説明

超音波診断装置およびその画像処理プログラム

【課題】固定エコーによる虚像を除去した場合であっても、固定エコーとして除去されてしまう部位を表示することができるようにする。
【解決手段】本発明の超音波診断装置1においては、固定エコー除去部5は、送受信ビームフォーマ4から供給された受信信号に含まれる固定エコーを除去し、検波部6は、固定エコーが除去された受信信号について包絡線を検波し、固定エコーによる虚像が除去された所定の時相の固定エコー除去後Bモード画像データを生成する。一方、検波部6は、固定エコーが除去されていない受信信号について包絡線を検波し、固定エコーが除去されていない所定の時相の固定エコー除去前Bモード画像データを生成する。モニタ8は、固定エコー除去後Bモード画像データに基づくBモード画像と、固定エコー除去前Bモード画像データに基づくBモード画像を並列または重畳表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置およびその画像処理プログラムに係り、特に、固定エコーを除去することができるようにした超音波診断装置およびその画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内からの超音波の反射波に含まれる2次や3次の高調波を用いて画像再構成を行うTHI(Tissue Harmonic Imaging)法が提案されている。提案されているTHI法によれば、一度反射体により反射された超音波の反射波はその音圧の低下に伴い波形のひずみの蓄積の効果が生じないため、近距離の胸壁などの固定反射体からの多重反射エコーによる虚像を削減することができる。また、高調波成分は超音波送信ビームの軸上に集中して発生することから基本周波数のエコーに比べてシャープなビームが得られ、超音波送信ビームのサイドローブレベルが低下するため、超音波送信ビームのサイドローブに起因する虚像を大幅に削減することができる。なお、「近距離の胸壁や心臓壁などの固定反射や、そこでの多重反射などに起因するエコーによる虚像」を「固定エコーによる虚像」と定義する。以下、同様に用いる。
【0003】
しかし、医師や技師など(以下、「オペレータ」という。)が患者(以下、「被検体」という。)の心臓を診断する場合、高調波成分を用いた超音波ビームであっても有限な幅を有するため、肋骨や肺などからの固定エコーによる虚像が少なからず発生してしまう。従って、提案されているTHI法を用いたとしても、固定エコーによる虚像を十分に除去することは困難であった。
【0004】
ところで、固定エコーによる虚像を除去する方法として、THI法の他、受信された受信信号から画像データを生成する前に予め固定エコー成分を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に提案されている方法によれば、受信信号の振幅を検波し、対数圧縮などすることによりBモード画像データを生成する前に、比較的動きの遅い部位の固定エコー成分を予め受信信号から除去し、あるいは、無視できる程度に抑制するようにしているので、固定エコーによる虚像を除去することができる。これにより、画像データを生成する際に比較的動きの遅い部位を抑制し、比較的動きの速い部位を強調することができる。
【特許文献1】特開平8−107896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によれば、固定エコーによる虚像を除去することはできるが、そもそも固定エコーの除去により比較的動きの遅い部位の固定エコー成分が除去あるいは抑制されてしまうため、収縮拡張後の心臓などのように周期的に所定の時間ほぼ静止する部位については、例えば診断時間10分間のうち数分間、断続的にしか画像として表示することができないという課題があった。このような状況は、被検体の画像の保存管理上好ましいことではない。
【0007】
また、オペレータが超音波診断装置を用いて披検体の下肢の静脈を診断する場合、特許文献1に提案されている方法により固定エコーを除去してしまうと、下肢の静脈に血栓があったとしても、血栓は比較的動きの遅い部位であることから固定エコーとして除去あるいは抑制されてしまい、下肢の静脈中の血栓を画像として表示することができないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされてものであり、固定エコーによる虚像を除去した場合であっても、固定エコーとして除去されてしまう部位を表示することができる超音波診断装置およびその画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波診断装置は、上述した課題を解決するために、超音波振動子を振動させて超音波を送信する送信手段と、送信手段により送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号を受信する受信手段と、受信信号に含まれる固定エコー成分を除去する固定エコー除去手段と、固定エコー除去手段により固定エコー成分が除去される前の受信信号に基づいて固定エコー除去前超音波画像データを生成する固定エコー除去前画像データ生成手段と、固定エコー除去手段により固定エコー成分が除去された後の受信信号に基づいて固定エコー除去後超音波画像データを生成する固定エコー除去後画像データ生成手段と、固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像データに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御する表示制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
