説明

超音波診断装置

【課題】エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることができる超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】実施の形態の超音波診断装置においては、解析部が、超音波プローブによって被検体内に送信された超音波が反射された位置の組織性状を、当該超音波の受信信号に基づいて解析する。信号取得部が、解析部によって解析された位置ごとのノイズ信号の情報を取得する。ノイズ領域抽出部が、信号取得部によって取得されたノイズ信号の情報に基づいて、位置ごとに、解析部による解析に用いられた受信信号がノイズ信号であるか否かを判定する。表示制御部が、ノイズ領域抽出部によってノイズ信号であると判定された場合に、当該判定された位置をモニタにて表示させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断装置は、X線診断装置やX線コンピュータ断層撮影装置などの他の医用画像診断装置に比べ、簡便な操作性、被爆のおそれがない非侵襲性などの利点を備えた装置として、今日の医療において、心臓、肝臓、腎臓、乳腺など、様々な生体組織の検査や診断に利用されている。
【0003】
超音波診断装置は、一般的には超音波受信信号(エコー信号)振幅の大きさを輝度で表現することで、生体組織の形態を映像化している。ここで、エコー信号には様々な物理的情報が含まれることも種々の研究レポートにより報告されており、いくつかは臨床応用に向かっている。
【0004】
例えば、被検体に照射された超音波信号は、減衰しながら生体内を伝播するが、この減衰量が大きいと、途中で十分なエコー信号が受信できなくなる現象が起こる。このようなエコー信号の減衰の様子を観察することで生体組織の特徴を観察することがしばしば行われており、エコー信号の減衰量を定量的に解析して診断に用いるための様々な手法が知られている。しかしながら、上述した従来の技術では、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が低い領域も解析対象となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−238884号公報
【特許文献2】特開昭60−31740号公報
【特許文献3】特開昭63−130054号公報
【特許文献4】特開平7−51270号公報
【特許文献5】特開2010−233859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることができる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態の医用画像診断装置は、解析手段と、取得手段と、判定手段と、表示制御手段とを備える。解析手段は、超音波プローブによって被検体内に送信された超音波が反射された位置の組織性状を、当該超音波の受信信号に基づいて解析する。取得手段は、前記解析手段によって解析された位置ごとのノイズ信号の情報を取得する。判定手段は、前記取得手段によって取得されたノイズ信号の情報に基づいて、前記位置ごとに、前記解析手段による解析に用いられた受信信号がノイズ信号であるか否かを判定する。表示制御手段は、前記判定手段によってノイズ信号であると判定された場合に、当該判定された位置を表示部にて表示させるように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成を説明するための図である。
【図2】図2は、従来技術における課題を説明するための第1の図である。
【図3】図3は、従来技術における課題を説明するための第2の図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係る制御部の構成の一例を示す図である。
【図5】図5は、第1の実施形態に係る信号取得部による処理の一例を説明するための図である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係る解析部のよる処理の一例を説明するための図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係るノイズ領域抽出部による処理の一例を説明するための図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係る表示制御部による処理の一例を説明するための図である。
【図9】図9は、第1の実施形態に係る超音波診断装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、第2の実施形態に係るノイズ領域抽出部によって用いられるノイズ信号の一例を示す図である。
【図11】図11は、第2の実施形態に係る超音波診断装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成を説明するための図である。図1に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、超音波プローブ10と、入力装置20と、モニタ30と、装置本体100とを有する。
【0010】
超音波プローブ10は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体100が有する超音波送信ユニット110から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ10は、被検体Pからの反射波信号を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ10は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材などを有する。なお、超音波プローブ10は、装置本体100と着脱自在に接続される。
【0011】
