説明

超音波流量計

【課題】メータケースの追加加工又は設計変更や、部品点数及び組み付けの手間を抑えつつ、メータケース内の浸水を検知することが可能な超音波流量計の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の超音波流量計10は、受波側の超音波送受波器30にて受波された超音波に含まれる複数のピークのうち、特定のピークの波高が予め設定された基準値を超えて低下した場合に浸水有りと判定する、異常判定手段(ステップS15,S16)を備えている。具体的には、受信波を、予め設定された基準波高になるように増幅するために設定された増幅度が、予め設定された所定の基準増幅度を超えたか否かを判定し(S15)、基準増幅度を超えた場合(S15でYes)には、メータケース20内への浸水有りと判定する(S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メータケース内に1対の超音波送受波器を対向配置した超音波流量に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の超音波流量計では、1対の超音波送受波器間における超音波の伝搬時間に基づいて流速を演算し、その流速に気体が流れる流路の断面積を乗じて流量を計測している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−180988号公報(段落[0020]、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の超音波流量計を、都市ガスメータとして使用した場合には、以下のような問題が生じ得る。即ち、地中に埋設されたガス管の破損によってガス管に入り込んだ水やガスに含まれる水分が、メータケース内に溜まり、この溜まった水によって、気体が実際に通過可能な流路の断面積が、本来の流路断面積よりも小さくなる。そのため、実際の流量(ガス使用量)よりも、本来の流路断面積に基づいて演算された流量(ガス使用量)の方が大きくなり、ガス利用者に不利益をもたらす可能性があった。
【0005】
この問題を解消する手段としては、メータケース内に溜まった水を検知するための浸水センサを取り付けることが考えられるが、浸水センサを追加するために、既存のメータケースの追加加工又は設計変更が必要になったり、部品点数や組み付けの手間が増えるといった新たな問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、メータケースの追加加工又は設計変更や、部品点数及び組み付けの手間を抑えつつ、メータケース内の浸水を検知することが可能な超音波流量計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る超音波流量計は、メータケース内に対向配置された1対の超音波送受波器の間における超音波の伝搬時間に基づいて、メータケース内を通過する気体の流量を測定する超音波流量計において、超音波送受波器にて受波された超音波に含まれる複数のピークのうち、特定のピークの波高が予め定められた基準値を超えて低下した場合に、浸水有りと判定する異常判定手段を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の超音波流量計において、超音波送受波器にて受波された超音波を増幅する増幅部と、増幅後の特定のピークの波高が、予め設定された基準波高になるように増幅部における増幅度を変更して設定する増幅度設定手段とを備え、波高異常判定手段は、増幅度設定手段によって設定された増幅度が予め定められた基準増幅度以上であるか否かを判定し、基準増幅度以上であることを以て、浸水有りと判定するところに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の超音波流量計において、一方の超音波送受波器が超音波を送波してから他方の超音波送受波器が超音波を受波するまでの伝搬時間が、気体中を伝搬する超音波ではあり得ない所定の基準伝搬時間以下か否かを判定する時間判定手段と、伝搬時間が基準伝搬時間以下である場合に、浸水有りと判定する補助異常判定手段とを備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の超音波流量計において、メータケースの内部空間を、メータケースの外部から気体が流入する流入空間とメータケースの外部へと気体が流出する流出空間とに仕切る隔壁と、その隔壁を貫通して流入空間と流出空間を連通する計測管とを備え、1対の超音波送受波器の一部が計測管を介して対向配置されると共に、1対の超音波送受波器のうち、超音波を送受波する送受波面の最下端が、計測管の端部開口より下方に配置されているところに特徴を有する。