説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】Bモード画像の生成を行いながらも関心領域内の平均局所音速値を短時間に精度よく演算することができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】Bモード画像上で関心領域Rを設定されると、制御部12が関心領域Rより浅い位置および深い位置における音線上にそれぞれ格子点E1およびE2を設定すると共に、浅い位置に設定される格子点E1は、関心領域Rの深さ位置D1、関心領域Rの深さ方向の長さH、および振動子アレイ1から送信される超音波ビームBの同時開口幅Waに応じて決定される浅部格子点領域内に設定され、各格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームBの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得するように送信回路2および受信回路3を制御し、取得された音速測定用の受信データに基づき関心領域R内の平均局所音速値が演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することによりBモード画像の生成と音速測定の双方を行う超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に対して超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における局所音速値を求めることができ、例えばBモード画像に局所音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。
しかしながら、関心領域を設定して所定領域内の局所音速値を複数求める場合には、設定される格子点の位置などによって多くの時間を費やすおそれがある。また、関心領域内の平均局所音速値を正確に演算できないおそれもある。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、関心領域内の平均局所音速値を短時間に精度よく演算することができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超音波診断装置は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波診断装置であって、前記Bモード画像上で関心領域を設定するための関心領域設定部と、前記関心領域設定部により設定された前記関心領域より浅い位置および深い位置における音線上にそれぞれ格子点を設定し、前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、取得された前記音速測定用の受信データに基づき前記関心領域内の平均局所音速値を演算する音速演算部とを備え、前記浅い位置に設定される前記格子点は、前記関心領域の深さ位置、前記関心領域の深さ方向の長さ、および前記振動子アレイから送信される前記超音波ビームの同時開口幅に応じて決定される浅部格子点領域内に設定されるものである。
【0008】
ここで、前記浅い位置に設定される前記格子点の範囲は、前記深い位置に設定されたそれぞれの前記格子点に送信焦点を形成して送受信されるいずれかの超音波ビームの領域に収まるように設定されることが好ましい。
また、前記制御部は、前記関心領域設定部により設定された関心領域の位置が深いほど前記浅部格子点領域を長くすることができる。また、前記制御部は、前記関心領域設定部により設定された関心領域の深さ方向の長さが長いほど前記浅部格子点領域を長くすることもできる。また、前記制御部は、前記振動子アレイから送信される超音波ビームの同時開口幅が大きいほど前記浅部格子点領域を長くすることもできる。
【0009】
また、前記制御部は、前記深い位置と前記浅い位置との間の位置に前記格子点をさらに設定し、これら設定された全ての前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速マップ用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記音速演算部は、前記音速マップ用の受信データに基づいて前記格子点の局所音速値をそれぞれ演算し、前記関心領域内の音速マップを生成することができる。
【0010】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、前記Bモード画像上で関心領域を設定し、設定された前記関心領域より浅い位置および深い位置における音線上にそれぞれ格子点を設定すると共に、前記浅い位置に設定される前記格子点は、前記関心領域の深さ位置、前記関心領域の深さ方向の長さ、および前記振動子アレイから送信される前記超音波ビームの同時開口幅に応じて決定される浅部格子点領域内に設定され、前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得し、取得された前記音速測定用の受信データに基づき前記関心領域内の平均局所音速値を演算するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、関心領域より浅い位置および深い位置にそれぞれ格子点を設定し、浅い位置に設定される格子点を関心領域の深さ位置、関心領域の深さ方向の長さ、および超音波ビームの同時開口幅に応じて決定される領域内に設定するので、関心領域内の平均局所音速値を短時間に精度よく演算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態1において設定された格子点を示す図である。
【図4】実施の形態1において設定された格子点を示し、(A)は浅い位置に関心領域を設定した場合、(B)は深い位置に関心領域を設定した場合を示す図である。
