説明

超音波調理装置

【課題】使用する鍋や容器を限定せずに、超音波振動による調理を行い、煮込み物などの時間のかかる調理メニューを短時間で軟らかく味の染み込んだ仕上がりにすることを可能とする。
【解決手段】密着性を有する超音波伝播手段9を超音波振動子7の真上にあたる加熱室底面6上に置き、食材を入れた鍋2を超音波伝播手段9の上に載せる構成とする。これによって超音波伝播手段9が加熱室底面と鍋底の両方に密着する。よって、制御手段10により超音波振動子7へ電圧を印加すると、超音波の振動を鍋に伝播させることができ、専用の鍋でなくとも任意の鍋で超音波調理ができる。また、マイクロ波加熱を加えれば超音波によるキャビテーションの作用により、食品が短時間で軟化かつ調味液が染み込んだ状態に仕上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して加熱する超音波調理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を利用した調理器として、超音波発信器や超音波振動子を容器あるいは鍋自体に装着して一体化したものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図5は特許文献1に記載された従来の電子レンジを示す。電子レンジ本体20にはマグネトロン21が備えられ、加熱室22内にマイクロ波が発振される。鍋23は円筒形でその底面に超音波振動子24が取り付けられている。超音波振動子24が装着されている鍋下面は凸部25が形成されており、その凸部25には電極26が設けられている。
【0004】
一方、加熱室の底面27の所定位置には凹部28が形成されており、その凹部28にも電極26が設けられている。この加熱室の底面27の凹部28に鍋23の下面の凸部25を嵌合すると、それぞれに設けられた電極が接続し、鍋に取り付けられている超音波振動子24に高周波電気信号が供給される。そして加熱室22に設置された鍋23内の被加熱物に超音波振動が印加される。
【0005】
このように、超音波振動子が備えられた専用の鍋を加熱室内に着脱自在にし、鍋を加熱室内の所定位置に載置したとき、付加的な操作を行わなくても、超音波振動子に加熱室側から高周波電気信号を供給する回路を繋ぎ、鍋内の被加熱物に超音波振動を印加しながらマイクロ波加熱ができるというものである。
【特許文献1】特開平9−50884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の超音波を利用した電子レンジのように、超音波発信器や超音波振動子と鍋を一体化した場合、専用の鍋しか利用できず、汎用性に欠けるという問題点があった。また、超音波振動子と電気的接続のために加熱室底面の所定位置が凹部になるなどして加熱室底面が平坦面でなくなり、マイクロ波加熱のみを行う場合に、被加熱物の大きさによっては、被加熱物が傾いて安定せずに載置し難いという不都合も生じた。特に、加熱室底面に設けられた凹部の面積よりも大きな食品では、加熱室底面と被加熱物の間に空間が部分的に生じ、本来のマイクロ波加熱による加熱ムラを助長させる恐れがあった。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、使用する容器や鍋を限定することなく、任意の容器、鍋を用いて超音波振動を印加しながら他の加熱手段と併用できる加熱調理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明の超音波調理装置は、食品を収納する加熱室と、前記加熱室壁面外側に配設して前記食品へ超音波振動を印加する超音波発生手段と、前記食品と前記超音波発生手段との間に着脱自在に設けた超音波伝播手段とからなる構成としてある。
【0009】
そして超音波発振機構の真上に超音波伝播手段を置くことによって、その超音波伝播手段上面に載せた鍋や容器内の被加熱物に超音波振動エネルギーを与えることができるので
、専用の鍋や容器は不要となり、任意の鍋・容器で超音波による調理が可能となる。また、超音波伝播手段を取り外した時には加熱室底面は平坦面にもどすことができるので、マイクロ波加熱などの単独の使用時には、食品が載置しやすなど使い勝手も良いものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超音波調理装置は超音波伝播手段を用いることで、使用する鍋などが限定されることなく、任意の鍋・容器で超音波の振動エネルギーを被加熱物に伝播しながら他の加熱手段と併用した超音波加熱調理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、食品を収納する加熱室と、前記加熱室壁面外側に設けた超音波発生手段と、前記食品と前記超音波発生手段との間に設けた着脱自在の超音波伝播手段を備え、前記超音波伝播手段が前記超音波発生手段の超音波振動を食品に伝播することにより、専用の鍋を使用せずとも超音波調理が可能となる。
