説明

超音波送受波器

【課題】 環境の温度などが変化しても、安定して高感度、広帯域な超音波の送受波が可能な超音波送受波器を提供する。
【解決手段】 環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器1であって、少なくとも超音波振動子2と、超音波振動子と環境流体4との間に充填されて、超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部3とを備え、伝搬媒質部の密度ρ及び音速C、環境流体の密度ρ及び音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足し、超音波振動子は超音波の送波又は受波の指向性が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送波を行う超音波送波器、又は、超音波の受波を行う超音波受波器、又は、そのいずれか若しくは両方を行う超音波送受波器に関し、安定に高感度で超音波を送波又は/かつ受波しうる超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者は、特許文献1において、超音波の屈折を利用して高感度、広帯域に超音波を送受信しうる発明を開示している。特許文献1の発明は、空気などの音響インピーダンスの極めて小さい媒質に対して、超音波を屈折させながら高感度に送受波することが可能な超音波送受波器であって、特殊な材料を利用した伝搬媒質部を持ち屈折現象を利用した超音波送受波器である。
【0003】
特許文献1に開示の発明を図11に示す。図11に示すように、特許文献1の発明の超音波送受波器101は、少なくとも超音波振動子102と、超音波振動子102の前面に設けられ、環境流体104と超音波振動子102の間を埋める伝搬媒質部103を有している。ここでは、以下の説明を行いやすくするため、超音波振動子102と伝搬媒質部103の界面を第1表面領域131と定義し、伝搬媒質部103と環境流体104の界面を第2表面領域132として定義する。
【0004】
このような超音波送受波器101において、伝搬媒質部103の材質(密度、音速)と、図11に示した伝搬媒質部103内の第2表面領域132における法線方向と超音波伝搬方向のなす角度θ、及び環境流体内側の角度θを適切に選択する事によって、伝搬媒質部103と環境流体104との界面における超音波の反射をほぼ0にして、透過効率を、ほぼ1とすることができるものである。
【0005】
【特許文献1】WO2004/098234
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような有利な効果を持つ特許文献1の超音波送受波器であるが、温度などの環境変化によって送受波感度が大きく変化すると言う問題があった。以下では、この課題について詳しく説明する。
【0007】
特許文献1の超音波送受波器における送受波感度は、伝搬媒質部と環境流体の界面における超音波の透過効率によって大きく変化する。
【0008】
これは、従来からある音響整合層を利用した超音波送受波器にも、音響整合層と環境流体の界面における超音波の透過効率で同じ事が言える。
【0009】
音響整合層と環境流体の界面における超音波の透過効率については、環境流体と音響整合層、超音波振動子の音響インピーダンスによってその効率が決まるものであるが、特許文献1の超音波送受波器においては、伝搬媒質部と環境流体、超音波振動子の音響インピーダンスの関係において透過効率が決まるものではなく、主に伝搬媒質部の音速と、環境流体の音速、更に図11に示した角度θをパラメータとして透過効率が決まるものである。
【0010】
ここで、超音波送受波器の感度を大きく変化させる要因となる、伝搬媒質部と環境流体の界面における超音波の透過効率を、送波時と受波時に分けて考える。ここでは、透過効率として界面における反射率を用いて説明する。反射率が低いほど透過効率は高くなることを意味している。
【0011】
ここで、送波時と受波時に分けて考えるのは、特許文献1の超音波送受波器の感度変化は、送波時と受波時において、そのメカニズムに違いがあり、それぞれ別に考える必要があるためである。
【0012】
送波時と受波時のそれぞれにおける感度変化の主要因は、次のようなものである。すなわち、送波時には、伝搬媒質部103と環境流体104の界面における超音波の透過効率が変化して送波感度が変化する事が主要因である。一方、受波時には、伝搬媒質部103を伝搬する超音波の方向、すなわち角度θが変化する事が感度変化の主要因である。
【0013】
送波時、受波時の送受波感度の変化について、以下で詳しく説明する。
【0014】
送波時とは、超音波振動子102から送波された超音波が、伝搬媒質部103を通り、更に環境流体104へ放射される場合である。図11に示した超音波送受波器101の構成においては、伝搬媒質部103内における超音波の進行方向は実線の矢印106で示した方向であり、角度θは常に一定となる。
【0015】
これは、超音波振動子102に、超音波の方向を変える機構がなく、また第2表面領域132の傾斜角度を変化させる機構がないためである。つまり、図11において角度θを変える機能を超音波送受波器101が有していない。
【0016】
図11において伝搬媒質部103の内部に点線107で示したのは、超音波振動子102から送波された超音波105の同一位相波面を示すものである。このように、超音波振動子2から送波された超音波は、矢印で示したような超音波105の進行方向に対して、垂直な同一位相の波面を有している。
【0017】
図11のように超音波振動子102が単一である場合には超音波振動子102と伝搬媒質部103の作る界面、すなわち第1表面領域131と超音波の波面107はほぼ平行である。
【0018】
超音波振動子102で発生した超音波は、伝搬媒質部103を通って、第2表面領域132に到達する。通常このような界面では超音波の一部は反射して伝搬媒質部103へ戻るか、あるいは一部は屈折して環境流体104へ伝搬していく事となる。反射、あるいは屈折する超音波の割合は角度θによって大きく変化する。
【0019】
第2表面領域における超音波の速度ポテンシャルの反射率Rは(数1)で示される。
【0020】
【数1】


ここで、ρは伝搬媒質部103の密度、ρは環境流体104の密度、θは伝搬媒質部103内における第2表面領域132の垂線と超音波伝搬方向のなす角度、θは環境流体104内における第2表面領域132の垂線と超音波伝搬方向のなす角度である。
【0021】
【数2】


(数1)に示した反射率Rは(数2)を満たすとき、反射率Rが0となる角度θ、θが必ず存在する。
【0022】
このような反射率Rが0のとなった時、超音波は全て伝搬媒質部と環境流体の界面を透過するため、もっとも感度が高くなる。
【0023】
ところで、角度θとθの間には屈折の法則が適用できる関係があり、伝搬媒質部の音速をC、環境流体の音速をCとした時、(数3)に示す関係が成立する。
【0024】
【数3】


すなわち、角度θとθをそれぞれ独立に設定する事は出来ず、送波の場合には角度θが決まれば、角度θは(数3)に示す関係より一意に決まる。
【0025】
(数1)に示した反射率Rは、反射率を変動させるパラメータとして伝搬媒質部の密度ρ、音速C,環境流体の密度ρ、音速C、第2表面領域と超音波の伝搬方向との角度θ、θが関連している。
【0026】
このパラメータの環境流体の密度ρと、音速Cは環境温度によって大きく変化する。すなわちこのパラメータ値が変化すると反射率Rも変化する。これが環境の変化によって、特許文献1の超音波送受波器の感度が変化する原因である。
【0027】
更に、環境流体の密度ρ、音速Cの影響を以下で見積もり、本課題についてより具体的に説明する。
【0028】
この超音波送受波器を、ロボットの障害物検知や自動車のバックソナーなどの空気中での使用を考えた場合、すなわち環境流体として空気を考えた場合の反射率Rと、伝搬媒質及び環境流体の密度、音速、超音波の伝搬角度θ、θの関係について説明する。
【0029】
通常、空気の音速をCとすると、音速Cは温度tの関数であり、温度tを用いて(数4)のように表せる事が知られている。すなわち、環境流体の温度が1℃変化すると、空気の音速は0.6m/sだけ変化する事となる。
【0030】
【数4】


また、温度に対する空気の密度の変化について述べる。0℃での空気の密度は約1.293kg/mであり、空気を理想気体として考えると、温度tにおける密度ρは(数5)のように表す事が出来る。
【0031】
【数5】


仮に超音波送受波器の使用環境として0〜60℃を設定すると、0℃及び60℃における空気の密度ρ及び音速Cは、(数4)及び(数5)より、次のようになる。また、気圧によって空気の音速Cは殆ど変化しない事が知られている。
【0032】
0℃・・密度ρ:1.293kg/m、音速C:331.5m/s
60℃・・密度ρ:1.060kg/m、音速C:367.5m/s
ここで、伝搬媒質部103として、特許文献1に開示している乾燥ゲルを用いた場合を考える。乾燥ゲルは密度が空気より高く、音速が空気より遅く、(数2)に示した反射率Rを0にする条件を満たす材料である。
【0033】
特許文献1の乾燥ゲルは、密度ρが200kg/m、音速Cが180m/sである。ここで、乾燥ゲルの温度に対する特性の変化について見積もる。
【0034】
乾燥ゲルは骨格を構成する材質などにより様々な特性を持つものであるが、例としてシリカ骨格を持つ乾燥ゲルについて考える。シリカ乾燥ゲルの温度に対する寸法の変化として定義される線膨張率は約10−6(1/℃)程度である。
【0035】
よって、体積の変化は長さの変化の3乗として定義する事が可能である。よって、体積変化は10−18(1/℃)程度と、極めて小さい。
【0036】
このように、超音波送受波器の利用環境として設定した0〜60℃の温度変化があった場合でも、乾燥ゲルの体積変化は約6−16レベルの変化であり、空気などの環境流体の変化に比べ、殆ど変化しないと考えられ、温度変化に対して一定値とみなすことができる。
【0037】
また、乾燥ゲルの固さも殆ど変化しないため、音速も殆ど変化せず一定値と見なすことができる。さらに、乾燥ゲルは熱伝導率が非常に低いため、外界の温度変化に対して、温度変化自身を殆どしないことからも、密度、音速とも一定値と考えることができる。
【0038】
このような条件において、伝搬媒質部から環境流体への超音波の伝搬効率について考察する。図11には、(数1)に基づいて計算した角度θと、超音波の反射率Rの関係を示すグラフである。
