説明

超音波洗浄装置

【課題】洗浄槽内の洗浄液がよりスムーズに流れるように工夫することにより、洗浄槽内の超音波音圧をさらに均一化し、超音波による洗浄効果をより一層高めた超音波洗浄装置を提供すること。
【解決手段】少なくとも、立方体状になる洗浄槽1と、該洗浄槽内に設置された超音波発生手段3と、洗浄槽内の洗浄液を吸い込んで再び洗浄槽内に戻す洗浄液循環路7と、該洗浄液循環路の途中に設けられた循環ポンプ8および脱気装置9とを備えた超音波洗浄装置において、洗浄槽1の平面視四隅部を面取りして円弧(アール)状または直線状の面取り面28(29)とし、洗浄液循環路7の洗浄液吸込口5を洗浄槽側壁1aの上角と下角をむすぶ対角線上またはその近傍であって洗浄槽の上縁寄りの位置に連通開口するとともに、洗浄液吐出口6を前記対角線上またはその近傍であって洗浄槽の下縁寄りの位置に連通開口した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気装置を備えた超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用洗浄装置では、部品や部材に付着した汚れ・バリなどをいかにきれいに除去して仕上げるかが重要な課題である。従来、このような洗浄装置の1つとして超音波洗浄装置が用いられている。
【0003】
超音波洗浄装置は、洗浄液を満たした洗浄槽内に超音波発生器を取り付け、洗浄液中に浸漬した被洗浄物に向けて超音波を照射することにより、超音波の振動エネルギーを利用して被洗浄物表面に付着した汚れやバリなどを剥離除去するようにしたものである。
【0004】
ところで、このような超音波洗浄装置の場合、超音波の音圧、すなわち超音波の振動エネルギーは洗浄液に含まれる溶存空気濃度に大きな影響を受けることが知られており、溶存空気が多いと超音波の伝播を妨げ、エネルギーロスを引き起こして音圧が低下し、洗浄力が低下する。そこで、従来より超音波洗浄装置に脱気装置を付設し、洗浄液中の溶存空気濃度を低減することにより、効率的で安定な洗浄を実現できるように工夫している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の脱気装置は、空気のみを通す脱気膜を用いた膜式脱気装置の一例であって、密閉空間とされた脱気室内を脱気膜によって2室に仕切り、一方の室には脱気対象とする液を流すとともに、もう一方の室には真空ポンプをつないで負圧で引くことにより、液中の溶存空気を脱気膜を通して吸引除去するようにしたものである。
【0006】
しかしながら、上記脱気装置の場合、脱気膜が高価で装置のコストが高く、さらに、一定期間毎に脱気膜を交換したり、逆洗したりしなければならず、装置の維持管理に費用と手間がかかるという欠点があった。また、一般的に膜式脱気装置は水系の洗浄液にしか適用できず、炭化水素系や溶剤系の洗浄液には適用することが困難であった。
【0007】
また、上記膜式脱気装置以外にも、真空式脱気装置やターボ式脱気装置が知られている。真空式脱気装置は、密閉した脱気槽内を一定量の洗浄液で満たし、槽の上部空間の空気を真空ポンプで引くことにより、洗浄液中の溶存空気を取り出して排出するようにしたものである。ターボ式脱気装置は、密閉された脱気槽内に一定量の洗浄液を満たした後、脱気槽へ流入する洗浄液の供給量を絞りながら脱気槽内の洗浄液を大きな流量で排出することにより、脱気槽の入り口側と出口側に圧力差を与え、この圧力差によって脱気槽内の洗浄液中の溶存空気を取り出して排出するようにしたものである。しかしながら、これらにも一長一短があり、脱気効率、コスト、装置の維持管理のすべてを同時に満足できるものではなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−249215号公報(全頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本出願人は、上記問題を解決すべく、特願2005−331249号によって、脱気効率に優れ、かつ、コスト廉価で維持管理も容易な脱気装置と、この脱気装置を用いた超音波洗浄装置を提案した。この特願2005−331249号で提案した超音波洗浄装置は、簡単な構造でありながら洗浄液中の溶存空気を効果的に除去することができ、この種の超音波洗浄装置として極めて有用なものであった。
【0010】
