説明

路面状態推定装置及び方法

【課題】精度よく路面の状態を推定することができる路面状態推定装置及び方法を提供する。
【解決手段】路面状態推定装置は、路面に接触する回転体の各種物理量を計測する計測段11と、計測段11で計測したデータから回転体の回転に同期した信号を抽出する適応デジタルフィルタを有し、計測段11で計測したデータと適応デジタルフィルタで抽出した回転に同期した信号とから、抽出した残りの信号を求める抽出段21と、抽出段21で抽出した残りの信号により路面の状態を推定する推定段41とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤなどの回転体が接触する路面の状態(乾いた路面、濡れた路面、荒れた路面等)を推定する路面状態推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凸凹、摩擦係数(ミュー;μ)等の路面の状態を推定するために、制動時のABS信号から路面の状態を推定する方法や、カメラ画像などから光学的に推定する方法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、制動時のABS信号から路面の状態を推定する場合、車両の挙動から路面の状態を推定し、すなわち、制動などによってタイヤに力などを加え、その応答(例えば、スリップ)を見て路面の状態を推定しているので、車両の定常走行中ではタイヤの回転成分が車両の挙動に加わり、路面の状態を正確に反映しているとは限らない。したがって、路面の状態を精度よく推定するのが困難である。
【0004】
また、路面の状態を光学的に推定する場合、画像を取得するためにカメラ(レンズ)を使用するため、水や泥のようなカメラの汚れの影響を受けやすく、路面の状態を精度よく推定するのが困難である。
【0005】
なお、路面の状態を光学的に推定する場合には、使用する機器が高価であるため、実用化されていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、精度よく路面の状態を推定することができる路面状態推定装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による路面状態推定装置は、路面に接触する回転体の各種物理量を計測する計測手段と、前記計測手段で計測したデータから回転体の回転に同期した信号を抽出する適応デジタルフィルタを有し、前記計測手段で計測したデータと前記適応デジタルフィルタで抽出した回転に同期した信号とから、抽出した残りの信号を求める抽出手段と、前記抽出手段で抽出した残りの信号により路面の状態を推定する推定手段とを具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、計測手段で計測したデータと適応デジタルフィルタで抽出した回転に同期した信号とから、抽出した残りの信号を求め、抽出した残りの信号により路面の状態を推定する。
【0009】
したがって、回転体を車両のタイヤとした場合、タイヤに相関のある回転次数成分を、サスペンション、ホイール、ナックル、タイヤ等の車両の足回りの振動や音(路面の情報を含んだ信号)から精度よくかつほぼリアルタイムに分離して取り除くことによって、凸凹、摩擦係数(ミュー;μ)等の路面の状態に相関のある信号が抽出される。
【0010】
路面状態が変化すると、タイヤとの接地状態が変化するので、タイヤ/路面間から発生する振動、音、歪み等が変化することが知られている。しかしながら、タイヤ近傍の足回りの振動や音から路面の状態を推定する場合、タイヤ自身が発生する音や振動(タイヤのユニフォーミティに起因する回転速度に相関のある回転次数成分)が含まれるため、精度の良い路面の状態の推定が困難である。
【0011】
本発明のように適応デジタルフィルタを用いることによって、車速、走行モード、タイヤの変化等にも適合しながら回転体(例えば、タイヤ)に相関のある成分(例えば、タイヤの回転次数成分)を振動や音から精度よくほぼリアルタイムに抽出し及び分離することができる。
【0012】
推定した路面の状態は、車両制御などにフィードバックして、更なる安全性の向上に役立つことが期待される。また、ドライバーへの情報提供によって、安全運転につなげることもできる。路面の状態の推定は、求めた信号の最大又は最小ピーク値の絶対値がしきい値を超えたか否かに応じて行うのが好ましい。
【0013】
好適には、前記計測手段で計測する回転体の各種物理量が、振動、音、回転数、歪又は変位であり、前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するにあたり、前記計測手段で計測したデータを遅延させたデータを利用する。この場合、前記データの遅延時間が回転体の1回転に対応する時間であり、前記データを遅延させるための遅延回路を、前記計測手段からのデータの入力部と前記適応デジタルフィルタとの間の信号ライン又は前記計測手段からのデータの入力部と回転に相関のない信号を求めるための演算器との間の信号ラインに設ける。
【0014】
