説明

身体内腔の閉塞のためのキットおよび送達機器

【課題】塞栓合成物を含む、身体内腔の閉塞のためのキットおよび送達機器の提供。
【解決手段】(i)塞栓合成物であって、(a)ポリプロピレングリコールジアクリレート(PPODA)、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)、およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)からなる群から選択される官能化アクリレートモノマー成分、ならびに(b)マルチチオール求核試薬成分を含み、前記塞栓合成物の別個の成分は、別個の容器10に保管される塞栓合成物と、(ii)使用説明書と、(iii)送達機器と、を含むキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に関する相互参照)
【0002】
本出願は、2004年1月7日付に出願した米国仮特許出願第60/534,638号(名称:「Methods,Compositions,and Devices for Embolizing Body Lumens」)の利点を請求し、参考のため援用する。
【0003】
本発明は、医療機器および方法に関し、より詳細には、例えば血管身体内腔および非血管身体内腔等の身体内腔の標的部位の塞栓に関する。
【背景技術】
【0004】
身体内腔(例えば、血管または臓器)の塞栓は、多様な病気(例えば、例示目的のみのため、外傷に起因する出血の制御、血管解離が必要な手術中の大量失血の回避、腫瘍のある臓器全体の一部の閉塞、動静脈奇形(AVM)などの異常血管構造中への血流の遮断、動静脈瘻(AVF)および動脈瘤、および多様な身体内腔内の液体または他の材料の通過の遮断)の治療のために用いる。このような治療のため、例えば、機械的手段(例えば、微粒子技術)および液体技術および半流動体技術などの多様な塞栓技術が提案されている。例えば、微粒子サイズ、放射線不透過性、粘度、閉塞メカニズム、生物学的挙動および可能な再疎通対永久閉塞、身体標的部位に材料を送達する手段などのような技術の顕著な特性は、医師が適応症の治療のために最適な治療法を決定する際に用いる要素である。
【0005】
機械的技術および微粒子塞栓技術のうち最も普及している技術を挙げると、着脱可能バルーン、マクロコイルおよびミクロコイル、ゼルフォームおよびポリビニルアルコールスポンジ(例えば、IVALON(Ivalon,Inc.(サンディエゴ、CA)により製造および販売))、およびミクロスフェアがある。例えば、1つの塞栓技術では、プラチナミクロコイルおよびステンレススチールミクロコイルが用いられる。しかし、コイル送達前に疾病に適したコイルのサイズを選択するには、かなりの技能が要求される。その上、多くの解剖学的位置はミクロコイルに不向きであり、また、ミクロコイルを除去するのは、状況によっては困難であることが分かっている。
【0006】
液体塞栓性合成物および半流動体塞栓性合成物としては、粘性閉塞ゲル、コラーゲン懸濁液およびシアノアクリレート(n−ブチルおよびイソブチルシアノアクリレート)がある。これらのうち、シアノアクリレートを他の塞栓性合成物と比較すると、送達が比較的容易でありまた医師が現在利用することが可能な数少ない液体塞栓性合成物の1つである点において有利である。しかし、構成物質であるシアノアクリレートポリマーは、生体分解性であるという点で不利である。さらに、分解産物であるホルムアルデヒドは、近隣組織に対する毒性が高い。Vintersらによる「The histotoxicity of cyanoacrylate:A selective review」(Neuroradiology,1985;27;279〜291)を参照されたい。シアノアクリレート材料の別の不利点としては、身体組織およびカテーテル先端にポリマーが付着する点がある。そのため、医師がシアノアクリレート塞栓性合成物の注入後速やかにカテーテルを撤去しないと、シアノアクリレートおよびカテーテルが組織(例えば、血管)に付着する虞れが出る。
【0007】
