説明

超音波顕微鏡

【課題】試料の弾性特性等を高精度に測定しうる超音波顕微鏡を提供する。
【解決手段】パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を音響レンズ2で収束させて試料6に照射し、試料6で反射した反射超音波を用いて、試料6を観察する超音波顕微鏡1aを用いる。その超音波顕微鏡1aに、パルス光を照射するパルス光照射手段8を設ける。音響レンズ2において試料6に対面する側にレンズ面12を形成する。その上で、照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発すると共に、当該超音波を試料6に送出する超音波送波部4をレンズ面12に沿うように配備する。さらに、試料6で反射した超音波である反射超音波を受波する超音波受波部3を、超音波送波部4とは別位置に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を試料に照射し、前記試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡に関するものであり、特に、試料の微小領域の弾性的性質を超音波を利用して評価する超音波顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を音響レンズを通して集束して試料に照射し、その試料で反射した反射超音波を用いて試料の微小部分の弾性的性質を検出する装置として超音波顕微鏡が知られている。
超音波顕微鏡では、光学顕微鏡や電子顕微鏡では得られない試料内部の情報が非破壊で得られることから、試料の弾性等の力学的性質の評価だけでなく、内部欠陥の検出等にも多く用いられている。
【0003】
このような超音波顕微鏡としては、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1の超音波顕微鏡は、超音波を発生するトランスデューサと、試料台と、走査手段とを備えている。トランスデューサは、音響レンズと圧電薄膜とから構成されている。音響レンズは、サファイアや石英ガラスなどの円柱状結晶からなっており、一方の端面は光学研磨された平面であり、他方の端面には、レンズ面を形成する微小な凹半球状のレンズ面が設けられている。試料台上に載置された試料と音響レンズとの間には、純水のような超音波の伝播媒体が充填される。
【0004】
圧電薄膜は、前述した音響レンズの光学研磨された平面上に設けられ、パルス発振器からの高周波パルスで励起されて超音波を発生する。圧電薄膜から放射された超音波は、音響レンズを通して試料の微小部位に入射し、当該微小部位で反射する。その反射した超音波は、反射超音波として再び音響レンズを通じて圧電薄膜に到達する。圧電薄膜は、試料からの反射超音波である超音波エコーを電気信号に変換して、この電気信号を受信器に与える。
【0005】
受信器は、この電気信号を検波及び増幅してビデオ信号に変換し、該ビデオ信号を表示器に出力する。表示器は、受信器からビデオ信号を受信し、試料の内部状態を画像として表示する。
また、特許文献2に開示される超音波顕微鏡は、超音波発生部と超音波受波部とを兼ねる金属の膜部材と、超音波発生部に励起用パルス光を照射する励起用パルス光照射部と、超音波受波部に測定光を照射する測定光照射手段と、超音波受波部に照射された測定光の反射光を検出する測定光検出手段とを具備している。
【0006】
この超音波顕微鏡において、超音波発生部と超音波受波部とを兼ねる金属の膜部材は、音響レンズ面の反対面に設けられている。膜部材は、試料で反射して音響レンズを伝播した超音波を受波すると、自身の光反射率(屈折率)を変化させる。これによって、膜部材が超音波を受波したときに該膜部材で反射した測定光は、強度を変化させる。特許文献2に開示される超音波顕微鏡は、その強度の変化を検出することで試料内部の3次元方向の状態分布を観測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−43208号公報
【特許文献2】特開2010−66252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されるような超音波顕微鏡の空間分解能は、超音波の波長(λ)で決定され、その波長(λ)は、音速(V)/周波数(f)で与えられる。そのため、音速(V)が一定となる環境下で空間分解能を高めるためには、周波数(f)を高くする必要がある。
例えば、観察対象の試料が、配線膜や絶縁膜が形成された半導体デバイス等であるような場合、超音波顕微鏡を用いてその試料における膜界面の接合評価(膜の剥離の有無等の評価)を行うためには、μmオーダーの空間分解能が要求される。
【0009】
