説明

超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法

【課題】物体までの距離を高速かつ正確に計測することができる超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法を提供する。
【解決手段】スペクトル拡散方式で物体Oの位置を計測する超音波距離計測装置である。第1の拡散符号により変調した第1超音波信号、・・・、第Nの拡散符号により変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させる符号化信号生成手段1と、超音波信号を送信する超音波送信手段2と、物体に反射した超音波反射信号を受信する超音波受信手段3と、超音波信号の送信から受信までの時間を測定する計測手段5と、超音波反射信号と前記第1の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算し、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により符号変調した超音波信号について、超音波信号が特定時前に最後に送信された送信時から、特定時までの時間差に基づいて、超音波受信手段から物体までの距離を演算する演算手段4とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波送信(受信)手段と物体との距離を求める際、超音波送信手段にて超音波信号を送信した時から、物体表面を反射した超音波信号を超音波受信手段にて受信した時までの時間に音速を乗じる距離計測手法が知られている。超音波は空気中の減衰が大きく、物体が超音波送信(受信)手段から離れるほど受波超音波の信号強度は弱くなり、信号対雑音の比すなわちSN比(もしくはSN)が小さくなる。そこで、拡散符号により符号変調した超音波信号を送受信することにより、小さなSN比(もしくはSN)の受信信号から逆拡散により、元の信号を復調できるスペクトル拡散方式の超音波反射法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−315820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された超音波距離計測装置を用いて物体までの距離を計測する場合、計測対象となる物体が移動中である場合は、計測時間間隔を短くして、計測速度(フレームレート)を高速化する必要がある。超音波信号の送信から受信までの往復時間をa、距離計測装置が計算処理に要する時間(例えばAD変換等の時間)をb、フレームレートをfとすると、f=1/(a+b)で与えられる。なお、距離計測装置における計算処理は、反射信号を受信しながら同時に行われる。bの処理が高速であれば、フレームレートはf=1/aで決定され、bの処理が遅い場合は、フレームレートはf=1/bとなる。空気中を伝搬する超音波信号の速度は、固体及び液体と比較して、気温20℃で約340m/sと遅いため、超音波信号の往復時間aは、固体及び液体の場合より、小さな値となるため、空気中を伝搬する超音波の場合、bと比較すると、よりフレームレートに影響を与える。
【0005】
超音波送信(受信)手段から距離M1離れた位置に物体1が存在し、さらに遠くの距離M2離れた位置に物体2が存在する状況で、前記のような超音波距離計測装置を用いて物体までの距離を計測する場合、ある拡散符号を用いて符合変調した超音波信号を一定時間(例えば時間間隔T(ms))毎に送信する。すなわち、図12に示すように、t0から時間間隔T毎に超音波信号を送信する。このとき、周期Tはt0に送信した超音波信号の反射信号のうち最も遅い反射信号受信時である(T+t1)までの時間(T+t1−t0)よりも短いとする。
【0006】
受信した超音波信号について、拡散符号との相関を第1周期から第2周期までの2周期分みると、t1、t2、(T+t1)、(T+t2)に相関ピークを有する。ここで、t1は、t0よりも前に送信した超音波信号の物体2からの反射信号の受信時であり、t2は、t0に送信した超音波信号の物体1からの反射信号の受信時であり、(T+t1)は、t0に送信した超音波信号の物体2からの反射信号の受信時であり、(T+t2)は、(T+t0)に送信した超音波信号の物体1からの反射信号の受信時である。
【0007】
例えばt0から(T+t0)までの第1周期では、t1とt2に相関ピークを有する。この場合、t1の受信はt0よりも前に送信した超音波信号の物体2からの反射信号であるにもかかわらず、t0に送信した超音波信号の反射信号であると誤認識する。このように、超音波距離測定装置は、受信信号が遠方での反射か近傍での反射かを特定できず、物体までの距離を正確に計測することができない。