説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、ドプラ情報取得用の走査領域に複数の部分領域を設定し、各部分領域ごとに反復的な部分走査を行うことにより、低速血流の計測をする場合、部分走査間において受信条件の不連続という問題が生じていた。
【解決手段】各部分領域208,210ごとに反復的に部分走査を実行する場合、先頭の送受信ビームセット107の直前にダミー送受信ビームセット105を設定する。先頭の送受信ビームセット107における受信ビームにダミー送信ビームの影響が及ぶことになるため、各送受信ビームセットの受信条件を均一化でき、不連続性による画質低下という問題を緩和できる。一番目の部分走査の直前にダミー送受信ビームセット102を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、各ビームアドレスごとに複数回の送受信を行って生体内運動体の運動情報を表すドプラ画像を形成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次元のドプラ画像を形成する場合、通常、走査面上のビームアドレスを順番に指定しながら、各ビームアドレスごとに複数回(例えば、8−10回)の送受信(超音波パルスの送信、反射波の受信)が連続的に実行される。これにより、各ビームアドレスごとに複数個(例えば8−10個)の受信信号が得られる。それらの受信信号間において各深さごとに自己相関演算を行えば、1ライン分のドプラ情報が求められる。そして、複数のビームアドレスに対応する複数のラインデータ(ドプラ情報)に基づいて、二次元のドプラ画像が構成される。
【0003】
特許文献1,2,3には、フレームレート、サンプリング数、診断深さ、などを犠牲にせずに、ドプラ情報における低域(低速度域)の計測精度を高める方法が記載されている。例えば、特許文献1の第7図には、走査面を複数のブロックに分割し、各ブロックごとに複数回の部分走査を繰り返す方法が示されている。各部分走査においては、ブロックを構成する先頭ビームアドレスから末尾ビームアドレスまで1つのビームアドレス当たり1回ずつ送受信が行われる。そして、そのような部分走査が反復された結果として、1つのビームアドレス当たり複数個の受信信号を取得できる。この方法では、ブロック内の各ビームアドレスについて着目すると、連続的に複数回の送受信を行って複数個の受信信号を連続的に取得する場合に比べて、各受信信号の間隔が増大されている。つまり、1フレーム当たりの送受信回数を維持しつつも、低域の観測を良好に行える。
【0004】
【特許文献1】特開平1−43237号公報
【特許文献2】特開平9−66055号公報
【特許文献3】特開2004−329609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の第7図に示される方法によると、ドプラ画像上において、各ブロックの先頭ラインの表示が不自然となる場合がある(特許文献3でもそれが指摘されている)。一般に、時間的に連続する2つのビームについて着目した場合、先のビームの送信波が後のビームの受信に影響を与えている。いわゆる残留エコーの混入である。反復的な部分走査においても、ブロック内における隣接ビーム間で残留エコーの混入が生じ、また、部分走査間で末尾ビームと先頭ビームとの間でも残留エコーの混入が生じる。ここで、前者の残留エコーの混入は空間的に近いビーム間で生じるもので、後者の残留エコーの混入は空間的に離れたビーム間で生じるものである。このため、ドプラ画像上において、前者よりも後者の方がより顕著に表示される。換言すれば、ブロックを構成する複数のビームにおいて、部分走査の折り返し後の先頭ビームとそれ以外のビームとでは受信条件(受信環境)が異なり、ドプラ画像上に不連続性を生じさせる。従来においては、そのような先頭ビームに相当するラインが抜けたように表示されたり、そのラインにノイズが目立って表示されたりする傾向にある。ここで、ノイズは、診断深さ範囲内における多重反射による残留エコーにより、診断深さ範囲外に存在する強反射体による残留エコーにより生じるものと認められる。なお、受信条件の変化は、輝度画像形成用の送受信ビームセットの形成の直後にドプラ画像形成用の送受信ビームセットを形成する場合にも認められる。
【0006】
