距離測定装置
【課題】計算量が少なく、かつ距離の算出精度を十分に高めることができる距離測定方法を用いた距離測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】受信手段と、測定部21と、記憶部22と、演算部(距離演算部)17と、を備え、演算部17は、記憶部22から取り出した振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする。
【解決手段】受信手段と、測定部21と、記憶部22と、演算部(距離演算部)17と、を備え、演算部17は、記憶部22から取り出した振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象との間を伝搬した電波のチャンネル間の位相差を利用して距離測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波を送信するマスタ通信装置と、マスタ通信装置から受けた電波を返信するスレーブ通信装置とを備えた距離測定システムがある。かかる距離測定システムでは、マスタ通信装置からスレーブ通信装置に対して電波を送信し、スレーブ通信装置が電波を受信するとともに受信電波に同期してマスタ通信装置へ電波を返信する。マスタ通信装置は、スレーブ通信装置から返信された電波を受信し、受信信号の位相情報からスレーブ通信装置までの距離を測定する。
【0003】
マルチパス環境下では、マスタ通信装置とスレーブ通信装置との間を伝搬する電波として直接波の他にも反射波等の間接波が含まれる。直接波と間接波とが混在すると測定精度が低下するので、受信信号を高速フーリエ変換して直接波と間接波とを時間軸上で分離し、直接波のみの位相情報を取り出して距離測定に用いる測定方式がある(特許文献1参照)。たとえば、受信信号の受信周波数範囲を狭帯域の複数チャンネルに分け、チャンネルごとに受信信号を高速フーリエ変換して各チャンネルの直接波の位相を検出し、隣接チャンネル間の位相差から測定対象距離を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−261444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、直接波と間接波とが時間的に近接すると、高速フーリエ変換で直接波だけを分離することが困難になるので、間接波の影響を受けて距離測定精度が低下する可能性がある。また、チャンネルごとに高速フーリエ変換するため、計算量が非常に大きくなって処理負荷が増大するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、フーリエ変換などを用いる方法と比較して計算量が少なく、かつ距離測定精度を十分に高めることができる距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の距離測定装置は、測定対象から直接到来する直接波と該直接波と異なる経路を伝搬した間接波との合成波を、周波数方向に連続する複数チャンネルで受信する受信手段と、前記受信手段で受信した合成波の振幅および位相をチャンネル毎に測定する測定部と、前記測定部でチャンネル毎に測定された振幅および位相測定値が格納される記憶部と、前記記憶部に格納された振幅および位相測定値を演算処理して前記測定対象との間の距離を算出する距離演算部と、を備え、前記距離演算部は、前記記憶部から取り出した複数チャンネル分の振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、位相差曲線に現れた極値が振幅極小値の検出されたチャンネル及びその近傍において極大値であれば、その時の隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出し、位相差曲線に現れた極値が振幅極小値の検出されたチャンネル及びその近傍において極小値であれば、その時の位相差は距離演算から排除するので、測定対象との間の途中で反射した反射波等の間接波の影響を軽減でき、フーリエ変換演算を適用せずに、測定対象との間を直線状に伝搬した直接波が優勢である信号を用いた距離測定を実現でき、少ない計算量で距離算出の精度を高めることができる。
ここで、直接波と間接波との合成波を受信する通信環境において、所定の周波数帯域において受信振幅が極小値をとるのは、直接波の位相と間接波の位相とが180°異なり、直接波と間接波とが打ち消しあうためである。受信振幅が極小値となるチャンネルとその隣接チャンネルとの間の位相差が極大値になるということは、直接波が優勢であり、隣接チャンネンル間の位相差が極小値の場合は、間接波が優勢であることと考えられる。したがって、位相差曲線において位相差の極値が極大値であれば、直接波が優勢と判断でき、そのときに測定された隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出することにより、直接波が優勢な合成波から正確な距離測定が可能になる。
【0009】
本発明の距離測定装置において、前記位相差曲線における極値が極大値でない場合、測定条件が異なる状態で再測定を行っても良い。この構成によれば、直接波が優勢ではない場合には、測定条件を異ならせて再測定を行うことで、前記位相差曲線における極値が最大値に変化する確率が高くなり、間接波が優勢の合成波での距離測定を回避することができる。
【0010】
本発明の距離測定装置において、前記受信手段は、複数の受信アンテナを有し、前記再測定においては、前回測定時とは異なるアンテナを使用しても良い。この構成によれば、距離測定に使用するアンテナを選択することで、容易に測定条件を切り替えることができ、直接波が優勢の状態を容易に実現することができるため、距離算出の精度を高めることができる。
【0011】
本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナのうち、前記測定に使用しないアンテナの給電側の負荷を開放しても良い。また、本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナは、前記遅延線と接地端との間を開放しても良い。また、本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナの前記遅延線と接地端との間を短絡しても良い。ここで、「電気長」とは、伝送路を伝搬する正弦波の波長を基準にした長さ、または、電磁波の伝搬速度を基準する長さをいう。これらの構成によれば、測定に使用しないアンテナによる干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0012】
本発明の距離測定装置において、前記距離演算部は、前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、前記振幅極小値が検出され、前記振幅極大値が検出されず、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出し、前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出され、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、前記振幅極大値となる周波数位置から前記振幅極小値となる周波数位置までの各隣接チャンネル間の位相差の平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、条件に応じて適した算出方法を選択し、フーリエ変換などを用いることなく距離を算出するため、少ない計算量で高い精度の距離算出を行うことができる。
【0013】
本発明の距離測定装置において、前記振幅極小値が検出されない場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、受信振幅の極小値が存在しない状況では、直接波が優勢か否か判断できないので、現在の測定データで距離算出を行うことにより、距離測定値の欠損を防止することができる。なお、この場合においても、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均化することで、距離算出における反射波の影響を低減することができる。
【0014】
本発明の距離測定装置において、前記距離演算部は、前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出されない場合、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均し、該位相差平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出し、前記振幅極小値が検出されず、前記振幅極大値が検出される場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、条件に応じて適した算出方法を選択し、フーリエ変換などを用いることなく距離を算出するため、少ない計算量で高い精度の距離算出を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の距離測定装置によれば、位相差が極大値となることにより直接波が優勢と判断される場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出し、そうでない場合には、測定条件が異なる状態で再測定を行うことにより、マルチパス環境下であっても、少ない計算量で精度の高い距離測定を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】振幅−周波数特性のパターンを示す模式図である
【図3】直接波と反射波とが混在する測定環境の例を示す模式図である。
【図4】距離測定装置での距離測定動作のフロー図である。
【図5】NULL点が存在するパターンのうち、直接波が優勢のパターンを示す模式図である。
【図6】NULL点が存在するパターンのうち、間接波が優勢のパターンを示す模式図である。
【図7】直接波、間接波、合成波の位相−周波数特性の例を示す模式図である。
【図8】距離測定装置での距離測定動作のフロー図である。
【図9】複数の受信アンテナを有する距離測定装置の構成を示す模式図である。
【図10】距離算出方法について示すフロー図である。
【図11】極値を有さないパターンの振幅−周波数特性の例を示す模式図である。
【図12】下に凸の極値を1つだけ有するパターンの振幅−周波数特性、振幅差−周波数特性の例を示す模式図である。
【図13】上に凸の極値を1つだけ有するパターンの振幅−周波数特性、振幅差−周波数特性の例を示す模式図である。
【図14】複数の極値を有するパターンの振幅−周波数特性の例を示す模式図である。
【図15】(a)直接波と反射波のいずれが優勢であるかを確認するシミュレーションモデルを示す図である。(b)使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することの有効性を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図16】直接波が優勢の場合のシミュレーション結果である。
【図17】反射波が優勢の場合のシミュレーション結果である。
【図18】高さが異なるアンテナを用いる場合のNULL点の分布を示すシミュレーション結果である。
【図19A】使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放した場合と未開放にした場合の電波の放射パターンを示すシミュレーション結果である。
【図19B】使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放した場合と未開放にした場合の電波の放射パターンを示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、直接波が優勢の合成波だけを用いて距離測定を行う実施の形態について説明する。ここでは、送信機能を有する距離測定装置を用いる場合について説明するが、各チャンネルの位相情報を検出できるのであれば、受信機能だけを備える距離測定装置にも適用可能である。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る距離測定装置の構成例を示すブロック図である。
本実施の形態に係る距離測定装置11は、チャンネル数に対応した複数の発振周波数で発振可能な基準発振器12と、基準発振器12から出力される発振信号を用いて各チャンネルに対応した距離測定用の送信信号を生成する送信部13と、送信部13から出力される送信信号を電波にて放射する送信用アンテナ14とを有する送信系を備える。送信部13は、ミキサ、バンドパスフィルタ、パワーアンプなどを含んで構成され、発振周波数を用いて送信信号をRF信号にアップコンバートする。例えば、2405MHzから2480MHzの周波数範囲において、2.5MHz間隔のチャンネルのそれぞれで送信信号を生成して送信できるように構成されている。
【0019】
