説明

超高層建物

【課題】高さが60mを超える超高層建物を対象として、鉄筋コンクリート柱を超高強度コンクリートで形成する場合に、圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止し、更には限界変形角(靭性)を増大することが可能な鉄筋コンクリート柱を適切に配置して、合理的に構造強度と変形性能を確保しかつ経済性高く建設することが可能な超高層建物を提供する。
【解決手段】高さが60mを超える超高層建物Sであって、少なくとも地上1階を含む低層部Tの建物外周に配列される、隅柱Uを含む少なくとも一部の柱(側柱Vの一部)が、圧縮強度80N/mm2以上の超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の鋼繊維を混入した鉄筋コンクリート柱1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高さが60mを超える超高層建物であって、鉄筋コンクリート柱を超高強度コンクリートで形成する場合に、圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止し、更には限界変形角(靭性)を増大することが可能な鉄筋コンクリート柱を適切に配置して、合理的に構造強度と変形性能を確保しかつ経済性高く建設することが可能な超高層建物に関する。
【背景技術】
【0002】
超高層建物の建設にあたって、施工の合理化、工期の短縮を図るため、現場打ちやプレキャスト製の中実の鉄筋コンクリート柱(以下、RC柱という)や、中空外殻プレキャストコンクリート部材(以下、外殻PCa部材という)を用いたRC柱が採用されている。後者のRC柱は、外殻PCa部材の内部に中詰めコンクリートを充填して構成される。例えば、外殻PCa部材を、圧縮強度80N/mm2程度の超高強度コンクリートに鋼繊維を混入して形成するようにしたRC柱が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、外殻PCa部材に圧縮強度85N/mm2程度の超高強度コンクリートを、中詰めコンクリートに圧縮強度70N/mm2程度の超高強度コンクリートを用いるようにしたRC柱が知られている。
【特許文献1】特開2004−332236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超高層建物は、地震による外力で、高層部よりも低層部に損傷が集中するように設計がなされている。低層部での損傷発生状況につき、本発明者は、RC柱に軸力をかけた状態で横方向繰り返し荷重を加える加力実験を行って構造性能を検討した。例えば、外殻PCa部材に対し、Fc(圧縮強度)=100N/mm2級のコンクリートを用い、かつ高軸力を受ける低層部の外柱に相当するRC柱の場合には、巨大地震を受けたとき、層間変形角が1/200(5×10-3)〜1/100(10×10-3)radの段階で、圧縮側のRC柱端部コンクリートが、爆裂の様相を呈して早期に圧壊することが分かった。この圧壊時には、図7の柱せん断力−層間変形角曲線の一例に示すように、耐力が一時的にではあるが急激に低下するため、構造性能上改善する必要がある。また、圧壊時には大きな爆裂音が生じ、破片が飛散するため、居住性の観点からもその改善が必要である。そしてさらに、超高層建物を合理的な強度でかつ高い経済性で建設できるように、これら改善を試みたRC柱の配置の案出も望まれる。
【0005】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、高さが60mを超える超高層建物を対象として、RC柱を超高強度コンクリートで形成する場合に、圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止し、更には限界変形角(靭性)を増大することが可能なRC柱を適切に配置して、合理的に構造強度と変形性能を確保しかつ経済性高く建設することが可能な超高層建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる超高層建物は、高さが60mを超える超高層建物であって、少なくとも地上1階を含む低層部の建物外周に配列される、隅柱を含む少なくとも一部の柱が、圧縮強度80N/mm2以上の超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の鋼繊維を混入したRC柱であることを特徴とする。