好適には、前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するに当たり、前記計測手段で計測したデータのうち回転情報のデータから回転周期を算出して生成した次数成分を利用する。この場合、次数成分を生成するための次数成分生成回路を、前記計測手段からの回転情報のデータの入力部と適応デジタルフィルタとの間の信号ラインに設ける。
【0015】
好適には、前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するにあたり、前記計測手段で計測したデータを、前記計測手段で計測したデータのうち回転速度情報のデータに応じて可変サンプリングして、見かけ上の周期を一定にする。この場合、可変サンプリングを実行するための可変サンプリング回路を、前記計測手段からのデータの入力部に設ける。これによって、車速の変化に対しても適応デジタルフィルタの追従性が向上して、安定した信号の抽出が可能になる(抽出精度の向上)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による路面状態推定装置及び方法の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の路面状態推定装置の一例を説明するための図である。図1において、1は、路面に接触する回転体としての車両のタイヤを表し、2は、各タイヤ1に装着した振動又は音と回転情報(ABSなど)のうちの少なくとも一方を計測するためのセンサを表し、3は、各センサ2からの信号に基づいて路面の状態を推定する中央処理装置を表す。本発明の路面状態推定装置は、各センサ2により振動や音のような物理量を計測する計測段11と、計測段11で計測したデータからタイヤ1の回転に同期した信号を抽出する抽出段21と、路面の状態を推定する基準となるマップ(データベース)31と、計測段11で計測された物理量、抽出段21で抽出された信号及びマップ31から路面の状態(例えば、乾いた路面、濡れた路面、荒れた路面等)を推定する推定段41と、車両制御などのためにフィードバックしたり、ドライバーに情報提供したりするために、推定段41の推定結果を出力する出力段51とを具える。
【0017】
計測段11は、サスペンション、ホイール、ナックル、タイヤ1等の車両の足回りの音若しくは振動(センサ2により測定)又はABSなどの回転数信号(センサ2は必要ない)を計測し、計測したデータをデジタル信号として抽出段21に入力する。音を計測する場合は、センサ2として、マイクロフォンなどを使用する。振動を計測する場合は、センサ2として、加速度計、速度計、変位計等を使用する。また、車両がABS(Anti-lock Brake System)を装着している場合は、ABSの回転数信号を使用することができる。この場合はセンサ2を設ける必要がなく、簡易な構成とすることができる。ABS以外でも、その他の方法で回転数を計測し、その回転数信号を使用することもできる。さらに、後に説明する次数成分生成回路及び可変サンプリング回路を用いる場合は、図示しない車輪速信号計測段によって各車輪の車輪速信号(ABS信号など)を別途計測しておく必要がある。また、歪を計測する場合は、センサ2として歪ゲージなどを使用し、変位を計測する場合は、センサ2として変位計などを使用する。
【0018】
抽出段21としては、解析周波数帯域を分割した適応デジタルフィルタ(この場合、3段分割)を用いて、タイヤ1の回転に同期した周期成分を抽出するとともに、計測段11で計測したデータと、適応デジタルフィルタで抽出したタイヤ1の回転に同期した信号とから、抽出した残りの信号を求める。。すなわち、図2に抽出段21の一例の構成を示すように、抽出段21では、計測段11で計測した振動に起因する振動信号を可変サンプリング回路22に入力するとともに、計測段11で計測しない回転数に起因する回転(速度)信号を可変サンプリング回路22及び次数成分生成回路23の合成波形成形部23−1〜23−3に入力し、計測段11によって計測された物理量のデジタル信号の値から抽出段21の帯域(次数)分割型適応デジタルフィルタの出力信号の値を減算して、残差信号を取り出す。
【0019】
合成波形成形部23−1は、1次からM次の合成波形を成形し、合成波形成形部23−2は、M+1次からN次の合成波形を成形し、合成波形成形部23−3は、N+1次からP次の合成波形を成形する。例えば、M,N,Pを3,9,30とする。合成波波形成形部23−1〜23−3からの出力信号と、リファレンス信号として演算器24−1〜24−3を通じて適応デジタルフィルタ25−1〜25−3に供給される上記出力信号とが、適応デジタルフィルタ25−1〜25−3においてそれぞれリアルタイムで演算され、出力信号としてタイヤ1の周期に相関のある信号が出力される。そのため、出力信号は、タイヤ1の回転に相関のある信号(周期的な信号)として求めることができる。求めた出力信号は、推定段41に入力される。
【0020】