超音波プローブ10から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ10が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁などの表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0012】
なお、本実施形態は、複数の圧電振動子が一列で配置された1次元超音波プローブである超音波プローブ10により、被検体Pを2次元でスキャンする場合であっても、1次元超音波プローブの複数の圧電振動子を機械的に揺動する超音波プローブ10や複数の圧電振動子が格子状に2次元で配置された2次元超音波プローブである超音波プローブ10により、被検体Pを3次元でスキャンする場合であっても、適用可能である。
【0013】
入力装置20は、装置本体100と接続され、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボールなどを有する。かかる入力装置20は、超音波診断装置1の操作者からの各種設定要求を受け付け、受け付けた各種設定要求を装置本体100に転送する。例えば、入力装置20は、関心領域(ROI:Region of Interest)の設定要求や、カラーゲインの設定要求を操作者から受け付ける。
【0014】
モニタ30は、超音波診断装置1の操作者が入力装置20を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像などを表示したりする。具体的には、モニタ30は、後述する画像合成部160から入力されるビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や血流情報を画像として表示する。
【0015】
装置本体100は、超音波プローブ10が受信した反射波信号に基づいて超音波画像を生成する。かかる装置本体100は、図1に例示するように、超音波送信ユニット110と、超音波受信ユニット120と、Bモード処理ユニット131と、ドプラ処理ユニット132と、画像生成ユニット140と、画像メモリ150と、画像合成部160と、制御部170と、記憶部180と、インタフェース部190とを有する。
【0016】
超音波送信ユニット110は、パルス発生器111、送信遅延部112、パルサ113を有し、超音波プローブ10に駆動信号を供給する。パルス発生器111は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部112は、超音波プローブ10から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器111が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサ113は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ10に駆動信号(駆動パルス)を印加する。なお、送信方向あるいは送信方向を決定する遅延時間は記憶部180に記憶されており、送信遅延部112は、記憶部180を参照して遅延時間を与える。
【0017】
超音波受信ユニット120は、プリアンプ121、図示しないA/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延部122、加算器123を有し、超音波プローブ10が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。プリアンプ121は、反射波信号をチャネル毎に増幅する。図示しないA/D変換器は、増幅された反射波信号をA/D変換する。受信遅延部122は、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器123は、受信遅延部122によって処理された反射波信号の加算処理を行なって反射波データを生成する。加算器123の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。なお、送信と同様、受信方向あるいは受信方向を決定する遅延時間は記憶部180に記憶されており、受信遅延部122は、記憶部180を参照して遅延時間を与える。
【0018】
このように、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120は、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120は、後述する制御部170の制御により、遅延情報、送信周波数、送信駆動電圧、開口素子数などを瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更においては、瞬時に値を切り替えることが可能であるリニアアンプ型の発振回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。また、超音波送信ユニット110が、1フレームもしくはレートごとに、異なる波形を送信して、超音波受信ユニット120がそれらを受信することも可能である。
【0019】
Bモード処理ユニット131は、超音波受信ユニット120からゲイン補正処理、A/D変換処理および加算処理が行なわれた処理済み反射波信号である反射波データを受信し、対数増幅、包絡線検波処理などを行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
【0020】
ドプラ処理ユニット132は、超音波受信ユニット120から受信した反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワーなどの移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。
【0021】
画像生成ユニット140は、Bモード処理ユニット131が生成したBモードデータや、ドプラ処理ユニット132が生成したドプラデータから、超音波画像を生成し、生成した超音波画像を後述する画像メモリ150又は記憶部180に格納する。
