説明

超音波診断装置及びその制御プログラム

【課題】異なる弾性の範囲の物理量データに基づく三次元弾性画像が合成された合成三次元弾性画像が表示される超音波診断装置を提供する。
【解決手段】前記エコー信号の取得領域内に設定された第一の三次元領域内の前記物理量データであって、第一の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第一の三次元弾性画像データを作成する第一の三次元弾性画像データ作成部と、前記第一の三次元領域内の第二の三次元領域内の前記物理量データであって、前記第一の弾性の範囲とは異なる前記第二の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第二の三次元弾性画像データを作成する第二の三次元弾性画像データ作成部と、前記第一の三次元弾性画像データに基づく第一の三次元弾性画像g41と前記第二の三次元弾性画像データに基づく第二の三次元弾性画像g42とを含む合成三次元弾性画像G4を表示させる表示画像制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元弾性画像を表示する超音波診断装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常のBモード画像と、生体組織の硬さ又は軟らかさを表す弾性画像とを合成して表示させる超音波診断装置が、例えば特許文献1などに開示されている。前記弾性画像を見ることにより、例えば正常な生体組織よりも硬い領域として表示される腫瘤の診断が可能である。
【0003】
前記弾性画像は次のようにして作成される。先ず、生体組織に対し、例えば超音波プローブによる圧迫とその弛緩を繰り返すなどして生体組織を変形させながら超音波の送受信を行ってエコーを取得する。そして、得られたエコーデータに基づいて、生体組織の弾性に関する物理量データを作成し、この物理量データを色情報に変換してカラーの弾性画像を作成する。ちなみに、生体組織の弾性に関する物理量としては、例えば生体組織の歪みなどを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3932482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記Bモード画像と前記弾性画像とが合成されて得られた画像は二次元の画像である。このため、例えば腫瘤など観察対象の立体的な形状を把握することが困難である。従って、三次元の弾性画像を表示することができる超音波診断装置が望まれている。
【0006】
しかし、前記物理量データに基づいて、通常のボリュームレンダリング等の手法を用いて三次元弾性画像を作成すると、腫瘤を判別することができない三次元弾性画像が得られるおそれがある。そこで、本願発明者は、腫瘤など所定の弾性を有する観察対象の三次元弾性画像を作成すべく、所定の弾性の範囲の物理量データに基づいて、ボリュームレンダリング等の手法を用いて三次元弾性画像を作成することについて検討している。
【0007】
ここで、弾性画像を見て腫瘤の悪性度を診断する場合、腫瘤の内部において、正常組織よりも硬い領域とこの硬い領域よりも軟らかい領域との分布度合いによって診断を行なう場合がある。しかし、三次元弾性画像として、腫瘤の全体形状が表示されるように、所定の弾性よりも硬い物理量データに基づく三次元弾性画像を表示させた場合、前記所定の硬さよりも軟らかい物理量データは三次元弾性画像データの作成対象にはならないため、腫瘤の内部における軟らかい部分の分布の様子が分かりにくい。従って、異なる弾性を有する生体組織の立体的な分布を知ることができる三次元の弾性画像を表示させることが可能な超音波診断装置について鋭意検討し本願発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するためになされた発明は、被検体における三次元領域について超音波の送受信を行なってエコー信号を取得する超音波プローブと、前記エコー信号に基づいて被検体における生体組織の弾性に関する物理量データを作成する物理量データ作成部と、前記エコー信号の取得領域内に第一の三次元領域を設定する第一の三次元領域設定部と、前記第一の三次元領域内に第二の三次元領域を設定する第二の三次元領域設定部と、前記第一の三次元領域内の前記物理量データであって、第一の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第一の三次元弾性画像データを作成する第一の三次元弾性画像データ作成部と、前記第二の三次元領域内の前記物理量データであって、前記第一の