そこで、t0に送信した超音波信号の反射信号のうち最も遅い反射信号受信時(T+t1)までの時間(T+t1−t0)だけ、次の超音波信号の送信を待つ必要があり、フレームレートは計測範囲で制限されるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、物体までの距離を高速かつ正確に計測することができる超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波距離計測装置は、スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、前記超音波信号が物体に反射して、反射した超音波反射信号に基づいて前記物体の位置を計測する超音波距離計測装置において、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号(Nは2以上の自然数であり、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までの全てが互いに異なる)により符号変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させる符号化信号生成手段と、前記符号化信号生成手段にて発生された第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を、一定時間毎に送信する超音波送信手段と、物体に反射した超音波反射信号を受信する超音波受信手段と、符号変調した超音波信号の送信から受信までの時間を測定する計測手段と、受信した超音波反射信号と前記第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算するとともに、前記一定時間を1周期として、1周期分乃至複数周期分で、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により符号変調した超音波信号について、この超音波信号が前記特定時前に最後に送信された送信時から、前記特定時までの時間差に基づいて、前記超音波受信手段から物体までの距離を演算する演算手段とを備えたものである。ここで、特定時とは超音波信号を受信した時のうち、ある特定の相関ピークを示した時をいう。
【0010】
本発明の超音波距離計測装置は、スペクトル拡散方式により通信を行うものである。スペクトル拡散は、信号を広い帯域に拡散するものであり、送信側で信号を拡散符号により変調し、受信側で同じ拡散符号を用いて相関計算を行うことにより、信号を取り出すことができる。このスペクトル拡散を用いることにより、遠くの反射で生じたSN比が劣化した受信信号から元の信号を取り出せることができるようになり、より長距離の測定が可能となる。
【0011】
本発明では、第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号の異なる拡散符号を用いて、これら拡散符号により変調した第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を一定時間毎に送信し、物体に反射した超音波信号を超音波受信手段にて受信する。この場合、演算手段は、1周期分乃至複数周期分で、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により変調した超音波信号に基づいて演算を行うため、別の位置の物体から反射してきた超音波信号と間違えることがない。このため、先の超音波信号(例えば第1超音波信号)の送信時から、この超音波反射信号のうち最も遅い反射信号受信時までの時間をTmaxとすると、先の超音波信号の送信時からTmax以内に、別の拡散符号により符号変調した超音波信号(例えば第2超音波信号)を送信することができる。このように、連続的に超音波信号を送信する際に、先に送信された超音波信号の最も遅い反射信号を受信するまで、次の超音波信号の送信を待つ必要がなくなるため、超音波信号の送信時間間隔を短くすることができて、フレームレートを早くすることができる。このとき、N個の符号を使用し、時間間隔Δtの一定間隔で超音波信号を送信すると、最大でN/Tmaxのフレームレートで誤検知なく計測ができ、最大N×Δt×v/2(vは音速)までの距離からの反射の誤検知を無くすことができる。しかも、複数周期分演算を行えば、計測範囲を拡大することもできる。
【0012】
前記構成において、前記符号化信号生成手段は、第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号を足し合わせるものとできる。このように構成すれば、拡散符号毎に超音波送信手段を設ける必要はなく、超音波送信手段を単一のものとすることができる。これにより、装置全体として簡略化を図ることができる。
【0013】
前記構成において、前記拡散符号をランダム符号又は擬似ランダム符号とすることができる。これにより、第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、第Nの拡散符号は相互相関が小さくなり、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を判別しやすくすることができるため、正確な計測が可能となる。
【0014】
前記超音波受信手段は、複数の受波素子を配列したアレイセンサとすることができる。単素子では、反射波から物体までの距離は測定できるが、物体の存在する方向の測定はできないが、複数の受波素子を配列することにより、物体の3次元位置や形状を測ることができる。
【0015】
