説明

距離を測定するための方法および装置

【課題】サンプルと基準点との間の距離を測定する方法および装置を提供する。
【解決手段】検査されるサンプル(12)と少なくとも基準点(19,21)との間の距離(Z)を測定する方法は、信号をサンプル(12)の第1の電位に変調し、一次粒子ビームをサンプル(12)に供給し、二次粒子ビーム、および二次粒子ビームの粒子の第2の電位に変調信号を検出し、検出された変調信号を、基準信号と比較するという工程を有する。装置は、信号をサンプル(12)の第1の電位に変調する変調ユニット(22)と、サンプル(12)に当たる一次粒子ビームを発生させるビーム発生器(2)と、二次粒子ビームの粒子と二次粒子ビームの粒子の第2の電位に変調された変調信号を検出する検出器(19,20,21)と、検出された変調信号を基準信号と比較する評価ユニット(25)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に粒子ビーム装置において、検査されるサンプルと基準点との距離を測定するための方法および装置に関する。本発明に係わる方法および本発明に係わる装置は、サンプルの形状を測定するためにも使用可能である。
【背景技術】
【0002】
既に久しい前から、電子ビーム装置の形態の粒子ビーム装置、特に走査型電子顕微鏡が知られている。走査型電子顕微鏡は、物体(サンプル)の表面を検査するために、用いられる。この目的のために、走査型電子顕微鏡の場合、電子ビーム(粒子ビーム)(以下、一次電子ビームという)がビーム発生器によって発生され、対物レンズによって、検査される物体へ集束される。この物体はサンプル支持体に設けられており、サンプル支持体によって、物体の位置が調整可能である。偏向手段によって、一次電子ビーム(一次粒子ビーム)は、ラスタ状に、検査される物体の表面上に導かれる。この場合、一次電子ビームの電子は物体と相互作用する。相互作用の結果として、特に電子が表面から放出される(いわゆる二次電子)か、あるいは、一次電子ビームの電子が後方散乱される(いわゆる後方散乱電子)。この場合、後方散乱電子は、50eVから物体における一次電子ビームの電子のエネルギまでの範囲にあるエネルギを有する。これに対し、二次電子は50eVよりも低いエネルギを有する。二次電子および後方散乱電子は、以下かく呼ばれる二次電子ビーム(二次粒子ビーム)を形成し、検出器によって検出される。このことによって発生される検出信号は、結像のために用いられる。
【0003】
電子ビーム装置は、物体の面における一次電子ビームの非常に小さい直径によって達成される高い解像度を有する。物体が電子ビーム装置の対物レンズの近くに設けられているほど、解像度は一層よくなる。一次電子ビームを正確に物体に集束されることは特に重要である。従って、物体の位置従ってまた物体と対物レンズとの距離も正確に測定することが必要である。
【0004】
既に上で簡潔に述べたように、多くの電子ビーム装置の場合、検査されるサンプルを保持するための複数のサンプル支持体を用いることも通常普通である。これらのサンプル支持体によって、電子ビーム装置におけるサンプルの位置が調整される。この場合、位置は、各々の電子ビーム装置の光軸に対し垂直に設けられているX−Y面においても、各々の電子ビーム装置の光軸に対応するZ方向においても調整可能である。複数のサンプル支持体では、光軸に対するサンプルの傾動がなされる。それ故に、電子ビーム装置の光軸はサンプルの表面に垂直に位置していない。しかしながら、まさしく、平坦なサンプル、例えばウェーハの多くの検査では、サンプルの表面が、常に、光軸に対し直角に設けられていることが望ましい。
【0005】
特許文献1からは、電子ビームを物体に集束させるための対物レンズを有する、走査型電子顕微鏡用の自動集束システムが公知である。対物レンズに供給される励起電流が、周期的な信号によって変調される。更に、励起電流は、ゆらぎ信号に従って揺れ動かされる。検査されるサンプルへ放出または後方散乱される粒子が検出される。この結果として生じる信号が統合される。このことによって、或る数値を有する多数の測定ピークが算出される。近似方法によって、電子ビームをサンプルに集束させるための対物レンズの励起電流を算出するために用いられる数値が決定される。この算出された励起電流は、対物レンズに供給される。しかし、公知の方法および公知の装置では、サンプルの位置測定または距離測定は不可能である。
