説明

路肩崩落リスク監視装置及び運搬車両

【課題】路肩への接近操作時における路肩崩落リスクを運転者に報知することができる路肩崩落リスク監視装置を提供すること。
【解決手段】車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度を計測する路肩形状計測装置101と、路肩形状計測装置によって形状を計測された路肩における車輪位置を計測する計測位置計測部121と、路肩形状計測装置で計測された路肩の形状及び路肩の法面角度に基づいて、計測位置計測部で計測された車輪位置における路肩強度を算出する路肩強度算出部122と、計測位置計測部で車輪位置が計測された車輪の輪荷重を計測する輪荷重計測部123と、輪荷重計測部で計測された輪荷重と路肩強度算出部で算出された路肩強度とを比較することで、計測位置計測部で車輪位置が計測された車輪が位置する路肩の崩落リスクを報知する報知装置105を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を路肩に接近させた際の路肩崩落リスクを提示する路肩崩落リスク監視装置と、これを備える運搬車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運転中には、前方から対向して走行してくる他車両や路上障害物等を避ける場合等、車両を路肩に接近させる操作が要求されることがある。このような路肩への接近操作時の安全性確保を図る技術としては、自車両と路肩又は路肩障害物との距離を車載カメラ等によって監視し、当該距離が所定値以下になった場合にその旨を運転者に報知するものがある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−302609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、路面から下り勾配になっている法面を有する路肩への接近操作では、地盤が脆弱で路肩が崩落することも考えられるため、上記従来技術のように自車両と路肩等との距離のみをもって安全性を判定するのでは必ずしも十分でない場合がある。これは、例えば、路肩への近接が避けられない狭小道路における他車両とのすれ違い時に特に問題となる。また、たとえ路肩までの距離が十分あっても、主として私有地内に設けられる未舗装道路であって、路肩の法面に何ら補強等の措置がとられていない道路では、車両重量によって路肩が崩落してスタック等が発生することも考えられる。上記従来技術は、このような路肩崩落リスクを運転者に報知する仕組みを持たないため、明らかな路肩の踏み外しには効果があっても、路肩崩落リスクに対してはあまり効果が得られないという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、路肩への接近操作時における路肩崩落リスクを運転者に報知することができる路肩崩落リスク監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度を計測する路肩形状計測手段と、前記路肩形状計測手段によって路肩の形状及び路肩の法面角度を計測したときの路肩における車輪位置を計測する計測位置計測手段と、前記路肩形状計測手段で計測された前記路肩の形状及び路肩の法面角度に基づいて、前記計測位置計測手段で計測された車輪位置における路肩強度を算出する路肩強度算出手段と、前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪の輪荷重を計測する輪荷重計測手段と、前記輪荷重計測手段で計測された輪荷重と前記路肩強度算出手段で算出された路肩強度とを比較することで、前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪が位置する路肩の崩落リスクを提示する崩落リスク提示手段とを備えるものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、路肩崩落リスクを運転者に報知することができるので、車両を路肩へ接近させる際の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る路肩崩落リスク監視装置を備える車両の全体構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図3】本発明の第1の実施の形態における路肩形状計測装置の設置状況を示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る路肩崩落リスク監視装置における崩落リスク算出処理のフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図6】本発明の第3の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図7】本発明の第4の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図8】本発明の第5の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図9】本発明の第6の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図。