弾性の範囲とは異なる前記第二の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第二の三次元弾性画像データを作成する第二の三次元弾性画像データ作成部と、前記第一の三次元弾性画像データと前記第二の三次元弾性画像データとを合成して合成三次元弾性画像データを作成する合成部と、前記第一の三次元弾性画像データに基づく第一の三次元弾性画像と前記第二の三次元弾性画像データに基づく第二の三次元弾性画像とを含む合成三次元弾性画像を、前記合成三次元弾性画像データに基づいて表示させる表示画像制御部と、を備えることを特徴とする超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0009】
上記観点の発明によれば、異なる弾性の範囲の物理量データに基づく三次元弾性画像が合成された合成三次元弾性画像が表示されるので、異なる弾性を有する生体組織の立体的な分布を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の実施形態の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す超音波診断装置における表示制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】互いに直交する三断面を示す説明図である。
【図4】図2に示す表示制御部における弾性画像データ作成部の構成を示すブロック図である。
【図5】エコー信号の取得領域内に設定された第一及び第二の三次元領域を示す概念図である。
【図6】Bモード画像及び弾性画像が合成された直交三断面についての超音波画像と合成三次元弾性画像とが表示された表示部の一例を示す図である。
【図7】Bモード画像及び弾性画像が合成された直交三断面についての超音波画像が表示された表示部の一例を示す図である。
【図8】合成三次元弾性画像を表示させるための処理を示すフローチャートである。
【図9】互いに直交する三断面についての超音波画像に第一の領域が設定された表示部の一例を示す図である。
【図10】三次元領域の設定を説明するための図である。
【図11】三次元領域の設定を説明するための図である。
【図12】三次元領域の設定を説明するための図である。
【図13】互いに直交する三断面についての超音波画像に第二の領域が設定された表示部の一例を示す図である。
【図14】第一及び第二の弾性の範囲の一例を示す図である。
【図15】第一及び第二の弾性の範囲の他例を示す図である。
【図16】第一及び第二の弾性の範囲の他例を示す図である。
【図17】Bモード画像及び弾性画像が合成された直交三断面についての超音波画像に加えて、合成三次元弾性画像が表示された表示部の一例を示す図である。
【図18】凹部を有する境界部分の補間を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。図1に示す超音波診断装置1は、超音波プローブ2、送受信部3、Bモードデータ作成部4、物理量データ作成部5、表示制御部6、表示部7、操作部8、制御部9及びHDD(Hard Disk Drive)10を備える。
【0012】
前記超音波プローブ2は、生体組織に対して超音波を送信しそのエコーを受信する。この超音波プローブ2は、三次元領域についての超音波の送受信を行なってボリュームデータを取得可能な超音波プローブであり、機械的に三次元領域の走査を行なう所謂メカニカル3Dプローブや、電子的に三次元領域の走査を行なう3Dプローブなどで構成される。前記超音波プローブ2は、本発明における超音波プローブの実施の形態の一例である。この超音波プローブ2を生体組織の表面に当接させた状態で圧迫と弛緩を繰り返したり、この超音波プローブ2から生体組織へ音響放射圧を加えたりして、生体組織を変形させながら超音波の送受信を行なって取得されたエコーデータに基づいて、後述のように弾性画像が作成される。
【0013】
前記送受信部3は、前記制御部9からの制御信号に基づいて前記超音波プローブ2を所定の走査条件で駆動させて音線毎の超音波の走査を行なう。また、前記送受信部3は、前記超音波プローブ2で受信したエコー信号について、整相加算処理等の信号処理を行なう。前記送受信部3で信号処理されたエコー信号は、前記Bモードデータ作成部4及び前記物理量データ作成部5に出力される。
【0014】
前記Bモードデータ作成部4は、前記送受信部3から出力されたエコー信号のデータに対し、対数圧縮処理、包絡線検波処理等のBモード処理を行い、Bモードデータを作成する。Bモードデータは、前記Bモードデータ作成部4から前記表示制御部6へ出力される。