その後、本発明者は上記超音波洗浄装置についてさらなる実験と研究を進めた結果、洗浄槽内の洗浄液がよりスムーズに流れるようにすれば、洗浄槽内の超音波音圧をさらに均一化することができ、超音波による洗浄効果をより一層高めることができることを見い出した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、上記特願2005−331249号で提案した超音波洗浄装置にさらなる改良を加え、洗浄槽内の洗浄液がよりスムーズに流れるように工夫することにより、洗浄槽内の超音波音圧をさらに均一化し、超音波による洗浄効果をより一層高めた超音波洗浄装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は次のような手段を採用した。
すなわち、少なくとも、立方体状になる洗浄槽と、該洗浄槽内に設置された超音波発生手段と、洗浄槽内の洗浄液を吸い込んで再び洗浄槽内に戻す洗浄液循環路と、該洗浄液循環路の途中に設けられた循環ポンプおよび脱気装置とを備えた超音波洗浄装置において、前記立方体状になる洗浄槽の平面視四隅部を面取りして円弧(アール)状または直線状の面取り面とし、前記洗浄液循環路の洗浄液吸込口を洗浄槽側壁の上角と下角をむすぶ対角線上またはその近傍であって洗浄槽の上縁寄りの位置に連通開口するとともに、洗浄液吐出口を前記対角線上またはその近傍であって洗浄槽の下縁寄りの位置に連通開口したことを特徴とするものである。なお、上記平面視四隅部に加え、洗浄槽の底面と側壁の交わる槽底の4つの隅角部にも円弧(アール)状または直線状の面取り面を形成すればさらに望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、立方体状になる洗浄槽の平面視四隅部を面取りして円弧(アール)状または直線状の面取り面としたので、洗浄槽内を回流する洗浄液はこの円弧(アール)状または直線状の面取り面に沿って流れるようになり、従来のように洗浄槽の四隅部でその流れが乱されるようなことがなくなる。このため、乱流による超音波の乱れがなくなり、洗浄槽内の音圧がより均一化されるので、脱気装置による溶存空気の除去効果と相俟って、さらに安定した超音波洗浄を実現することができる。さらに、平面視四隅部に加え、洗浄槽の底面と側壁の交わる槽底の4つの隅角部にも円弧(アール)状または直線状の面取り面を形成すれば、洗浄槽内を回流する洗浄液の流れはさらに滑らかなものとなり、乱流の発生をさらに低減することができる。
【0014】
また、洗浄液循環路の洗浄液吸込口を洗浄槽側壁の上角と下角をむすぶ対角線上またはその近傍であって洗浄槽の上縁寄りの位置に連通開口するとともに、洗浄液吐出口を前記洗浄槽側壁の対角線上またはその近傍であって洗浄槽の下縁寄りの位置に連通開口したので、循環される洗浄液は洗浄槽内を同一方向に向かって流れる乱れのない水流となって回流する。このため、前記円弧(アール)状または直線状の面取り面による整流作用との相乗効果により、さらに安定した超音波洗浄を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図4に、本発明に係る超音波洗浄装置の第1の実施の形態を示す。
図1は装置全体の構成を示す図、図2は図1中の洗浄槽の第1の構造例を示す略示斜視図、図3は図1中の洗浄槽の第2の構造例を示す図、図4は図1中の脱気装置の構造を示す図である。
【0016】
図1において、1は洗浄液2を満たされた立方体状の洗浄槽であって、この洗浄槽1の底面部には、超音波発生器(超音波発生手段)3が付設されている。また、洗浄槽1の外周囲にはヒータ(液温調節手段)4が付設され、洗浄液2の温度を調節可能とされている。
【0017】
前記立方体状になる洗浄槽1の平面視四隅部は、図2または図3に示すように、補助部材などを用いて面取りされ、円弧(アール)状の面取り面28(図2)または直線状の面取り面29(図3)とされている。また、洗浄槽1の一側壁1aには、洗浄液循環路7の洗浄液吸込口5が洗浄槽側壁1aの上角と下角をむすぶ対角線d上またはその近傍であって洗浄槽1の上縁寄りの位置に連通開口されているとともに、洗浄液吐出口6が前記対角線d上またはその近傍であって洗浄槽1の下縁寄りの位置に連通開口されている。
【0018】
前記洗浄液吸込口5と吐出口6をむすぶ洗浄液循環路7の経路途中には、洗浄液を強制循環させるための循環ポンプ8が接続されているとともに、該循環ポンプ8の上流側には洗浄液中の溶存空気を気泡として分離するための脱気装置9が接続されている。また、脱気装置9と循環ポンプ8の間には、バルブ開度を自在に調整可能な空気供給バルブ(空気供給手段)10が接続されている。