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4に記載の超音波流量計において、計測管のうち気体が流れる管路の断面が、上下方向に対して水平方向が長い扁平形状をなしたところに特徴を有する。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の超音波流量計において、浸水有りと判定された場合に、メータケースへの気体の供給を遮断する遮断弁を備えたところに特徴を有する。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の超音波流量計において、浸水有りと判定された場合に、警報を発する警報手段を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1及び2の発明]
請求項1の発明によれば、送波側の超音波送受波器がメータケース内に溜まった水と接触した場合、その超音波送受波器から送波された超音波は、メータケース内を通過する気体だけでなく、メータケース内に溜まった水やメータケース自体に伝搬する。このとき、超音波のエネルギーが分散するため、メータケース内を通過する気体を伝搬して受波側の超音波送受波器に受波された超音波の波高が、正常時に比べて小さくなる。従って、受波側の超音波送受波器にて受波された超音波に含まれる複数のピークのうち、特定のピークの波高が予め設定された基準値を超えて低下した場合に、浸水有りと判定することができる。そして、本発明によれば、流量計測用の超音波送受波器を用いて、メータケース内の浸水を検知することができるから、既存の超音波流量計に浸水検知機能を付加する場合に、メータケースの追加加工又は設計変更が不要であり、部品点数や組み付け作業の増加も抑えることができる。なお、1対の超音波送受波器のうち、少なくとも一方の超音波送受波器が水と接触した状態になった時点で、上述の如く浸水を検知することができるので、比較的早期に対処することが可能となる。
【0015】
ここで、受波された超音波を直接監視して特定のピークが所定の基準値を超えて低下したか否かを判定してもよいが、通常は、気体の流れの影響を受けて波高が変動し得るため、浸水の判定基準である基準値を随時変更する必要がある。これに対し、請求項2の発明によれば、受波した超音波における特定のピーク波高が所定の基準波高になるように増幅度を変更しており、その増幅度が予め設定された基準増幅度以上になったことを以て、浸水有りと判定するので、浸水の判定基準である基準増幅度を一定にすることができる。
【0016】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、送波側の超音波送受波器から送波された超音波が、メータケース内を通過する気体だけでなく、メータケース内に溜まった水やメータケース自体に伝搬すると、1対の超音波送受波器の間における伝搬時間が、気体中を伝搬する超音波ではあり得ない所定の基準伝搬時間以下になる。従って、1対の超音波送受波器間における伝搬時間が、基準伝搬時間以下か否かを判定することで、浸水の有無を判定することができる。また、2つの異なる異常判定手段、即ち、受波した超音波に含まれる特定のピークの波高に基づいて浸水を判定する異常判定手段と、超音波の伝搬時間に基づいて浸水を判定する補助異常判定手段とを備えたので、仮に何れか一方の判定手段が不能となった場合でも他方の判定手段で浸水を検知することができ、浸水検知の確実性が向上する。
【0017】
[請求項4及び5の発明]