【0006】
特許文献2からは、ビーム発生器および対物レンズを有する粒子ビームコラムに追加して、サンプルと対物レンズとの距離を測定するための光学系を有する、走査型電子顕微鏡用の自動集束システムが公知である。光学系は、サンプルへ導かれるビームを有するレーザを具備する。しかしながら、この公知の自動集束システムは、追加の光学系の故に、非常に出費がかかる。更に、検査されるサンプルは、距離の正確な測定を可能にするために、良好な光学特性を有しなければならない。しかし、良好な光学特性は、如何なる検査されるサンプルでも、保証されているわけではない。実際また、サンプルの構造の故に、測定誤差をもたらす回折効果が生じることがある。
【特許文献1】米国特許公報第4,987,856号
【特許文献2】米国特許公報第5,216,235号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、サンプルと基準点との距離を測定するための方法および装置を提供するという課題が、本発明の基礎になっている。方法および装置はサンプルの種類に係わりなく作動し、方法は容易に実施され、装置は簡単に構成されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明に基づき、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。本発明に係わる装置は、請求項11の特徴によって特徴づけられており、この装置を有する、本発明に係わる粒子ビーム装置は、請求項18の特徴によって特徴づけられている。
【0009】
検査されるサンプルと少なくとも1つの基準点との距離を測定するための、本発明に係わる方法で、サンプルの第1の電位に、第1の信号を変調する。一次粒子ビームをサンプルに供給する際には、一次粒子ビームがサンプルに当たるとき、粒子からなる二次粒子ビームが発生される。この二次粒子ビームはサンプルから導き出され、二次粒子ビームの粒子は、変調信号を持つ第2の電位を有する。二次粒子ビームの粒子、および粒子の第2の電位に変調信号が検出される。検出された変調信号を、基準信号と比較することによって、基準信号と変調信号との間の関係により、サンプルと基準点との距離が測定される。
【0010】
本発明に係わる方法によって、サンプルと基準点との、特に検出器との距離を正確に測定することが容易に可能である。粒子ビーム装置では対物レンズに対する検出器の位置が決定されているので、かようにして、サンプルと対物レンズとの間の距離も正確に測定可能従ってまた調整可能である。かくして,一次粒子ビームをサンプルに十分に物体に集束させることは、容易に可能である。かような校正後に、この方法は、特に良好な精度の測定を提供する。
【0011】
二次粒子ビームの粒子は、荷電粒子として形成されている。距離の測定のためには、主として物体から後方散乱される電子(後方散乱電子)を用いることは好ましい。これらの電子は基準点で検出器によって検出される。従って、検出器は、後方散乱電子に対し敏感な検出器である。
【0012】
更に、サンプルの位置での変調に基づき、検出器の位置での後方散乱電子のエネルギ差が生じる。従って、使用される検出器が、電子エネルギに依存する感度を有することは好ましい。それ故に、変調信号を有する、後方散乱電子の第2の電位が、検出器によって発生された信号中に反映する。
【0013】
本発明に係わる方法は、従来の技術から知られた方法に比較して、非常に容易に実施されるという利点を有する。というのは、本発明に係わる方法では、距離を測定するための追加のシステムが不要だからである。むしろ、この距離は、既存の手段によって測定される。例えば、電子ビーム装置は、一次粒子ビーム、二次粒子ビームならびに検出手段を有する。このような検出手段は、本発明に係わる方法を実施するためにおよび結像のためにも、使用される。通常、電子ビーム装置では、サンプル流も測定される。この目的のために、サンプルと測定装置との間には、電気的接続が存する。この電気的接続は変調のためにも使用可能である。それ故に、出費のかかる他の構成要素も組み込む必要はない。
【0014】