しかし、圧電薄膜により超音波の送波及び受波が行われる従来の超音波顕微鏡では、圧電薄膜の容量成分や共振特性の制約から、高周波短パルス超音波の発生は困難であり、発生可能な実用的周波数帯域は、数百MHz程度であり、例えば、周波数を200MHz、音速を6000m/sとした場合、波長は30μmとなり、分解能も同程度となる。
そこで、特許文献2に開示される超音波顕微鏡は、音響レンズ面の反対面に設けられた金属の膜部材にパルスレーザ光を照射することで、圧電薄膜を用いるよりも高い周波数の高周波超音波を発生させる。また、膜部材は、試料で反射した超音波を受波すると、その周波数に応じて光反射率を変化させる。
【0010】
特許文献2は、このような超音波発生部と超音波受波部とを兼ねる金属の膜部材を用いることで、超音波顕微鏡において高周波超音波を扱えるようにし、空間分解能を向上させている。
ところが、近年の要求は、より高い精度を求めるものであり、そのためには、超音波の減衰を極力少なくする必要と、レンズにおける音波の収差を極力少なくする必要がある。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、試料の弾性特性等を高精度に測定しうる超音波顕微鏡の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明の超音波顕微鏡は、パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波をレンズで収束させて試料に照射し、前記試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡であって、パルス光を照射するパルス光照射手段と、前記レンズにおいて試料に対面する側に形成されたレンズ面と、前記レンズ面に沿うように配備され、前記照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発すると共に、当該超音波を試料に送出する超音波送波部と、超音波送波部とは別位置に設けられ、前記試料で反射した超音波である反射超音波を受波する超音波受波部と、を具備することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記レンズは、下部にレンズ面を有し、前記レンズ面とは別位置であるレンズの上部に超音波受波部が設けられていてもよい。
また、前記レンズ面は、前記超音波送波部で発生した超音波を収束可能な焦点を備えた曲面となるように形成されていてもよい。
また、前記レンズと前記超音波受波部との間には、前記試料で反射した反射超音波を前記超音波受波部に収束させる反射波収束手段が設けられていてもよい。
【0014】
さらに、前記レンズと前記試料との間には、前記超音波送波部と接して、超音波送波部からの超音波を伝播させる固体のカップリング手段が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る超音波顕微鏡装置によれば、試料に対して高周波数の超音波を送出でき、μmオーダーの高空間分解能で試料の弾性特性等を測定し、試料の内部を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態による超音波顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】超音波顕微鏡に用いられる音響レンズの構成を示す図であり、(a)は、音響レンズ及び音響レンズ周辺の構成を側方から見たときの図、(b)は、音響レンズの反レンズ面側を上方から見たときの図である。
【図3】音響レンズと超音波受波部との間に、第2実施形態による反射波収束手段を設けた構成を側方から見たときの図である。
【図4】音響レンズとカップリング媒体との間に第3実施形態によるカップリング手段を設けた構成を側方から見たときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図を基に説明する。
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1実施形態による超音波顕微鏡1aについて説明する。図1は、本実施形態による超音波顕微鏡1aの構成を示す図である。図2は、超音波顕微鏡1aに用いられる音響レンズ2の構成を示す図であり、(a)は、超音波受波部3、音響レンズ2、超音波送波部4、カップリング媒体5、試料6の構成を側方から見たときの図、(b)は、超音波受波部3が配置された音響レンズ2の反レンズ面側を上方から見たときの図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る超音波顕微鏡1aは、試料6が載置されるX−Yステージ7と、X−Yステージ7上の試料6にレンズ面12を向けて配置された音響レンズ2を備えている。
音響レンズ2のレンズ面12には、パルス光を受けて超音波を発生させる金属薄膜が、超音波送波部4として形成されている。
【0019】
