説明

超音波溶着装置、情報記録媒体製造装置、超音波溶着方法、物体およびカートリッジケース

溶融した材料で形成された部位が破断したり、過大に突出したりすることを回避する。 超音波発振部3と、記録媒体用ケース(上ケース11aおよび下ケース11b)における取付用ボス22aの先端部に当接する当接面が梨地加工されると共に超音波発振部3によって生成された超音波が伝達されるホーン4と、ホーン4を記録媒体用ケースに対して接離する方向で移動させる移動機構2とを備えている。これにより、溶融した材料の当接面に沿った広い範囲への流れ出しや溶融した材料で形成された部位に対する深い凹部の形成を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波溶着装置、情報記録媒体製造装置および超音波溶着方法、これらの装置および方法を用いて溶着処理された物体およびカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の超音波溶着装置として、テープカセットにおける上シェル(21)にリールスプリング(28,29)を固定可能に構成された超音波溶着装置(超音波溶着ホーン(36))が特開平11−176132号公報に開示されている。この場合、上シェル(21)およびリールスプリング(28)、並びに上シェル(21)およびリールスプリング(29)は、この超音波溶着装置を用いた溶着(具体的にはカシメ)という手法によって固定される1組の物体をそれぞれ構成する。このうちの一方の物体であるリールスプリング(28,29)は、カセットケース内におけるリール(26,27)のがたつきを防止するための部品であって、金属製の板材で弾性変形可能に形成されて、その基端部(28b,29b)が他方の物体としての上シェル(21)に固定されると共に、その先端部(28a,29a)がリール(26,27)の中心部に当接させられてリール(26,27)を弾性的に押圧する。一方、上シェル(21)にリールスプリング(28,29)を固定する超音波溶着装置は、超音波発振部による発振で生成された超音波を超音波溶着ホーン(36)を介して上シェル(21)(具体的には上シェル(21)のカシメボス(33))に伝達することによってカシメボス(33)を溶融してリールスプリング(28,29)を固定可能に構成されている。
【0003】
この超音波溶着装置を用いて上シェル(21)にリールスプリング(28,29)を固定する際には、まず、リールスプリング(28,29)の基端部(28b,29b)に形成されたカシメ穴(31)に上シェル(21)の内壁面に形成されたカシメボス(33)を挿通させる。次に、超音波発振部に対して超音波を発振させつつ、移動機構によって超音波ホーンをカシメボス(33)に向けて移動(下動)させることにより、カシメ凹部(36a)の底面(超音波溶着ホーン(36)の下面)をカシメ穴(31)の縁部に当接させる。この際には、超音波発振部の発振で生成された超音波が超音波溶着ホーン(36)を介してカシメボス(33)の先端に伝達されてその先端が溶融する。また、溶融したカシメボス(33)の先端は、カシメ凹部(36a)内に押し拡げられるようにして潰される。この結果、カシメボス(33)の先端にヘッド部(33a)が形成され、このヘッド部(33a)によってリールスプリング(28,29)の離脱が規制されて、これにより、上シェル(21)に対するリールスプリング(28,29)の固定が完了する。
【特許文献1】特開平11−176132号公報(第3−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、上述した従来の超音波溶着装置を検討した結果、以下のような問題点を発見した。すなわち、この従来の超音波溶着装置では、超音波溶着ホーン(36)を介して超音波を伝達しつつ超音波溶着ホーン(36)を下動させることによってカシメボス(33)の先端を溶融してカシメ凹部(36a)内にヘッド部(33a:固定用頭部)を形成している。この場合、超音波溶着ホーン(36)のカシメ凹部(36a)がある程度の深さを有する円形凹部に形成されているため、このカシメ凹部(36a)内に押し拡げられるようにして形成された半球状のヘッド部(33a)がカセットケースの内側に大きく突出する。したがって、従来の超音波溶着装置(超音波溶着ホーン(36))を使用してリールスプリング(28,29)を上シェル(21)に固定した場合、リール(26,27)がヘッド部(33a)の先端に当接するおそれがある。
【0005】