【0022】
具体的には、画像生成ユニット140は、Bモードデータから、信号強度が輝度の明るさで表現されるBモード画像を生成する。また、画像生成ユニット140は、血流情報から、血流の速度、分散、血流量等を示すパワー成分等を色によって識別可能に表示するカラードプラ画像を生成する。
【0023】
また、画像生成ユニット140は、超音波スキャンの走査線信号列を、テレビなどに代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示画像としての超音波画像(Bモード画像やカラードプラ画像)を生成する。
【0024】
画像メモリ150は、画像生成ユニット140によって生成された造影像や組織像などの画像データを記憶する。また、画像メモリ150は、後述する画像生成ユニット140による処理結果を記憶する。さらに、画像メモリ150は、超音波受信ユニット120を経た直後の出力信号(RF:Radio Frequency)や画像の輝度信号、種々の生データ、ネットワークを介して取得した画像データなどを必要に応じて記憶する。画像メモリ150が記憶する画像データのデータ形式は、後述する制御部170によりモニタ30に表示されるビデオフォーマット変換後のデータ形式であっても、Bモード処理ユニット131及びドプラ処理ユニット132によって生成されたRawデータである座標変換前のデータ形式でもよい。
【0025】
画像合成部160は、画像生成ユニット140が生成した超音波画像に、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマークなどを合成した合成画像を生成する。画像合成部160によって生成された合成画像は、モニタ30に表示される。
【0026】
制御部170は、情報処理装置(計算機)としての機能を実現する制御プロセッサ(CPU:Central Processing Unit)であり、超音波診断装置1における処理全体を制御する。具体的には、制御部170は、入力装置20を介して操作者から入力された各種指示や設定要求、記憶部180から読み込んだ各種プログラム及び各種設定情報に基づき、超音波送信ユニット110、超音波受信ユニット120、Bモード処理ユニット131、ドプラ処理ユニット132、画像生成ユニット140及び画像合成部160の処理を制御したり、画像メモリ150が記憶する超音波画像などをモニタ30にて表示するように制御したりする。
【0027】
記憶部180は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行うための各種プログラム181や、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)、診断プロトコルや各種設定情報等の各種データを記憶する。なお、各種プログラム181は、制御部170と同様の処理を実行する手順が記述されたプログラムを含む場合もある。
【0028】
また、記憶部180は、必要に応じて、画像メモリ150が記憶する超音波画像の保管などにも使用される。なお、記憶部180が記憶する各種データは、インタフェース部190を経由して、外部の周辺装置へ転送することができる。
【0029】
インタフェース部190は、入力装置20、操作パネル、新たな外部記憶装置(図示を省略)、ネットワークに関するインタフェースである。超音波診断装置1によって得られた超音波画像などのデータは、インタフェース部190によって、ネットワークを介して他の装置へ転送することができる。
【0030】
なお、装置本体100に内蔵される超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120などは、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたプログラムにより実現される場合もある。
【0031】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、以下、詳細に説明する制御部170の処理により、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることができるように構成されている。
【0032】
ここで、まず、従来技術において、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が低い領域も解析対象となる場合について説明する。例えば、従来技術においては、エコー信号の減衰量を定量的に解析して診断に用いるいくつかの手法として、以下のようなものが知られている。その一例としては、中心周波数の異なる複数の超音波パルスを送信して、得られた複数の受信信号の強度が深さ方向にどの程度変化するかを比較することによって、被検体に固有の減衰量を推定するという手法が知られている。また、生体の超音波減衰量が周波数によって異なるという特徴を利用して、複数の周波数信号の強度の変化を比較することによって対象としている組織に固有の減衰量を推定するという手法も知られている。
【0033】
また、上述したように周波数の異なる複数の超音波パルスを用いずに、広帯域の超音波パルスを1方向につき1回送受信することで、上述した手法と同様の効果を得る手法も知られている。さらに、上述した手法において、低周波数領域の信号が組織内を伝播する際に発生する高周波成分の信号に起因する誤差をなくすために、1方向に波形の正負を反転させた2つの超音波パルスを送信して、得られた受信信号の差分演算を行うことによって、伝搬中に発生した高周波成分を除去する手法も提案されている。
【0034】
