説明

超音波表面探傷装置および超音波表面探傷法

【課題】物体表面の超音波探傷において、欠陥の検出と、欠陥の位置の特定を同時に迅速に行えるようにする。
【解決手段】複数個の圧電素子の配列からなる超音波センサをフェーズドアレイ方式により動作させ、超音波センサの少なくとも一部を液体中に浸漬させ、超音波センサから発信される超音波の入射角度を、被検査体の表面に表面波を発生させる第一の角度範囲と、被検査体の表面で反射する反射波を再び超音波センサで受信できる第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させ、収録した表面波の信号を、表面波の伝播経路に基づいて補正した位置に、反射波から生成される被検査体表面の3次元曲面と同時に3次元画像として表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体を検査対象とする超音波探傷技術に係り、特に、アレイ探触子を用いてフェーズドアレイ方式により超音波探傷を行なう超音波表面探傷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材などの固体物からなる被検査体の非破壊検査として、表面の健全性を評価する表面検査と、固体内部の健全性を評価する体積検査がある。表面検査手法としては目視検査法、浸透探傷法、磁粉探傷法、渦流探傷法などが知られており、体積検査手法としては放射線透過法、超音波探傷法が知られている。検査対象となる被検査体の表面と内部(体積)の両方の健全性を評価するには、例えば、表面検査と体積検査を組み合わせて実施するなどの工夫が必要となる。
【0003】
体積検査のうち、固体の検査法として固体内部を伝搬する縦波及び横波による超音波探傷法が従来から用いられており、近年特にフェーズドアレイ方式超音波探傷法が用いられている。フェーズドアレイ方式超音波探傷法は、電子走査方式または電子スキャン方式超音波探傷法とも呼ばれ、圧電素子からなる複数の超音波発生素子をアレイ状に配置したアレイ探触子を用い、超音波発生の契機となる電気信号をアレイ探触子の各素子毎に所定の時間だけ遅延させて与える。アレイ探触子の各素子から発生した超音波が重ね合わされ合成波を形成することで、被検査体への超音波の送信角度と受信角度、送信位置と受信位置、或いは合成波が干渉して互いにエネルギーを強め合う焦点位置などの条件を電気的な制御により高速で変化させることができる。なお、ここでは素子毎に与える所定の遅延の組合せをディレイパターンと呼ぶ。
【0004】
このようにアレイ探触子を用いて被検査体を電気的制御により走査すると、広い検査範囲にわたって超音波の送受信角度位置や焦点を自由に変化させられ、被検査体の反射源(欠陥等)からの反射波をより強く受信できる最適な角度や位置、焦点を選択することで、反射源である欠陥を見つけやすくできる。
【0005】
フェーズドアレイ方式としては、超音波発生素子が直線的に並んだ1次元アレイ探触子を用い、超音波の送信と受信方向を並進的に走査するリニアスキャン方式や、超音波の送信と受信方向を入射点を中心に扇状に走査させるセクタスキャン方式が一般的に知られている。また、超音波発生素子が格子状に並んだ2次元アレイ探触子を用いると、3次元的空間の任意の位置に焦点を合わせることができ、より被検査体の形状に合ったスキャン方式が可能となる。
【0006】
従来、反射超音波信号から被検査体の欠陥等の反射源の空間的位置を特定するためには、切断位置の異なる複数の反射強度分布の2次元画像から推定する方法が一般的であった。例えば、1次元アレイ探触子を用いたリニアスキャンやセクタスキャンの場合には、探触子を動かしながらスキャンすると複数の2次元画像が取得でき、表示画面上で順次画像を切り替えることで、反射波が出現する方向を特定することができる。
【0007】
最近は、複数の方向からの反射超音波信号に内挿処理などを施して3次元格子状データを作成し、これをボリュームレンダリングやサーフェスレンダリングで立体表示する方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
3次元格子状データとしては、ボクセルと呼ばれる複数の要素立方体を3次元的に配列させたデータ構造が扱いも容易であることから最も用いられており、これは構造格子とも呼ばれる。ボクセルの他にも、空間的に格子配列の位置が規則正しく並んでいない非構造格子が用いられることもあるが、ボクセルに比べ表示方法がやや難しい。代表的なものとしては、六面体格子、四面体格子、三角柱(プリズム)格子、四角錐(ピラミッド)格子が挙げられる。また、格子状のデータに変換せずに3次元的な点群として表示する方法もある。これらは、いずれも3次元探傷データとして計算機のメモリ上に保存され、測定後に検査者が任意の方向から確認することができる。