音響レンズ2の反レンズ面側には、試料6で反射した超音波である反射超音波を受波する超音波センサが超音波受波部3として配置されている。
また、図1に示すように、超音波顕微鏡1aは、超音波送波部4に加熱パルス光を照射するパルス光照射手段8と、超音波受波部3から出力される電圧の変化を検出する電圧変化検出手段である高速オシロスコープ9と、検出された電圧の変化を基に試料6内部の情報を得る内部情報取得手段である計算機10と、を具備する。
【0020】
以下、第1実施形態による超音波顕微鏡1aについて、その構成を詳細に説明する。
試料6が載置されるX−Yステージ7は、試料6を支持すると共に、音響レンズ2に対する試料6の位置を水平方向(超音波の照射方向に対して直交する方向の位置)に変化させて位置決めするためのものであり、直交するボールネジ機構等から構成される。X−Yステージ7は、コンピュータ等で構成されたステージ制御部11により、試料6の水平方向位置や送りピッチなどが制御される。
【0021】
X−Yステージ7の上方には、音響レンズ2が配備される。この音響レンズ2は、例えば純水であって超音波を伝播するカップリング媒体5を介して、X−Yステージ7上の試料6と対向している。
図2を参照して、音響レンズ2について詳細に説明する。
音響レンズ2は、光透過性を有する硬質な無機材料からなる円柱状部材であって、その内部は空間の無い中実な構造となっている。この円柱状部材の一つの面、すなわちX−Yステージ7と対向する下面側のほぼ中央に、音響レンズ2の内部に向かって湾曲した窪みが形成されており、その窪みの表面は、例えば曲率半径5mm程度の曲面からなる略球面状のレンズ面12となる。このレンズ面12は、当該下面での開口部がほぼ円形であり、レンズ面12は凹凸のない平滑な面となっている。レンズ面12が形成されないもう一方の面である上面(反レンズ面、すなわち反X−Yステージ7側)は、光学研磨された平面である。円柱状の音響レンズ2は上下方向に厚みを有するものとなっていて、レンズ面12と音響レンズ2の上面(反レンズ面)とが所定間隔を隔てて離れて配置されるような高さ(厚み)を有している。
【0022】
音響レンズ2は、超音波をできるだけ減衰させずに伝播するために硬質材料で形成されるので、音響レンズ2の材料として各種ガラス材、石英、サファイヤや硬質樹脂(ポリスチレン、アクリル等)などを用いてもよい。また、音響レンズ2の形状を円柱状であるとしたが、円錐台形状、角柱形状、又は角錐台形状でもよい。
まず、音響レンズ2のレンズ面12に形成される超音波送波部4について以下に説明する。
【0023】
超音波送波部4は、例えばモリブデン(Mo)からなる、例えば、厚み約100nmの金属薄膜である。図2(a)に示すように、この金属薄膜はレンズ面12の表面、すなわち凹状に湾曲した窪みの表面であって試料6に対向する面の全体にわたって蒸着によって形成されており、全体にわたってほぼ均一な膜厚で、レンズ面12に沿った略球面形状となって、レンズ面12に密に接している。
【0024】
この超音波送波部4である金属薄膜(Mo)に対して加熱パルス光が照射されると、金属薄膜(Mo)は、パルス光のエネルギーの吸収及び発熱によって熱膨張する。金属薄膜(Mo)は、熱膨張時に発生する熱応力(熱弾性効果)によって、加熱パルス光と同じパルス幅(時間幅)の熱弾性波を発生する。例えば、パルス幅が数nsの加熱パルスが照射されると、周波数帯域が100MHz以上の短パルス超音波を発生させることができる。超音波送波部4に用いる金属薄膜の材料としては、モリブデン(Mo)の他に、金、銅、アルミニウム等を用いることができる。
【0025】
図2(a)に示すように、このように構成された超音波送波部4を採用することで、超音波送波部4が送出した超音波は、レンズ面12の曲率中心(焦点)で収束する。
ところで、特許文献2の段落[0017]には、金属の膜部材を音響レンズ面に沿って形成することが開示されている。この場合、試料測定のための超音波発生部と超音波受波部がともに音響レンズ面に沿って配置されることになるが、本願発明の如く、超音波の減衰を極力少なくすると共に超音波の収差を極力少なくするためにレンズ面に沿って超音波送波部4を形成するといった技術思想を開示するものとはなっていない。加えて、特許文献2の段落[0017]では、超音波受波部も音響レンズ面に存在する構成となっており、この場合、反射超音波を受波した超音波受波部の変化を検出する測定光検出手段が、特許文献2に開示された構成では作動しにくい恐れがある。特許文献2では、超音波受波部の変化を検出するための具体的な構成や機構などは開示されていない。
【0026】
そこで本実施形態では、超音波送波部4を超音波送波部4から離れた別位置に設けた。詳しくは、超音波送波部4を音響レンズ2のレンズ面12である湾曲面上に設けるとともに、超音波受波部3を音響レンズ2の反レンズ面である平面上に配置している。