適応デジタルフィルタ23は従来から知られている任意のタイプのもの(FIR型、IIR型等)を使用することができる。図2に示す例では、計測段11で計測したデジタルデータから構成されるリファレンス信号と、適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の出力信号とを、演算器24−1〜24−3で演算して両者の差を求め、それをエラー信号として求めている。したがって、エラー信号は、タイヤ1の回転に無関係の、例えば、路面や車体に寄与した信号(ランダムな信号)として求めることができる。そして、求めたエラー信号を適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の係数変更部にフィードバックして、エラー信号に応じて適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の係数をそれぞれ動的に変更させ、適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の最適化を図っている。エラー信号及び入力信号を用いて適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の係数を変更する方法としては、従来からフィルタリングパラメータ更新アルゴリズムとして知られているLMS(Least Mean Square)法、ニュートン法あるいは最急下法などの適応アルゴリズムを用いることができる。また、その他好適に利用できる適応アルゴリズムとして、複素LMSアルゴリズム(Complex Least means Square Algorithm)、Normalized LMSアルゴリズム(Normalized Least means Square Algorithm)、射影アルゴリズム(Projection Algorithm)、SHARFアルゴリズム(Simple Hyperstable Adaptive Recursive Filter Algorithm)、RLSアルゴリズム(Recursive Least Square Algorithm)、FLMSアルゴリズム(Fast Least Mean Square Algorithm)、DCTを用いた適応フィルタ(Adaptive Filter using Discrete Cosine Transform)、SANフィルタ(Single Frequency Adaptive Notch Filter)、ニューラルネットワーク(Neural Network)、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いることができる。
【0021】
適応デジタルフィルタ25−1〜25−3の各々のサンプリング周波数は、分析対象周波数の最大周波数(最大次数)で決定され、通常、FFTなどの後処理における誤差などを考慮して上記最大周波数の4倍程度に設定される。実際に回転体の回転数が変化する場合には、最高回転数のときに最も周波数が高くなるので、最高回転数の場合を考慮する必要がある。以下の例では、タイヤの異常検知を考慮し、タイヤ回転数が5Hz(≒40km/hr)〜20Hz(≒150km/hr)で変化する場合を想定して見積もるものとする。
【0022】
1〜30次成分まで一括で分析する場合、1次成分が20Hzであれば30次成分が20×30=600Hzとなり、サンプリング周波数を2400Hz以上に設定することになる。
【0023】
図2において、M,N,Pを3,9,30とした場合、適応デジタルフィルタ25−1では分析対象が1〜3次成分であるので、最大周波数は、3次成分において、20×3=60Hzとなり、サンプリング周波数は、60×4=240Hz以上となる。したがって、適応デジタルフィルタ25−1のサンプリング周波数は、1〜30次成分まで一括で分析する場合の1/10でよいことになる。また、適応デジタルフィルタ25−2では、最大周波数は、9次成分において、20×9=180Hzとなり、サンプリング周波数は、720Hz以上となる。さらに、適応デジタルフィルタ25−3では、最大周波数は、30次成分において、20×30=600Hzとなり、サンプリング周波数は、2400Hz以上になる。
【0024】
適応デジタルフィルタのタップ長は、最低次数の分析対象周波数の周期の1倍程度の時間長さとなるように決定され、係数の数(タップ数)は、タップ長をサンプリング周期(サンプリング周波数の逆数)で除算した値となる。実際に回転数が変動する場合には、最低回転数のときが最も周波数が低くなるので、最低回転数を考慮する必要がある。
【0025】
1〜30次成分まで一括で分析する場合、最低次数が1次で5Hzとすると、タップ長は、1/5=0.6秒となり、サンプリング周波数が2400Hzのときには、タップ数は、0.2/(1/2400)=480となる。
【0026】
図2において、M,N,Pを3,9,30とした場合、適応デジタルフィルタ25−1では分析対象が1〜3次成分であるので、サンプリング周波数が2400Hzのときにはタップ数が480となるが、既に説明したようにサンプリング周波数が240Hzで分析可能であることを考えると、タップ数は、0.2/(1/240)=48となり、1〜30次成分まで一括で分析する場合の1/10でよいことになる。
【0027】