本発明の超音波距離計測方法は、スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、前記超音波信号が物体に反射して、反射した超音波反射信号に基づいて前記物体の位置を計測する超音波距離計測方法において、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号(Nは2以上の自然数であり、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までの全てが互いに異なる)により符号変調した第N超音波信号を、夫々一定時間毎に発生させて、第1超音波信号、及び第1の拡散符号とは異なる第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を一定時間毎に送信し、物体に反射した超音波反射信号を夫々受信して、受信した超音波反射信号と前記第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算し、前記一定時間を1周期として、1周期分乃至複数周期分で、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により符号変調した超音波信号について、この超音波信号が前記特定時前に最後に送信された送信時から、前記特定時までの時間差に基づいて、前記超音波受信手段から物体までの距離を演算するものである。
【0016】
この場合、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を繰り返し送信することができる。これにより、物体が動く場合であっても、物体の位置を特定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法によれば、物体の位置を高速かつ正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の超音波距離計測装置のブロック図である。
【図2】本発明の超音波距離計測装置を構成する符号化信号生成手段のブロック図である。
【図3】本発明の超音波距離計測装置を構成する演算手段のブロック図である。
【図4】本発明の超音波距離計測方法により、異なる拡散符合により符号変調された超音波信号の送受信を示す説明図である。
【図5】本発明の超音波距離計測装置を構成する符号化信号生成手段の他の構成を示すブロック図である。
【図6】1つの拡散符号により変調した超音波信号を15ms毎に繰り返し送信した場合の受信波形を示すグラフ図である。
【図7】前記図6に示す受信波形と拡散符号との相関波形を示すグラフ図である。
【図8】(a)は図7における第1周期の相関波形を示すグラフ図であり、(b)は図7における第2周期の相関波形を示すグラフ図である。
【図9】本発明の超音波距離計測装置を用いて、2つの異なる拡散符号により変調した第1超音波信号及び第2超音波信号を15ms毎に送信した場合の受信波形を示すグラフ図である。
【図10】(a)は図9における第1の拡散符号との相関波形を示すグラフ図であり、(b)は第2の拡散符号との相関波形を示すグラフ図である。
【図11】(a)は図10において、第1周期の第2の拡散符号との相関波形を示すグラフ図であり、(b)は図10において、第2周期の第1の拡散符号との相関波形を示すグラフ図である。
【図12】従来の超音波距離計測方法により、単一の拡散符号により符号変調された超音波信号の送受信を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の超音波距離計測装置を模式的に示したものである。この超音波距離計測装置は、スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、超音波信号が物体O(図1参照)に反射して、反射した超音波信号(以下、超音波反射信号という)に基づいて物体Oの位置を計測するものである。
【0021】
スペクトル拡散は、送信側で信号を拡散符号により変調し、受信側で同じ拡散符号を用いて相関計算を行うことにより、信号を取り出す通信方法である。このスペクトル拡散を用いることにより、信号を広い帯域に拡散することができ、遠くの反射で生じたSN比が劣化した受信信号から元の信号を取り出せることができるようになり、より長距離の測定が可能となる。
【0022】
本発明の超音波距離計測装置は、図1に示すように、符号化信号生成手段1と、超音波送信手段2と、超音波受信手段3と、演算手段4と、計測手段5とを備えている。
【0023】
符号化信号生成手段1は、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号により符号変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させるものである。符号化信号生成手段1は、図2に示すように、基本波生成回路10と、分周回路11と、第1符号生成回路12-1〜第N符号生成回路12-nと、トリガ発生回路13と、第1遅延回路14-1〜第(N−1)遅延回路14a-(n−1)と、ミキシング回路15とを備えている。
【0024】
基本波生成回路10にて超音波の基本波(例えば、基準周波数である40kHzの超音波)を発生し、この基本波が分周回路11にて分周(例えば8分周)され、第1符号生成回路12-1〜第N符号生成回路12-nに入力される。一方、トリガ発生回路13にて発生した符号生成開始トリガが、第1符号生成回路12-1にTtrg(ms)入力されると、第1符号生成回路12-1では分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第1の拡散符号)を出力する。また、第2符号生成回路12-2には、Ttrg/N(ms)遅れて符号生成開始トリガが入り、分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第2の拡散符号)を出力する。同様にして、第N符号生成回路12-nでは、第Nの拡散符号を出力する。
【0025】