特許文献1の第8図や特許文献2の第0022段落には、ダミービームについて記載されている。それらの特許文献において、ダミービームは、有効フレームの外側に設定される複数本のビームに相当し、それは受信信号セットの出力間隔を一定にするシーケンスを採用する場合においてシーケンスの初期等で不足するビームを便宜上補うものに過ぎない。上記各特許文献には1つの送信ビームに対して複数の受信ビームを同時に形成する多方向同時受信を前提としたビームシーケンスについては記載されていない。特許文献3には、上記不連続性の発生位置を順次変更して、見かけ上、不連続性の問題を緩和する方法が記載されている。
【0007】
本発明の目的は、ドプラ画像の画質を高めることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、多方向同時受信を行う場合において低域のドプラ情報を計測できるようにすることにある。
【0009】
本発明の他の目的は、部分領域の部分走査を反復する場合において、部分走査の折り返し時点において生じる画質変化を防止、軽減することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、輝度画像形成用の送受信ビームセットの形成後にそれに連続してドプラ画像形成用の送受信ビームセットを形成する場合に生じる画質変化を防止、軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、ドプラ情報を観測する走査領域内において、送受信ビームセットを繰り返し形成し、これにより各受信ビームアドレスごとに複数の受信信号を取得する送受信手段と、前記送受信ビームセットの形成を制御する走査制御手段と、前記各受信ビームアドレスごとに得られる複数の受信信号に基づいて前記走査領域内に存在する血流又は組織の運動情報を表すドプラ画像を形成するドプラ画像形成手段と、を含み、前記走査領域に対して複数の部分領域が設定され、前記複数の部分領域の中から各部分領域が順番に指定されて各部分領域ごとに反復的に複数回の部分走査が行われ、前記各部分領域におけるi番目の部分走査からi+1番目の部分走査へ折り返す過程で、前記i番目の部分走査における最後の送受信ビームセットを形成した後、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットを形成する前に、前記折り返しに起因する受信条件不連続性を解消するためにダミー送信ビームが形成される、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、ある部分領域に対して複数回の部分走査が行われる。各部分走査では一方端側から他方端側へ(ビーム番号順の順方向又は逆方向に)送受信ビームセットが走査される。その場合において、先の部分走査(i番目の部分走査)から後の部分走査(i+1番目の部分走査)へ移行する折り返しの過程で、後の部分走査の最初の送受信ビームセットの形成に先立って、ダミー送信ビーム(あるいは、それを含むダミー送受信ビームセット)が形成される。つまり、折り返し後の最初の送受信ビームセット(の受信信号)に対して、ダミー送信ビームの影響を敢えて与えることにより、その受信条件をそれ以外の送受信ビームセットの受信条件に合わせることができる。各送受信ビームセット間において受信条件が均等化されれば、特定ラインの画質が他のラインの画質と異なってしまうことを解消又は軽減できる。これによれば、簡易な方法でありながらその効果が十分大きいことが確認されている。ダミー送信ビームは、望ましくは、物理的に見て、通常の送信ビームと基本的に同じものであるが、情報取得を目的として積極的に形成されるものではない点において、通常の送信ビームと相違する。
【0013】
上記のような折り返し過程での受信条件不連続性を解消するためのダミー送信ビームに加えて、他の要因による受信条件不連続性を解消するためのダミー送信ビームを別途形成するようにしてもよい。更に、各部分領域における部分走査ごとの送受信シーケンスを簡易化するなどの目的からダミー送受信ビームを補填するようにしてもよい。
【0014】
望ましくは、前記送受信ビームセットは1つの送信ビームと複数の受信ビームとで構成される。1つの送信ビームに対して複数の受信ビームを形成すればフレームレートを向上できる。1つのダミー送信ビームによる影響が複数の受信ビームに及ぶことになる。もちろん、1つの送信ビームに対して1つの受信ビームを形成する場合でも、ダミー送信ビームによる利点を得られる。
【0015】