【図5】実施の形態1において設定された格子点を示し、(A)は深さ方向に短い関心領域を設定した場合、(B)は深さ方向に長い関心領域を設定した場合を示す図である。
【図6】実施の形態1において設定された格子点を示し、(A)は超音波ビームの同時開口幅を短く設定した場合、(B)は超音波ビームの同時開口幅を長く設定した場合を示す図である。
【図7】実施の形態2において設定された格子点を示す図である。
【図8】実施の形態3において各格子点に超音波ビームの送信焦点を形成する順番を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、振動子アレイ1を備え、この振動子アレイ1に送信回路2および受信回路3が接続されている。受信回路3には、信号処理部4、DSC(Digital Scan Converter)5、画像処理部6、表示制御部7および表示部8が順次接続されている。画像処理部6には、画像メモリ9が接続されている。さらに、受信回路3に素子データメモリ10と音速演算部11とが接続されている。
そして、信号処理部4、DSC5、表示制御部7、素子データメモリ10および音速演算部11に制御部12が接続されている。また、制御部12には、操作部13と格納部14がそれぞれ接続されている。
【0014】
振動子アレイ1は、1次元又は2次元に配列された複数の超音波トランスデューサを有している。これらの超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路2から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0015】
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0016】
送信回路2は、例えば、複数のパルサを含んでおり、制御部12からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給する。
【0017】
受信回路3は、振動子アレイ1の各超音波トランスデューサから送信される受信信号を増幅してA/D変換することにより受信データを生成する。
【0018】
信号処理部4は、受信回路3で生成された受信データに対し、制御部12からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信データにそれぞれの遅延を与えて加算することにより受信フォーカス処理を行って、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号を生成し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC5は、信号処理部4で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部6は、DSC5から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部7に出力する、あるいは画像メモリ9に格納する。
これら信号処理部4、DSC5、画像処理部6および画像メモリ9により画像生成部15が形成されている。
【0019】
表示制御部7は、画像処理部6によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部8に超音波診断画像を表示させる。
表示部8は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部7の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0020】
素子データメモリ10は、受信回路3から出力される受信データを各チャンネル毎に時系列に格納する。また、素子データメモリ10は、制御部12から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速演算部11は、制御部12による制御の下で、素子データメモリ10に格納されている受信データに基づいて局所音速値を演算する。
制御部12は、操作者により操作部13から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0021】
操作部13は、操作者が入力操作を行うためのもので、この発明の関心領域設定部を構成し、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部14は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部4、DSC5、画像処理部6、表示制御部7および音速演算部11は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0022】
操作者は操作部13から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に関心領域内の平均局所音速値を重畳して表示するモード、Bモード画像と関心領域内の平均局所音速値とを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0023】
Bモード画像を表示する際には、まず、送信回路2から供給される駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路3に出力され、受信回路3で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した信号処理部4でBモード画像信号が生成され、DSC5でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部6でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部7により超音波診断画像が表示部8に表示される。
