、各超音波振動子は、固有周波数と完全には整合しない周波数で駆動された場合には小さい振幅で振動する。
【0038】
次に発振周波数が変化してf1となったとき、超音波振動子3aの固有周波数と整合するので、超音波振動子3aは大きな振幅で振動し、斜線部で概略的に示すように振幅が大きく強い超音波を照射し、他の超音波振動子は振幅の小さい超音波を照射する(図2(b))。
その後発振周波数がf2、f3、f4と変化したときは、それぞれ超音波振動子3b、3c、3dが振幅の大きい超音波を照射し、他の超音波振動子は振幅の小さい超音波を照射する(図2(c)〜(e))。
そして、発振周波数がfeに変化した場合、発振周波数は各超音波振動子の固有周波数のいずれとも整合しないので、各超音波振動子は振幅の小さい超音波を照射する(図2(f))。
このように、各超音波振動子3a〜3dは、発振周波数に応じた振幅強度で振幅する(図2(g))。
【0039】
そして、このように発振周波数を変化させることにより、それと固有周波数が整合する超音波振動子が順次変化するので、各超音波振動子は異なるタイミングで異なる位置に異なる周波数(すなわち異なる波長)の定在波を洗浄液中に形成する。そして、このような発振周波数の変化は周期的に繰り返されるので、このような作用により、定在波の位置が周期的且つ効果的に変化し、洗浄物に対する均一で効果的な洗浄が、一つの発振器により可能となる。
【0040】
超音波振動子は例えばセラミック製の圧電素子等を用いたものが利用できる。また固有周波数は、洗浄液内に定在波を効果的に発生できるものであれば特に限定されないが、25〜70kHzの範囲内であれば、このような固有周波数、例えば28kHz、40kHz等の超音波振動子は従来の超音波洗浄装置に用いられるものであり、洗浄効果も高く安価で信頼性の高いものを使用できる。またこのような周波数範囲で周期的に変化させることができる発振器も従来用いられており、容易に準備できるので好ましい。
【0041】
また、超音波振動子の固有周波数の周波数間隔が0.5〜5kHzのいずれか、例えば2.5kHzであれば、超音波振動子の数が多くても、発振器の限られた可変周波数領域内でそれらに異なる周波数を割り当てることができ、また定在波の位置を移動させて洗浄物を均一に洗浄するのに充分な周波数間隔とできる。なお、周波数間隔は等間隔であっても、不等間隔であってもよいが、例えば2.5kHzの等間隔配置とすることができる。
【0042】
また、このときの発振器の繰返し周期が4〜12回/minであれば、定在波の位置を移動させて均一に洗浄するのに充分な繰り返し周期であり、また後述する揺動機構と組み合わせる場合にも適する繰り返し周期である。尚、発振周波数特性は、周期的に変化するものであれば特に限定が無く、サイン波、鋸状波、三角波等の形状であってもよく、また非連続的に変化するものであってもよい。
【0043】
また、超音波洗浄装置10は、保持治具6を円弧揺動させる揺動機構20を具備することが好ましい。図3は、このような揺動機構の一例を示す概略斜視透視図である。この揺動機構20は、例えばモーター21と、モーター21と接続されて回転運動する一組の偏心カム24a、24bと、偏心カム24a、24bに軸支され保持治具6を支持する支持機構25とを具備するものとできる。モーター21と偏心カム24a、24bとは、プーリー22、タイミングベルト23等によって接続できる。支持機構25は、保持治具6を支持する支持部材25aと、偏心カム24a、24bに軸支される支持部材25bと、これらを接続する支持部材25cからなる。支持機構25は、さらに支持部材25dを備え、複数の洗浄槽2、2’’に備えられる複数の保持治具6、6’’を支持部材25dにより支持できるものとしてもよい。
【0044】
揺動機構20は、偏心カム24a、24bに支持機構25を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであることが好ましい。例えば、支持機構25を軸支する位置は、偏心カム24a、24bの同一位置に螺旋状に穿設された複数の軸穴26により可変とされるものとできる。このように、複数の軸穴26が螺旋状に穿設されていれば、各軸穴は偏心カムの回転軸からの距離、すなわち偏心量が異なるので、軸支する軸穴を変えることにより偏心量が変えることができ、それにより揺動幅を容易に調整できる。この場合、所望の揺動幅とするには、その1/2の偏心量となる軸穴で軸支すればよい。例えば、図3において支持部材25bが軸支されている軸穴26の回転軸からの偏心量はXなので、揺動幅は2Xとなる。
【0045】
この円弧揺動の揺動幅は、超音波振動子3a〜3dの固有周波数、洗浄液1の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることが好ましい。洗浄液中の定在波の位置はこれらの条件により決定されるので、それに応じて揺動幅を決定すれば、定在波の腹がより一様に洗浄物に当たるような揺動幅とできるので、より効果的に均一な洗浄ができる。
【0046】