また、距離測定装置11は、受信用アンテナ15と、受信用アンテナ15で受けた電波をチャンネル毎の受信信号に変換して出力する受信部16と、受信部16から出力される受信信号から距離測定を行う演算部(距離演算部)17とを有する受信系を備える。受信部16は、ローノイズアンプ、ミキサ、バンドパスフィルタなどを含んで構成され、上記送信系で各送信信号を送信したチャンネル毎に受信できるように構成されている。演算部17は、受信信号の振幅および位相を測定する測定部21と、測定部21で測定された測定結果であるチャンネル毎の振幅および位相を記憶する記憶部22と、記憶部22に記憶した各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅特性を判定する振幅特性判定部23と、振幅特性判定部23によって判定された振幅特性に応じて距離計算に必要なチャンネル間の位相差を求める位相差計算部24と、チャンネル間の位相差の所定周波数範囲での平均値を計算する平均値計算部25と、振幅特性判定部23、位相差計算部24、平均値計算部25からの情報をもとに距離計算を行う距離計算部26と、を含んで構成される。なお、演算部17の構成や機能は、ハードウェアで実現しても良いし、ソフトウェアで実現しても良い。また、記憶部22は、演算部17外に設けられていても良い。
【0020】
なお、ここでは、送信系と受信系が分離された態様の距離測定装置11を示しているが、例えば、基準発振器12を共用し、また、送信用アンテナ14と受信用アンテナ15とを一体化してもよい。また、受信用アンテナ15を複数備える構成(マルチアンテナ)としても良い。複数の受信用アンテナ15を備えることで、異なる受信アンテナ15を使用して距離測定を行うことができるため、距離測定における測定条件の変更が容易になる。なお、複数の受信アンテナ15を備える構成の場合には、測定に使用しない受信アンテナ15の給電側の負荷は開放しておくことが好ましい。これにより、測定に使用しない受信アンテナ15による干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0021】
振幅特性判定部23は、受信周波数範囲に含まれる各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅特性を判定する。具体的には、図2(a)に示すように、受信信号の振幅特性パターンが下に凸の極値(極小値)を有するパターンであるか、または、図2(b)に示すように、下に凸の極値(極小値)を有さないパターンであるかを判定する。位相差計算部24は、記憶部22に格納された各チャンネルの位相から、隣接チャンネル間の位相差を算出する。なお、隣接チャンネル間の位相差測定方法は上記方法に限定されない。
【0022】
次に、上述のように構成された距離測定装置11による距離測定動作について説明する。本実施の形態では、図3(a)に示すように、中継器31(トランスポンダ)を距離測定対象に想定している。以下、距離測定装置11と中継器31の各アンテナが、反射壁32から距離d1離れた位置に、距離d2の間隔をおいて配置されたモデルに基づいて説明する。
【0023】
図3(b)に示すように、距離測定装置11が距離測定用の送信信号を送信すると、中継器31は、距離測定装置11から直接伝搬する直接波41と反射壁32に反射されて伝搬する反射波42とが合成された合成波を受信する。図3(c)に示すように、送信信号を受けた中継器31が、距離測定装置11に対して送信信号と位相を同期させた返信信号を送信する。距離測定装置11は、中継器31から直接伝搬する直接波51と、反射壁32に反射されて伝搬する反射波52とが合成された合成波を受信する。そして、距離測定装置11は、受信した合成波から隣接チャンネル間の位相差を求めてアンテナ間(距離測定装置11と中継器31との間)の距離d2を算出する。
【0024】
なお、本発明は上述のようないわゆる二次レーダ方式に限定されない。測定対象に対して発した信号が単純に反射され、その反射波を受信して距離を計測するいわゆる一次レーダ方式にも同様に適用可能である。
【0025】
距離測定が開始されると、距離測定装置11は、各チャンネルの送信信号を所定間隔で順番に送信する。例えば、基準発振器12が各チャンネルに対応した発振周波数の発振信号を生成して順番に送信部13へ供給し、送信部13が各チャンネルに対応した発振周波数の発振信号を用いて周波数変換された送信信号を生成する。複数チャンネルで構成される周波数範囲やチャンネル数(隣接チャンネル間隔)については、用途などに応じて適宜設定することが望ましい。ここでは、2405MHz〜2480MHzの周波数範囲において2.5MHz間隔の32チャンネルの送信信号を発生させることとする。
【0026】
測定対象である中継器31は、距離測定装置11から送信された距離測定用の送信信号を受信し、受信した送信信号に位相を同期させた返信信号を生成して送信する。中継器31は、チャンネル毎に受信される送信信号に対応して、受信チャンネルと同一チャンネルの送信信号を順次返信する。したがって、距離測定装置11からは各チャンネルの送信信号が順番に送信され、中継器31からは各チャンネルの送信信号が順番に返信される。なお、一次レーダ方式の場合は、測定対象は反射体となるので、中継器31で行われるような同期処理は発生しない。
【0027】
以下に、距離測定装置11が中継器31から返信された各チャンネルの返信信号を受信してから距離測定完了までの処理内容について詳しく説明する。
【0028】
図4は本実施の形態に係る距離測定装置11における距離測定のフロー図である。距離測定装置11は、中継器31からチャンネル毎に順番に送信(応答送信)された送信信号を受信すると、ステップ101において演算部17の測定部21が各チャンネルの受信信号の振幅および位相を測定する。位相差計算部24は、測定部21において測定された各チャンネルの位相データをもとに、隣接チャンネル間で高周波側チャンネルの位相から低周波側チャンネルの位相を減ずる計算を行って、当該隣接チャンネル間の位相差を検出する。当該位相差の計算は、複数チャンネルで構成される周波数範囲全域で行う。測定部21の測定結果(チャンネル毎の振幅および位相)、および位相差計算部24の計算結果(各隣接チャンネル間の位相差)は、記憶部22に記憶される。
【0029】
図5(a)は上記測定によって得られる振幅−周波数特性の例を示しており、図5(b)は位相−周波数特性の例を示している。また、図5(c)は位相差−周波数特性の例を示している。図5(a)〜(c)は直接波が優勢の測定条件によって得られる特性の例である。図6(a)は上記測定によって得られる振幅−周波数特性の別の例を示しており、図6(b)は位相−周波数特性の別の例を示している。また、図6(c)は位相差−周波数特性の別の例を示している。図6(a)〜(c)は反射波が優勢の測定条件によって得られる特性の例である。
【0030】
図5(a)および図6(a)では、振幅−周波数特性における特定チャンネルが極小値(以下、当該極小値をとるチャンネルをNULL点と呼ぶ)となっている。本実施の形態に係る距離測定装置11は、振幅−周波数特性に現れたNULL点において、直接波と反射波のうちの一方の影響が顕著に表れるという性質を利用して直接波が優勢な測定データを選択する。NULL点では直接波の位相と反射波の位相とが180°異なることにより、直接波と反射波とが打ち消しあっている(弱めあっている)と考えられる。したがって、直接波または反射波の一方が優勢であれば、その一方の影響が顕著に表れると考えられる。
【0031】
ここで、位相−周波数特性および位相差−周波数特性について考察する。一般に、電波が所定距離を伝搬する場合には、低周波側では高周波側と比較して位相が遅延する。すなわち、位相曲線は高周波側に向かって減衰する右肩下がりとなる(図5(b)、図6(b))。また、反射波は、伝搬経路途中の反射壁で反射しているので、直接波よりも伝搬距離が長くなるため、二つの異なる周波数間での位相遅延はより大きくなる。
【0032】
すなわち、図7(a)に示すように、反射波(直線b)の位相曲線の傾きは、直接波(直線a)の位相曲線の傾きより大きくなる。また、合成波(直線c)の傾きは、直接波と間接波の中間の値になる。ところが、直接波が優勢の場合には、NULL点近傍では反射波の影響をほとんど受けないため、図7(b)に示すように、NULL点近傍における合成波の位相は周辺の周波数領域と比較して大きくなる。また、間接波が優勢の場合には、NULL点近傍では直接波の影響をほとんど受けないため、図7(c)に示すように、NULL点近傍の合成波の位相は周辺の周波数領域と比較して小さくなる。
【0033】
NULL点以外の周波数領域では、合成波の位相傾きは概ね一定であり、隣接チャンネル間の位相差は概ね一定である。このため、直接波が優勢の場合(図7(b)、図5(b))、位相差曲線は、NULL点近傍において極大値を有することになる(図5(c))。また、反射波が優勢の場合(図7(c)、図6(b))、位相差曲線は、NULL点近傍において極小値を有することになる(図6(c))。このように、NULL点における位相差が極大値か否かによって、合成波中において直接波が優勢であるか否かを判別することができる。直接波が優勢である測定データを選別することができれば、距離算出精度を改善できると考えられる。
【0034】
このようなNULL点のもつ情報を引き出すため、ステップ102ではNULL点の有無を判定する。具体的には、振幅特性判定部23が、振幅曲線における極小値の有無を判定する。ここで、受信信号の振幅データは、例えば32チャンネルの離散データであるから、受信信号の振幅データから得られる振幅曲線(振幅−周波数特性)は、周波数軸上では離散的なものである。つまり、受信信号の振幅データから求めることができる極小値は、厳密な意味での極小値ではない。一方で、上述のように十分なチャンネル数の信号を用いることによって、極小値に近似する値が得られるため、ここではこのような近似的な値を含めて「極小値」と称する。なお、当該極小値は、対象チャンネルにおける振幅の大きさと、他チャンネルにおける振幅の大きさとの比較によって求められる。すなわち、極小値とは、振幅−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に減少し、ある位置から連続的に増加している場合の最小値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極小値は1つとは限らない。
【0035】
本実施の形態の距離測定装置11は、受信信号の振幅−周波数特性を、極小値(またはNULL点)の有無で分類する。上述のステップ102によって、NULL点が存在すると判断された場合(図2(a))には、ステップ103へ移行する。NULL点が存在しないと判断された場合(図2(b))には、ステップ104へ移行する。
【0036】
ステップ103では、NULL点における位相差−周波数特性の情報をもとに、合成波中において、直接波が優勢であるか反射波が優勢であるかを判別する。具体的には、NULL点とその隣接チャンネルとの位相差が、位相差−周波数特性における極大値であるか否かを判別する。図5(c)のように、NULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が極大値である場合には、ステップ104へ移行する。また、図6(c)のように、NULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が極大値ではない場合(典型的には、極小値の場合)には、ステップ105へ移行する。なお、受信信号の位相曲線(位相−周波数特性)は、振幅曲線(振幅−周波数特性)と同様の離散データであるから、受信信号の位相情報から得られる位相差曲線(位相差−周波数特性)も、振幅曲線などと同様に離散的なものである。つまり、上述のような位相差の極大値は、厳密な意味での極大値であるとは限らない。一方で、上述のように十分なチャンネル数の信号を用いることによって、極大値に近似する値が得られるため、ここではこのような近似的な値を含めて「極大値」と称する。また、上述の位相差の極大値は、対象チャンネル間における位相差と、他チャンネル間における位相差との比較によって求められる。すなわち、極大値とは、位相差−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に増加し、ある位置から連続的に減少している場合の最大値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極大値は1つとは限らない。
【0037】
ステップ103においてNULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が、位相差曲線(位相差−周波数特性)における極大値であると判断された場合、すなわち、測定データとして適切なデータが取得できたと判断された場合には、ステップ104において、隣接チャンネル間の位相差をもとに距離の算出を行う。また、ステップ102においてNULL点が存在しないと判定された場合にも、隣接チャンネル間の位相差をもとに距離の算出を行う。なお、距離の算出方法は特に限定されないが、次のような方法をとることができる。
【0038】
例えば、振幅−周波数特性において、極小値に加え、極大値が存在する場合、隣接チャンネル間の位相差の極大値−極小値間における合計値(和)から距離を算出することができる。振幅−周波数特性が複数の極値を有する場合には、極値を与えるチャンネルと別の極値を与えるチャンネルとの間において、隣接チャンネル間の位相差を累積することにより、マルチパス波の影響を十分にキャンセルすることができるためである。
【0039】