望ましくは、前記ダミー送信ビームは、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットの位置に基づく所定の位置に形成される。望ましくは、前記所定の位置は、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットに含まれる送信ビームの位置に隣接する位置である。この構成によれば、当該最初の送受信ビームセットの受信条件を他の送受信ビームセットの受信条件にかなり近づけることができる。その実施形態においては、後に図3を用いて説明する。望ましくは、前記所定の位置は、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットに含まれる送信ビームの位置と同じ位置である。この構成によれば、隣接位置へのダミー送信ビームの形成と同様の効果を期待できる。その実施形態については、後に図4を用いて説明する。
【0016】
望ましくは、前記ダミー送信ビームに対応するダミー受信信号が取得されてもそれが前記ドプラ画像の形成に用いられずに廃棄される。
【0017】
望ましくは、前記複数の部分領域における各部分領域が順番に指定される過程で、各部分領域ごとに所定のタイミングで輝度画像形成用送受信ビームセットが割り込み形成される。望ましくは、前記輝度画像形成用送受信ビームセットの形成後に前記ドプラ画像を形成するための送受信ビームセットを形成する場合には、それに起因する受信条件不連続性を解消するためにダミー送信ビームが形成される。すなわち、受信条件の均一化の観点から、輝度画像形成用送受信ビームセットの形成後に、ダミー送信ビームを形成した上で、ドプラ画像形成用送受信ビームセットを形成するのが望ましい。なお、一般に、輝度画像形成用の送信信号とドプラ画像形成用の送信信号とでは互いにパワーや帯域が異なり、一般に前者は後者よりも広帯域で且つパワー大である。
【0018】
従来、輝度画像形成用送受信ビームセットの直後にドプラ画像形成用送受信ビームセットを形成する場合、回り込みノイズによる影響を回避するために、当該直後のドプラ画像形成用送受信ビームセットの形成により得られた受信信号を破棄している。上記構成においては、それらの間にダミー送信ビームが挿入されるため、その破棄を行う必要がなくなる。但し、既存の送受信シーケンスに対して所定位置に単純にダミー送信ビームを追加しても、上記の折り返し過程で生じる問題を解消できる。
【0019】
部分領域を構成する受信ビームの本数が所定数よりも多い場合や部分領域のサイズが所定サイズよりも大である場合にはダミー送信ビームを形成し、一方、部分領域を構成する受信ビームの本数が所定数よりも少ない場合や部分領域のサイズが所定サイズよりも小である場合にはダミー送信ビームを形成しないように制御してもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、ドプラ画像の画質を高められる。本発明によれば、部分領域の部分走査を反復する場合において、部分走査の折り返し時点において生じる画質変化を防止又は軽減できる。あるいは、本発明によれば、輝度画像形成用の送受信ビームセットの形成後にそれに連続してドプラ画像形成用の送受信ビームセットを形成する場合に生じる画質変化を防止又は軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の構成が示されている。この超音波診断装置は、生体内における血流からのドプラ情報を取得し、それに基づいて二次元の血流画像を形成する装置である。血流画像に代えて心臓壁などの組織の運動を画像化することも可能である。低速の血流の画像化を行うために、後述するような送受信シーケンスが設定される。
【0023】
プローブ10は、体表面上に当接して用いられ、あるいは体腔内に挿入して用いられる超音波探触子である。プローブ10は図示されていないアレイ振動子を有している。アレイ振動子は複数の振動素子によって構成される。アレイ振動子により超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては、電子リニア走査、電子セクタ走査などが知られている。2Dアレイ振動子を用いて二次元ビーム走査を行うこともできる。図1には電子セクタ走査が概念的に示されている。すなわち、超音波ビームを走査することにより、走査面12が形成される。超音波ビームは、送信ビームと受信ビームとを合成したビームに相当するものである。本実施形態においては、1つの送信ビーム当たり2つの受信ビームが同時に形成されている。すなわち、いわゆるパラレル受信が行われている。1つの送信ビーム当たり3個以上の受信ビームを形成することも可能である。図1において、送信ビームは符号14で示され、受信ビームは符号16,18で示されている。送信ビーム14及び受信ビーム16,18は送受信ビームセットを構成する。その送受信ビームセットが走査面12上において電子的に走査されることになる。ただし、後述する送受信シーケンスにしたがって、ドプラ情報を観測する走査領域内に複数の部分領域(ブロック)が設定され、各ブロックごとに送受信ビームセットの電子走査(部分走査)が反復的に実行される。