【0019】
前記空気供給バルブ10は、洗浄液循環路7内を流れる洗浄液中に外部から空気を供給し、洗浄液2の溶存空気濃度を調整するための空気供給機構であって、前記脱気装置9とこの空気供給バルブ10を制御することにより、洗浄液2中の溶存空気濃度を自在にコントロールすることが可能となる。
【0020】
脱気装置9の上流側には、流量調節バルブ(流量調節手段)11、流量センサ(流量測定手段)12、液温センサ(液温測定手段)13、溶存空気濃度センサ(溶存空気濃度測定手段)14が接続されている。また、装置周囲の温度を測るための室温センサ(室温測定手段)15と、装置周囲の湿度を測るための湿度センサ(湿度測定手段)16も設置されている。なお、一般的に洗浄液中の溶存空気濃度は溶存している酸素Oの量に比例するので、前記溶存空気濃度センサ14としては溶存酸素測定器が用いられる。
【0021】
制御装置(制御手段)17は装置全体の動作を制御するもので、前記流量センサ12,液温センサ13,溶存空気濃度センサ14,室温センサ15,湿度センサ16からの計測信号が入力されているとともに、これらの計測信号に基づいて循環ポンプ8,脱気装置9,空気供給バルブ10,流量調節バルブ11、ヒータ4を制御し、洗浄液2の溶存空気濃度が既定値もしくは規定範囲となるように制御するものである。なお、制御装置17には、コンピュータ18などのデータ処理装置が内蔵あるいは外付けされており、後述する制御例で示すように、制御に必要なデータを収集・分析し、洗浄液中の溶存空気濃度の制御に資されている。
【0022】
脱気装置9は、図4に示すように、所定長さからなる変形可能な弾性チューブ91を備え、この弾性チューブ91を挟むようにして2つのアクチュエータ92a,92bが対向配置されている。2つのアクチュエータ92a,92bのピストンロッド93a,93bの先端には、弾性チューブ91を上下から押圧して変形させるための圧接子94a,94bが取り付けられている。なお、弾性チューブ91の素材としては、炭化水素系洗浄液や溶剤系洗浄液に対しても耐性を有するフッ素ゴムなどを用いることが望ましい。
【0023】
脱気装置9は、アクチュエータ92a,92bを駆動してピストンロッド93a,93bを進退させることにより、その先端の圧接子94a,9abで弾性チューブ91を押圧して内腔断面積を狭めることにより、開口面積の小さくなった絞り部95(図4(b)参照)を形成するものである。循環される洗浄液がこの絞り部95の部分に達すると、その絞り量に応じて流速が速くなり、洗浄液の動圧が急激に上昇するとともに静圧が急激に低下し、次いで、絞り部95を通過すると、チューブの内腔断面積が広がるために流速が遅くなり、洗浄液の動圧が急激に低下するとともに静圧が急激に上昇する。
【0024】
絞り部95において上記のような急激な圧力変化が発生すると、絞り部95の下流側でキャビテーションが発生し、洗浄液中に溶け込んでいる溶存空気が気泡となって分離される。このキャビテーションによる溶存空気の分離作用の強さは、弾性チューブ91の絞り部95の開口面積の大きさ、すなわちアクチュエータ92a,92bのピストンロッド93a,93bの進退量によって制御することができる。
【0025】
なお、上記の例では2つのアクチュエータ92a,92bを用いて弾性チューブ91を押圧変形するようにしたが、1個のアクチュエータを用いて押圧変形するようにしてもよい。また、アクチュエータとしてピストンロッド式のものを用いたが、圧接子94a,94bを進退させることができればどのような形式、構造のものであってもよく、例えばネジ進退式のもの、ラック・ピニオン進退式のものなど、種々の進退機構を利用することができる。
【0026】
次に、上記超音波洗浄装置における溶存空気濃度の制御について説明する。
〔1〕制御例1
第1の制御例は、溶存空気濃度センサ14の測定結果を用いて洗浄液の溶存空気濃度を制御する場合の例である。以下、その制御方法を説明する。
【0027】
超音波洗浄装置の電源が投入されると、制御装置17は循環ポンプ8を駆動し、洗浄槽1内の洗浄液2を槽上部の洗浄液吸込口5から洗浄液循環路7内に吸引する。そして、洗浄液循環路7を一巡させた後、槽下部の洗浄液吐出口6から再び洗浄槽1内に吐出し、洗浄液2を循環させる。また、必要に応じてヒータ4も制御し、液温センサ13の出力する液温信号に基づいて洗浄液2の温度が規定温度となるように制御する。