そして、上述した種々の手法により得られた複数の周波数成分の信号を用いて、減衰量の大きさを反映したカラー表示を行うことも提案されている。例えば、複数の周波数成分それぞれに異なった色を割り当てて重畳表示する手法が提案されている。この手法を用いると、観察者は、深さ方向の色相変化の大きさを観察することで、視覚的に減衰量の大きさを精度よく把握することができる。また、異なる2つの周波成分の信号強度差に応じてカラーマッピングしたり、2つの周波数成分の信号強度差を深さ方向に微分することで、断面内の各点における減衰定数を算出し、算出した減衰定数の大きさをカラー化したりする手法も知られている。例えば、上述した手法を用いて肝臓からの受信信号の減衰量を観察することで、脂肪肝や、肝硬変などを推測することが可能となる。
【0035】
ここで、上述した手法は、いずれも受信信号の信号強度を計算することにより減衰量を推定しており、精度の高い推定を行うためには、信号強度を正確に計測することが不可欠である。しかしながら、超音波信号の減衰は周波数ごとに異なり、特に、高周波成分ほど減衰の程度が著しい。従って、観察対象の深部領域では、S/N(Signal-Noise ratio)が小さくなり、計測された信号強度の信頼性が低くなる。
【0036】
具体的には、S/Nが小さくなると、真の信号強度の大きさと、それに加算されるノイズの信号強度の大きさとが同等になるため、計測された信号の振幅又はBモード画像の輝度は、過大評価されたものになってしまう。例えば、低周波信号の信号強度と高周波信号の信号強度とのlog圧縮後の差分の深さ方向の変化は、観察対象の組織における減衰定数(dB/cm/MHz)に比例して増大するため、差分の深さ方向の変化から観察対象の組織の減衰定数を推定することが可能である。しかしながら、観察対象の深部領域では、上述したように減衰の程度が著しい高周波信号の信号強度が真の信号強度よりも高いものとして計測されるため、低周波信号の信号強度との差分が小さくなり、その結果、減衰定数が過小評価されることとなる。
【0037】
従って、実際には同一の減衰定数を有する対象物であっても、S/Nが異なると減衰定数の推定結果が異なってしまう。例えば、異なるゲインで同一組織に対して走査し、それぞれで得られた信号から減衰定数を推定すると、画像のゲインが全体的に高い場合には、観察対象の深部領域まで信号を得ることができ、S/Nが高くなる。しかしながら、画像のゲインが低い場合には、画像のゲインが高い場合と比べ、浅い領域までしか信号が得られず、深部領域でのS/Nが低くなる。その結果、減衰定数の推定結果が異なってしまう。
【0038】
図2は、従来技術における課題を説明するための第1の図である。図2においては、「0.5dB/cm/MHz」の減衰定数を有するファントムを被検体として、ゲインを変化させた場合のBモード画像と減衰画像との重畳画像を示す。具体的には、ゲインを「80」とした場合の重畳画像と、ゲインを「100」とした場合の重畳画像とを示す。ここで、Bモード画像は、中心周波数が「4MHz」の超音波信号を送受信して生成された画像である。また、減衰画像とは、中心周波数が「2MHz」のBモード画像の輝度と、中心周波数が「4MHz」のBモード画像の輝度とのピクセルごとの比をカラーマップで示した画像である。
【0039】
図2に示すように、ゲインを「80」とした場合(A)と、ゲインを「100」とした場合(B)とでは、減衰画像の色の分布が異なっている。すなわち、ゲインを変化させることで、計測結果が異なることを示す。図3は、従来技術における課題を説明するための第2の図である。図3においては、図2の(A)及び(B)に示す減衰画像の中央付近における値を深さ方向にプロットした図を示す。図3に示すように、ゲインが「80」の場合と、ゲインが「100」の場合とでは、深さ「3cm」程度から深くなるに従って、値の差が大きくなる。そして、「3cm」から「9cm」までの値を微分することで推定される減衰定数は、ゲインが「100」の場合に、「0.49(dB/cm/MHz)」であるのに対して、ゲインが「80」の場合には、「0.42(dB/cm/MHz)」であった。すなわち、ゲインが低い場合には、実際の値よりも減衰定数が過小評価されることは明らかである。
【0040】
従って、上述したように、エコー信号の減衰量を定量的に解析して診断に用いる場合には、S/Nが低い領域は、減衰量を解析する対象領域から除外するべきであるが、従来技術では、どの領域を除外すべきであるのか判定することができず、信頼性が低い領域も解析対象となる場合があった。
【0041】
そこで、本願発明では、以下に詳細に記載する制御部170の制御により、S/Nが低い領域を抽出して、その領域を観察者に対して表示することにより、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることを可能にする。
【0042】
図4は、第1の実施形態に係る制御部170の構成の一例を示す図である。図4に示すように、制御部170は、信号取得部171と、解析部172と、ノイズ領域抽出部173と、表示制御部174とを有する。
【0043】
信号取得部171は、被検体内の位置に対して周波数の異なる複数の超音波信号を送信させることで、複数の受信信号を取得する。具体的には、信号取得部171は、超音波送信ユニット110を制御して、超音波プローブ10によって周波数の異なる複数の超音波信号を送信させる。そして、信号取得部171は、超音波受信ユニット120を制御して、周波数ごとの受信信号を受信させる。さらに、信号取得部171は、周波数ごとのBモードデータをBモード処理ユニット131に生成させる。
【0044】
また、信号取得部171は、周波数の異なる複数の超音波信号を送信させ、複数の受信信号が取得された位置ごとのノイズ信号の情報を取得する。具体的には、信号取得部171は、超音波プローブ10から送信される超音波信号を停止させた状態で、被検体内の各位置から受信された信号をノイズ信号の情報として取得する。より具体的には、信号取得部171は、超音波プローブ10から送信される超音波を停止させた状態で、超音波受信ユニットにより受信された受信信号のBモードデータをBモード処理ユニット131に生成させる。なお、周波数の異なる複数の超音波信号の送受信及び送信信号を停止させた状態での受信信号の受信は、フレームごとに実行させる場合であってもよいし、或いは、ラスターごとに、高周波超音波の送受信、低周波超音波の送受信、送信信号を停止させた状態での受信信号の受信を実行させる場合であってもよい。