【0024】
送受信部20は、送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送受信部20は、複数の振動素子に対して複数の送信信号を並列的に供給する。これによって送信ビーム14が形成される。複数の振動素子から出力される複数の受信信号に対して送受信部20において整相加算処理が実行され、これによって受信ビームが形成される。2つの整相加算条件を切り替えることにより、あるいは2つの整相加算条件を同時に適用することにより、2つの受信ビーム16,18が同時に形成され、それらの2つの受信ビーム16,18に対応する、整相加算後の2つの受信信号が送受信部20から出力されることになる。
【0025】
検波部22は、図1に示す構成例において直交検波器で構成され、入力される各受信信号を直交検波することにより複素信号に変換する。複素信号としての受信信号はドプラ情報処理部26へ出力される。その一方において、複素信号としての受信信号はBモード画像形成用の回路(図示せず)へも出力される。複素信号ではなく、送受信部20から出力される受信信号をBモード画像を形成する回路へ出力するようにしてもよい。後述するように、ドプラ情報を処理することによって形成される二次元血流画像とBモード画像(白黒の組織断層画像)とが合成され、すなわちいわゆるカラーフローマッピング画像が形成されて、それが後述する表示器42上に表示される。
【0026】
ドプラ情報処理部26について説明する。検波部22から出力される複素信号としての受信信号はメモリ28上に格納される。そのメモリ28は、後述する部分領域すなわちブロックごとに、複数の受信ビームアドレス上において得られた複数のビームデータ(受信信号)をバッファリングするものである。各受信ビームアドレスごとに蓄積された複数のビームデータは、各深さごとのデータ列に再構成されてメモリ28の後段に設けられたMTIフィルタ30へ出力される。ちなみに、メモリ28においては上記のようにデータ配列の変換が行われているが、そのような変換を行うことなく各ビームデータをそのままMTIフィルタ30及び自己相関器32へ出力し、同じ深さに対応する複数のデータ間において自己相関演算を行うようにしてもよい。
【0027】
MTIフィルタ30は、生体内の静止物体あるいは低速運動体(心臓壁等)からのドプラ情報を除去するフィルタとして機能する。すなわち、いわゆるウォールモーションフィルタとして機能し、受信信号に含まれるクラッタ成分が除去される。MTIフィルタ30から出力される受信信号は自己相関器32へ出力される。自己相関器32は周知のように同じ深さのデータ間において自己相関演算を繰り返し実行し、サンプル点ごとに平均化された自己相関結果を得るものである。その自己相関結果は速度演算器34、分散演算器36、パワー演算器38へ出力される。速度演算器34は自己相関結果に基づいて血流速度を演算する回路であり、分散演算器36は自己相関結果に基づいて速度の分散を演算する回路であり、パワー演算器38は自己相関結果に基づいてパワーを演算する回路である。
【0028】
ドプラ情報処理部26の構成それ自体は公知のものであり、本実施形態においては固有の送受信シーケンスにしたがってドプラ情報処理部26が動作している。速度演算器34から出力される速度情報、分散演算器36から出力される分散情報、パワー演算器38から出力されるパワー情報はそれぞれ表示処理部40へ出力される。
【0029】
表示処理部40は、座標変換機能、補間処理機能、画像合成機能などを有している。表示処理部40は、具体的には各演算器34,36,38ごとに設けられたDSC(デジタルスキャンコンバータ)を備えており、それらの構成によって二次元速度画像、二次元分散画像、二次元パワー画像を形成している。ただし、選択された表示モードにしたがって、その表示モードで必要な画像の形成が行われている。表示処理部40には更に組織の輝度画像を形成するための情報も入力されており、その情報に対する座標変換などによってBモード画像が構成されている。
【0030】
