説明

超音波診断装置

【課題】超音波の連続波を利用した技術において目標位置の選択性を向上させる。
【解決手段】復調信号の周波数スペクトラム内において、ドプラ信号fd1は、目標位置から得られる受信信号に含まるドプラ信号である。ドプラ信号fd1は、比較的低い周波数帯域に現れる。これに対し、ドプラ信号fd2〜fd5は、目標位置以外の受信信号に含まるドプラ信号を示している。目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5は、周波数f,2f,3f・・・の近傍に現れる。つまり、目標位置のドプラ信号fd1に比べて、目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5は、比較的高い周波数帯域に現れる。そこで、特性70のLPFを利用して、目標位置以外の不要波であるドプラ信号fd2〜fd5等を低減または除去する。これにより、目標位置に関する位置選択性が改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、連続波を利用する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の連続波を利用した技術として、連続波ドプラが知られている。連続波ドプラでは、例えば、数MHzの正弦波である送信波が生体内へ連続的に放射され、生体内からの反射波が連続的に受波される。反射波には、生体内における運動体(例えば血流など)によるドプラシフト情報が含まれる。そこで、そのドプラシフト情報を抽出して周波数解析することにより、運動体の速度情報を反映させたドプラ波形などを形成することができる。
【0003】
連続波を利用した連続波ドプラは、パルス波を利用したパルスドプラに比べて一般に高速の速度計測の面で優れている。こうした事情などから、本願の発明者は、連続波ドプラに関する研究を重ねてきた。その成果の一つとして、特許文献1において、周波数変調処理を施した連続波ドプラ(FMCWドプラ)に関する技術を提案している。
【0004】
一方、連続波ドプラでは、連続波を利用していることにより位置計測が困難である。例えば、従来の一般的な連続波ドプラの装置(FMCWドプラを利用しない装置)では、位置計測を行うことができなかった。これに対し、本願の発明者は、特許文献2において、FMCWドプラにより選択的に生体内組織の所望の位置からドプラ情報を抽出することができる極めて画期的な技術を提案している。さらに、本願の発明者は、特許文献3において、デジタル変調処理を施した連続波に関する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−253949号公報
【特許文献2】特開2008−289851号公報
【特許文献3】特開2009−291294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載された連続波ドプラの技術は、それまでにない超音波診断の可能性を秘めた画期的な技術である。本願発明者は、この画期的な技術の改良についてさらに研究開発を重ねてきた。特に、連続波を利用して選択的に目標位置から生体内情報を抽出する技術に注目して研究開発を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、超音波の連続波を利用した技術において目標位置の選択性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、周期的な数値パターンに基づいて得られる周期性を備えた連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、前記数値パターンに基づいて得られる参照信号を利用して、生体内の目標位置との間の相関関係を調整しつつ受信信号に対して復調処理を施すことにより復調信号を得る復調処理部と、目標位置から得られる比較的低い周波数成分と目標位置以外から得られる比較的高い周波数成分とを含んだ前記復調信号に対してフィルタ処理を施すことにより、前記比較的高い周波数成分の少なくとも一部を除去する不要波処理部と、フィルタ処理された復調信号に基づいて目標位置の生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記不要波処理部は、前記目標位置から得られる比較的低い周波数成分を通過させるローパスフィルタを備え、前記生体内情報抽出部は、前記生体内情報として復調信号からドプラ信号を抽出する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記ドプラ信号の測定可能な最大周波数に応じて前記ローパスフィルタの通過帯域が制御される、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記数値パターンは、正弦関数から得られる正弦パターンと余弦関数から得られる余弦パターンであり、前記送信信号処理部は、正弦パターンと余弦パターンを合成して得られる位相パターンに従って周期的に位相を変化させた連続波の送信信号を出力する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記正弦パターンは、N個(Nは自然数で偶数)の位相値に対応したN個の正弦関数値で構成され、前記余弦パターンは、当該N個の位相値に対応したN個の余弦関数値で構成され、前記連続波の送信信号は、当該N個の位相値に対応したパターン長Nの位相パターンを備える、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記フィルタ処理された復調信号を周期方向に亘って加算処理するにあたり、パターン長Nをp個(pは自然数)ごとにqブロック(qは自然数)に分割し、各ブロックごとに復調信号を加算処理して部分的な加算復調信号を得る、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記各ブロックごとに次々に得られる複数の部分的な加算復調信号を得られた順に並べた信号列内で、qブロックの範囲を1ブロックずつシフトさせつつ段階的に、パターン長Nを構成するqブロックに亘るq個の部分的な加算復調信号を抽出してそれらを加算処理することにより、パターン長Nに亘る復調信号の加算処理を実現する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、超音波の連続波を利用した技術において目標位置の選択性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】位相シフト連続波の送信信号に関する時間変化波形を示す図である。
【図3】参照信号と受信信号の時間的な対応関係を示す図である。
【図4】復調信号の位相変化の具体例を示す図である。
【図5】復調信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【図6】復調信号が加算処理される様子を示す図である。
【図7】電力スペクトラムに関する計算結果の具体例を示す図である。
【図8】不要波を除去して得られる電力スペクトラムの具体例を示す図である。