表示制御手段は、固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像を並列に表示するように制御することができる。
【0011】
表示制御手段は、固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像を所定の合成割合で合成して重畳表示するように制御することができる。
【0012】
表示制御手段により固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像を重畳表示するときの合成割合を設定する設定手段をさらに備え、表示制御手段は、設定手段により設定された合成割合に基づいて固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像を合成して重畳表示するように制御することができる。
【0013】
表示制御手段は、固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像のいずれか一方をカラー表示するように制御することができる。
【0014】
表示制御手段は、固定エコー除去前超音波画像と固定エコー除去後超音波画像を並列に表示するように制御することができる。
【0015】
固定エコー除去前超音波画像データを記憶する固定エコー除去前超音波画像データ記憶手段と、固定エコー除去後超音波画像データを記憶する固定エコー除去後超音波画像データ記憶手段とをさらに備え、表示制御手段は、固定エコー除去前超音波画像データ記憶手段に記憶されている固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像データ記憶手段により記憶されている固定エコー除去後超音波画像データに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御することができる。
【0016】
本発明の超音波診断装置の画像処理プログラムは、上述した課題を解決するために、超音波振動子を振動させることにより送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号に含まれる固定エコー成分を除去する固定エコー除去ステップと、固定エコー成分が除去される前の受信信号から生成された固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー成分が除去された後の受信信号から生成された固定エコー除去後超音波画像データに基づくに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御する表示制御ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0017】
本発明の超音波診断装置においては、超音波振動子を振動させて超音波が送信され、送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号が受信され、受信信号に含まれる固定エコー成分が除去され、固定エコー成分が除去される前の受信信号に基づいて固定エコー除去前超音波画像データが生成され、固定エコー成分が除去された後の受信信号に基づいて固定エコー除去後超音波画像データが生成され、固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像データに基づく固定エコー除去後超音波画像が同時に表示するように制御される。
【0018】
本発明の超音波診断装置の画像処理プログラムにおいては、超音波振動子を振動させることにより送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号に含まれる固定エコー成分が除去され、固定エコー成分が除去される前の受信信号から生成された固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー成分が除去された後の受信信号から生成された固定エコー除去後超音波画像データに基づくに基づく固定エコー除去後超音波画像が同時に表示するように制御される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固定エコーによる虚像を除去した場合であっても、固定エコーとして除去されてしまう部位を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明を適用した超音波診断装置1の内部の構成を表している。
【0022】
図1に示されるように、超音波診断装置1は、システム制御部2、超音波プローブ3、送受信ビームフォーマ4、固定エコー除去部5、検波部6、DSC(Digital Scan Converter)7、およびモニタ8により構成されている。
【0023】
システム制御部2は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)などからなり、種々の制御信号を生成し、各部に供給することにより超音波診断装置1の駆動を総括的に制御する。
【0024】