この場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφ(rad)は隣接チャンネルの位相差を表し、c(m・s−1)は光速を表し、f1(Hz)は振幅−周波数特性が極大値となる周波数を表し、f2(Hz)は振幅−周波数特性が極小値となる周波数を表す。
【数1】
【0040】
ステップ103においてNULL点と隣接チャンネルとの位相差が、位相差−周波数特性における極大値ではないと判断された場合、すなわち、測定データとして適切なデータが取得できていないと判断された場合には、ステップ105において測定条件を変更した後にステップ101を実行する。このように、測定条件を変更して再測定を行うことで、変更後の測定条件が直接波の優勢な状況に変更される確率が高くなり、直接波の優勢な状況に変更されてから隣接チャンネル間の位相差距を求めれば、適切なデータを取得することができる。
【0041】
なお、ステップ105における測定条件の変更方法は特に限定されない。例えば、距離測定装置11が複数のアンテナ(例えば、複数の受信アンテナ)を有する場合には、測定に使用するアンテナを変更して測定すれば、測定条件を変更したことになる。また、距離測定装置が移動体に搭載されている場合には、所定時間後に測定を行うことで、距離測定装置11の位置が前回測定時の位置から変更される可能性が高く、これも測定条件を変更したことになる。その他、アンテナが可動である場合にはアンテナの位置を変更して再測定を行っても良いし、測定の周波数帯域を変更して再測定を行っても良い。
【0042】
なお、振幅−周波数特性にNULL点が存在しない場合の処理は、ステップ104に示す処理に限られない。例えば、ステップ105のように再測定を行っても良い。
【0043】
以上のように、NULL点の情報をもとに距離の算出を行うことにより、直接波が優勢な測定環境か否かを容易に判定することができるため、複雑な計算を行わなくとも測定精度を高めることができる。
【0044】
次に、距離測定装置11が複数の受信アンテナ15を有する場合の動作の一例を以下に説明する。図8は、距離測定装置11での距離測定動作の別の一態様を説明するフロー図である。なお、図8のステップ202、ステップ203、ステップ204、ステップ205は、それぞれ、図4のステップ101、ステップ102、ステップ103、ステップ104と同じ動作である。また、ここでは、図9(a)に示すように、受信アンテナ15a、および、受信アンテナ15bを有する距離測定装置11の動作について説明する。
【0045】
距離測定装置11は、はじめに、複数の受信アンテナ15のうちから使用する受信アンテナ15を設定する(ステップ201)。最初に使用する受信アンテナについて特に限定はないが、例えば、複数の受信アンテナのうち、アンテナ高さなどが平均的な受信アンテナを設定することができる。また、測定に使用しない受信アンテナ15の給電側の負荷は、開放されることが好ましい。ここで、図9(b)に示すように、距離測定装置11が、複数の互いに近接する受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bを備える場合を考える。この場合、図9(c)に示すように、受信アンテナ15aのみを有する場合の電波の放射パターン(破線)と比較して、測定に使用する受信アンテナ15aが受ける電波の放射パターン(実線)が歪んでしまう。これは、測定に使用しない受信アンテナ15bからの再放射が存在するためである。そこで上述のように、測定に使用しない受信アンテナ15bの給電側の負荷は開放しておくことで、測定に使用しない受信アンテナ15bによる干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0046】
なお、給電側の負荷を開放する態様としては、受信アンテナ15と接地端との間を短絡させる態様、受信アンテナ15と接地端との間を開放する態様などがあるが、そのいずれを用いても良い。例えば、受信アンテナ15と接地端との間を短絡させる態様においては、受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線51aおよび遅延線51bを接続し、測定に使用しない受信アンテナ15bの遅延線51bと接地端との間を短絡することが望ましい(図9(d))。また、例えば、受信アンテナ15と接地端との間を開放する態様においては、受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線51aおよび遅延線51bを接続し、測定に使用しない受信アンテナ15bの遅延線51bと接地端との間を開放することが望ましい(図9(e))。上述の電気長を有する遅延線51aおよび遅延線51bを受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに接続することで、使用しない受信アンテナ15による再放射を防ぎ、干渉を十分に抑制できるため、距離測定精度を高めることができる。なお、本発明はこれに限られない。
【0047】
本実施の形態では、ステップ204においてNULL点と隣接チャンネルとの位相差が極大値ではない場合(例えば、極小値の場合)に、ステップ206へ移行する。ステップ206では、測定条件を変更して再測定を行うために、測定に使用する受信アンテナ15を切り替える。それにより、直接波および反射波の伝搬経路が僅かに変化するため、直接波が優勢の測定環境を実現することが可能である。このように、測定に使用する受信アンテナ15を変更して再測定を行うことで、測定条件が変更されて、適切なデータを取得することができる。
【0048】
なお、NULL点が存在しない場合の処理は、ステップ205に示す処理に限られない。例えば、ステップ206のように受信アンテナ15を変更して再測定を行っても良い。
【0049】
以上、図8に示すように、複数の受信用アンテナ15を切り替えて距離測定を行うことにより、直接波が優勢な測定環境が容易に実現されるため、測定精度を容易に高めることができる。
【0050】
図10は、ステップ104やステップ205に適用することができる距離算出方法の別の一態様について説明するフロー図である。なお、距離の算出方法は図10に示す態様に限定されない。
【0051】
当該距離算出方法において、距離測定装置11の振幅特性判定部23は、記憶部22に記憶された各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅曲線(振幅−周波数特性)を求め、求められた振幅曲線における極大値(以下、当該極大値をとるチャンネルをPEAK点と呼ぶ)または極小値の数をカウントする(ステップ301)。なお、ここでいう極大値は、極小値と同様に近似的なものである。また、極大値は、各チャンネルの振幅値を周波数軸方向に配列した振幅−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に増加し、ある位置から連続的に減少している場合の最大値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極大値は1つとは限らない。極大値と極小値のカウントは、ステップ102やステップ203において併せて行っても良い。
【0052】
当該距離算出方法において、距離測定装置11は、全チャンネルの受信信号の振幅−周波数特性を、極大値(PEAK点)と極小値(NULL点)の組み合わせである(PEAK点の数,NULL点の数)で分類し、(0,0)、(1,0)、(0,1)、(≧1,≧1)の4つのパターンのいずれに該当するかを検出する。図11〜図14に、各パターンの振幅−周波数特性を示す。なお、図12および図13の上側には振幅−周波数特性を、下側には振幅差−周波数特性を示している。
【0053】
具体的には、振幅特性判定部23は、ステップ301でカウントされた極大値(PEAK点)の数から、極大値の有無を判定する(ステップ302)。また、ステップ301でカウントされた極小値(NULL点)の数から、極小値の有無を判定する(ステップ303、ステップ304)。そして、判定の結果をもとに、図11の振幅−周波数特性のような極値を有さないパターン(0,0)、図12の振幅−周波数特性のような下に凸の極値を1つだけ有するパターン(0,1)、図13の振幅−周波数特性のような上に凸の極値を1つだけ有するパターン(1,0)、図14の振幅−周波数特性のような複数の極値を有するパターン(≧1,≧1)のいずれかに場合分けする。なお、ここでは、極大値の有無を判定した後に、極小値の有無を判定しているが、極小値の有無を判定した後に、極大値の有無を判定しても良いし、極大値の有無と、極小値の有無とを同時に判定しても良い。
【0054】
上述のステップ302およびステップ303によって、極大値が存在せず、極小値も存在しないと判定された場合(図11)には、ステップ305へ移行し、ステップ302およびステップ303によって、極大値が存在せず、極小値が存在すると判断された場合(図12の振幅−周波数特性)、またはステップ302およびステップ304によって、極大値が存在し、極小値が存在しないと判断された場合(図13の振幅−周波数特性)には、ステップ306へ移行し、また、ステップ302およびステップ304によって、極大値が存在し、極小値も存在すると判断された場合(図14)には、ステップ307へ移行する。
【0055】
ステップ302〜304で、極大値や極小値の有無を振幅特性パターンの場合分けの基準にしているのは、コヒーレントなマルチパス波の影響は、振幅−周波数特性において、極大値または極小値という形で良く表れるためである。このように、極大値または極小値を用いて、マルチパス波の影響を考慮した距離の算出を行うことで、複雑な計算手法を用いずとも、精度良く距離を求めることができる。
【0056】
図11に示すように極大値および極小値が存在しないパターンではステップ305において、位相差の平均値を算出する。このため、位相差算出部24において算出された隣接チャンネル間の位相差を用いて、平均値計算部25が位相差の算術平均値を算出する。図11のような極値を有さないパターンの場合には、特定の隣接チャンネル間の位相差のみを用いて距離を算出すると、その位相差がマルチパス波の影響を大きく受けたものである場合に、測定精度が低下してしまうことがある。本実施の形態では、各隣接チャンネル間の位相差を全周波数範囲に亘って計算し、それら複数の位相差を平均化しているので、マルチパス波の影響を緩和することができ、精度良く距離を求めることができる。図11に示すように、周波数範囲に存在するチャンネルCH1〜CHNにおける各隣接チャンネル間の位相差の平均値を算出することになる。
【0057】
なお、距離測定精度を高めるという意味においては、平均値の算出に係る標本の数は多いことが望ましいから、例えば、32チャンネルの送信信号を用いる場合には、これらから求めることができる全ての位相差の平均値、つまり、31区間の位相差の平均値を求めるのが望ましい。ただし、本発明をこれに限る必要はなく、目的とする精度や要求される計算時間、距離測定装置の構成、などに応じて、標本の数は適宜設定することができる。
【0058】
図12の振幅−周波数特性に示すように極大値が存在せず、極小値が存在するパターン、または図13の振幅−周波数特性に示すように極大値が存在し、極小値が存在しないパターンではステップ306において、極大値または極小値における位相差が算出される。このため、位相差計算部24において測定された隣接チャンネル間の位相差のうち、振幅差が最大(振幅差の絶対値が最大)となる隣接チャンネル間の位相差を抽出する。図12の振幅−周波数特性のような下に凸の極値を1つだけ有するパターンや、図13の振幅−周波数特性のような上に凸の極値を1つだけ有するパターンの場合には、極大値または極小値をとるチャンネルにおいてマルチパス波の影響が最も強く、隣接チャンネル間の振幅差が最大となる区間においてマルチパス波の影響が最も弱いためである。振幅差が最大となる区間は、例えば、図12においてPkで表わされる区間であり、図13においてPlで表わされる区間である。なお、振幅差が最大となる区間が二つ以上存在する場合には、距離の算出において、一方の区間における位相差のみを用いても良いし、二つの区間の位相差の平均値を用いても良い。
【0059】
図14に示すように極大値が存在し、極小値も存在するパターンではステップ307において、極値間の位相差の平均値を算出する。このため、位相差算出部24において算出された隣接チャンネル間の位相差を用いて、平均値計算部25が位相差の算術平均値を算出する。ただし、ここでは、極値を与えるチャンネルと、別の極値を与えるチャンネルとの間の区間において、位相差の平均値を算出する。図14のような複数の極値を有するパターンの場合には、極値を与えるチャンネル(例えば、CHa)と別の極値を与えるチャンネル(例えば、CHb)との間において、隣接チャンネル間の位相差を累積することにより、マルチパス波の影響を相殺することができるためである。なお、上記平均値は、極大値を与えるチャンネルと、極小値を与えるチャンネルとの間において求めても良いし、極大値を与える二つのチャンネルの間、または極小値を与える二つのチャンネルの間において求めても良い。
【0060】
その後、上述のステップ305〜307によって得られる算出結果を元に、距離計算部26は、測定対象である中継器と距離測定装置11との距離を計算する(ステップ308)。図11に示すパターンに対応してステップ305において位相差の平均値を求めている場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφa(rad)はステップ305において得られた位相差の算術平均値を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。また、Nは測定範囲における区間の数を表し、Δφiは第iの区間における位相差(rad)を表す。なお、下記式では、測定範囲内の全区間において算術平均を求めているが、算術平均の計算に係る区間数は適宜変更することができる。