【0045】
図5は、第1の実施形態に係る信号取得部171による処理の一例を説明するための図である。なお、図5においては、説明のためにBモード画像を示すが、実際には、信号取得部171による処理は、装置内で実行されるものであり、観察者に対して表示されるものではない。
【0046】
例えば、信号取得部171は、図5に示すように、2MHz及び4MHzの超音波信号をそれぞれ送受信させることで、それぞれのBモード画像(2MHz画像及び4MHz画像)を生成させる。さらに、信号取得部171は、図5に示すように、4MHzの超音波信号を送受信させた場合と同一の条件で受信処理のみを実行させ、受信された信号を用いて生成されたBモード画像である「4MHz送受信条件に対するノイズ画像」を生成させる。ここで、4MHzの超音波信号を送受信させた場合と同一の受信条件としては、例えば、受信した信号に対するフィルタリングにおいて、4MHzの超音波信号を送受信させた場合と同一のフィルタリングを行うことや、ゲインを同一にすることなどが挙げられる。なお、信号取得部171の制御により生成されたBモード画像は、画像メモリ26に記憶される。
【0047】
図4に戻って、解析部172は、超音波プローブ10によって被検体内に送信された超音波が反射された位置の組織性状を、当該超音波の受信信号に基づいて解析する。具体的には、解析部172は、被検体内の位置に対して周波数の異なる複数の超音波信号を送信することによって得られた複数の受信信号を用いて、周波数の違いに起因する受信信号の減衰量の差を反映した信号を生成する。より具体的には、解析部172は、信号取得部171によって生成され、画像メモリ26に記憶された異なる周波数のBモード画像におけるピクセルごとの輝度の比をカラーマップにした減衰画像を生成する。なお、解析部172によって生成された減衰画像は、画像メモリ26によって記憶される。
【0048】
図6は、第1の実施形態に係る解析部172のよる処理の一例を説明するための図である。図6においては、図5に示す「2MHz画像」と「4MHz画像」とを用いて減衰画像を取得する場合について示す。なお、図6においては、説明のためにBモード画像を示すが、実際には、解析部172による処理は、装置内で実行されるものであり、観察者に対して表示されるものではない。
【0049】
例えば、解析部172は、画像メモリ26から「2MHz画像」及び「4MHz画像」を読み出し、図6に示すように、「2MHz画像」の輝度と「4MHz画像」の輝度の比をピクセルごとに算出して、カラーマップにした減衰画像生成する。そして、解析部172は、生成した減衰画像を「4MHz画像」に重畳させる。
【0050】
図4に戻って、ノイズ領域抽出部173は、信号取得部171によって取得されたノイズ信号の情報に基づいて、位置ごとに、解析部172による解析に用いられた受信信号がノイズ信号であるか否かを判定する。具体的には、ノイズ領域抽出部173は、ノイズ画像と、ノイズ画像に対応する周波数の画像とを画像メモリ26から読み出し、ノイズ画像における輝度と、ノイズ画像に対応する周波数の画像の輝度とをピクセルごとに比較し、輝度が同程度である場合に、ノイズ画像に対応する周波数のBモード画像の輝度がノイズに起因する輝度であると判定して、当該ピクセルを抽出する。なお、ノイズ領域抽出部173によって抽出されたピクセルの情報は、画像メモリ26によって記憶される。
【0051】
図7は、第1の実施形態に係るノイズ領域抽出部173による処理の一例を説明するための図である。図7においては、図5に示す「4MHz画像」と「4MHz送受信条件に対するノイズ画像」とを用いる場合について示す。なお、図7においては、説明のためにBモード画像を示すが、実際には、ノイズ領域抽出部173による処理は、装置内で実行されるものであり、観察者に対して表示されるものではない。
【0052】
例えば、ノイズ領域抽出部173は、図7に示すように、「4MHz画像」の輝度と、「4MHz送受信条件に対するノイズ画像」の輝度とをピクセルごとに比較して、輝度が同一であるピクセルを抽出する。そして、ノイズ領域抽出部173は、図7に示すように、すべてのピクセルに対して比較処理を行い、同輝度であるすべてのピクセルを「4MHz画像内の低S/N領域」として抽出する。
【0053】
図4に戻って、表示制御部174は、ノイズ領域抽出部173によってノイズ信号であると判定された場合に、当該判定された位置を表示部にて表示させるように制御する。具体的には、表示制御部174は、画像メモリによって記憶された減衰画像及び低S/N領域を示すピクセルの情報を読み出し、減衰画像と低S/N領域を示すピクセルの情報とをモニタ30にて表示させる。
【0054】
図8は、第1の実施形態に係る表示制御部174による処理の一例を説明するための図である。図8においては、図6の(C)に示す「4MHz画像と減衰画像との重畳画像」と、図7の(C)に示す「4MHz画像内の低S/N領域」とを用いる場合について示す。
【0055】
例えば、表示制御部174は、図8の(A)及び(B)に示すように、解析部172によって生成され、画像メモリ26に記憶された「4MHz画像と減衰画像との重畳画像」と、ノイズ領域抽出部173によって抽出され、画像メモリ26に記憶された「4MHz画像内の低S/N領域」を読み出す。そして、表示制御部174は、図8の(C)に示すように、「4MHz画像と減衰画像との重畳画像」に「4MHz画像内の低S/N領域」を重畳させた重畳画像をモニタ30に表示させる。
【0056】
例えば、観察者は、図8の(C)に示す重畳画像を観察する場合に、「4MHz画像内の低S/N領域」が重畳された「減衰画像」の領域は信頼性が低いと判断することが可能である。一例を挙げると、「減衰画像」において同程度の深度で色が異なる領域であっても、「低S/N領域」が重畳されている場合には、観察者は、信頼性が低いと判断して、診断に用いないようにすることが可能である。
【0057】