【図9】最大ドプラ周波数を拡大する加算処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。送信用振動子10は、生体内へ超音波を連続的に送波し、また、受信用振動子12は、生体内からの超音波の反射波を連続的に受波する。このように、送信および受信がそれぞれ異なる振動子で行われて、いわゆる連続波ドプラ法による送受信が実行される。なお、送信用振動子10は複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子が制御されて超音波の送信ビームが形成される。また、受信用振動子12も複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子により得られた信号が処理されて受信ビームが形成される。
【0018】
送信ビームフォーマ(送信BF)14は、送信用振動子10が備える複数の振動素子に対して送信信号を出力する。送信ビームフォーマ14には、合成処理部24から連続波の送信信号が供給され、送信ビームフォーマ14は、その送信信号に対して、各振動素子に応じた遅延処理を施して各振動素子に対応した送信信号を形成する。なお、送信ビームフォーマ14において形成された各振動素子に対応した送信信号に対して、必要に応じて電力増幅処理が施されてもよい。こうして超音波の送信ビームが形成され、二次元平面内で又は三次元空間内で送信ビームが走査される。
【0019】
送信ビームフォーマ14に供給される連続波の送信信号は、正弦パターン処理部22Bと余弦パターン処理部22Aと合成処理部24によって形成される。
【0020】
正弦パターン処理部22Bは、RF波発振器20から得られるRF波(搬送波信号)に対して、正弦パターンに基づいた処理を施す。一方、余弦パターン処理部22Aは、RF波発振器20からπ/2シフト回路21を介して得られるRF波(搬送波信号)に対して余弦パターンに基づいた処理を施す。
【0021】
そして、正弦パターン処理部22Bと余弦パターン処理部22Aから出力される2つの信号が合成処理部24において合成され、所定の位相パターンを備えた連続波(位相シフト連続波)が形成される。正弦パターン処理部22Bと余弦パターン処理部22Aと合成処理部24によって形成される連続波の送信信号については後にさらに詳述する。
【0022】
受信ビームフォーマ(受信BF)16は、受信用振動子12が備える複数の振動素子から得られる複数の受波信号を整相加算処理して受信ビームを形成する。つまり、受信ビームフォーマ16は、各振動素子から得られる受波信号に対してその振動素子に応じた遅延処理を施し、複数の振動素子から得られる複数の受波信号を加算処理することにより受信ビームを形成する。なお、各振動素子から得られる受波信号に対して低雑音増幅等の処理を施してから、受信ビームフォーマ16に複数の受波信号が供給されてもよい。こうして二次元平面内で又は三次元空間内で走査される送信ビームに対応した受信ビームが形成され、受信ビームに沿って受信RF信号が収集される。
【0023】
受信ミキサ30は受信RF信号に対して直交検波を施して複素ベースバンド信号を生成する回路であり、2つのミキサ32,34で構成される。各ミキサは受信RF信号を所定の参照信号と混合する回路である。
【0024】
受信ミキサ30の各ミキサに供給される参照信号は、合成処理部24から出力される送信信号に基づいて生成される。つまり、合成処理部24から出力される送信信号が遅延回路25において遅延処理され、ミキサ32には遅延処理された送信信号が参照信号として直接供給され、一方、ミキサ34には遅延処理された送信信号がπ/2シフト回路26を経由して参照信号として供給される。
【0025】
π/2シフト回路26は、遅延処理された参照信号の位相をπ/2だけずらす回路である。この結果、2つのミキサ32,34の一方から同相信号成分(I信号成分)が出力されて他方から直交信号成分(Q信号成分)が出力される。そして、受信ミキサ30の後段に設けられたLPF(ローパスフィルタ)36,38により、同相信号成分および直交信号成分の各々の高周波数成分がカットされ、検波後の必要な帯域のみの復調信号が抽出される。
【0026】
不要波処理部40は、復調信号に含まれる不要波を低減または除去するものであり、復調信号のI信号成分とQ信号成分の各々に対応したLPF(ローパスフィルタ)を備えている。受信ミキサ30からLPF36,38を介して得られる復調信号には、後に詳述するように、目標位置から得られる比較的低い周波数成分と目標位置以外から得られる比較的高い周波数成分が含まれている。そこで、不要波処理部40は、目標位置以外から得られる比較的高い周波数成分を不要波として、その不要波の少なくとも一部を除去する。
【0027】
加算部46,48は、不要波処理部40から得られる復調信号を所定期間に亘って加算する。これにより、位相シフト連続波の位相パターンに関する加算処理が実行され、参照信号の位相パターンと一致する目標位置からの復調信号が選択的に抽出される。この位置選択性については後にさらに詳述する。
【0028】
FFT処理部(高速フーリエ変換処理部)50は、加算部46,48から得られる復調信号(同相信号成分および直交信号成分)の各々に対してFFT演算を実行する。その結果、FFT処理部50において復調信号が周波数スペクトラムに変換される。なお、FFT処理部50から出力される周波数スペクトラムは、回路の設定条件などにより周波数分解能δfの周波数スペクトラムデータとして出力される。
【0029】
ドプラ情報解析部52は、周波数スペクトラムに変換された復調信号からドプラ信号を抽出する。後に詳述するが、図1の超音波診断装置では、遅延回路25における遅延処理により目標位置が設定され、ドプラ情報解析部52において目標位置からのドプラ信号が選択的に抽出される。ドプラ情報解析部52は、例えば、時間的に変化するドプラ信号の表示波形を形成する。なお、生体内の各深さ(各位置)ごとにドプラ信号を抽出して、例えば、超音波ビーム(音線)上の各深さごとに生体内組織の速度を算出し、リアルタイムで出力してもよい。また、超音波ビームを走査させて二次元的あるいは三次元的に生体内組織の各位置の速度を算出してもよい。
【0030】
表示部54は、ドプラ情報解析部52において形成されたドプラ信号の波形などを表示する。なお、図1に示す超音波診断装置内の各部は、システム制御部60によって制御される。つまり、システム制御部60は、送信制御や受信制御や表示制御などを行う。
【0031】
以上、概説したように、図1の超音波診断装置では、位相シフト連続波に対応した超音波を送受して受信信号を得て、生体内の目標位置の深さに応じて参照信号と受信信号との間の遅延関係を調整し、目標位置からの受信信号と参照信号との間の相関を強めて復調処理を施すことにより、目標位置からのドプラ情報を選択的に抽出している。そこで、図1の超音波診断装置における位相シフト処理や、目標位置からのドプラ情報が選択的に抽出される位置選択性などについて、以下に詳述する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明においても図1の符号を利用する。
【0032】
<位相シフト処理について>
図1の超音波診断装置では、互いに相補的な関係にある2列の数値パターンを用いて位相シフト処理が行われる。つまり、正弦パターン処理部22Bにおいて正弦パターンが利用され、余弦パターン処理部22Aにおいて余弦パターンが利用される。
【0033】
2列の数値パターンである正弦パターンと余弦パターンは次式により定義される。次式において、aが余弦パターンであり余弦関数から得られる。一方、bが正弦パターンであり正弦関数から得られる。また、Nはパターン長を示す自然数であり、nはパターンを構成している各数値(各符号)の番号である。ちなみに、Nは任意の自然数かつ偶数であり2の累乗に限定されない。
【0034】
【数1】