【0028】
この状態において、制御装置17は溶存空気濃度センサ14から送られてくる溶存空気濃度信号を取り込み、その時点における洗浄液の溶存空気濃度が予め設定した既定値よりも大きいか小さいかを監視する。前述したように、溶存空気濃度が既定値よりも大きい場合には、超音波発生器3から放射される超音波の音圧が急激に低下してしまい、良好な超音波洗浄を行なうことが難しくなる。
【0029】
そこで、溶存空気濃度が既定値よりも大きい場合には、制御装置17は脱気装置9に制御信号を送り、脱気装置9のアクチュエータ92a、92bを駆動してピストンロッド93a,93bを進出させ、その先端の圧接子94a,94bによって弾性チューブ91を押圧変形させ、絞り部95を形成する(図4(b)参照)。
【0030】
弾性チューブ91に絞り部95が形成されると、前述したように絞り部95の下流側でキャビテーションが発生し、洗浄液中に溶存している空気が気泡となって顕在化する。この気泡となって顕在化した溶存空気は洗浄液とともに再び洗浄液吐出口6から洗浄槽1内に吐出されるが、洗浄槽1内に吐出された気泡はその浮力によって洗浄液2中を上昇していき、洗浄槽1の上部液面から槽外へ排出される。
【0031】
上記キャビテーションによる溶存空気の気泡化が繰り返されると、洗浄槽1内の洗浄液2は徐々に脱気されていき、その溶存空気濃度はやがて予め設定した規定値以下となる。溶存空気濃度が既定値以下となったら、被洗浄物(図示略)を洗浄液2中に浸漬し、超音波発生器3から超音波を照射して超音波洗浄を開始する。これによって、音圧低下のない効率的で良好な超音波洗浄を行なうことができる。
【0032】
制御装置17は、上記超音波洗浄の最中も溶存空気濃度センサ14の出力する溶存空気濃度信号を監視し、洗浄液の溶存空気濃度が既定値以上とならないように脱気装置9の絞り量を制御する。これによって、洗浄槽1内の洗浄液2の溶存空気濃度を常に既定値以下に維持することができ、音圧低下のない良好な超音波洗浄を維持することができる。
【0033】
このとき、洗浄液の溶存空気濃度が既定値よりもあまりに小さくなり過ぎるような場合には、空気供給バルブ10も制御し、空気供給バルブ10を開いて洗浄液循環路7内を流れる洗浄液に空気を送り込み、溶存空気濃度を上げるように制御すればよい。この空気供給バルブ10による空気供給制御を併用すれば、溶存空気濃度を常に既定値を中心とする一定範囲内に維持することができ、より良好な超音波洗浄を実現できる。
【0034】
上記制御において、洗浄槽1の平面視四隅部は面取りされて円弧(アール)状の面取り面28(図2)あるいは直線状の面取り面29(図3)とされている。そのため、例えば円弧(アール)状の面取り面28とした場合を例に採ると、洗浄槽1内を回流する洗浄液2は、図5(a)中に矢印で示すように、面取り面28に沿って流れるようになり、従来のように洗浄槽1の四隅部でその流れが乱されるようなことがなくなる。このため、乱流による超音波の乱れがなくなり、洗浄槽1内の超音波音圧がより均一化され、脱気装置9による溶存空気の除去効果と相俟って、より安定した超音波洗浄を行なうことができる。直線状の面取り面29(図3)の場合も同様である。
【0035】
さらに、洗浄液循環路7の洗浄液吸込口5を洗浄槽側壁1aの上角と下角をむすぶ対角線d上またはその近傍であって洗浄槽1の上縁寄りの位置に連通開口するとともに、洗浄液吐出口6を前記対角線d上またはその近傍であって洗浄槽1の下縁寄りの位置に連通開口しているので、循環される洗浄液2は、図5(a)(b)中に矢印で示すように、洗浄槽1内を同一方向に向かって流れる乱れのない水流となって回流する。このため、前記円弧(アール)状の面取り面28(または直線状の面取り面29)による整流作用との相乗効果により、さらに安定した超音波洗浄を行なうことができる。
【0036】
なお、本発明者の実験によれば、良好な超音波洗浄を行なうための溶存空気濃度は、あまりに小さ過ぎても問題があり、2.5mg/l以上となるように設定することが望ましいことが判明した。したがって、目標とする溶存空気濃度の規定値はこの値以上とすることが望ましい。
【0037】