次に、図9を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の処理について説明する。図9は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図9に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1においては、操作者から開始指示を受付けると(ステップS101肯定)、信号取得部171は、送信信号がOFFの状態で、超音波受信ユニット120にノイズ信号を受信させる(ステップS102)。
【0058】
さらに、信号取得部171は、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120に、異なる周波数のうち1番目の周波数で超音波信号を送受信させる(ステップS103)。そして、信号取得部171は、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120に、異なる周波数のうち2番目の周波数で超音波信号を送受信させる(ステップS104)。
【0059】
その後、解析部172は、1番目の信号と2番目の信号との差(比)から減衰画像を生成する。(ステップS105)。そして、ノイズ領域抽出部173は、ノイズ信号とノイズ信号に対応する超音波信号とから低S/N領域を抽出する(ステップS106)。
【0060】
続いて、表示制御部174は、解析部172によって生成された減衰画像上に、ノイズ領域抽出部173によって抽出された低S/N領域を重畳させた重畳画像をモニタ30に表示させ(ステップS107)、処理を終了する。
【0061】
なお、開始指示を受付けるまで、超音波診断装置1は、待機状態である(ステップS101否定)。また、上述した手順では、ノイズ信号を取得した後に、異なる周波数の超音波信号を送受信する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、異なる周波数の超音波信号を送受信した後に、ノイズ信号を取得する場合であってもよい。また、図9においては、減衰画像を生成した後に低S/N領域を抽出する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、低S/N領域を抽出した後に減衰画像を生成する場合であってもよく、或いは、減衰画像の生成と低S/N領域の抽出とを同時に平行して実行する場合であってもよい。
【0062】
上述したように、第1の実施形態によれば、解析部172が、超音波プローブ10によって被検体内に送信された超音波が反射された位置の組織性状を、当該超音波の受信信号に基づいて解析する。信号取得部171が、解析部172によって解析された位置ごとのノイズ信号の情報を取得する。ノイズ領域抽出部173が、信号取得部171によって取得されたノイズ信号の情報に基づいて、位置ごとに、解析部172による解析に用いられた受信信号がノイズ信号であるか否かを判定する。表示制御部174が、ノイズ領域抽出部173によってノイズ信号であると判定された場合に、当該判定された位置をモニタ30にて表示させるように制御する。従って、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、観察者に対してノイズ領域を提示することができ、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることを可能にする。
【0063】
また、第1の実施形態によれば、信号取得部171は、超音波プローブ10から送信される超音波を停止させた状態で、被検体内の各位置からの受信信号をノイズ信号の情報として取得する。従って、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、現に行っている被検体のノイズを簡易に、かつ、精度よく取得することを可能にする。
【0064】
また、第1の実施形態によれば、解析部172は、被検体内の位置に対して周波数の異なる複数の超音波を送信することによって得られた複数の受信信号を用いて、周波数の違いに起因する受信信号の減衰量の差を反映した減衰画像を生成する。従って、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、減衰画像に断面の組織に固有な周波数依存性減衰を反映させることができ、精度の高い解析を行うことを可能にする。
【0065】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、リアルタイムにノイズ信号を取得する場合について説明した。第2の実施形態では、予めノイズ信号の情報を取得しておき、低S/N領域を抽出する際に、ノイズ信号の情報を読み出す場合について説明する。なお、第2の実施形態では、図4に示す第1の実施形態に係る制御部170と同一の構成を有する。第2の実施形態においては、低S/N領域を抽出する際に、ノイズ信号の情報を読み出す制御部を、信号取得部171aとして説明する。すなわち、信号取得部171aは、図4に示す信号取得部171に新たな処理が追加されたものである。
【0066】
信号取得部171aは、超音波プローブ10における超音波の送受信条件ごとに予め取得されたノイズ信号の情報を記憶する記憶部180から、現に行われる超音波の送受信条件に対応するノイズ信号の情報を取得する。具体的には、信号取得部171aは、低S/N領域が抽出される際に、超音波プローブ10から送受信された周波数が異なる複数の超音波信号のうち、高周波となる超音波信号の送受信条件に対応付けられて記憶されたノイズ信号の情報を取得する。
【0067】
図10は、第2の実施形態に係る信号取得部171aによって取得されるノイズ信号の一例を示す図である。なお、図10に示す情報は、操作者によって予め取得され、記憶部180に記憶される。例えば、第2の実施形態に係る信号取得部171aによって取得されるノイズ信号は、図10に示すように、「周波数」、「送信フォーカス」、「ゲイン」などの送受信条件ごとに対応付けられて記憶される。記憶部180によって記憶されるノイズ信号としては、例えば、送受信条件ごとのノイズ画像である。