更に、本発明に係わる方法は、距離を測定するための従来知られた光学的な方法に比較して、検査されるサンプルの光学特性への要求を要しない。というのは、本方法では、実際に、既存の手段によって、つまり、特に、一次粒子ビームおよび二次粒子ビームによって、距離の測定を実施することができるからである。実際また、距離の測定は、本発明に係わる方法によってかなり正確である。何故ならば、測定エラーは、検査されるサンプルの構造に基づいて光学的な方法では生じることがある回折効果の故に、生じないからである。特に、アッベのエラーも防止される。何故ならば、本方法は、一次粒子ビームの従ってまた二次粒子ビームの光軸に直接関連するからである。
【0015】
本発明に係わる方法は、サンプル支持体に設けられた、検査されるサンプルの、その望ましくない傾きが、迅速に認識されるので、かような対策が講じられることができることを保証する。この目的のために、サンプルは、X−Y方向で(従って、粒子ビーム装置の光軸に対し垂直な面に)移動され、この場合、何回も距離が測定される。測定された複数の距離の比較によって、サンプルの傾きが即座に算出可能である。続いて、例えば、サンプル支持体の適切な調整によって、傾きを妨げることができる。その代わりに、傾きを、測定された信号の評価の際に、アルゴリズムを用いて算出することもできる。
【0016】
本発明に係わる方法は、サンプルの形状を測定するためにも適切である。というのは、距離の測定によって、容易な方法で、サンプルの表面の構造が容易に測定されるからである。
【0017】
信号をサンプルの第1の電位に変調することの代わりに、複数の他の電位を、例えば、電子ビーム装置内での一次粒子ビームの発生のために用いられる高電圧電位を、変化させることも可能である。実際また、電子ビーム装置の光軸に沿って設けられている複数の構成要素の電位を変調することができる。検出器の位置と電位の変位の間には、距離を算出する元になる式が存することのみが、重要である。
【0018】
本発明に係わる方法の特別な実施の形態では、サンプルの第1の電位に、所定の周波数を有する信号が変調される。正弦状の信号が特に適切である。この場合、変調信号の周波数が選択可能従ってまた調整可能であることが提案されている。調整可能な周波数によって、方法の解像度を測定することができる。このことについては、更に下でもっと詳細に立ち入ろう。本発明に係わる方法の特別な実施の形態では、サンプルの第1の電位に、10MHzと100GHzとの間の周波波を有する信号が変調される。
【0019】
サンプルと基準点との距離を、検出された変調信号と、基準信号との間の位相差によって測定することは好ましい。この場合、この距離は、以下の式(式1)によって生じる。
【数3】

【0020】
但し、Zはサンプルと基準点の距離であり、Δφは、検出された変調信号の第1の位相定数と、基準信号の第2の位相定数との間の位相差であり、φoffsetは、距離Zの測定のために重要なパラメータを含む数値であり、VTeilchenは、二次粒子ビームの粒子の速度であり、fmodは変調信号の周波数である。
【0021】
以下、式1の導出および個々の数値に言及する。二次粒子ビームの粒子の、サンプルから、基準点にある検出器への伝搬時間は、
【数4】

【0022】
によって与えられている。但し、tは伝搬時間であり、Zはサンプルと検出器の距離であり、VTeilchenは二次粒子ビームの粒子の速度である。サンプルの位置と、基準点にある検出器との間の位相差は、式(式2)によって生じる。
【数5】

【0023】
しかしながら、距離(絶対的距離)を測定するために、他の効果を、例えば、検出器手前における二次粒子ビームの粒子の後段加速、粒子の経路の可能な変更、および、粒子ビーム装置、特に電子ビーム装置で用いられる増幅器またはフィルタに基づく可能な位相オフセットを考慮する必要がある。これらのパラメータは位相オフセットφoffsetで考慮される。式2を転換することによっておよび位相オフセットφoffsetを考慮することによって、式1が得られる。
【0024】
上述のように、距離を測定するために、後方散乱電子を用いることは好ましい。これらの後方散乱電子は、サンプルからの放出後に、一次粒子ビームの粒子の励起エネルギに近い最大値を持つエネルギ分布を有する。後方散乱電子の速度の計算は、一次粒子ビームの粒子の加速電圧が高い場合に、相対論的になされる。
【0025】