請求項4の発明によれば、メータケースの流入空間に流入した気体が、全て計測管を通って流出空間へと移動し、流出空間からメータケースの外部へと排出される。そして、超音波の伝搬時間から求められた流速に、計測管の管路の断面積を乗じることで流量が演算される。ここで、請求項4の発明によれば、計測管の管路に水が入る水位より低い水位で、超音波送受波器の送受波面が水と接触するので、計測管の管路に水が入る前に浸水を検知することができる。これにより、気体が通過可能な流路断面積が減少して流量計測値に誤差が生じる前に、対策を講じることができる。
【0018】
ここで、計測管の管路の断面は円形でもよいし、上下方向に対して水平方向が長くなった扁平形状でもよい(請求項5の発明)。扁平断面の計測管にすれば、比較的大きな流量を計測することが可能になる。
【0019】
[請求項6及び7の発明]
請求項6及び7の発明によれば、不正確な超音波流量計と知らずに使用し続けるということを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波流量計の側断面図
【図2】(A)制御処理部のブロック図、(B)受波回路のブロック図
【図3】受信波と基準波高との関係を示すグラフ
【図4】増幅度設定プログラムのフローチャート
【図5】浸水状態における超音波流量計の側断面図
【図6】浸水状態における超音波流量計の側断面図
【図7】第2実施形態に係る伝搬時間確定プログラムのフローチャート
【図8】正常時及び浸水時の受信波と基準波高との関係を示すグラフ
【図9】(A)変形例に係る計測管の斜視図、(B)その計測管と超音波送受波器の位置関係を示す平断面図
【図10】変形例に係るメータケースの側断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明を適用した超音波流量計に係る第1実施形態を、図1〜図6に基づいて説明する。本実施形態の超音波流量計10は、例えば、都市ガスメータであって、都市ガスの配管90の途中に接続されたメータケース20を備えている。
【0022】
メータケース20は両端有底の筒形構造をなしている。メータケース20の上面からは、2つの管接続部21,21が長手方向に並んで起立しており、メータケース20の内部の計測管収容室22に連通している。
【0023】
メータケース20のうち、長手方向の両端部壁23,23の内面には、1対の超音波送受波器30,30が保持されている。
【0024】
超音波送受波器30,30は略円柱構造をなしており、その一方の端面に超音波の送受波面31が設けられ、他方の端面に接続端子(図示せず)が備えられている。接続端子は、メータケース20の両端部壁23,23を気密状態に貫通して外部に露出しており、この接続端子とメータケース20の外部に備えた後述する制御処理部40とが電気接続されている。
【0025】
メータケース20の内部には、計測管収容室22をその長手方向(図1の左右方向)の中央部で2つの部屋に隔絶した隔壁24が備えられている。即ち、隔壁24は、計測管収容室22を上流側の流入部屋22Aと下流側の流出部屋22Bとに区画している。これら流入部屋22A及び流出部屋22Bには、それぞれ超音波送受波器30,30が収容されている。また、隔壁24を円形パイプ状の計測管25が貫通して、その両端部の開口が流入部屋22Aと流出部屋22Bとに配置されている。そして、超音波送受波器30,30の一部が計測管25を介して対向配置されている。以下、1対の超音波送受波器30,30を区別する場合は、「上流側の超音波送受波器30A」、「下流側の超音波送受波器30B」という。
【0026】
両管接続部21,21に都市ガスの配管90が接続されると、図1の点線矢印に示すように、上流側の管接続部21からメータケース20の流入部屋22Aにガスが流れ込み、計測管25を通過し、流出部屋22Bを経て下流側の管接続部21からメータケース20の外部に排出される。
【0027】
ここで、本実施形態では、1対の超音波送受波器30,30における送受波面31,31の最下端が、計測管25の端部開口より下方に配置されている。
【0028】
なお、各超音波送受波器30,30は、送受波面31,31以外の部分が防振部材(例えば、ゴム)で覆われている。
【0029】
図2(A)には、超音波流量計10における制御処理部40の詳細が示されている。この図2を参照しつつ、本実施形態の超音波流量計10の動作について説明する。
【0030】