【0068】
信号取得部171aは、超音波プローブ10から送受信された周波数が異なる複数の超音波信号のうち、高周波となる超音波信号の送受信条件を取得して、取得した送受信条件と同一の送受信条件に対応付けられたノイズ信号を記憶部180から読み出す。具体的には、信号取得部171aは、取得した送受信条件と同一の送受信条件に対応付けられたノイズ画像を読み出す。そして、ノイズ領域抽出部173は、低S/N領域を抽出する際に、信号取得部171aによって読み出されたノイズ画像を用いる。
【0069】
次に、図11を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置1の処理について説明する。図11は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図11に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置1においては、操作者から開始指示を受付けると(ステップS201肯定)、信号取得部171aは、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120に、異なる周波数のうち1番目の周波数で超音波信号を送受信させる(ステップS202)。
【0070】
そして、信号取得部171aは、超音波送信ユニット110及び超音波受信ユニット120に、異なる周波数のうち2番目の周波数で超音波信号を送受信させる(ステップS203)。さらに、信号取得部171aは、送受信条件に対応したノイズデータ(ノイズ画像)を記憶部180から読み出す(ステップS204)。
【0071】
その後、解析部172は、1番目の信号と2番目の信号との差(比)から減衰画像を生成する。(ステップS205)。そして、ノイズ領域抽出部173は、信号取得部171aによって読み出されたノイズ信号とノイズ信号に対応する超音波信号とから低S/N領域を抽出する(ステップS206)。
【0072】
続いて、表示制御部174は、解析部172によって生成された減衰画像上に、ノイズ領域抽出部173によって抽出された低S/N領域を重畳させた重畳画像をモニタ30に表示させ(ステップS207)、処理を終了する。
【0073】
なお、開始指示を受付けるまで、超音波診断装置1は、待機状態である(ステップS201否定)。また、上述した手順では、異なる周波数の超音波信号を送受信した後に、ノイズ信号を読み出す場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、ノイズ信号を読み出した後に、異なる周波数の超音波信号を送受信する場合であってもよい。また、図11においては、減衰画像を生成した後に低S/N領域を抽出する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、低S/N領域を抽出した後に減衰画像を生成する場合であってもよく、或いは、減衰画像の生成と低S/N領域の抽出とを同時に平行して実行する場合であってもよい。
【0074】
上述したように、第1の実施形態によれば、信号取得部171aは、超音波プローブ10から送受信された周波数が異なる複数の超音波信号のうち、高周波となる超音波信号の送受信条件を取得して、取得した送受信条件と同一の送受信条件に対応付けられたノイズ信号を記憶部180から読み出す。従って、第2の実施形態に係る超音波診断装置1は、解析を行う際の処理負荷を低減させることを可能にする。
【0075】
(第3の実施形態)
さて、これまで第1及び2の実施形態について説明したが、上述した第1及び第2の実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0076】
(1)変形例1
上述した第1及び第2の実施形態では、超音波信号の減衰量による組織性状の解析に本願発明を用いる場合について説明した。変形例1では、超音波信号の信号強度の確率密度分布による組織性状の解析に本願発明を用いる場合について説明する。具体的には、診断領域から受信された受信信号の信号強度から確率密度分布曲線を算出し、診断部位が健常な場合の理論値の確率密度分布曲線(例えば、レイリー分布など)と比較することで、診断領域に含まれる異常な構造物の含有量を定量する手法に本願発明を適用する場合について説明する。
【0077】
ここで、変形例1では、図4に示す第1の実施形態に係る制御部170と同一の構成を有する。変形例1においては、超音波信号の信号強度の確率密度分布により組織の性状を解析する制御部を、解析部172aとして説明する。すなわち、解析部172aは、図4に示す解析部172に新たな処理が追加されたものである。
【0078】
解析部172aは、被検体における診断部位から受信された受信信号の信号強度の確率密度分布を算出し、算出した確率密度分布と診断部位が健常である場合の受信信号の信号強度から算出された理論値の確率密度分布との差を算出する。具体的には、解析部172aは、診断領域から受信された受信信号の信号強度を取得し、診断領域における信号強度の分散値及び平均値から確率密度分布を算出する。ここで、操作者に対して、低S/N領域を表示することで、操作者は、高S/Nの領域から診断領域を抽出することができる。すなわち、解析部172aによって算出される確率密度分布は信頼性の高いものとなる。
【0079】
そして、解析部172aは、診断領域の確率密度分布曲線と、理論値の確率密度分布曲線とを算出する。表示制御部174は、解析部172aによって算出された確率密度分布曲線をモニタ30に表示させる。操作者は、モニタ30に表示された2つの確率密度分布曲線間の逸脱度合いから診断領域に含まれる異常な構造物の量を推定することができる。例えば、肝硬変は進行度合いに伴って、解剖学的に結節の数や大きさが共に増大する。上述した変形例1の手法を用いることより、このような結節の数や大きさの増大に関して、信頼性の高い診断を行うことが可能になる。