位相の飛び越しが認識されないので、Δφ≦πに関して、距離の明瞭な絶対測定が可能である。このことは、越えてはならない、サンプルと基準点(検出器)との最大限の距離をもたらす。最大限の距離は、2つの数値、つまり、変調信号の、既に上述した周波数(変調周波数)および二次電子ビームの粒子の速度によって、測定される。Δφ=πによって、式2の転換によって、式3が生じる。
【数6】

【0026】
但し、ZMAXはサンプルと基準点(検出点)との最大限の距離であり、VTeilchenは、二次粒子ビームの粒子の速度であり、fmodは変調信号の周波数である。即座に明らかなように、変調信号の速度のおよび周波数の変化によって、サンプルと基準点の最大限の距離従ってまた測定範囲を調整することができる。場合によっては、ここでも、φoffsetを考慮することができる。
【0027】
検出された変調信号と比較する対象である基準信号として、サンプルの第1の電位に元々変調信号を用いることができる。
【0028】
更に、距離を、本発明に係わる方法で、ヘテロダイン法によって、測定することができる。この場合、測定は、時間的に平行して、2つの僅かに異なる変調周波数で、なされる。2つの変調周波数にある位相値を測定することによって、明確性の拡大された範囲内で位相の位置を明瞭に測定することができる。この範囲は、2つの変調周波数の差分周波数によって与えられている。
【0029】
本発明に係わる方法で距離が位相差によって測定されるとき、前記数値の他に、分解能も、位相測定の分析によって測定することができる。位相測定の際の高い解像度による方法は既に知られている。それ故に、ここでは、この方法に、これ以上立ち入らない。
【0030】
本発明に係わる方法の基準点が、粒子検出器の位置によって与えられていることは好ましい。粒子検出器によって、二次粒子ビームの粒子が検出され、変調信号が測定される。粒子検出器の位置に応じて従ってまた粒子検出器とサンプルとの距離に応じて、異なる位置で、異なる信号対雑音比が生じる。このことによって生じる測定誤差を防止するためには、距離を測定するために、異なった位置に設けられた複数の粒子検出器を用いることは好都合である。このとき、各々の粒子検出器とサンプルとの距離が測定され、適切なアルゴリズムを用いて、サンプルと対物レンズとの正確な距離が算出される。
【0031】
本発明に係わる方法の実施の形態で、距離を測定用電子機器によって自動的に測定することは、利点である。本発明に係わる方法を、粒子ビーム装置、例えば走査型電子顕微鏡に用いるとき、サンプル支持体上のサンプルを粒子ビーム装置のサンプルチャンバに導き入れた後に、サンプルと検出器との距離が、自動的に即座に算出される。上述のように、このことによって、サンプルと対物レンズとの距離も算出可能である。それ故に、続いて、サンプルに当たる一次電子ビームを集束することができる。手動による調整および集束は省略できる。
【0032】
既述のように、方法は、粒子ビーム装置、特に走査型電子顕微鏡において使用可能である。しかし、本発明に係わる方法は、透過型電子顕微鏡またはイオンビーム装置内で距離を測定するためにも適切である。
【0033】
検査されるサンプルと少なくとも1つの基準点との距離を測定するための、特に、本発明に係わる上記の方法を実施するための装置は、或る信号をサンプルの第1の電位に変調するための少なくとも1つの変調ユニットを有する。更に、サンプルに向けられる一次粒子ビームを発生させるための少なくとも1つのビーム発生器が設けられている。一次粒子ビームがサンプルに当たるとき、粒子からなる二次粒子ビームが発生され、この二次粒子ビームは、サンプルから導き出され、二次粒子ビームの粒子は、変調信号を持つ第2の電位を有する。装置は、更に、二次粒子ビームの粒子と、二次粒子ビームの粒子の第2の電位に変調信号とを検出するための少なくとも1つの検出器を有し、更に、検出された変調信号を、基準信号と比較するための少なくとも1つの評価ユニットを具備する。基準信号と検出された変調信号との間の関係から、距離が測定される。
【0034】
所定の周波数を有する信号を変調するための変調ユニットが形成されていることは好ましい。この周波数は、変調ユニットまたは調整ユニットによって調整可能であることは好ましい。この場合、正弦状の信号の変調は好都合である。
【0035】