また、揺動機構20は、発振器4の繰返し周期と同期させて保持治具6を円弧揺動させるものであることが好ましい。このようなものであれば、例えば発振器4の発振周波数と整合して大きい振幅で振動する超音波振動子が形成する振幅の大きい超音波が照射される位置や定在波の振幅が特に大きい位置に常に洗浄物を移動させることができ、より高い洗浄効果を得ることができる。
【0047】
図4は、図3の揺動機構による洗浄物5の円弧揺動の様子を示す概略図である。
このように、所定の条件で設定された揺動幅で洗浄物5を円弧揺動し、好ましくは発振器の繰返し周期と同期させて円弧揺動させれば、洗浄物に定在波の腹が効果的に当たり、均一で高い洗浄効果が得られる。このときの同期は、必ずしも発振器の繰返し周期と円弧揺動の周期とを同一とするものである必要はない。例えば発振器の1周期の間に円弧揺動が3周期行なわれてもよいし、発振器の3周期の間に円弧揺動が2周期行なわれてもよい。
【0048】
尚、このような揺動機構20に例示される揺動機構は、図1に示すような、発振周波数を周期的に変化させる発振器により、互いに異なる固有周波数を有する複数の超音波振動子を駆動させる超音波洗浄装置に具備されることにより、均一に洗浄するという作用効果を特に発揮できるものとなるが、それ以外の超音波洗浄装置に具備されても、上下動等の直線的にのみ揺動する機構に比べ均一に洗浄する効果を得ることができる。
【0049】
図5は、本発明のもう一つの実施形態に従う超音波洗浄装置の一例を示す概略図である。
この超音波洗浄装置10’は、洗浄液1’を収容する例えば縦断面が多角形の洗浄槽2’と、多角形洗浄槽2’の各面に備えられた複数の超音波振動子3’a、3’b、3’c、3’dと、超音波振動子3’a〜3’dのそれぞれを駆動させる発振器4’a、4’b、4’c、4’dと、洗浄物5’を洗浄槽中に保持する保持治具6’と、保持治具6’を円弧揺動させる揺動機構20’を具備するものである。この場合、超音波振動子は複数に限られず、少なくとも1つ具備されればよく、互いに異なる固有周波数を持つものであってもなくてもよい。発振器4’a〜4’dは周波数が可変のものであっても固定のものであってもよい。また発振器を1つとして、各振動子を駆動するものとしてもよい。
【0050】
揺動機構20’は、例えば前述の揺動機構20のような構成のものとできる。すなわち、モーターと、該モーターにより回転運動する1組の偏心カムと、該偏心カムに軸支され前記保持治具を支持する支持機構とを具備し、モーターにより回転運動する偏心カムが支持機構を円弧揺動させることにより、保持治具6’を円弧揺動させるものとできる。この場合、揺動機構20’は偏心カムに支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものが好ましく、軸支する位置は、偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものが好ましい。さらに、揺動幅は、超音波振動子3’a〜3’dの固有周波数、多角形洗浄槽2’に収容される洗浄液1’の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることが好ましい。揺動機構20’の上記各構成要件は、いずれも揺動機構20の構成要件と同様のものとできる。
【0051】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的思想に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一つの実施形態に従う超音波洗浄装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の超音波洗浄装置の作用を説明する説明図であり、(a)〜(f)は発振器の発振周波数に対する各超音波振動子が照射する超音波の様子を示す説明図であり、(g)は発振器の周波数に対する各超音波振動子の振幅強度を概略的に示すグラフである。
【図3】揺動機構の一例を示す概略斜視透視図である。
【図4】揺動機構による洗浄物の円弧揺動の様子を示す概略図である。
【図5】本発明のもう一つの実施形態に従う超音波洗浄装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1、1’…洗浄液、 2、2’、2’’…多角形洗浄槽、
3a、3b、3c、3d、3’a、3’b、3’c、3’d…超音波振動子、
4、4’a、4’b、4’c、4’d…発振器、 5、5’…洗浄物、
6、6’、6’’…保持治具、 7、7’…洗浄液受け、
10、10’…超音波洗浄装置、 20、20’…揺動機構、
21…モーター、 22…プーリー、 23…タイミングベルト、
24a、24b…偏心カム、 25…支持機構、