コントロール部41は、送受切替スイッチ45,46を制御して、まずは図2に示すように、上流側の超音波送受波器30Aを送波回路42に接続しかつ、下流側の超音波送受波器30Bを受波回路43に接続した状態にしてから、送波回路42及びクロックカウンタ44に送波指令信号を出力する。すると、送波回路42が上流側の超音波送受波器30Aを駆動し、超音波が上流側の超音波送受波器30Aから下流側の超音波送受波器30Bに向けて発信されると同時に、クロックカウンタ44がクロックパルスに基づいて時間計測を開始する。
【0031】
上流側の超音波送受波器30Aから発信された超音波は、下流側の超音波送受波器30Bにて受波される。受波された超音波(以下、適宜「受信波」という)は下流側の超音波送受波器30Bに接続された受波回路43に入力し、受波回路43は、受信波を検知すると受信波検知信号dをクロックカウンタ44に出力する。受信波検知信号dの入力によってクロックカウンタ44はカウントを停止して、そのカウント値(即ち、超音波の伝搬時間)をコントロール部41に出力し、0リセットされる。
【0032】
コントロール部41にカウント値が入力すると、送波回路42は、上流側の超音波送受波器30を駆動停止し、次にコントロール部41から出力される送波指令信号の待ち状態になる。また、この間にコントロール部41が送受切替スイッチ45,46を駆動し、送波回路42を下流側の超音波送受波器30Bに接続し、受波回路43を上流側の超音波送受波器30Aに接続する。
【0033】
次いで、コントロール部41は、送波回路42に送波指令信号を出力する。これにより、今度は、超音波の送信方向を逆向きにして上記した場合と同様の処理が行われる。そして、コントロール部41において、ガスの流れに対する順方向と逆方向の両方向で計測されたクロックカウンタ44のカウント値の逆数差(伝搬時間の逆数差)が求められ、これに基づいて計測管25を流れるガスの流速が算出される。また、この流速に、計測管25の管路25Aの断面積を乗じて流量が算出される。
【0034】
図2(B)には、受波回路43の詳細が示されている。受波回路43のうち、基準波高設定部50には、複数段階(例えば、4段階)の基準波高Lv1〜Lv4が予め設定されている。
【0035】
図3には、受波回路43に備えた増幅部51による増幅後の受信波Wと各基準波高Lv1〜Lv4との関係が示されている。同図に示すように、本実施形態では、受信波Wにおける第1ピークP1の波高が、最も低い第1の基準波高Lv1だけを超えるように増幅部51の増幅度を設定した場合に、第3ピークP3の波高が、第1〜第4の基準波高Lv1〜Lv4を一気に超えるように各基準波高Lv1〜Lv4を設定してある。また、増幅部51は、増幅後の受信波Wが、基準波高Lv1〜Lv4との間で上記関係を満たすように、増幅前の受信波の波高に応じて、増幅度を変更及び設定するようになっている。ここで、第1ピークP1及び第3ピークP3は、本発明における「特定のピーク」に相当し、第1の基準波高Lv1は第1ピークP1に対する「基準波高」であり、第4の基準波高Lv4は第3ピークP3に対する「基準波高」となっている。なお、増幅度の変更及び設定については後に詳説する。
【0036】
図3に戻って説明を続けると、基準波高設定部50は、4段階の基準波高Lv1〜Lv4のうち、連続した複数段階(例えば、3段階)の基準波高を選択して比較部52へ出力する。具体的には、最初は、最も小さい基準波高Lv1を含む第1〜第3の基準波高Lv1〜Lv3を選択して出力する。受波側の超音波送受波器30にて受波された受信波は、増幅部51に設定された増幅度で増幅された後、比較部52とゼロクロス検知部53とに入力する。
【0037】
比較部52では、増幅後の受信波Wの第1ピークP1が、第1〜第3の基準波高Lv1〜Lv3と比較される。増幅後の受信波が図4に示す受信波形である場合、第1ピークP1は、第1の基準波高Lv1を超えるが、第2及び第3の基準波高Lv2,Lv3を超えない。このとき、比較部52は、第1ピークP1が第1の基準波高Lv1を超えたことをゼロクロス検知部53に伝える。
【0038】
すると、ゼロクロス検知部53は第1ピークP1の直後のゼロクロス点を検知し、ゼロクロス検知信号aを基準波高設定部50に出力する。また、比較部52は、第1ピークP1が3つの基準波高Lv1〜Lv3のうち、第1の基準波高Lv1だけを超えたことを意味する信号bを基準波高設定部50に送信する。