一方、カシメ凹部(36a)が形成された超音波溶着ホーン(36)に代えて、カシメボス(33)に当接する当接面が平坦に形成された超音波溶着ホーン(以下、「ホーン」ともいう)を使用してカシメボス(33)の先端を押し潰してヘッド部を形成することにより、カセットケース内にヘッド部を大きく突出させることなくリールスプリング(28,29)を固定することが可能となる。しかし、この種のホーンには、カシメボス(33)に超音波を効率良く伝達可能とするために、例えば図8に示す超音波溶着ホーン51のように網目模様状の溝(微細凹凸)が当接面51aに形成されている。したがって、上記のテープカセットを製造する場合、図9に示すように、この超音波溶着ホーン51によってカシメボス(33)の先端を押し潰して形成したヘッド部33bには、当接面51aの網目模様と相補的形状の凹部(33c,33c‥)が形成される。
【0006】
この場合、当接面51aに形成された網目模様(溝)は、一般的に、その深さが0.2mm程度に規定されている。したがって、この当接面51aを押し付けて形成したヘッド部33bの凹部33cは、その深さDが0.2mm程度に形成される。一方、ヘッド部33bを大きく突出させることなく、上シェル(21)に対してリールスプリング(28,29)を確実に固定するには、ヘッド部33bの厚みT1を0.35mm〜0.4mm程度の範囲内に規定する必要がある。しかし、超音波溶着ホーン51を使用して例えば厚みT1が0.35mmのヘッド部33bを形成した場合、凹部33cの底面とリールスプリング(28,29)との間の厚みTが0.15mm程度と非常に薄厚となる。このため、当接面51aに網目模様状の溝を形成した超音波溶着ホーン51を使用してリールスプリング(28,29)を上シェル(21)に固定したときには、ヘッド部33bが凹部33cの部位で破断し易くなり、リールスプリング(28,29)の外れや、ヘッド部33bの破断片による磁気テープの傷付きを招くおそれがある。
【0007】
また、その当接面に溝が形成されていない超音波溶着ホーンを使用してカシメボス(33)の先端を押し潰すことにより、ヘッド部に凹部33cを形成することなくリールスプリング(28,29)を固定することが可能となる。しかし、当接面に溝等の微細凹凸が形成されていない超音波溶着ホーンを使用した場合、カシメボス(33)の先端が溶融した際に、溶融した樹脂材料が当接面に沿って広い範囲に流れ出る結果、図10に示すように、ヘッド部33dの厚みT1aが非常に薄厚に形成される。この際に、ヘッド部33dの外縁部分ほど薄厚となるため、この部位が特に破断し易くなる。このため、当接面に微細凹凸が形成されていない超音波溶着ホーンを使用してリールスプリング(28,29)を上シェル(21)に固定したときには、リールスプリング(28,29)の外れや、ヘッド部33dの破断片による磁気テープの傷付きを招くおそれがある。
【0008】
本発明は、上述のような問題点を解決すべくなされたものであり、溶融した材料で形成された部位が破断したり、過大に突出したりすることのない超音波溶着装置、情報記録媒体製造装置および超音波溶着方法、並びにこれらの装置や方法を用いて形成される物体およびカートリッジケースを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る超音波溶着装置は、超音波発振部と、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に前記超音波発振部によって生成された超音波が伝達される超音波ホーンと、当該超音波ホーンを前記物体に対して接離する方向で移動させる移動機構とを備えて構成されている。
【0010】
この場合、前記超音波ホーンは、その十点平均粗さ(JIS B0601−1994)が10μm以上25μm以下の範囲内となるように前記当接面が梨地加工されている。
【0011】
また、この超音波溶着装置は、前記物体に形成された溶着用凸部を他の物体に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に前記超音波ホーンの前記当接面を当接させると共に前記超音波発振部に前記超音波を発振させつつ前記移動機構に対して当該超音波ホーンを前記溶着用凸部に向けて移動させることにより、前記先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成して前記他の物体を前記物体に固定可能に構成されている。
【0012】