【数2】
【0061】
また、図12または図13に示すパターンに対応してステップ306において振幅差が最大となる隣接チャンネル間の位相差を抽出している場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφb(rad)はステップ306において得られた位相差、すなわち、振幅差が最大となる隣接チャンネル間の位相差を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。
【数3】
【0062】
また、図14に示すパターンに対応してステップ307において極値間の位相差の平均値を求めている場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφc(rad)はステップ307において得られた位相差の算術平均値(極値を与えるチャンネル間での位相差の算術平均値)を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。また、b−aは平均値の算出に係る区間の数(極値を与えるチャンネル間の区間の数)を表し、Δφiは第iの区間における位相差(rad)を表す。つまり、ここでは、第aの区間〜第b−1の区間についての算術平均を求めていることになる。
【数4】
【0063】
このように当該距離算出方法によれば、受信信号の振幅の極大値および極小値の状態に応じて適切な演算処理を適用することで、フーリエ変換を用いることなくマルチパス波の影響を低減できる。これにより、演算負荷を軽減できる。また、受信信号の状態に応じて異なる演算処理を適用することで、フーリエ変換を用いた距離測定装置より高い精度で距離測定を行うことができる。
【0064】
なお、上記説明では、受信信号の振幅−周波数特性のパターンを図11〜図14の4パターンに分類して、各パターンに応じて距離計算方式を切り替えているが、振幅−周波数特性のパターンと距離計算方式とが1対1で対応していれば、当該振幅−周波数特性パターンに対しては高い距離測定精度を実現できる。したがって、用途によっては、ステップ305、306、307のいずれか少なくとも1つを実行できるように構成してもよい。
【0065】
次に、本実施の形態に係る距離測定装置11に基づいて、本発明の効果を確認したシミュレーション結果を示す。
【0066】
まず、直接波が優勢であるか、反射波が優勢であるかを確認するシミュレーションについて説明する。図15(a)に示すシミュレーションモデルでは、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ401、中継器31の送信アンテナに相当するアンテナ402、および反射壁403を想定する。当該シミュレーションモデルにおいて、周波数範囲を2250MHz〜2600MHz、チャンネルの間隔を1MHz、チャンネル数を350として、アンテナ401の高さhが異なる2条件(初期値、初期値+λ/8)でシミュレーションを行った。上記2条件における各パラメータを表1に示す。なお、表1において、LDは、直接波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長(m)を、LRは、反射波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長(m)を、それぞれ示す。
【0067】
図16および図17は、上記シミュレーションの結果である。図16は、アンテナ401の高さを初期位置とした場合の測定結果であり、図17は、アンテナ401の高さを初期位置+λ/8とした場合の測定結果である。図16(a)および図17(a)は、各条件における振幅−周波数特性を示し、図16(b)および図17(b)は、各条件における位相−周波数特性を示し、図16(c)および図17(c)は、各条件における位相差−周波数特性を示す。また、表1には、当該測定結果を用いて算出された実測長(m)、LDまたはLRと実測長との差(m)を併せて示す。
【表1】
【0068】
図16および図17に示す測定結果から、アンテナ401の高さhが、初期位置から初期位置+λ/8へと僅かに変更されることで、NULL点を中心とする位相差が極大値から極小値へと変化することがわかる。このことは、測定条件を僅かに変更して測定することで、直接波が優勢な測定データを得られることを示している。また、表1に示す結果から、NULL点における位相差が極大値の場合には実測長の測定精度が高く、NULL点における位相差が極小値の場合には実測長の測定精度が低いことが分かる。このことは、NULL点における位相差が極大値となる場合には、十分に高い測定精度が確保されることを示すものである。
【0069】
次に、マルチアンテナの有効性を示すシミュレーションについて説明する。シミュレーションモデルは上述のシミュレーションと同様である。すなわち、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ401、中継器31の送信アンテナに相当するアンテナ402、および反射壁403を想定する(図15(a))。当該シミュレーションでは、アンテナ401の高さhが異なる9種類の条件(初期値+n・λ/8:nは0〜8の整数)でNULL点の周波数を求めた。周波数範囲は2250MHz〜2600MHz、チャンネルの間隔は1MHz、チャンネル数は350とした。なお、当該シミュレーションにおいて、PEAK点の周波数を併せて求めた。
【0070】
図18は、上記シミュレーションの結果である。図18は、アンテナ401の高さとNULL点の周波数との関係を示している。また、表2には、当該測定結果をまとめて示す。なお、表2において、ΔLは、LR(反射波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長)とLD(直接波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長)との差を表す。
【表2】
【0071】
図18に示す測定結果から、異なる高さのアンテナでは、異なる周波数にNULL点が表れることが分かる。つまり、異なる高さの複数のアンテナを用いることによって、複数のNULL点の情報が得ることが可能になる。例えば、上述のシミュレーションモデルでは、2400MHz〜2480MHzの帯域において複数のNULL点の情報を得るためには、高さが約λ/4異なる複数のアンテナを設置すればよい(図18)。このように、複数のNULL点の情報が得られることにより、複数のNULL点の情報から、距離算出により適した測定環境で得られた測定データを用いて距離算出を行うことが可能である。このため、距離算出精度をより高めることができる。また、高さの異なる複数のアンテナを用いることによって、測定周波数範囲が狭い場合でも、NULL点の情報を確実に得ることが可能になる。これにより、距離算出精度を十分に高めることができる。
【0072】
次に、マルチアンテナにおいて、使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することの有効性を示すシミュレーションについて説明する。図15(b)に示すシミュレーションモデルでは、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ411aと距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ411bとが間隔Dだけ離れて配置されている。また、アンテナ411bの給電側の負荷は開放されている。上記シミュレーションモデルにおいて、間隔Dが異なる5条件(λ/16、λ/8、λ/4、0.36λ、λ/2)についての電波の放射パターンをシミュレーションした。比較データとして、アンテナ411bの給電側の負荷が開放されていないモデルについて、同様の測定を行った。
【0073】
図19Aおよび図19Bは、上記シミュレーションの結果である。図19Aおよび図19Bにおいて、アンテナ411aとアンテナ411bとの間隔Dが小さくなると、負荷が開放されていないモデルでは放射パターンの歪が大きくなるが、負荷が開放されているモデルでは放射パターンに歪みは見られない。この結果から、使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することにより、アンテナ同士の間隔Dが小さい場合であっても正確な距離測定を実現できることが分かる。すなわち、距離測定装置の小型化しつつ、距離測定精度を高めることができる。
【0074】
以上のように、本実施の形態によれば、NULL点における位相差の状態に応じて距離の算出処理、または、再測定処理を選択することで、演算負荷を軽減し、また、高い精度で距離測定を行うことができる。
【0075】
なお、上記実施の形態において、添付図面に示されている構成などは、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の距離測定装置は、測定対象の距離を測定するレーダ、その他の各種用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
11 距離測定装置
12 基準発振器
13 送信部
14 送信用アンテナ
15 受信用アンテナ
16 受信部
17 演算部
21 測定部
22 記憶部
23 振幅特性判定部
24 位相差計算部
25 平均値計算部
26 距離計算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象との間を伝搬した電波のチャンネル間の位相差を利用して距離測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波を送信するマスタ通信装置と、マスタ通信装置から受けた電波を返信するスレーブ通信装置とを備えた距離測定システムがある。かかる距離測定システムでは、マスタ通信装置からスレーブ通信装置に対して電波を送信し、スレーブ通信装置が電波を受信するとともに受信電波に同期してマスタ通信装置へ電波を返信する。マスタ通信装置は、スレーブ通信装置から返信された電波を受信し、受信信号の位相情報からスレーブ通信装置までの距離を測定する。
【0003】
マルチパス環境下では、マスタ通信装置とスレーブ通信装置との間を伝搬する電波として直接波の他にも反射波等の間接波が含まれる。直接波と間接波とが混在すると測定精度が低下するので、受信信号を高速フーリエ変換して直接波と間接波とを時間軸上で分離し、直接波のみの位相情報を取り出して距離測定に用いる測定方式がある(特許文献1参照)。たとえば、受信信号の受信周波数範囲を狭帯域の複数チャンネルに分け、チャンネルごとに受信信号を高速フーリエ変換して各チャンネルの直接波の位相を検出し、隣接チャンネル間の位相差から測定対象距離を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−261444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、直接波と間接波とが時間的に近接すると、高速フーリエ変換で直接波だけを分離することが困難になるので、間接波の影響を受けて距離測定精度が低下する可能性がある。また、チャンネルごとに高速フーリエ変換するため、計算量が非常に大きくなって処理負荷が増大するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、フーリエ変換などを用いる方法と比較して計算量が少なく、かつ距離測定精度を十分に高めることができる距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の距離測定装置は、測定対象から直接到来する直接波と該直接波と異なる経路を伝搬した間接波との合成波を、周波数方向に連続する複数チャンネルで受信する受信手段と、前記受信手段で受信した合成波の振幅および位相をチャンネル毎に測定する測定部と、前記測定部でチャンネル毎に測定された振幅および位相測定値が格納される記憶部と、前記記憶部に格納された振幅および位相測定値を演算処理して前記測定対象との間の距離を算出する距離演算部と、を備え、前記距離演算部は、前記記憶部から取り出した複数チャンネル分の振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、位相差曲線に現れた極値が振幅極小値の検出されたチャンネル及びその近傍において極大値であれば、その時の隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出し、位相差曲線に現れた極値が振幅極小値の検出されたチャンネル及びその近傍において極小値であれば、その時の位相差は距離演算から排除するので、測定対象との間の途中で反射した反射波等の間接波の影響を軽減でき、フーリエ変換演算を適用せずに、測定対象との間を直線状に伝搬した直接波が優勢である信号を用いた距離測定を実現でき、少ない計算量で距離算出の精度を高めることができる。