【0039】
基準波高設定部50は、比較部52からの信号bに基づき、第1ピークP1が超えた第1の基準波高Lv1に替えて、新たに第4の基準波高Lv4を設定し、この第4の基準波高Lv4と、第1ピークP1が超えなかった第2及び第3の基準波高Lv2,Lv3を比較部52へ出力する。
【0040】
上記した基準波高の切り替えは、ゼロクロス検知信号a及び信号bが入力すると直ちに行われる。即ち、第1ピークP1の次に第1基準波高Lv1を超える第3ピークP3が、比較部52に入力する前に、新たな3つの基準波高Lv2〜Lv4が比較部52に設定される。そして、第3ピークP3が、これら3つの基準波高Lv2〜Lv4を一気に超えると、比較部52は、この第3ピークP3を狙った特定のピークであると判断して、特定ピーク検知信号cをゼロクロス検知部53へと出力する。ゼロクロス検知部53は、この第3ピークP3の直後のゼロクロス点を検知して、受信波検知信号dをクロックカウンタ44に出力する。
【0041】
ところで、増幅部51は、増幅度(利得)を、例えば、段階的に変更可能な「利得可変増幅器」であり、増幅前の受信波の波高に応じて、最適な増幅度を設定するようになっている。増幅度の設定は、例えば、通常の流量計測の合間に定期的(例えば、1分間隔)に行われる。
【0042】
増幅度の設定は、以下に説明する増幅度設定プログラムPG1に従って行われる。即ち、図4に示すように、まず、増幅度を最低値に設定(S11)し、受波側の超音波送受波器30で実際に受波した受信波を、設定した増幅度で増幅する。そして、増幅された受信波によって受信波検知に成功するか否か、即ち、上述したように、増幅後の受信波が各基準波高Lv1〜Lv4との間で、図4に示した関係を満たすようになり、狙った特定のピーク(具体的には、第3ピークP3)を検知可能か否かを判定する(S12)。
【0043】
増幅度が小さく、受信波検知が成功しなかった場合(S12でNo)には、増幅度を1段階上げて(S13)、再度、受信波の増幅を行い、受信波検知(S12)を試みる。受信波検知が成功するまで増幅度を1段階ずつ上げていき、受信波検知が成功した場合(S12でYes)に、その増幅度(受信波検知可能な最低増幅度)を増幅部51に設定する(S14)。
【0044】
上記した増幅度設定処理(S11〜S14)は、ガスの流れに沿った順方向で超音波を送受波した場合と、ガスの流れに逆行した逆方向で超音波を送受波した場合とでそれぞれ行われ、順方向用の増幅度と逆方向用の増幅度とが設定される。そして、少なくとも次回の増幅度設定時(例えば、1分後)までは、この増幅度で受信波を増幅して流量計測を行う。なお、増幅度設定処理(S11〜S14)は、本発明の「増幅度設定手段」に相当する。
【0045】
ところで、何らかの原因で都市ガス配管に水が入り込んだり、ガスに含まれる水分が結露すると、メータケース20内に少しずつ水が溜まる。そして、図5又は図6に示すように、溜まった水が少なくとも何れか一方の超音波送受波器30の送受波面31に接触した状態になると、水に接触した超音波送受波器30から送波された超音波が、計測管25の管路25Aを流れるガスだけでなく、溜まった水又は、水を介して計測管25に伝搬する。このとき、超音波のエネルギーが分散するため、計測管25を流れるガス中を伝搬して受波側の超音波送受波器30で受波される受信波の大きさ、即ち、受信波に含まれる各ピークの波高が、正常時に比べて小さくなる。すると、上述した増幅度設定処理(S11〜S14)において設定される増幅度(受信波検知可能な最低増幅度)が、正常時に比較して大きくなる。
【0046】
そこで、本実施形態の超音波流量計10では、図4に示すように、増幅度設定処理(S11〜S14)において増幅部51に設定された増幅度が、予め設定された所定の基準増幅度を超えたか否かを判定し(S15)、基準増幅度を超えた場合(S15でYes)には、メータケース20内への浸水有りと判定して(S16)、メータケース20の外部に設けた警報器47(既存の流量表示器やランプを含む。図2参照)によって、異常(浸水)を報知する。また、メータケース20に内蔵された遮断弁18(図2参照)を作動させて、ガスの供給を停止する。さらに、通信手段を備えている場合には、ガス会社やガスメータの管理者に自動通報する。なお、ステップS15,S16は本発明の「異常判定手段」に相当する。