この発明に係る情報記録媒体製造装置は、超音波発振部と、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に前記超音波発振部によって生成された超音波が伝達される超音波ホーンと、当該超音波ホーンを前記物体に対して接離する方向で移動させる移動機構とを備え、前記物体としての記録媒体用ケースに形成された溶着用凸部を記録媒体用部品に形成さている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に前記超音波ホーンの前記当接面を当接させると共に前記超音波発振部に前記超音波を発振させつつ前記移動機構に対して当該超音波ホーンを前記溶着用凸部に向けて移動させることにより、前記先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成して前記記録媒体用部品を前記記録媒体用ケースに固定してカートリッジ式の情報記録媒体を製造可能に構成されている。
【0013】
この発明に係る超音波溶着方法は、物体に形成された溶着用凸部を他の物体に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に超音波ホーンの梨地加工された当接面を当接させた後に、前記超音波ホーンを介して前記溶着用凸部に超音波を伝達させつつ当該超音波ホーンを当該溶着用凸部に向けて移動させることによって当該溶着用凸部の先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成することにより、前記物体に前記他の物体を固定する。
【0014】
この発明に係る物体は、溶着処理による梨地模様が表面の一部に形成されている。
【0015】
この発明に係るカートリッジケースは、溶着処理による梨地模様が表面の一部に形成されている物体としての記録媒体用ケースを備えている。
【0016】
この場合、前記表面としてのバネ固定用のボスの表面に前記梨地模様が形成されている。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る超音波溶着装置によれば、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に超音波発振部によって生成された超音波を物体に伝達することによって物体を溶融させる超音波ホーンを備えたことにより、溶融した材料の当接面に沿った広い範囲への流れ出しや固定用頭部に対する深い凹部の形成を回避しつつ、超音波を超音波発振部から一方の物体に伝達して溶融させて例えば固定用頭部を形成することができる。したがって、溶融した材料で形成された部位が過大に突出したり、破断したりすることを防止することができる結果、溶融した材料で形成された部位を利用して物体に他の物体を固定することができる。
【0018】
この発明に係る超音波溶着装置によれば、その十点平均粗さが10μm以上25μm以下の範囲内となるように当接面を梨地加工した超音波ホーンを使用することにより、溶融した材料の当接面に沿った広い範囲への流れ出しを確実に防止しつつ、溶融した材料で形成された部位に対する深い凹部の形成を確実に回避することができる。
【0019】
この発明に係る超音波溶着装置、情報記録媒体製造装置および超音波溶着方法によれば、物体に形成された溶着用凸部を他の物体に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で溶着用凸部の先端部に超音波ホーンの当接面を当接させると共に超音波発振部に超音波を発振させつつ移動機構に対して超音波ホーンを溶着用凸部に向けて移動させて、先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成して他の物体を物体に固定することにより、溶融した材料の当接面に沿った広い範囲への流れ出しや固定用頭部に対する深い凹部の形成を回避することができる結果、固定用頭部の突出および固定用頭部への深い凹部の形成を回避しつつ、物体に他の物体を確実に固定することができる。
【0020】
この発明に係る物体およびカートリッジによれば、溶着処理による梨地模様が表面の一部に形成されているため、超音波ホーンの当接面に沿った広い範囲への溶融した材料の流れ出しや、溶融した材料で形成された部位(固定用頭部)に対する深い凹部の形成が回避されている。したがって、溶融した材料で形成された部位が過大に突出したり、破断したりすることを防止することができる結果、溶融して形成された部位と他の部材との干渉を回避しつつ、溶融して形成された部位を利用して物体に他の物体を確実に固定することができる。
【0021】