【0009】
一方、被検査体の表面検査には表面波(Rayleigh波)と呼ばれる固体表面を伝搬する振動モードを用いる方法が知られている。固体を伝わる超音波には、体積中を伝搬する体積波(縦波、横波)以外に表面波が存在する。表面波は表面近傍にだけエネルギーが集中して伝わる波であり、その伝搬速度は固体中の横波音速の約90%程度で、表面が曲面の場合でも表面近傍に沿って伝搬する。表面波を用いた超音波探傷装置では、被検査体の表面に探触子から超音波を斜めに入射させることで、被検査体表面に表面波を発生させ、被検査体の欠陥や損傷を検査する(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、フェーズドアレイ法を利用して表面波による検査を行うことも可能であり、被検査体の表面に伝搬する表面波により、被検査体表面の欠陥から反射する超音波を受信することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
上記従来技術は、表面波を受信することで被検査体の健全性を評価しており、Aスコープ上における欠陥からの反射波が常に同じ位置に表示される。よって、欠陥の有無判定では、ある時間ゲートの信号にのみ注意していればよく、検査が効率良く行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−123106号
【特許文献2】特開2008−298454号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S. Kitazawa, N. Kono, A. Baba, Y. Adachi, M. Odakura, and O. Kikuchi,“Three-dimensional visualization and evaluation techniques for volumetrically scanned data of ultrasonic phased arrays” Insight, pp 201-206, Vol 52 No 4 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
実際の検査では、欠陥の有無判定(以下、欠陥検出と呼ぶ)だけではなく、欠陥が被検査体表面のどの位置に存在するかを迅速に判断することが重要である。しかしながら、上記従来技術は、欠陥位置を特定しようとした場合には、欠陥信号を含むAスコ−プやBスコープ画像等をあらかじめ収録しておき、収録後に解析を実施する必要がある。その際、表面波は形状にかかわらず表面に沿って伝搬するため、位置を求めるためには形状を加味した解析を実施する必要があり、物体表面が平面であれば位置は比較的容易に特定できるが、曲面の場合には位置の特定には手間と時間を要する。
【0015】
本発明の目的は、物体表面の探傷において、欠陥検出と欠陥位置の特定を同時に迅速に行えるようにした超音波探傷法および超音波探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、複数個の配列された圧電素子からなり液体中の被検査体に超音波を送信する超音波センサと、該超音波センサにフェーズドアレイ方式駆動信号を送信するとともに、被検査体からの反射波を受信し、反射波から3次元探傷データを生成する計算機を有する送受信部と、生成した前記3次元探傷データを表示するデータ表示部を備えた固体表面の欠陥を検査する超音波表面探傷装置において、前記送受信部により、前記超音波センサから発信される超音波の前記被検査体への入射角度を、前記被検査体に表面波を発生させる第一の角度範囲と前記被検査体表面で反射する反射波を再び前記超音波センサで受信する第二の角度範囲を含む範囲において連続的に変化させ、前記被検査体表面の反射波から生成される3次元曲面と同時に、前記表面波の信号を表面波伝播経路に基づく補正位置に前記データ表示部に表示させることを特徴とする。
【0017】
また、超音波表面探傷装置において、前記送受信部は、要求される駆動信号のディレイパターンを生成する遅延時間制御部と、生成した駆動信号を前記超音波センサに送信する発信部と、前記被検査体からの反射波を受信するレシーバを有することを特徴とする。
【0018】
また、超音波表面探傷装置において、前記計算機は、前記レシーバで受信した欠陥反射表面波による縦波反射波から3次元画像を生成する3次元欠陥画像生成手段と、表面形状に沿った縦波反射波から3次元画像を生成する3次元表面画像生成手段と、前記3次元欠陥画像生成手段と3次元表面画像生成手段の画像を一つの3次元画像に合成する画像合成手段を有することを特徴とする。
【0019】