【0047】
このように、本実施形態によれば、流量計測用の超音波送受波器30,30を用いて、メータケース20内の浸水を検知することができるから、既存の超音波流量計に浸水検知機能を付加する場合に、メータケース20の追加加工や設計変更が不要であり、部品点数や組み付け作業の増加も抑えることができる。また、1対の超音波送受波器30,30のうち、少なくとも一方の超音波送受波器30が水と接触した状態になった時点(図5に示す状態)で、浸水を検知することができ、比較的早期に対処することが可能になる。
【0048】
また、超音波送受波器30,30の送受波面31,31の最下端が、計測管25の端部開口より下方に配置されているので、計測管25の管路25Aに水が侵入する水位より低い水位で、送受波面31,31が溜まった水と接触し、受信波のピーク波高低下が起きる。従って、計測管25の管路25Aにおけるガスが通過可能な断面積が狭まる前、即ち、流量計測の誤差が生じる前に浸水を検知して、超音波流量計10の交換等の対策を講じることができる。
【0049】
さらに、浸水を検知した場合に、警報器47や遮断弁18を作動させるので、不正確な超音波流量計10と知らずに使用し続けるということを防止することができる。
【0050】
[第2実施形態]
この第2実施形態は、上記第1実施形態の構成に対し、超音波の伝搬時間に基づいて浸水を検知する機能を追加した構成となっている。以下、第1実施形態との相違点についてのみ説明し、第1実施形態と同一の部位については同一符号を付すことで重複した説明は省略する。
【0051】
図6に示すように、メータケース20内に溜まった水が1対の超音波送受波器30,30と計測管25との間に介在して、超音波送受波器30,30間が水及び計測管25で繋がった状態になると、水及び計測管25を伝搬した超音波が、ガス中を伝搬する超音波よりも速く受波側の超音波送受波器30に受波される。これに対し、本実施形態の超音波流量計10では、例えば、ガス中の音速、温度、使用時のガスの最大流速、その他使用条件等に基づいて予め設定された、ガス(都市ガス)中を伝搬する超音波ではあり得ない所定の基準伝搬時間が設定されており、1対の超音波送受波器30,30間における超音波の伝搬時間が、基準伝搬時間以下である場合にも、メータケース20内への浸水有りと判定するようになっている。
【0052】
詳細には、図7に示すように、伝搬時間確定プログラムPG2では、まず、クロックカウンタ44のカウント値に基づいて、送波側の超音波送受波器30が超音波を送波してから所定の制限時間が経過したか否かを判定する(S21)。制限時間は、例えば、最大流速のガスの流れと逆行した方向で超音波を送受波した場合の、超音波の伝搬時間より僅かに長くなっている。
【0053】
制限時間を超えていない場合(S21でNo)には、受波側の超音波送受波器30が、所定の条件を満たす超音波を受波したか否かを判定する(S22)。具体的には、増幅後の受信波が各基準波高Lv1〜Lv4との間で、図4に示した関係を満たし、狙った特定のピーク(例えば、第3ピークP3)を検知したか否かを判定する。この処理(S22)は、所定の条件を満たす受信波を検知するまで繰り返し行われる。そして、所定の条件を満たす受信波を検知する前に制限時間が経過した場合(S21でYes)は、受信波検知失敗(S23)であり、直ちにこの処理を抜ける。
【0054】
一方、制限時間内に所定の条件を満たす超音波を受波した場合(S22でYes)は、受信波検知成功であり(S24)、クロックカウンタ44に受信波検知信号dが出力され、超音波の伝搬時間が確定する(S25)。次いで、計測された伝搬時間が基準伝搬時間と比較され(S26)、伝搬時間が基準伝搬時間を超えている場合(S26でNo)は、受信波が、ガスを伝搬した超音波であるとしてこの処理を抜ける。一方、伝搬時間が基準伝搬時間以下である場合(S26でYes)には、ガス以外の伝搬媒体、即ち、図6に示すように、メータケース20内に溜まった水及び計測管25を伝搬媒体として超音波が伝搬したとして、浸水有りと判定する(S27)。浸水有りと判定した場合には、警報器47で、異常を報知すると共に遮断弁18を作動させてガスの供給を停止する。
【0055】