表示処理部40は、例えばカラードプラモードが選択された場合、カラーの二次元血流画像と白黒の二次元組織画像とを合成し、これによって得られるカラーフローマッピング画像の情報を表示器42へ出力する。パワーモードが選択された場合、二次元のカラーパワー画像と二次元の白黒組織画像とを合成した合成画像の情報を表示器42に出力している。もちろん、必要に応じてカラー表現を変化させることによりカラーフローマッピング画像上において分散情報を表現するようにしてもよい。制御部24は、後述する送受信シーケンスを実現するため、送受信部20、ドプラ情報処理部26などの各構成の動作制御を行っている。制御部24には、図示されていない操作パネルが接続されており、その操作パネルを用いてユーザー入力を行うことが可能である。
【0031】
次に、本実施形態に係る送受信シーケンスについて図2〜図4を用いて説明する。図2には、走査面12が示されている。上述したように、1つの送信ビーム14当たりそれに隣接して2つの受信ビーム16,18が同時形成される。そのような送受信ビームセットが走査面12上において電子的に走査される。具体的に説明すると、走査面12の全範囲50においてユーザーによってドプラ情報を観測するための走査領域52が指定される。この走査領域52は走査面12の全体であってもよいし、一部範囲であってもよい。ちなみに、部分的に走査領域52が設定された場合、それ以外の領域においてはBモード画像を形成する送受信のみが実行される。一方、走査領域52においてはBモード画像を形成する送受信とドプラ画像を形成する送受信とが実行される。
【0032】
本実施形態では、走査領域52が複数の部分領域(ブロック)54,56,58に区分される。その区分数についてはユーザーによりあるいは自動的に適宜設定することが可能である。図2においては3つの部分領域54,56,58が設定されているが、その個数については図示のものには限られない。
【0033】
周知のように、自己相関演算を精度良く行うためには1つの受信ビームアドレス当たり多数のビームデータを取得する必要がある。例えば8個あるいは10個のビームデータを取得する必要がある。一般的な送受信シーケンスにおいては、各受信ビームアドレスが順番に指定されて、各受信ビームアドレスごとに連続的に複数のビームデータが取得される。これに対し、本実施形態の送受信シーケンスにおいては、部分領域54,56,58ごとにその一方端から他方端への部分走査が反復的に実行される。例えば各部分領域54,56,58当たり8回あるいは10回の部分走査が実行される。それが符号60で示されている。そのような反復的な部分走査を行えば、結果として、部分領域54,56,58内における各受信ビームアドレスごとに8個あるいは10個のビームデータを取得することができ、その一方において、各受信ビームアドレスについて着目した場合、送信パルスの繰り返し周期を長くできるので、従来例で説明した特許文献1〜3に記載されているように、より低速のドプラ情報を精度良く測定することが可能となる。その場合においてもフレームレートを維持できるなどの利点を得られる。
【0034】
しかしながら、単純に反復的走査を行うと、i番目の部分走査とi+1番目の部分走査との間における折り返しの時点で、送受信ビームセット間の距離が離れることになり、そこにおいて受信条件の不連続性という問題が発生する。部分走査の先頭の送受信ビームセット以外の送受信ビームセットにおいては、1つ前に隣接する送受信ビームセットの形成による影響、すなわち近傍で送信された超音波の回り込みという影響を受けているのに対し、先頭の送受信ビームについては距離的な関係からそのような影響が相違し、受信条件が異なることになる。あるいは隣接する送受信ビームセット間においては多重反射やノイズの影響が受信ビーム上に現れたとしてもあまり目立つことはないが、距離的に離れている関係においてはそれが顕著に目立って画像上において当該ラインが抜けているように見えたりそこにノイズが顕著に表れたりしてドプラ画像の画質を低下させてしまう。それが図2においては符号62で示されている。すなわち各部分領域54,56,58の先頭のライン上において、1つ前の部分走査の最後の送信時において生じた多重反射や、診断深さより深い部位からの強大な反射波などが当該ライン上に画像化されるという問題がある。そこで、本実施形態においてはそのような受信条件の不連続性を解消あるいは緩和するため、以下に詳述するように、先頭の送受信ビームセットの形成に先立ってダミー送信ビーム(それを含むダミー送受信ビームセット)の形成を行うようにしている。これについて図3及び図4を用いて詳述する。
【0035】