この発明に係るカートリッジによれば、バネ固定用のボスの表面に溶着処理による梨地模様が形成されているため、超音波ホーンの当接面に沿った広い範囲への溶融した材料の流れ出しや、溶融した材料で形成された部位(固定用頭部)に対する深い凹部の形成が回避されている。したがって、溶融した材料で形成された固定用頭部が過大に突出したり、破断したりすることを防止することができる結果、固定用頭部との接触によって磁気テープが傷付く事態および固定用頭部の破断片によって磁気テープが傷付く事態を回避しつつ、ボスにバネを確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る超音波溶着装置、情報記録媒体製造装置、超音波溶着方法、物体およびカートリッジケースの最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0023】
最初に、情報記録媒体製造装置101、および情報記録媒体製造装置101を使用して組み立てられるテープカートリッジ10の構成について、図面を参照して説明する。
【0024】
情報記録媒体製造装置(以下、「製造装置」ともいう)101は、部品搬送装置102、搬送機構103および超音波溶着装置1を備えて、図3に示すテープカートリッジ10を製造可能に構成されている。この場合、超音波溶着装置1は、テープカートリッジ10の組み立てに際して、1組の溶着対象体の一方を構成する物体としての記録媒体用ケース(上ケース11aおよび下ケース11b)に、他方を構成する他の物体としてのばね部材18を、溶着という方法によって固定する溶着装置(溶着処理を実行する装置)であって、図1に示すように、移動機構2、超音波発振部3、超音波ホーン(以下、「ホーン」ともいう)4、制御部5および基台6を備えて構成されている。移動機構2は、制御部5の制御下で超音波発振部3およびホーン4を記録媒体用ケースに対して接離する方向で移動させる。超音波発振部3は、制御部5の制御下で、一例として、30kHz程度の超音波を発振してホーン4を縦振動させる。
【0025】
ホーン4は、超音波発振部3の発振によって生成された超音波を記録媒体用ケース(上ケース11aおよび下ケース11b)に伝達する治具であって、図2に示すように、超音波を効率よく伝達可能とするために、全体として略円錐形に形成されている。また、ホーン4は、その先端部4bに形成された当接面4cを下向きにした(基台6側に向けた)状態で、その基端部4aが超音波発振部3に連結(固定)されている。また、ホーン4の当接面4cは、平坦に形成されると共に、その十点平均粗さ(JIS B0601−1994:以下、「表面粗さ」ともいう)が10μm以上25μm以下の範囲内(一例として、16.7μm)となるように、その表面に例えば放電加工によって微細凹凸を均一に形成した無方向性のつや消し仕上げ(本明細書では、「梨地加工(砂目加工)」ともいう)が施されている。この場合、上記の表面粗さについては、一例として、表面形状測定装置(株式会社小坂研究所製SE−30H)を使用して、測定用針の曲率半径を2μm、カットオフを0.8mm、測定長を2.5mmに規定して当接面4c上の3カ所についての測定処理を実施し、その平均値を求めた。なお、平均値に限らず、当接面4c上の代表的な任意の1カ所について測定処理を実施して表面粗さを求めてもよい。また、当接面4cについては、その表面粗さが上記の範囲内であればその加工方法は放電加工に限定されるものではなく、例えばブラスト処理等の機械的な加工や、各種薬品を用いた化学的な処理によって梨地加工することができる。制御部5は、移動機構2を制御して超音波発振部3およびホーン4を移動(上下動)させると共に、超音波発振部3を制御して超音波を発振させる。基台6は、一例として、搬送機構103の搬送用レールで構成されて、上ケース11aおよび下ケース11bを載置可能に形成されている。
【0026】
部品搬送装置102は、超音波溶着装置1によって溶着されるばね部材18を搬送して両ケース11a,11b上にセットする。搬送機構103は、部品搬送装置102による作業位置への両ケース11a,11bの搬送、ばね部材18のセットが完了した両ケース11a,11bの超音波溶着装置1による作業位置への搬送、およびばね部材18の固定(溶着)が完了した両ケース11a,11bの次工程作業位置への搬送を実行する。
【0027】
一方、テープカートリッジ10は、例えば電子計算機に記録された記録データをバックアップするためのストレージデバイスとして使用可能な1リールタイプのカートリッジ式の磁気記録媒体(情報記録媒体)であって、図3に示すように、テープリール12、ブレーキスプリング13、ロック部材14、ブレーキ解除板15およびドア部材16などがケース本体11内に収容されて構成されている。この場合、テープリール12には、磁気テープ(図示せず)が巻回されており、この磁気テープの先端には、記録データの記録再生時にケース本体11内から磁気テープを引き出すためのリーダピン17が固定されている。なお、ブレーキスプリング13、ロック部材14、ブレーキ解除板15およびドア部材16などの形状や機能等については公知のため、本発明についての理解を容易とするためにその説明を省略する。