本発明に係わる装置の他の実施の形態では、検出器は、信号増幅ユニットすなわち信号増幅器および帯域フィルタを介して、評価ユニットに接続されている。信号増幅ユニットは、検出器によって発生された信号を増幅するために用いられる。これに対し、帯域フィルタは、信号増幅ユニットによって発生された信号を提供するために用いられる。この段落で記述したことは、従来の技術から既に十分に知られている。それ故に、このことには、これ以上詳細に立ち入らない。
【0036】
評価を行なうために、評価ユニットは変調ユニットに接続されている。それ故に、評価ユニットは、サンプルの電位に変調信号のみならず基準信号および検出された変調信号を受信する。このとき、検出された変調信号と基準信号との間の位相差を測定することによって、サンプルと検出器との距離を測定することができる。
【0037】
装置内での検出器の設置は適切に選択することができる。実施の形態では、例えば、検出器が、光軸の回りに対称的に延びており、この光軸に沿って一次粒子ビームが導かれることが提案されている。この実施の形態では、検出器は、例えば反転電極として形成されている。二次粒子ビームがこの検出器に当たるとき、二次電子が放出される。二次電子は、吸引検出器の方へ吸引され、そこで、検出される。その代わりに、検出器は、フォトマルチプライヤとシンチレータとの組合せとしても形成されている。
【0038】
対称的な配列の代わりにまたはそれに追加して、検出器は、光軸の外に設けられている。光軸上では一次粒子ビームが案内される。
【0039】
本発明に係わる装置が、本発明に係わる方法に関して上で既に説明したように、異なった位置で、複数の検出器を有することは好都合である。
【0040】
同様に既に上述したように、本発明に係わる方法は、粒子ビーム装置、特に電子ビーム装置での使用に適当である。粒子ビーム装置は、本発明に係わる上記の装置を有する。更に、粒子ビーム装置は、一次粒子ビームをサンプルに集束するための対物レンズを有し、対物レンズはビーム発生器に向けられた第1の側およびサンプルに向けられた第2の側を有する。この場合、検出器は、対物レンズの第1の側に設けられている。本発明は、特に、少なくとも1つの走査手段によって一次粒子ビームをサンプルの上面に走査することができる粒子ビーム装置のために、適切である。粒子ビーム装置が走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡として形成されていることは好ましい。しかし、本発明は、このタイプの粒子ビーム装置に限定されない。むしろ、本発明は、距離測定がなさねばならなくてなるあらゆる粒子ビーム装置に適切である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の1つの実施の形態を詳述する。例として走査型電子顕微鏡を参照して本発明を以下に説明する。しかし、本発明は走査型電子顕微鏡に限定されず、あらゆる粒子ビーム装置のために適切である。
【0042】
図1は走査型電子顕微鏡1の形態の粒子ビーム装置の略図を示す。走査型電子顕微鏡1は、電子源2(カソード)の形態のビーム発生器と、抽出電極3と、アノード4とを有する。このアノード4は、同時に走査型電子顕微鏡1のビーム案内管5の一端である。前記電子源2は、熱形フィールド・エミッタであることが好ましい。電子源2から放出された電子は、電子源2とアノード4との間の電位差に基づいて、アノード電位で加速され、一次電子ビームを形成する。
【0043】
走査型電子顕微鏡1は、孔が形成されている磁極片7を有する対物レンズ6を具備する。孔中にはビーム案内管5が延びている。磁極片7には、既に久しい前から知られているコイル8が設けられている。ビーム案内管5の後方には静電形の遅延装置が接続されている。この遅延装置は、単極11および管形電極(Rohrelektorde)10からなる。この管形電極10は、ビーム案内管5の、サンプル12に対向している端部に形成されている。かくて、管形電極10が、ビーム案内管5と共に、アノード電位にあるのに対し、単極11およびサンプル12はアノード電位に比較して低い電位にある。かのようにして、一次電子ビームの電子を、サンプル12の検査のために必要な所望の低いエネルギへ減速することができる。更に、一次電子ビームを偏向させて、サンプル12の上面を走査することができる走査手段9が設けられている。
【0044】