そして、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までが足し合わされて、これがミキシング回路15にて基本波とミキシングされることにより、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を一定時間毎(この場合Ttrg/N(ms)毎)に発生させる。符号化信号生成手段1をこのような構成とすることで、簡単な回路構成とすることができる。
【0026】
第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号は相互相関が小さいものが望ましく、具体的にはランダム符号又は擬似ランダム符号とするのが望ましい。本実施形態では、第1の拡散符号〜第N拡散符号は、特に低い相互相関値をとるM系列のプリファードペアとしている。
【0027】
超音波送信手段2は、符号化信号生成手段1により生成された第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を送信するものであり、超音波送信素子にて構成されている。超音波受信手段3は、物体Oに当たって反射した超音波反射信号を受信するものであり、超音波送信手段2の近傍に配置されている。ここで近傍とは、超音波送信手段2から物体Oに超音波信号が到達する時間と、送信した超音波信号が物体Oで反射してから超音波反射信号が超音波受信手段3に到達するまでの時間がほぼ等しくなる程度に、超音波送信手段2と超音波受信手段3とが近接していることをいう。本実施形態において、超音波受信手段3は、1枚の基板上に複数(例えば32個)の超音波受信素子を配列したアレイセンサとしている。これにより、物体Oの3次元位置を計測することができる。
【0028】
計測手段5は、超音波送信手段2にて超音波信号を送信した時間から、この超音波信号が物体Oで反射した超音波反射信号を超音波受信手段3にて受信するまでの時間を計測するカウンターである。
【0029】
演算手段4は、例えばパーソナルコンピュータにて構成され、受信した超音波反射信号を解析し、物体Oまでの距離を演算するものである。演算手段4は、図3に示すように、第1〜第N拡散符号演算部21-1〜21-nと、第1〜第N遅延加算部22-1〜22-nと、第1〜第N距離計算部23-1〜23-nと、表示部24とを備える。拡散符号演算部21は、超音波反射信号と第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算することにより、超音波反射信号から情報を取り出すことができる。遅延加算部22は、相関が計算された後の信号の遅延加算を行う。
【0030】
距離計算部23は、超音波送信手段2(超音波受信手段3)から物体Oまでの距離を演算するものである。例えば、図4に示すように、超音波送信(受信)手段2、3から距離M1離れた位置に物体1が存在し、さらに遠くの距離M2離れた位置に物体2が存在する状況で、本発明の超音波距離測定装置を用いて物体1の距離を計測する場合について説明する。本実施形態ではN=2として、第1超音波信号と第2超音波信号とを一定時間Ttrg/N=Ttrg/2(ms)毎に送信する。すなわち、図4に示すように、t0で第1超音波信号、(Ttrg/2+t0)で第2超音波信号を繰り返し送信する。このとき、周期Ttrg/2は、超音波信号の送信時から、超音波反射信号のうち最も遅い反射信号受信時までの時間(Ttrg/2+t1−t0)よりも短くしている。
【0031】
図4において、実線は第1超音波信号の送受信、二点鎖線は第2超音波信号の送受信を示す。ここで、t1は、第2超音波反射信号の物体2からの受信時、t2は、第1超音波反射信号の物体1からの受信時、(Ttrg/2+t1)は、第1超音波反射信号の物体2からの受信時、(Ttrg/2+t2)は、第2超音波反射信号の物体1からの受信時である。
【0032】
超音波反射信号の、第1拡散符号との相関及び第2拡散符号との相関をみると、例えばt0から(Ttrg/2+t0)までの第1周期において、第1拡散符号との相関は、第1超音波反射信号を受信したt2で相関ピークは見られるが、第2超音波反射信号を受信したt1では相関ピークは見られない。一方、第1周期において、第2拡散符号との相関は、第2超音波反射信号を受信したt1で物体M2から反射した反射信号の相関ピークは見られるが、第1超音波反射信号を受信したt2時では相関ピークは見られない。
【0033】
従って、第1周期において、ある特定時t2では第1拡散符号が相関ピークを有する。つまり、この特定時t2では、第1拡散符号に相関ピークが見られる一方、第2拡散符号に同様の相関ピークが見られない。このため、第1周期では、第1拡散符号により符号変調した第1超音波信号に基づいて物体M1までの距離を計測する。すなわち、特定時t2よりも前で、最後に第1超音波信号を送信した時t0から、特定時t2までの時間差(t2−t0)と音速vとから物体1までの距離M1を演算する。
【0034】
また、第2周期から物体1までの距離M1を演算する場合も、前記と同様の方法で演算することができる。すなわち、(Ttrg/2+t0)から{2(Ttrg/2)+t0}までの第2周期において、超音波反射信号の第1拡散符号との相関は、第1超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t1)で物体M2から反射した反射信号の相関ピークは見られるが、第2超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t2)では同様の相関ピークは見られない。一方、第2周期において、超音波反射信号の第2拡散符号との相関は、第2超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t2)で相関ピークは見られるが、第1超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t1)では相関ピークは見られない。このため、第2周期では、第2拡散符号により符号変調した第2超音波信号に基づいて物体M1までの距離を計測する。すなわち、特定時(Ttrg/2+t2)よりも前で、最後に第2超音波信号を送信した時(Ttrg/2+t0)から、特定時(Ttrg/2+t2)までの時間差(t2−t0)と音速vとから物体1までの距離M1を演算することができる。