以下に、試料6で反射した反射超音波を受波する超音波受波部3について以下に説明する。超音波受波部3は、例えばトランスデューサ等の圧電素子であって、受波した反射超音波から受ける応力に応じた電圧を超音波強度信号として発生させるものである。
【0027】
この超音波センサである超音波受波部3は、音響レンズ2の反レンズ面である平面上に、つまり超音波送波部4から離れた別位置に配置される。図2(b)に示すように、超音波受波部3は、円形の反レンズ面のほぼ中央に配置されている。図2(b)に示すように、反レンズ面において超音波受波部3が占める面積は、反レンズ面の面積よりも小さいので、超音波受波部3は、音響レンズ2内を伝播した反射超音波の少なくとも一部ないし全部を受波する。
【0028】
図1を参照して、このような超音波送波部4及び超音波受波部3が配置された音響レンズ2を有する超音波顕微鏡1aの他の構成要素について説明する。
音響レンズ2の上方側には、加熱パルス光を発生するパルス光照射手段8が設けられている。このパルス光照射手段8は、短パルス幅のパルスレーザ光を発する光源(YAGレーザ等)であるパルス光照射部13と、加熱パルス光を超音波送波部4に対して略垂直方向に照射するように導くミラー14と、加熱パルス光のビーム径を調整するレンズ系15とを備えている。これらパルス光照射部13、ミラー14、及びレンズ系15でパルス光照射手段8を構成している。
【0029】
パルス光照射部13は、例えば波長532nm、パルス幅1nsのパルス状のレーザ光を、一条の加熱パルス光として発する光源(YAGレーザ等)である。ここで加熱パルス光の波長は、超音波送波部4の材質に応じて選択することができ、パルス幅は、発生させたい超音波の周波数帯域に応じて選択することができる。
一方、図1に示すように、音響レンズ2の側方には、電圧変化検出手段が設けられている。この電圧変化検出手段は、高速オシロスコープ9であって、超音波受波部3に電気的に接続されている。
【0030】
高速オシロスコープ9は、超音波受波部3から出力された強度信号を受け取るとともに、強度信号をサンプリングして一次記憶し、その強度信号の時系列変化を検出する装置である。
例えば、高速オシロスコープ9は、加熱パルス光が出力されたことを示すパルス光出力開始信号をパルス光照射部13から取得し、当該パルス光出力開始信号を取得した時点から順に、反射測定光の強度信号の強度のピークE1、E2、E3、・・・(エコー)が検出された時点までの時間を検出し、その時間の情報を後述する計算機10に出力する。ここで、最も早く検出されたピークE1は、音響レンズ2とカップリング媒体5との界面からの反射エコーを示し、ピークE2は、試料6の表面からの反射エコーを示し、以降に続くピークは試料6内部からの反射エコーを示している。
【0031】
高速オシロスコープ9は、例えば1〜10psec程度のサンプリング周期での信号入力機能を有しているので、高周波超音波の波形を正確に採取することができる。
内部情報取得手段である計算機10は、高速オシロスコープ9から得られるピークE1、E2、・・・の検出時間の情報から、2番目のピークE2の発生時間と3番目以降の前記ピークE3、E4・・・発生時間との時間差を算出し、試料6内での超音波の伝播速度から、試料6内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。このとき、加熱パルス光を複数回繰り返し照射することで試料6内の同一測定点の測定を繰り返し、同期加算平均化処理を行うことで測定精度(S/N比)を向上させる。
【0032】
以上のように構成された超音波顕微鏡1aの動作について、以下に説明する。
パルス光照射手段8のパルス光照射部13が一条の加熱パルス光を発すると、加熱パルス光は、音響レンズ2をまっすぐに透過する。透過した加熱パルス光を受けた超音波送波部4は、熱膨張して超音波を発生する。発生した超音波は、図2(a)のカップリング媒体5内でほぼ等間隔に曲線で示されるように、音響レンズ2のレンズ面12に対して平行波となってカップリング媒体5内を伝播し、レンズ面12の曲率中心(焦点)に向かって収束し、試料6の表面及び内部に入射する。
【0033】
試料6の表面及び内部で反射した超音波は、入射とは反対の経路を経て超音波送波部4及びレンズ面12に戻り、音響レンズ2内を反レンズ面に向けて伝播する。音響レンズ2内を伝播した超音波は、音響レンズ2の反レンズ面に設けられた超音波受波部3に到達する。
超音波受波部3に到達した超音波は超音波受波部3内に応力を発生させるので、超音波受波部3は、発生した応力に応じた強度信号を発生する。高速オシロスコープ9が、当該強度信号の時系列変化を検出し、計算機10が上述のように試料6の内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。
【0034】