【0015】
前記物理量データ作成部5は、前記送受信部3から出力されたエコー信号のデータに基づいて、生体組織における各部の弾性に関する物理量のデータ(物理量データ)を作成する(物理量算出機能)。前記物理量データ作成部5は、例えば特開2008−126079号公報に記載されているように、一の走査面における同一音線上の時間的に異なるエコーデータに相関ウィンドウを設定し、この相関ウィンドウ間で相関演算を行なって前記弾性に関する物理量を算出し、三次元のエコー信号の取得領域Rの各面について前記物理量データを作成する。前記弾性に関する物理量としては、例えば歪みが挙げられる。前記物理量データ作成部5は、本発明における物理量算出部の実施の形態の一例であり、また前記物理量算出機能は本発明における物理量算出機能の実施の形態の一例である。
【0016】
ちなみに、前記相関ウィンドウは画素に対応する。従って、相関ウィンドウ間の相関演算によって、画素毎の歪みのデータが得られる。
【0017】
前記表示制御部6には、前記Bモードデータ作成部4からのBモードデータ及び前記物理量データ作成部5からの物理量データが入力されるようになっている。前記表示制御部6は、図2に示すように、メモリ61、Bモード画像データ作成部62、弾性画像データ作成部63、表示画像制御部64を有している。
【0018】
前記メモリ61には、エコー信号の取得領域R内のBモードデータ及び物理量データが記憶される。従って、前記メモリ61に記憶されるBモードデータ及び物理量データは、ボリュームデータである。前記Bモードデータ及び前記物理量データは、音線毎のデータとして前記メモリ61に記憶される。
【0019】
前記メモリ61は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの半導体メモリで構成されている。ちなみに、前記Bモードデータ及び前記物理量データは、前記HDD10にも記憶されるようになっていてもよい。
【0020】
ここで、前記超音波プローブ2で得られたエコー信号のデータであって、後述のBモード画像データ及び弾性画像データに変換される前のデータをローデータ(Raw Data)と云うものとする。前記メモリ61に記憶されるBモードデータ及び物理量データは、ローデータである。
【0021】
前記Bモード画像データ作成部62は、前記Bモードデータを、スキャンコンバータにより走査変換して、エコー信号の信号強度に応じた輝度情報を有するBモード画像データを作成する。前記Bモード画像データ作成部62は、図3に示すように、互いに直交する三つの断面XY,YZ,ZXについて前記Bモード画像データを作成する。
【0022】
前記弾性画像データ作成部63は、図4に示すように、階調化データ作成部631、二次元弾性画像データ作成部632、第一の三次元領域設定部633、第二の三次元領域設定部634、第一の三次元弾性画像データ作成部635、第二の三次元弾性画像データ作成部636及び合成部637を有している。
【0023】
前記階調化データ作成部631は、後述するように、前記物理量データに基づいて階調化データを作成する。前記階調化データ作成部631は、エコー信号の取得領域Rの各面について前記階調化データを作成し、ボリュームデータとしての階調化データを得る。
【0024】
前記二次元弾性画像データ作成部632は、前記階調化データをスキャンコンバータにより走査変換して二次元弾性画像データを作成する。前記二次元弾性画像データ作成部632は、前記三つの断面XY,YZ,ZXについて二次元弾性画像データを作成する。前記二次元弾性画像データ作成部632は、本発明における二次元弾性画像データ作成部の実施の形態の一例である。
【0025】
前記第一の三次元領域設定部633は、図5に示すように、三次元の前記エコー信号の取得領域R内に第一の三次元領域R1を設定する(第一の三次元領域設定機能)。また、前記第二の三次元領域設定部634は、前記第一の三次元領域R1内に第二の三次元領域R2を設定する(第二の三次元領域設定機能)。詳細は後述する。前記第一の三次元領域設定部633及び前記第二の三次元領域設定部634は、本発明における第一の三次元領域設定部及び第二の三次元領域設定部の実施の形態の一例である。
【0026】