前記溶存空気濃度の制御において、脱気装置9における絞り部95の絞り量(内腔断面積)は、溶存空気濃度の大小にかかわらず一定絞り(一定断面積)としてもよいが、溶存空気濃度の規定値からのズレ量の大小に比例してその絞り量を変えるように制御することが望ましい。これによって、溶存空気濃度をより短時間のうちに既定値まで下げることができる。
【0038】
同様に、空気供給バルブ10のバルブ開度も、溶存空気濃度の規定値からのズレ量の大小に比例してその開度を変えるようにすれば、下がり過ぎた溶存空気濃度をより短時間のうちに既定値まで引き戻すことができ、溶存空気濃度をより確実に一定範囲内に維持することができる。
【0039】
〔2〕制御例2
第2の制御例は、溶存空気濃度の制御動作をタイマー動作で行なうようにした場合の例である。
【0040】
一般的に、超音波洗浄装置における洗浄条件は、洗浄対象とする被洗浄物および洗浄装置の仕様によって決定される。したがって、前述した制御例1で示したような制御動作によって溶存空気濃度が規定値まで制御された後は、溶存空気濃度はそのときの洗浄条件に従った上昇率で徐々に悪化していく。したがって、予めこの溶存空気濃度の上昇率が分かれば、前述した制御例1の制御動作を常時行なわなくても、間歇的にタイマー動作させることにより、洗浄液の溶存空気濃度を既定範囲内に維持することが可能である。
【0041】
そこで、予めこの溶存空気濃度の上昇率を実験あるいは実際の超音波洗浄処理によって求めておき、その上昇率から決定される所定の時間間隔をタイマー動作時間として制御装置17に設定する。そして、前述した制御例1の制御動作によって洗浄液2の溶存空気濃度が規定値に達したら、循環ポンプ8を停止して脱気処理を停止し、設定したタイマー時間が経過した時点で再び循環ポンプ8を駆動し、溶存空気濃度をタイマー動作によって低減するように制御する。これを繰り返すことにより、溶存空気濃度を規定範囲内に維持することができる。これによって、洗浄コストの低減化を図ることができる。
【0042】
この第2の制御例の場合も、洗浄槽1の平面視四隅部に形成した円弧(アール)状の面取り面28または直線状の面取り面29は、前記第1の制御例の場合と同様に作用し、より一層の洗浄効果を上げることができる。
【0043】
〔3〕制御例3
第3の制御例は、超音波洗浄装置の入出力信号の時系列データを制御装置17に内蔵あるいは外付けしたコンピュータ18を用いて解析し、当該超音波洗浄装置を溶存空気濃度などの複数の状態量を入出力信号とする多変量自己回帰モデルとしてソフトウェア上で構築し、この構築した多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度を制御するようにした場合の例である。
【0044】
前述したように、超音波洗浄における洗浄槽1内の超音波音圧は、洗浄液の溶存空気濃度によって大きく変化するが、一方において、溶存空気濃度は、洗浄槽の形状、洗浄液の循環状態や液温、外気温、湿度などにより幅広い範囲に分布した状態となる。このため、洗浄装置の使用状況によっては、例えば洗浄液の溶存空気濃度だけ、あるいは洗浄液の温度と外気温だけというように、特定の状態量だけからでは正確に溶存空気濃度を特定することが困難な場合も出てくる。そこで、前述した制御例1による溶存空気濃度だけを用いた制御に代えて、超音波洗浄装置を多変量自己回帰モデルとして構築し、この多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度を制御するようにしたものである。
【0045】
この超音波洗浄装置の多変量自己回帰モデル化は、制御装置17に付設されたコンピュータ18によって、以下に示すような各ステップの処理を行なうことにより、ソフトウェア上で実現される。なお、説明を分かりやすくするため、以下においては、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温の3つの状態量を入出力とする多変量自己回帰モデルを構築する場合を例に採って説明するが、流量、湿度などの他の状態量を変数に加えた場合でも、入出力の変数が増えるだけで処理自体は同様にして行なうことができる。
【0046】
(第1ステップ)
まず最初に、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温についての時系列データを収集する。これを行なうには、超音波洗浄装置を稼働し、溶存空気濃度センサ14から出力される溶存酸素データ、液温センサ13から出力される液温データ、室温センサ15から出力される室温データを所定時間(例えば10〜15分間)にわたってサンプリングし、収集する。