【0035】
本発明では、第1超音波信号と第2超音波信号とは異なる拡散符号にて変調されているため、第1周期で第1拡散符号との相関をとった場合、第2超音波反射信号を受信したt1で相関ピークは見られず、第1超音波反射信号を受信したt2で相関ピークが見られる。また、第2周期で第2拡散符号との相関をとった場合、第2超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t2)で相関ピークが見られ、第1超音波反射信号を受信した(Ttrg/2+t1)で相関ピークは見られない。このため、t1での受信を第1超音波反射信号の受信であると誤認識したり、(Ttrg/2+t1)での受信を第2超音波反射信号の受信であると誤認識することはない。
【0036】
また、さらに遠くの物体2について距離M2を演算する場合は、2周期分、すなわち図4の時間t0から{2(Ttrg/2)+t0}までについて、前記と同様の処理を行うことによってM2を演算することができる。すなわち、この2周期分において、超音波反射信号の、第1拡散符号との相関及び第2拡散符号との相関をみると、第2拡散符号においてt1で物体2からの相関ピークを有し、第1拡散符合において(Ttrg/2+t1)で物体2からの相関ピークを有する。従って、第1超音波反射信号を受信した特定時(Ttrg/2+t1)よりも前で、最後に第1超音波信号を送信した時t0と、特定時(Ttrg/2+t1)との時間差(Ttrg/2+t1−t0)と音速vとから物体2までの距離M2を演算することができる。
【0037】
表示部24は、物体Oの位置を表示可能な表示ディスプレイであり、第1〜第N距離計算部23−1〜23−nの計算結果を、例えばTtrg/N(ms)ごとに表示するものである。
【0038】
このように、本発明では、超音波信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により変調した超音波反射信号に基づいて演算を行うため、別の送信時間に送信された超音波信号と間違えることがない。このため、先の超音波信号(例えば第1超音波信号)の送信時t0から、この超音波反射信号のうち最も遅い反射信号受信時(Ttrg/2+t1)までの時間をTmaxとすると、先の超音波信号(例えば第1超音波信号)の送信時t0からTmax以内に、別の拡散符号により符号変調した超音波信号(例えば第2超音波信号)を送信することができる。このように、連続的に超音波信号を送信する際に、先に送信された第1超音波信号の最も遅い反射信号を受信するまで、次の第2超音波信号の送信を待つ必要がなくなるため、超音波信号の送信時間間隔を短くすることができて、フレームレートを早くすることができる。このとき、N個の符号を使用し、時間間隔Δtの一定間隔で超音波信号を送信すると、最大でN/Tmaxのフレームレートで誤検知なく計測ができ、最大N×Δt×v/2(vは音速)までの距離からの反射の誤検知を無くすことができる。しかも、複数周期分の演算を行えば、計測範囲を拡大することもできる。
【0039】
符号化信号生成手段1は、図5に示すように、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を足し合わせる構成とすることもできる。図5の符号化信号生成手段1は、基本波生成回路10と、分周回路11と、第1符号生成回路12-1〜第N符号生成回路12-nと、トリガ発生回路13と、第1遅延回路14-1〜第(N−1)遅延回路14a-(n−1)と、第1ミキシング回路15-1〜第Nミキシング回路15-nとを備えている。
【0040】
基本波生成回路10にて超音波の基本波(例えば、基準周波数である40kHzの超音波)を発生し、この基本波が分周回路11にて分周(例えば8分周)され、第1符号生成回路12-1〜第N符号生成回路12-nに入力される。一方、トリガ発生回路13にて発生した符号生成開始トリガが、第1符号生成回路12-1にTtrg(ms)入力されると、第1符号生成回路12-1では分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第1の拡散符号)を出力する。また、第2符号生成回路12-2には、Ttrg/N(ms)遅れて符号生成開始トリガが入り、分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第2の拡散符号)を出力する。同様にして、第N符号生成回路12-nでは、第Nの拡散符号を出力する。
【0041】
そして、第1ミキシング回路15-1〜第Nミキシング回路15-nにて第1〜第Nの夫々の拡散符号が基本波とミキシングされ、夫々の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号が発生し、これらを足し合わせることにより、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を一定時間毎(この場合Ttrg/N(ms)毎)に発生させる。