【0007】
前記RC柱は、せん断補強筋を埋設した中空外殻プレキャストコンクリート部材内方に、柱主筋を配筋するとともに中詰めコンクリートを充填して形成され、上記中空外殻プレキャストコンクリート部材が、圧縮強度80N/mm2以上の前記超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の前記鋼繊維を混入して形成されることを特徴とする。
【0008】
前記RC柱には、前記鋼繊維が下記式(1)を満たす混入率で混入されることを特徴とする。
式(1)
限界変形角Ru(×10-3rad)=2.622×鋼繊維混入率(容積%)+24.525
但し、鋼繊維混入率(容積%)は2%以下
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる超高層建物にあっては、高さが60mを超える超高層建物を対象として、RC柱を超高強度コンクリートで形成する場合に、圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止し、更には限界変形角(靭性)を増大することが可能なRC柱を適切に配置して、合理的に構造強度と変形性能を確保しかつ経済性高く建設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる超高層建物の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1には、本実施形態にかかる超高層建物Sの低層部Tの平面断面図が、図2には、側面図が示されている。本実施形態の超高層建物Sは、高さが60mを超えるものであって、RC柱および鉄筋コンクリート梁(以下、RC梁という)を互いに接合したラーメン架構で構築される。
【0011】
圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止し、更には限界変形角(靭性)を増大することが可能な、後述する改善を試みたRC柱1は、超高層建物Sの高さ方向において、少なくとも地上1階を含む低層部T、例えば地上1階から地上3階程度の下層階に配置される。また、改善を試みたRC柱1は、建物平断面において、建物外周に配列される柱のうち、隅柱Uおよび側柱Vの少なくとも一部に、適用される。
【0012】
超高層建物Sでは、地震力により建物の高層部が低層部Tに対して建物外方へ迫り出すように水平変位することで生じる曲げモーメントによって、低層部Tの外柱U,Vに作用する軸力が顕著に増加する。具体的には、少なくとも地上1階を含む低層部T、例えば地上1階から3階程度の下層階の柱の軸力が顕著に増加して、これら柱の端部に損傷が集中して早期に圧壊する(図2中、Y参照)。また、建物平断面において、隅柱Uの端部には必ずと言っていいほど損傷が集中し、また建物外周に配列されるその他の側柱Vの端部にも、損傷が集中しやすく、これら柱が早期に圧壊する(図1中、Z参照)。
【0013】
本実施形態の超高層建物Sにあっては、当該損傷が集中するか、もしくは集中しやすい柱に対し、改善を試みたRC柱1を適用するようになっている。改善を試みたRC柱1は、すべての隅柱Uに適用される。また、側柱Vについては、これらすべてを対象としても良く、あるいは、建物平断面の各辺において、一本置きとしたり、三本中二本としたり、四本中二本や三本とするなど、必要構造強度および所望の変形性能に応じて適宜に設定すればよい(図1参照)。言い換えれば、建物平断面における各辺において、少なくとも一部の側柱Vに、改善を試みたRC柱1を適用すればよい。
【0014】