図3における上部には、横軸方向に沿って、受信ビーム番号(受信ビームアドレス番号)と、送信ビーム番号(送信ビームアドレス番号)とが示されている。また図3における下方には、符号200として全走査範囲が示され、符号202としてドプラ情報を観測する走査領域が示されている。符号204及び206はBモード画像を形成するための送受信のみが行われる領域を示している。走査領域200は図3に示す例において2分割され、すなわち2つの部分領域208,210が設定されている。上述したように、各部分領域208,210ごとに反復的な部分走査が実行されることになる。図3における各破線は送信ビームを表しており、その両側に描かれている2つの実線は同時形成される受信ビームを表している。また、図3における縦軸は時間tを表しており、上方から下方にかけて送受信シーケンスが進行していることが表されている。
【0036】
横に3つ並んだ四角記号はBモード送受信を表しており、ここでその中央の四角記号は送信を示し、その両側の四角記号は受信を示している。3つ並んだ白丸記号は通常のドプラ送受信を示しており、その中央の白丸は送信を示し、その両側の白丸は受信を示している。また中央に白丸記号があり両側に黒丸記号があるものはダミーのドプラ送受信を表している。その中央の白丸記号は有効な送信を示し、その両側の黒丸記号は無効な受信を示している。つまり、ダミーのドプラ送受信においては、通常のドプラ送受信と同様に実際の送信ビームが形成されるが、受信時においては実際に2つの受信ビームは形成されるものの、それに対応する2つの受信信号それ自体はドプラ画像形成のためには利用されずに破棄されている。もちろん2つの受信ビームの形成を省略するようにしてもよい。重要なことは、ダミー送信ビームを適時形成することによって受信条件の不連続性を緩和できるということである。
【0037】
また、Trは送信パルスの繰り返し周期を表しており、frは送信パルスの繰り返し周波数を表している。Tdは同一ビームにおける送受信繰り返し周期を表しており、fdは同一ビームにおける送受信の繰り返し周波数を示している。Tdは部分領域についての部分走査の周期に相当している。
【0038】
図3に示す送受信シーケンスにおいては、1つの部分領域208,210当たり、時間軸方向に5回のドプラ情報取得用の部分走査が実行されている。符号100は1つの部分走査を示している。部分走査を5回繰り返せば、1つの送受信ビームアドレスセット当たり5回の送受信が繰り返されることになり、すなわち1つの受信ビーム当たり5つのビームデータを得られる。なお、各部分領域208,210について所定回の部分走査が完了するとその最後にBモード画像形成のための部分走査が1回だけ実行されている。その部分走査における1つの送受信ビームセットが符号108で示されている。
【0039】
本実施形態においては、図3に例示されるように、各部分走査の最初の送受信ビームセットの形成に先立って、ダミーの送受信ビームセットが形成されている。それが符号102,105で示されている。例えば1番目の部分走査における最後の送受信ビームセット103の形成の後、2番目の部分走査における最初の送受信ビームセット107を直ちに形成すると、上記のような受信条件の不連続性という問題が生じるが、本実施形態においてはそれらの送受信ビームセット103,107の間にダミー送受信ビームセット105が存在しており、つまり送受信ビームセット107における受信期間に先立ってダミー送信が行われているため、受信条件の不連続性という問題を解消あるいは緩和することができる。そのようなダミー送受信ビームセットが付加された部分走査が符号104で表されている。
【0040】
ここで、一番目の部分走査における先頭の送受信ビームセット101については、部分走査間における折り返し過程における不連続性という問題は生じない。したがって、その意味においてはダミー送受信ビームセット102を設ける必要はない。ただし、1番目の部分走査の直前にBモード画像形成用の送受信ビームセットが形成され、その影響が回り込むことが考えられるため、その影響を遮断して受信条件を均一化するために本実施形態においてはダミー送受信ビームセット102が設けられている。また、そのような設定によれば、個々の部分領域208,210内における各部分走査のサブシーケンスを同じにすることができ、制御を簡易化できるという利点もある。なお、図3に示す例では、Bモード画像形成用の送受信ビームセットがビームアドレス順に順次形成されているが、実際の画像形成にあたっては、様々な順序で様々な位置にBモード画像形成用の送受信ビームセットが形成され、またBモードと同時にMモードが選択される場合もあり、そのようなことをも考慮すればダミー送受信ビームセット102を最も先頭の送受信ビームセット101の直前に設定しておくのが望ましいと言える。このことはt=32の地点において実行されているダミー送受信ビームセットについても同様に指摘できる。