【図10】本発明の第7の実施の形態における路肩強度算出の考え方の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施の形態に係る路肩崩落リスク監視装置を備える車両の全体構成図である。本稿では、この図に示すように、路肩崩落リスク監視装置が設置された車両として、露天の採掘場、石切り場、鉱山等で採掘した砕石物を運搬する大型の運搬車両であるダンプトラック(いわゆるマイニングダンプ)を例に挙げて説明する。
【0011】
図1に示すダンプトラック(車両)112は、頑丈なフレーム構造で形成された車体2と、車体2上に起伏可能に搭載されたベッセル(荷台)3と、車体2に装着された前輪108及び後輪109を主に備えている。
【0012】
ベッセル3は、砕石物等の荷物を積載するために設けられた容器であり、ピン結合部4等を介して車体2に対して起伏可能に連結されている。ベッセル3の下部には、車両の幅方向に所定の間隔を介して2つの起伏シリンダ62が設置されている。起伏シリンダ62に圧油が供給・排出されると、起伏シリンダ62が伸長・縮短してベッセル3が起伏される。また、ベッセル3の前側上部には庇部6が設けられている。
【0013】
庇部6は、その下側(すなわち車体2の前部)に設置された運転室5を岩石等の飛散物から保護するとともに、車両転倒時等に運転室5を保護する機能を有している。運転室5の内部には、操舵用のハンドル107と、路肩崩落リスクの程度等が報知される報知装置105(ともに後述の図2参照)に加え、アクセルペダル及びブレーキペダル等(図示せず)が設置されている。
【0014】
前輪108は、車両進路制御装置106(図2参照)によって操舵される操舵輪であり、車体2の前側に回転可能に装着されている。車両進路制御装置106は、ハンドル107等介して入力される操舵角に基づいて前輪108を操舵する。後輪109は、駆動輪であり、車体2の後側に回転可能に装着されている。
【0015】
図2は本発明の第1の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様)。
【0016】
この図に示す路肩崩落リスク監視装置は、車両112に設置されており、路肩形状計測装置(路肩形状計測手段)101と、制御装置120と、報知装置105と、車両進路制御装置106を備えている。
【0017】
路肩形状計測装置101は、車両112周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度(以下において「路肩形状データ」と称することがある)を計測するものであり、車両112に取り付けられている。本実施の形態では、路肩形状計測装置101としては、赤外レーザ光等を利用して路肩までの距離を光学的に測定し、これによって得られる点列に基づいて路肩形状データを測定するレーザレーダを利用している。また、この他にも、ミリ波アレイまたは超音波アレイを用いた距離検出装置や、撮像素子(カメラ)を用いて撮影した画像を処理することによって距離情報を抽出する画像認識装置などを用いても良い。路肩形状計測装置101で計測された路肩形状データは、計測位置計測部121及び路肩強度算出部122(ともに後述)に出力されている。
【0018】
図3は本発明の第1の実施の形態における路肩形状計測装置101の設置状況を示す図である。この図において、車両112は路肩の平坦部201上に位置しており、路肩は平坦部201に対して下り勾配に設けられた法面部202を有している。路肩形状データを容易に計測する観点からは、この図に示すように、路肩形状計測装置101は車両112のできるだけ高い位置に設置することが好ましい。また、路肩形状データを計測したときの路肩における車輪の位置を容易に計測する観点からは、その車輪の水平位置と一致するように路肩形状計測装置101を設置することが好ましい。
【0019】
制御装置120は、計測位置計測部(計測位置計測手段)121と、路肩強度算出部(路肩強度算出手段)122と、輪荷重計測部(輪荷重計測手段)123と、崩落リスク算出部124を備えている。
【0020】
計測位置計測部121は、路肩崩壊リスクを判定する際に基準となる位置(基準位置)であって、路肩形状データを計測した位置を計測する部分である。本実施の形態における計測位置計測部121は、前輪108,109のうち少なくとも1つの車輪(基準車輪)の位置を基準としており、路肩形状計測装置101によって路肩形状データを計測したときの路肩におけるその基準車輪の位置(車輪位置)を計測している。また、その車輪位置を計測する際、計測位置計測部121は、路肩形状計測装置101で計測された路肩形状データを利用している。具体的には、本実施の形態における計測位置計測部121は、路肩における平坦部201と法面部202との境界部205を路肩形状データから抽出し、基準車輪から当該境界部205までの距離を計測することで車輪位置を算出している。このように計測位置計測部121によって計測された車輪位置は、路肩強度算出部122に出力されている。