【0047】
(第2ステップ)
得られた溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温の3つの状態量についての時系列データを基にコンピュータ18で解析し、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温を入出力とする多変量自己回帰モデルを構築する。
【0048】
〔第3ステップ〕
得られた多変量自己回帰モデルによる解析から溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温のパワー寄与率、インパルス応答(閉鎖系)を算出する。
【0049】
〔第4ステップ〕
溶存空気濃度のインパルス応答から、「溶存空気濃度変化の基準時間」(溶存空気濃度が目的とする規定値以下になるまでの時間)を算出する。
【0050】
〔第5ステップ〕
パワー寄与率とインパルス応答の値から溶存空気濃度の状態モデルを作成し、これに基づいて前記算出した「溶存空気濃度変化の基準時間」を修正した「溶存空気濃度変化の推定時間」を算出する。
【0051】
〔第6ステップ〕
得られた「溶存空気濃度変化の推定時間」から溶存空気濃度が規定の値になるまでの脱気量(あるいは脱気時間)を算出する。
【0052】
〔第7ステップ〕
上記算出された脱気量(あるいは脱気時間)に基づいて、制御装置17により脱気装置9の絞り量(あるいは脱気時間)を制御し、溶存空気濃度が規定範囲になるようにコントロールする。
【0053】
上記の多変量自己回帰モデルを用いれば、超音波洗浄装置全体を統計処理的に扱うことができる。このため、溶存空気濃度、液温、室温、流量、湿度、超音波音圧などの各状態量が複雑に絡み合って状態量間の関係を明確に関連づけることができない場合でも、洗浄液の溶存空気濃度を迅速かつ正確に制御することが可能となる。
【0054】
なお、上記の例では、超音波洗浄を開始する直前に各状態量の時系列データを収集したが、過去の超音波洗浄作業時に収集・蓄積された各状態量の時系列データを用いて多変量自己回帰モデルを構築するようにしてもよい。
【0055】
また、学習機能を付与し、被洗浄物の超音波洗浄が開始された後においても一定時間毎に上記各状態量の時系列データを収集し、この収集した新しい時系列データに基づいて最初に構築した多変量自己回帰モデルを修正するように構成してもよい。このような学習機能を付与しておけば、構築した多変量自己回帰モデルを実際に稼働している超音波洗浄装置の挙動により近づくように進化させることができ、より優れた超音波洗浄を実現することができる。
【0056】
この第3の制御例の場合も、洗浄槽1の平面視四隅部に形成した円弧(アール)状の面取り面28または直線状の面取り面29は、前記第1の制御例の場合と同様に作用し、より一層の洗浄効果を上げることができる。
【0057】
〔4〕制御例4
第4の制御例は、前記循環ポンプ8としてプロペラ式のポンプを用いるとともに、洗浄液の溶存空気濃度を2.5〜3.5mg/lの範囲になるように制御する場合の例である。
【0058】
前述したように、循環ポンプ8としてプロペラ式のポンプを用いて洗浄液2を循環させるように構成した場合、脱気装置9で発生した気泡が循環ポンプ8に達すると、気泡は循環ポンプ8の回転するプロペラでさらに細かく剪断され、いわゆる「マイクロバブル」と呼ばれる直径10〜数十μmの極めて微細な気泡となる。このマイクロバブルが発生すると、マイクロバブルの作用によって洗浄槽1内の洗浄液2の均一分散化がさらに進み、洗浄槽全域にわたって溶存空気濃度が均一になり、室温や湿度、気圧などの環境の変化に影響されることのない超音波洗浄を実現することができる。また、洗浄液中の汚れが凝集しにくくなり、大きな塊の汚れが発生するようなこともなくなる。
【0059】
この第4の制御例の場合も、洗浄槽1の平面視四隅部に形成した円弧(アール)状の面取り面28または直線状の面取り面29は、前記第1の制御例の場合と同様に作用し、より一層の洗浄効果を上げることができる。
【0060】
図6に、本発明に係る超音波洗浄装置の第2の実施の形態を示す。
この第2の実施の形態は、脱気装置として、図7に示すような絞り固定式の脱気装置19、または図8(a)(b)に示すような乱流発生式の脱気装置22を用いたものである。なお、脱気装置19,22以外の部分は、図1に示した第1の実施の形態のものと同様な部材を用いているので、同一部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