前記第一の三次元弾性画像データ作成部635は、前記第一の三次元領域R1内の前記物理量データであって、第一の弾性の範囲E1(図14参照)の前記物理量データに基づく第一の三次元弾性画像データを作成する(第一の三次元弾性画像データ作成機能)。また、前記第二の三次元弾性画像データ作成部636は、前記第二の三次元領域R2内の前記物理量データであって、前記第一の弾性の範囲E1とは異なる第二の弾性の範囲E2(図14参照)の前記物理量データに基づく第二の三次元弾性画像データを作成する(第二の三次元弾性画像データ作成機能)。本例では、前記第一及び第二の三次元弾性画像データ作成部635,636は、前記第一及び前記第二の弾性の範囲E1,E2の前記階調化データを対象にしてボリュームレンダリングやサーフェイスレンダリング等の画像処理を行なって、前記第一及び第二の三次元弾性画像データを作成する。詳細は後述する。前記第一の三次元弾性画像データ作成部635及び前記第二の三次元弾性画像データ作成部636は、本発明における第一の三次元弾性画像データ作成部及び第二の三次元弾性画像データ作成部の実施の形態の一例である。
【0027】
前記合成部637は、前記第一の三次元弾性画像データ及び前記第二の三次元弾性画像データを合成して合成三次元弾性画像データを作成する(合成機能)。詳細は後述する。前記合成部637は、本発明における合成部の実施の形態の一例である。
【0028】
前記表示画像制御部64は、前記Bモード画像データ及び前記二次元弾性画像データを合成して、図6に示すように、Bモード画像BGと弾性画像EGとが合成された二次元の超音波画像G1,G2,G3を前記表示部7に表示させる。前記超音波画像G1は前記断面XYについての画像、前記超音波画像G2は前記断面YZについての画像、前記超音波画像G3は前記断面ZXについての画像である。前記表示画像制御部64は、前記Bモード画像データ及び前記二次元弾性画像データを加算して得られたデータに基づく画像を前記超音波画像G1〜G3として表示させる。これら超音波画像G1〜G3において、前記弾性画像EGは、生体組織の弾性に応じた色からなる画像であり、例えば前記Bモード画像BG上において半透明で表示される。
【0029】
また、前記表示画像制御部64は、前記合成三次元弾性画像データに基づく合成三次元弾性画像G4を前記表示部7に表示させる(表示画像制御機能)。前記表示画像制御部64は、本発明における表示画像制御部の実施の形態の一例である。
【0030】
前記表示部7は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などで構成される。前記操作部8は、操作者が指示や情報を入力するためのキーボード及びポインティングデバイス(図示省略)などを含んで構成されている。
【0031】
前記制御部9は、CPU(Central Processing Unit)を有して構成され、前記HDD10に記憶された制御プログラムを読み出し、前記物理量算出機能、前記第一及び第二の三次元領域設定機能、前記第一及び前記第二の三次元弾性画像データ作成機能、前記合成機能及び前記表示画像制御機能をはじめとする前記超音波診断装置1の各部における機能を実行させる。
【0032】
さて、本例の超音波診断装置1の作用について説明する。先ず、超音波の送受信を開始してボリュームデータを取得する。具体的に説明すると、前記送受信部3は、前記超音波プローブ2から被検体の生体組織へ超音波を送信させ、そのエコー信号を取得する。この時、生体組織を変形させながら三次元領域について超音波の送受信を行なう。
【0033】
超音波の送受信により得られたエコー信号は前記送受信部3で信号処理された後、前記Bモードデータ作成部4及び前記物理量データ作成部5に入力される。そして、前記Bモードデータ作成部4は前記Bモードデータの作成を行ない、前記物理量データ作成部5は前記物理量データの作成を行なう。前記Bモードデータ及び前記物理量データは前記メモリ61又は前記HDD10に記憶される。前記メモリ61又は前記HDD10に記憶される前記Bモードデータ及び前記物理量データは、三次元のエコー信号の取得領域についてのボリュームデータである。
【0034】
次に、前記Bモード画像データ作成部62が、前記Bモードデータに基づいて前記三つの断面XY,YZ,ZXについてのBモード画像データを作成する。また、前記階調化データ作成部631が、前記物理量データに基づいて階調化データを作成する。具体的には、階調化データ作成部631は、相関ウィンドウ毎に算出された歪みのデータをN階調(例えばN=256)に階調化する処理を行なって階調値のデータからなる階調化データを作成する。
【0035】
前記二次元弾性画像データ作成部632は、前記階調化データを走査変換して、前記三つの断面XY,YZ,ZXについての二次元弾性画像データを作成する。そして、前記表示画像制御部64は、前記Bモード画像データ及び前記二次元弾性画像データに基づいて、図7に示すように、前記三つの断面XY,YZ,ZXについての前記超音波画像G1〜G3を前記表示部7に表示させる。