【0039】
図12のグラフは、伝搬媒質部内の第2表面領域に向かう超音波の振幅を1としており、伝搬媒質部と環境流体の界面で反射する超音波との振幅の比率で表している。すなわち、全ての超音波が反射する場合には反射率は−1となり、反射率0の時に全ての超音波が環境流体に透過し、更に反射率Rが1となった場合は、第2表面領域に対して入射した超音波と同じ位相の超音波が全反射した場合を示している。
【0040】
図12より分かるように、超音波の反射率Rは、角度θの変化に極めて敏感である。よって、角度θがわずかに変化すると、反射率が大きく変化して、送波感度が大きく変化する事となる。また、感度が最大となる角度は環境流体の温度によって大きく変化する。反射率Rがほぼ0の状態から、角度θが1度程度ずれると反射率は0.9以上と急激に大きくなる。
【0041】
このように、送波時においては、伝搬媒質から環境流体への伝搬効率は、第2表面領域における超音波の角度θによって大きく変わり、伝搬効率の大きくなる角度θは温度によって変化するため、環境流体の温度が変わると、送波感度が大きく変わってしまうこととなる。すなわち、温度の変化によって精度の高い計測が困難となると言う課題が特許文献1の超音波送受波器にあった。
【0042】
また、図12からは、超音波送受波器の使用環境を、以上で示したような条件で使用した場合には、角度θを4°程度の幅で補正できれば、常に高感度に超音波を送受波できることが分かる。
【0043】
超音波送受波器を使用する温度範囲、環境流体の種類、伝搬媒質部の材質が変わった場合には、当然、角度θの変化する範囲も変わる。使用環境に応じて高感度に超音波を送波するために、制御すべき角度θは変わる。
【0044】
次に、受波時に起こる超音波送受波器の感度変化について説明する。図13には、角度θと、超音波の反射率Rについて図12と同様のグラフを示している。
【0045】
図13より分かるように、環境流体温度が0℃と60℃の時の角度と透過効率の関係にほとんど違いがない。すなわち、環境流体から伝搬媒質部に伝搬する超音波は、環境流体の温度よらず、角度θが89度付近の時に反射率Rが0となって透過効率が最大となる。
【0046】
逆に言うと、受波時は環境流体の温度によらず、常に第2表面領域に対して89°前後の方向からの超音波のみが伝搬媒質内に透過してくるため、方向選択性の高い超音波受波器となりうる可能性がある。
【0047】
前述したように、環境流体から超音波が効率よく伝搬媒質部に透過してくる角度θは89度前後で温度によらず一定であるが、環境流体から伝搬媒質部に透過し、更に伝搬媒質部内を伝搬していく超音波の方向は環境流体の温度によって変化する。この伝搬媒質部内の超音波の伝搬方向が、環境流体の温度によって変化することが、受波時における超音波送受波器の感度変化の原因である。
【0048】
一般に、圧電体などを用いた超音波振動子では、超音波振動子への超音波の入射角度によって感度が異なる。入射角度が変わると超音波振動子へ入射する超音波の位相が、超音波振動子の超音波の入射位置によって変わり、その位相の違いによって、圧電体に発生した電荷が相殺されてしまうためである。
【0049】
すなわち、伝搬媒質部内に同じ強さの超音波が伝搬してきても、超音波振動子への入射角度によって、受波感度として評価する発生電圧が低下し、低下するレベルは超音波の入射角度によって異なるため、受波感度を高くすることができないか、あるいは超音波の強度に応じた受波感度が得られないという課題があった。
【0050】
また、温度変化が大きくなり屈折角度が大きく変化して伝搬媒質部へ入射した場合には、伝搬媒質部に入射した超音波が直接に超音波振動子に直接に到達せず、伝搬媒質部の側壁で多重反射するなどする場合があり、このような場合には、正しく伝搬してきた超音波を受波する事が出来ず、正しい超音波計測が出来なくなると言う課題があった。
【0051】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、温度などの環境流体の変化に対して、安定的に高感度を得られる超音波送受波器を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0052】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0053】
本発明の第1態様にかかる超音波送受波器は、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記超音波振動子は超音波の送波又は受波の指向性を制御する指向性制御部をさらに備えるように構成している。
【0054】
本発明の第5態様にかかる超音波送受波器は、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記伝搬媒質部の音速を変化させる音速制御部をさらに備えるように構成している。
【0055】
本発明の第11態様にかかる超音波送受波器は、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記超音波振動子の超音波送受波面は凸面型又は凹面型の曲面である。
【0056】
本発明の第12態様にかかる超音波送受波器は、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面は凸面型又は凹面型の曲面である。
【発明の効果】
【0057】
本発明の超音波送受波器によれば、前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成した状態で、前記超音波振動子は超音波の送波又は受波の指向性を制御するか、又は、前記伝搬媒質部の音速を変化させるか、又は、前記超音波振動子の超音波送受波面は凸面型又は凹面型の曲面に形成するか、又は、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面は凸面型又は凹面型の曲面に形成することにより、環境流体の温度などの変化に対しても安定に、高感度に超音波を送受波しうる超音波送受波器を実現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明の実施形態を説明する前に、本発明の種々の態様について説明する。
【0059】
本発明の第1態様によれば、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記超音波振動子は超音波の送波又は受波の指向性を制御する指向性制御部をさらに備える超音波送受波器を提供する。
【0060】
本発明の第2態様によれば、前記超音波振動子を複数備えるとともに、
前記指向性制御部は、送波の場合には、前記複数の超音波振動子のうちの隣り合う超音波振動子の駆動タイミングをずらし、受波の場合には、前記複数の超音波振動子のうちの隣り合う超音波振動子の受波信号の加算タイミングをずらすことにより、送波の場合及び受波の場合の超音波の波面の位相を制御することにより、前記超音波の送波又は受波の指向性を制御する第1の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0061】
本発明の第3態様によれば、前記環境流体の温度を測定する温度計をさらに備え、
前記指向性制御部は、前記温度計で測定された前記環境流体の温度の情報を基に、前記超音波の波面の位相を制御する第2の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0062】
本発明の第4態様によれば、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射した超音波を受波する反射超音波受波装置をさらに備え、
前記指向性制御部は、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射して前記反射超音波受波装置で受波された反射超音波の情報に基づいて前記超音波の波面の位相を制御する第2の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0063】
本発明の第5態様によれば、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記伝搬媒質部の音速を変化させる音速制御部をさらに備える超音波送受波器を提供する。
【0064】
本発明の第6態様によれば、前記音速制御部は、前記伝搬媒質部の温度を調整する温度調節部により構成され、前記温度調節部により、前記伝搬媒質部の温度を変化させて前記伝搬媒質部の音速を変化させる第5の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0065】
本発明の第7態様によれば、前記音速制御部は、前記伝搬媒質部を圧縮、又は伸張させるアクチュエータにより構成され、前記アクチュエータにより、前記伝搬媒質への加圧力又は伸張力の付与により前記伝搬媒質部の音速を変化させる第5の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0066】
本発明の第8態様によれば、前記アクチュエータは、前記伝搬媒質部の側面と接するように配置される第7の態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0067】
本発明の第9態様によれば、前記環境流体の温度を測定する温度計をさらに備え、
前記音速制御部は、前記温度計により測定された前記環境流体の温度の情報に基づいて前記伝搬媒質部の音速を変化させる第5〜8のいずれか1つの態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0068】
本発明の第10態様によれば、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射した超音波を受波する反射超音波受波装置をさらに備え、
前記音速制御部は、前記伝搬媒質部と前記環境流体との界面で反射して前記反射超音波受波装置で受波された反射超音波の情報に基づいて前記伝搬媒質部の音速を変化させる第5〜8のいずれか1つの態様に記載の超音波送受波器を提供する。
【0069】
本発明の第11態様によれば、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記超音波振動子の超音波送受波面は凸面型又は凹面型の曲面である超音波送受波器を提供する。