次に、本実施形態にかかる超高層建物Sに適用される、改善を試みたRC柱1の一例を説明する。図3には、当該RC柱1の側断面図および平断面図が示されている。RC柱1は、薄肉な外殻PCa部材2内方に中詰めコンクリート3を充填して形成される。外殻PCa部材2は、平断面四角形の中空筒体状に形成される。外殻PCa部材2の肉厚部には、高さ方向に適宜間隔を隔てて、環状のせん断補強筋4が複数埋設される。外殻PCa部材2内方には、周方向に適宜間隔を隔てて、複数の柱主筋5が配筋される。柱主筋5は、外殻PCa部材2の内周面に対し、隙間をあけて配設される。中詰めコンクリート3は、柱主筋5を埋設するように、外殻PCa部材2内部に充填される。外殻PCa部材2は、型枠へコンクリートを流し込んで成形する流し込み成形や、遠心成形など、一般周知の成形方法でプレキャスト成形される。外殻PCa部材2の内面には、中詰めコンクリート3との付着を向上させるために、シアコッターを形成しても良い。
【0015】
特に、外殻PCa部材2は、鋼繊維6を混入した、圧縮強度80N/mm2以上、好ましくは100N/mm2以上の超高強度コンクリートで形成される。鋼繊維6としては、繊維径が0.1〜1mm、好ましくは0.2〜0.6mm程度であって、かつ繊維長さが60mm以下、好ましくは15〜30mmのものが用いられる。繊維径が0.1mm未満であると、コンクリートを混練しにくい。また、コンクリートの流動性に劣る。繊維径が1mmを超えると、ひび割れの抑制効果が低減する。繊維径は、0.2〜0.6mmであれば、コンクリートを混練しやすく、コンクリートの流動性の確保が可能である。また、適度なひび割れの抑制効果を期待できる。繊維長さは、60mmを超えると、コンクリートを混練しにくい。また、厚さ70〜80mm程度の外殻PCa部材成形用の型枠には、物理的に当該繊維入りコンクリートを充填しにくい。繊維長さは、15〜30mmであると、コンクリートの混練が可能である。流動性があるため、コンクリートを打設しやすい。また適度なひび割れの抑制効果を期待できる。
【0016】
鋼繊維6は下記式(1)を満たす混入率で、超高強度コンクリートに混入される。
式(1)
限界変形角Ru(×10-3rad)=2.622×鋼繊維混入率(容積%)+24.525
但し、鋼繊維混入率(容積%)は2%以下
【0017】
上記式(1)中、「限界変形角」とは、後述するように、実証実験で得られた柱せん断力(Q)−層間変形角(R)曲線のうち、第1サイクルのQ−R曲線の包絡線上で最大耐力から耐力が80%に低下したときの層間変形角をいう。容積%で、超高強度コンクリートに対する鋼繊維6の混入率は2%を超えると、コンクリートの混練を適切に行うことができないので、これを上限値とする。
【0018】
以下に、上記式(1)を得るに至った上記RC柱1の構造性能についての実証試験について説明する。
【0019】
(A)実験概要
実証試験は、三体のRC柱試験体「PCN−1」,「PCF−1」,「PCN−2」を用いて行った。PCF−1とは、図3に示した本実施形態の超高層建物に適用されるRC柱1に相当する、繊維補強したRC柱試験体であって、鋼繊維混入率が1%のものをいう。PCF−2とは、PCF−1に対し、鋼繊維混入率を2%にしたものである。PCN−1は、PCF−1およびPCF−2に対し、鋼繊維混入率を0%にしたもの、すなわち繊維補強していないものをいう。三体の試験体の諸元が表1に示されている。
【0020】
【表1】

【0021】
三体の試験体は、実物の約1/3である。いずれも曲げ破壊型とした。PCF−1,PCF−2には、鋼繊維6に加えて、有機繊維を0.2容積%混入した。本実験では、鋼繊維6としては表2に示す高強度鋼繊維を用いた。
【0022】
【表2】

【0023】
また、有機繊維としては表3に示すPVA(ポリビニルアルコール)繊維を用いた。
【0024】
【表3】

【0025】
中詰めコンクリート3には繊維は混入していない。試験体の水平方向断面寸法は300×300mm、柱内法高さは1080mmで、シアスパン比は1.80である。外殻PCa部材2の厚さは24mmで内側面にシアコッターを設けている。柱主筋5にはD16でUSD685の高強度筋を用い、主筋比pgは2.65%である。横補強筋(せん断補強筋4)にはRB6.2でSBPDN1275の高強度筋を用い、40mmピッチに外周筋と中子筋を配筋し、横補強筋比pwは1.0%である。外殻PCa部材2、中詰めコンクリート3ともに、普通ポルトランドセメントにシリカフュームを混和し混練した。外殻PCa部材2のコンクリートには最大寸法10mmの砕石を、中詰めコンクリート3には最大寸法13mmの砕石を用いた。目標圧縮強度を外殻PCa部材2は115N/mm2に、中詰めコンクリート3は100N/mm2に設定した。