一次電子ビームとサンプル12との相互作用に基づいてサンプル12から放出および後方散乱された二次電子または後方散乱電子を検出するために、複数の検出器19,20および21を有する検出装置がビーム案内管5に設けられている。この場合、検出器19は、光軸13を中心として対称的に、対物レンズ6の幾らか上方で、ビーム案内管5に設けられている。この場合、検出器19は、知られるように、ガラス製光ガイドおよびその後方に接続されたフォトマルチプライヤを有するシンチレータとして形成されている。
【0045】
更に、ビーム発生器2の方向に設けられ、検出器19から間隔をあけられていて、検出器20として形成されている反転電極が設けられている。この検出器20は、サンプルから放出および後方散乱された電子が当たるとき、同様に、二次電子を射出する。この二次電子は、検出器21へと吸引され、検出器21において検出される。検出器20から検出器21への二次電子の吸引および加速は、久しい間知られており、ここではこれ以上記述されない。
【0046】
結像のために、走査手段9は、ライン30を介してラスタ発生器14に接続されている。ラスタ発生器は、同様に、ライン31を介して、結像および/または画像記憶ユニット15に接続されている。結像および/または画像記憶ユニット15は、複数の検出器21および19から、ライン32および34夫々を介して、結像のために用いられる検出信号を受信する。このような画像信号は、ライン33を介して、結像および/または画像記憶ユニット15からモニタ16へ更に伝達される。
【0047】
サンプル12は、X方向、Y方向およびZ方向に可動な物体支持体(図示せず)に設けられている。特に、物体支持体も傾動可能である。サンプル12と複数の検出器19および21との間の距離(図1では、一目瞭然という理由から、サンプル12と検出器21との間の距離Zしか示されていない)は、以下に記載の装置によって算出される。
【0048】
前記サンプル12は、変調ユニット22に接続されており、この変調ユニットは同様にライン26を介して評価ユニット25に接続されている。この評価ユニット25は、信号増幅ユニット23および帯域フィルタ24を介して、複数の検出器19および21によって検出された信号を受信する。個々のユニットを接続するために、複数のライン27,28および29が設けられている。
【0049】
変調ユニット22によって、サンプル12の電位に、正弦状の信号が変調される。この変調信号は、実際に、サンプル12から後方散乱された電子(後方散乱電子)へ「伝送」される。複数の検出器19および21夫々では、距離の測定のために、主として後方散乱電子従ってまた変調された正弦状の信号が検出される。しかしながら、検出された変調信号は、サンプル12と2つの検出器19および21との間の距離に基づいて、元々変調信号へ移相される。移相は評価装ユニット25において決定される。この場合、サンプル12と検出器21または検出器19との間の距離は、以下の式によって測定される。
【数7】

【0050】
但し、Zはサンプル12と検出器19または21との間の距離であり、Δφは、サンプル12の位置で変調信号と、検出器19または21の位置とで算出された信号との間の位相差である。他の数値は既にずっと上で記述した。
【0051】
前記方法および前記装置によって、サンプル12と検出器19および21との距離を正確に測定することは、容易に可能である。走査型電子顕微鏡1では対物レンズ6に対する検出器19および21の位置が決定されているので、このようにして、サンプル12と対物レンズ6との間の距離も正確に測定可能従ってまた調整可能である。かくして、一次電子ビームをサンプル12に十分に物体に集束させることは、容易に可能である。
【0052】
従来の技術と比較して、前記方法および前記装置は、距離を測定するために追加のシステムが不要であるという利点を有する。むしろ、距離は、一次電子ビームによっておよび、主として、サンプル12から後方散乱された電子によって、位相差の測定に基づいて算出される。従って、前記方法は、特に、検査されるサンプル12の光学特性に依存していない。
【0053】