図7の絞り固定式の脱気装置19は、その全体が金属や硬質プラスチックなどの変形不可能な剛性パイプ20で作られており、この剛性パイプ20の適宜位置においてその径を絞ることにより、洗浄液の流れる流路途中に固定式の絞り部21を形成したものである。
【0062】
図8(a)は、乱流発生式の脱気装置22の第1の例を示すもので、筒状の管路23内に、断面三角形状をした障害物24を洗浄液の流れを遮る向きに直交配置したものである。図8(b)は、乱流発生式の脱気装置22の第2の例を示すもので、筒状の管路23内に、断面四角形状をした障害物24を洗浄液の流れを遮る向きに直交配置したものである。これら図8(a)(b)に示した脱気装置22は、それぞれ断面三角形または断面四角形をした障害物24によって洗浄液の流れを妨げて乱流を起こし、これによって障害物24の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化させるようにしたものである。
【0063】
前記図6に示した第2の実施の形態に係る超音波洗浄装置は、使用した脱気装置19,22が絞り固定式や乱流発生式の脱気装置であるため、その絞り量や断面形状を変えることができないが、制御装置17によって循環ポンプ8、空気供給バルブ10、流量調節バルブ11などを制御することにより、洗浄液2の溶存空気濃度を調節することができる。また、前述した多変量自己回帰モデルを用いて制御することも、さらにはマイクロバブルを利用した超音波洗浄を行うことも、同様に可能である。
【0064】
さらに、この第2の実施の形態の場合も、洗浄槽1の平面視四隅部に形成した円弧(アール)状の面取り面28または直線状の面取り面29は、前記第1の制御例の場合と同様に作用し、より一層の洗浄効果を上げることができる。
【0065】
図9に、本発明に係る超音波洗浄装置の第3の実施の形態を示す。
この第3の実施の形態は、脱気装置として、図10または図11に示すようなポンプ一体型のプロペラ式脱気装置25,27を用いたものである。なお、この脱気装置25,27以外の部分は、図1に示した第1の実施の形態のものと同様な部材を用いているので、同一部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図10の脱気装置25は、洗浄液循環路に接続されている循環ポンプ8のポンプ室81の洗浄液入り口部の口径を絞ることにより、絞り部25を形成したものである。なお、82は、洗浄液送給用のプロペラ(回転翼)である。
【0067】
図11の脱気装置27は、洗浄液循環路に接続されている循環ポンプ8のポンプ室81内に配置された洗浄液送給用のプロペラ82の翼形を非対称形とし、回転するプロペラ82の回りでキャビテーションが発生するようにしたものである。
【0068】
前記図9に示した第3の実施の形態に係る超音波洗浄装置の場合も、制御装置17によって循環ポンプ8、空気供給バルブ10、流量調節バルブ11などを制御することにより、洗浄液中の溶存空気濃度を調節することができる。また、前述した多変量自己回帰モデルを用いて制御することも、マイクロバブルを利用した超音波洗浄を行うことも、同様に可能である。
【0069】
さらに、この第3の実施の形態の場合も、洗浄槽1の平面視四隅部に形成した円弧(アール)状の面取り面28または直線状の面取り面29は、前記第1の制御例の場合と同様に作用し、よりいっそうの洗浄効果を上げることができる。
【0070】
上記実施の形態では、いずれも洗浄槽1の平面視四隅部にのみ円弧(アール)状または直線状の面取り面28,29を形成した場合の例を示したが、面取りの個所はこの平面視四隅部だけに限られるものではなく、この平面視四隅部に加え、図12(a)(b)に示すように、洗浄槽1の底面と側壁の交わる槽底の4つの隅角部についても円弧(アール)状または直線状の面取り面30,31を形成してもよいものである。このように、洗浄槽1の槽底の4つの隅角部にも円弧(アール)状または直線状の面取り面30,31を形成すれば、洗浄槽1内を回流する洗浄液の流れはさらに滑らかなものとなり、乱流の発生をより低減することができるので、さらに優れた洗浄効果を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施の形態に係る超音波洗浄装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1の超音波洗浄装置で用いる洗浄槽の第1の構造例を示す略示斜視図である。