【0021】
路肩強度算出部122は、路肩形状計測装置101で計測された路肩形状データに基づいて、計測位置計測手段121で計測された基準位置における路肩強度(耐荷重)を算出する部分である。本実施の形態では、計測位置計測部121で計測された車輪位置における路肩強度を路肩形状データに基づいて算出している。一般に、路肩に法面部202等の斜面がある場合には、その地盤中にすべり破壊を起こそうとする力(せん断応力)と、そのすべり破壊を防ごうとする力(せん断抵抗力)とが発生するが、路肩強度を算出する方法には、このせん断抵抗力の最大値(せん断強さ)を路肩強度とするものがある。
【0022】
輪荷重計測部123は、車両の輪荷重を計測する部分である。本実施の形態における輪荷重計測部123は、計測位置計測部121で車輪位置が計測された車輪の輪荷重を計測している。輪荷重計測部123によって計測された輪荷重は、崩落リスク算出部124に出力されている。
【0023】
新荷重計測部123において輪荷重を計測する方法としては、前輪108及び後輪109に取り付けられたサスペンション110,111(図2参照)のたわみ量を利用するものがある。本実施の形態では、サスペンション110,111のたわみ量が輪荷重計測部123に出力されており、輪荷重計測部123はそのたわみ量に基づいて基準車輪の輪荷重を算出している。なお、サスペンション110,111のばね定数が判明していれば、それをたわみ量と積算することにより容易に輪荷重が算出できる。また、サスペンション110,111の構成部品に歪み計(歪みセンサ)を取り付けておき、その歪み計に加わる応力を計算して輪荷重を求めても良い。さらに、サスペンション110,111が油圧サスペンションやエアサスペンションなど油空圧を用いている場合には、その作動流体の圧力を計測することで簡単かつ正確に輪荷重を計測することができる。
【0024】
崩落リスク算出部124は、輪荷重計測部123で計測された輪荷重と路肩強度算出部122で算出された路肩強度とを比較することで輪荷重に対する路肩強度の余裕度を算出し、その余裕度の大きさに基づいて路肩の崩落リスクの程度を算出する部分である。崩落リスク算出部124は後述の報知装置105とともに崩落リスク提示手段を構成している。
【0025】
本実施の形態における崩落リスク算出部124は、算出した崩落リスクの程度が閾値を超えたときを運転者への報知タイミングとしており、崩落リスクが当該閾値を超えた場合のみに崩落リスクが高い旨を報知装置105に出力するように構成されている。このときの報知タイミングの決定方法としては、余裕度が一定値以下に達したとき(すなわち、輪荷重の大きさに対する路肩強度の大きさが閾値を超えてしまって余裕がないとき)を報知タイミングとする方法や、輪荷重が路肩強度を上回ったときを報知タイミングとする方法などがある。
【0026】
報知装置105は、崩落リスク算出部124で算出された崩落リスクの程度が高い旨を運転者に対して提示したり、当該崩落リスクの程度を運転者に対して提示したりするものであり、車両112の運転室内に設置されている。報知装置105としては、文字や図形等を利用して崩落リスクの程度を表示する表示装置(例えば、高精細モニタ)や、崩落リスクが閾値を超えたときにその旨の音声やブザーが発せられる警報装置、崩落リスクが閾値超えたときに点灯する警告灯(例えば、メータパネル内に設けた警告ランプ)等がある。このように崩落リスクを報知すれば、運転者に対して崩落リスクが高いことを効果的に伝達することができる。
【0027】
次に上記のように構成される路肩崩落リスク監視装置の動作を説明する。
【0028】
図4は本発明の第1の実施の形態に係る路肩崩落リスク監視装置における崩落リスク算出処理のフローチャートである。なお、車両112の走行中においては、図4の処理を一定の時間間隔で繰り返すものとする。
【0029】
図4の処理が呼び出されると、まず、路肩形状計測装置101は車両周囲における路肩の形状を計測する(S301)。次に、計測位置計測部121は、S301で計測した路肩の形状に基づいて境界部205を抽出し、基準車輪から境界部205までの距離を算出することで基準車輪の車輪位置を計測する(S302)。なお、以下においては、説明を簡単にするために、前輪108のうち路肩(法面部202)の近くに位置する車輪108a(図3参照)を基準車輪とする。基準車輪である車輪108aの位置が計測されたら、路肩形状計測装置101は、路肩形状計測装置101で計測した路肩の形状において、平坦部201(境界部205)よりも外側に位置する法面部202を抽出し、法面部202における法面角度を計測する(S303)。なお、法面角度は、S301で路肩の形状とともに測定しても良い。
【0030】