【0026】
建研式加力装置を用い、油圧ジャッキにより一定軸力を加えた状態で水平方向に正負交番漸増繰り返し加力を行い、試験体に逆対称曲げモーメントを作用させた。加力サイクルは、原則として、層間変形角(R)でR=±1/400,1/200,1/100,1/67,1/50radを各2回繰り返し、その後、耐力の低下度合いを勘案してR=±1/33,1/25radの加力を行った。導入した軸力は、軸力比(η)にして0.55である。
【0027】
(B)実験結果
(a)破壊状況について、RC柱端部(図3中、二点鎖線で囲んだ領域X参照)のコンクリートが圧壊し耐力が低下したときの層間変形角Rを表4に示す。当該層間変形角Rは、比率において、PCN−1を1として、PCF−1では1.20,PCF−2では1.06であった。
【0028】
【表4】

【0029】
目視によれば、鋼繊維6が混入されていないPCN−1では、約1/200(5×10-3)radでRC柱端部Xのコンクリートが爆裂音を伴って圧壊した。その後、かぶりコンクリートの剥離が進行し、1/50radではRC柱端部X全域にわたり損傷を受けた。これに対し、鋼繊維6が1%混入されたPCF−1では、1/50radに至ってもRC柱端部Xの損傷は軽微であった。超高強度コンクリートへの鋼繊維6の混入の有無により破壊状況が大きく異なることが分かった。
【0030】
圧壊が始まる1/200radでのRC柱端部Xの状況を検討すると、PCN−1では、この層間変形角Rの第2サイクルでRC柱端部Xのかぶりコンクリートが圧壊により剥離し、耐力が大きく低下した。PCF−1では、打ち継ぎ部のコンクリートに圧壊の兆候が若干見られるものの、外殻PCa部材2にはほとんど圧壊およびかぶりコンクリートの剥離は見られなかった。
【0031】
この後、1/100radのサイクルのピークに至る過程の1/179〜1/154radで圧壊が発生し一時的に耐力が低下したが、その低下の程度はPCN−1に比べ小さかった。圧壊は徐々に進むため、PCN−1で発生したような爆裂音や爆裂に伴うかぶりコンクリートの飛散は生じなかった。
【0032】
最終破壊状況では、PCN−1では、外殻PCa部材2がほとんど剥離し横補強筋4が露出してしまった。PCF−1,PCF−2では、ひび割れの発生数は少なく、かぶりコンクリートの剥離も生じなかった。PCF−1とPCF−2とは破壊状況に大きな差は見られなかった。鋼繊維6を混入することにより、RC柱端部Xのコンクリートの圧壊の程度並びにその周辺のかぶりコンクリートの剥離の程度を低減できることが確認された。
【0033】
(b)柱せん断力−層間変形角曲線
柱せん断力(Q)−層間変形角(R)曲線を図4に示す。PCN−1では、正方向は1/200(5×10-3)radのピークで、負方向は1/100(10×10-3)radのピークに向かう途中で圧壊が生じたため急激に耐力が低下したが、PCF−1,PCF−2では、1/100radのピークに向かう途中で圧壊したものの圧壊に伴う耐力の低下は小さく、ほぼ安定したQ−R曲線を描いた。これにより、鋼繊維6を混入することで、靭性向上を期待できることが分かった。Q−R曲線の正方向の包絡線を図5に示す。PCN−1では、1/200radで圧壊のため耐力が急激に低下しているが、PCF−1,PCF−2では1/100radに向かう途中で一時的に耐力が低下するものの、すぐに回復している。圧壊に伴う耐力の低下傾向が鋼繊維の混入により大きく抑制できることが分かった。
【0034】
(c)ひび割れ
目視により、鋼繊維6を混入した場合には、混入しない場合に比べ、ひび割れ数が少なく、ひび割れ幅は狭いことを確認できた。
【0035】
(d)軸方向ひずみ度
PCN−1では、かぶりコンクリートの剥離が進行するため、かぶりコンクリートの剥離がほとんど発生しないPCF−1,PCF−2に比べ、軸方向ひずみ度が増大することが確認され、特に大変形時において、鋼繊維6の混入は軸方向ひずみ度の減少に寄与することが分かった。