【0024】
一方、局所音速値の演算は、例えば本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図2(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ1に到達する受信波Wxに着目したとき、図2(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ1に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0025】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する最適音速値をそれぞれ求める。ここで、最適音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて最適音速値の判定を行うことができる。
【0026】
次に、格子点Xに対する最適音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0027】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、受信回路3で生成された受信データに基づき、被検体内の局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0028】
ここで、図3を参照して実施の形態1における格子点の設定方法について説明する。図3では、簡略化のため、振動子アレイ1は、9個の超音波トランスデューサが配列されたものとして示されており、これら超音波トランスデューサの配列ピッチで音線S1〜S9が形成される様子が示されている。そして、方位方向に幅Wr、深さ方向に縦長さHを有する関心領域Rが音線S4〜S6上にまたがると共に最浅部が深度D1に最深部が深度D2にそれぞれ位置するように設定されている。
このような関心領域Rに対して、関心領域Rよりも浅い位置すなわち振動子アレイ1に近い位置と関心領域Rよりも深い位置すなわち振動子アレイ1とは反対側の音線上にそれぞれ格子点が設定される。図3では、関心領域Rよりも浅い位置で且つその近傍の位置に方位方向に沿って「●」で示される複数の格子点E1が音線S2〜S8上にそれぞれ設定されると共に、関心領域Rよりも深い位置で且つその近傍の位置に方位方向に沿って「▲」で示される複数の格子点E2が音線S4〜S6上にそれぞれ設定されている。この時、関心領域Rよりも浅い位置に設定される格子点E1は、関心領域Rの最浅部の深度D1、関心領域Rの深さ方向の縦長さH、および振動子アレイ1から送信される超音波ビームの同時開口幅Waに応じて決定される浅部格子点領域内に設定される。そして、深い位置に設定された格子点E2のそれぞれと浅い位置に設定された複数の格子点E1との間の領域の音速が一定と仮定して各領域間の局所音速値が演算されると共に関心領域R内の平均局所音速値の演算が行われる。
【0029】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、送信回路2からの駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路3に出力されて受信データが生成され、さらに、画像生成部15で生成されたBモード画像信号に基づいて表示制御部7によりBモード画像が表示部8に表示される。
【0030】
表示部8にBモード画像が表示されると、操作者が操作部13を操作することにより、Bモード画像上に関心領域Rが設定され、図3に示したように、制御部12により、関心領域Rよりも深い位置で且つ関心領域Rを通る全ての音線S4〜S6上に格子点E2が設定される。続いて、制御部12は、関心領域Rよりも浅い位置において方位方向に幅Wgを有する浅部格子点領域を設定し、この浅部格子点領域内を通る全ての音線S2〜S8上に格子点E1が設定される。
ここで、浅部格子点領域は、深い位置に設定されたそれぞれの格子点E2に送信焦点を形成して送受信されるいずれかの超音波ビームの領域内に収まるように設定されることで、超音波ビームBを送受信した際に歪の少ない受信波の合成波を得るのに必要な位置にのみ格子点E1を設定することができる。これは、深い位置の格子点E2からの受信波を受けた浅い位置の複数の格子点E1からの受信波の合成波が、ホイヘンスの原理により、格子点E2からの受信波に一致することを利用して、局所音速値を演算することによるものである。このように浅部格子点領域を設定することで、ΔW=Wg−Wrとした時に、ΔW:H=Wa:(H+D1)が成り立ち、Wg=Wr+Wa/(1+(D1/H))の関係式が求められる。すなわち、浅部格子点領域の幅Wgは、関心領域Rの深さ位置D1、関心領域Rの深さ方向の長さH、および振動子アレイ1から送信される超音波ビームの同時開口幅Waに応じた最適な範囲に決定される。
【0031】
このようにして、関心領域Rを深さ方向に挟んで設定された格子点E1およびE2のそれぞれに送信焦点を形成して順次音速測定用の超音波ビームBの送受信を行い、これらの格子点E1およびE2からの受信波を捉えるように、制御部12により送信回路2および受信回路3が制御される。
超音波ビームBを受信する毎に受信回路3で生成される音速測定用の受信データは順次素子データメモリ10に格納される。すべての格子点E1およびE2に送信焦点を形成して超音波ビームBの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データが素子データメモリ10に格納されると、音速演算部11は、深い位置に設定された格子点E2のそれぞれと浅い位置に設定された複数の格子点E1との間の各領域の音速が一定と仮定し、素子データメモリ10に格納されている音速測定用の受信データを用いて、それぞれの領域の局所音速値を演算すると共にこれらの局所音速値を平均して関心領域R内の平均局所音速値を演算する。