超音波プローブ3は、電気ケーブルを介して送受信ビームフォーマ4と接続されており、被検体の表面に対してその前面を接触させ超音波の送受信を行う超音波トランスジューサであり、1次元にアレイ配列あるいは2次元にマトリクス配列された微小な超音波振動子(図示せず)をその先端部分に有している。この超音波振動子は圧電振動子としての電気音響変換素子である。超音波プローブ3は、送信時には送受信ビームフォーマ4から入力された電気パルスを超音波パルス(送信超音波)に変換し、また受信時には被検体により反射された反射波を電気信号に変換し、送受信ビームフォーマ4に出力する。
【0025】
送受信ビームフォーマ4は、送信ビームフォーマ(図示せず)と受信ビームフォーマ(図示せず)とからなる。送信ビームフォーマは、レートパルス発生器、送信遅延回路、およびパルサ(いずれも図示せず)からなり、レートパルス発生器は、システム制御部2から供給された制御信号に基づいて被検体の内部に入射する超音波パルスのパルス繰り返し周期を決定するレートパルスを発生し、送信遅延回路に供給する。
【0026】
送信遅延回路は、送信時における超音波ビームの収束距離や偏向角度を設定するための遅延回路であり、システム制御部2から供給される制御信号に基づいて、送信時における超音波ビームの焦点位置と偏向角度が所定の焦点位置と偏向角度となるように、レートパルス発生器から供給されたレートパルスに遅延時間を加え、パルサに供給する。パルサは、超音波振動子を駆動するための高圧パルスを生成する駆動回路であり、送信遅延回路から供給されたレートパルスに基づいて、超音波振動子を駆動するための高圧パルスを生成し、生成された高圧パルスを超音波プローブ3に出力する。
【0027】
一方、受信ビームフォーマは、プリアンプ、受信遅延回路、および加算器(いずれも図示せず)からなり、プリアンプは、超音波プローブ3から供給された受信信号を取得し、取得された受信信号を所定のレベルまで増幅し、増幅された受信信号を受信遅延回路に供給する。
【0028】
受信遅延回路は、システム制御部2から供給される制御信号に基づいて、プリアンプから供給された増幅後の受信信号に、各超音波振動子のフォーカス位置からの超音波の伝播時間の差に対応する遅延時間を与え、加算器に供給する。加算器は、受信遅延回路から供給された各超音波振動子からの受信信号を加算し、加算された受信信号を固定エコー除去部5あるいは検波部6に供給する。なお、超音波プローブ3から供給された受信信号は、受信ビームフォーマにおける図示せぬA/D変換器により、アナログ信号からディジタル信号に変換される。
【0029】
固定エコー除去部5は、複数のサンプル点の各々に関するディジタル信号の時間変化から低周波成分を減衰させ、高周波成分を通過させるための高域通過型ディジタルフィルタであり、フィルタコントローラ、フレームメモリ、乗算器、加算器、乗算係数ROM(いずれも図示せず)からなる。
【0030】
例えば、伝達関数の次数が3である場合、次数に応じた3つのフレームメモリは、フィルタコントローラからの制御に従い、スキャンのフレーム周期Z−1の遅延器として機能し、同じサンプル点に関する現在のディジタル信号、1フレーム前のディジタル信号、2フレーム前のディジタル信号、3フレーム前のディジタル信号をそれぞれ乗算器に同時に供給する。乗算器の乗算結果は加算器で加算され、加算器は、低周波成分が減衰された信号を加算結果として検波部6に出力する。
【0031】
検波部6は、超音波周波数成分を除去して振幅のみを検出するための回路であり、送受信ビームフォーマ4あるいは固定エコー除去部5から供給された受信信号について包絡線を検波し、Bモード画像データを生成し、生成されたBモード画像データをDSCに供給する。
【0032】
DSC7は、システム制御部2の制御に従い、検波部6から供給されたBモード画像データを取得し、取得されたBモード画像データを、超音波スキャンの走査線信号列からビデオフォーマットの走査線信号列に変換するとともに、所定の表示方式で表示されるように画像処理を施し、モニタ8に供給する。
【0033】
モニタ8は、図示せぬLCD(Liquid Crystal Display)や図示せぬCRT(Cathode Ray Tube)からなり、ケーブルを介してDSC7と接続されており、超音波スキャンの走査線信号列からビデオフォーマットの走査線信号列に変換されたDSC7からのBモード画像データなどを取得し、取得されたBモード画像データなどを所定の表示方式で表示する。
【0034】
図2のフローチャートを参照して、図1の超音波診断装置1における画像表示処理について説明する。
【0035】
ステップS1において、システム制御部2は、超音波送信制御信号と超音波受信制御信号を生成し、生成された超音波送信制御信号と超音波受信制御信号を送受信部ビームフォーマ4に供給する。送受信ビームフォーマ4は、システム制御部2から供給された超音波送信制御信号に基づいて、超音波ビームを被検体に送信する。
【0036】
すなわち、送受信ビームフォーマ4のレートパルス器は、システム制御部2から供給された超音波送信制御信号に基づいて、被検体の内部に入射する超音波パルスのパルス繰り返し周期を決定するレートパルスを発生し、送信遅延回路に供給する。また、送信遅延回路は、システム制御部2から供給される超音波送信制御信号に基づいて、送信時における超音波ビームの焦点位置と偏向角度が所定の焦点位置と偏向角度(θ1)となるように、レートパルス発生器から供給されたレートパルスに遅延時間を加え、パルサに供給する。さらに、パルサは、送信遅延回路から供給されたレートパルスに基づいて、超音波振動子を駆動するための高圧パルスを生成し、生成された高圧パルスを超音波プローブ3に出力する。超音波プローブ3は、送受信ビームフォーマ4から入力された高圧パルス(電気パルス)を超音波パルスに変換し、変換された超音波パルスを被検体に送信する。被検体内に送信された超音波の一部は、音響インピーダンスの異なる被検体内の臓器間の境界面あるいは組織にて反射される。