このように路肩形状データ(路肩の形状及び路肩の法面角度)が得られたら、路肩強度算出部122は、その路肩形状データに基づいて、車輪108aの位置における路肩強度を算出する(S304)。一方、輪荷重計測部123は、サスペンション110,111に取り付けたセンサ等を用いることにより、車輪108aの輪荷重を計測する(S305)。
【0031】
次に、崩落リスク算出部124は、S304で算出した路肩強度とS305で計測した輪荷重を比較し、車輪108aの位置における崩落リスクを算出する。そして、崩落リスク算出部124は、車輪108aの位置における路肩強度の余裕度が閾値以下に到達していないか、または、車輪108aの輪荷重が当該路肩強度を超えていないか等の判定を行う(S306)。ここでもし、余裕度が閾値以下に到達していたり、輪荷重が路肩強度を超えていたりした場合には、運転者に対し路肩崩落リスクが高いことを報知装置105を介して提示する(S307)。一方、S306において崩落リスクが高いという判定がされなければ、上記の一連の処理を終了し、次の処理開始タイミングまで待機する。
【0032】
上記の説明から明らかなように、本実施の形態に係る崩落リスク監視装置は、路肩形状データを計測する路肩形状計測装置101と、路肩形状データを計測した路肩における車輪位置を計測する計測位置計測部121と、その車輪位置における路肩強度を路肩形状データに基づいて算出する路肩強度算出部122と、基準車輪の輪荷重を計測する輪荷重計測部123と、輪荷重と路肩強度とを比較することで車輪位置における路肩の崩落リスクを算出する崩落リスク算出部124と、その算出した路肩の崩落リスクを提示する報知装置105を備えている。
【0033】
このように構成された崩落リスク監視装置によれば、現在の車輪位置において路肩の崩落リスクが高まったときには、その旨を運転者に報知することができるので、車両を路肩へ接近させる際の安全性を向上させることができる。特に、本発明の適用対象として取り上げた上記のダンプトラックは、路肩の法面に何ら補強措置が施されていない私有地内の道路を走行することも少なくない。そのため、崩落リスクが高い路肩を走行する機会が多くなる傾向があるので、一般車両に本発明を適用した場合よりも顕著な効果を発揮する。また、ダンプトラックのような運搬車両は積荷の有無によって車両重量が変動するため、積荷が有るときに初めて輪荷重が路肩強度を超えてしまう場合もある。そのため、上記のように輪荷重と路肩強度を比較して崩落リスクを判定する本発明の効果は、運搬車両において特に顕著なものとなる。例えば、露天の採掘場等で稼働するダンプトラック(いわゆるマイニングダンプ)には数百トンの積載重量を備えるものもあるが、この種の車両では、車両重量が極端に変動するため、本発明による効果はさらに顕著なものとなる。さらに、この種のダンプトラックは、その車体の大きさゆえに車幅感覚もつかみにくいため、上記のような路肩への接近操作時における崩落リスクの報知は特に顕著な効果を奏するといえる。
【0034】
ところで、上記の説明における崩落リスク算出部124は、崩落リスクが閾値を超えた場合にのみ当該崩落リスクを報知装置105に出力するものとしたが、当該崩落リスクを報知装置105に常時出力するように構成し、当該崩落リスクの程度を数値や文字等で運転者に常時提示するようにしても良い。このように崩落リスクの程度を運転者に提示すると、操舵に伴うリスク変化を容易に把握させることができる。従来では、路肩への接近操作における路肩崩落の回避は、運転者の経験や勘に頼るところが大部分であったが、上記のように崩落リスクの変化を数値的に提示すれば、崩落リスクに対して合理的な状況判断を運転者に行なわせ得る情報を提示することができる。さらに、路肩の形状に応じた適切な避け幅を運転者が取ることができるようになるため、他車両とのすれ違いのために路幅余裕を過剰に確保したり、すれ違いが起こらない区間において法面部に過剰な補強を施す必要がなくなるので、道路の設計上においてもコスト低減を図ることができる。
【0035】
なお、上記のように、路肩崩壊リスクを判定する際の基準位置となる基準車輪として、前輪108のうち路肩近くに位置する車輪108aを設定すると、前進時の路肩崩壊リスクを主に監視することができる。反対に、後輪109のうち路肩近くに位置する車輪を基準車輪に設定すると、後退時のリスクを主に監視することができる。また、本実施の形態のダンプトラックのように荷台3を車両後方に備える運搬車両では、後輪109の輪荷重が前輪108よりも大きくなる傾向があるので、後輪を基準車輪とすることが好ましい。なお、このとき、全ての車輪または路肩に近いすべての前輪及び後輪を基準車輪としても良いことは言うまでもない。
【0036】
さらに、上記のように車輪位置を基準位置とする代わりに、車両位置を基準位置としても良い。この場合には、計測位置計測部121において路肩形状データを計測したときの路肩における車両位置を計測し、路肩強度算出部122において当該車両位置における路肩強度を算出し、輪荷重計測部123において車両の輪荷重の合計(合計輪荷重)を計測し、崩落リスク算出部124において先に算出した合計輪荷重と路肩強度を比較すれば良い。このように崩落リスク監視装置を構成しても車両を路肩へ接近させる際の安全性を向上させることができる。