【0032】
このとき、図2(B)を参照して説明したように、深い位置に存在する格子点E2のうち1つの格子点からの受信波を受けた浅い位置に存在する複数の格子点E1からの受信波の合成波が、ホイヘンスの原理により、格子点E2の1つから受信された受信波に一致することを利用して、その間の領域の局所音速値が演算される。
音速演算部11は、このようにして演算された格子点E2のそれぞれと格子点E1との間の領域の局所音速値の平均したものを関心領域R内の平均局所音速値とする。
【0033】
浅部格子点領域の長さWgの設定は、例えば次のようにして実施される。
関心領域Rの深さ方向の長さHおよび超音波ビームBの同時開口幅Waの値を固定して関心領域Rの深さ位置D1の値を変化させた場合において、関心領域Rが図4(A)に示す深さ位置D1に存在する時は、音線S2〜S8が含まれるように浅部格子点領域が設定される。これに対し、関心領域Rの深さ位置D1が深くなるほど格子点E2に送信焦点を形成して送受信される超音波ビームBの領域幅が短くなると共に浅部格子点領域も短く設定され、関心領域Rが図4(B)に示す深さ位置D1に存在する時には、音線S3〜S7が含まれるように浅部格子点領域が設定される。
また、関心領域Rの深さ位置D1および超音波ビームBの同時開口幅Waの値を固定して関心領域Rの深さ方向の長さHの値を変化させた場合において、関心領域Rが図5(A)に示す長さHを有する時は、音線S3〜S7が含まれるように浅部格子点領域が設定される。これに対し、関心領域Rの深さ方向の長さHが長くなるほど格子点E2に送信焦点を形成して送受信される超音波ビームBの領域幅が長くなると共に浅部格子点領域も長く設定され、関心領域Rが図5(B)に示す長さHまで長くなった時には、音線S2〜S8が含まれるように浅部格子点領域が設定される。
さらに、関心領域Rの深さ位置D1および関心領域Rの深さ方向の長さHの値を固定して超音波ビームBの同時開口幅Waの値を変化させた場合において、同時開口幅Waを図6(A)に示す大きさで超音波ビームBを送受信する時は、音線S3〜S7が含まれるように浅部格子点領域が設定される。これに対し、同時開口幅Waが大きくなるほど格子点E2に送信焦点を形成して送受信される超音波ビームBの領域幅が長くなると共に浅部格子点領域も長く設定され、同時開口幅Waが図6(B)に示すまで大きくなった時には、音線S2〜S8が含まれるように浅部格子点領域が設定される。
【0034】
このように、関心領域Rの設定に応じて、関心領域Rより浅い位置に設定される格子点E1と関心領域Rより深い位置に設定される格子点E2が最適な位置に設定されるため、関心領域R内の局所音速値および平均局所音速値を短時間に精度よく演算することが可能となる。
【0035】
実施の形態2
上述した実施の形態1において、関心領域R内の平均局所音速値を測定するだけでなく、関心領域R内の音速マップを生成するように構成することができる。
例えば、図7に示されるように、操作部13からの操作によりBモード画像上に関心領域Rが設定されると、制御部12は、関心領域Rよりも浅い位置と深い位置に格子点E1およびE2を設定すると共に、格子点E1およびE2の間の位置D3に方位方向に沿ってそれぞれ「■」で示される複数の音速マップ用格子点E3を設定する。なお、音速マップ用格子点E3は、深い位置に設定されたそれぞれの格子点E2に送信焦点を形成して送受信されるいずれかの超音波ビームBの領域に収まるように設定するのが好ましい。
【0036】
続いて、これらの格子点E1およびE2と音速マップ用格子点E3のそれぞれに送信焦点を形成して順次音速測定用の超音波ビームの送受信を行うように、制御部12により送信回路2および受信回路3が制御され、受信回路3で生成される音速測定用の受信データが順次素子データメモリ10に格納される。そして、音速演算部11は、素子データメモリ10に格納されている格子点E1およびE2に関する受信データを用いて、実施の形態1と同様にして関心領域R内の局所音速値および平均局所音速値を演算する一方、格子点E1およびE2に関する受信データと音速マップ用格子点E3に関する音速マップ用の受信データとを用いて、格子点E1、E2およびE3のそれぞれの局所音速値を演算し、関心領域R内の音速マップを生成する。
【0037】
音速演算部11で生成された音速マップに関するデータは、DSC5でラスター変換され、画像処理部6で各種の画像処理が施された後、表示制御部7に送られる。そして、操作者により操作部13から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態(例えば、局所音速値に応じて色分けまたは輝度を変化させる表示、あるいは局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)で表示部8に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部8に表示される。
このようにして、関心領域R内の局所音速値または平均局所音速値を測定するだけでなく、Bモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことが可能となる。
【0038】
実施の形態3
上述した実施の形態1および2において、制御部12により設定された各格子点に対して送信焦点を形成して送受信される超音波ビームBは格子点間の距離が近いものほど近い時刻で送受信されるようにその順番を設定することもできる。