【0037】
超音波プローブ3は、被検体からの超音波の反射波を電気信号に変換し、送受信ビームフォーマ4に出力する。送受信ビームフォーマ4は、システム制御部2から供給された超音波受信制御信号に基づいて、超音波プローブ3から入力された超音波の反射波に基づく受信信号を増幅し、所定の遅延時間を付加して、固定エコー除去部5または検波部6に供給する。
【0038】
すなわち、送受信ビームフォーマ4のプリアンプは、超音波プローブ3から入力された超音波の反射波に基づく受信信号を取得し、取得された受信信号を所定のレベルまで増幅し、増幅された受信信号を受信遅延回路に供給する。
【0039】
送受信ビームフォーマ4の受信遅延回路は、システム制御部2から供給された超音波受信制御信号に基づいて、プリアンプから供給された増幅後の受信信号に各超音波振動子のフォーカス位置からの超音波の伝播時間の差に対応する遅延時間を与え、加算器に供給する。加算器は、受信遅延回路から供給された各超音波振動子からの受信信号を加算し、加算された受信信号を固定エコー除去部5または検波部6に供給する。
【0040】
固定エコー除去部5は、送受信ビームフォーマ4から供給された受信信号を取得し、取得された受信信号に含まれる固定エコーを除去する。具体的には、例えば、伝達関数の次数が3である場合、次数に応じた3つのフレームメモリは、フィルタコントローラからの制御に従い、スキャンのフレーム周期Z−1の遅延器として機能し、同じサンプル点に関する現在のディジタル信号、1フレーム前のディジタル信号、2フレーム前のディジタル信号、3フレーム前のディジタル信号をそれぞれ乗算器に同時に供給する。乗算器の乗算結果は加算器で加算され、加算器は、低周波成分が減衰された信号を加算結果として検波部6に出力する。
【0041】
検波部6は、固定エコー除去部5から固定エコーが除去された受信信号を取得し、取得された受信信号について包絡線を検波し、θ1方向の固定エコー除去後Bモード画像データを生成する。なお、「固定エコー除去後Bモード画像データ」は、固定エコー除去部5により固定エコーによる虚像が除去された超音波エコー信号に基づいて生成されたBモード画像データを意味する。
【0042】
次に、超音波の送受信方向をΔθずつ順次更新させながらθ1+(N−1)Δθまで変更してN方向の走査によって上記と同様な手順で超音波の送受信を行い、被検体内をリアルタイム走査する。このとき、システム制御部2は、その制御信号によって送受信ビームフォーマ4の送信遅延回路と受信遅延回路の遅延時間を、所定の超音波送受信方向に対応させて順次切り替えさせながら、θ1+Δθ乃至θ1+(N−1)Δθ方向の固定エコー除去後Bモード画像データの各々を生成させる。
【0043】
検波部6は、生成されたθ1+Δθ乃至θ1+(N−1)Δθ方向の固定エコー除去後Bモード画像データを、すでに生成されているθ1方向のBモード画像データとともに、所定の時相の2次元の固定エコー除去後Bモード画像データとしてDSC7に供給する。これにより、固定エコーによる虚像が除去された所定の時相の固定エコー除去後Bモード画像データを生成することができる。
【0044】
ステップS2において、検波部6は、送受信ビームフォーマ4から供給された固定エコーが除去されていない受信信号について包絡線を検波し、θ1方向の固定エコー除去前Bモード画像データを生成する。なお、「固定エコー除去前Bモード画像データ」は、固定エコー除去部5により固定エコーが除去されていない超音波エコー信号に基づいて生成されたBモード画像データを意味する。
【0045】
次に、超音波の送受信方向をΔθずつ順次更新させながらθ1+(N−1)Δθまで変更してN方向の走査によって上記と同様な手順で超音波の送受信を行い、被検体内をリアルタイム走査する。このとき、システム制御部2は、その制御信号によって送受信ビームフォーマ4の送信遅延回路と受信遅延回路の遅延時間を、所定の超音波送受信方向に対応させて順次切り替えさせながら、θ1+Δθ乃至θ1+(N−1)Δθ方向の固定エコー除去前Bモード画像データの各々を生成させる。
【0046】
検波部6は、生成されたθ1+Δθ乃至θ1+(N−1)Δθ方向の固定エコー除去前Bモード画像データを、すでに生成されているθ1方向の固定エコー除去前Bモード画像データとともに、所定の時相の2次元の固定エコー除去前Bモード画像データとしてDSC7に供給する。これにより、固定エコーが除去されていない所定の時相の固定エコー除去前Bモード画像データを生成することができる。
【0047】
ステップS3において、DSC7は、システム制御部2の制御に従い、検波部6から供給された固定エコー除去後Bモード画像データと固定エコー除去前Bモード画像データを取得し、取得された固定エコー除去後Bモード画像データと固定エコー除去前Bモード画像データを、超音波スキャンの走査線信号列からビデオフォーマットの走査線信号列に変換するとともに、所定の表示方式で表示されるように画像処理を施し、モニタ8に供給する。
【0048】
モニタ8は、超音波スキャンの走査線信号列からビデオフォーマットの走査線信号列に変換されたDSC7からの固定エコー除去後Bモード画像データと固定エコー除去前Bモード画像データなどを取得し、取得された固定エコー除去後Bモード画像データと固定エコー除去前Bモード画像データに基づいて、予め設定された所定の表示方式により、Bモード画像を表示する。