【0070】
本発明の第12態様によれば、環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面は凸面型又は凹面型の曲面である超音波送受波器を提供する。
【0071】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態による超音波送受波器を説明する。
【0072】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態における超音波送受波器の構成を示す斜視図である。本第1実施形態における超音波送受波器1は、複数の超音波振動子2と、伝搬媒質部3から構成されている。超音波送受波器1の周りは環境流体4で満たされている。伝搬媒質部3は、超音波振動子2の振動面に平行な面(第1表面領域31)と周囲空間を満たす環境流体4と接する面(第2表面領域32)とを有し、それぞれの超音波振動子2の振動面と第1表面領域31で接合している。第1表面領域31と第2表面領域32は図1に示すように、平行でない所定の角度を持って形成されている。一例として、各超音波振動子2は細い長方形板状体であり、伝搬媒質部3は台形側面を有する角柱体である。伝搬媒質部3の底面である第1表面領域31には、等間隔に一方の端から他方の端まで超音波振動子2が配置されている。後に詳しく述べるが、5は送受波される超音波5の伝播方向を示しており、本第1実施形態においては図1に示すような方向の超音波5が送受波される。
【0073】
また、図1に示すように、互いに直交するXYZ方向を設定する。すなわち、X方向は超音波振動子2の配列方向(幅方向)であり、Y方向は超音波振動子2の長手方向すなわち長さ方向、Z方向は超音波振動子2の厚さ方向である。
【0074】
図2には、図1に示した超音波送受波器1の構成及び動作をより理解しやすく説明するため、XZ平面で切断した断面図を示す。また、図2には図1には図示していない構成である送受波回路7と、温度計8と、指向性制御部の一例として機能する制御回路9と、各構成をつなぐ信号線6を示している。全ての超音波振動子2は送受波回路7と接続され、送受波回路7と温度計8は制御回路9に接続されている。この指向性制御部は、詳しくは後述するように、環境流体4の温度に合わせて、送波時においては超音波の送波方向を制御し、受波時においては受波方向の指向性を制御するものである。
【0075】
なお、本出願の明細書及び請求の範囲で、「周囲空間を満たす環境流体」とは、少なくとも伝搬媒質部3と環境流体4で作る界面である、第2表面領域32に接する流体を意味し、必ずしも超音波送受波器1の周囲全てを満たす流体を意味するものではなく、その周囲の一部を満たす流体を意味するものである。
【0076】
図2を参照して本第1実施形態の超音波送受波器1をより詳細に説明する。
【0077】
各超音波振動子2は、電気信号を超音波振動に変換、あるいは超音波振動を電気信号に変換する役割をするもので、圧電性を有する材料から形成されている。各超音波振動子2のZ方向の上下面には図示していない電極が設けられており、この方向に分極処理がされている。各超音波振動子2は電極間に印加される信号に基づいて超音波を放射し、超音波を受けた場合には、電極間に電圧信号を発生させる事で超音波の検出を行うものである。
【0078】
本第1実施形態では、超音波振動子2に一例として用いる圧電体の材料は任意であり、公知のものを用いる事が出来る。圧電体は圧電性を有する材料から構成され、圧電性能が高いものが超音波の送受波効率を高くする事ができるため望ましい。圧電体材料としては、圧電セラミック、圧電単結晶、又は圧電高分子などが有効に利用される。本第1実施形態の1つの実施例では、圧電性の高い圧電セラミックであるチタン酸ジルコン酸鉛セラミックスを用いている。電極としては電気インピーダンスの低い一般的な金属が用いられるが、本第1実施形態の1つの実施例では銀を用いている。
【0079】
また、超音波振動子2として電歪体を用いる事もでき、電歪体の材料も公知のものを用いる事が出来る。電歪体を用いる場合にも、圧電体の場合と同様に電歪効果の大きな材料が、送受波効率を高くする事が出来るため好ましい。
【0080】
各超音波振動子2の前面には、各超音波振動子2で発生した超音波を環境流体4へ伝播させる、あるいは環境流体4を伝搬してきた超音波をそれぞれの超音波振動子2へ伝搬させるための伝搬媒質部3が設けられている。伝搬媒質部3は、従来の技術にも述べたように(数2)に示した条件、すなわち、伝搬媒質部3の密度ρ、前記伝搬媒質部3における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体4の密度ρ、前記環境流体4における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1を満足する材料で構成される必要がある。
【0081】
本第1実施形態では、特許文献1と同様に、伝搬媒質部3としてシリカ乾燥ゲルを使用する場合について説明する。伝搬媒質部3に用いたシリカ乾燥ゲルは、密度ρ=0.20×10kg/m、音速C=180m/sである。
【0082】
また、環境流体4の密度ρ及び音速Cは、先の「発明の開示」の「発明が解決しようとする課題」の欄の中で述べたように、環境流体4の温度によって変化し、たとえば0〜60℃の範囲においては、ρ=1.060〜1.293kg/m、C=331.5〜367.5m/sの間で変化し、0〜60℃の温度範囲においては(数2)の関係を満足している。すなわち、第2表面領域32において完全に超音波が透過する条件を満たす角度を有する条件となっている。
【0083】
他の材質を環境流体4や、伝搬媒質部3に用いる場合にも、使用する全ての温度範囲において(数2)の関係を満足するように設定する必要がある。
【0084】
伝搬媒質部3の形状は、図1〜図2に示すように、超音波振動子2の振動面と平行な面(第1表面領域31)と、それに対向する平行でない面(第2表面領域32)を有している。この超音波振動子2の振動面と平行な面(第1表面領域31)に対する、前記対向する平行でない面(第2表面領域32)の角度が、前述のように角度θを決定する。超音波送受波器1の性能が、この角度によって大きく変動する可能性があるため、第2表面領域32は精密に形成される必要がある。
【0085】
本第1実施形態においては、送受波する超音波の周波数は約50kHzとしている。超音波振動子2に用いている圧電体は、その厚さ方向(Z方向)に分極された2枚の圧電体が分極方向を逆にして貼り合わせた形態の圧電体(バイモルフ型)を用いている。バイモルフ型圧電体は、電界を受けた際に発生する二つの圧電体の長さの差をたわみに変える振動に変えて超音波は送受波するものである。
【0086】
バイモルフ型振動子は主にZ方向とY方向の長さによって、その共振周波数が決まるものである。本第1実施形態の前記実施例で用いているチタン酸ジルコン酸鉛では、Z方向の長さが1mm、Y方向の長さが5mmの時に、約50kHzの共振周波数を持ち、電気と機械すなわち超音波の変換効率が高くなるため、このような形状とした。
【0087】
図1及び図2に示した複数の超音波振動子2は、送波及び受波する超音波の方向を制御する、あるいは受波した超音波を方向によらず高感度に受波しうる目的のために設けているが、この超音波振動子2の配列ピッチ、すなわちX方向の長さと、超音波振動子2の間隔を足した長さは、超音波の送波又は受波可能な方向と関係がある。
【0088】
ここで、図3Aに、複数の超音波振動子2を用いて、超音波振動子2の振動面(第1表面領域31)に対して角度θだけ向きの異なる超音波を送受波する場合を模式的に示す。
【0089】
図3Aに示した点線37は、複数の超音波振動子2を同一位相の電気信号で駆動した場合の、超音波の波面、あるいは超音波振動子2の振動面に平行な超音波が入射してきた場合を示している。また、点線で示した矢印5Aは、この超音波の進行方向を示している。
【0090】
また同様に、超音波振動子2の振動面(第1表面領域31)に対して角度θだけ傾いた波面を持つ超音波の同一波面を、一点鎖線38で示している。同様に、一点鎖線の矢印5Bは、この方向の超音波の進行方向を示している。このように超音波振動子2の振動面(第1表面領域31)に対して傾いた方向の超音波を送受波する場合について説明する。
【0091】
送波の場合には、隣り合う超音波振動子2の駆動タイミング、受波の場合には、隣り合う超音波振動子2の受波信号の加算タイミングをそれぞれずらす事が、測定の基本にある。始めに、送波の場合について説明する。
【0092】
送波の場合には、超音波振動子2の駆動タイミングを、隣接する超音波振動子2の間でずらす方法を用いる。すなわち、隣接する超音波振動子2から送波される超音波の波面が、超音波振動子2の振動面から角度θだけ傾いた方向で一致するようにする。図3Aに示すように、隣り合う超音波振動子2から送波された超音波が、超音波振動子2の振動面に対して角度θの方向で位相が揃うようにするためには、(数6)の関係を満たす必要がある。
【0093】
【数6】


ここで、dは隣り合う超音波振動子2のx方向における中心間の距離であり、すなわち超音波振動子2の配列ピッチである。ここで、伝搬媒質部3内における音速をCとすると、(数6)に示した距離Lを超音波が伝搬するのにかかる時間Tは(数7)で表す事が出来る。よって、この時間Tの分だけ、駆動タイミングをずらして駆動する事で、振動面に対して角度θだけ傾いた波面を持つ超音波を送波出来るものである。
【0094】
【数7】


一方、受波の場合について説明する。送波の場合とは逆に、伝搬媒質部3を伝搬してきた超音波が超音波振動子2の一例である圧電体の表面まで到達し、超音波振動子2で受波された超音波振動が圧電体の圧電効果によって電気信号に変換され、送受波回路7で電気信号が加算されて計測が行われる。この電気信号を加算する際に、隣接する超音波振動子2からの電気信号を時間Tだけ、時間的にずらして加算する事で、角度θだけ傾いた方向の超音波を選択的に受波した事と同一となる。
【0095】
本第1実施形態における超音波振動子2の使用環境を、前述のように、例えば環境流体4の温度が約0℃から60℃の間の使用を想定した場合、その温度域においては、超音波の反射率Rが最も小さくなる角度θ、すなわち最も透過率が高くなる角度θは、図12に示したように、約29〜33°の間で、約4°の幅をもって変化することとなる。
【0096】