【0028】
ケース本体11は、互いに嵌合可能な上ケース11aおよび下ケース11bを備えている。この場合、上ケース11aには、天板の四辺に立設された4つの側板のうちの1つに、テープ引き出し口21を構成する切り欠き21aが形成されている。また、下ケース11bには、底板22の四辺に立設された4つの側板のうちの1つに、上ケース11aの切り欠き21aと相俟ってテープ引き出し口21を構成する切り欠き21bが形成されている。なお、上ケース11aおよび下ケース11bは、その形状や、後述するばね部材18の取り付け構造などがほぼ同様のため、以下、下ケース11bについて代表して説明して、上ケース11aについての説明を省略する。
【0029】
図4に示すように、下ケース11bにおける切り欠き21b(テープ引き出し口21)の近傍には、ケース本体11からのリーダピン17の離脱を規制する上記のばね部材18が固定されている。この場合、ばね部材18は、帯状の弾性部材(例えば金属片)を所定形状に折り曲げて形成され、図5に示す挿通用孔18bを形成する筒状部18aが超音波溶着装置1によって下ケース11b(底板22)に固定(溶着)されている。また、下ケース11bの底板22には、ばね部材18を固定するための取付用ボス22a(本発明における溶着用凸部)が立設されている。この場合、取付用ボス22aは、円柱状に形成されて、図5に示すように、筒状部18aによって形成される挿通用孔18bに挿通される。また、挿通用孔18bから突出する取付用ボス22aの先端部は、超音波溶着装置1によって平板状(板状の一例)に押し潰されてばね部材18の離脱(外れ)を規制する固定用頭部(以下、「頭部」ともいう)22bに形成される。
【0030】
次に、製造装置101の超音波溶着装置1によって下ケース11bに対して溶着処理を施すことにより、下ケース11bにばね部材18を固定(溶着)する方法について、図面を参照して説明する。
【0031】
まず、部品搬送装置102が、ばね部材18を搬送して下ケース11b上にセットする。この際に、部品搬送装置102は、図6に示すように、底板22の取付用ボス22aが筒状部18aの挿通用孔18bに挿通するようにして、ばね部材18をセットする。なお、下ケース11bにばね部材18をセットした時点では、同図に示すホーン4は、この位置には存在しない。次に、搬送機構103が基台6(搬送用レール)に沿って下ケース11bをホーン4の下方に搬送する。次いで、超音波溶着装置1が溶着作業を開始する。この際には、制御部5が、超音波発振部3を制御して超音波を発振させると共に、移動機構2を制御して超音波発振部3およびホーン4をケース本体11に向けて移動(下動)させ、同図に示すように、ホーン4の当接面4cを取付用ボス22aの先端面(本発明における当接面)に当接させる。この際には、超音波が超音波発振部3からホーン4を介して取付用ボス22aに伝達され、これにより、取付用ボス22aの先端部が溶融する。
【0032】
次いで、移動機構2によってホーン4がさらに下動させられた際には、図7に示すように、溶融した取付用ボス22a(樹脂材料)がホーン4によって押し潰されて当接面4cに沿って円板状(平板状)に押し拡げられる。この際に、当接面に微細凹凸が形成されていないホーンを使用するのとは異なり、溶融した樹脂材料が当接面4cに沿って広い範囲に流れ出る事態が回避される。この場合、当接面4cの表面粗さを10μm未満に規定したときには、溶融した樹脂材料が当接面4cに沿って広い範囲に流れ出るおそれがある。したがって、当接面4cの表面粗さを10μm以上に規定するのが好ましい。
【0033】
続いて、制御部5は、超音波発振部3を制御して超音波の発振を停止させると共に、移動機構2を制御して超音波発振部3およびホーン4を下ケース11bから離反する方向(上方)に移動させる。この際には、溶融していた樹脂材料(取付用ボス22aの先端部)が固まって平板状の頭部22bが形成される。この際に、当接面4cが梨地加工されているため、その当接面に網目模様状の溝が形成されているホーンを使用したときとは異なり、頭部22bの破断を招くおそれのある凹部を形成することなく、頭部22bを形成することが可能となる。これにより、頭部22bによって下ケース11bからのばね部材18の離脱(外れ)が規制されて、ばね部材18が固定される。この場合、当接面4cの表面粗さを25μmよりも粗く規定したときには、頭部22bの表面に深い凹部が形成されて、頭部22bが破断し易くなるおそれがある。したがって、当接面4cの表面粗さを25μm以下に規定するのが好ましい。この後、テープリール12などの収容と、上ケース11aおよび下ケース11bの嵌合(ねじ止め)等を行うことにより、テープカートリッジ10が製造される。