【0012】
第2の発明は、食品を収納する加熱室と、前記加熱室壁面外側に設けた超音波発生手段と、前記食品と前記超音波発生手段との間に設けた着脱自在の超音波伝播手段と、前記食品を加熱する加熱手段と、制御手段を備え、前記制御手段が調理メニューによって超音波発生と食品加熱の双方の動作タイミングを制御することにより、食品の軟化や味の浸透を促進させることができる。
【0013】
第3の発明は、加熱手段として加熱室内にマイクロ波を発振する高周波発生手段あるいは輻射あるいは対流による加熱を行う発熱手段を備え、前記高周波発生手段と前記発熱手段を単独あるいは複合することによって、超音波による調理作用に加えて調理メニューの種類に適した加熱を行うことができる。
【0014】
第4の発明は、前記超音波伝播手段は前記超音波発生手段が設けられている前記加熱室壁面と、前記食品の両方に密着して接触する構成とし、前記超音波発生手段からの超音波振動が超音波伝播手段に伝播することにより、その上面に密着している被加熱物に確実に超音波振動が伝播されることになる。
【0015】
第5の発明は、前記超音波伝播手段の少なくとも食品と接触する面を可撓性フィルムで構成し、その中空外装内に流動性を有する液状物質を充填する構成にし、前記超音波伝播手段の液状物質が被加熱物の表面形状に応じて流動して変形するので、平面的でない凹凸のある被加熱物の表面に対しても密着性を有して超音波振動を確実に食品へ伝播することができる。
【0016】
第6の発明は、少なくとも被加熱物と接触する面を可撓性フィルムで構成した中空外装内に、流動性を有する液状物質を充填した一対の前記超音波伝播手段の前記可撓性フィルム面に前記被加熱物を挟むように載置して前記超音波手段の振動を伝播させる構成とし、非平面的な被加熱物の表面全体が液状物質で密着して覆われた状態になり、液体を用いずとも液体中にある状態と同等になり、超音波振動が伝播しやすくなる。
【0017】
第7の発明は、前記超音波発生手段を加熱室壁面の外側に複数個以上備え、加熱室底面から複数の超音波振動が伝播されることにより、一つの超音波発生手段で生じる伝播ムラを改善することができる。
【0018】
第8の発明は、少なくとも一つの前記超音波発生手段は複数以上の異なる周波数を発振する構成とし、一つの超音波発生手段からも何種類かの周波数が一定時間間隔で発振する
ことにより、一周波数で生じてしまう伝播のムラを他の周波数で補うことができ、さらに複数の超音波発生手段で異なる周波数を発振することにより、さらに被加熱物への超音波振動の伝播ムラを解消することができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す超音波調理装置の構成概略図である。
【0021】
図1において、超音波調理装置本体1には、食品あるいは容器、鍋2などを収納する加熱室3と、マイクロ波を発振するマグネトロン4と発熱体のヒータ5が配設されている。加熱室底面6の外側(下部)には、超音波振動を発振する超音波振動子7とその駆動電源8が備えられている。さらに、超音波振動子7の上方にあたる加熱室底面6上には、超音波伝播手段9を配置し、超音波伝播手段9の上に食品あるいは被加熱物が入った鍋2や容器を載せる構成となっている。超音波伝播手段9はシート状に形成されており、また、加熱室底面6と鍋2のそれぞれの接触面との密着性を有し、かつ柔軟かつ耐熱性を有したゴムやシリコン、プラスチックなどの材質からなる。また、鍋2は加熱手段のマイクロ波が透過するような耐熱樹脂や耐熱性ガラスからなるものが好ましい。加熱手段のマグネトロン4やヒータ5と、超音波発生手段である超音波振動子7の動作のオンオフ制御は制御手段10で行われる。
【0022】
次に本実施の形態の超音波調理器装置を用いた調理方法および動作について説明する。シチューなどの煮込みや煮物を加熱する場合、超音波伝播手段9であるシートを加熱室底面6上に置き、電波が透過する耐熱ガラスあるいは耐熱樹脂からなる任意の鍋2や容器に食材と液体をいれて超音波伝播手段9の上に載せる。その後、加熱室のドア(図示なし)を閉じてメニューボタン(図示なし)を選択すると、制御手段10によって駆動電源8がオンされて超音波振動子7に電圧が印加され、超音波振動が発生する。
【0023】