【0036】
(e)横補強筋ひずみ度
RC柱端部Xおよび中央部で、PCN−1に比べ、PCF−1,PCF−2のひずみ度は幾分小さかった。圧壊が進む過程では、鋼繊維6を混入した外殻PCa部材2の方が、横補強筋4のひずみ度が小さいと言える。大変形時でひび割れが拡大する場合には、繊維長さが短いと、鋼繊維6を混入しても、繊維による拘束効果が十分に得られないと考えられる。
【0037】
(f)限界変形角Ruと鋼繊維混入率との関係
限界変形角Ruの実験値を、限界変形角Ruの正負両方向の平均値と鋼繊維の混入率(%)との関係とともに、図6に示す。限界変形角Ruは、実験で得られたQ−R曲線のうち、第1サイクルのQ−R曲線の包絡線上で最大耐力から耐力が80%に低下したときの層間変形角として求めたものである。図から、鋼繊維6の混入率が増大すると限界変形角Ruは直線的に増大することが分かる。回帰式を求め、この式から推定すると、限界変形角Ruは、鋼繊維混入率が0%の場合に比べ、2%混入すると20%程度増大すると言える。これにより、鋼繊維6による補強が靭性の向上に有効であることが確認できる。上記回帰式は、数10%というような広い範囲ではなく、せいぜい0〜2%のきわめて狭い範囲を対象とするものであることから、0%、1%、2%の三点のデータにより、適切に特定できる。一般周知の混練方法・混練装置では、超高強度コンクリートに対し、鋼繊維6を2%以上混入すると、混練が困難になる。
【0038】
(g)最大耐力の実験値の検討
表5に示した実験値からすると、正方向の値で理解されるように、PCF−1,PCF−2は、PCN−1よりも最大耐力が高かった。鋼繊維6を混入することによって靭性のみならず、曲げ耐力も増大することが確認できた。曲げ耐力の上昇は、鋼繊維6の混入により外殻PCa部材2による拘束効果がさらに高まったものと考えられる。
【0039】
【表5】

【0040】
以上説明したように本実施形態の超高層建物に適用されるRC柱1にあっては、外殻PCa部材2が、圧縮強度100N/mm2以上の超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の鋼繊維6を下記式(1)を満たす混入率で混入して形成されることにより、以下のような作用効果を得ることができる。
式(1)
限界変形角Ru(×10-3rad)=2.622×鋼繊維混入率(容積%)+24.525
但し、鋼繊維混入率(容積%)は2%以下
【0041】
RC柱端部Xのコンクリートの圧壊の程度並びにかぶりコンクリートの剥離の程度を低減できる。鋼繊維6の混入により圧壊に伴って耐力が低下することを抑制することができる。鋼繊維6を混入した場合には、混入しない場合に比べ、ひび割れ数が少なくなり、ひび割れ幅も狭く抑えることができる。層間変形角R=1/50(20×10-3)radを超える大変形時には、鋼繊維6の混入によりRC柱1の軸方向ひずみ度を減少することができる。限界変形角Ruは、鋼繊維6の混入率の増大に伴い直線的に増大し、鋼繊維6を2(容積%)混入することで、混入しない場合に比べ、限界変形角Ruを20%程度増大させることができる。鋼繊維6を混入した外殻PCa部材2を用いたRC柱1では、外殻PCa部材2の拘束効果を高めることができる。鋼繊維6を混入することで、曲げ耐力や靭性を増大させることができる。これにより本実施形態に適用されるRC柱1にあっては、中詰めコンクリート3が充填されてRC柱1を構成する鋼繊維混入外殻PCa部材2を超高強度コンクリートで形成する場合に、耐力性能並びに靭性性能を向上できるとともに、圧壊時に爆裂音を伴って破片が飛散することを防止することができる。
【0042】
さらに、圧壊が生じるかぶりコンクリート部分、すなわち外殻PCa部材2にのみ鋼繊維6を混入することでRC柱端部Xの爆裂破壊を減ずることができて、かぶりコンクリートの剥離やその他の損傷を軽減できるので、中詰めコンクリート3に繊維を混入しなくてもよく、建設コストの縮減を達成することができる。また、有機繊維を混入することで、靭性の向上をさらに高めることができるとともに、実際の建物に適用した際に想定される火災対策を確保することができる。