また、適応デジタルフィルタ25−2では、最小周波数は、4次成分において、5×4=20Hzとなり、タップ長は、1/20=0.05秒となり、サンプリング周波数が2400Hzの場合には、タップ数は、0.05/(1/2400)=120となるが、既に説明したようにサンプリング周波数が720Hzで分析可能であることを考えると、タップ数は、0.05/(1/720)=36となり、1〜30次成分まで一括で分析する場合の1/3以下でよいことになる。
【0028】
推定段41は、取り出した残差信号とマップ31のデータとを比較することによって路面の状態を推定する。そのためには、残差信号の最大又は最小ピーク値の絶対値がしきい値を超えたか否かに応じて路面の状態を推定することが好ましい。
【0029】
出力段51は、推定段41の推定結果すなわち推定した路面情報を、車両制御などにフィードバックし又はドライバーに情報提供する。出力段51としては、警告灯や警告アラームを使用することが好ましい。また、路面情報を車両制御にフィードバックして、路面情報に応じた車両の制御(ABS,VSC等)に切り替えることもできる。
【0030】
これまで説明した構成の本発明の路面状態推定装置では、正確なタイヤの回転数の信号がなくても、簡単かつ効果的にタイヤ1の回転に相関のある信号のみを出力信号として抽出することができる。すなわち、バーストなどのタイヤ1の回転に相関のある信号のみが出力信号に含まれ、縁石にのりあげるなどの一回のみの事象でタイヤ1の回転に相関のない信号は出力信号に含まれない。そのため、正確な路面の推定を行うことができる。なお、本実施の形態では、入力信号としてセンサ2で測定した振動、音の信号を利用した例を説明している。
【0031】
図3は、本発明の路面状態推定装置で得られる各種信号を示す図である。図3において、乾いた路面、濡れた路面及び荒れた路面における、計測段11によって計測された物理量(適応デジタルフィルタなし)、抽出段21の帯域(次数)分割型適応デジタルフィルタの出力信号の値(タイヤ振動)、及びこれらの残差信号を示す。
【0032】
図3に示すように、残差信号の最大又は最小ピーク値の絶対値が第1のしきい値20を超えない場合には、路面が濡れていると推定でき、残差信号の最大又は最小ピーク値の絶対値が第1のしきい値20を超えるが第2のしきい値40を超えない場合には、路面が荒れていると推定でき、残差信号の最大又は最小ピーク値の絶対値が第2のしきい値40を超える場合には、路面が乾いていると推定できる。
【0033】
図4は、本発明における抽出段の他の例のブロック図である。この場合、抽出段21は、可変サンプリング回路32と、次数成分生成回路33と、演算器34−1,34−2,34−3,...,34−nと、適応デジタルフィルタ35−1,35−2,35−3,...,35−nとを具え、次数成分生成回路33が、1次成分成形部33−1〜N(例えば、30)次成分成形部33−nとを有してもよい。この場合、適応デジタルフィルタ35−1,35−2,35−3,...,35−nを次数ごとに割り当てている。
【0034】
適応デジタルフィルタ35−1,35−2,35−3,...,35−nは、それぞれ1周期の周期信号(サイン波又はコサイン波)に適応すればよいので、最低2タップで実現することができ、総タップ数は、1〜30次の場合はが60となり、ハード面(メモリ量の低減)からも非常に有利になる。また、適応デジタルフィルタ35−1,35−2,35−3,...,35−nはそれぞれ、一つの次数(サイン波)のみを担当するので、収束精度及び収束速度の面でも有利となる。
【0035】
図5は、本発明における抽出段の他の例のブロック図である。この場合、抽出段21は、可変サンプリング回路42と、バンドパスフィルタ43−1,43−2,43−3と、演算器44−1,44−2,44−3と、適応デジタルフィルタ45−1,45−2,45−3と、遅延回路46−1,46−2,46−3とを具える。
【0036】
本実施の形態では、バンドパスフィルタ43−1は、1〜10次成分を担当するために4〜80Hzのバンド幅を担当し、バンドパスフィルタ43−2は、11〜20次成分を担当するために80〜200Hzのバンド幅を担当し、バンドパスフィルタ43−3は、21〜30次成分を担当するために200〜500Hzのバンド幅を担当する。
【0037】
回転(速度)信号などを用いて入力信号を可変サンプリングして、バンドパスフィルタ43−1,43−2,43−3に入力される信号のサンプリングを一定とした場合、バンドパスフィルタ43−1,43−2,43−3の設定は、基準周波数の次数成分でバンド幅を設定することができる。例えば、基準信号が10Hzのときには、バンドパスフィルタ43−1は、1〜3次成分に相当する9〜35Hzのバンド幅を担当し、バンドパスフィルタ43−2は、4〜9次成分に相当する45〜95Hzのバンド幅を担当し、バンドパスフィルタ43−3は、10〜30次に相当する95〜305Hzのバンド幅を担当する。
【0038】
遅延回路46−1,46−2,46−3は、周期信号を遅延するものであり、その遅延時間は、タイヤ1の1回転の時間間隔以下とすることが好ましいが、2回転以上の時間間隔又は1回転の時間より若干の長短の差がある時間間隔であっても、適応デジタルフィルタ65−1,65−2,65−3の特性上、演算で回転に同期した周期成分を求めるのに不都合はない。
【0039】