発生した超音波振動は、加熱室底面6に密着した超音波伝播手段9を介して鍋底に伝播する。その結果、鍋内の食材や液体にも超音波による振動エネルギーの伝播とキャビテーションが起こり、食材の細胞がほどよく脆弱化して軟らかくなる。さらに、超音波振動を与えながら、同時にマグネトロン4も作動させてマイクロ波を発振して加熱を行うことにより、通常のマイクロ波加熱のみよりも超音波振動の作用で食材の軟化が早くなり、また同時に食材への調味液の浸透も促進される。よって、煮込みものでは、味の良く染みた具材の軟らかな出来栄えとなる。また、超音波の振動作用により、カレーなどは水分と油分の分散が細かくなり、乳化が促進されてまろやかな味に仕上げることができる。
【0024】
また、この調理装置においてマイクロ波加熱のみを行う場合は、超音波伝播手段9を加熱室3から取り出すことにより、加熱室底面6はもとの平面に戻すことができ、使い勝手の良いものとなる。
【0025】
このように、超音波伝播手段9を着脱自在にすることによって、専用の鍋を用いずとも任意の鍋あるいは容器で超音波とマイクロ波の併用加熱を行うことができ、煮物や煮込み料理を軟らかく味の良く染みた良好な状態に短時間で仕上げることができる。
【0026】
なお、調理メニューによっては超音波とマイクロ波を交互に使用してもよいし、また、超音波、マイクロ波、ヒータを併用あるいは組み合わせるなどして加熱してもよい。
【0027】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について説明する。図2から図3は本発明の実施の形態2の超音波伝播手段9の構成断面図である。本実施の形態の超音波伝播手段9は、食品と接触する面を可撓性フィルムで構成し、中空外装内に流動性を有する液状物質を充填した点が実施の形態1と異なる。その他の構成においては、図1に示した超音波調理装置と同じである。
【0028】
図2において、超音波伝播手段9の表層は可撓性フィルム11で、中空外装を形成し、内部には液状物質12が充填されている。液状物質12はマイクロ波で加熱されにくく透過しやすい誘電率の低い物質、例えば、植物油などを使用する。前記可撓性フィルム11もプラスチック薄膜の積層構造となっており、液状物質が漏れないような構造となっている。また、耐熱性を有し、できればマイクロ波を透過するような耐熱性樹脂材料からなる。例えば、ポリプロピレンやポリエチレンやそれぞれの耐熱樹脂を組み合わせて層状構造にしたものなどで構成する。
【0029】
この液状物質12が充填された表面が可撓性フィルム11の超音波伝播手段9を加熱室底面6に置き、さらに食品13を可撓性フィルム11面上に載せる。この時、液状物質12と可撓性フィルム11は食品13の形状に密着するように変形する。このため、冷凍した肉や不均一な形状の食品表面にも超音波伝播手段9が密着した状態となり、超音波振動子7で発生した振動を食品13に伝播させることが可能になる。
【0030】
さらに、図3に示すように複数の超音波伝播手段9を用いて可撓性フィルム11面で食品13を挟むようにして加熱室底面6に載置する。この場合、食品13の表面全体に可撓性フィルム11が密着した状態となり、被加熱物は液体中に置かれたような状態となる。超音波の振動は気体中よりも液体中で伝播しやすいことから、食品表面全体を液状物質で覆うことでより超音波の振動を伝播させることが可能となり、超音波による食品への効果をさらに得ることができる。
【0031】
このように、食品13の形状に応じて密着するような可撓性がある材質からなる超音波伝播手段9を用いることにより、凹凸の多い形状の食品にも対応して超音波の振動を伝播させることができる。さらに、複数の可撓性材質からなる超音波伝播手段9で食品13を挟むように用いることによって、様々な形状の食品を水中にあるがごとくの状態にし、超音波の振動を効率良く伝えることができる。
【0032】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3について説明する。図4は本発明の実施の形態3の超音波調理装置の構成概略図である。本実施の形態の超音波調理装置は、超音波発生手段を複数個以上付加し、少なくとも一つの前記超音波発生手段は複数以上の異なる周波数を発振する構成とした点が実施の形態1と異なる。その他の構成においては、図1に示した超音波調理装置と同じである。
【0033】
図4において、加熱室底面6下部に複数の超音波振動子7を備え、制御手段10はそれぞれの超音波振動子7から伝播する超音波の周波数を調理メニューに応じて可変させる。
【0034】