すなわち、反射率Rが最も低くなる角度は、環境流体4の温度に応じて変わり、仮に設定した本第1実施形態の条件(空気、0〜60℃)では、角度θが約31°を中心として、プラス、マイナス側とも約2°の幅において変化することとなる。
【0097】
反射率が低くなる適当な角度θから、環境流体4の温度変化により、わずかに最適な角度θが変わると急激に反射率が大きくなるため、安定な超音波の送受波を行うためには、温度に応じて送受波方向を変化させる事が必要である。
【0098】
ここで、超音波振動子2のX方向の長さの設定方法について説明する。本第1実施形態における超音波振動子2は複数あり、それぞれから送波される超音波の位相差を利用して、超音波の変更を行うものであるが、その場合には隣り合う超音波振動子の配列間隔に一定の規制が必要となる。これは意図した方向以外に各超音波振動子2から超音波の位相が揃い、強め合う方向が存在しないようにするためである。
【0099】
超音波を超音波振動子の振動面(第1表面領域31)の法線方向に対して−90〜+90°に超音波の方向を変向する必要がある場合には、超音波振動子2の配列間隔は波長の1/2以下とする必要があるが、本第1実施形態の場合には変更すべき角度が小さいため、超音波振動子2の配列する間隔は1波長以下程度で良い。
【0100】
変向すべき角度が大きい場合には、超音波振動子の配列ピッチを1/2波長以下とすることが望ましい。
【0101】
よって、本第1実施形態では超音波振動子2のx方向の長さを3mmとし、その間隔を0.3mmとしている。すなわち、超音波振動子2の配列ピッチを3.3mmとしている。これは、送受波する超音波の周波数が50kHzであり、伝搬媒質部3での音速が180m/sであるため、伝搬媒質部3内での波長は約3.6mmとなり、この1波長以下の配列ピッチを満足する。
【0102】
超音波振動子2は本第1実施形態においては16個配列しており、よって、超音波送受波器1のX方向の長さはおよそ24mmである。超音波振動子2の配列数は各超音波振動子2から送信された超音波が干渉し合い、平面波として伝搬していく必要性からその数が決められており、その数が少ない場合には球面波に近くなるためある程度の数(10個程度)が最低必要である。
【0103】
本第1実施形態では、最大で中央から片側2°の超音波の方向に角度変化をつけるが、2°以下の角度変化を設定するためには、同様に(数6)によって制御回路9で算出される、距離Lに相当する駆動タイミングを設定することで必要な角度方向への超音波の送波を実現することができる。
【0104】
以上で示した超音波の周波数や、角度θ、超音波振動子2の形状や、配列間隔などは環境流体4の種類や、伝搬媒質部3の材質などが変化すると変わるものであり、使用環境に応じて最適な設計値を選択設定する必要があり、本第1実施形態の値に限定されるものではない。
【0105】
以上のように、本第1実施形態における超音波振動子2は複数であり、それぞれが独立に送受波回路7と信号線6を介して接続されており、送受波回路7は複数の超音波振動子2の駆動電圧及び駆動タイミング、受波信号の加算タイミングを独立に制御できるように構成されていることで、送受波する超音波の方向を調整することが可能となっているものである。
【0106】
更に、送受波回路7は制御回路9に接続されており、制御回路9は各超音波振動子2に対する駆動電圧及び駆動タイミング、あるいは受波された超音波振動に基づく電気信号の処理方法を制御する命令を下す事が出来る。
【0107】
制御回路9には、環境流体4の温度を測定する温度計8が接続されている。温度計からの温度に基づいて、送波あるいは受波のタイミングを制御することで、安定して高感度な送受波を行うことができる。
【0108】
本第1実施形態における超音波送受器1の特徴は、環境流体4の温度に合わせて、送波時においては超音波の送波方向を制御し、受波時においては受波方向の指向性を制御することが可能なように構成されている点にある。
【0109】
まず、本第1実施形態の超音波送受波器1は、使用温度環境の中央値である温度30℃において複数の超音波振動子2を位相差無く駆動、あるいは受波信号の加算を行った場合に、送受波感度が高くなるように設定されている。
【0110】
より具体的には、温度30℃における環境流体4の一例である空気の密度ρ及び音速Cは、(数4)及び(数5)より、それぞれρ=1.165kg/m、C=349.5m/sであるため、(数8)より制御回路9で算出される送受波感度の高くなる角度θが約31°となるように作製されている。
【0111】
【数8】


以下、本第1実施形態における超音波送受波器1の動作方法を、図3Bを用いてより具体的に説明する。
【0112】
送波の場合には、始めに、温度計8により環境流体4の一例である空気の温度tが測定され(ステップS1)、その温度tの情報が制御回路9に送られる。制御回路9では、環境流体4の温度が計測可能範囲であるかを判定後(ステップS2)、環境流体4の温度が計測可能範囲外ならば、測定エラーとして(ステップS3)、再度、ステップS1に戻り、温度計8により環境流体4の一例である空気の温度tが測定される。なお、環境流体4の温度が計測可能範囲外のときは、エラー表示を繰り返す。
【0113】
一方、環境流体4の温度が計測可能範囲内ならば、環境温度tに基づいて環境流体4の音速C、密度ρを制御回路9で算出し(ステップS4)、この音速C、密度ρを用いて、更に(数8)に基づいて第2表面領域32とのなすべき最適な入射角度θを制御回路9で算出する(ステップS5)。
【0114】
こうして、ステップS4において制御回路9で算出した角度θを用いて、超音波振動子2に遅延の必要のない入射角度31°との差を取った角度θを制御回路9で求め(ステップS6)、角度θと超音波振動子2の配列ピッチd、伝搬媒質部3の音速Cを用いて、(数6)及び(数7)により、超音波振動子2を駆動するタイミングのズレ時間ΔTを制御回路9で算出する(ステップS7)。
【0115】
このズレ時間ΔTの情報が、更に制御回路9から送受信回路7に送られて複数の超音波振動子2が制御回路9の制御の下に駆動される。このズレ時間ΔTを制御することで、第2表面領域32における超音波の角度θを制御回路9で制御して、安定的に高感度な超音波の送波を行うことができる(ステップS8)。その後、再び、ステップS1からの動作を開始することにより、連続して、超音波送受波器1の送波動作を行うことができる。
【0116】
より具体的に、環境流体4の温度が30℃の時の動作について説明する。
【0117】
本第1実施形態の超音波送受波器1は超音波振動子2の振動面(第1表面領域31)と、第2表面領域32は31°の角度を持つように作成されているため、超音波は第1表面領域31に対して垂直な方向へ伝搬していく場合に、感度が最大となる。
【0118】
このような方向へ超音波を伝搬させるには、複数の超音波振動子2が位相差無く駆動すればよい。
【0119】
このように、本第1実施形態における超音波送受波器1の伝搬媒質部3は、環境流体4の温度が30℃の時に、複数の超音波振動子2に位相差無く駆動すると、効率良く超音波を環境流体4に対して送波出来るように伝搬媒質部3の材質及び形状が形成されている。
【0120】
逆に受波に際しては、環境流体4を伝搬してきた超音波のうち、第2表面領域32とのなす角度θが、ほぼ89°となるような超音波のみが選択的に伝搬媒質部3に透過してくる。第2表面領域32で屈折した超音波は角度θが31.0°となる角度を持って伝搬媒質部3を伝搬して複数の超音波振動子2へ到達する。
【0121】
この時には、複数の超音波振動子2に対して、位相差無く超音波が到達するため、受波回路においては、複数の超音波振動子2から得られた電気信号を、位相差無く加算する事で感度の高い超音波の受波が行われる。
【0122】
温度30℃における感度最大となる角度θが31°とした第2表面領域32を持つ伝搬媒質部3は、この角度に限定される物でなく、角度θが環境流体4の音速、密度と、伝搬媒質部3の音速、密度から(数8)によって決まる最適な角度θを満足するように、第2表面領域32の角度と超音波の伝搬方向を制御すればよいものである。本第1実施形態における超音波送受波器1は一例としての形態である。
【0123】
次に、環境流体4の温度が0℃と60℃の時の超音波送受波器1の動作について説明する。温度が0℃及び60℃の場合の動作を説明によって、超音波の変向角度が最も大きい場合を理解することで、その間の温度における動作はそれらの動作方法より容易に理解できる。
【0124】
温度30℃の時と同様に、温度計8により環境流体4の温度tが0℃であることが制御回路9に送られると、制御回路9はズレ時間差ΔTを制御回路9で算出して送受波回路7に送り出す。送受波回路7では制御回路9からのズレ時間差ΔTに基づいて複数の超音波振動子2を駆動して、送波された超音波が第2表面領域32に対して約29.0°の角度で到達するように制御することとなる。
【0125】
すなわち、第1表面領域31に対して図3Aの点線で示したように、左に傾き約2°の角度を持った波面の超音波が第2表面領域32に向かって伝搬していくようにする。
【0126】
より具体的に、本第1実施形態における超音波振動子2の駆動タイミングをずらす、ズレ時間差ΔTの値について説明する。
【0127】
超音波の振動面の垂直方向に対して2°の角度をつけるためには、隣り合う超音波振動子2から送波される超音波が複数の超音波振動子2の配列間隔と、変向すべき角度である2度より、約0.12mm(3.3mm×sin2°)の距離の差がつけられる事が制御回路9で算出される。
【0128】
そして、伝搬媒質部3の音速が180m/sであるので、実際に超音波振動子2に与える駆動信号の時間差は、距離L=0.12mmを、音速180m/sで割った計算により、約0.67μsとなる。
【0129】
このような時間差ΔT=0.67μsを、隣り合う超音波振動子2に与える駆動信号に設ける事で、環境流体4の温度が0℃の場合にも、適切な角度θを確保して、高効率な超音波の送波を行う事が出来る。
【0130】
この時間差ΔT=0.67μsは環境流体4に空気を用いて、第2表面領域32を第1表面領域31に対して31°の角度で形成した場合に、環境流体4が0℃の場合の解であって、他の環境流体や使用する温度環境、第2表面領域32の角度などによって随時変更されるものである。
【0131】