また、超音波表面探傷装置において、前記第一の角度範囲と前記第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させる走査が複数のセクタ走査の組み合わせにより構成されることを特徴とする。
【0020】
また、超音波表面探傷装置において、前記3次元曲面を前記第二の角度範囲以外の範囲にまで拡張して表示することを特徴とする。
【0021】
さらに、複数個の配列された圧電素子からなり液体中の被検査体に超音波を送信する超音波センサと、該超音波センサにフェーズドアレイ方式駆動信号を送信するとともに、被検査体からの反射波を受信し、反射波から3次元探傷データを生成する計算機を有する送受信部と、生成した前記3次元探傷データを表示するデータ表示部を備えた超音波表面探傷装置により固体表面の欠陥を検査する超音波表面探傷法において、前記超音波センサから発信される超音波の前記被検査体への入射角度を、前記被検査体に表面波を発生させる第一の角度範囲と前記被検査体表面で反射する反射波を再び前記超音波センサで受信する第二の角度範囲を含む範囲において連続的に変化させ、前記被検査体表面の反射波から生成される3次元曲面と同時に、前記表面波の信号を表面波伝播経路に基づく補正位置に前記データ表示部に表示させることを特徴とする。
【0022】
さらに、超音波表面探傷法において、前記第一の角度範囲と前記第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させる走査法が、複数のセクタ走査の組み合わせにより構成されることを特徴とする。
【0023】
さらに、超音波表面探傷法において、前記3次元曲面を前記第二の角度範囲以外の範囲にまで拡張して表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、複数個の圧電素子の配列からなる超音波センサをフェーズドアレイ方式により動作させ、超音波センサの少なくとも一部を液体中に浸漬させ、超音波センサから発信される超音波の入射角度を、被検査体の表面に表面波を発生させる第一の角度範囲と、被検査体の表面で反射する反射波を再び超音波センサで受信できる第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させ、収録した表面波の信号を、表面波の伝播経路に基づいて補正した位置に、反射波から生成される被検査体表面の3次元曲面と同時に3次元的に表示させることにより、物体表面の探傷において、欠陥検出と欠陥位置の特定を同時に迅速に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による超音波表面探傷装置及び探傷法を説明する構成図である。
【図2】本発明の超音波表面探傷法による画像化法の説明図である。
【図3】本発明の超音波表面探傷法による画像化法の説明図である。
【図4】本発明の超音波表面探傷法による画像化法の処理フローの説明図である。
【図5】本発明の超音波表面探傷装置における計算機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による超音波表面探傷装置及び超音波表面探傷法について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
〔超音波表面探傷装置の構成〕
はじめに、図1を用いて本発明の実施形態の装置構成について説明する。図示のように、この実施形態は、検査対象である被検査体102と、これに超音波を入射するアレイ探触子101、送受信部103、受信信号を表示する表示部104で構成されている。本実施形態の適用先は、例えば、原子力発電所の炉内構造物溶接部100(例えば、制御棒駆動機構スタブチューブ、炉内計装管台ハウジング、シュラウドサポート、シュラウド等)の超音波表面探傷であり、被検査体102は溶接部の断面を示している。なお、本実施形態に記載の方法及び装置は、被検査体102の検査対象範囲の表面形状が平面、もしくは近似的に平面とみなせる場合に適用することが可能である。
【0027】
アレイ探触子101は被検査体102の探傷面の上方に液体(主として水である場合が多い)を介して設置され、送受信部103から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを被検査体102内に伝搬させ、これにより現れる反射波を検出し、受信信号を再び送受信部103に入力する。
【0028】
アレイ探触子101は、2次元的に配列している複数個の超音波発生素子で構成される。配列の仕方により様々な種類があるが、例えば、素子が格子状に配列したものや、同心円状に配列したものが代表的である。本発明の実施形態では格子状に配列したアレイ探触子101を用いている。
【0029】