また、タイヤ1の1回転の時間間隔は、回転数(走行速度)によって変化する場合でも適応デジタルフィルタ45−1,45−2,45−3のサンプリング周期及びタップ長を適切に設定することによって対応可能である。さらに、低速、中速及び高速の3段階の遅延時間を予め設定し、速度に応じて遅延回路46−1,46−2,46−3の遅延時間を3段階に変化させることもできる。当然、車両の速度を常時測定し、その速度に応じて遅延回路46−1,46−2,46−3の遅延時間をリアルタイムで変化させることもできる。
【0040】
図6は、本発明における抽出段の他の例のブロック図である。この場合、抽出段21は、可変サンプリング回路52と、バンドパスフィルタ53−1,53−2,53−3と、演算器54−1,54−2,54−3と、適応デジタルフィルタ55−1,55−2,55−3と、遅延回路56−1,56−2,56−3とを具える。本実施の形態では、遅延回路56−1,56−2,56−3が周期信号の代わりに実信号を遅延させる点を除いて、図5に示す抽出段と同一構成を有する。
【0041】
図7A,Bはそれぞれ、本発明における抽出段の他の例のブロック図である。図7Aにおいて、抽出段21は、可変サンプリング回路62と、遅延回路63,64と、適応デジタルフィルタ65,66と、演算器67,68とを具え、図7Bにおいて、抽出段21は、可変サンプリング回路72と、次数成分生成回路73,74と、適応デジタルフィルタ75,76と、演算器77,78とを具える。
【0042】
図7A,Bに示すように、可変サンプリングを実行するための可変サンプリング回路62;72を、計測段11からのデータの入力部に設け、回転体の回転情報(車両の場合はABS車輪速信号など)を用いて、入力信号のデータをある正規化した回転数(周期)となるようにサンプリングを可変にし、適応デジタルフィルタ65,66;75,76内での処理では見かけ上の周期を一定として処理できるようにするロジックを用いることで、回転体の回転速度(車両の場合は車速)の変化に十分対応することができる。
【0043】
なお、図7A,Bの抽出段を単一のユニットとし、このユニットを複数で直列に接続してもよく、この場合、抽出精度を更に向上することができる。また、図7Aでは、遅延回路63,64を用いた例に対して可変サンプリング回路62を設けた例を示し、図7Bでは、次数成分生成回路73,74を用いた例に対して可変サンプリング回路72を設けた例を示したが、他の例、例えば、適応デジタルフィルタを多段に組み合わせたものも有効である。
【0044】
また、図7Bに示すような次数成分生成回路73,74を用いた例では、可変サンプリング回路72で正規化した回転数(周期)により次数成分を生成し、その信号及び入力信号を適応デジタルフィルタ75で,76用いることによって、抽出したい成分のみを抽出することができる。また、図7Aでは、遅延回路63,64を、可変サンプリング回路62と演算器67との間及び適応デジタルフィルタ65と演算器68との間に配置したが、可変サンプリング回路62と適応デジタルフィルタ65との間及び適応デジタルフィルタ65と適応デジタルフィルタ66との間に配置してもよい。
【0045】
また、判定段41の他の例としては、適応デジタルフィルタ65,66;75,76から出力された出力信号に対して周波数分析を行い、回転体の任意の回転次数成分を回転信号からトラッキングして抽出し、その大きさを足し合わせた結果を、正常時と比較することによって異常時を判別することもできる。
【0046】
さらに、可変サンプリング回路62;72を設けた適応デジタルフィルタ65,66;75,76を用いる場合、任意の周期で正規化されているので、固定した任意の次数成分の周波数を足し合わせることによって、正常時と異常時とを比較することができる。なお、次数成分は任意の複数の次数でもよい。また、周波数分析を行わなくても、任意の次数成分のフィルタをかけ、時間軸信号の大きさを比較してもよい。
【0047】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
例えば、図1に示す例では、回転体として車両に装着されるタイヤを例にとって本発明を説明するが、回転中の回転体の異常を検知する目的であれば、タイヤ以外の回転体にも同様に本発明を適用できる。
【0048】
上記実施の形態では、入力信号としてセンサで測定した振動、音の信号を利用した例を説明したが、入力信号としてABSの回転数信号を利用した場合も、同様に本発明を適用することができる。例えば、所定の周期のサイン波から構成される回転数信号には、既に説明したようにバースト及び縁石にのりあげた際の信号を含んでおり、そのような場合でも、その回転数信号を入力信号として抽出段を通過させることで、タイヤの回転に相関がある信号のみを含む出力信号を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の路面状態推定装置は、車両制御などにフィードバックして、更なる安全性の向上に役立てたり、ドライバーへの情報提供によって、安全運転につなげたりする全ての回転体の用途に適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の路面状態推定装置の一例を説明するための図である。