【0034】
このように、この超音波溶着装置1および製造装置101によれば、当接面4cを平坦に形成して梨地加工したホーン4を使用して取付用ボス22aを溶融しつつ平板状に押し潰してばね部材18を上ケース11aおよび下ケース11bに固定可能に構成したことにより、当接面に微細凹凸が形成されていないホーンを使用するのとは異なり、溶融した取付用ボス22aが広い範囲に亘って流れ出る事態を回避することができる。この結果、ケース本体11の内側に頭部22bを大きく突出させることなく、しかも頭部22bの厚みを十分に確保した状態でばね部材18を固定することができる。これにより、頭部22bに磁気テープが接触して傷付く事態を回避することができる。また、頭部22bの外縁部分が薄厚にならないために頭部22bが破断する事態も回避することができる結果、上ケース11aおよび下ケース11bにばね部材18を確実に固定することができる。また、その当接面に網目模様状の溝が形成されたホーンを使用するのとは異なり、頭部22bに深い凹部を形成することなくばね部材18を固定することができる。これにより、頭部22bが破断する事態を回避することができる結果、ばね部材18の離脱を回避することができると共に、頭部22bの破断片による磁気テープの傷付きを回避することができる。
【0035】
また、この超音波溶着装置1および製造装置101によれば、その十点平均粗さが10μm以上25μm以下の範囲内となるように当接面4cを梨地加工したホーン4を使用することにより、溶融した取付用ボス22aが広い範囲に亘って流れ出る事態、および破断を招く深い凹部が頭部22bに形成される事態を確実に回避することができる。この結果、上ケース11aおよび下ケース11bにばね部材18を一層確実に固定することができると共に、頭部22bの破断片による磁気テープの傷付きを一層確実に回避することができる。
【0036】
なお、本発明は、上記した構成に限定されない。例えば、上記の構成では、1組の溶着対象体の一方を構成する物体としての下ケース11b(および上ケース11a)に1組の溶着対象体の他方を構成する他の物体としてのばね部材18を固定(溶着)する例を挙げて説明したが、本発明に係る超音波溶着装置を使用して固定可能な1組の溶着対象体には、上ケース11aおよびばね部材18の組、下ケース11bおよびばね部材18の組に限らず、各種部材の組が含まれる。例えば、光ヘッド、光磁気ヘッドおよび磁気ヘッドなどの記録/再生用ヘッドの製造時において、各ヘッドを構成する樹脂製のヘッド本体に形成されたボスをかしめてヘッド本体に金属製の板バネを固定するときにも、ヘッド本体を物体とし、かつ板バネを他の物体とする組として本発明を適用することができる。また、圧電共振子の製造時において、スペーサに形成されたボスをかしめてスペーサにアース端子板を固定することにより、圧電共振子を構成する樹脂製のスペーサと金属製のアース端子板との間で圧電素子を挟持させるときにも、スペーサを物体とし、かつアース端子板を他の物体とする組として本発明を適用することもできる。また、上記した構成では、ばね部材18の溶着に際して30kHz程度の超音波によってホーン4を縦振動させる例について説明したが、超音波の周波数および振動方向はこれに限定されず、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、この発明に係る超音波溶着装置によれば、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に超音波発振部によって生成された超音波を物体に伝達することによって物体を溶融させる超音波ホーンを備えたことにより、溶融した材料の当接面に沿った広い範囲への流れ出しや溶融した材料で形成された部位に対する深い凹部の形成を回避しつつ、超音波を超音波発振部から一方の物体に伝達して溶融させて例えばボスの頭部を形成することができる。これにより、溶融した材料で形成された部位(例えばボスの頭部)が過大に突出したり、破断したりすることのない超音波溶着装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る製造装置101(超音波溶着装置1)の構成を示すブロック図である。
【図2】左図はホーン4の正面図、右図はホーン4の底面図である。
【図3】テープカートリッジ10の構成を示す分解斜視図である。
【図4】下ケース11bにおける切り欠き21bの近傍の平面図である。
【図5】図4におけるA−A線断面図である。
【図6】ばね部材18の固定に際して下ケース11bにおける取付用ボス22aの先端面にホーン4を当接させた状態の断面図である。