【図3】図1の超音波洗浄装置で用いる洗浄槽の第2の構造例を示す略示斜視図である。
【図4】図1の超音波洗浄装置で用いた脱気装置の構造例を示すもので、(a)は弾性チューブが押圧されていない状態を示す略示断面図、(b)は弾性チューブが押圧変形されて絞り部が形成された状態を示す略示断面図である。
【図5】図2の洗浄槽を用いた場合の洗浄液の流れを示す説明図であって、(a)はその略示平面図、(b)はその略示側面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る超音波洗浄装置の全体構成を示す図である。
【図7】図6の第2の実施の形態に係る超音波装置で用いる脱気装置の第1の構造例を示す略示断面図である。
【図8】(a)は図6の第2の実施の形態に係る超音波装置で用いる脱気装置の第2の構造例を示す略示断面図、(b)は図6の第2の実施の形態に係る超音波洗浄装置で用いる脱気装置の第3の構造例を示す略示断面図である。
【図9】第3の実施の形態に係る超音波洗浄装置の全体構成を示す図である。
【図10】図9の第3の実施の形態に係る超音波洗浄装置で用いる脱気装置の第1の構造例を示す略示断面図である。
【図11】図9の第3の実施の形態に係る超音波洗浄装置で用いる脱気装置の第2の構造例を示す略示断面図である。
【図12】槽底の4つの隅角部も面取りした場合の例を示すもので、(a)は円弧(アール)状の面取り面とした場合の例、(b)は直線状の面取り面とした場合の例である。
【符号の説明】
【0072】
1 洗浄槽
1a 洗浄槽の側壁
2 洗浄液
3 超音波発生器(超音波発生手段)
4 ヒータ(液温調節手段)
5 洗浄液吸込口
6 洗浄液吐出口
7 洗浄液循環路
8 循環ポンプ
9 脱気装置
10 空気供給バルブ(空気供給手段)
11 流量調節バルブ(流量調節手段)
12 流量センサ(流量測定手段)
13 液温センサ(液温測定手段)
14 溶存空気濃度センサ(溶存空気濃度測定手段)
15 室温センサ(室温測定手段)
16 湿度センサ(湿度測定手段)
17 制御装置(制御手段)
18 コンピュータ
19 脱気装置
20 剛性パイプ
21 絞り部
22 脱気装置
23 管路
24 障害物
25 脱気装置
26 絞り部
27 脱気装置
28 平面視四隅部の円弧(アール)状の面取り面
29 平面視四隅部の直線状の面取り面
30 槽底の隅角部に形成した円弧(アール)状の面取り面
31 槽底の隅角部に形成した直線状の面取り面
81 ポンプ室
82 ポンプのプロペラ
91 弾性チューブ
92a,92b アクチュエータ
93a,93b ピストンロッド
94a,94b 圧接子
95 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、立方体状になる洗浄槽と、該洗浄槽内に設置された超音波発生手段と、洗浄槽内の洗浄液を吸い込んで再び洗浄槽内に戻す洗浄液循環路と、該洗浄液循環路の途中に設けられた循環ポンプおよび脱気装置とを備えた超音波洗浄装置において、
前記立方体状になる洗浄槽の平面視四隅部を面取りして円弧(アール)状または直線状の面取り面とし、前記洗浄液循環路の洗浄液吸込口を洗浄槽側壁の上角と下角をむすぶ対角線上またはその近傍であって洗浄槽の上縁寄りの位置に連通開口するとともに、洗浄液吐出口を前記対角線上またはその近傍であって洗浄槽の下縁寄りの位置に連通開口したことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
洗浄槽の底面と側壁の交わる槽底の4つの隅角部にも円弧(アール)状または直線状の面取り面を形成したことを特徴とする請求項1記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−114141(P2008−114141A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298778(P2006−298778)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000124959)株式会社カイジョー (83)
【Fターム(参考)】