【0049】
図3は、モニタ8に表示されるBモード画像の表示例を表している。
【0050】
図3の例の場合、固定エコーが除去された固定エコー除去後Bモード画像データに基づく固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーが除去されていない固定エコー除去前Bモード画像データに基づく固定エコー除去前Bモード画像が、並列に表示されている。これにより、オペレータが超音波診断装置を用いて披検体の心臓や下肢の静脈を診断する場合、固定エコーによる虚像が除去された固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない固定エコー除去前Bモード画像を同時に表示することができる。従って、固定エコーによる虚像を除去した場合であっても、固定エコーとして除去されてしまう部位を表示することができ、その結果、オペレータは、固定エコーによる虚像が除去された靄の少ないBモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない比較的動きの遅い部位が表示されているBモード画像を比較しながら同時に見ることができる。
【0051】
図4は、モニタ8に表示されるBモード画像の他の表示例を表している。
【0052】
図4の例の場合、固定エコーによる虚像が除去された固定エコー除去後Bモード画像データに基づく固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない固定エコー除去前Bモード画像データに基づく固定エコー除去前Bモード画像が、重畳されて表示されている。これにより、オペレータが超音波診断装置を用いて披検体の心臓や下肢の静脈を診断する場合、固定エコーによる虚像が除去された固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない固定エコー除去前Bモード画像を重畳して表示することができる。従って、固定エコーによる虚像を除去した場合であっても、固定エコーとして除去されてしまう部位(例えば収縮拡張後の心臓などのように周期的に所定の時間ほぼ静止する部位など)を表示することができ、その結果、オペレータは、固定エコーによる虚像が除去された靄の少ないBモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない比較的動きの遅い部位が表示されているBモード画像を重畳して見ることができる。
【0053】
なお、固定エコーによる虚像が除去された固定エコー除去後Bモード画像データに基づく固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーによる虚像が除去されていない固定エコー除去前Bモード画像データに基づく固定エコー除去前Bモード画像のいずれかをカラー表示するようにしてもよい。
【0054】
また、固定エコーが除去された固定エコー除去後Bモード画像データに基づく固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコーが除去されていない固定エコー除去前Bモード画像データに基づく固定エコー除去前Bモード画像を表示する際のゲイン、ダイナミックレンジ、およびマップ(白黒やカラー)などを異なる値に予め設定するようにしてもよい。
【0055】
さらに、図4の2種類のBモード画像(固定エコー除去後Bモード画像データに基づく固定エコー除去後Bモード画像と、固定エコー除去前Bモード画像データに基づく固定エコー除去前Bモード画像)の合成における割合は、50%対50%の場合に限られず、例えば60%対40%などの割合で合成してもよい。また、合成の割合の設定は、オペレータが好みに合わせて予め設定するようにしてよいし、操作中に予め設定された所定の合成の割合を好みに合わせて適宜変更するようにしてもよい。
【0056】
また、本発明の実施形態に示された超音波診断装置1においては、2次元断層像について用いているようにしているが、例えば、3次元断層像について用いるようにしてもよい。
【0057】
さらに、本発明の実施形態に示された超音波診断装置1においては、リアルタイム表示するようにしているが、そのような場合に限られず、例えば、生成された2種類のBモード画像データ(固定エコー除去後Bモード画像データと固定エコー除去前Bモード画像データ)をそれぞれ別々のイメージメモリに同時に保存しておき、その後、2種類のBモード画像データを用いて画像表示処理を行うようにしてもよい。
【0058】
なお、本発明の実施形態において説明した固定エコー除去部5においては、フィルタコントローラ、フレームメモリ、乗算器、加算器、乗算係数ROMなどを用いて、例えば伝達関数の次数が3である場合に、次数に応じた3つのフレームメモリが、フィルタコントローラからの制御に従い、スキャンのフレーム周期Z−1の遅延器として機能し、同じサンプル点に関する現在のディジタル信号、1フレーム前のディジタル信号、2フレーム前のディジタル信号、3フレーム前のディジタル信号がそれぞれ乗算器に同時に供給され、乗算器の乗算結果が加算器で加算され、低周波成分が減衰された信号が加算結果として検波部6に出力される構成としたが、このような構成に限定されず、受信信号から固定エコーを除去できさえすればよく、受信信号における動きのない成分は変化のないデータとして表れることから、例えば単純に2フレームのデータ間で差分をとることで固定エコーを除去するようにしてもよい。勿論、受信信号に関して固定エコー除去処理を実行するのではなく、検波前後またはDSC7後のデータに対して固定エコー除去処理を行うようにしてもよい。