【0037】
図5は本発明の第2の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。この図に示す崩落リスク監視装置は、路肩形状情報記憶部521と、車両位置計測部522を備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。
【0038】
路肩形状情報記憶部(路肩形状情報記憶手段)521は、任意の位置における路肩の形状及び路肩の法面角度がデータとして記憶されている部分であり、車両112に設置されている。車両位置計測部(車両位置計測手段)522は、路肩における車両位置を計測する部分であり、車両112に設置されている。車両位置計測部522の具体例としては自車位置が計測可能なGPS(Global Positioning System)装置がある。
【0039】
このように構成した崩落リスク監視装置において、車両位置計測部522で計測された車両位置における路肩形状データを路肩形状情報記憶部521から読みだし、その読み出したデータを車両周囲における路肩形状データとすれば、第1の実施の形態のように路肩形状計測装置101を用いて常時オンラインで路肩形状データを取得することなく、車両周囲の路肩形状データを取得することができる。
【0040】
第1の実施の形態の崩落リスク監視装置では、路肩形状計測装置101によってレーザ光スキャンによる路肩形状計測をしている場合に、雨や霧等の悪天候時には路肩形状計測が困難になる可能性がある。しかし、上記のように車両112側に路肩形状データを予め記憶しておけば、雨や霧等の悪天候時で路肩形状計測装置101による路肩形状の計測が困難な状況にあっても、路肩崩落リスクを提示することができる。
【0041】
図6は本発明の第3の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。この図に示す崩落リスク監視装置は、路肩強度補正値記憶部531を備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。
【0042】
路肩強度補正値記憶部(路肩強度補正値記憶手段)531は、路肩強度算出部122において路肩強度を算出する際に用いられる補正パラメータ(補正値)が記憶された部分である。路肩強度算出部122は、路肩強度補正値記憶部531に記憶された補正パラメータを利用して路肩強度を算出する。ここにおける補正パラメータとしては、例えば、車両の走行環境における土質の特性を反映したパラメータ(土質パラメータ)や、天候変化による土砂の保水量変化を反映したパラメータ(天候パラメータ)がある。路肩強度は土質によって変化するが、土質パラメータを利用して路肩強度を算出すれば、走行環境の土質に即した路肩強度を算出することができる。また、一般に地盤の保水量が高まると地盤強度が低下することが知られているが、地盤の保水量は路肩形状計測手段101を介して取得することが難しく、補正パラメータとして別途設定可能に構成した方が良い。天候パラメータは、降雨などの状況に応じて運転者が入力装置を介して設定しても良いし、管制センターのようなところから無線装置で一括して車両に送信しても良い。
【0043】
上記のように崩落リスク監視装置を構成すれば、走行環境の土質に即した路肩強度を算出することができるし、天候変化に即した路肩強度を算出することができるので、実際の路面状況に即した崩落リスクの判定を行うことができる。
【0044】
図7は本発明の第4の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。この図に示す崩落リスク監視装置は、路肩強度補正値記憶部541と、車両位置計測部522を備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。
【0045】
路肩強度補正値記憶部541は、第3の実施の形態における路肩強度補正値記憶部531と異なり、補正パラメータが位置情報と関連づけて記憶されている部分である。例えば、前述の天候パラメータの例でいえば、車両112が走行するエリアがある程度の広さを持っている場合には、ある場所の路面は乾いているが、別の場所の路面は集中降雨等でぬかるんでいるといった状況も考えられる。そこで、補正パラメータを位置に応じて変更可能にするために、補正パラメータは位置情報と関連づけて路肩強度補正値記憶部541に記憶されている。
【0046】
このように構成した崩落リスク監視装置において、路肩強度算出部122は、車両位置計測部522で計測された車両位置における補正パラメータを路肩強度補正値記憶部541から読みだし、その読み出した補正パラメータを利用して路肩強度を算出する。これにより、補正パラメータが車両位置に応じて変化する場合にも、車両位置における補正パラメータを利用して路肩強度を算出することができるので、第3の実施形態よりもさらに実際の路面状況に即した崩落リスクの判定を行うことができる。