別の種類の液体塞栓性合成物として、1980年代後半に発明された促進的材料がある。Sugawaraらによる「Experimental investigations concerning a new liquid embolization method:Combined administration of ethanol−estrogen and polyvinyl acetate」(Neuro.Med.Chir.(Tokyo)1993;33:71−76)、Takiらによる「A new liquid material for embolization ofarterio−venous malformations」(AJNR 1990;11:163〜168)、Mandaiらによる「Direct thrombosis of aneurysms with cellulous acetate polymer:Part I:Results of thrombosis in experimental aneurysms」(J.Neurosurgery 1992;77:497〜500)を参照されたい。これらの材料は、シアノアクリレート材料の場合よりも、人工塞栓を形成する際に異なる機構を用いる。シアノアクリレート接着剤は、単量であり、血液と接触すると高速重合する。一方、促進的材料は、血液と接触すると凝集体中に沈殿する事前重合鎖である。
【0008】
沈殿方法において、血液と混和性の溶媒中にポリマーを溶解させる。この溶媒は、血液と接触すると、希釈されて、不水溶性ポリマーが沈殿する。理想的には、この沈殿物は固体塊を形成し、これにより血管を閉塞させる。このような様式で用いられる第1のこのような促進的材料は、ポリ酢酸ビニル(PVAc)であった。また、100%ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解されたポリ(エチレンコビニルアルコール)(EVAL)および酢酸セルロース(CA)も、臨床手順において用いられている。Takiらによる「A new liquid material for embolization of arteriovenous malformations」(AJNR1990;11:163−168)およびMandaiらによる「Direct thrombosis of aneurysms with cellulose polymer:Part 1:Results of thrombosis in experimental aneurysm」(J.Neurosurgery1992;77:497〜500)を参照されたい。例えばエタノール中において部分加水分解されたポリ酢酸ビニルもまた、この種類の利用可能なものの1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の塞栓治療法はある程度成功しているが、未だ改良が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は概して、身体内腔を閉塞させる方法、合成物(混合物)および機器に関する。本発明は、多成分の液体塞栓合成物を身体内腔中に堆積させさる工程と、上記塞栓合成物を用いて、身体内腔中の標的部位を閉塞させるように治療を行う工程とを含む。
【0011】
本発明の塞栓合成物は、通常、身体内腔中の標的部位において、生体内で架橋および重合する。従来の塞栓合成物とは対照的に、本発明の塞栓合成物は、標的部位の環境から独立して重合し、重合を開始するのに外部のトリガーメカニズムを必要としない。
【0012】
塞栓合成物の放射線不透過性は、放射線不透過性物質(例えば、水性ヨウ化造影剤液体または不溶性放射線不透過性材料)を付加することにより、必要に応じて達成することができる。移植後に塞栓合成物がその放射線不透過性を保持すると望ましい場合が多いため、比較的不溶性の放射線不透過性化剤(例えば、硫酸バリウムまたはタンタル粉)を用いるのが好適である。例えば、タンタルを用いる場合、タンタルを塞栓合成物の総重量の約20〜約50パーセントで設けることができる。放射線不透過性材料を他のパーセント率で提供してもよく、本発明は、この好適な範囲に限定されないことは明かである。
【0013】
この塞栓合成物はまた、必要に応じて治療薬を含んでもよい。治療薬は様々な様式で塞栓合成物に付加してよいが、典型的には塞栓合成物の主鎖に結合させてもよいし、あるいは塞栓合成物中に混合してもよい。