例えば、食品中に超音波の特性であるキャビテーションを発生させるには、キャビテーションが起こりやすい10kHzから100kHzの比較的低い周波数の超音波を発振する必要がある。超音波の特性であるキャビテーションにより、液体中や食品内には無数の気泡が発生する。この気泡が消滅・破壊するときには非常に大きな圧力が発生し、液体や食品内に高温かつ高圧を与える。食品へ発振する周波数が一種類の場合、被加熱物中に発生するキャビテーションにムラが生じ、食品の部分的な細胞破壊や温度上昇を招いてしまう。
【0035】
このような局所的な高温・高圧部が生じないようにするには、例えば28kHzと100kHzの周波数の超音波を交互に発振するようにしてキャビテーションの発生分布を均一化させる。また、28kHz→45kHz→100kHz→28kHzというように複数種の周波数を順次繰り返すことでも、食品中のキャビテーション発生分布の均一化を図ることが可能となる。さらに、上記したような幾種類かの周波数を順次繰り返すことを複数の超音波振動子で行えば、被加熱物の表面積が大きい加熱物のキャビテーションの発生分布ムラを解消することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかる超音波調理装置は、超音波調理装置専用の鍋を用いなくても、任意の鍋、容器を使用して気軽に家庭用の超音波調理装置として利用することができる。また、他の加熱手段と超音波の組み合わせによる調理方法で、煮込みものなどをこれまでになく短時間で軟らかく味がよく染み込んだ仕上がりにできることから、新規の家庭用調理器として適用できるほかに、業務用調理装置としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1における超音波調理装置の構成概略図
【図2】同実施の形態2における超音波伝播手段の構成断面図
【図3】同実施の形態2における超音波伝播手段の他の例を示す構成断面図
【図4】同実施の形態3における超音波調理装置の構成概略図
【図5】従来の電子レンジの構成図
【符号の説明】
【0038】
1 超音波調理装置本体
2 鍋
3 加熱室
4 マグネトロン
5 ヒータ
6 加熱室底面
7 超音波振動子
8 駆動電源
9 超音波伝播手段
10 制御手段
11 可撓性フィルム
12 液状物質
13 食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を収納する加熱室と、前記加熱室壁面外側に配設して前記食品へ超音波振動を印加する超音波発生手段と、前記食品と前記超音波発生手段との間に着脱自在に設けた超音波伝播手段とからなる超音波調理装置。
【請求項2】
食品を収納する加熱室と、前記加熱室壁面外側に配設して前記食品へ超音波振動を印加する超音波発生手段と、前記食品と前記超音波発生手段との間に設けた着脱自在の超音波伝播手段と、前記食品を加熱する加熱手段と、制御手段を有し、前記制御手段は調理メニューによって前記超音波発生手段と前記加熱手段の双方の作動タイミングを制御することを特徴とした超音波調理装置。
【請求項3】
加熱手段は、加熱室内にマイクロ波を発振する高周波発生手段あるいは輻射および対流による加熱を行う発熱手段からなり、前記高周波発生手段と前記発熱手段を単独あるいは複合で作動することを特徴とした請求項2記載の超音波調理装置。
【請求項4】
超音波伝播手段は、超音波発生手段が設けられている加熱室壁面と、食品の両方に密着して接触することを特徴とする請求項1または2記載の超音波調理装置。
【請求項5】
超音波伝播手段は、少なくとも食品と接触する面を可撓性フィルムで構成した中空外装内に、流動性を有する液状物質を充填して構成したことを特徴とする請求項1または2記載の超音波調理装置。
【請求項6】
少なくとも食品と接触する面を可撓性フィルムで構成した中空外装内に、流動性を有する液状物質を充填して構成した一対の前記超音波伝播手段の前記可撓性フィルム面に前記食品を挟むように載置して前記超音波手段の振動エネルギーを伝播させることを特徴とする請求項1または2記載の超音波調理装置。
【請求項7】
超音波発生手段を加熱室壁面の外側に複数個以上設けたことを特徴とする請求項6記載の超音波調理装置。
【請求項8】
少なくとも一つの超音波発生手段は複数の異なる周波数を発振することを特徴とする請求項1、2または7のいずれか1項記載の超音波調理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−64374(P2008−64374A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242436(P2006−242436)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】