ここで、ステップS26の処理は、本発明の「時間判定手段」に相当する。また、ステップ26,S27の処理を有する伝搬時間確定プロクラムPG2は、本発明の「補助異常判定手段」に相当する。なお、伝搬時間確定プロクラムPG2におけるステップS21〜S27の処理を、流量計測時の毎回の超音波送受波時に行うようにしてもよいし、通常時は、ステップS21〜S25の処理を行い、定期的にステップS26,S27の処理を追加して行うようにしてもよい。
【0056】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同等の効果を奏すると共に、以下の効果を奏する。即ち、2つの異なる手法の異常判定処理、つまり、受波した超音波に含まれる特定のピークの波高に基づいて浸水を判定する処理(図4におけるステップS15,S16の処理)と、超音波の伝搬時間に基づいて浸水を判定する処理(図7におけるステップS26,S27の処理)とを行うことができるので、仮に何れか一方の判定処理が不能となった場合でも他方の判定処理で浸水を検知することができ、浸水検知の確実性が向上する。
【0057】
なお、本願発明の技術的範囲には含まれないが、受信波の伝搬時間に基づいた浸水検知(図8参照)だけを行い、受波した超音波に含まれる特定のピークの波高に基づいた浸水検知(図4参照。より詳細には、ステップS15,S16)を行わない構成としてもよい。
【0058】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0059】
(1)上記第1実施形態では、増幅度の大きさに基づいて受信波に含まれる特定のピーク(第3ピークP3)の波高が所定の基準波高を超えて低下したか否かを判定するようにしていたが、増幅部51が、常に一定の増幅度で受信波を増幅するようにした場合は、以下のようにしてもよい。
【0060】
図8において実線で示された波形は、正常時における増幅後の受信波形であり、点線で示された波形は、送波側の超音波送受波器30が水と接触した場合における増幅後の受信波形である。このとき、所定の基準波高Lvは、正常時の受信波における第3ピークP3より小さく、送波側の超音波送受波器30が水と接触した場合の受信波における第3ピークP3より大きい値に設定されている。
【0061】
そして、図8に示すように、増幅後の受信波に含まれる複数のピークのうち、所定の基準波高Lv以上のピーク数が、予め設定した基準数未満(図8で示した受信波形では、5つ未満)となったことを以て、受波した超音波に含まれる特定のピーク(第3ピークP3)の波高が所定の基準波高Lvを超えて低下したと判定するようにしてもよい。
【0062】
(2)また、超音波の送波(クロックカウンタ44に送波指令信号が入力したとき)から、所定の基準波高Lvを最初に超えたピーク(図8では第5ピークP5)の直後のゼロクロス点を検知するまでの時間T2が、正常時に予め実験的に求めておいた第3ピークP3のゼロクロス点を検知し得る最も遅い時間T1を超えた場合に、受波した超音波に含まれる特定のピーク(第3ピークP3)の波高が所定の基準波高Lvを超えて低下したと判定するようにしてもよい。
【0063】
(3)上記実施形態では、計測管25を円形パイプ状としていたが、図9(A)に示すように、管路26Aの断面が上下方向に対して水平方向が長くなった扁平形状の計測管26でもよい。このような計測管26とした場合には、図9(B)に示すように、1対の超音波送受波器30,30を、計測管26の長手方向に対して斜めに交差する方向で対向配置させてもよい。このような扁平断面の計測管26を使用すれば、比較的大きな流量を計測することが可能になる。
【0064】
(4)上記実施形態では、メータケース20内に計測管25を収容した構成であったが、図10に示すメータケース27のように、計測管を備えず、メータケース27の長手方向の中間部分を絞って管路27Aを形成した構成としてもよい。
【0065】
(5)上記実施形態では、ガスの流れの順方向と逆方向とで交互に超音波を送受波して、それらの伝搬時間に基づいて流量を演算していたが、以下のようにしてもよい。即ち、まずは、順方向で所定の複数回超音波を送受波し、1回目の送波開始から複数回目の受波検知までに要した時間をクロックカウンタ44にて計測する。次に、逆方向で所定の複数回超音波を送受波し、1回目の送波開始から複数回目の受波検知までに要した時間をクロックカウンタ44にて計測する。そして、順方向と逆方向の両方向で計測されたクロックカウンタ44のカウント値に基づいてガスの流速・流量を演算する。このようにすれば、上記第1実施形態に構成に比べて分解能が向上し、測定精度が向上する。