【0035】
正弦パターン処理部22Bは、RF波発振器20から得られるRF波(正弦波)の振幅を正弦パターンに従って変化させる。一方、余弦パターン処理部22Aは、π/2シフト回路21を介して得られるRF波(余弦波)の振幅を余弦パターンに従って変化させる。そして、正弦パターン処理部22Bから出力される連続波と、余弦パターン処理部22Aから出力される連続波が合成処理部24において合成され、次式に示す連続波の送信信号が形成される。なお、次式において送信信号の振幅をAとしている。また、その連続波(位相シフト連続波)の具体例を示すと図2のようになる。
【0036】
【数2】

【0037】
図2は、位相シフト連続波の送信信号に関する時間変化波形を示す図である。図2に示される送信信号の波形は、数1式におけるパターン長をN=8(n=0〜7)として、数2式から得られる。例えば、図2に示すような位相パターンを繰り返すことにより得られる連続波が利用される。なお、超音波診断装置内において実際に利用される場合には、パターン長Nが例えば数百程度に設定される。もちろん、測定対象物や診断の種類などに応じてパターン長Nが設定されてもよい。
【0038】
送信信号に対応した受信信号は、その送信信号が送信された時刻から、次式に示す遅延時間τだけ遅れて受信系に到達する。なお、次式において、Tは数値パターンの1ビット(各数値)の時間長つまりビット長であり、kは任意の自然数である。また、ξは1/2ビット長以下の時間である。
【0039】
【数3】

【0040】
そして、送信信号を基準とした受信信号の遅延時間(送受信時間差)をτとし、受信信号の振幅をAとすると、ドプラシフトによる位相の変化量ωをともなった受信信号は次式にように表現される。なお、次式においては反射時における位相回転量φも考慮されている。
【0041】
【数4】

【0042】
図1の超音波診断装置では、送信信号を遅延回路25において遅延処理して得られる参照信号が、受信ミキサ30において受信信号と乗算される。遅延回路25における参照信号の遅延量をlT(l:英字のエル)とすると、遅延回路25からミキサ32に送られる参照信号vref1と、遅延回路25からπ/2シフト回路26を介してミキサ34に送られる参照信号vref2は、それぞれ次のように表現される。
【0043】
【数5】