本発明が走査型電子顕微鏡1に限定されていないことは、もう一度、はっきりと指摘しておく。むしろ、本発明は、如何なる粒子ビーム装置でも、特に、スポット・モード(集束された電子ビーム)で操作される透過型電子顕微鏡でも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】サンプルと検出器との距離を測定するための装置を有する粒子ビーム装置の略図を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 走査型電子顕微鏡
2 電子源
3 抽出電極
4 アノード
5 ビーム案内管
6 対物レンズ
7 磁極片
8 コイル
9 走査手段
10 管形電極
11 電極
12 サンプル
13 光軸
14 ラスタ発生器
15 結像および/または画像記憶ユニット
16 モニタ
19 検出器、基準点
20 検出器、反転電極
21 検出器、基準点
22 変調ユニット
23 信号増幅ユニット、信号増幅器
24 帯域フィルタ
25 評価ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査されるサンプル(12)と少なくとも基準点(19,21)との間の距離(Z)を測定する方法であって、
所定の信号を前記サンプル(12)の第1の電位に変調する工程と、
一次粒子ビームを前記サンプル(12)に当て、粒子からなる、変調された変調信号を持つ第2の電位を有する二次粒子ビームを発生させるように、変調信号一次粒子ビームを前記サンプル(12)に供給する工程と、
前記二次粒子ビームと、前記二次粒子ビームの粒子の前記第2の電位に変調信号とを検出する工程と、
基準信号と前記検出された変調信号との間の関係から、前記距離(Z)を測定するように、前記検出された変調信号を、基準信号と比較する工程とを具備する方法。
【請求項2】
前記二次粒子ビームの前記粒子は、後方散乱電子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルの前記第1の電位に変調される信号は、所定の周波数を有し、特に、正弦状の信号として形成されており、この周波数は好ましくは選択可能である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記信号を、10MHzと100GHzとの間の周波波で変調する、請求項1ないし3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプル(12)と前記基準点(19,21)との間の距離(Z)は、前記検出された変調信号変調信号と前記基準信号との間の位相差に基づいて、以下の式によって算出され、
【数1】

但し、Zは前記サンプル(12)と前記基準点(19,21)の距離であり、Δφは、前記検出された変調信号変調信号の第1の位相定数と、前記基準信号の第2の位相定数との間の位相差であり、φoffsetは、前記距離(Z)の測定のために重要なパラメータを含む数値であり、VTeilchenは、二次粒子ビームの粒子の速度であり、fmodは変調信号変調信号の周波数である、請求項1ないし4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記サンプル(12)が前記基準点(19,21)に対して有することができる最大限の距離によって限定されている測定範囲を有し、前記最大限の距離は、以下の式によって与えられており、
【数2】

但し、ZMAXは前記サンプル(12)と前記基準点(19,21)との前記最大限の距離であり、VTeilchenは、二次粒子ビームの粒子の速度であり、fmodは変調信号変調信号の周波数である、請求項1ないし5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルの前記第1の電位に変調信号変調信号を、基準信号として使用する、請求項1ないし6のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
前記基準点は、粒子を検出するための前記検出器(19,21)の位置によって定められている、請求項1ないし7のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
前記距離(Z)を測定用電子機器(25)によって自動的に測定する、請求項1ないし8のいずれか1に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプル(12)と前記基準点(19,21)との間の前記距離(Z)を、粒子ビーム装置(1)、特に電子顕微鏡により測定する、請求項1ないし9のいずれか1に記載の方法。