【符号の説明】
【0066】
10 超音波流量計
18 遮断弁
20 メータケース
24 隔壁
25 計測管
25A 管路
26 計測管
26A 管路
27 メータケース
27A 管路
30 超音波送受波器
31 送受波面
40 制御処理部
43 受波回路
47 警報器
51 増幅部
Lv 基準波高
Lv1〜Lv4 基準波高
P1 第1ピーク
P3 第3ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メータケース内に対向配置された1対の超音波送受波器の間における超音波の伝搬時間に基づいて、前記メータケース内を通過する気体の流量を測定する超音波流量計において、
前記超音波送受波器にて受波された超音波に含まれる複数のピークのうち、特定のピークの波高が予め定められた基準値を超えて低下した場合に、浸水有りと判定する異常判定手段を備えたことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記超音波送受波器にて受波された超音波を増幅する増幅部と、
増幅後の前記特定のピークの波高が、予め設定された基準波高になるように前記増幅部における増幅度を変更して設定する増幅度設定手段とを備え、
前記波高異常判定手段は、前記増幅度設定手段によって設定された増幅度が予め定められた基準増幅度以上であるか否かを判定し、前記基準増幅度以上であることを以て、浸水有りと判定することを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
一方の前記超音波送受波器が超音波を送波してから他方の前記超音波送受波器が前記超音波を受波するまでの伝搬時間が、前記気体中を伝搬する超音波ではあり得ない所定の基準伝搬時間以下か否かを判定する時間判定手段と、
前記伝搬時間が前記基準伝搬時間以下である場合に、浸水有りと判定する補助異常判定手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記メータケースの内部空間を、前記メータケースの外部から前記気体が流入する流入空間と前記メータケースの外部へと前記気体が流出する流出空間とに仕切る隔壁と、その隔壁を貫通して前記流入空間と前記流出空間を連通する計測管とを備え、
前記1対の超音波送受波器の一部が前記計測管を介して対向配置されると共に、
前記1対の超音波送受波器のうち、超音波を送受波する送受波面の最下端が、前記計測管の端部開口より下方に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の超音波流量計。
【請求項5】
前記計測管のうち前記気体が流れる管路の断面が、上下方向に対して水平方向が長い扁平形状をなしたことを特徴とする請求項4に記載の超音波流量計。
【請求項6】
前記浸水有りと判定された場合に、前記メータケースへの前記気体の供給を遮断する遮断弁を備えたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の超音波流量計。
【請求項7】
前記浸水有りと判定された場合に、警報を発する警報手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−154667(P2012−154667A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11812(P2011−11812)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000116633)愛知時計電機株式会社 (126)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(309042071)東光東芝メーターシステムズ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】