ここで、直接波と間接波との合成波を受信する通信環境において、所定の周波数帯域において受信振幅が極小値をとるのは、直接波の位相と間接波の位相とが180°異なり、直接波と間接波とが打ち消しあうためである。受信振幅が極小値となるチャンネルとその隣接チャンネルとの間の位相差が極大値になるということは、直接波が優勢であり、隣接チャンネンル間の位相差が極小値の場合は、間接波が優勢であることと考えられる。したがって、位相差曲線において位相差の極値が極大値であれば、直接波が優勢と判断でき、そのときに測定された隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出することにより、直接波が優勢な合成波から正確な距離測定が可能になる。
【0009】
本発明の距離測定装置において、前記位相差曲線における極値が極大値でない場合、測定条件が異なる状態で再測定を行っても良い。この構成によれば、直接波が優勢ではない場合には、測定条件を異ならせて再測定を行うことで、前記位相差曲線における極値が最大値に変化する確率が高くなり、間接波が優勢の合成波での距離測定を回避することができる。
【0010】
本発明の距離測定装置において、前記受信手段は、複数の受信アンテナを有し、前記再測定においては、前回測定時とは異なるアンテナを使用しても良い。この構成によれば、距離測定に使用するアンテナを選択することで、容易に測定条件を切り替えることができ、直接波が優勢の状態を容易に実現することができるため、距離算出の精度を高めることができる。
【0011】
本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナのうち、前記測定に使用しないアンテナの給電側の負荷を開放しても良い。また、本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナは、前記遅延線と接地端との間を開放しても良い。また、本発明の距離測定装置において、前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナの前記遅延線と接地端との間を短絡しても良い。ここで、「電気長」とは、伝送路を伝搬する正弦波の波長を基準にした長さ、または、電磁波の伝搬速度を基準する長さをいう。これらの構成によれば、測定に使用しないアンテナによる干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0012】
本発明の距離測定装置において、前記距離演算部は、前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、前記振幅極小値が検出され、前記振幅極大値が検出されず、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出し、前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出され、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、前記振幅極大値となる周波数位置から前記振幅極小値となる周波数位置までの各隣接チャンネル間の位相差の平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、条件に応じて適した算出方法を選択し、フーリエ変換などを用いることなく距離を算出するため、少ない計算量で高い精度の距離算出を行うことができる。
【0013】
本発明の距離測定装置において、前記振幅極小値が検出されない場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、受信振幅の極小値が存在しない状況では、直接波が優勢か否か判断できないので、現在の測定データで距離算出を行うことにより、距離測定値の欠損を防止することができる。なお、この場合においても、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均化することで、距離算出における反射波の影響を低減することができる。
【0014】
本発明の距離測定装置において、前記距離演算部は、前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出されない場合、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均し、該位相差平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出し、前記振幅極小値が検出されず、前記振幅極大値が検出される場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出しても良い。この構成によれば、条件に応じて適した算出方法を選択し、フーリエ変換などを用いることなく距離を算出するため、少ない計算量で高い精度の距離算出を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の距離測定装置によれば、位相差が極大値となることにより直接波が優勢と判断される場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて測定対象までの距離を算出し、そうでない場合には、測定条件が異なる状態で再測定を行うことにより、マルチパス環境下であっても、少ない計算量で精度の高い距離測定を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】振幅−周波数特性のパターンを示す模式図である
【図3】直接波と反射波とが混在する測定環境の例を示す模式図である。
【図4】距離測定装置での距離測定動作のフロー図である。
【図5】NULL点が存在するパターンのうち、直接波が優勢のパターンを示す模式図である。
【図6】NULL点が存在するパターンのうち、間接波が優勢のパターンを示す模式図である。
【図7】直接波、間接波、合成波の位相−周波数特性の例を示す模式図である。
【図8】距離測定装置での距離測定動作のフロー図である。
【図9】複数の受信アンテナを有する距離測定装置の構成を示す模式図である。
【図10】距離算出方法について示すフロー図である。
【図11】極値を有さないパターンの振幅−周波数特性の例を示す模式図である。
【図12】下に凸の極値を1つだけ有するパターンの振幅−周波数特性、振幅差−周波数特性の例を示す模式図である。
【図13】上に凸の極値を1つだけ有するパターンの振幅−周波数特性、振幅差−周波数特性の例を示す模式図である。
【図14】複数の極値を有するパターンの振幅−周波数特性の例を示す模式図である。
【図15】(a)直接波と反射波のいずれが優勢であるかを確認するシミュレーションモデルを示す図である。(b)使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することの有効性を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図16】直接波が優勢の場合のシミュレーション結果である。
【図17】反射波が優勢の場合のシミュレーション結果である。
【図18】高さが異なるアンテナを用いる場合のNULL点の分布を示すシミュレーション結果である。
【図19A】使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放した場合と未開放にした場合の電波の放射パターンを示すシミュレーション結果である。
【図19B】使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放した場合と未開放にした場合の電波の放射パターンを示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、直接波が優勢の合成波だけを用いて距離測定を行う実施の形態について説明する。ここでは、送信機能を有する距離測定装置を用いる場合について説明するが、各チャンネルの位相情報を検出できるのであれば、受信機能だけを備える距離測定装置にも適用可能である。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る距離測定装置の構成例を示すブロック図である。
本実施の形態に係る距離測定装置11は、チャンネル数に対応した複数の発振周波数で発振可能な基準発振器12と、基準発振器12から出力される発振信号を用いて各チャンネルに対応した距離測定用の送信信号を生成する送信部13と、送信部13から出力される送信信号を電波にて放射する送信用アンテナ14とを有する送信系を備える。送信部13は、ミキサ、バンドパスフィルタ、パワーアンプなどを含んで構成され、発振周波数を用いて送信信号をRF信号にアップコンバートする。例えば、2405MHzから2480MHzの周波数範囲において、2.5MHz間隔のチャンネルのそれぞれで送信信号を生成して送信できるように構成されている。
【0019】
また、距離測定装置11は、受信用アンテナ15と、受信用アンテナ15で受けた電波をチャンネル毎の受信信号に変換して出力する受信部16と、受信部16から出力される受信信号から距離測定を行う演算部(距離演算部)17とを有する受信系を備える。受信部16は、ローノイズアンプ、ミキサ、バンドパスフィルタなどを含んで構成され、上記送信系で各送信信号を送信したチャンネル毎に受信できるように構成されている。演算部17は、受信信号の振幅および位相を測定する測定部21と、測定部21で測定された測定結果であるチャンネル毎の振幅および位相を記憶する記憶部22と、記憶部22に記憶した各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅特性を判定する振幅特性判定部23と、振幅特性判定部23によって判定された振幅特性に応じて距離計算に必要なチャンネル間の位相差を求める位相差計算部24と、チャンネル間の位相差の所定周波数範囲での平均値を計算する平均値計算部25と、振幅特性判定部23、位相差計算部24、平均値計算部25からの情報をもとに距離計算を行う距離計算部26と、を含んで構成される。なお、演算部17の構成や機能は、ハードウェアで実現しても良いし、ソフトウェアで実現しても良い。また、記憶部22は、演算部17外に設けられていても良い。
【0020】
なお、ここでは、送信系と受信系が分離された態様の距離測定装置11を示しているが、例えば、基準発振器12を共用し、また、送信用アンテナ14と受信用アンテナ15とを一体化してもよい。また、受信用アンテナ15を複数備える構成(マルチアンテナ)としても良い。複数の受信用アンテナ15を備えることで、異なる受信アンテナ15を使用して距離測定を行うことができるため、距離測定における測定条件の変更が容易になる。なお、複数の受信アンテナ15を備える構成の場合には、測定に使用しない受信アンテナ15の給電側の負荷は開放しておくことが好ましい。これにより、測定に使用しない受信アンテナ15による干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0021】
振幅特性判定部23は、受信周波数範囲に含まれる各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅特性を判定する。具体的には、図2(a)に示すように、受信信号の振幅特性パターンが下に凸の極値(極小値)を有するパターンであるか、または、図2(b)に示すように、下に凸の極値(極小値)を有さないパターンであるかを判定する。位相差計算部24は、記憶部22に格納された各チャンネルの位相から、隣接チャンネル間の位相差を算出する。なお、隣接チャンネル間の位相差測定方法は上記方法に限定されない。
【0022】
次に、上述のように構成された距離測定装置11による距離測定動作について説明する。本実施の形態では、図3(a)に示すように、中継器31(トランスポンダ)を距離測定対象に想定している。以下、距離測定装置11と中継器31の各アンテナが、反射壁32から距離d1離れた位置に、距離d2の間隔をおいて配置されたモデルに基づいて説明する。
【0023】
図3(b)に示すように、距離測定装置11が距離測定用の送信信号を送信すると、中継器31は、距離測定装置11から直接伝搬する直接波41と反射壁32に反射されて伝搬する反射波42とが合成された合成波を受信する。図3(c)に示すように、送信信号を受けた中継器31が、距離測定装置11に対して送信信号と位相を同期させた返信信号を送信する。距離測定装置11は、中継器31から直接伝搬する直接波51と、反射壁32に反射されて伝搬する反射波52とが合成された合成波を受信する。そして、距離測定装置11は、受信した合成波から隣接チャンネル間の位相差を求めてアンテナ間(距離測定装置11と中継器31との間)の距離d2を算出する。
【0024】
なお、本発明は上述のようないわゆる二次レーダ方式に限定されない。測定対象に対して発した信号が単純に反射され、その反射波を受信して距離を計測するいわゆる一次レーダ方式にも同様に適用可能である。
【0025】
距離測定が開始されると、距離測定装置11は、各チャンネルの送信信号を所定間隔で順番に送信する。例えば、基準発振器12が各チャンネルに対応した発振周波数の発振信号を生成して順番に送信部13へ供給し、送信部13が各チャンネルに対応した発振周波数の発振信号を用いて周波数変換された送信信号を生成する。複数チャンネルで構成される周波数範囲やチャンネル数(隣接チャンネル間隔)については、用途などに応じて適宜設定することが望ましい。ここでは、2405MHz〜2480MHzの周波数範囲において2.5MHz間隔の32チャンネルの送信信号を発生させることとする。