【0059】
なお、本発明の実施形態では、フローチャートのステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を適用した超音波診断装置の内部の構成を示すブロック図。
【図2】図1の超音波診断装置における画像表示処理を説明するフローチャート。
【図3】図1のモニタに表示されるBモード画像の表示例を示す図。
【図4】図1のモニタに表示されるBモード画像の他の表示例を示す図。
【符号の説明】
【0061】
1 超音波診断装置
2 システム制御部
3 超音波プローブ
4 送受信ビームフォーマ
5 固定エコー除去部
6 検波部
7 DSC
8 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子を振動させて超音波を送信する送信手段と、
前記送信手段により送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号を受信する受信手段と、
前記受信信号に含まれる固定エコー成分を除去する固定エコー除去手段と、
前記固定エコー除去手段により固定エコー成分が除去される前の前記受信信号に基づいて固定エコー除去前超音波画像データを生成する固定エコー除去前画像データ生成手段と、
前記固定エコー除去手段により固定エコー成分が除去された後の前記受信信号に基づいて固定エコー除去後超音波画像データを生成する固定エコー除去後画像データ生成手段と、
前記固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像データに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御する表示制御手段とを備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、前記固定エコー除去前超音波画像と、前記固定エコー除去後超音波画像を並列に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記固定エコー除去前超音波画像と、前記固定エコー除去後超音波画像を所定の合成割合で合成して重畳表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記表示制御手段により前記固定エコー除去前超音波画像と前記固定エコー除去後超音波画像を重畳表示するときの合成割合を設定する設定手段をさらに備え、
前記表示制御手段は、前記設定手段により設定された前記合成割合に基づいて前記固定エコー除去前超音波画像と前記固定エコー除去後超音波画像を合成して重畳表示するように制御することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記表示制御手段は、前記固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像のいずれか一方をカラー表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記表示制御手段は、前記固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー除去後超音波画像を並列に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記固定エコー除去前超音波画像データを記憶する固定エコー除去前超音波画像データ記憶手段と、
前記固定エコー除去後超音波画像データを記憶する固定エコー除去後超音波画像データ記憶手段とをさらに備え、
前記表示制御手段は、前記固定エコー除去前超音波画像データ記憶手段に記憶されている前記固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、前記固定エコー除去後超音波画像データ記憶手段により記憶されている前記固定エコー除去後超音波画像データに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
超音波振動子を振動させることにより送信された超音波のうち、被検体から反射された反射波に基づく受信信号に含まれる固定エコー成分を除去する固定エコー除去ステップと、
固定エコー成分が除去される前の前記受信信号から生成された固定エコー除去前超音波画像データに基づく固定エコー除去前超音波画像と、固定エコー成分が除去された後の前記受信信号から生成された固定エコー除去後超音波画像データに基づくに基づく固定エコー除去後超音波画像を同時に表示するように制御する表示制御ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする超音波診断装置の画像処理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−112714(P2009−112714A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292143(P2007−292143)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】