例えば、図8に示される格子点において、超音波ビームの送信焦点を格子点Ea,Ec,Ef,Ei,・・・,Eb,Ee,・・・の順番で形成する、すなわち、同一の深度に位置する格子点に対して方位方向に超音波ビームの送信焦点を順次形成し、これを深さ方向に繰り返すことができる。また、超音波ビームの送信焦点を格子点Ea,Eb,Ec,Ed,Ee,・・・の順番で形成する、すなわち、同一の音線上に設定された格子点に対して一方向に超音波ビームの送信焦点を順次形成し、これを音線毎に繰り返すこともできる。
【0039】
このように、距離の近い格子点から順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで、距離の近い格子点の受信信号を近い時刻に得ることができ、より正確に関心領域R内の平均局所音速値を測定することが可能となる。
【0040】
なお、上記の実施の形態1〜3では、受信回路3から出力される受信データを一旦素子データメモリ10に格納し、音速演算部11が素子データメモリ10に格納された受信データを用いて関心領域R内の平均局所音速値を演算したが、音速演算部11が受信回路3から出力される受信データを直接入力して関心領域R内の平均局所音速値を演算することもできる。
また、上記の実施の形態1〜3では、簡略化のため、図示された振動子アレイ1の開口数すなわち音線の本数、格子点の個数等が小さな値で示されていたが、これに限るものではなく、Bモード画像による診断および音速の測定に適した開口数および格子点の個数とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 振動子アレイ、2 送信回路、3 受信回路、4 信号処理部、5 DSC、6 画像処理部、7 表示制御部、8 表示部、9 画像メモリ、10 素子データメモリ、11 音速演算部、12 制御部、13 操作部、14 格納部、15 画像生成部、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波、R 関心領域、E1 関心領域よりも浅い位置の格子点、E2 関心領域よりも浅い位置の格子点、E3 音速マップ用格子点、D1,D2,D3 深度、H 関心領域の深さ方向の長さ、Wr 関心領域の幅、Wa 同時開口幅、Wg 浅部格子点領域の幅、B 超音波ビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波診断装置であって、
前記Bモード画像上で関心領域を設定するための関心領域設定部と、
前記関心領域設定部により設定された前記関心領域より浅い位置および深い位置における音線上にそれぞれ格子点を設定し、前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、
取得された前記音速測定用の受信データに基づき前記関心領域内の平均局所音速値を演算する音速演算部と
を備え、
前記浅い位置に設定される前記格子点は、前記関心領域の深さ位置、前記関心領域の深さ方向の長さ、および前記振動子アレイから送信される前記超音波ビームの同時開口幅に応じて決定される浅部格子点領域内に設定されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記浅い位置に設定される前記格子点の範囲は、前記深い位置に設定されたそれぞれの前記格子点に送信焦点を形成して送受信されるいずれかの超音波ビームの領域に収まるように設定される請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記関心領域設定部により設定された関心領域の位置が深いほど前記浅部格子点領域を長くする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記関心領域設定部により設定された関心領域の深さ方向の長さが長いほど前記浅部格子点領域を長くする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記振動子アレイから送信される超音波ビームの同時開口幅が大きいほど前記浅部格子点領域を長くする請求項1〜4のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記深い位置と前記浅い位置との間の位置に前記格子点をさらに設定し、これら設定された全ての前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速マップ用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記音速演算部は、前記音速マップ用の受信データに基づいて前記格子点の局所音速値をそれぞれ演算し、前記関心領域内の音速マップを生成する請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、
前記Bモード画像上で関心領域を設定し、
設定された前記関心領域より浅い位置および深い位置における音線上にそれぞれ格子点を設定すると共に、前記浅い位置に設定される前記格子点は、前記関心領域の深さ位置、前記関心領域の深さ方向の長さ、および前記振動子アレイから送信される前記超音波ビームの同時開口幅に応じて決定される浅部格子点領域内に設定され、
前記格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得し、
取得された前記音速測定用の受信データに基づき前記関心領域内の平均局所音速値を演算する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−196304(P2012−196304A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62098(P2011−62098)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】