【0044】
図3は、参照信号と受信信号の時間的な対応関係を示す図である。図示しない送信信号との比較において、参照信号は遅延回路25で遅延量lTだけ遅延されるため、この遅延に伴う符号のずれ数はl(エル)となる。そこで、図3において、参照信号内の中央に示す1ビット期間Tの符号をan−l,bn−lとしている。
【0045】
一方、図示しない送信信号との比較において、受信信号は送受信時間差τ(数3式)だけ遅れる。受信信号は連続的な様々な深さから得られるため、図3においては、1/2ビット長以下の微小時間であるξを考慮して、IからIIIまでの受信信号を示している。
【0046】
受信信号IIは、ξ=0の場合であり、受信信号IIと参照信号との間において互いの符号切り換わりのタイミングが一致している。これに対し、受信信号Iと受信信号IIIはξが0でない場合であり、受信信号と参照信号との間において互いの符号切り換わりのタイミングがずれている。
【0047】
そこで、参照信号の符号を基準とし、時間長がTである各符号の例えば中央時点を乗算サンプリングの時刻(乗算タイミング)とする。これにより、図3に示す受信信号I,IIIのように、ξが比較的小さい場合において、受信信号IIの場合と同じ乗算結果が得られてξの影響を無視することができる。
【0048】
図1のミキサ32における乗算を数式で示すと次式のようになり、乗算結果としてベースバンド成分(復調信号)が得られる。なお、次式の計算過程において2ωtの項は、ミキサ32の後段に設けられたLPF36により除去される。
【0049】
【数6】

【0050】
また、数6式の最終結果の位相項のうち、時間tに無関係な部分を数7式のように定義すると、数6式の最終結果が数8式のように簡潔に表現される。
【0051】
【数7】

【0052】
【数8】

【0053】
さらに、数8式に数1式を適用したものが数9式であり、数9式において数10式の定義を利用すると数11式となる。このように、ミキサ32における乗算後にLPF36を介して出力される復調信号の同相信号成分が最終的に数11式のように表現される。
【0054】
【数9】

【0055】
【数10】

【0056】
【数11】

【0057】
一方、図1のミキサ34における乗算を数式で示すと次式のようになり、乗算結果としてベースバンド成分(復調信号)が得られる。なお、次式の計算過程において2ωtの項は、ミキサ34の後段に設けられたLPF38により除去され、また、時間tに無関係な部分については数7式の定義を利用している。
【0058】
【数12】

【0059】
さらに、数12式に数1式と数10式を適用すると数13式となる。つまり、ミキサ34における乗算後にLPF38を介して出力される復調信号の直交信号成分が最終的に数13式のように表現される。
【0060】
【数13】

【0061】
そして、同相信号成分(数11式)と直交信号成分(数13式)を複素表現でまとめると、復調信号Z(t)を次式のように複素形式で表現することができる。
【0062】
【数14】

【0063】
復調信号Z(t)は、数14式に示すように、ドプラ周波数fに応じて位相が時間的に変化することに加えて、時間間隔Tごとに位相が2πfklだけ変化している。なお、数14式のΨklは時間によって変化しない定数項である。
【0064】
また、復調信号Z(t)は、例えば図3に示した乗算サンプリングのタイミングで時間間隔Tごとに得られる。そこで、符号の番号n(数1式等参照)と各符号の時間長でもあるTを利用して乗算サンプリングの時刻をt=nTと表現すると、数14式から数15式が得られる。そして、番号nの値の変化にしたがって数15式から得られる復調信号の位相を具体的に示すと図4のようになる。
【0065】
【数15】

【0066】
図4は、復調信号の位相変化の具体例を示す図である。図4には、数15式において番号nの値を変化させた場合に得られる位相の値が示されている。図4に示すように、数15式の復調信号は、時間NTの間に、つまり数値パターン(数1式)の一周期の間に、位相が2π(fkl−f)NTラジアンだけ回転する正弦波となる。そして、その正弦波の周波数は次式のようになる。
【0067】
【数16】

【0068】
以上までの解析結果から得られる復調信号の特性についてまとめると次のようになる。(1)復調信号内には、k−l(l:英字のエル)つまり受信信号と参照信号との間の位相差に応じた周波数成分fkl−fが含まれている。
(2)k=lの場合、つまり参照信号との間の位相差が0となる目標位置からの受信信号は、数10式からfkl=0であるため、復調信号内において周波数がfとなる。この周波数fが観測対象となるドプラ周波数fである。
(3)k≠lの場合、つまり目標位置以外からの受信信号は、復調信号内において周波数がfkl−fとなる。また、目標位置から離れるに従って、数10式に示すようにfklが大きくなるため、周波数fkl−fはドプラ周波数fから高周波側に移行する。
(4)周波数fklは、数10式に示すようにk−lに比例しており、kとlが自然数であるため、周波数fの整数倍となる。なお、周波数fklの最大値は、復調信号のサンプリング間隔が時間Tであるため、次式のようになる。
【0069】
【数17】