送受信部103は、計算機103Aと遅延時間制御部103B、パルサー103C、レシーバ(受信部)103D、およびデータ収録部103Eを備えており、計算機103Aは、遅延時間制御部103B、パルサー(発信部)103C、レシーバ103D、およびデータ収録部103Eを制御し、必要な動作が得られるようにする。
【0030】
記憶部103Fには、アレイ探触子101が浸漬されている液体の縦波音速に基づくディレイパターンが記憶されている。遅延時間制御部103Bは、このディレイパターンに基づき、パルサー103Cからアレイ探触子101に出力される駆動信号のタイミングを制御し、フェーズドアレイ方式によるアレイ探触子101の動作が得られるようにする。ここにいうフェーズドアレイ方式によるアレイ探触子101の動作とは、アレイ探触子101の各素子からの超音波を合成してできる超音波ビーム105の焦点深さ106と入射角度範囲107を制御して超音波を送信し受信する動作のことである。
【0031】
アレイ探触子101で受信された超音波信号は、レシーバ103Dに入力された後、データ収録部103Eに収録されると同時に、計算機103Aに送られる。計算機103Aは、各送受信素子で得られた波形をディレイパターンに応じて合成処理し、必要に応じて記憶部103Fに処理波形を記憶する。さらに、計算機103Aは、その処理波形に適当な内挿処理を施し、ピクセルと呼ばれる2次元正方格子を単位としたピクセル形式の2次元探傷データや、ボクセルと呼ばれる3次元立方格子を単位としたボクセル形式の3次元探傷データを作成し、それを画像化し表示部104に表示させる動作を実行する。
【0032】
表示部104は、Aスコープ信号を表示する波形表示画面104A、2次元探傷データを表示する2次元表示画面104B、および3次元探傷データを表示する3次元表示画面104Cを備えている。また、図1には表示部104は一つしか示していないが、波形表示画面104Aと2次元表示画面104B、および3次元表示画面104Cは、複数の表示部に分担させて表示してもよい。ここで、104C1は被検査体の表面画像、104C2は被検査体の欠陥画像を示す。
【0033】
表示部104上の3次元表示画面104Cに表示される3次元探傷データは、計算機103Aに接続されたマウスやキーボードを用いた入力により、任意の表示寸法で表示することができ、表示色や透明度も任意に変えることができる。表示色は反射強度に応じて変えることが可能である。この場合の表示色パターンは複数準備してあり、検査者が用途に応じて選択できる。
【0034】
尚、これらの3次元描画アルゴリズムは、例えばグラフィックス・アプリケーション向けの業界標準のグラフィックス・アプリケーション・プログラミング・インタフェース(グラフィックスAPI)であるOpenGL(シリコングラフィックス社登録商標)やDirectX(マイクロソフト社登録商標)というライブラリの中で実現されており、これらのグラフィックスAPIをプログラム中で用いて、表示する物体の形状や視点、表示位置などの必要な情報を与えれば3次元表示画面104C上の任意の位置に、任意の色、透明度、大きさで3次元形状を描画することが容易に出来る。
〔3次元表面検査画像の表示方法〕
次に、図2に基づいて、フェーズドアレイ法によりアレイ探触子101が浸漬された液体の縦波音速を用いて、被検査体102表面で表面波を発生するディレイパターンを作成し、表面波による被検査体102の3次元表面検査画像を表示する方法について、詳細に説明する。
【0035】
ここでは、アレイ探触子101の正面方向がX軸に平行に、アレイ探触子101の直下方向がZ軸に平行になるように座標系を設定する。
【0036】
アレイ探触子101から、液体206中に斜め方向にフェーズドアレイ方式による超音波ビーム105Aを発信する。超音波ビーム105Aは、被検査体102と液体206の境界面204上の入射点202に到達し、表面波207Aに振動モードが変換される。このとき境界面204へ入射する超音波ビーム105Aの入射角度は、式1で求まる横波臨界角θCRで与えられる。例えば、液体が水、被検査体が鋼材の場合、水の縦波音速が1480m/s、被検査体の横波音速が3200m/sなので、θCRは約27.5°となる。
【0037】
【数1】

【0038】
実際には、アレイ探触子101から発生する超音波ビームは空間的な広がりがあるため±5°程度の角度範囲をもち、入射角度が30°前後になっていれば十分な強度で被検査体102中に表面波が発生する。
【0039】
境界204で表面波207Aに変換された超音波は被検査体102表面を伝搬し、表面または表面近傍に欠陥108が存在すると、欠陥108の表面上の点203で反射し進行方向を変えて、再び被検査体102表面を表面波207Bとして反射伝搬する。表面波207Bは、表面波として伝搬すると同時に、エネルギーの一部が、液体206及び被検査体102中へ超音波として漏洩するように伝搬する。液体206中に漏洩した超音波は、縦波反射波105Bとして、再びアレイ探触子101で受信される。