【請求項11】
検査されるサンプル(12)と少なくとも1つの基準点(19,21)との間の前記距離(Z)を測定するための、特に、請求項1ないし10のいずれか1に記載の方法を実施するための装置であって、
所定の信号を前記サンプル(12)の第1の電位に変調するための少なくとも1つの変調ユニット(22)と、
前記サンプル(12)に当たる一次粒子ビームを発生させるためのビーム発生器(2)と、
前記二次粒子ビームの粒子を検出するための、および前記二次粒子ビームの粒子の第2の電位に変調信号を検出するための少なくとも1つの検出器(19,20,21)と、
前記検出された変調信号を、基準信号と比較するための少なくとも1つの評価ユニット(25)とを具備し、
前記一次粒子ビームが前記サンプル(12)に当たるとき、粒子からなる二次粒子ビームが発生され、この二次粒子ビームは、前記サンプル(12)から導き出され、二次粒子ビームの粒子は、変調信号変調信号を持つ第2の電位を有し、
前記基準信号と前記検出された変調信号との間の関係から、前記距離(Z)が測定される。
【請求項12】
所定の周波数を有する信号を変調するための、特に、正弦状の信号を変調するための前記変調ユニット(22)が形成されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記検出器(19,21)は、信号増幅器(23)および帯域フィルタ(24)を介して、前記評価ユニット(25)に接続されている、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記基準信号を提供するための前記変調ユニット(22)は、前記評価ユニット(18)に接続されている、請求項11ないし13のいずれか1に記載の装置。
【請求項15】
検出器(19,20)は、光軸(13)を中心として対称的に延びており、この光軸に沿って前記一次粒子ビームが導かれる、請求項11ないし14のいずれか1に記載の装置。
【請求項16】
検出器(21)は、光軸(13)の外に設けられており、この光軸に沿って前記一次粒子ビームが導かれる、請求項11ないし15のいずれか1に記載の装置。
【請求項17】
請求項1ないし10のいずれか1に記載の方法の、および/または検査されるサンプル(12)の形状を測定するための請求項11ないし16のいずれか1に記載の装置の使用。
【請求項18】
請求項11ないし16のいずれか1に記載の装置と、一次粒子ビームを前記サンプル(12)に集束させる対物レンズ(6)とを具備する粒子ビーム装置(1)、特に電子ビーム装置であって、前記対物レンズ(6)は、前記ビーム発生器(2)に向けられた第1の側および前記サンプル(12)に向けられた第2の側を有し、前記検出器(19,20,21)は、前記対物レンズ(6)の前記第1の側に設けられている。
【請求項19】
前記検出器(19,20,21)は結像のために形成されている、請求項18に記載の粒子ビーム装置。
【請求項20】
前記粒子ビーム装置(1)は、前記サンプル(12)の上面に亘って前記一次粒子ビームを走査するための少なくとも1つの走査手段(9)を有する、請求項18または19に記載の粒子ビーム装置(1)。
【請求項21】
前記粒子ビーム装置(1)は、走査型電子顕微鏡として形成されている、請求項18ないし20のいずれか1に記載の粒子ビーム装置(1)。
【請求項22】
前記粒子ビーム装置(1)は透過型電子顕微鏡として形成されている、請求項18ないし20のいずれか1に記載の粒子ビーム装置(1)。

【図1】
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【公開番号】特開2007−171193(P2007−171193A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343105(P2006−343105)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(504020452)カール・ツァイス・エヌティーエス・ゲーエムベーハー (36)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss NTS GmbH
【Fターム(参考)】