【0036】
次に、合成三次元弾性画像G4の表示について図8のフローチャートに基づいて説明する。先ずステップS1においては、前記第一の三次元領域設定部633は、図9に示すように第一の領域r11,r12,r13を設定することにより、前記第一の三次元領域R1を設定する。詳細に説明すると、先ず操作者が、前記操作部8のトラックボール等を用いて、前記表示部7に表示された前記超音波画像G1〜G3において、前記第一の領域r11〜r13を所望の位置になるように指示入力を行なう。これら第一の領域r11〜r13は、後述の第一の三次元弾性画像G41として表示させたい部分の周囲に設定され、本例では前記超音波画像G1〜G3に表示された観察対象である腫瘤Cの周囲に設定される。そして、前記超音波画像G11〜G13において、腫瘤Cと同じ弾性を有するものとして表示されたノイズ(noise)若しくは腫瘤とは異なる組織の部分がある場合、このような部分を含まないように前記第一の領域r11〜r13が設定されることが望ましい。
【0037】
ちなみに、前記超音波画像G1〜G3において、前記腫瘤Cは周囲の正常組織よりも硬いことを示す色で表示される。本例の図では、前記腫瘤Cは、周囲よりもドットの密度が高い部分dhとこの部分dhよりもドットの密度が低い部分dlとして示されている。前記部分dhは、周囲の正常組織よりも硬い部分であり、前記部分dlは前記部分dhよりも柔らかい部分である。
【0038】
前記第一の領域r11〜r13の位置が確定されると、前記第一の三次元領域設定部633は、前記第一の三次元領域R1を設定する。この第一の三次元領域R1の設定についてさらに詳細に説明する。前記第一の領域r11は、前記断面XYにおいて設定された領域である。この第一の領域r11が設定されると、図10に示すように、前記領域r11を断面としz軸方向を奥行とする四角柱の領域rp11が想定される。また、前記第二の領域r12は、前記断面YZにおいて設定された領域であり、この第二の領域r12が設定されると、図11に示すように前記領域r12を断面としx軸方向を奥行とする四角柱の領域rp12が想定される。さらに、前記第三の領域r13は、断面ZXにおいて設定された領域であり、この第三の領域r13が設定されると、図12に示すように前記領域r13を断面としy軸方向を奥行とする四角柱の領域rp13が想定される。そして、前記四角柱の領域rp11,rp12,rp13が重なり合う領域が前記第一の三次元領域R1となる。
【0039】
次に、ステップS2では、前記第二の三次元領域設定部634は、図13に示すように第二の領域r21,r22,r23を設定することにより、前記第二の三次元領域R2を設定する。詳細に説明すると、先ず操作者が、前記操作部8のトラックボール等を用いて、前記表示部7に表示された前記超音波画像G1〜G3において、前記第二の領域r21〜r23を所望の位置になるように指示入力を行なう。これら第二の領域r21〜r23は、前記第一の領域r11〜r13の内部であって、後述の第二の三次元弾性画像g42として表示させたい弾性を有する部分の周囲に設定される。本例では、前記腫瘤Cの内部であって前記部分dlの周囲に設定される。
【0040】
次に、ステップS3では、前記第一の三次元弾性画像データ作成部635が第一の三次元弾性画像データを作成し、前記第二の三次元弾性画像データ作成部636が第二の三次元弾性画像データを作成する。詳細に説明すると、前記第一の三次元弾性画像データ作成部635は、前記第一の三次元領域R1内の前記階調化データであって、図14に示すように、第一の弾性の範囲E1の範囲の前記階調化データを対象にしてボリュームレンダリングやサーフェイスレンダリング等の画像処理を行なう。そして、得られたデータをスキャンコンバータにより走査変換して第一の三次元弾性画像データを作成する。
【0041】
また、前記第二の三次元弾性画像データ作成部635は、前記第二の三次元領域R2内の前記階調化データであって、第二の弾性の範囲E2の範囲の前記階調化データを対象にしてボリュームレンダリングやサーフェイスレンダリング等の画像処理を行なう。そして、得られたデータをスキャンコンバータにより走査変換して第二の三次元弾性画像データを作成する。
【0042】
前記第一及び前記第二の弾性の範囲E1,E2について説明する。前記所定の弾性の範囲は、階調化データにおける0〜Nまでの階調値において設定される。図14に示す数直線lは、階調値0〜Nまでの(N+1)階調を表す数直線であるものとする。この数直線lにおいて、階調値が小さいほど(階調値0側)、歪みが小さく生体組織が硬いものとし、階調値が大きくなるほど(階調値N側)、歪みが大きく生体組織が軟らかいものとする。