【0040】
このようにして受信された波形は、Aスコープ信号205として、横軸に時間、縦軸に振幅として収録される。欠陥108の位置を求めるには、超音波の送信点201を位置の基準とした場合の、入射点202と被検査体102表面に沿った伝搬距離L(T)を求めればよい。図2のAスコープで、パルス205Aは入射点202からの反射信号であり、パルス205Bは点203の反射信号である。
【0041】
フェーズドアレイ方式では、既に述べた通りディレイパターンを変えることにより、アレイ探触子101を移動させることなく、超音波の入射方向を任意に変えることができる。特に、入射角107Aの絶対値が小さいAスコープ信号には、液体206と被検査体102表面の境界面204からの縦波反射波105Cの信号が含まれているため、入射角107Aの絶対値を0°から横波臨界角θCRを含む入射角度範囲107で連続的に変化させて各Aスコープ信号を収録し、これらを合成して画像化することにより、被検査体102表面の形状に沿った縦波反射波105Cと、欠陥108で反射した表面波207Bに起因する縦波反射波105Bの両方を同じセクタ画像上で確認することができる。ただし、縦波から表面波への振動モード変換に伴う伝搬経路と音速の変化を補正しないと、画像上の3次元形状信号と3次元欠陥信号の相対位置は正しく表示されない。この補正法については後で詳しく述べる。
【0042】
ここまで述べてきたことは任意のXZ平面内において成立するため、Z軸まわりに回転させた複数のXZ平面のそれぞれにおいて、入射角度107Aの絶対値を0°から横波臨界角θCRを含む入射角度範囲107で連続的に変化させ、各Aスコープ信号を収録し、これらの全てのデータを3次元的に合成することにより、被検査体102表面の3次元形状を示す縦波信号である3次元形状信号104C1と、欠陥108で反射した表面波信号である3次元欠陥信号104C2の両方を、図1に示すように、3次元表示画像104C上で確認することができる。
〔3次元スキャン方式〕
図3に示すように、3次元的なスキャン方式として、ここでは入射角度範囲107が0度を挟んで対称であり、かつセクタ面を180度回転させるセクタ回転スキャン方式を例にとって説明する。ここではセクタの回転角は180度として説明するが、180度以下の回転角でももちろん構わない。さらに、入射角度範囲107は0度を挟んで必ずしも対称である必要はない。3次元的なスキャン方式は様々な種類があり、他の3次元的なスキャン方式でも構わない。
【0043】
セクタ回転スキャン方式は、遅延時間を変化させるだけで、アレイ探触子101を固定したままで、従来のセクタスキャンを適当な角度ピッチで、セクタの中心軸周りに回転させる方法である。図3にはセクタ面109を矢印301の方向に回転させている様子を示している。セクタを構成する超音波ビーム105の数と焦点深さ106、およびセクタの回転ピッチは、想定される欠陥の寸法や、必要とされる空間分解能に応じて設定するのが好ましい。
〔3次元形状信号と欠陥信号の取得手順〕
次に、セクタ回転スキャン方式を用いて取得した複数のAスコープ信号を用い、3次元形状信号と3次元欠陥信号を得る手順について、図2および図4を用いて詳しく説明する。
(ステップS401)
被検査体102表面の形状に沿った信号を得るために用いる入射角度範囲Rを設定する。Rはセクタスキャンの入射角度範囲107に含まれる範囲から選択する。Aスコープ信号205に被検査体102表面での縦波反射波信号205Aが表れる範囲を選択するのが好ましい。被検査体102表面の形状にもよるが、入射角度が大きくなると縦波反射波信号205Aが表れなくなってくる。従って、通常は−θCRから+θCRの程度の範囲とする。これ以外の領域はノイズが多くなり検査が困難である。
(ステップS402)
収録された第n番目のセクタを選択する。本処理は、計算機103Aに搭載されている信号処理プログラム中のループ処理によって、自動的に行われる。
(ステップS403)
収録された第m番目のAスコープ信号を選択する。本処理は、計算機103Aに搭載されている信号処理プログラム中のループ処理によって、自動的に行われる。
(ステップS404)
選択された第n番目のセクタに含まれる第m番目のAスコープ信号205について、被検査体102表面での縦波反射波信号205Aのピークの立ち上がりの時間Tinmを求める。アレイ探触子101から被検査体102までの間には液体206以外には何も存在しないため、最初の反射信号が被検査体102表面での縦波反射波信号とみなせる。
(ステップS405)
Tinmを用い、第m番目のAスコープ信号における、被検査体102への入射点PinmのXYZ位置座標(Xinm,Yinm,Zinm)を式2により求める。座標系はセクタ面にX軸とZ軸を含み入射点位置を原点とする。すなわち、セクタ面がXZ平面となる。