X−Yステージ7によって試料6における観測部位の位置決めがなされるごとに、加熱パルス光の照射と、高速オシロスコープ9による強度信号の時系列変化の検出と、計算機10による試料6内部に存在する欠陥等の深さの算出とが行われる。
以上のような動作を経て、試料6内部における3次元方向の状態の分布を観測することができる。
【0035】
上述のように超音波送波部4を音響レンズ2のレンズ面12に設けることで、発生した超音波が、音響レンズ2内を伝播することなく、レンズ面12から試料6に向かって直接送出される。これによって、超音波送波部4で送出された超音波が、音響レンズ2内を伝播することなく、カップリング媒体5によるわずかな減衰だけで、試料6に送出される。
(第2実施形態)
図3を参照して、本発明の第2実施形態による超音波顕微鏡1bついて説明する。図3は、第1実施形態で説明した図2(a)の構成において、音響レンズ2と超音波受波部3との間に反射波収束手段16を設けた構成を側方から見たときの図である。
【0036】
本実施形態による超音波顕微鏡1bは、第1実施形態による超音波顕微鏡1aの構成に後述する反射波収束手段16を加えて構成される。よって、反射波収束手段16以外は、第1実施形態による超音波顕微鏡1aと同様の構成要素であるので、同じ符号を付すと共に、その詳細な説明を省略する。
図3を参照して、本実施形態による超音波顕微鏡1bに用いられる音響レンズ2及び反射波収束手段16について、説明する。
【0037】
音響レンズ2は、第1実施形態による超音波顕微鏡1aで用いられた音響レンズ2とほぼ同様であるが、本実施形態では、特にサファイアで形成されており、レンズ面12の曲率半径は、例えば3mm又は5mmである。
反射波収束手段16は、試料6で反射した反射超音波を収束するための超音波収束手段であり、音響レンズ2とほぼ同一の直径を有する円柱状の外観を有している。反射波収束手段16は、石英ガラスで形成される第1収束部17(以下、石英部17という)と、サファイアで形成される第2収束部18(以下、サファイア部18という)とを一体に組み合わせて構成される。なお、石英ガラスを伝播する音波の速度(音速)は、約5900m/秒、サファイアを伝播する音波の速度(音速)は、約11000m/秒である。
【0038】
サファイア部18は、音響レンズ2とほぼ同一の形状及び直径を有する円柱状の部材であり、上面のほぼ中央には、レンズ面12とほぼ同一形状及び大きさの球面状の窪み19が形成されている。窪み19は、自身の球面の中心軸がレンズ面12のレンズ中心軸とほぼ一致する位置に形成されている。下面は、光学研磨された平面である。
石英部17は、サファイア部18とほぼ同一の直径を有する円柱状の部材であり、下面のほぼ中央には、サファイア部18の窪み19にほぼ対応する形状及び大きさの半球状の突起20が設けられている。上面は、光学研磨された平面である、石英部17の厚みは、該平面が、サファイア部18の窪み19の曲率中心を含む厚さとなっている。
【0039】
突起20の表面は、サファイア部18の窪み19の表面形状にほぼ対応する形状を有しているので、石英部17の突起20を、サファイア部18の窪み19に挿入すると、突起20の表面と窪み19の表面は全面にわたって均一かつ密に接する。このように突起20を窪み19に挿入した状態で、石英部17とサファイア部18を一体に固定することで、反射波収束手段16は構成される。
【0040】
このように構成した反射波収束手段16を、音響レンズ2と超音波受波部3との間に配置する。反射波収束手段16のサファイア部18を、窪み19の位置がレンズ面12の位置に対応するように、サファイアで形成された音響レンズ2の反レンズ面に面接合する。
この上で、超音波受波部3を、反射波収束手段16の石英部17の平面上で、音響レンズ2のレンズ面12の開口の中心に対応する位置、つまり、サファイア部18の窪み19の焦点位置に配置する。
【0041】
このように、反射波収束手段16が設けられた音響レンズ2に向かって、パルス光照射手段8から、一条の加熱パルス光が照射される。加熱パルス光は、まず、反射波収束手段16の石英部17、サファイア部18、音響レンズ2(サファイア)を透過し、超音波送波部4に到達する。
加熱パルス光を受けた超音波送波部4は超音波を発生し、発生した超音波は、図3でほぼ等間隔に曲線で示されるように、カップリング媒体5中で、試料6の表面、すなわちレンズ面12の曲率中心(焦点)に向かって収束する。収束した超音波は、試料6で反射し、反射超音波として超音波送波部4を通過してレンズ面12に入射する。
【0042】
レンズ面12に入射して、音響レンズ2を伝播した超音波は、反射波収束手段16のサファイア部18を伝播する。サファイア部18を伝播する超音波のうち、窪み19を通過した超音波は、サファイア部18と石英部17の音速の違いから、窪み19と突起20の界面で屈折する。サファイア部18の音速よりも石英部17の音速のほうが低いので、屈折した超音波は、窪み19の焦点位置に設けられた反射波収束手段16に収束する。