【0043】
前記第一の弾性の範囲E1は、第一の三次元弾性画像g41として表示させたい部分の弾性の範囲に設定される。本例では、前記第一の弾性の範囲E1は、階調値0〜αの範囲に設定されている。この階調値0〜αの範囲は、前記腫瘤Cにおける前記部分dhの弾性の範囲になっている。
【0044】
また、前記第二の弾性の範囲E2は、第二の三次元弾性画像g42として表示させたい部分の弾性の範囲に設定される。本例では、前記第二の弾性の範囲E2は、階調値α〜β(α<β)の範囲に設定されている。この階調値α〜βの範囲は、前記部分dlの弾性の範囲になっている。
【0045】
ちなみに、仮に、第一の三次元領域R1内において、前記階調値β以下(前記部分dl及び前記部分dhの弾性を含む範囲)の階調化データを対象にして三次元弾性画像データを作成した場合、前記部分dhの周囲の正常組織の弾性が階調値β以下の階調値に相当していると、前記部分dhの周囲の部分も三次元弾性画像データの作成対象になる。この場合、腫瘤Cの三次元弾性画像が得られない。そこで、上述のように前記第一及び前記第二の三次元領域R1,R2を設定し、前記第一の三次元領域R1における第一の三次元弾性画像データの作成対象を階調値α以下の階調化データとし、前記第二の三次元領域R2における第二の三次元弾性画像データの作成対象を階調値α〜βの範囲の階調化データとすることにより、腫瘤Cの周囲の正常組織を三次元弾性画像から排除することができる一方で、前記部分dlを三次元弾性画像に含めることができる。
【0046】
図14では、前記第一及び第二の弾性の範囲E1,E2は、連続する範囲に重複しないように設定されているが、異なる範囲に設定されていればよく、図14に示された範囲に限られるものではない。例えば、図15に示すように、前記第一の弾性の範囲E1は階調値0〜αに設定され、前記第二の弾性の範囲E2は階調値γ〜β(α<γ<β)に設定され、それぞれが不連続な範囲に設定されてもよい。さらに、図16に示すように、前記第一の弾性の範囲E1は階調値0〜α′に設定され、前記第二の弾性の範囲E2は階調値δ〜β(δ<α′<β)に設定され、重複する範囲を有するように設定されてもよい。
【0047】
次に、ステップS4では、前記合成部637が前記第一の三次元弾性画像データと前記第二の三次元弾性画像データとを合成して合成三次元弾性画像データを作成する。
【0048】
前記合成部637は、前記第一の三次元弾性画像データ及び前記第二の三次元弾性画像データを所定の割合で加算して前記合成三次元弾性画像データの作成を行なってもよい。この場合、後述のステップS5で表示される合成三次元弾性画像G4(図17参照)において、前記第一の三次元弾性画像データに基づく第一の三次元弾性画像g41の上に、前記第二の三次元弾性画像データに基づく第二の三次元弾性画像g42が半透明で表示される。また、前記合成部637は、前記合成三次元弾性画像G4において、前記第一の三次元弾性画像g41の上に、前記第二の三次元弾性画像g42が重畳されるように、前記第一及び前記第二の三次元弾性画像データを合成してもよい。
【0049】
次に、ステップS5では、前記表示画像制御部64は、前記合成三次元弾性画像データに基づいて、図17に示すように、前記表示部7に前記合成三次元弾性画像G4を表示させる。この合成三次元弾性画像G4は、互いに異なる色の前記第一の三次元弾性画像g41と前記第二の三次元弾性画像g42とからなる。前記第一の三次元弾性画像g41は周囲の正常組織よりも硬い前記部分dhの三次元画像であり、前記第二の三次元弾性画像g42は、前記部分dhよりも軟らかい前記部分dlの三次元画像である。従って、前記合成三次元弾性画像G4が表示されることにより、腫瘤Cの内部における軟らかい部分の立体的な分布を知ることができる。
【0050】
次に、実施形態の変形例について説明する。前記第二の三次元領域設定部634は、前記第一の三次元領域R1内において、観察対象である腫瘤Cの輪郭を検出し、この輪郭で囲まれる領域を前記第二の三次元領域R2として設定してもよい。例えば、前記第二の三次元領域設定部634は、前記第一の三次元領域R1内の階調化データにおいて、所定の閾値以下の階調値とこの閾値よりも大きい階調値との境界部分を抽出する。前記閾値は、腫瘤Cの輪郭が抽出されるように、前記部分dhの弾性に該当する階調値(例えば前記階調値α)に設定される。これにより、前記所定の閾値以下の階調値と閾値よりも大きい階調値との境界部分として腫瘤Cの輪郭が抽出される。前記第二の三次元領域設定部634は、抽出された前記腫瘤Cの輪郭で囲まれる領域を前記第二の三次元領域R2として設定する。
【0051】