【0026】
測定対象である中継器31は、距離測定装置11から送信された距離測定用の送信信号を受信し、受信した送信信号に位相を同期させた返信信号を生成して送信する。中継器31は、チャンネル毎に受信される送信信号に対応して、受信チャンネルと同一チャンネルの送信信号を順次返信する。したがって、距離測定装置11からは各チャンネルの送信信号が順番に送信され、中継器31からは各チャンネルの送信信号が順番に返信される。なお、一次レーダ方式の場合は、測定対象は反射体となるので、中継器31で行われるような同期処理は発生しない。
【0027】
以下に、距離測定装置11が中継器31から返信された各チャンネルの返信信号を受信してから距離測定完了までの処理内容について詳しく説明する。
【0028】
図4は本実施の形態に係る距離測定装置11における距離測定のフロー図である。距離測定装置11は、中継器31からチャンネル毎に順番に送信(応答送信)された送信信号を受信すると、ステップ101において演算部17の測定部21が各チャンネルの受信信号の振幅および位相を測定する。位相差計算部24は、測定部21において測定された各チャンネルの位相データをもとに、隣接チャンネル間で高周波側チャンネルの位相から低周波側チャンネルの位相を減ずる計算を行って、当該隣接チャンネル間の位相差を検出する。当該位相差の計算は、複数チャンネルで構成される周波数範囲全域で行う。測定部21の測定結果(チャンネル毎の振幅および位相)、および位相差計算部24の計算結果(各隣接チャンネル間の位相差)は、記憶部22に記憶される。
【0029】
図5(a)は上記測定によって得られる振幅−周波数特性の例を示しており、図5(b)は位相−周波数特性の例を示している。また、図5(c)は位相差−周波数特性の例を示している。図5(a)〜(c)は直接波が優勢の測定条件によって得られる特性の例である。図6(a)は上記測定によって得られる振幅−周波数特性の別の例を示しており、図6(b)は位相−周波数特性の別の例を示している。また、図6(c)は位相差−周波数特性の別の例を示している。図6(a)〜(c)は反射波が優勢の測定条件によって得られる特性の例である。
【0030】
図5(a)および図6(a)では、振幅−周波数特性における特定チャンネルが極小値(以下、当該極小値をとるチャンネルをNULL点と呼ぶ)となっている。本実施の形態に係る距離測定装置11は、振幅−周波数特性に現れたNULL点において、直接波と反射波のうちの一方の影響が顕著に表れるという性質を利用して直接波が優勢な測定データを選択する。NULL点では直接波の位相と反射波の位相とが180°異なることにより、直接波と反射波とが打ち消しあっている(弱めあっている)と考えられる。したがって、直接波または反射波の一方が優勢であれば、その一方の影響が顕著に表れると考えられる。
【0031】
ここで、位相−周波数特性および位相差−周波数特性について考察する。一般に、電波が所定距離を伝搬する場合には、低周波側では高周波側と比較して位相が遅延する。すなわち、位相曲線は高周波側に向かって減衰する右肩下がりとなる(図5(b)、図6(b))。また、反射波は、伝搬経路途中の反射壁で反射しているので、直接波よりも伝搬距離が長くなるため、二つの異なる周波数間での位相遅延はより大きくなる。
【0032】
すなわち、図7(a)に示すように、反射波(直線b)の位相曲線の傾きは、直接波(直線a)の位相曲線の傾きより大きくなる。また、合成波(直線c)の傾きは、直接波と間接波の中間の値になる。ところが、直接波が優勢の場合には、NULL点近傍では反射波の影響をほとんど受けないため、図7(b)に示すように、NULL点近傍における合成波の位相は周辺の周波数領域と比較して大きくなる。また、間接波が優勢の場合には、NULL点近傍では直接波の影響をほとんど受けないため、図7(c)に示すように、NULL点近傍の合成波の位相は周辺の周波数領域と比較して小さくなる。
【0033】
NULL点以外の周波数領域では、合成波の位相傾きは概ね一定であり、隣接チャンネル間の位相差は概ね一定である。このため、直接波が優勢の場合(図7(b)、図5(b))、位相差曲線は、NULL点近傍において極大値を有することになる(図5(c))。また、反射波が優勢の場合(図7(c)、図6(b))、位相差曲線は、NULL点近傍において極小値を有することになる(図6(c))。このように、NULL点における位相差が極大値か否かによって、合成波中において直接波が優勢であるか否かを判別することができる。直接波が優勢である測定データを選別することができれば、距離算出精度を改善できると考えられる。
【0034】
このようなNULL点のもつ情報を引き出すため、ステップ102ではNULL点の有無を判定する。具体的には、振幅特性判定部23が、振幅曲線における極小値の有無を判定する。ここで、受信信号の振幅データは、例えば32チャンネルの離散データであるから、受信信号の振幅データから得られる振幅曲線(振幅−周波数特性)は、周波数軸上では離散的なものである。つまり、受信信号の振幅データから求めることができる極小値は、厳密な意味での極小値ではない。一方で、上述のように十分なチャンネル数の信号を用いることによって、極小値に近似する値が得られるため、ここではこのような近似的な値を含めて「極小値」と称する。なお、当該極小値は、対象チャンネルにおける振幅の大きさと、他チャンネルにおける振幅の大きさとの比較によって求められる。すなわち、極小値とは、振幅−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に減少し、ある位置から連続的に増加している場合の最小値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極小値は1つとは限らない。
【0035】
本実施の形態の距離測定装置11は、受信信号の振幅−周波数特性を、極小値(またはNULL点)の有無で分類する。上述のステップ102によって、NULL点が存在すると判断された場合(図2(a))には、ステップ103へ移行する。NULL点が存在しないと判断された場合(図2(b))には、ステップ104へ移行する。
【0036】
ステップ103では、NULL点における位相差−周波数特性の情報をもとに、合成波中において、直接波が優勢であるか反射波が優勢であるかを判別する。具体的には、NULL点とその隣接チャンネルとの位相差が、位相差−周波数特性における極大値であるか否かを判別する。図5(c)のように、NULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が極大値である場合には、ステップ104へ移行する。また、図6(c)のように、NULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が極大値ではない場合(典型的には、極小値の場合)には、ステップ105へ移行する。なお、受信信号の位相曲線(位相−周波数特性)は、振幅曲線(振幅−周波数特性)と同様の離散データであるから、受信信号の位相情報から得られる位相差曲線(位相差−周波数特性)も、振幅曲線などと同様に離散的なものである。つまり、上述のような位相差の極大値は、厳密な意味での極大値であるとは限らない。一方で、上述のように十分なチャンネル数の信号を用いることによって、極大値に近似する値が得られるため、ここではこのような近似的な値を含めて「極大値」と称する。また、上述の位相差の極大値は、対象チャンネル間における位相差と、他チャンネル間における位相差との比較によって求められる。すなわち、極大値とは、位相差−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に増加し、ある位置から連続的に減少している場合の最大値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極大値は1つとは限らない。
【0037】
ステップ103においてNULL点のチャンネルとその隣接チャンネルとの位相差が、位相差曲線(位相差−周波数特性)における極大値であると判断された場合、すなわち、測定データとして適切なデータが取得できたと判断された場合には、ステップ104において、隣接チャンネル間の位相差をもとに距離の算出を行う。また、ステップ102においてNULL点が存在しないと判定された場合にも、隣接チャンネル間の位相差をもとに距離の算出を行う。なお、距離の算出方法は特に限定されないが、次のような方法をとることができる。
【0038】
例えば、振幅−周波数特性において、極小値に加え、極大値が存在する場合、隣接チャンネル間の位相差の極大値−極小値間における合計値(和)から距離を算出することができる。振幅−周波数特性が複数の極値を有する場合には、極値を与えるチャンネルと別の極値を与えるチャンネルとの間において、隣接チャンネル間の位相差を累積することにより、マルチパス波の影響を十分にキャンセルすることができるためである。
【0039】
この場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφ(rad)は隣接チャンネルの位相差を表し、c(m・s−1)は光速を表し、f1(Hz)は振幅−周波数特性が極大値となる周波数を表し、f2(Hz)は振幅−周波数特性が極小値となる周波数を表す。
【数1】
【0040】
ステップ103においてNULL点と隣接チャンネルとの位相差が、位相差−周波数特性における極大値ではないと判断された場合、すなわち、測定データとして適切なデータが取得できていないと判断された場合には、ステップ105において測定条件を変更した後にステップ101を実行する。このように、測定条件を変更して再測定を行うことで、変更後の測定条件が直接波の優勢な状況に変更される確率が高くなり、直接波の優勢な状況に変更されてから隣接チャンネル間の位相差距を求めれば、適切なデータを取得することができる。
【0041】
なお、ステップ105における測定条件の変更方法は特に限定されない。例えば、距離測定装置11が複数のアンテナ(例えば、複数の受信アンテナ)を有する場合には、測定に使用するアンテナを変更して測定すれば、測定条件を変更したことになる。また、距離測定装置が移動体に搭載されている場合には、所定時間後に測定を行うことで、距離測定装置11の位置が前回測定時の位置から変更される可能性が高く、これも測定条件を変更したことになる。その他、アンテナが可動である場合にはアンテナの位置を変更して再測定を行っても良いし、測定の周波数帯域を変更して再測定を行っても良い。
【0042】
なお、振幅−周波数特性にNULL点が存在しない場合の処理は、ステップ104に示す処理に限られない。例えば、ステップ105のように再測定を行っても良い。
【0043】
以上のように、NULL点の情報をもとに距離の算出を行うことにより、直接波が優勢な測定環境か否かを容易に判定することができるため、複雑な計算を行わなくとも測定精度を高めることができる。
【0044】
次に、距離測定装置11が複数の受信アンテナ15を有する場合の動作の一例を以下に説明する。図8は、距離測定装置11での距離測定動作の別の一態様を説明するフロー図である。なお、図8のステップ202、ステップ203、ステップ204、ステップ205は、それぞれ、図4のステップ101、ステップ102、ステップ103、ステップ104と同じ動作である。また、ここでは、図9(a)に示すように、受信アンテナ15a、および、受信アンテナ15bを有する距離測定装置11の動作について説明する。
【0045】
距離測定装置11は、はじめに、複数の受信アンテナ15のうちから使用する受信アンテナ15を設定する(ステップ201)。最初に使用する受信アンテナについて特に限定はないが、例えば、複数の受信アンテナのうち、アンテナ高さなどが平均的な受信アンテナを設定することができる。また、測定に使用しない受信アンテナ15の給電側の負荷は、開放されることが好ましい。ここで、図9(b)に示すように、距離測定装置11が、複数の互いに近接する受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bを備える場合を考える。この場合、図9(c)に示すように、受信アンテナ15aのみを有する場合の電波の放射パターン(破線)と比較して、測定に使用する受信アンテナ15aが受ける電波の放射パターン(実線)が歪んでしまう。これは、測定に使用しない受信アンテナ15bからの再放射が存在するためである。そこで上述のように、測定に使用しない受信アンテナ15bの給電側の負荷は開放しておくことで、測定に使用しない受信アンテナ15bによる干渉を抑制できるため、距離測定精度の低下を防ぐことができる。
【0046】
なお、給電側の負荷を開放する態様としては、受信アンテナ15と接地端との間を短絡させる態様、受信アンテナ15と接地端との間を開放する態様などがあるが、そのいずれを用いても良い。例えば、受信アンテナ15と接地端との間を短絡させる態様においては、受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線51aおよび遅延線51bを接続し、測定に使用しない受信アンテナ15bの遅延線51bと接地端との間を短絡することが望ましい(図9(d))。また、例えば、受信アンテナ15と接地端との間を開放する態様においては、受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線51aおよび遅延線51bを接続し、測定に使用しない受信アンテナ15bの遅延線51bと接地端との間を開放することが望ましい(図9(e))。上述の電気長を有する遅延線51aおよび遅延線51bを受信アンテナ15aおよび受信アンテナ15bに接続することで、使用しない受信アンテナ15による再放射を防ぎ、干渉を十分に抑制できるため、距離測定精度を高めることができる。なお、本発明はこれに限られない。