【0014】
この塞栓合成物は典型的には、身体内腔中への送達時においては第1の粘度を有し、材料の硬化が開始すると徐々に上昇する粘度を有する。塞栓合成物が実質的に硬化した後、この塞栓合成物は典型的には生体内で固体材料またはゲル状材料となる。例えば、この塞栓合成物の硬化時間は約5秒〜および約3分であればよいが、塞栓合成物にさらなる成分を追加するかまたは塞栓合成物の成分比を変更することにより、この硬化時間を任意の所望の硬化時間に調節してもよい。
【0015】
塞栓合成物の送達または個々の成分の送達は、カテーテルまたは注射器を用いて実施することができる。これらの個々の成分は、生体外または生体内で混合すればよい。塞栓合成物の送達の間、塞栓合成物を身体内腔中で堆積させる前に、身体内腔中を流れる体液の流れを低減してもよい。例えば、体液の流れを低減する工程は、身体内腔中の閉塞バルーンを膨張させる工程を含んでもよい。
【0016】
本発明の塞栓合成物は典型的には、2つ以上の混和性化学成分を含む。これら2つ以上の混和性化学成分は、相互作用し、生体内で重合する。本発明と用いることが可能ないくつかの例示的塞栓合成物は、マイケル付加ポリマーのファミリ中のものである。
【0017】
一実施形態において、塞栓溶液は、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)およびペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオン酸)(QT)を含む。塞栓合成物のPEGDA成分のいくつかの有用な実施形態は、約700から約800の分子量を有し、送達の間の塞栓合成物の粘度は、硬化前において約0.005から約3Pa・s(約5から約3000センチポイズ)であればよい。
【0018】
このような実施形態において、PEGDAおよびQTは、多様な異なる質量比で提供することができる。PEGDA対QTの1つの好適な質量比としては、PEGDGAの分子量が745である場合、約2対1から約3対1の間であり、約3対1が好適である。このような比率は本質的ではないが、高レベルの架橋を提供し、塞栓合成物に所望の特性を提供する。
【0019】
生理学的に受容可能な緩衝液(例えば、グリシルグリシン)は、所望の処方を得るためのPEGDAおよびQTの混合物と混合すればよく、その際、緩衝液のpHを制御して、塞栓合成物のpHを制御し、また塞栓合成物の残りの成分のpH効果を調節する。必要に応じて、塞栓合成物の粘度を下げるために、塞栓合成物中に塩類液を追加してもよい。
【0020】
上述したように、緩衝液をPEGDAおよびQTと混合する前に、必要に応じてこれらの成分のうち任意の成分に放射線不透過性物質を追加してもよい。放射線不透過性物質は、不溶性であってもよく、あるいは溶性であってもよい。放射線不透過性物質は、例えば硫酸バリウム、タンタル、またはヨウ化造影剤を挙げられるが、これらに限定されない。放射線不透過性物質は、例えば、塞栓合成物の約20〜約50重量パーセントの範囲で提供すればよい。塞栓合成物は、懸濁液、混合物、または塞栓合成物の成分の1つと化学結合されたものとして塞栓合成物中に含まれた治療薬を含んでもよい。この治療薬は、主として塞栓合成物の主鎖に結合され、好適には塞栓合成物のPEG主鎖またはアームに結合される。
【0021】
本発明の別の実施形態において、塞栓合成物は、ポリ(酸化プロピレン)ジアクリレート(ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート(PPODA)とも呼ぶ)、およびペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオン酸)(QT)の混合物を含む。生理学的に受容可能な緩衝液(例えば、グリシルグリシン)は、PPODAおよびQTと混合してもよい。上記例と同様に、緩衝液をPPODAおよびQTと混合する前に、これら成分のうち任意の成分に必要に応じて放射線不透過性物質を追加してもよい。我々は、この放射線不透過性物質は不溶性であっても溶性であっても有用であることを発見した。適切な放射線不透過性物質の例をいくつか挙げると、タンタル、硫酸バリウムおよびヨウ化造影剤がある。