【0041】
ダミー送信ビームを形成する位置は、その直後における送受信ビームセットの位置に隣接した位置であるのが望ましい。図3に示す送受信シーケンスにおいてはそのような条件が満たされている。すなわち、例えば、送信ビーム番号が3で受信ビーム番号が5と6で定義される送受信ビームセットの直前には送信ビーム番号が2の位置にダミー送信ビームが形成されている。すなわち送信ビームの関係でみれば隣接関係にある。ただし、そのような隣接関係ではなく、同じ送信ビームアドレス上にダミー送信ビームを形成することもできる。それが図4に示されている。
【0042】
図4において、図3に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。図4に示される送受信シーケンスにおいては、各部分領域208,210ごとに反復的に部分走査が実行されるが、各部分走査の先頭の送受信ビームセット101,107の直前には同じ送受信ビームアドレス上にダミー送受信ビームセット102A,105Aが設定されている。このような構成においても、各部分走査における先頭の送受信ビームセットへ意図的に直前の送信波の周り込みを生じさせて受信条件の不連続性を緩和できる。また、Bモード画像形成用の送受信ビームセットの後にダミー送受信ビームセットを形成すれば上記で指摘した各利点を得られる。
【0043】
図5には、比較例が示されている。なお、図3に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。比較例においても、各部分領域208,210ごとに反復的に部分走査が繰り返し実行されている。最初の部分走査においてはダミー送受信ビームセットのみからなる部分走査が実行されている。その理由を説明すると、その部分走査の内で先頭のダミー送受信ビームセット110はその直前に設定されたBモード画像形成用の送受信ビームセットの影響を遮断するためのものである。したがって、本来であればそれはブランク期間であってもよいものである。2番目のダミー送受信ビームセット112から4番目の(つまり末尾の)ダミー送受信ビームセット113までの複数のセットは本来であれば通常の送受信ビームセットであってもよいが、各受信ビームごとに同じ数のビームデータを揃えるために敢えてダミー送受信ビームセットとなっている。これは各部分領域208,210内におけるサブシーケンスをできるだけシンプルにするためでもある。したがって、図5に示す送受信シーケンスによれば、1つの受信ビームから得られるビームデータ数は、図3及び図4よりも少なく、4つとなる。
【0044】
このような比較例においては、ドプラ情報を取得するための1回目の部分走査における最後の送受信ビームセット115とその次の部分走査における最初の送受信ビームセット116との関係に着目すると、送受信ビームセット116における受信条件は上記で指摘したように不連続となる。その結果として、図2において符号62で示したような問題が生じる。つまり、比較例においても形式的にはダミー送受信ビームセット110〜113が用いられてはいるが、それはドプラ画像形成のための複数の部分走査間における問題を解消するものではない。ただし、図5に示す比較例の送受信シーケンスにおいて、各部分走査における先頭の送受信ビームセット114,116の直前に図3あるいは図4に示したようなダミー送受信ビームセットを挿入することにより、上記のような不連続性の問題を解消することができる。そのような変形例も本発明に含まれるものである。
【0045】
図3及び図4に示した実施形態においては、各部分走査ごとに1回のダミー送受信が発生するため、その分だけフレームレートが低下することになるが、それについては診断深さを調整することにより、あるいはビーム本数を調整することにより対応することも可能である。本実施形態においてはいわゆるパラレル受信が採用されているため上記の特許文献1〜3で示されているような利点を得つつも更にフレームレートをほぼ数倍にできるという利点を得られ、したがってダミー送受信の負荷に伴うフレームレートの低下という点はほとんど問題とならない。なお、図3及び図4に示した実施形態において、各部分走査はビームアドレス順の順方向に行われていたが、各部分走査を逆方向にしても上記同様の作用効果を得られる。すなわち、そのような場合においても隣接する送信ビームアドレス上にダミー送信ビームを形成すればよい。本実施形態のように順方向であれば局所部位ごとの時相のずれを最小限に抑えられるという利点があり、また制御面でも簡略化されるので有利である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】各部分領域の先頭ラインに生ずる問題を説明するための図である。