また、前記第二の三次元領域設定部634は、所定の閾値以下の階調値と閾値よりも大きい階調値との境界部分として、例えば図18に示すように凹部dを有する境界部分bを抽出した場合、腫瘤の球体としての連続性を考慮して、前記凹部dを補間するような輪郭線ol(一点鎖線)を設定してもよい。
【0052】
前記第二の三次元領域設定部634は、階調化データではなく、物理量データに基づいて前記腫瘤Cを抽出してもよい。この場合、前記第二の三次元領域設定部634は、前記第一の三次元領域R1内の物理量データにおいて、所定の閾値以下の歪みとこの閾値よりも大きい歪みとの境界部分を抽出する。前記歪みの閾値も、腫瘤Cの輪郭が抽出されるように、前記部分dhの弾性に該当する歪みの値に設定される。これにより、前記所定の閾値以下の歪みと閾値よりも大きい歪みとの境界部分として腫瘤Cの輪郭が抽出される。
【0053】
以上、本発明を前記各実施形態によって説明したが、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、前記物理量データ作成部5は、生体組織の弾性に関する物理量として、歪みの代わりに生体組織の変形による変位や弾性率などを算出してもよい。また、生体組織に対して音響放射圧を加えることによって生体組織にせん断波(shear wave)を発生させ、このせん断波の速度に基づいて、生体組織の弾性に関する物理量として、生体組織の硬さ(Pa:パスカル)を算出してもよい。ちなみに、せん断波の速度は、超音波のエコー信号に基づいて算出することができる。さらに、他の公知の手法によって生体組織の弾性に関する物理量を算出してもよい。
【0054】
また、前記第一及び前記第二の弾性の範囲E1,E2は、階調値において設定されているが、これに限られるものではなく、前記歪みの値などの物理量において設定されてもよい。この場合、前記第一の三次元弾性画像データ作成部635は、前記第一の三次元領域R1内の物理量データであって、前記第一の弾性の範囲として設定された所定の範囲の物理量についての前記物理量データを対象にしてサーフェイスレンダリングやボリュームレンダリング等の画像処理を行ない、得られたデータを走査変換して前記第一の三次元弾性画像データを作成する。また、前記第二の三次元弾性画像データ作成部636は、前記第二の三次元領域R2内の物理量データであって、前記第二の弾性の範囲として設定された所定の範囲の物理量についての前記物理量データを対象にしてサーフェイスレンダリングやボリュームレンダリング等の画像処理を行ない、得られたデータを走査変換して前記第二の三次元弾性画像データを作成する。
【0055】
さらに、前記第二の三次元領域R2は、複数設定されてもよい。この場合、それぞれの第二の三次元領域R2において第二の三次元弾性画像の作成対象となる第二の弾性の範囲は、異なっていてもよいし同じであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 超音波診断装置
2 超音波プローブ
5 物理量データ作成部
64 表示画像制御部
631 階調化データ作成部
632 二次元弾性画像データ作成部
633 第一の三次元領域設定部
634 第二の三次元領域設定部
635 第一の三次元弾性画像データ作成部
636 第二の三次元弾性画像データ作成部
637 合成部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体における三次元領域について超音波の送受信を行なってエコー信号を取得する超音波プローブと、
前記エコー信号に基づいて被検体における生体組織の弾性に関する物理量データを作成する物理量データ作成部と、
前記エコー信号の取得領域内に第一の三次元領域を設定する第一の三次元領域設定部と、
前記第一の三次元領域内に第二の三次元領域を設定する第二の三次元領域設定部と、
前記第一の三次元領域内の前記物理量データであって、第一の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第一の三次元弾性画像データを作成する第一の三次元弾性画像データ作成部と、
前記第二の三次元領域内の前記物理量データであって、前記第一の弾性の範囲とは異なる前記第二の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第二の三次元弾性画像データを作成する第二の三次元弾性画像データ作成部と、
前記第一の三次元弾性画像データと前記第二の三次元弾性画像データとを合成して合成三次元弾性画像データを作成する合成部と、