【0043】
さらに、本実施形態にかかる超高層建物Sにあっては、上記改善を試みたRC柱1を、少なくとも地上1階を含む低層部Tの建物外周に配列される、隅柱Uを含む少なくとも一部の柱(側柱Vの一部)として配置するようにしたので、地震力により建物の高層部が低層部Tに対して建物外方へ迫り出すように水平変位することで生じる曲げモーメントによって、低層部Tの外柱U,Vに作用する軸力が顕著に増加するという現象に対し、当該RC柱1の構造性能とそれらの配列とにより、合理的に構造強度と変形性能を確保することができるとともに、超高層建物Sのすべての柱に当該RC柱1を適用する場合に比べて高い経済性で建設することができる。
【0044】
上記実施形態にあっては、改善を試みたRC柱1として、薄肉な外殻PCa部材2内方に中詰めコンクリート3を充填して形成されるものを例示して説明したが、現場打ちもしくは工場生産を問わず、同じ超高強度コンクリートに同じ鋼繊維を混入した中実RC柱であってもよいことはもちろんであって、このような中実RC柱であれば、上記実施形態の場合よりもさらに高い性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかる超高層建物の好適な一実施形態を示す低層部の平面断面図である。
【図2】図1に示した超高層建物の低層部の側面図である。
【図3】本発明にかかる超高層建物に適用されるRC柱の一例を説明する説明図である。
【図4】PCN−1,PCF−1,PCF−2の実証試験におけるQ−R曲線のグラフを示す図である。
【図5】図4のQ−R曲線の正方向の包絡線のグラフを示す図である。
【図6】PCN−1,PCF−1,PCF−2の実証試験における限界変形角Ruの実験値を、限界変形角Ruの正負両方向の平均値と鋼繊維の混入率(%)との関係とともに示した説明図である。
【図7】背景技術で説明したRC柱のQ−R曲線の一例のグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 RC柱
2 外殻PCa部材
3 中詰めコンクリート
4 せん断補強筋
5 柱主筋
6 鋼繊維
S 超高層建物
T 低層部
U 隅柱
V 側柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが60mを超える超高層建物であって、少なくとも地上1階を含む低層部の建物外周に配列される、隅柱を含む少なくとも一部の柱が、圧縮強度80N/mm2以上の超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の鋼繊維を混入した鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする超高層建物。
【請求項2】
前記鉄筋コンクリート柱は、せん断補強筋を埋設した中空外殻プレキャストコンクリート部材内方に、柱主筋を配筋するとともに中詰めコンクリートを充填して形成され、上記中空外殻プレキャストコンクリート部材が、圧縮強度80N/mm2以上の前記超高強度コンクリートに、繊維径0.1〜1mm、繊維長さ60mm以下の前記鋼繊維を混入して形成されることを特徴とする請求項1に記載の超高層建物。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート柱には、前記鋼繊維が下記式(1)を満たす混入率で混入されることを特徴とする請求項1または2に記載の超高層建物。
式(1)
限界変形角Ru(×10-3rad)=2.622×鋼繊維混入率(容積%)+24.525
但し、鋼繊維混入率(容積%)は2%以下

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−270281(P2009−270281A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119674(P2008−119674)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】