【図3】本実施形態に係る送受信シーケンスの一例を示す図である。
【図4】本実施形態に係る送受信シーケンスの他の例を示す図である。
【図5】比較例としての送受信シーケンスを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 プローブ、12 走査面、14 送信ビーム、16,18 受信ビーム、26 ドプラ情報処理部、28 メモリ、30 MTIフィルタ、32 自己相関器、34 速度演算器、36 分散演算器、38 パワー演算器、40 表示処理部、200 全走査領域、202 ドプラ情報所得用の走査領域、204,206 Bモード画像情報取得用の走査領域、208,210 部分領域(ブロック)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドプラ情報を観測する走査領域内において、送受信ビームセットを繰り返し形成し、これにより各受信ビームアドレスごとに複数の受信信号を取得する送受信手段と、
前記送受信ビームセットの形成を制御する走査制御手段と、
前記各受信ビームアドレスごとに得られる複数の受信信号に基づいて前記走査領域内に存在する血流又は組織の運動情報を表すドプラ画像を形成するドプラ画像形成手段と、
を含み、
前記走査領域に対して複数の部分領域が設定され、
前記複数の部分領域の中から各部分領域が順番に指定されて各部分領域ごとに反復的に複数回の部分走査が行われ、
前記各部分領域におけるi番目の部分走査からi+1番目の部分走査へ折り返す過程で、前記i番目の部分走査における最後の送受信ビームセットを形成した後、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットを形成する前に、前記折り返しに起因する受信条件不連続性を解消するためにダミー送信ビームが形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記送受信ビームセットは1つの送信ビームと複数の受信ビームとで構成されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記ダミー送信ビームは、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットの位置に基づく所定の位置に形成されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記所定の位置は、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットに含まれる送信ビームの位置に隣接する位置であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記所定の位置は、前記i+1番目の部分走査における最初の送受信ビームセットに含まれる送信ビームの位置と同じ位置であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記ダミー送信ビームに対応するダミー受信信号が取得されてもそれが前記ドプラ画像の形成に用いられずに廃棄されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記複数の部分領域における各部分領域が順番に指定される過程で、各部分領域ごとに所定のタイミングで輝度画像形成用送受信ビームセットが割り込み形成されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記輝度画像形成用送受信ビームセットの形成後に前記ドプラ画像を形成するための送受信ビームセットを形成する場合には、それに起因する受信条件不連続性を解消するためにダミー送信ビームが形成されることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198075(P2006−198075A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11584(P2005−11584)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】