【0070】
図5は、復調信号の周波数スペクトラムを示す図であり、図5には、数15式の復調信号に関する周波数スペクトラムの具体例が図示されている。ドプラ信号fd1は、目標位置から得られる受信信号に含まるドプラ信号であり、k=lの場合つまり数15式においてfkl=0とした場合のドプラ信号fである。fkl=0であるため、ドプラ信号fd1は、比較的低い周波数帯域に現れる。
【0071】
これに対し、ドプラ信号fd2〜fd5は、目標位置以外の受信信号に含まるドプラ信号を示している。目標位置以外ではk≠lとなり、数15式のfklがfの整数倍となる。そのため、目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5は、周波数f,2f,3f・・・の近傍に現れる。つまり、目標位置のドプラ信号fd1に比べて、目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5は、比較的高い周波数帯域に現れる。
【0072】
また、図5には、不要波処理部40(図1)のLPF(ローパスフィルタ)の特性70が示されている。不要波処理部40は、例えば図5に示す特性70のLPFを利用して、目標位置以外の不要波であるドプラ信号fd2〜fd5等を低減または除去する。これにより、目標位置に関する位置選択性を改善している。そこで、以下に位置選択の原理と位置選択性の改善について説明する。
【0073】
<位置選択の原理について>
図1の超音波診断装置では、目標位置からのドプラ情報を選択的に抽出するために、数1式に示される数値パターン(正弦パターンと余弦パターン)の1周期に亘って、つまりパターン長Nに亘って、復調信号が加算処理される。
【0074】
数14式の復調信号Z(t)は、時間間隔Tごとにサンプリングされる。そこで、符号の番号n(0〜N−1の整数)と、符号の繰り返し回数m(0〜M−1の整数)と、各符号の時間長でもあるTを利用して、復調信号のサンプリング時刻をt=nT+mNTと表現すると、数14式から数18式が得られる。また、数10式に基づいて数19式が導かれる。
【0075】
【数18】

【0076】
【数19】

【0077】
数19式においてm,k,l(エル)は全て整数であるため、数19式の結果は常に2πの整数倍となる。その結果を数18式に適用すると次式のとおりとなる。
【0078】
【数20】

【0079】
目標位置からのドプラ情報を選択的に抽出するために、数20式に示される復調信号が数値パターン(正弦パターンと余弦パターン)の1周期に亘って、つまりパターン長Nに亘って、次式に示すように加算処理される。
【0080】
【数21】

【0081】
数21式の結果に対して、初項が1で公比がrの等比級数に関する数22式の公式を適用すると、fkl=fの場合には数23式が得られ、fkl≠fの場合には数24式が得られる。
【0082】
【数22】

【0083】
【数23】

【0084】
【数24】

【0085】
数23式または数24式により得られる信号は、周波数fの複素正弦波である。そのため、例えば、数23式または数24式を周波数解析処理することにより、周波数fつまりドプラ信号の周波数を抽出することができる。特に、目標位置からのドプラ信号が選択的に抽出される。
【0086】
図6は、復調信号が加算処理される様子を示す図である。図6の(A)は、数20式の復調信号Zを時間Tごとにサンプリングした結果を複数のパルスで表現している。また図6の(B1)(B2)は、復調信号Zを1周期(Nサンプル)に亘って加算処理して得られる数23式と数24式のwを複数のパルスで表現している。
【0087】
数24式に示すwの電力スペクトラムは次式のように表現される。なお、数24式におけるBは定数であるので次式において省略している。
【0088】
【数25】

【0089】
まず、固定目標から得られる電力スペクトラムの特性について確認する。固定目標の場合にはf=0であり、さらに数10式を適用すると、固定目標から得られる電力スペクトラムは次式のようになる。
【0090】
【数26】

【0091】
目標位置以外では、k−l≠0であるため、数26式の結果は常に0(ゼロ)となる。目標位置においてはk−l=0のためfkl=0となり、また固定目標のためf=0であり、数23式からwの振幅がNとなる。つまり、固定目標の場合には、目標位置において鋭い選択特性となる。
【0092】
次に、移動目標から得られる電力スペクトラムの特性について確認する。符号系列の長さ(数値パターンのパターン長)をN=200、1符号長をT=1μs(マイクロ秒)、符号系列の繰り返し長をTN=200μs、符号系列の繰り返し周波数をf=5kHzとして、数25式から得られる計算結果の具体例を示すと図7のようになる。
【0093】
図7は、ドプラ電力スペクトラムに関する計算結果の具体例を示す図である。つまり、数25式から、N=200,T=1μs,TN=200μs,f=5kHzの場合に得られるドプラ電力スペクトラムPに関する計算結果が図7に示されている。
【0094】
図7の横軸は、目標位置からの距離をk−lで表現している。つまり、目標位置においてはk=lのためその距離が0(ゼロ)となり、目標位置からずれるに従ってk−lが大きくなるため、距離も大きくなる。生体内における実際の距離は、超音波の伝播速度をcとすると数27式により得られる。なお、図7の縦軸は、電力スペクトラムPの値(相対値)を示している。
【0095】
【数27】