一方、受波の場合には、伝搬媒質部3の第2表面領域32から入射してきた超音波は、送波の場合とちょうど逆の経路を通って、超音波振動子2の振動面に対して図3Aの左側へ傾いた約2°の角度を持って入射してくる。各振動子2で受波された超音波を上記と同じ時間差(約0.67μs)をつけて加算することで、超音波の強度に応じた感度の高い超音波の受波が可能となる。
【0132】
次に、環境流体4の温度が60℃の時について説明する。60℃の時には、0℃の場合と同様に、温度計8により環境流体4の温度が60℃であることが制御回路9に送られると、送受波回路7は超音波振動子2からの超音波が第2表面領域32に対して33°の角度で入射するように制御される。すなわち、図2においては第1表面領域31に対して右側に傾いて約2°の角度を持った波面の超音波が第2表面領域32に向かって伝搬していくように制御する。
【0133】
環境流体4の温度が0度の場合とは反対側に、2°の角度を持って超音波を送波するためには、同様に各超音波振動子2から送波される超音波に、伝搬媒質部3内での距離の差が約0.12mmとなるように、駆動信号の時間差を約0.67μsとする。ただし、0℃の場合と逆の位相差を付ける事が必要である。
【0134】
このようにする事で、第1表面領域31から約2°の角度を持った超音波の波面が形成され、第2表面領域32に対して約33°の角度を持って入射する事となり、環境流体4に対して高感度な超音波の送波が可能となる。
【0135】
受波の場合にも、温度0℃の場合と同様に、各超音波振動子2で受波した超音波を、送波の場合と同様の時間差0.67μsを設けて加算する事で、高感度な超音波の受波を行う事が可能となる。
【0136】
以上のように、本発明の第1実施形態にかかる超音波送受波器1は、気体などの媒質に対して高感度に超音波を送受波しうる伝搬媒質部3を用いた超音波送受波器1において、環境流体4の温度変化に対しても、安定に高感度な超音波の送受波を行う事が可能となる超音波送受波器1を提供しうる。
【0137】
また、環境流体4の温度が0〜30℃、あるいは30〜60℃の間においては、温度に応じて、送波の場合には上述した間の駆動時間差を、受波の場合には受波した信号の加算時に所定の時間差を設けて測定する事により、安定して高感度な測定を実現することができる。
【0138】
この環境流体4の温度が0〜60℃の使用環境は、本第1実施形態をより具体的に理解するために設定したものであり、本第1実施形態の超音波送受波器1の使用環境が特にこの範囲に限定される物ではなく、使用環境に応じた超音波の変向を行うことで、温度変化に対して安定して高感度に超音波を送受波しうる超音波送受波器1を実現することができる。
【0139】
また、図1、図2に示した本第1実施形態における超音波送受波器1は、超音波振動子2と、伝搬媒質部3のみから構成されていたが、例えば図4Aに示すような更に別の部材を有する形態としても良い。
【0140】
すなわち、超音波送受波器1の強度を高めるため、隣接して配列されている超音波振動子2の間に充填材10を設けた構成としても良い。充填材10として充填する材料はゴムや樹脂などが、超音波振動子2の電気機械変換効率を低下させることなく、超音波送受波器1の強度を高める事が出来るため好ましい。充填材10に固い材料を用いると、超音波振動子2の変換効率が低下するため好ましくない。
【0141】
また、隣接する超音波振動子2の機械的、電気的なクロストークを防止するため、充填材10には超音波減衰の大きな材料を用いる事が望ましく、フィラーを混入したゴムなどを好適に用いることができる。
【0142】
また、超音波送受波器1の周波数特性を向上させる、あるいは超音波送受波器1の強度を向上させる、あるいは取扱いを容易にするために、超音波振動子2の背面に背面負荷材11を設けても良い。
【0143】
超音波振動子2の周波数特性を向上させるとは、すなわち超音波振動子2のQ値を低下させて広帯域な特性を持たせる事が目的である。本第1実施形態の超音波振動子2として圧電体を用いる場合には、共振現象を利用することで超音波振動の電気信号への変換効率を高めているため、Q値が高い。
【0144】
超音波振動子2の背面側に伝搬する超音波を減衰させてQ値を下げることが周波数特性の向上には有効である。背面負荷材11の材料は、超音波振動子2と背面負荷材11の界面での反射を防止するために、音響インピーダンスが超音波振動子2に近い材料が好ましく、また、超音波を十分に減衰させるため、超音波減衰の大きな材料が好ましい。このような材料としてフェライトゴム(鉄粉を分散させたゴム)などが好適に用いられる。
【0145】
また、超音波送受波感度の向上と、周波数特性の向上を目的として、超音波振動子2と伝搬媒質部3の間に音響整合層12を設けても良い。超音波振動子2の一例として用いられる圧電セラミックスの音響インピーダンスは約30×10kg/m/s程度であり、伝搬媒質部3として用いている乾燥ゲルは0.036×10kg/m/sである。1層の音響整合層12を設ける場合には、超音波振動子2の一例である圧電セラミックスと、伝搬媒質部3の一例である乾燥ゲルの中間の音響インピーダンスを持つ材料が望ましい。
【0146】
特に音響整合層12は、超音波振動子2の一例である圧電体と伝搬媒質部3の音響インピーダンスの積の幾何平均となる1.0×10kg/m/s程度の音響インピーダンスを持つ材料が好ましく、この音響インピーダンスを実現する材料としては、密度が約0.60×10kg/mであり、音速が約1600m/s程度であるシリカからなる多孔質セラミックスなどを用いる事が出来る。音響整合層12は単層ではなく、複数層であっても良く、多層にした場合には、更に高感度化、広帯域化をすることができる。
【0147】
また、本第1実施形態で伝搬媒質部3の一例として用いている乾燥ゲルは、密度が低く、音速が遅いため、強度が低い。伝搬媒質部3の破損を防止し、超音波送受波器1の取扱い性を向上するために、超音波送受波器1の外周部分に保護部13を設けるなどをしても良い。保護部13は、伝搬媒質部3のみを覆うのではなく、超音波振動子2の部分などをも覆ってもよい。超音波の伝搬する経路を妨害しなければ良く、形状に超音波送受波器1の性能上の制約はない。
【0148】
図4Bに、保護部13の形態をより理解し易くするため、超音波送受波器1の斜視図を示す。図4Bにおいては、保護部13は図4Bに示すように、伝搬媒質部3の音波の放射面以外の周囲すべてを覆ってもよい。また、伝搬媒質部3にある程度の強度がある場合には、図4Cのように一方向のみを覆う形状(例えば、超音波送受波器1の上面及び両側面を除く前面及び後面及び下面を覆うように横断面が大略L字形状)としても良く、適宜、製造のしやすさ、コストなどを勘案して設計することができる。伝搬媒質部3の強度が低い場合には、図4Bの形状が取り扱いや、信頼性の面で高いので好ましい。
【0149】
保護部13に、音響整合層12として用いた多孔質セラミックスを用いると、アンカー効果により、乾燥ゲルとの結合が強く好適であり、更に音響整合層12と一体化することにより、製造プロセスの簡素化が図れるため、超音波送受波器1の製造コストの低減も実現できる。
【0150】
また、保護部13に、環境流体4の温度を測定する温度計8を装備すれば、音響的な妨げとならず、温度計8と一体化した使用しやすい超音波送受波器1を構成できる。保護部13は、超音波の伝搬経路を妨げないように構成する事が、高感度な送受波をする上で重要である。温度計8は、図4Bのように音波を送受波しない側の保護部13の一部に設けても良いし、あるいは図4Dのように、音波を放射しない側の全面に渡って設けてもよく、あるいは図示していないが、直交する側の保護部13の上面に設けても良い。すなわち、用いる温度計8の性能や、必要な温度精度、あるいは温度の空間分布の必要性などに応じて設置をすることができる。
【0151】
[第2実施形態]
図5Aを参照しながら、本発明の第2実施形態における超音波送受波器の構成及び動作について説明する。本第2実施形態における超音波送受器1Aは、第1実施形態で示した温度計を有せず、複数の超音波振動子2の駆動、あるいは受波信号の加算時のタイミングを制御する情報(ズレ時間ΔT)を、超音波振動子2自身の受波信号、あるいは検知用超音波振動子14により得ることが特徴であり、これ以外は第1実施形態と同様の構成、及び動作である。本第2実施形態における超音波送受器1Aでは、この複数の超音波振動子2の駆動、あるいは受波信号の加算時のタイミングを制御する情報(ズレ時間ΔT)を取得するため反射超音波受波装置を備えており、反射超音波受波装置の例としては、超音波振動子2自身により構成するか、又は、超音波振動子2とは別個に備えられた検知用超音波振動子14により構成することができる。そして、前記指向性制御部の一例として機能する制御回路9は、前記伝搬媒質部3と前記環境流体4の界面で反射して前記反射超音波受波装置で受波された反射超音波の情報に基づいて前記超音波の波面の位相を制御するように構成している。
【0152】
ある温度において超音波振動子2より送波された超音波5が、伝搬媒質部3を伝搬して、第2表面領域32に到達すると、角度θが最適な角度に設定されている場合には、殆ど全ての超音波5が第2表面領域32を透過して、環境流体中に伝搬していくため、送波した超音波5の反射波が超音波振動子2で観測されることは無い。
【0153】
ところが、環境流体4の温度が変化して、第2表面領域32での最適な角度θが変化すると、超音波5が第2表面領域32において環境流体4へ透過できなくなって反射するため、図5Aに実線の矢印5Gで示すように、第2表面領域32で反射した超音波5Gが、再び伝搬媒質部3の内部を伝搬することになる。
【0154】
反射して伝搬媒質部3を伝搬する超音波5Gは反射面の幾何学的な形状によって、超音波振動子2に戻って超音波信号として観測されることとなる。この反射超音波5Gの受波情報に基づいて、超音波振動子2の駆動タイミングを調整することで、常に第2表面領域32での反射が低くなるように超音波5の入射角度θを設定することができ、安定した高感度な超音波の送波を行うことができる。
【0155】
図5B及び図5Cを用いて超音波の送信方向を決めるための反射信号についてより具体的に説明する。図5B及び図5Cは超音波振動子2の送波時の波形について模式的に示したものであり、横軸は時間、縦軸は信号の大きさを示している。図5Bは、第2表面領域32で殆ど超音波5が反射されず、高感度な超音波の送波を行えている場合である。図5Bの始めの波形が送波した超音波5の信号で、伝搬媒質部3の内部での反射が起こらないため、その後に続いて超音波5Gが観測されることはない。
【0156】