【0047】
図8は本発明の第5の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。この図に示す崩落リスク監視装置は、補正パラメータ測定装置(補正パラメータ測定手段)551を備えている点で第4の実施の形態のものと異なる。
【0048】
補正パラメータ測定装置551は、車両112周囲の路面状態を測定し、当該路面状態に対応する補正パラメータを算出するものであり、車両112に取り付けられている。補正パラメータ測定装置551としては、例えば、超音波や電波を路面に照射し、その反射波の状態から地盤の硬さを計測するものや、カメラ等で撮像した路面画像に基づいて路面表面の材質、土質、保水量を推定するものがある。
【0049】
このように構成された崩落リスク監視装置において、路肩強度補正値記憶部541は、補正パラメータ測定装置551によって算出された補正パラメータを、路面状態の測定位置における新たな補正パラメータとして記憶する。すなわち、路肩強度補正値記憶部541に記憶されている補正パラメータは、車両を走行させながら収集した補正パラメータによって随時更新され、常に最新な状態で保持される。これにより、補正パラメータ測定装置551の測定結果に基づいて補正パラメータが逐次更新されるので、第4の実施形態よりもさらに実際の路面状況に即した崩落リスクの判定を行うことができる。
【0050】
なお、本実施の形態では、補正パラメータ測定装置551を車両に取り付けたが、車両が走行する敷地内に複数の補正パラメータ測定装置を点在させ、その測定値を収集することで路肩強度補正値記憶部541内の補正パラメータを更新しても良い。例えば、このような補正パラメータ測定装置として、降雨量を測定する降雨センサを複数設置すれば、その降雨センサが設置された位置における地盤の保水量を推定することができる。また、補正パラメータ測定装置551を取り付けた補正パラメータ測定専用車両を別途用意して、その車両によって敷地内を走行して補正パラメータを収集しても良い。
【0051】
図9は本発明の第6の実施の形態である路肩崩落リスク監視装置の全体構成図である。この図に示す崩落リスク監視装置は、走行状態予測部(走行状態予測部手段)561と、荷重移動量算出部(荷重移動量算出手段)562を備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。
【0052】
走行状態予測部561は、運転者による車両操作手段(ハンドル107、ブレーキペダル、アクセルペダル等)の操作量又は車両が現在若しくは将来走行する走行経路形状に基づいて、現在又は将来の車両の走行状態(旋回状況や加減速状況)を予測する部分である。ここにおいて、車両が現在又は将来走行する走行経路形状は、例えば、車両前方に搭載したカメラからの画像や、ナビゲーション装置に記憶されている走行経路形状に基づいて予測すると良い。このように得られた車両操作手段の操作量及び走行経路形状は、現在又は将来の車両112の走行状態の予測に用いられる。また、荷重移動量算出部562は、走行状態予測部561において予測された走行状態に基づいて、車両の加減速や旋回に伴って生じる荷重移動量を各車輪ごとに算出する部分である。
【0053】
このように構成された崩落リスク監視装置において、崩落リスク算出部124は、輪荷重計測部123で計測された輪荷重に対して荷重移動量算出部562で算出された荷重移動量を加算し、その加算後の荷重と路肩強度算出手段122で算出された路肩強度とを比較することで路肩の崩落リスクを算出している。このように崩落リスクを算出すれば、操作量や走行経路に応じて車両112がダイナミックに動くことにより各輪荷重が変化した場合においても、正確な崩落リスクの判定を行うことができる。
【0054】
次に本発明の第7の実施の形態について説明する。本実施の形態は、路肩強度算出部122における路肩強度算出方法の具体例を示すものである。図10は本発明の第7の実施の形態における路肩強度算出の考え方を模式的に表した図である。
【0055】
この図において、路肩(法面部202)の内部摩擦角405は土砂の種類によってほぼ決まる値であるので、計測位置計測部121で計測された車輪位置における土砂の種類が判明すれば、当該車輪位置における内部摩擦角405に基づいて滑り面406を規定できる。そこで、本実施の形態における路肩強度算出部121は、計測位置計測部121で計測された車輪位置における路肩の内部摩擦角405に基づいて滑り面406を規定し、その滑り面406におけるせん断抵抗力402の最大値(せん断強さ)を路肩強度として算出している。なお、本実施の形態では、図10に示すように、せん断抵抗力402は滑り面406に作用する垂直荷重403で発生するものとしている。
【0056】