【0096】
図7には、複数のドプラ周波数fについて、各ドプラ周波数fごとに計算結果が示されている。複数のドプラ周波数fに関する全体的な特性として、目標位置つまり横軸のk−l=0の位置と、目標位置から符号系列の1周期(N=200)に相当する距離だけ離れたk−l=200の位置において、ドプラ電力スペクトラムPの値が極大値となる。なお、k−l=200の位置は、符号系列(N=200)が1周して再び一致している位置である。
【0097】
そして、個々のドプラ周波数fについて見ると、ドプラ周波数fが小さいほど目標位置における極大傾向が強い。特に、ドプラ周波数f=0の場合、つまり固定目標の場合には、目標位置(1周期だけ離れた位置を含む)においてのみに鋭い選択特性となることは上述したとおりである。
【0098】
これに対し、ドプラ周波数fが大きくなるに従って、目標位置(1周期だけ離れた位置を含む)以外におけるドプラ電力スペクトラムPの値が大きくなり、目標位置における位置選択性が劣化する。
【0099】
そこで、図1の超音波診断装置では、不要波処理部40が目標位置における位置選択性の劣化を抑えて、目標位置の位置選択性を改善している。次に、位置選択性の改善について説明する。
【0100】
<位置選択性の改善について>
数25式に示されるドプラ電力スペクトラムPは、図1のミキサ30からLPF36,38を介して得られる数20式の復調信号を数値パターンの1周期に亘って、つまりNT時間に亘って加算処理して得られるものである。加算前の数20式は、fkl−fという周波数成分を含んでおり、数10式に示されるようにfklは周波数fの整数倍となる。
【0101】
一方、必要とされる信号はk=lの条件を満足する目標位置からのドプラ信号である。例えば図6に示した単純な加算処理により、復調信号を数値パターンの1周期に亘ってNサンプルずつ加算すると、加算結果はNT時間ごとに得られる。つまり、この場合には、必要とされるドプラ信号がNT時間ごとにサンプリングされることになる。そのサンプリング周波数はfとなる。したがって、この場合に測定可能なドプラ信号の最大周波数はサンプリング定理からf/2となる。
【0102】
このように、必要とされる目標位置に関するドプラ信号の最大周波数はf/2であるのに対して、図5に示したように、目標位置以外のドプラ信号は、周波数f,2f,3f・・・の近傍に現れる。つまり、最大周波数がf/2である目標位置のドプラ信号fd1に比べて、目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5は、比較的高い周波数帯域に現れる。
【0103】
そこで、図1の不要波処理部40は、復調信号に含まれる目標位置以外の比較的高い周波数成分を不要波とし、その不要波の少なくとも一部を復調信号から除去する。そのために、不要波処理部40は、復調信号のI信号成分とQ信号成分の各々に対応したLPFを備えている。そして、これらのLPFの各々が、例えば図5に示す特性70とされる。つまり、比較的低い周波数帯域にある目標位置のドプラ信号fd1を通過させ、比較的高い周波数帯域にある目標位置以外のドプラ信号fd2〜fd5が遮断される。例えば、各LPFの遮断周波数(カットオフ周波数)がf/2に設定される。
【0104】
図1の不要波処理部40が備えるLPFの具体例としては、例えば、次式の伝達特性を備えた次数iのバタワス型LPFなどがある。次式において、fは処理される信号の周波数であり、fは遮断周波数(カットオフ周波数)である。
【0105】
【数28】

【0106】
不要波処理部40において処理される復調信号はfkl−fという周波数成分を含んでいるため、数28式における周波数fが次式のようにfkl−fとされる。
【0107】
【数29】

【0108】
数29式に示す伝達特性のLPFを復調信号に作用させてから、その復調信号を1周期(Nサンプル)に亘って加算処理して得られる信号の電力スペクトラムは、数25式と数29式から次式のように計算することができる。なお、次式では、次数i=1である1次のバタワス型LPFについて、遮断周波数をf=f/2としている。
【0109】
【数30】