一方で、環境流体4の温度が変化して、第2表面領域32で超音波5Gが反射した場合は図5Cのように送波した超音波5の信号の後に、さらに反射してきた超音波5Gの信号が観測される。この反射信号のレベルが低減するように、超音波の角度を調整する必要がある。
【0157】
この反射信号のレベルが低減するように超音波の角度を調整する具体的な手順を図5Dに示す。
【0158】
図5Dは超音波の方向を変える手順を示すフローチャートで、図5Dに示す手順で反射信号が観測されなくなるまで駆動タイミングを変化させる方法で、高感度な超音波の送受波が可能となる。
【0159】
超音波の伝搬方向の変化は先に述べたように、複数の超音波振動子2を駆動するタイミングを制御することで行う。このように超音波振動子2の反射信号レベルを低減するように超音波の方向を制御することで、安定して高感度な超音波の送波を行うことができる。
【0160】
具体的な手順について図5Dを用いてより詳細に説明する。図5Dでは、制御回路9に接続された検知用超音波振動子14を持つ場合について説明する。
【0161】
始めに、超音波送受波器1Aより超音波5を送波する(ステップS21)。この際には、複数ある超音波振動子2の駆動信号には時間差は設けておらず、超音波振動子2の面に対して平行な波面が送波される。こうして送波された超音波5が図5Aの5Gのように第2表面領域32で反射すると、検知用超音波振動子14で受波される(ステップS22でYES)。超音波が反射しない場合には検知用超音波振動子14で超音波が受波されない(ステップS22でNO)ため、この場合には、制御回路9の制御の下に、駆動信号の時間差を設けることなく、ステップS21に戻り、再び超音波5を送波する。
【0162】
反射信号が観測された場合には(ステップS22)、制御回路9で超音波振動子2を駆動する信号に時間差を付けて、超音波5の伝搬方向を変える(ステップS23)。制御回路9で、図5Aに示した複数の超音波振動子2の右側を先に駆動し、順次、左側の超音波振動子2を駆動する(ステップS23)。この場合を、駆動信号のタイミングをプラス側にずらすと定義する。この場合には、超音波5は、制御回路9で、図5Aにおいて超音波振動子2の振動面に対して垂直な方向から右へ傾いた方向の超音波5が送波されることとなる。
【0163】
一方、逆に、制御回路9で、複数の超音波振動子2の左側を先に駆動し、順次、右側の超音波振動子2を駆動する(ステップS23)。この場合を、駆動信号のタイミングをマイナス側にずらすと定義する。この場合には、制御回路9で、図5Aにおいて超音波振動子2の振動面に対して垂直な方向から左へ傾いた方向の超音波5が送波されることとなる。
【0164】
それぞれの超音波振動子2を駆動する信号の時間差は、送信回路7の有する離散化された時間計測精度によって決まる物であり、最小の時間差を制御回路9で整数倍することによって設定されるものである。ここで、最小の駆動時間差をTaとして定義することとする。
【0165】
この最小の駆動時間差Taをプラス側、マイナス側に設定して超音波を制御回路9で送波して(ステップS23)、それぞれの場合の反射波の計測を行う。この時の反射波のレベルの比較を制御回路9で行い(ステップS24)、どちらかの反射信号が観測されなければ、反射信号の観測されない伝搬時間差で再び超音波の送波を制御回路9で行って計測を継続する(ステップS25)。
【0166】
ステップS24で、どちらも反射信号が観測される場合には、その反射信号のレベルを制御回路9で比較して、反射信号のレベルが低い側に、更に駆動時間差をプラス側あるいはマイナス側に制御回路9で増やして、すなわち、より角度をつけた超音波を制御回路9で送波する(ステップS26)。伝搬時間差の増やし方は、最小の駆動時間差Taの整数倍、すなわち、2*Ta,3*Taと順に制御回路9で増やしていく。
【0167】
更に、この場合の受信信号を観測し(ステップS27)、反射信号が観測されなくなった場合には、制御回路9で、この駆動時間差で再び超音波の送波を行って計測を継続する(ステップS28)。
【0168】
ステップS27で反射信号レベルが減少している場合には、制御回路9で、更に駆動時間差を増やして、超音波の送波を制御回路9で行い(ステップS29)、同様に前の駆動時間差の場合の反射信号レベルと制御回路9で比較して(ステップS27)、反射信号が観測されなくなるまで、同様の手順によって超音波の送波を制御回路9で行う。
【0169】
一方、この手順の間に反射信号レベルが増加する場合には、最小の駆動時間差Taで設定しうる角度以下の制御によってしか、反射信号を0にすることができないため、反射信号の最小となる駆動時間差によって超音波の送波を制御回路9で行い(ステップS30)、最大のSNが得られる状態での計測を行う。
【0170】
また、受波の場合について述べる。超音波振動子2で受波される超音波は、基本的に送波される超音波と同じ経路(同じ角度θ)で伝搬媒質部3に入射される。このため、送波と受波を交互に繰り返して測定を行う(パルスエコー法)タイプの本第2実施形態の超音波送受波器1Aにおいては、この送波の駆動タイミングを制御回路9で制御する情報に基づいて、受波した超音波信号の加算時のタイミングを制御回路9で制御することで高感度な超音波の送受波を行うことができる。
【0171】
また、図5Aに示すように、超音波振動子2以外に反射超音波を検知するための検知用超音波振動子14を用いても良い。
【0172】
送信信号の尾引が長く、送信信号に反射信号が埋もれてしまうような場合には検知用超音波振動子14の採用が反射信号の検知に効果的である。また、送受波する超音波振動子2よりも時間的に早く反射超音波を検知することができるため、超音波測定の繰り返しを早くすることができ、よりリアルタイムな計測が可能となる。
【0173】
検知用超音波振動子14は、超音波振動子2と同様に圧電効果を利用して超音波振動を電気信号に変えるものであり、これは受信専用であるので、受信感度の高さを示す指標であるd定数が大きい材料を用いることが好ましく、たとえば高分子圧電材料などを好適に用いることができ、より具体的には例えばポリビニリデンフロオライド(PVDF)などを用いることが材料選択上好ましい。
【0174】
検知用超音波振動子14は、伝搬媒質部3の側面(第1表面領域31と、第2表面領域32の側面)に取り付けられる。このように配置すれば、第2表面領域32で反射した超音波を観測するまでの時間を短縮することができるため、繰り返しの早い超音波の送波を行うことができ、より短時間での測定を行うことができる。
【0175】
[第3実施形態]
図6Aを参照して、本発明の第3実施形態の超音波送受波器1Bを説明する。本第3実施形態の超音波送受波器1Bは、制御回路9に接続されかつ伝搬媒質部3の温度を調整する温度調節部15を有していることに特徴がある。
【0176】
また、本第3実施形態における超音波振動子2は一組の電極を持つだけであり、送受波する超音波を電子的に変向する機能を有していない。よって、環境流体の温度変化に応じて超音波送受波方向を変えて、安定した超音波の送受波を行うことはできない。
【0177】
本第3実施形態の超音波送受波器1Bでは、環境流体4の温度変化に応じて伝搬媒質部3の温度、すなわち音速を変化させて第2表面領域32における角度θを一定に保つよう構成されていることに特徴がある。すなわち、本第3実施形態の超音波送受波器1Bでは、第2表面領域32における角度θを一定に保つようにするため、前記伝搬媒質部3の音速を変化させる音速制御部を備えるものであり、温度調節部15と制御回路9は音速制御部の一例として機能する。
【0178】
このような本第3実施形態の超音波送受波器1Bについて説明する。本第3実施形態における超音波振動子2や、伝搬媒質部3の材質は第1実施形態及び第2実施形態と同様である。温度調節部15は、超音波伝搬の妨げにならないように、伝搬媒質部3の側面に接するように設けられ、加熱又は冷却することにより、伝搬媒質部3の温度を変化させることができるようになっている。
【0179】
温度調節部15はヒータなどの抵抗加熱素子やペルチエ素子など、伝搬媒質部3に対して行う温度変化の範囲やレベルに応じた機能を有するデバイスを適時選択する事が出来る。温度調節部15は、制御回路9の制御の下に、なるべく短時間に、伝搬媒質部3全体を均一に設定温度にできる事が好ましく、図6Bに示すように、例えば伝搬媒質部3の周囲を囲むように形成されても良い。図6Bは断面表示であるが、伝搬媒質部3の紙面における手前と奥側の両側面も温度調節部15で囲まれている形態を示している。
【0180】
また、多孔質体である伝搬媒質部3に対しては、冷却、あるいは加熱された流体を送り込むことも温度制御に有効であり、加熱あるいは冷却された流体を送り込む、あるいは吸引するポンプなども温度調節部15として使用する事が出来る。この際には、温度変化のみでなく、異なる流体が充填されることによる音速変化が生じる可能性があるので注意を要する。
【0181】
本第3実施形態の超音波送受波器1Bは、多数の超音波振動子2を持ち、これを電子的に制御して、超音波の変更を行うタイプの超音波送受波器1Aに比べ、低コストで提供できるという点で有利である。
【0182】
角度θを一定に保ち、安定な超音波送受波を行う方法について述べる。前述のように伝搬媒質部3と環境流体4の界面(第2表面領域32)における超音波の反射率Rは(数1)で表される。
【0183】
また、(数2)により、反射率Rを0とする条件が決まり、その反射率を0とする角度θは、伝搬媒質部3及び環境流体4の密度と音速、ρ、ρ、C、Cを用いて(数8)で示される。
【0184】
環境流体4の密度ρ、音速Cは温度の関数として(数4)及び(数5)のように表す事ができ、密度ρ、音速Cが変化した場合の角度θの変化を最小限に抑えるためには、伝搬媒質部3の密度ρ、音速Cを環境流体4の密度ρ、音速Cの変化に合わせて変える必要がある。
【0185】
ここで、伝搬媒質部3の材質の一例であるシリカ乾燥ゲルについては、温度tと密度ρ、音速Cの間に(数9)及び(数10)のような関係がある。固体についても気体と同様に一般に温度に応じて密度が減少し、音速が上昇する。
【0186】
【数9】

【0187】
【数10】


ここで、実験的に密度ρは殆ど変化しない事が分かっているため、常数α=0として密度ρは一定値として取り扱う。一方で、音速Cは温度によってわずかに変化する。
【0188】
図7に環境流体4及び伝搬媒質部3の温度と、第2表面領域32における角度θの関係を示す。図7では(数8)において、伝搬媒質部3の音速Cを(数10)に基づいて変化させたときの、角度θの変化を計算したものである。