【図2】本発明における抽出段の一例のブロック図である。
【図3】本発明の路面状態推定装置で得られる各種信号を示す図である。
【図4】本発明における抽出段の他の例のブロック図である。
【図5】本発明における抽出段の他の例のブロック図である。
【図6】本発明における抽出段の他の例のブロック図である。
【図7】本発明における抽出段の他の例のブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
1 タイヤ
2 センサ
3 中央処理装置
11 計測段
21 抽出段
22,32,42,52,62,72 可変サンプリング回路
23,33,73,74 次数成分生成回路
23−1,23−2,23−3,33−1,33−2,33−3,...,33−n 合成波形成形部
24−1,24−2,24−3,34−1,34−2,34−3,...,34−n,44−1,44−2,44−3,54−1,54−2,54−3,67,68,77,78 演算器
25−1,25−2,25−3,35−,35−2,35−3,...,35−n,45−1,45−2,45−3,55−1,55−2,55−3,65,66,75,76 適応デジタルフィルタ
31 マップ
41 推定段
51 出力段
51 バースト部
43−1,43−2,43−3,53−1,53−2,53−3 バンドパスフィルタ
46−1,46−2,46−3,56−1,56−2,56−3,63,64 遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接触する回転体の各種物理量を計測する計測手段と、前記計測手段で計測したデータから回転体の回転に同期した信号を抽出する適応デジタルフィルタを有し、前記計測手段で計測したデータと前記適応デジタルフィルタで抽出した回転に同期した信号とから、抽出した残りの信号を求める抽出手段と、前記抽出手段で抽出した残りの信号により路面の状態を推定する推定手段とを具えることを特徴とする路面状態推定装置。
【請求項2】
前記求めた信号の最大又は最小ピーク値の絶対値がしきい値を超えたか否かに応じて路面の状態を推定することを特徴とする請求項1記載の路面状態推定装置。
【請求項3】
前記計測手段で計測する回転体の各種物理量が、振動、音、回転数、歪又は変位であることを特徴とする請求項1又は2に記載の路面状態推定装置。
【請求項4】
前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するにあたり、前記計測手段で計測したデータを遅延させたデータを利用することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の路面状態推定装置。
【請求項5】
前記データの遅延時間が回転体の1回転に対応する時間であることを特徴とする請求項4記載の路面状態推定装置。
【請求項6】
前記データを遅延させるための遅延回路を、前記計測手段からのデータの入力部と前記適応デジタルフィルタとの間の信号ラインに設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の路面状態推定装置。
【請求項7】
前記データを遅延させるための遅延回路を、前記計測手段からのデータの入力部と回転に相関のない信号を求めるための演算器との間の信号ラインに設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の路面状態推定装置。
【請求項8】
前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するにあたり、前記計測手段で計測したデータのうち回転情報のデータから回転周期を算出して生成した次数成分を利用することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の路面状態推定装置。
【請求項9】
次数成分を生成するための次数成分生成回路を、前記計測手段からの回転情報のデータの入力部と適応デジタルフィルタとの間の信号ラインに設けたことを特徴とする請求項8記載の路面状態推定装置。
【請求項10】
前記抽出手段で回転に同期した信号を抽出するにあたり、前記計測手段で計測したデータを、前記計測手段で計測したデータのうち回転速度情報のデータに応じて可変サンプリングして、見かけ上の周期を一定にすることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の路面状態推定装置。
【請求項11】
可変サンプリングを実行するための可変サンプリング回路を、前記計測手段からのデータの入力部に設けたことを特徴とする請求項10記載の路面状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−314025(P2007−314025A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145329(P2006−145329)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】