【0110】
そして、図7における具体例と同じ条件で、つまり、符号系列の長さをN=200、1符号長をT=1μs(マイクロ秒)、符号系列の繰り返し長をTN=200μs、符号系列の繰り返し周波数をf=5kHzとし、さらに、遮断周波数をf=f/2=2.5kHzとして1次(i=1)のバタワス型LPFにより、数30式から得られる計算結果の具体例を示すと図8のようになる。
【0111】
図8は、不要波を除去して得られるドプラ電力スペクトラムの具体例を示す図である。図8に示す計算結果は、数30式から得られるものであり、不要波処理部40(図1)において遮断周波数をf=f/2=2.5kHzとした1次(i=1)のバタワス型LPFを利用すること以外は、図7と同じ条件により得られている。なお、図7と同様に、図8の横軸は、目標位置からの距離をk−lで表現しており、図8の縦軸は、電力スペクトラムPの値(相対値)を示している。
【0112】
また、図8においても、複数のドプラ周波数fについて、各ドプラ周波数fごとに計算結果が示されている。複数のドプラ周波数fに関する全体的な特性として、目標位置つまり横軸のk−l=0の位置と、目標位置から符号系列の1周期(N=200)に相当する距離だけ離れたk−l=200の位置において、ドプラ電力スペクトラムPの値が極大値となる。なお、k−l=200の位置は、符号系列(N=200)が1周して再び一致している位置である。
【0113】
そして、図7の計算結果と比較すると、図8においては、目標位置(1周期だけ離れた位置を含む)以外におけるドプラ電力スペクトラムPの値が極めて小さくなっている。つまり目標位置に関する位置選択性が向上している。
【0114】
なお、数29式に示したバタワス型LPFの次数iを増加させることにより、つまり2次,3次等のバタワス型LPFを用いることにより、位置選択性をさらに改善することも可能である。もちろん、バタワス型LPFに代えて、他の公知のフィルタ、例えばチェビシェフ型、ガウシアン型(トムソン型とも呼ばれる)のLPFなどを利用してもよい。
【0115】
このように、図1の不要波処理部40においてLPFにより、復調信号に含まれる目標位置以外の比較的高い周波数成分を不要波とし、その不要波の少なくとも一部を復調信号から除去することにより、目標位置に関する位置選択性を向上させることができる。
【0116】
<最大ドプラ周波数の拡大について>
図1の超音波診断装置では、目標位置からのドプラ情報を選択的に抽出するために、図6にも示したように、数1式に示される数値パターン(正弦パターンと余弦パターン)の1周期に亘って、つまりパターン長Nに亘って復調信号が加算処理する。また、例えば図6に示した単純な加算処理により、復調信号を数値パターンの1周期に亘ってNサンプルずつ加算すると、加算結果はNT時間ごとに得られる。つまり、この場合には、必要とされるドプラ信号がNT時間ごとにサンプリングされることになる。そのサンプリング周波数はfとなる。したがって、この場合に測定可能なドプラ信号の最大周波数はサンプリング定理からf/2となる。これに対し、以下に説明する加算処理により、測定可能なドプラ信号の最大周波数(最大ドプラ周波数)を拡大することが可能になる。
【0117】
図1の超音波診断装置において、合成処理部24は、パターン長Nの位相パターン(図2参照)を繰り返すように連続波の送信信号を出力する。そして、受信ミキサ30からFFT処理部50までの受信処理において、パターン長Nをp個(pは自然数)ごとにqブロック(qは自然数)に分割して、各ブロックごとに部分的な復調信号を得ることによりパターン長Nに対応したqブロックに亘る部分的な復調信号が抽出される。こうして抽出されたqブロックに亘る部分的な復調信号が周波数解析処理される。
【0118】
図9は、最大ドプラ周波数を拡大する加算処理を説明するための図である。この加算処理は、ミキサ32から加算部46において処理される同相信号成分とミキサ34から加算部48において処理される直交信号成分の各々について実行される。
【0119】
図9には、パターン長Nの位相パターンを繰り返す連続波の送信信号を利用した場合に得られる復調信号が示されている。つまり、図9に示す復調信号列は、各ブロックごとに次々に得られる複数の部分的な復調信号を得られた順に並べた信号列である。
【0120】
復調信号列に含まれるSUM1,SUM2,・・・,SUMqは、pビット長ごとに部分的に加算処理された復調信号(部分的な加算復調信号)を示している。例えば、SUM1は、1番目のブロックに対応した部分的な復調信号の加算結果であり、SUM2は、2番目のブロックに対応した部分的な復調信号の加算結果である。このように、各ブロックごとに復調信号が加算処理される。この加算処理は、例えば加算部46,48において実行される。パターン長Nがq個のブロックで構成されるため、パターン長Nの期間内にq個の加算結果(SUM)が得られる。
【0121】
そして、復調信号列内でqブロックの範囲を1ブロックずつシフトさせつつ、段階的にパターン長Nに対応したqブロックに亘る部分的な復調信号が抽出される。つまり、図9に示す信号列Y1,Y2,Y3,・・・が次々に抽出されてメモリ等に記憶される。
【0122】
信号列Y1は、SUM1を先頭としてSUM1からSUMqまでのq個の加算結果で構成されている。そして、信号列Y1の次に抽出される信号列Y2は、SUM2を先頭としてSUM2からSUMqまでの加算結果の後にSUM1を加えたq個の加算結果で構成されている。さらに、信号列Y2の次に抽出される信号列Y3は、SUM3を先頭としてSUM3からSUMqまでの加算結果の後にSUM1とSUM2を加えたq個の加算結果で構成されている。このように、先頭ブロックが段階的にシフトされつつ、信号列Y1,Y2,Y3,・・・が次々に抽出される。
【0123】
なお、1ビットの時間長をTとすると、pビットの時間長はpTとなり、pビットごとに得られるSUM1,SUM2,・・・の時間間隔はpTとなる。そのため、次々に抽出される信号列Y1,Y2,Y3,・・・の時間間隔もpTとなる。抽出された信号列Y1,Y2,Y3,・・・は、メモリ等に記憶され、FFT処理部50(図1)において周波数解析処理される。
【0124】
信号列Y1,Y2,Y3,・・・は、FFT処理部50(図1)において、各信号列ごとにFFT演算される。その結果、各信号列ごとに復調信号が周波数スペクトラムに変換され、信号列Y1に対応した周波数スペクトラムSP1、信号列Y2に対応した周波数スペクトラムSP2、・・・が例えば時間間隔pTで次々に形成される。そして、周波数スペクトラムSP1〜SPqまでの結果が得られると、これらの周波数スペクトラムがFFT処理部50において加算処理される。
【0125】