【0044】
【数2】

【0045】
ステップS403からS405をステップS401で設定した角度範囲Rに含まれる全てのAスコープ信号について繰り返し、入射点系列Psn{Pin1,Pin2,・・・,PinM}を求める。ここでMは時間データ系列Tsに含まれるデータ点数である。本処理は、計算機103Aに搭載されている信号処理プログラム中のループ処理によって、自動的に行われる。
(ステップS406)
入射点系列Psnから、第n番目のセクタ断面における被検査体の表面形状(輪郭線)を表す曲線Z=fn(X)を求める。fnは、例えば、Xに関する多項式や適当な関数を仮定し、入射点系列Psnに対する最小二乗法から求める。
(ステップS407)
収録された第m番目のAスコープ信号を選択する。本処理は、計算機103Aに搭載されている信号処理プログラム中のループ処理によって、自動的に行われる。
(ステップS408)
第n番目のセクタに含まれる第m番目のAスコープ信号のTinm以上の時間Tについて、被検査体102表面の形状に沿って表面波207Aが進んだ距離L(T)208を数3で求める。
【0046】
【数3】

【0047】
(ステップS409)
第n番目のセクタに含まれる第m番目のAスコープ信号のTinm以上の時間Tについて、式4を満たすような補正位置Pg(Xg(T),Yg(T),Zg(T))を求める。ここで座標系はステップS405で定義したのと同じ、セクタ面にX軸とZ軸を含み入射点位置を原点とする座標系である。Yg(T)は常に0であるため特に計算する必要はない。
【0048】
【数4】

【0049】
(ステップS410)
Z軸周りにセクタを回転させるため、式5を用いて、ステップS409で求めたPgのXYZ位置座標(Xg(T),Yg(T),Zg(T))を回転座標変換し、第n番目のセクタに含まれる第m番目のAスコープ信号の時間Tのデータ点の位置座標(Xw(T),Yw(T),Zw(T))を求める。なお、これらの位置座標には第n番目のセクタに含まれる第m番目のAスコープ信号の時間Tにおける振幅値A(T)が対応する。
【0050】
【数5】

【0051】
ステップS407からS410をステップS401で設定した角度範囲Rに含まれる全てのAスコープ信号について繰り返す。さらに、ステップS402からS410を全てのセクタについて繰り返す。本処理は、計算機103Aに搭載されている信号処理プログラム中のループ処理によって、自動的に行われる。
(ステップS411)
得られた全てのデータ点群を用いて内挿処理を行い、ボクセル形式の3次元画像データを作成する。内挿処理にはボクセル格子点とデータ点の距離に応じて重みづけをする逆距離荷重法などが用いられることが多いが、他の内挿手法でも構わない。
(ステップS412)
ステップS411で得られた3次元画像データをボリュームレンダリング法などを用いて3次元表示画面104Cに表示させる。
【0052】
上記のステップにより、例えば図1の104Cに示すように、3次元曲面状の3次元形状信号と、相対位置が正しく補正された3次元欠陥信号の両方を、同じ3次元画像上で確認することができる。
【0053】
また、ステップS409において、T=Tinmの場合のみ振幅値A(T)の代わりに、0以外の定数を用いることにより、ステップS401で選択した入射角度範囲R以外の領域にも被検査体の表面形状(輪郭)を表す3次元曲面を拡張して描画することが可能である。この場合、表面波信号は、この3次元曲面上に振幅値A(T)をもって表示されることになる。
【0054】
これらの方法により、被検査体の表面形状信号をリファレンスとして画面に表示させると同時に、相対位置を正しく補正した表面波信号を表示させることにより、欠陥位置の特定を容易に行うことが可能となる。したがって、物体表面の探傷において、欠陥検出と欠陥位置の特定を同時に迅速に行えるようにした超音波表面探傷法および超音波表面探傷装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
100:検査対象機器
101:アレイ探触子
102:被検査体
103:送受信部
103A:計算機
103B:遅延時間制御部
103C:パルサー
103D:レシーバ
103E:データ収録部
103F:記憶部
104:データ表示部
104A:波形表示画面
104B:2次元表示画面
104C:3次元表示画面
104C1:3次元形状信号
104C2:3次元欠陥信号
105:超音波ビーム
105A:超音波ビーム
105B:縦波反射波
105C:縦波反射波
106:焦点深さ
107:入射角度範囲
108:欠陥
109:セクタ面
201:送信点
202:入射点
203:表面上の点
204:境界面