放射線不透過性物質は、塞栓合成物の約20〜約50重量パーセントの範囲で提供すればよい。放射線不透過性材料は、他の多様なパーセント比率で提供してもよく、本発明は、この好適な範囲に限定されない。必要に応じて、治療薬をPPODA、QT、および/または緩衝液に追加すればよい。この塞栓合成物は、懸濁液、混合物、または塞栓合成物の成分の1つと化学結合されたものとして塞栓合成物中に含まれた治療薬を含んでよい。この治療薬は典型的には、塞栓合成物の主鎖(バックボーン)またはアームに結合され、好適には塞栓剤のPEG主鎖に結合される。必要に応じて、塞栓合成物に塩類液を追加して、未硬化または液体状の塞栓合成物の粘度を低減してもよい。
【0022】
さらに他の実施形態において、塞栓合成物は、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)およびペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオン酸)(QT)の混合物を含んでもよい。生理学的に受容可能な緩衝液(例えば、グリシルグリシン)を必要に応じてETMPTAおよびQTと混合してもよい。緩衝液とETMPTAおよびQTとの混合前に、これら成分のうち任意の成分に溶性または不溶性の放射線不透過性物質を追加してもよい。適切な放射線不透過性物質の例をいくつか挙げると、タンタル、硫酸バリウムおよびヨウ化造影剤がある。放射線不透過性物質は、塞栓合成物の約20〜約50重量パーセントの範囲で提供すればよい。この塞栓合成物は、懸濁液、混合物、または塞栓合成物の成分の1つと化学結合されたものとして塞栓合成物中に含まれた治療薬を含んでもよい。この治療薬は典型的には、塞栓合成物の主鎖またはアームに結合され、好適には塞栓剤のPEG主鎖に結合される。必要に応じて、塞栓合成物の粘度を下げるために、塞栓合成物に塩類液を追加してもよい。
【0023】
さらに、本発明は、身体内腔中に塞栓合成物を堆積させるための用具一式を提供する。この用具一式は、塞栓合成物と、使用方法と、身体内腔にアクセスし、塞栓合成物を当該身体内腔に送達するように構成された送達機器とを含んでよい。
【0024】
上記キットの塞栓合成物は、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ3(メルカプトプロピオン酸)(QT)および生理学的に受容可能な緩衝液を含んでよい。あるいは、上記キットの塞栓合成物は、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)、QT、および生理学的に受容可能な緩衝液、あるいはポリプロピレングリコールジアクリレートまたはポリプロピレンオキシドジアクリレート(PPODA)、QT、および生理学的に受容可能な緩衝液を含んでよい。典型的には、塞栓合成物の各成分は、別個の注射器などの別個の容器中に保持される。
【0025】
送達機器は、血管内的に身体内腔にアクセスするように構成されたカテーテルまたは身体内腔に経皮的にアクセスするように構成された注射器であればよい。
【0026】
上記キットは、本明細書中に記載された方法のうち任意の方法を説明する使用方法をさらに含んでもよい。必要に応じて、上記用具一式は、身体内腔中への送達の前に塞栓合成物の成分を組み合わせるかまたは混合するための装置を含んでもよい。さらに、上記用具一式は、塞栓手順の間に身体内腔を流れる血流を低減するための閉塞アセンブリを含んでもよい。例えば、閉塞アセンブリは、膨張性バルーンの形態をした閉塞部材を含んでもよい。
【0027】
上記用具一式はまた、送達機器、塞栓合成物、および使用方法を包装するのに適した包装体を含んでもよい。例示的容器を挙げると、小袋、トレイ、箱、チューブなどがある。この使用方法は、別の紙または他の媒体上に提供してもよい。必要に応じて、使用方法の全体または一部を包装体上に印刷してもよい。通常は、少なくとも送達機器を滅菌状態で提供する。他のキットコンポーネント(例えば、ガイドワイヤまたは血管内移植片)を設けてもよい。
【0028】
さらに別の局面において、本発明は、組織充填のための合成物および方法を提供する。本明細書中記載された組織のうち任意のものを用いて標的組織を増量することで、標的組織の機能性または外観を支援してもよい。