前記第一の三次元弾性画像データに基づく第一の三次元弾性画像と前記第二の三次元弾性画像データに基づく第二の三次元弾性画像とを含む合成三次元弾性画像を、前記合成三次元弾性画像データに基づいて表示させる表示画像制御部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記物理量データに基づく生体組織の二次元弾性画像データを互いに直交する複数断面について作成する二次元弾性画像データ作成部を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第一の三次元領域設定部は、前記二次元弾性画像データに基づいて表示された互いに直交する複数断面の二次元弾性画像において指示入力された領域に基づいて前記第一の三次元領域を設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第二の三次元領域設定部は、前記二次元弾性画像データに基づいて表示された互いに直交する複数断面の二次元弾性画像において指示入力された領域に基づいて前記第二の三次元領域を設定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第二の三次元領域設定部は、前記第一の三次元領域内において所定の弾性を有する観察対象を抽出し、該観察対象を前記第二の三次元領域として設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記第二の三次元領域設定部は、前記所定の弾性を有する観察対象の抽出を前記物理量データにおける所定の閾値の物理量に基づいて行なうことを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記第二の三次元領域設定部は、前記所定の弾性を有する観察対象の抽出を、前記物理量データを階調化した階調化データにおける所定の閾値の階調値に基づいて行なう
ことを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記第一及び前記第二の三次元弾性画像データ作成部は、前記物理量データを対象にして画像処理を行なって前記第一及び第二の三次元弾性画像データを作成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記第一及び前記第二の三次元弾性画像データ作成部は、前記物理量データを階調化した階調化データを対象にして画像処理を行なって前記第一及び第二の三次元弾性画像データを作成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記表示画像制御部は、前記合成三次元弾性画像において、前記第一の三次元弾性画像と前記第二の三次元弾性画像とを異なる色で表示させることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
コンピュータに、
超音波プローブにより、被検体における三次元領域について超音波の送受信を行なって取得されたエコー信号に基づいて被検体における生体組織の弾性に関する物理量データを作成する物理量データ作成機能と、
前記エコー信号の取得領域内に第一の三次元領域を設定する第一の三次元領域設定機能と、
前記第一の三次元領域内に第二の三次元領域を設定する第二の三次元領域設定機能と、
前記第一の三次元領域内の前記物理量データであって、第一の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第一の三次元弾性画像データを作成する第一の三次元弾性画像データ作成機能と、
前記第二の三次元領域内の前記物理量データであって、前記第一の弾性の範囲とは異なる前記第二の弾性の範囲の前記物理量データに基づく第二の三次元弾性画像データを作成する第二の三次元弾性画像データ作成機能と、
前記第一の三次元弾性画像データと前記第二の三次元弾性画像データとを合成して合成三次元弾性画像データを作成する合成機能と、
前記第一の三次元弾性画像データに基づく第一の三次元弾性画像と前記第二の三次元弾性画像データに基づく第二の三次元弾性画像とを含む合成三次元弾性画像を、前記合成三次元弾性画像データに基づいて表示させる表示画像制御機能と、
を実行させることを特徴とする超音波診断装置の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−135553(P2012−135553A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291408(P2010−291408)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】