205:Aスコープ信号
205A:縦波反射波信号
206:液体
207A:表面波
207B:表面波
301:矢印
1031:3次元欠陥画像生成手段
1032:3次元表面画像生成手段
1033:画像合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の配列された圧電素子からなり液体中の被検査体に超音波を送信する超音波センサと、該超音波センサにフェーズドアレイ方式駆動信号を送信するとともに、被検査体からの反射波を受信し、反射波から3次元探傷データを生成する計算機を有する送受信部と、生成した前記3次元探傷データを表示するデータ表示部を備えた固体表面の欠陥を検査する超音波表面探傷装置において、
前記送受信部により、前記超音波センサから発信される超音波の前記被検査体への入射角度を、前記被検査体に表面波を発生させる第一の角度範囲と前記被検査体表面で反射する反射波を再び前記超音波センサで受信する第二の角度範囲を含む範囲において連続的に変化させ、前記被検査体表面の反射波から生成される3次元曲面と同時に、前記表面波の信号を表面波伝播経路に基づく補正位置に前記データ表示部に3次元画像として表示させることを特徴とする超音波表面探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載された超音波表面探傷装置において、前記送受信部は、要求される駆動信号のディレイパターンを生成する遅延時間制御部と、生成した駆動信号を前記超音波センサに送信する発信部と、前記被検査体からの反射波を受信するレシーバを有することを特徴とする超音波表面探傷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された超音波表面探傷装置において、前記計算機は、前記レシーバで受信した欠陥反射表面波による縦波反射波から3次元画像を生成する3次元欠陥画像生成手段と、表面形状に沿った縦波反射波から3次元画像を生成する3次元表面画像生成手段と、前記3次元欠陥画像生成手段と3次元表面画像生成手段の画像を一つの3次元画像に合成する画像合成手段を有することを特徴とする超音波表面探傷装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波表面探傷装置において、前記第一の角度範囲と前記第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させる走査が複数のセクタ走査の組み合わせにより構成されることを特徴とする超音波表面探傷装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波表面探傷装置において、前記3次元曲面を前記第二の角度範囲以外の範囲にまで拡張して表示することを特徴とする超音波表面探傷装置。
【請求項6】
複数個の配列された圧電素子からなり液体中の被検査体に超音波を送信する超音波センサと、該超音波センサにフェーズドアレイ方式駆動信号を送信するとともに、被検査体からの反射波を受信し、反射波から3次元探傷データを生成する計算機を有する送受信部と、生成した前記3次元探傷データを表示するデータ表示部を備えた超音波表面探傷装置により固体表面の欠陥を検査する超音波表面探傷法において、
前記超音波センサから発信される超音波の前記被検査体への入射角度を、前記被検査体に表面波を発生させる第一の角度範囲と前記被検査体表面で反射する反射波を再び前記超音波センサで受信する第二の角度範囲を含む範囲において連続的に変化させ、前記被検査体表面の反射波から生成される3次元曲面と同時に、前記表面波の信号を表面波伝播経路に基づく補正位置に前記データ表示部に3次元画像として表示させることを特徴とする超音波表面探傷法。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波表面探傷法において、前記第一の角度範囲と前記第二の角度範囲を含む範囲で連続的に変化させる走査法が、複数のセクタ走査の組み合わせにより構成されることを特徴とする超音波表面探傷法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の超音波表面探傷法において、前記3次元曲面を前記第二の角度範囲以外の範囲にまで拡張して表示することを特徴とする超音波表面探傷法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−137463(P2012−137463A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291691(P2010−291691)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】