【0080】
(2)変形例2
上述した変形例1では、超音波信号の信号強度の確率密度分布による組織性状の解析に本願発明を用いる場合について説明した。変形例2では、組織ドプラやエラストグラフィによる組織性状の解析に本願発明を適用する場合について説明する。
【0081】
ここで、変形例2では、図4に示す第1の実施形態に係る制御部170と同一の構成を有する。変形例2においては、組織ドプラやエラストグラフィにより組織性状を解析する制御部を、解析部172bとして説明する。すなわち、解析部172bは、図4に示す解析部172に新たな処理が追加されたものである。
【0082】
解析部172bは、複数フレームのドプラデータを用いて前記被検体内の局所における移動量、速度又は当該局所の固さを解析する。具体的には、解析部172bは、ドプラ処理ユニット132によって生成されたドプラデータを用いて被検体内の局所における移動量、速度又は当該局所の固さを解析する。例えば、解析部172bは、ドプラデータに含まれる速度成分、分散成分、パワー成分を用いてピクセルごとの所定の位相における座標を算出し、算出したピクセルごとの各位相における座標から組織の歪みを算出する。
【0083】
解析部172bは、算出した歪みを組織の硬さ、或いは、弾性率としたカラーマップを生成させる。表示制御部174は、解析部172bによって生成されたカラーマップをモニタ30にて表示させる。ここで、低S/N領域を異なる色で表示させることで、操作者は、信頼性の高い領域のみを対象として解析を行うことが可能である。
【0084】
(3)ノイズ画像
上述した第1及び第2の実施形態では、高周波の超音波信号に対応するノイズ画像を取得する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、高周波の超音波信号に対応するノイズ画像に加えて、低周波の超音波信号に対応するノイズ画像を取得する場合であってもよい。
【0085】
(4)利用する信号
上述した第1及び第2の実施形態では、Bモード処理ユニットによって生成されたBモードデータを用いてBモード画像を生成し、生成したBモード画像を用いて解析する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、超音波受信ユニットによって生成された生データ、或いは、Bモードデータを用いる場合であってもよい。
【0086】
以上説明したとおり、第1の実施形態、第2の実施形態及び第3の実施形態によれば、本実施形態の超音波診断装置は、エコー信号に含まれる物理的情報を利用した解析において、信頼性が高い領域についてのみ解析対象とすることを可能にする。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
1 超音波診断装置
100 装置本体
110 超音波送信ユニット
120 超音波受信ユニット
131 Bモード処理ユニット
132 ドプラ処理ユニット
140 画像生成ユニット
150 画像メモリ
160 画像合成部
170 制御部
171、171a 信号取得部
172,172a、172b 解析部
173 ノイズ領域抽出部
174 表示制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブによって被検体内に送信された超音波が反射された位置の組織性状を、当該超音波の受信信号に基づいて解析する解析手段と、
前記解析手段によって解析された位置ごとのノイズ信号の情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得されたノイズ信号の情報に基づいて、前記位置ごとに、前記解析手段による解析に用いられた受信信号がノイズ信号であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によってノイズ信号であると判定された場合に、当該判定された位置を表示部にて表示させるように制御する表示制御手段と、
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記取得手段は、前記超音波プローブからの超音波の送信を停止させた状態で、前記被検体内の各位置からの受信信号を前記ノイズ信号の情報として取得することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記取得手段は、前記超音波プローブにおける超音波の送受信条件ごとに予め取得されたノイズ信号の情報を記憶する記憶部から、現に行われる超音波の送受信条件に対応するノイズ信号の情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記解析手段は、前記被検体内の位置に対して周波数の異なる複数の超音波を送信することによって得られた複数の受信信号を用いて、周波数の違いに起因する受信信号の減衰量の差を反映した信号を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記解析手段は、前記被検体における診断部位から受信された受信信号の信号強度の確率密度分布を算出し、算出した確率密度分布と前記診断部位が健常である場合の受信信号の信号強度から算出された理論値の確率密度分布との差を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記解析手段は、複数フレームのドプラデータを用いて前記被検体内の局所における移動量、速度又は当該局所の固さを解析することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−5876(P2013−5876A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139654(P2011−139654)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】