【0043】
これによって、超音波の検出効率を向上させることができ、試料6で反射した超音波の検出感度を高めることができる。
(第3実施形態)
図4を参照して、本発明の第3実施形態による超音波顕微鏡1cについて説明する。図4は、第2実施形態で説明した図3の構成において、音響レンズ2と接触媒体23との間にカップリング手段21を設けた構成を側方から見たときの図である。
【0044】
第1実施形態及び第2実施形態において、超音波送波部4はレンズ面12に沿って設けられている。この構成によって、レンズ面12に沿って超音波送波部4から送出された超音波は、レンズ面12の曲率中心(焦点)、つまり、試料6に向かって収束する。
このような構成によれば、従来のように、音響レンズを伝播した超音波をレンズ面で屈折させて収束させる必要がなくなるため、音速の低い液体をカップリング媒体として用いる必要もなくなる。そこで、本実施形態では、高周波超音波(例えば数百MHz以上)の減衰が大きい液体のカップリング媒体の代わりに、減衰の小さい固体のカップリング手段21を用いる。
【0045】
本実施形態による超音波顕微鏡1cは、第2実施形態による超音波顕微鏡1bの構成に後述するカップリング手段21及び接触媒質23を加えて構成される。よって、カップリング手段21及び接触媒質23以外は、第2実施形態による超音波顕微鏡1bと同様の構成要素であるので、同じ符号を付すと共に、その詳細な説明を省略する。
図4を参照して、本実施形態による超音波顕微鏡1cに用いられるカップリング手段21について説明する。
【0046】
カップリング手段21は、伝播する超音波の減衰が小さいガラスや金属等の硬質の固体材料で形成されている。カップリング手段21は、加熱レーザ光などの光を通す必要はなく超音波だけを伝播すればよいので、光透過性を有していなくてもよい。
カップリング手段21は、音響レンズ2と同様に円柱状の部材であり、その上面には半球状の突起22を有している。この突起22は、音響レンズ2のレンズ面12に設けられた窪み(超音波送波部4の表面形状)に嵌り込むものとなっている。一方、カップリング手段21の下面、すなわち、突起22が形成された上面の反対面は平面となっており、この平面上に突起22の曲率中心が配置される。よって、カップリング手段21は、曲率中心のこのような配置を実現する厚みに形成されている。つまり、カップリング手段21は、反射波収束手段16の石英部17とほぼ同じ形状及び大きさを有している。
【0047】
このようなカップリング手段21の突起22を、音響レンズ2のレンズ面12が形成された窪みに挿入すると、突起22の表面と超音波送波部4の表面は、全面にわたって均一かつ密に接する。この状態で、カップリング手段21と音響レンズ2及び超音波送波部4を一体に固定する。
このように、第1実施形態及び第2実施形態におけるカップリング媒体5の位置にカップリング手段21を配置すると、カップリング手段21において、突起22が形成された面の反対面は試料6と対向する。この反対面と試料6との界面には、この反対面から試料6に超音波を伝播するためのごく少量の水などの接触媒質23を介在させる。よって、カップリング手段21の該反対面と試料6とは、直接に接しているといっても差し支えない状態となっている。
【0048】
このように、反射波収束手段16及びカップリング手段21が設けられた音響レンズ2に向かって、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、パルス光照射手段8から、一条の加熱パルス光が照射されると、加熱パルス光を受けた超音波送波部4は超音波を発生し、発生した超音波は、カップリング手段21に伝播して、図4でほぼ等間隔に曲線で示されるように、カップリング手段21中で、試料6の表面、すなわちレンズ面12の曲率中心(焦点)に向かって収束する。収束した超音波は、試料6で反射して、反射超音波としてレンズ面12に入射する。
【0049】
レンズ面12に入射して、音響レンズ2を伝播した超音波は、反射波収束手段16のサファイア部18を伝播する。サファイア部18を伝播する超音波のうち、窪み19を通過した超音波は、サファイア部18と石英部17の音速の違いから、窪み19と突起20の界面で屈折する。サファイア部18の音速よりも石英部17の音速のほうが低いので、屈折した超音波は、窪み19の曲率中心に設けられた超音波受波部3に収束する。
【0050】
これによって、超音波の検出効率を向上させることができ、試料6で反射した超音波の検出感度を高めることができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0051】