そして、本実施の形態における崩落リスク算出部124は、滑り面406に作用する土砂荷重407と輪荷重計測部123で計測された輪荷重401とを合計し、その合計荷重408における滑り面406方向への分力408xとせん断強さとを比較することで崩落リスクを算出している。すなわち、滑り面406よりも上側の部分の土砂404が崩落しないためには、垂直荷重403で発生するせん断強さが上記の分力408xよりも大きければ良い。
【0057】
上記のように構成された本実施の形態によれば、土砂の種類によって決まる内部摩擦角405という数値に基づいて、滑り面406が支えなければいけない土砂荷重407及び輪荷重401と、滑り面406における土の摩擦で支えることができる荷重(せん断強さ)を理論的に導き出すことができる。これにより、より明確で合理的な崩落リスクの判定を行うことができる。
【0058】
なお、以上の説明における崩落リスク提示手段は、崩落リスク算出部124で算出した崩落リスクを報知装置105に出力することで崩落リスクが高い旨を報知していたが、崩落リスク算出部124で算出された崩落リスクが閾値(先述の閾値と異なっても良い)を超えたときには、車両進路制御装置106において、その崩落リスクが当該閾値よりも低くなる方向へ車両進路を変更するように路肩崩落リスク監視装置を構成しても良い。このようにすれば、崩落リスクに応じた車両の進路制御を自動的に行うことができる。
【0059】
また、上記の説明では、本発明の適用対象として、大型の運搬車量であるダンプトラックを例に挙げて説明したが、本発明は一般的な車両やその他運搬車両にも勿論適用可能である。さらに、本発明は、上記の各実施形態の具体例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
101 路肩形状計測装置
105 報知装置
106 車両進路制御装置
112 車両
120 制御装置
121 計測位置計測部
122 路肩強度算出部
123 輪荷重計測部
124 崩落リスク算出部
124 輪荷重計測部
401 輪荷重
402 せん断抵抗力
405 内部摩擦角
406 滑り面
407 土砂荷重
408x 合計荷重の滑り面方向の分力
521 路肩形状情報記憶部
522 車両位置計測部
531 路肩強度補正値記憶部
541 路肩強度補正値記憶部
551 補正パラメータ測定装置
561 走行状態予測部
562 荷重移動量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度を計測する路肩形状計測手段と、
前記路肩形状計測手段によって路肩の形状及び路肩の法面角度を計測したときの路肩における車輪位置を計測する計測位置計測手段と、
前記路肩形状計測手段で計測された前記路肩の形状及び路肩の法面角度に基づいて、前記計測位置計測手段で計測された車輪位置における路肩強度を算出する路肩強度算出手段と、
前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪の輪荷重を計測する輪荷重計測手段と、
前記輪荷重計測手段で計測された輪荷重と前記路肩強度算出手段で算出された路肩強度とを比較することで、前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪が位置する路肩の崩落リスクを提示する崩落リスク提示手段とを備えることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の路肩崩落リスク監視装置において、
路肩における車両位置を計測する車両位置計測手段をさらに備え、
前記路肩形状計測手段は、任意の位置における路肩の形状及び路肩の法面角度が記憶された路肩形状情報記憶手段を備え、
前記路肩形状計測手段は、前記車両位置計測手段で計測された車両位置における路肩の形状及び路肩の法面角度を前記路肩形状情報記憶手段から読み出し、その読み出したものを前記車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度とすることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項3】
請求項1記載の路肩崩落リスク監視装置において、
前記路肩強度算出手段において路肩強度を算出する際に用いられる補正パラメータが記憶された路肩強度補正値記憶手段をさらに備え、
前記路肩強度算出手段は、前記補正パラメータを利用して路肩強度を算出することを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項4】
請求項3記載の路肩崩落リスク監視装置において、
路肩における車両位置を計測する車両位置計測手段をさらに備え、
前記路肩強度補正値記憶手段における補正パラメータは、位置と関連づけて記憶されており、
前記路肩強度算出手段は、前記車両位置計測手段で計測された車両位置における補正パラメータを前記路肩強度補正値記憶手段から読み出し、その読み出した補正パラメータを利用して路肩強度を算出することを特徴とする路肩崩壊リスク監視装置。
【請求項5】
請求項4記載の路肩崩落リスク監視装置において、