【0189】
伝搬媒質部3の温度が環境流体4と同じ温度で変化した場合には、図7に示したグラフにより、常数β=0.3近傍で角度θの変化が極めて小さくなる事が分かる。
【0190】
よって、伝搬媒質部3に、一例として、このような特性を持つ乾燥ゲル材料を選択する。通常の乾燥ゲルに対し、このような材料とするためには温度によって音速が変化しやすいように、規則正しいシリカ骨格の構造を乱すような分子を入れることが有効である。
【0191】
あるいは材料を変更することが困難な場合には、常数βの値に応じた温度変化を与えるようにする事で角度θを一定に保ち、安定した高感度な超音波の送受波を行う事が出来る。常数βの値に応じた温度変化の与え方とは、仮に常数β=0.03程度の材料で伝搬媒質部3が構成されている場合には、環境流体4の温度変化の10倍の温度変化を伝搬媒質部3に与えることで、伝搬媒質部3の音速は角度θを一定とする音速になりうる。
【0192】
ここで、より具体的に、図6Cを用いて伝搬媒質部3の温度をどのように変化させるかの手順を説明する。この場合、伝搬媒質部3は温度に対して(数10)に従って変化する音速を有する材料である。ここでは、仮にβ=0.1として設定された材料を用いて説明する。環境流体4は空気であり、(数4)によって音速が変化する。
【0193】
ここで、本第3実施形態の超音波送受波器1Bでは、温度30度において超音波の送受波が効率良く行われるように、第1表面領域31と第2表面領域32は約31度の角度を持って形成されている(ステップS41)。
【0194】
始めに、温度計8によって環境温度が計測されると、測定された温度tに対する環境流体4の音速Cが制御回路9で算出される(ステップS42)。例えば温度が30度から31度へ1度変化した時には、音速が349.5m/sから350.1m/sへ変化することとなる。
【0195】
この時、超音波の最適な送受波が可能となる角度θは伝搬媒質部3の音速が環境流体4と同じ温度変化をする場合には、183m/sから183.1m/sへ変化することとなる(ステップS43)。
【0196】
温度30度においては角度31.57度が最適な角度θであったのに対し、31度では最適な角度θは31.53度へと変化する。最適な角度θ=31.57度を保つためには、温度31度の環境流体4の一例である空気(音速350.1m/s)に対して伝搬媒質部3の音速を183.3m/sとする必要があり、このためには、伝搬媒質部3の温度を33度とする必要がある(ステップS44)。よって、制御回路9の制御の下に、温度調節部15により伝搬媒質部3の温度を33度として、最適な角度θを31.57度に保つものである(ステップS45)。環境流体4の温度がより大きく変化しても、同様にこのような制御を行って超音波が効率良く送受波できるように制御する。以後、連続して超音波の送受波を行う場合には、ステップS42〜S45を繰り返せばよい。
【0197】
本第3実施形態では伝搬媒質部3の一例として乾燥ゲルを用いた例を説明したが、環境流体4との関係において(数2)を満たす材料から伝搬媒質部3が構成されていればよく、乾燥ゲルに材料が限定されるものではない。
【0198】
[第4実施形態]
図8Aを参照して、本発明の第4実施形態の超音波送受波器1Cを説明する。本第4実施形態の超音波送受波器1Cは、伝搬媒質部3の側面に伝搬媒質部3を圧縮、又は伸張させるアクチュエータ16を制御回路9と接続して設けた事に特徴があり、それ以外は第3実施形態の超音波送受波器1Bと同様の構成及び動作をするものである。このアクチュエータ16と制御回路9は、前記音速制御部の別の例として機能するものである。
【0199】
第3実施形態においては伝搬媒質部3の温度を調節して音速を変化させることで、第2表面領域32における角度θを一定に保ったのに対し、本第4実施形態では、伝搬媒質部3を圧縮、あるいは伸張することで音速を変化させて角度θを一定値に保ち、安定した送受波動作を可能とするものである。
【0200】
図8Aに示したような伝搬媒質部3の側面に設けられたアクチュエータ16によって、制御回路9の制御の下に、伝搬媒質部3に対して圧縮あるいは伸張方向の応力を加えるものである。アクチュエータ16は、たわみ変形をして伝搬媒質部3に力を与えるように構成されており、たとえば圧電体と金属板のような材料を貼り合わせたユニモルフ型のアクチュエータ、あるいは反対の分極方向を持つ圧電体を2枚貼り合わせたバイモルフ型アクチュエータなどを用いることができる。
【0201】
あるいは、図4Aに示した保護部13の側面に、さらに、圧電体などから形成されるアクチュエータ16を接合することで、変形するアクチュエータと変形しない保護部13とのサイズの差を利用したたわみ変形を伝搬媒質部3に与えることができ、音速を変化させることができる。このような形態の一例を図8Bに示す。このような形態の超音波送受波器1Cは、図8Cのようにアクチュエータ16が屈曲することで伝搬媒質部3に力を加えて、伝搬媒質部3の固さ、すなわち伝搬媒質部3内での音速を変化させることができる。
【0202】
実際の音速制御方法について、図8Dを用いて説明する。なお、温度30度において超音波の送受波が効率良く行われるように、第1表面領域31と第2表面領域32が最適な角度を持って形成されている(ステップS51)。
【0203】
始めに、温度計8により環境流体4の温度tが計測され、環境温度tの音速Cが制御回路9で算出される(ステップS52)。この情報に基づいて、超音波を高効率に送受波するために必要な伝搬媒質部3の音速Cが制御回路9で算出される(ステップS53)。
【0204】
この伝搬媒質部3の音速値に基づいて、伝搬媒質部3の音速が所定の値となる固さ、すなわち弾性率Kが制御回路9で算出される(ステップS54)。以下、弾性率Kとなるアクチュエータ16の圧縮力F、圧縮力Fとなる印加電圧Vが制御回路9で算出され(ステップS55及びS56)、制御回路9での制御の下に、実際に電圧がアクチュエータ16に印加されて、アクチュエータ16を変形させて、伝搬媒質部3へ力を加えて音速を変化させるものである。以後、連続して音速制御を行う場合には、ステップS52〜S56を繰り返せばよい。
【0205】
伝搬媒質部3にシリカ乾燥ゲルなどを一例として用いた場合には、常に圧縮方向に圧力を印加して音速を変化するように設計することが望ましい。シリカ乾燥ゲルは圧縮方向の力には変形をし、その力が解除された時には再度元の形状に戻り、何度でも繰り返し力を受けて音速を変化させることができるのに対し、引っ張り方向の変形に対しては、比較的弱い力で破壊してしまい、伝搬媒質部3の音速を変化させることができなくなるためである。
【0206】
よって、伝搬媒質部3であるシリカ乾燥ゲル材料は、想定している使用温度領域の最も音速の遅い温度0℃に合わせた設計をして、この温度域において力を加えずに高感度な超音波の送受波が可能なように設計し、環境流体4の温度が上昇した場合には圧縮方向の力を伝搬媒質部3に加えて、角度θが変化しないように音速を調整する方法が望ましい。
【0207】
本第4実施形態では、伝搬媒質部3の一例として乾燥ゲルを用いた例を説明したが、環境流体4との関係において(数2)を満たす材料から伝搬媒質部3が構成されていればよく、乾燥ゲルに材料が限定されるものではない。
【0208】
また、図8Aでは伝搬媒質部の一組の対向する面にのみアクチュエータ16を設けたが、それと直交する面に対してアクチュエータ16を設けても良い。この場合には一つのアクチュエータ16の場合に比較して、更に大きな圧力を伝搬媒質部3に印加することが可能であるため、低電圧で所望の制御を行うことができ、低コスト化が図れるか、あるいは同じアクチュエータ16を用いても、より広い温度範囲における適応可能な超音波送受波器1Cを構成することができる。
【0209】
[第5実施形態]
図9A〜図9Dを参照して、本発明の第5実施形態の超音波送受波器1Dを説明する。本第5実施形態の超音波送受波器1Dは、図9Aに示すように超音波振動子2の送受波面が1つの凸面型の曲面、あるいは図9Bのように1つの凹面型の曲面をしていることに特徴がある。これ以外は第1〜4実施形態と同様の構成、及び動作であり、制御回路9などの構成は図示を省略している。
【0210】
本第5実施形態における超音波振動子2は、その形状効果により単一の超音波振動子2で複数の方向へ超音波5を送受波することができる。このため、環境流体4の温度が変化して、送受波感度の大きくなる角度θが変化しても、超音波振動子2から送波された超音波5の、少なくとも一部分の超音波5は最適な角度θを満たして常に透過されるため、環境流体4の温度変化に対して、安定した超音波5の送受波を行うことのできる超音波送受波器1Dとなる。
【0211】
本第5実施形態においても、超音波振動子2の1つの凸面型あるいは1つの凹面型の曲面形状は、今までの第1〜4実施形態で述べた条件における使用に対応しうるよう形成された場合について説明する。上述のように環境流体4の温度変化に応じた角度θの変化、すなわち約4°の範囲に対応できるように、圧電体の形状が規定されている。
【0212】
より具体的には、超音波5の放射面、すなわち図9A,図9Bにおいて第1表面領域31となる超音波振動子2と伝搬媒質部3との界面の形状が、円の一部となるように形成されている。
【0213】
例えば図9A,図9BにおけるX方向の伝搬媒質部3及び超音波振動子2の長さが20mmである場合には、超音波振動子2を形づける円の直径が幾何学的に計算でき、4°の角度に対応するための超音波振動子2の形状は、約286mmの半径の円の一部となるように形成されることが計算できる。
【0214】
このとき、円の中心は図9Aの場合には、超音波振動子2のX方向の中央からY方向に関して超音波振動子2の下側に286mm下方に位置し、図9Bの場合には、同様に超音波振動子2のX方向の中央から286mm上方に位置することとなる。
【0215】
本第5実施形態の超音波送受波器1は、以上で説明したサイズに限定されて形成される物でなく、適時、必要なサイズに設計、形成されるものである。
【0216】
図9A,図9Bに示した超音波送受波器1の伝搬媒質部3は、図9C,図9Dに示すように、更に、先の実施形態と同様に保護部13で覆われていても良い。この場合には、先の実施形態と同様に低い強度の伝搬媒質部3を用いることができ、超音波送受波器1の設計範囲を広げることが可能になるほか、取り扱い性や長期信頼性、外部からの衝撃などに対する信頼性を向上させることができる。
【0217】
[第6実施形態]