複数の信号列Y1〜Yqに対応した複数の周波数スペクトラムSP1〜SPqを加算することは、これら複数の信号列に含まれる同時刻(互いに対応する時刻)における信号同士を加算することに相当する。例えば、複数の信号列Y1〜Yqの先頭ブロック同士が加算されることに相当する。つまり、位相パターンの1周期に亘って得られるSUM1からSUMqまでの部分的な復調信号が全て加算処理されることに等しい。なお、先頭ブロック以外においても、信号列Y1〜Yqまでの複数の加算結果(SUM)が加算され、SUM1からSUMqまでの部分的な復調信号が全て加算処理されることに等しい。つまり、復調信号が数値パターンの1周期に亘って全て加算処理される。
【0126】
周波数スペクトラムSP1〜SPqが得られると、時間間隔pT後に、次の周波数スペクトラムSP1を得ることができる。したがって、例えば、周波数スペクトラムSP1〜SPqまでの加算結果が得られてから、時間間隔pT後に、周波数スペクトラムSP2〜SPq,SP1までの加算結果を得ることができる。つまり、時間間隔pTで次々に周波数スペクトラムの加算結果を得ることができる。
【0127】
図6に示した単純な加算処理と比較すると、図6においては加算結果がNT時間ごとに得られる。つまり、この場合には、必要とされるドプラ信号がNT時間ごとにサンプリングされることになる。そのサンプリング周波数はf=1/NTとなる。したがって、この場合に測定可能なドプラ信号の最大周波数はサンプリング定理から1/2NTとなる。
【0128】
これに対し、図9を利用して説明した加算処理では、加算結果がpT時間ごとに得られる。N≧pであるためpTはNT以下となる。そして、この場合に測定可能なドプラ信号の最大周波数はサンプリング定理から1/2pTとなる。つまり、最大ドプラ周波数が、図6の場合の1/2NTから、図9の加算処理により1/2pTに拡大される。
【0129】
こうして、図1のFFT処理部50において、周波数スペクトラムSP1〜SPqの加算結果が得られると、ドプラ情報解析部52において、その加算結果の周波数スペクトラムからドプラ信号が抽出され、ドプラシフト量などに基づいて、目標位置に存在する血流の流速などが算出される。受信ミキサ30において直交検波をしているため、流速等の極性を判断することもできる。
【0130】
さらに、最大ドプラ周波数が拡大されることに伴い、図1の不要波処理部40が備える各LPFの遮断周波数(カットオフ周波数)が調整されてもよい。例えば、拡大された最大ドプラ周波数1/2pTに応じて、システム制御部60が不要波処理部40の各LPFの遮断周波数を1/2pTに設定して、各LPFの通過帯域を制御する。これにより、不要波処理部40の各LPFが適宜に調整されて目標位置に関する位置選択性を向上させつつ、図9に示した加算処理により最大ドプラ周波数を拡大することが可能になる。
【0131】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した本発明の好適な実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0132】
22A 余弦パターン処理部、22B 正弦パターン処理部、24 合成処理部、25 遅延回路、30 受信ミキサ、40 不要波処理部、46,48 加算部、50 FFT処理部、52 ドプラ情報解析部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な数値パターンに基づいて得られる周期性を備えた連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、
送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、
前記数値パターンに基づいて得られる参照信号を利用して、生体内の目標位置との間の相関関係を調整しつつ受信信号に対して復調処理を施すことにより復調信号を得る復調処理部と、
目標位置から得られる比較的低い周波数成分と目標位置以外から得られる比較的高い周波数成分とを含んだ前記復調信号に対してフィルタ処理を施すことにより、前記比較的高い周波数成分の少なくとも一部を除去する不要波処理部と、
フィルタ処理された復調信号に基づいて目標位置の生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記不要波処理部は、前記目標位置から得られる比較的低い周波数成分を通過させるローパスフィルタを備え、
前記生体内情報抽出部は、前記生体内情報として復調信号からドプラ信号を抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記ドプラ信号の測定可能な最大周波数に応じて前記ローパスフィルタの通過帯域が制御される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記数値パターンは、正弦関数から得られる正弦パターンと余弦関数から得られる余弦パターンであり、
前記送信信号処理部は、正弦パターンと余弦パターンを合成して得られる位相パターンに従って周期的に位相を変化させた連続波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断装置において、
前記正弦パターンは、N個(Nは自然数で偶数)の位相値に対応したN個の正弦関数値で構成され、
前記余弦パターンは、当該N個の位相値に対応したN個の余弦関数値で構成され、
前記連続波の送信信号は、当該N個の位相値に対応したパターン長Nの位相パターンを備える、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波診断装置において、
前記フィルタ処理された復調信号を周期方向に亘って加算処理するにあたり、パターン長Nをp個(pは自然数)ごとにqブロック(qは自然数)に分割し、各ブロックごとに復調信号を加算処理して部分的な加算復調信号を得る、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波診断装置において、
前記各ブロックごとに次々に得られる複数の部分的な加算復調信号を得られた順に並べた信号列内で、qブロックの範囲を1ブロックずつシフトさせつつ段階的に、パターン長Nを構成するqブロックに亘るq個の部分的な加算復調信号を抽出してそれらを加算処理することにより、パターン長Nに亘る復調信号の加算処理を実現する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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