【0047】
本実施の形態では、ステップ204においてNULL点と隣接チャンネルとの位相差が極大値ではない場合(例えば、極小値の場合)に、ステップ206へ移行する。ステップ206では、測定条件を変更して再測定を行うために、測定に使用する受信アンテナ15を切り替える。それにより、直接波および反射波の伝搬経路が僅かに変化するため、直接波が優勢の測定環境を実現することが可能である。このように、測定に使用する受信アンテナ15を変更して再測定を行うことで、測定条件が変更されて、適切なデータを取得することができる。
【0048】
なお、NULL点が存在しない場合の処理は、ステップ205に示す処理に限られない。例えば、ステップ206のように受信アンテナ15を変更して再測定を行っても良い。
【0049】
以上、図8に示すように、複数の受信用アンテナ15を切り替えて距離測定を行うことにより、直接波が優勢な測定環境が容易に実現されるため、測定精度を容易に高めることができる。
【0050】
図10は、ステップ104やステップ205に適用することができる距離算出方法の別の一態様について説明するフロー図である。なお、距離の算出方法は図10に示す態様に限定されない。
【0051】
当該距離算出方法において、距離測定装置11の振幅特性判定部23は、記憶部22に記憶された各チャンネルの受信信号の振幅データをもとに振幅曲線(振幅−周波数特性)を求め、求められた振幅曲線における極大値(以下、当該極大値をとるチャンネルをPEAK点と呼ぶ)または極小値の数をカウントする(ステップ301)。なお、ここでいう極大値は、極小値と同様に近似的なものである。また、極大値は、各チャンネルの振幅値を周波数軸方向に配列した振幅−周波数特性曲線において、周波数方向に連続的に増加し、ある位置から連続的に減少している場合の最大値をいう。全周波数範囲(全てのチャンネル)において極大値は1つとは限らない。極大値と極小値のカウントは、ステップ102やステップ203において併せて行っても良い。
【0052】
当該距離算出方法において、距離測定装置11は、全チャンネルの受信信号の振幅−周波数特性を、極大値(PEAK点)と極小値(NULL点)の組み合わせである(PEAK点の数,NULL点の数)で分類し、(0,0)、(1,0)、(0,1)、(≧1,≧1)の4つのパターンのいずれに該当するかを検出する。図11〜図14に、各パターンの振幅−周波数特性を示す。なお、図12および図13の上側には振幅−周波数特性を、下側には振幅差−周波数特性を示している。
【0053】
具体的には、振幅特性判定部23は、ステップ301でカウントされた極大値(PEAK点)の数から、極大値の有無を判定する(ステップ302)。また、ステップ301でカウントされた極小値(NULL点)の数から、極小値の有無を判定する(ステップ303、ステップ304)。そして、判定の結果をもとに、図11の振幅−周波数特性のような極値を有さないパターン(0,0)、図12の振幅−周波数特性のような下に凸の極値を1つだけ有するパターン(0,1)、図13の振幅−周波数特性のような上に凸の極値を1つだけ有するパターン(1,0)、図14の振幅−周波数特性のような複数の極値を有するパターン(≧1,≧1)のいずれかに場合分けする。なお、ここでは、極大値の有無を判定した後に、極小値の有無を判定しているが、極小値の有無を判定した後に、極大値の有無を判定しても良いし、極大値の有無と、極小値の有無とを同時に判定しても良い。
【0054】
上述のステップ302およびステップ303によって、極大値が存在せず、極小値も存在しないと判定された場合(図11)には、ステップ305へ移行し、ステップ302およびステップ303によって、極大値が存在せず、極小値が存在すると判断された場合(図12の振幅−周波数特性)、またはステップ302およびステップ304によって、極大値が存在し、極小値が存在しないと判断された場合(図13の振幅−周波数特性)には、ステップ306へ移行し、また、ステップ302およびステップ304によって、極大値が存在し、極小値も存在すると判断された場合(図14)には、ステップ307へ移行する。
【0055】
ステップ302〜304で、極大値や極小値の有無を振幅特性パターンの場合分けの基準にしているのは、コヒーレントなマルチパス波の影響は、振幅−周波数特性において、極大値または極小値という形で良く表れるためである。このように、極大値または極小値を用いて、マルチパス波の影響を考慮した距離の算出を行うことで、複雑な計算手法を用いずとも、精度良く距離を求めることができる。
【0056】
図11に示すように極大値および極小値が存在しないパターンではステップ305において、位相差の平均値を算出する。このため、位相差算出部24において算出された隣接チャンネル間の位相差を用いて、平均値計算部25が位相差の算術平均値を算出する。図11のような極値を有さないパターンの場合には、特定の隣接チャンネル間の位相差のみを用いて距離を算出すると、その位相差がマルチパス波の影響を大きく受けたものである場合に、測定精度が低下してしまうことがある。本実施の形態では、各隣接チャンネル間の位相差を全周波数範囲に亘って計算し、それら複数の位相差を平均化しているので、マルチパス波の影響を緩和することができ、精度良く距離を求めることができる。図11に示すように、周波数範囲に存在するチャンネルCH1〜CHNにおける各隣接チャンネル間の位相差の平均値を算出することになる。
【0057】
なお、距離測定精度を高めるという意味においては、平均値の算出に係る標本の数は多いことが望ましいから、例えば、32チャンネルの送信信号を用いる場合には、これらから求めることができる全ての位相差の平均値、つまり、31区間の位相差の平均値を求めるのが望ましい。ただし、本発明をこれに限る必要はなく、目的とする精度や要求される計算時間、距離測定装置の構成、などに応じて、標本の数は適宜設定することができる。
【0058】
図12の振幅−周波数特性に示すように極大値が存在せず、極小値が存在するパターン、または図13の振幅−周波数特性に示すように極大値が存在し、極小値が存在しないパターンではステップ306において、極大値または極小値における位相差が算出される。このため、位相差計算部24において測定された隣接チャンネル間の位相差のうち、振幅差が最大(振幅差の絶対値が最大)となる隣接チャンネル間の位相差を抽出する。図12の振幅−周波数特性のような下に凸の極値を1つだけ有するパターンや、図13の振幅−周波数特性のような上に凸の極値を1つだけ有するパターンの場合には、極大値または極小値をとるチャンネルにおいてマルチパス波の影響が最も強く、隣接チャンネル間の振幅差が最大となる区間においてマルチパス波の影響が最も弱いためである。振幅差が最大となる区間は、例えば、図12においてPkで表わされる区間であり、図13においてPlで表わされる区間である。なお、振幅差が最大となる区間が二つ以上存在する場合には、距離の算出において、一方の区間における位相差のみを用いても良いし、二つの区間の位相差の平均値を用いても良い。
【0059】
図14に示すように極大値が存在し、極小値も存在するパターンではステップ307において、極値間の位相差の平均値を算出する。このため、位相差算出部24において算出された隣接チャンネル間の位相差を用いて、平均値計算部25が位相差の算術平均値を算出する。ただし、ここでは、極値を与えるチャンネルと、別の極値を与えるチャンネルとの間の区間において、位相差の平均値を算出する。図14のような複数の極値を有するパターンの場合には、極値を与えるチャンネル(例えば、CHa)と別の極値を与えるチャンネル(例えば、CHb)との間において、隣接チャンネル間の位相差を累積することにより、マルチパス波の影響を相殺することができるためである。なお、上記平均値は、極大値を与えるチャンネルと、極小値を与えるチャンネルとの間において求めても良いし、極大値を与える二つのチャンネルの間、または極小値を与える二つのチャンネルの間において求めても良い。
【0060】
その後、上述のステップ305〜307によって得られる算出結果を元に、距離計算部26は、測定対象である中継器と距離測定装置11との距離を計算する(ステップ308)。図11に示すパターンに対応してステップ305において位相差の平均値を求めている場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφa(rad)はステップ305において得られた位相差の算術平均値を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。また、Nは測定範囲における区間の数を表し、Δφiは第iの区間における位相差(rad)を表す。なお、下記式では、測定範囲内の全区間において算術平均を求めているが、算術平均の計算に係る区間数は適宜変更することができる。
【数2】
【0061】
また、図12または図13に示すパターンに対応してステップ306において振幅差が最大となる隣接チャンネル間の位相差を抽出している場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφb(rad)はステップ306において得られた位相差、すなわち、振幅差が最大となる隣接チャンネル間の位相差を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。
【数3】
【0062】
また、図14に示すパターンに対応してステップ307において極値間の位相差の平均値を求めている場合、距離L(m)は、次式によって求められる。なお、式中、Δφc(rad)はステップ307において得られた位相差の算術平均値(極値を与えるチャンネル間での位相差の算術平均値)を表し、c(m・s−1)は光速を表し、Δf(Hz)は隣接チャンネルの周波数間隔を表す。また、b−aは平均値の算出に係る区間の数(極値を与えるチャンネル間の区間の数)を表し、Δφiは第iの区間における位相差(rad)を表す。つまり、ここでは、第aの区間〜第b−1の区間についての算術平均を求めていることになる。
【数4】
【0063】
このように当該距離算出方法によれば、受信信号の振幅の極大値および極小値の状態に応じて適切な演算処理を適用することで、フーリエ変換を用いることなくマルチパス波の影響を低減できる。これにより、演算負荷を軽減できる。また、受信信号の状態に応じて異なる演算処理を適用することで、フーリエ変換を用いた距離測定装置より高い精度で距離測定を行うことができる。
【0064】
なお、上記説明では、受信信号の振幅−周波数特性のパターンを図11〜図14の4パターンに分類して、各パターンに応じて距離計算方式を切り替えているが、振幅−周波数特性のパターンと距離計算方式とが1対1で対応していれば、当該振幅−周波数特性パターンに対しては高い距離測定精度を実現できる。したがって、用途によっては、ステップ305、306、307のいずれか少なくとも1つを実行できるように構成してもよい。
【0065】
次に、本実施の形態に係る距離測定装置11に基づいて、本発明の効果を確認したシミュレーション結果を示す。
【0066】
まず、直接波が優勢であるか、反射波が優勢であるかを確認するシミュレーションについて説明する。図15(a)に示すシミュレーションモデルでは、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ401、中継器31の送信アンテナに相当するアンテナ402、および反射壁403を想定する。当該シミュレーションモデルにおいて、周波数範囲を2250MHz〜2600MHz、チャンネルの間隔を1MHz、チャンネル数を350として、アンテナ401の高さhが異なる2条件(初期値、初期値+λ/8)でシミュレーションを行った。上記2条件における各パラメータを表1に示す。なお、表1において、LDは、直接波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長(m)を、LRは、反射波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長(m)を、それぞれ示す。
【0067】
図16および図17は、上記シミュレーションの結果である。図16は、アンテナ401の高さを初期位置とした場合の測定結果であり、図17は、アンテナ401の高さを初期位置+λ/8とした場合の測定結果である。図16(a)および図17(a)は、各条件における振幅−周波数特性を示し、図16(b)および図17(b)は、各条件における位相−周波数特性を示し、図16(c)および図17(c)は、各条件における位相差−周波数特性を示す。また、表1には、当該測定結果を用いて算出された実測長(m)、LDまたはLRと実測長との差(m)を併せて示す。
【表1】
【0068】
図16および図17に示す測定結果から、アンテナ401の高さhが、初期位置から初期位置+λ/8へと僅かに変更されることで、NULL点を中心とする位相差が極大値から極小値へと変化することがわかる。このことは、測定条件を僅かに変更して測定することで、直接波が優勢な測定データを得られることを示している。また、表1に示す結果から、NULL点における位相差が極大値の場合には実測長の測定精度が高く、NULL点における位相差が極小値の場合には実測長の測定精度が低いことが分かる。このことは、NULL点における位相差が極大値となる場合には、十分に高い測定精度が確保されることを示すものである。