25a、25b、25c、25d…支持部材、 26…軸穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子と、該超音波振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記発振器は発振周波数を周期的に変化させることができるものであり、少なくとも前記1つの洗浄槽に備えられる複数の超音波振動子のうち少なくとも2つは互いに異なる固有周波数を有するものであることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記超音波洗浄装置は複数の洗浄槽を備え、該複数の洗浄槽のうち少なくとも2つの洗浄槽に備えられた複数の超音波振動子を前記1つの発振器により駆動するものであることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記複数の洗浄槽は、液種、液温、液深のうち少なくとも一つが互いに異なる洗浄液を収容するものであることを特徴とする請求項2に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記超音波振動子の固有周波数は、25〜70kHzの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
前記超音波振動子の固有周波数の周波数間隔は、0.5〜5kHzのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項6】
前記発振器は、繰返し周期が4〜12回/minであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項7】
前記超音波洗浄装置は、前記保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項8】
前記揺動機構は、前記発振器の繰返し周期と同期させて前記保持治具を円弧揺動させるものであることを特徴とする請求項7に記載の超音波洗浄装置。
【請求項9】
前記円弧揺動の揺動幅は、前記超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の超音波洗浄装置。
【請求項10】
前記揺動機構は、モーターと、該モーターにより回転運動する少なくとも1組の偏心カムと、該偏心カムに軸支され前記保持治具を支持する支持機構とを具備し、前記モーターにより回転運動する前記偏心カムが前記支持機構を円弧揺動させることにより、前記保持治具を円弧揺動させるものであることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項11】
前記揺動機構は、前記偏心カムに前記支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであることを特徴とする請求項10に記載の超音波洗浄装置。
【請求項12】
前記軸支する位置は、前記偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであることを特徴とする請求項11に記載の超音波洗浄装置。
【請求項13】
少なくとも、洗浄液を収容する少なくとも1つの洗浄槽と、該1つの洗浄槽に備えられた少なくとも1つの超音波振動子と、該超音波振動子を駆動させる発振器と、洗浄物を前記洗浄槽中に保持する保持治具とを具備する超音波洗浄装置であって、前記保持治具を円弧揺動させる揺動機構を具備するものであることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項14】
前記円弧揺動の揺動幅は、前記超音波振動子の固有周波数、前記洗浄槽に収容される洗浄液の液種、液温、液深のいずれか一つ以上に応じて決定されるものであることを特徴とする請求項13に記載の超音波洗浄装置。
【請求項15】
前記揺動機構は、モーターと、該モーターにより回転運動する少なくとも1組の偏心カムと、該偏心カムに軸支され前記保持治具を支持する支持機構とを具備し、前記モーターにより回転運動する前記偏心カムが前記支持機構を円弧揺動させることにより、前記保持治具を円弧揺動させるものであることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の超音波洗浄装置。
【請求項16】
前記揺動機構は、前記偏心カムに前記支持機構を軸支する位置を変えることにより揺動幅を調整することができるものであることを特徴とする請求項15に記載の超音波洗浄装置。
【請求項17】
前記軸支する位置は、前記偏心カムに螺旋状に穿設された複数の軸穴により可変とされるものであることを特徴とする請求項16に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−35139(P2006−35139A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220622(P2004−220622)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(504289738)株式会社ピーティーシーエンジニアリング (7)
【Fターム(参考)】