【0042】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されること無く、本発明の技術的思想の範囲内であれば、種々の変形が可能である。例えば、実施形態では、N=2として、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号と第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号とで物体の位置特定を行ったが、Nが3以上であってもよい。また、実施形態では1周期をTtrg/Nとしたが、任意に設定することができ、これより短くても長くてもよい。実施形態では、第1超音波信号と第2超音波信号とを繰り返し送信したが、例えば静止物体の位置を特定する場合は、第1超音波信号を一度送信した後、第2超音波信号を一度送信するだけでも物体までの距離を計測することができる。
【実施例】
【0043】
本発明に係る超音波距離計測装置の有効性を検証するための実験について述べる。本実験は、超音波送信手段(超音波受信手段)の前方2mに物体1が存在し、前方3.2mの位置に物体2が存在する場合に、超音波信号を送信し、物体1及び物体2から反射した超音波反射信号を受信する。そして、超音波反射信号に基づいて演算することにより、超音波送信手段(超音波受信手段)から物体1及び物体2までの距離を計測するものである。この場合、15msを1周期として、(1)従来の超音波距離計測装置を用いて、1つの拡散符号により変調した超音波信号を15ms毎に繰り返し送信する場合と、(2)図1〜図3に示す本発明の超音波距離計測装置を用いて、2つの異なる拡散符号(第1拡散符号及び第2拡散符号)により変調した第1超音波信号及び第2超音波信号を15ms毎に交互に送信する場合とで実験を行った。ただし、第2超音波信号を1周期目に、第1超音波信号を2周期目に送信している。(1)が比較例、(2)が実施例である。
【0044】
(1)の超音波反射信号の受信波形を図6に示す。図6で示す12msから始まる6.2ms間の信号、及び27msから始まる6.2ms間の信号は、2m先の物体1からの反射波になる。一方、4msから始まる6.2ms間の信号、及び19msから始まる6.2ms間の信号は、3.2m先の物体2からの反射波になる。
【0045】
図7は拡散符号との相関波形である。4ms、12ms、19ms、27msに相関ピークが見られる。この結果、図7における第1周期(0ms〜15ms)の相関波形は図8(a)のようになり、図7における第2周期(15ms〜30ms)の相関波形は図8(b)のようになる。図8(a)(b)より、第1周期及び第2周期ともに、その周期開始から4ms、12ms経過後に夫々相関ピークが見られる。12msの相関ピークに基づいて物体までの距離を計算すると、往復時間12ms、音速340m/sとして、物体までの距離は0.012×340/2≒2mとなり、物体1までの距離が正しく計算される。
【0046】
しかしながら、もう一方の4msの相関ピークに基づいて物体までの距離を計算すると、0.004×340/2≒0.7mと誤認識される。これは、図8(a)において現れる4msの相関ピークは、この周期よりも前に送信した超音波信号が物体2を反射した超音波反射信号の受信であり、図8(b)において現れる4msのピークは、この周期よりも前に送信した超音波信号(つまり、第1周期の0msで送信した超音波信号)が、物体2を反射した超音波反射信号の受信であるにもかかわらず、その周期の0msに送信した超音波信号の反射信号として計算したためである。
【0047】
(2)の超音波反射信号の受信波形を図9に示す。図10(a)は第1の拡散符号との相関波形であり、図10(b)は第2の拡散符号との相関波形であり、図11(a)は第1周期の第2の拡散符号との相関波形であり、図11(b)は第2周期の第1の拡散符号との相関波形である。図10(a)より、第1の拡散符合との相関をとった場合には、4msと27msに相関ピークが見られ、図10(b)より、第2の拡散符合との相関をとった場合には、12msと19msに相関ピークが見られる。
【0048】
第1周期開始から12ms経過後の特定時では、図10(b)に示すように第2の拡散符号の相関波形で相関ピークが見られ、図10(a)に示すように第1の拡散符号の相関波形で相関ピークが見られない。このため、第2超音波信号が特定時(図10における12ms)より前に最後に送信された送信時(図10における0ms)から、特定時までの時間差12msに基づいて物体までの距離を計算する。すなわち、第1周期では、第2の拡散符号との相関である図11(a)に基づいて物体までの距離を計算する。この場合、往復時間12ms、音速を340m/sとして、物体までの距離は0.012×340/2≒2mとなり、物体1までの距離が正しく計算される。
【0049】
また、第2周期に基づいて計算する場合は、第1周期開始から27ms経過後の特定時(つまり、第2周期開始から12ms経過後)では、図10(a)に示すように第1の拡散符号の相関波形で相関ピークが見られ、図10(b)に示すように第2の拡散符号の相関波形で相関ピークが見られない。このため、第1超音波信号が特定時(図10における27ms)より前に最後に送信された送信時(図10における15ms)から、特定時までの時間差12msに基づいて物体までの距離を計算する。すなわち、第2周期では、第1の拡散符号との相関である図11(b)に基づいて物体までの距離を計算する。このようにして計算すると、遠くの物体2からの反射による誤認識を無くすことができることがわかった。