車両周囲の路面状態を測定し、当該路面状態に対応する補正パラメータを算出する補正パラメータ測定手段をさらに備え、
前記路肩強度補正値記憶手段は、前記補正パラメータ測定手段によって算出された補正パラメータを、前記路面状態の測定位置における新たな補正パラメータとして記憶することを特徴とする路肩崩壊リスク監視装置。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載の路肩崩落リスク監視装置において、
運転者による車両操作手段の操作量又は車両が走行する走行経路形状に基づいて、車両の走行状態を予測する走行状態予測手段と、
前記走行状態予測手段において予測された走行状態に基づいて、車両の加減速や旋回に伴って生じる荷重移動量を各車輪ごとに算出する荷重移動量算出手段とをさらに備え、
前記崩落リスク提示手段は、前記輪荷重計測手段で計測された前記輪荷重に対して荷重移動量算出手段で算出された前記荷重移動量を加算し、その加算後の荷重と前記路肩強度算出手段で算出された前記路肩強度とを比較することで路肩の崩落リスクを提示することを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の路肩崩落リスク監視装置において、
前記路肩強度算出手段は、前記計測位置計測手段で計測された車輪位置における路肩の内部摩擦角に基づいて滑り面を規定し、当該滑り面におけるせん断強さを前記路肩強度として算出し、
前記崩落リスク提示手段は、前記滑り面に作用する土砂荷重と前記輪荷重計測手段で計測された輪荷重とを合計し、当該合計荷重における前記滑り面方向への分力と前記せん断強さとを比較することで前記路肩の崩落リスクを提示することを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の路肩崩落リスク監視装置において、
前記崩落リスク提示手段によって提示される崩落リスクが閾値を超えたとき、当該崩落リスクが前記閾値よりも低くなる方向へ車両進路を変更する車両進路制御手段をさらに備えることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項9】
請求項1から8いずれかに記載の路肩崩落リスク監視装置において、
前記計測位置計測手段で車輪位置が計測される車輪は、前輪のうち路肩近くに位置するものであることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項10】
請求項1から8いずれかに記載の路肩崩落リスク監視装置において、
前記計測位置計測手段で車輪位置が計測される車輪は、後輪のうち路肩近くに位置するものであることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項11】
車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度を計測する路肩形状計測手段と、
前記路肩形状計測手段によって路肩の形状及び路肩の法面角度を計測したときの路肩における車両位置を計測する計測位置計測手段と、
前記路肩形状計測手段で計測された前記路肩の形状及び路肩の法面角度に基づいて、前記計測位置計測手段で計測された車両位置における路肩強度を算出する路肩強度算出手段と、
前記車両の輪荷重の合計を計測する輪荷重計測手段と、
前記輪荷重計測手段で計測された合計輪荷重と前記路肩強度算出手段で算出された路肩強度とを比較することで、前記合計輪荷重に対する前記路肩強度の余裕度を算出し、さらに、当該余裕度の大きさに基づいて、前記計測位置計測手段で計測された車両位置における路肩の崩落リスクを提示する崩落リスク提示手段とを備えることを特徴とする路肩崩落リスク監視装置。
【請求項12】
車体に装着された複数の車輪と、
車両周囲における路肩の形状及び路肩の法面角度を計測する路肩形状計測手段と、
前記路肩形状計測手段によって路肩の形状及び路肩の法面角度を計測したときの路肩における車輪位置を計測する計測位置計測手段と、
前記路肩形状計測手段で計測された路肩の形状及び路肩の法面角度に基づいて、前記計測位置計測手段で計測された車輪位置における路肩強度を算出する路肩強度算出手段と、
前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪の輪荷重を計測する輪荷重計測手段と、
前記輪荷重計測手段で計測された輪荷重と前記路肩強度算出手段で算出された路肩強度とを比較することで、前記計測位置計測手段で車輪位置が計測された車輪が位置する路肩の崩落リスクを提示する崩落リスク提示手段とを備えることを特徴とする運搬車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−18132(P2011−18132A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161102(P2009−161102)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】