【図7】図6の状態におけるホーン4を下動させて取付用ボス22aの先端部を押し潰した(頭部22bを形成した)状態の断面図である。
【図8】従来の超音波溶着ホーン51を当接面51a側から見た底面図である。
【図9】超音波溶着ホーン51によってカシメボス(33)の先端部を押し潰してヘッド部33bを形成した状態の断面図である。
【図10】当接面が微細凹凸加工されていない超音波溶着ホーンによってカシメボス(33)の先端部を押し潰してヘッド部33dを形成した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 超音波溶着装置
2 移動機構
3 超音波発振部
4 ホーン
4a 基端部
4b 先端部
4c 当接面
5 制御部
6 基台
10 テープカートリッジ
11 ケース本体
11a 上ケース
11b 下ケース
18 ばね部材
18a 筒状部
18b 挿通用孔
22 底板
22a 取付用ボス
22b 頭部
101 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波発振部と、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に前記超音波発振部によって生成された超音波が伝達される超音波ホーンと、当該超音波ホーンを前記物体に対して接離する方向で移動させる移動機構とを備えている超音波溶着装置。
【請求項2】
前記超音波ホーンは、その十点平均粗さが10μm以上25μm以下の範囲内となるように前記当接面が梨地加工されている請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項3】
前記物体に形成された溶着用凸部を他の物体に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に前記超音波ホーンの前記当接面を当接させると共に前記超音波発振部に前記超音波を発振させつつ前記移動機構に対して当該超音波ホーンを前記溶着用凸部に向けて移動させることにより、前記先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成して前記他の物体を前記物体に固定可能に構成されている請求項1または2記載の超音波溶着装置。
【請求項4】
超音波発振部と、物体に当接する当接面が梨地加工されると共に前記超音波発振部によって生成された超音波が伝達される超音波ホーンと、当該超音波ホーンを前記物体に対して接離する方向で移動させる移動機構とを備え、
前記物体としての記録媒体用ケースに形成された溶着用凸部を記録媒体用部品に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に前記超音波ホーンの前記当接面を当接させると共に前記超音波発振部に前記超音波を発振させつつ前記移動機構に対して当該超音波ホーンを前記溶着用凸部に向けて移動させることにより、前記先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成して前記記録媒体用部品を前記記録媒体用ケースに固定してカートリッジ式の情報記録媒体を製造可能に構成されている情報記録媒体製造装置。
【請求項5】
物体に形成された溶着用凸部を他の物体に形成されている挿通用孔に挿通させた状態で当該溶着用凸部の先端部に超音波ホーンの梨地加工された当接面を当接させた後に、前記超音波ホーンを介して前記溶着用凸部に超音波を伝達させつつ当該超音波ホーンを当該溶着用凸部に向けて移動させることによって当該溶着用凸部の先端部を溶融しつつ板状に押し潰して固定用頭部を形成することにより、前記物体に前記他の物体を固定する超音波溶着方法。
【請求項6】
溶着処理による梨地模様が表面の一部に形成されている物体。
【請求項7】
溶着処理による梨地模様が表面の一部に形成されている物体としての記録媒体用ケースを備えているカートリッジケース。
【請求項8】
前記表面としてのバネ固定用のボスの表面に前記梨地模様が形成されている請求項7記載のカートリッジケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【国際公開番号】WO2005/005090
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511529(P2005−511529)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009798
【国際出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】