図10A,図10Bを参照して、本発明の第6実施形態の超音波送受波器1Eを説明する。本第6実施形態の超音波送受波器1Eは、伝搬媒質部3と環境流体4の界面である第2表面領域32が図10Aに示すように1つの凸面型の曲面、あるいは図10Bのように1つの凹面型の曲面をした伝搬媒質部3を有することに特徴がある。これ以外は第1〜4実施形態と同様の構成、及び動作であり、制御回路9などの構成は図示を省略している。
【0218】
第5実施形態と同様に、環境流体4の温度が変化して、送受波感度の大きくなる角度θが変化しても、少なくとも一部分の超音波5は常に透過率の大きな角度θを満たすため、環境変化に対して安定した超音波5の送受波を行うことのできる超音波送受波器1Eとなる。
【0219】
超音波振動子2の1つの凸面型あるいは凹面型の曲面形状は、第5実施形態と同様に環境流体4の温度変化に応じた角度θの変化、すなわち約4°の範囲に対応できるように形状づけられている。
【0220】
第2表面領域32の具体的な曲面の形状は、第5実施形態の場合と同様の形状、すなわち図10A,図10BにおけるX方向の超音波振動子2の長さが20mmの場合には次のようになる。
【0221】
すなわち、本第6実施形態では伝搬媒質部3の環境流体4との界面、すなわち第2表面領域32が曲面となっており、図10A,図10Bにおける超音波振動子2のX方向の中心からの超音波5が第2表面領域32で角度θが31°をなすように形成されているため、この31°の角度をなす面の法線方向に、図10Aの場合には伝搬媒質部3側に約286mm離れた所に中心のある円弧の一部として、図10Bの場合には環境流体4側に中心のある円弧の一部として形成されている。
【0222】
本第6実施形態の超音波送受波器1Eは、以上で説明したサイズに限定されて形成される物でなく、適時、必要なサイズに設計、形成されるものである。
【0223】
第5実施形態と同様に、超音波送受波器1Eの伝搬媒質部3は、図10C,図10Dに示すように保護部13で覆われていても良い。この場合には、同様に低い強度の伝搬媒質部3を用いることができ、超音波送受波器1Eの設計範囲を広げることが可能になるほか、取り扱い性や長期信頼性、外部からの衝撃などに対する信頼性を向上させることができる。
【0224】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0225】
本発明の超音波送受波器によれば、環境の変化(例えば−20℃〜60℃)に対して、安定に高感度に、かつ広い周波数にわたって送波、あるいは受波することができるため、安定して精度の高い超音波計測が可能となるものである。本発明の超音波送受波器の使用可能な具体的な用途としては、自動車の高精度バックソナー、屋外で働くロボットの制御(障害物検知など)、寒暖差の大きい屋外設置型の都市ガス用又はプロパンガス用のガス流量測定メータ、屋外に設置された配管径が大きな業務用ガス流量測定メータ(配管径が大きいと、超音波の減衰が大きいため、高感度が必要)、半導体プロセスなどの高精度な流量の制御のための流量メータ(感度が良いと分解能が上がるため、高精度測定が可能)などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】本発明の第1実施形態における超音波送受波器の斜視図
【図2】本発明の第1実施形態における超音波送受波器の断面図
【図3A】本発明の第1実施形態における斜め方向への超音波の送受波方法を説明する模式図
【図3B】本発明の第1実施形態における超音波の送受波方法を説明するフローチャート
【図4A】本発明の第1実施形態における別形態の超音波送受波器の断面図
【図4B】本発明の第1実施形態における別形態の超音波送受波器の斜視図
【図4C】本発明の第1実施形態における別形態の超音波送受波器の斜視図
【図4D】本発明の第1実施形態における別形態の超音波送受波器の斜視図
【図5A】本発明の第2実施形態における超音波送受波器の断面図
【図5B】本発明の第2実施形態における反射超音波を示す図
【図5C】本発明の第2実施形態における反射超音波を示す図
【図5D】本発明の第2実施形態における超音波の送受波方法を説明するフローチャート
【図6A】本発明の第3実施形態における超音波送受波器の断面図
【図6B】本発明の第3実施形態における超音波送受波器の断面図
【図6C】本発明の第3実施形態における超音波の送受波方法を説明するフローチャート
【図7】本発明の第3実施形態における温度と角度θの関係を示すグラフ
【図8A】本発明の第4実施形態における超音波送受波器の断面図
【図8B】本発明の第4実施形態における超音波送受波器の別形態の断面図
【図8C】本発明の第4実施形態における超音波送受波器の変形時の断面図
【図8D】本発明の第4実施形態における超音波送の送受波方法を説明するフローチャート
【図9A】本発明の第5実施形態における超音波送受波器の断面図
【図9B】本発明の第5実施形態における超音波送受波器の断面図
【図9C】図9Aの本発明の第5実施形態における超音波送受波器の別形態の断面図
【図9D】図9Bの本発明の第5実施形態における超音波送受波器の別形態の断面図
【図10A】本発明り第6実施形態における超音波送受波器の断面図
【図10B】本発明り第6実施形態における超音波送受波器の断面図
【図10C】図10Aの本発明の第6実施形態における超音波送受波器の別形態の断面図
【図10D】図10Bの本発明の第6実施形態における超音波送受波器の別形態の断面図
【図11】特許文献1における従来の超音波送受波器の断面図
【図12】特許文献1の超音波送受波器における超音波の角度θと環境流体温度に対する超音波反射率を示すグラフ
【図13】特許文献1の超音波送受波器における超音波の角度θと環境流体温度に対する超音波反射率を示すグラフ
【符号の説明】
【0227】
1,1A,1B,1C,1D,1E 超音波送受波器
2 超音波振動子
3 伝搬媒質部
31 第1表面領域
32 第2表面領域
4 環境流体
5 超音波
6 信号線
7 送受波回路
8 温度検知部
9 制御回路
10 充填材
11 背面負荷材
12 音響整合層
13 保護部
14 検知用振動子
15 温度調節部
16 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記超音波振動子は超音波の送波又は受波の指向性を制御する指向性制御部をさらに備える超音波送受波器。
【請求項2】
前記超音波振動子を複数備えるとともに、
前記指向性制御部は、送波の場合には、前記複数の超音波振動子のうちの隣り合う超音波振動子の駆動タイミングをずらし、受波の場合には、前記複数の超音波振動子のうちの隣り合う超音波振動子の受波信号の加算タイミングをずらすことにより、送波の場合及び受波の場合の超音波の波面の位相を制御することにより、前記超音波の送波又は受波の指向性を制御する請求項1に記載の超音波送受波器。
【請求項3】
前記環境流体の温度を測定する温度計をさらに備え、
前記指向性制御部は、前記温度計で測定された前記環境流体の温度の情報を基に、前記超音波の波面の位相を制御する請求項2に記載の超音波送受波器。
【請求項4】
前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射した超音波を受波する反射超音波受波装置をさらに備え、
前記指向性制御部は、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射して前記反射超音波受波装置で受波された反射超音波の情報に基づいて前記超音波の波面の位相を制御する請求項2に記載の超音波送受波器。
【請求項5】
環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、
前記伝搬媒質部の音速を変化させる音速制御部をさらに備える超音波送受波器。
【請求項6】
前記音速制御部は、前記伝搬媒質部の温度を調整する温度調節部を備え、前記温度調節部により前記伝搬媒質部の温度を変化させて前記伝搬媒質部の音速を変化させる請求項5に記載の超音波送受波器。
【請求項7】
前記音速制御部は、前記伝搬媒質部を圧縮、又は伸張させるアクチュエータを備えて、前記アクチュエータにより前記伝搬媒質への加圧力又は伸張力の付与により前記伝搬媒質部の音速を変化させる請求項5に記載の超音波送受波器。
【請求項8】
前記アクチュエータは、前記伝搬媒質部の側面と接するように配置される請求項7に記載の超音波送受波器。
【請求項9】
前記環境流体の温度を測定する温度計をさらに備え、
前記音速制御部は、前記温度計により測定された前記環境流体の温度の情報に基づいて前記伝搬媒質部の音速を変化させる請求項5〜8のいずれか1つに記載の超音波送受波器。
【請求項10】
前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面で反射した超音波を受波する反射超音波受波装置をさらに備え、
前記音速制御部は、前記伝搬媒質部と前記環境流体との界面で反射して前記反射超音波受波装置で受波された反射超音波の情報に基づいて前記伝搬媒質部の音速を変化させる請求項5〜8のいずれか1つに記載の超音波送受波器。
【請求項11】
環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記超音波振動子の超音波送受波面は凸面型又は凹面型の曲面である超音波送受波器。
【請求項12】
環境流体で満たされた周囲の空間に対して超音波の送波又は受波を行う超音波送受波器であって、
少なくとも超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記環境流体との間に充填されて、前記超音波の伝搬経路を形成する伝搬媒質部とを備えるとともに、
前記伝搬媒質部の密度ρ、前記伝搬媒質部における音速C、前記周囲空間を満たす前記環境流体の密度ρ、前記環境流体における音速Cが、(ρ/ρ)<(C/C)<1の関係を満足する材料より前記伝搬媒質部を構成し、かつ、前記伝搬媒質部と前記環境流体の界面は凸面型又は凹面型の曲面である超音波送受波器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−67500(P2007−67500A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247412(P2005−247412)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】