【0069】
次に、マルチアンテナの有効性を示すシミュレーションについて説明する。シミュレーションモデルは上述のシミュレーションと同様である。すなわち、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ401、中継器31の送信アンテナに相当するアンテナ402、および反射壁403を想定する(図15(a))。当該シミュレーションでは、アンテナ401の高さhが異なる9種類の条件(初期値+n・λ/8:nは0〜8の整数)でNULL点の周波数を求めた。周波数範囲は2250MHz〜2600MHz、チャンネルの間隔は1MHz、チャンネル数は350とした。なお、当該シミュレーションにおいて、PEAK点の周波数を併せて求めた。
【0070】
図18は、上記シミュレーションの結果である。図18は、アンテナ401の高さとNULL点の周波数との関係を示している。また、表2には、当該測定結果をまとめて示す。なお、表2において、ΔLは、LR(反射波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長)とLD(直接波が伝搬する距離を幾何学的に算出した物理長)との差を表す。
【表2】
【0071】
図18に示す測定結果から、異なる高さのアンテナでは、異なる周波数にNULL点が表れることが分かる。つまり、異なる高さの複数のアンテナを用いることによって、複数のNULL点の情報が得ることが可能になる。例えば、上述のシミュレーションモデルでは、2400MHz〜2480MHzの帯域において複数のNULL点の情報を得るためには、高さが約λ/4異なる複数のアンテナを設置すればよい(図18)。このように、複数のNULL点の情報が得られることにより、複数のNULL点の情報から、距離算出により適した測定環境で得られた測定データを用いて距離算出を行うことが可能である。このため、距離算出精度をより高めることができる。また、高さの異なる複数のアンテナを用いることによって、測定周波数範囲が狭い場合でも、NULL点の情報を確実に得ることが可能になる。これにより、距離算出精度を十分に高めることができる。
【0072】
次に、マルチアンテナにおいて、使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することの有効性を示すシミュレーションについて説明する。図15(b)に示すシミュレーションモデルでは、距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ411aと距離測定装置11の受信アンテナに相当するアンテナ411bとが間隔Dだけ離れて配置されている。また、アンテナ411bの給電側の負荷は開放されている。上記シミュレーションモデルにおいて、間隔Dが異なる5条件(λ/16、λ/8、λ/4、0.36λ、λ/2)についての電波の放射パターンをシミュレーションした。比較データとして、アンテナ411bの給電側の負荷が開放されていないモデルについて、同様の測定を行った。
【0073】
図19Aおよび図19Bは、上記シミュレーションの結果である。図19Aおよび図19Bにおいて、アンテナ411aとアンテナ411bとの間隔Dが小さくなると、負荷が開放されていないモデルでは放射パターンの歪が大きくなるが、負荷が開放されているモデルでは放射パターンに歪みは見られない。この結果から、使用しない受信アンテナの給電側の負荷を開放することにより、アンテナ同士の間隔Dが小さい場合であっても正確な距離測定を実現できることが分かる。すなわち、距離測定装置の小型化しつつ、距離測定精度を高めることができる。
【0074】
以上のように、本実施の形態によれば、NULL点における位相差の状態に応じて距離の算出処理、または、再測定処理を選択することで、演算負荷を軽減し、また、高い精度で距離測定を行うことができる。
【0075】
なお、上記実施の形態において、添付図面に示されている構成などは、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の距離測定装置は、測定対象の距離を測定するレーダ、その他の各種用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
11 距離測定装置
12 基準発振器
13 送信部
14 送信用アンテナ
15 受信用アンテナ
16 受信部
17 演算部
21 測定部
22 記憶部
23 振幅特性判定部
24 位相差計算部
25 平均値計算部
26 距離計算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から直接到来する直接波と該直接波と異なる経路を伝搬した間接波との合成波を、周波数方向に連続する複数チャンネルで受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した合成波の振幅および位相をチャンネル毎に測定する測定部と、
前記測定部でチャンネル毎に測定された振幅および位相測定値が格納される記憶部と、
前記記憶部に格納された振幅および位相測定値を演算処理して前記測定対象との間の距離を算出する距離演算部と、
を備え、
前記距離演算部は、
前記記憶部から取り出した複数チャンネル分の振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、
隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記位相差曲線における極値が極大値でない場合、測定条件が異なる状態で再測定を行うことを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記受信手段は、複数の受信アンテナを有し、
前記再測定においては、前回測定時とは異なるアンテナを使用して測定を行うことを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記複数の受信アンテナのうち、前記測定に使用しないアンテナの給電側の負荷を開放することを特徴とする請求項3に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナは、前記遅延線と接地端との間を開放することを特徴とする請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナの前記遅延線と接地端との間を短絡することを特徴とする請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項7】
前記距離演算部は、
前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、
前記振幅極小値が検出され、前記振幅極大値が検出されず、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出し、
前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出され、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、前記振幅極大値となる周波数位置から前記振幅極小値となる周波数位置までの各隣接チャンネル間の位相差の平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の距離測定装置。
【請求項8】
前記振幅極小値が検出されない場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項1から7のいずれか一に記載の距離測定装置。
【請求項9】
前記距離演算部は、
前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、
前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出されない場合、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均し、該位相差平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出し、
前記振幅極小値が検出されず、前記振幅極大値が検出される場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項8に記載の距離測定装置。
【請求項1】
測定対象から直接到来する直接波と該直接波と異なる経路を伝搬した間接波との合成波を、周波数方向に連続する複数チャンネルで受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した合成波の振幅および位相をチャンネル毎に測定する測定部と、
前記測定部でチャンネル毎に測定された振幅および位相測定値が格納される記憶部と、
前記記憶部に格納された振幅および位相測定値を演算処理して前記測定対象との間の距離を算出する距離演算部と、
を備え、
前記距離演算部は、
前記記憶部から取り出した複数チャンネル分の振幅測定値を処理して、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が小さくなる極小値を検出し、
隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差を周波数軸方向に配列してなる位相差曲線において前記振幅極小値が検出されたチャンネル付近の極値が極大値であれば、その時に測定された前記位相差を用いて距離演算を行い、前記極値が極小値であればその時に測定された位相差は距離演算から排除することを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記位相差曲線における極値が極大値でない場合、測定条件が異なる状態で再測定を行うことを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記受信手段は、複数の受信アンテナを有し、
前記再測定においては、前回測定時とは異なるアンテナを使用して測定を行うことを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記複数の受信アンテナのうち、前記測定に使用しないアンテナの給電側の負荷を開放することを特徴とする請求項3に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナは、前記遅延線と接地端との間を開放することを特徴とする請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記複数の受信アンテナにはそれぞれ、電気長がn×λ/2+λ/4(nは自然数)の遅延線が接続され、前記測定に使用しないアンテナの前記遅延線と接地端との間を短絡することを特徴とする請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項7】
前記距離演算部は、
前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、
前記振幅極小値が検出され、前記振幅極大値が検出されず、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出し、
前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出され、隣接チャンネル間で高域側チャンネルの位相から低域側チャンネルの位相を差し引いた隣接チャンネル間の位相差が、前記振幅極小値が検出されたチャンネルを中心とした極大値である場合、前記振幅極大値となる周波数位置から前記振幅極小値となる周波数位置までの各隣接チャンネル間の位相差の平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の距離測定装置。
【請求項8】
前記振幅極小値が検出されない場合には、隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項1から7のいずれか一に記載の距離測定装置。
【請求項9】
前記距離演算部は、
前記振幅極小値を検出すると共に、隣接チャンネルを含む周辺チャンネルよりも振幅が大きくなる極大値を検出し、
前記振幅極小値および前記振幅極大値が検出されない場合、所定周波数範囲における各隣接チャンネル間の位相差を平均し、該位相差平均値を用いて前記測定対象までの距離を算出し、
前記振幅極小値が検出されず、前記振幅極大値が検出される場合、隣接チャンネル間のうちで振幅差が最大または最小となる隣接チャンネル間を特定し、特定した隣接チャンネル間の位相差を用いて前記測定対象までの距離を算出することを特徴とする請求項8に記載の距離測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【公開番号】特開2012−103162(P2012−103162A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252942(P2010−252942)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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