【0050】
また、図10に示すように、相関を2周期分とれば、物体2の位置も計算することができる。第1周期では、4msにおいてピークが第1の拡散符号の相関波形で現れている。この第1超音波信号の最後の送信時は、第1周期の開始時(図10における0ms)ではなく、その前の周期の開始時である。従って、この第1超音波信号の送信時から受信時までの時間差15+4=19msに基づいて物体2の位置を計算する。また、第2周期では、19msにおいてピークが第2の拡散符号の相関波形で現れているため、この第2超音波信号の最後の送信時(図10における0ms)から受信時(図10における19ms)までの時間差19msに基づいて物体2の位置を計算する。このように複数周期分の相関をとれば、遠くの物体までの距離も正確に特定することができることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
1 符号化信号生成手段
2 超音波送信手段
3 超音波受信手段
4 演算手段
5 計測手段
O 物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、前記超音波信号が物体に反射して、反射した超音波反射信号に基づいて前記物体の位置を計測する超音波距離計測装置において、
第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号(Nは2以上の自然数であり、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までの全てが互いに異なる)により符号変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させる符号化信号生成手段と、
前記符号化信号生成手段にて発生された第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を、一定時間毎に送信する超音波送信手段と、
物体に反射した超音波反射信号を受信する超音波受信手段と、
符号変調した超音波信号の送信から受信までの時間を測定する計測手段と、
受信した超音波反射信号と前記第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算するとともに、前記一定時間を1周期として、1周期分乃至複数周期分で、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により符号変調した超音波信号について、この超音波信号が前記特定時前に最後に送信された送信時から、前記特定時までの時間差に基づいて、前記超音波受信手段から物体までの距離を演算する演算手段とを備えたことを特徴とする超音波距離計測装置。
【請求項2】
前記符号化信号生成手段は、第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号を足し合わせるものであることを特徴とする請求項1の超音波距離計測装置。
【請求項3】
前記拡散符号をランダム符号又は擬似ランダム符号としたことを特徴とする請求項1又は請求項2の超音波距離計測装置。
【請求項4】
前記超音波受信手段は、複数の受波素子を配列したアレイセンサとしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の超音波距離計測装置。
【請求項5】
スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、前記超音波信号が物体に反射して、反射した超音波反射信号に基づいて前記物体の位置を計測する超音波距離計測方法において、
第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号(Nは2以上の自然数であり、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までの全てが互いに異なる)により符号変調した第N超音波信号を、夫々一定時間毎に発生させて、
第1超音波信号、及び第1の拡散符号とは異なる第2超音波信号、・・・、第N超音波信号を一定時間毎に送信し、
物体に反射した超音波反射信号を夫々受信して、
受信した超音波反射信号と前記第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算し、
前記一定時間を1周期として、1周期分乃至複数周期分で、超音波反射信号を受信した特定時に相関ピークを有する拡散符号により符号変調した超音波信号について、この超音波信号が前記特定時前に最後に送信された送信時から、前記特定時までの時間差に基づいて、前記超音波受信手段から物体までの距離を演算することを特徴とする超音波距離計測方法。
【請求項6】
第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を繰り返し送信することを特徴とする請求項5の超音波距離計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−104811(P2013−104811A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249632(P2011−249632)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(304000836)学校法人 名古屋電気学園 (22)
【Fターム(参考)】