例えば、第2実施形態及び第3実施形態において、反射波収束手段16における音響レンズ2と接合する部材は、音響レンズ2と同じ材質であることが好ましいが、光透過性の硬質な材料であれば、サファイア部18の代わりに用いることができ、石英部17の代わりに光透過性の硬質な材料を用いることができる。このときは、屈折率などを勘案して窪み19と突起20の形状を略球面に限定することなく様々に変化させればよい。
【0052】
反射波収束手段16において、音響レンズ2と接合する部材が、音響レンズ2と同じ材質である場合、1つの円柱状部材の上面と下面に、それぞれレンズ面12に相当する窪みを形成して、音響レンズ2と当該接合する部材とが一体となった単一の部材として構成してもよい。
音響レンズ2を、石英ガラス及びサファイアを用いて構成したが、光透過性を有すると共に、超音波をできるだけ減衰させずに伝播する材料であればよいので、例えば、サファイアの単結晶や、単結晶体でなくとも、石英ガラス以外の各種ガラスなどの硬質材料を用いてもよい。また、音響レンズ2の形状を円柱状であるとしたが、角柱形状でも角錐台形状でもよい。
【0053】
また、第1実施形態〜第3実施形態において、超音波受波部3として圧電素子を用いたが、これに限らず、感圧ダイオード等の他の圧力センサを用いて、圧力センサが発する電圧を、電圧変化検出手段である高速オシロスコープ9で検出することもできる。
また、圧電素子の代わりに、光弾性効果を発揮する金属薄膜等を設け、反射超音波によって起こる光弾性効果を、測定用のレーザ光を用いて検出してもよい。この場合、測定用のレーザ光を金属薄膜に照射するレーザ光源と、金属薄膜で反射した反射レーザ光を検出し、検出した反射レーザ光を強度信号として高速オシロスコープ9に出力する光検出器を設ける必要がある。
【0054】
さらに、音響レンズ2の反レンズ面における超音波による表面変位をレーザ干渉計等で測定し、測定した表面変位を強度信号として高速オシロスコープ9に出力することもできる。
第1実施形態〜第3実施形態において、レンズ面12の形状を略球面であるとしたが、曲率中心(焦点)を1つだけ有する略楕円球面としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1a、1b、1c 超音波顕微鏡
2 音響レンズ
3 超音波受波部
4 超音波送波部
5 カップリング媒体
6 試料
7 X−Yステージ
8 パルス光照射手段8
9 高速オシロスコープ
10 計算機
11 ステージ制御部
12 レンズ面
13 パルス光照射部
14 ミラー
15 レンズ系
16 反射波収束手段
17 石英部
18 サファイア部
19 窪み
20 突起
21 カップリング手段
22 突起
23 接触媒質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波をレンズで収束させて試料に照射し、前記試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡であって、
パルス光を照射するパルス光照射手段と、
前記レンズにおいて試料に対面する側に形成されたレンズ面と、
前記レンズ面に沿うように配備され、前記照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発すると共に、当該超音波を試料に送出する超音波送波部と、
超音波送波部とは別位置に設けられ、前記試料で反射した超音波である反射超音波を受波する超音波受波部と、を具備することを特徴とする超音波顕微鏡。
【請求項2】
前記レンズは、下部にレンズ面を有し、前記レンズ面とは別位置であるレンズの上部に超音波受波部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波顕微鏡。
【請求項3】
前記レンズ面は、前記超音波送波部で発生した超音波を収束可能な焦点を備えた曲面となるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波顕微鏡。
【請求項4】
前記レンズと前記超音波受波部との間には、前記試料で反射した反射超音波を前記超音波受波部に収束させる反射波収束手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超音波顕微鏡。
【請求項5】
前記レンズと前記試料との間には、前記超音波送波部と接して、超音波送波部からの超音波を伝播させる固体のカップリング手段が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超音波顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112823(P2012−112823A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262567(P2010−262567)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】