【0029】
本発明の上記および他の局面は、以下の本発明の詳細な説明を添付の例示的図面と共に見れば、より明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、身体内腔内を流れる流れを遮断または妨害するための塞栓合成物および方法を提供する。上記塞栓合成物は、低粘度液体あるいは高粘度液体またはペーストとして身体内腔中の標的部位に送達することができる。上記塞栓合成物は、硬化開始の際またはその他の際に生体内凝固して固形状またはゲル状の物質を形成するにつれて、徐々に高粘度となることができる。
【0031】
血管内腔および非血管身体内腔双方の塞栓については、多数の臨床応用が存在する。本発明の最も一般的な用途としては、脳動脈瘤の神経的治療、AVMおよびAVF、ならびに子宮筋腫および血管過剰増生腫瘍の周辺的治療(ただし、これらに限定されない)がある。しかし、本発明は、他の用途(例えば、組織充填用途(例えば、多様な臓器または構造の機能支援(例えば、狭窄閉鎖の支援(例えば、括約筋に対する応答能を復活させて大便失禁または尿失禁の治療を行うこと、または、逆流性食道炎(GERD)の治療を行うこと))形成外科用途または再建外科用途における軟組織の増強(例えば、顎部または頬部の再形成)、ヘルニア状態椎間板または変性椎間板の交換または増強、膝部および肘部内部および周囲の多様な嚢への構造追加または交換など))においても等しく適用可能であり、また、多様な血管身体内腔または非血管身体内腔あるいは開口部(例えば、食道、尿生殖器内腔、気管支内腔、胃腸内腔、肝臓内腔、管、動脈瘤、静脈瘤、中隔欠損、瘻孔、卵管など)において等しく適用可能であることが理解されるべきである。さらに、本発明の塞栓合成物は、他のコンポーネント(例えば、血管内移植片、ステント、膨張性インプラント、ファイバー、コイル)と共に用いることが可能であることが、理解されるべきである。本明細書中で教示される塞栓材料は、同時係属中の米国特許出願第10/461,853号(名称:「Inflatable Implant」(Stephensら))において特定されているような他の出願においても用いることが可能である。本明細書中、同文献全体を参考のため援用する。
【0032】
代替的アプローチ(例えば、コイルまたは粒子)と比較すると、液体塞栓合成物は多様な利点を持つ。液体塞栓合成物は、コイルまたは粒子ではアクセスできない血管系エリアに送達させることができ、また、上記塞栓合成物の硬化後の動脈樹(例えば、血管過剰増生腫瘍またはAVM)の一区分の完全な「鋳造」を提供し、これにより、側枝かん流の発展の可能性を低減する。
【0033】
本発明の塞栓合成物は、他の公知の液体塞栓合成物(例えば、ポリマー溶液またはシアノアクリレート(CA))と比較して、複数の利点を有する。第1に、ポリマー溶液(例えば、Micro Therapeutics,Inc.(Irvine、CA)によるOnyX(登録商標))は、沈殿率が制御困難であるため、これにより、動脈瘤嚢、AVMまたは腫瘍の最適以下充填を提供する。これらの材料の硬化は、(例えば、閉塞バルーンによって限定される動脈瘤嚢におけるように)溶媒濃度が局所的に増加した場合に、抑制可能である。本発明の塞栓合成物の硬化速度は、処方プロセスの間に容易に制御可能であり、医師は、多様な臨床状況における要求を満たすように、硬化時間の範囲を決定できる。さらに、本発明の塞栓合成物の硬化は、限定領域(例えば、動脈瘤嚢)中の高濃度の塞栓合成物による悪影響を受けない。さらに、本発明は、沈殿アプローチによって得られたポリマーよりも再疎通し易い硬化後の高密度ポリマー量を提供する。公知のCA技術の場合、送達手順が困難であるため、送達カテーテルが組織層中に膠着するリスクが高く、外科的介入が必要となる。その上、特定のCA技術の場合、生体内崩壊耐性が貧弱であり、閉塞内腔の再疎通が遅延することが分かっている。
【0034】
最後に、他の液体塞栓症アプローチの場合、機械的塞栓作用と、治療薬の局所的送達とを組み合わせる同様の可能性を持っていない。本発明の塞栓合成物を挙げると、PEG主鎖および関連分子構造(例えば、ポリプロピレングリコールおよびエトキシル化トリメチロールプロパン)を含むポリマーがあり、これらの材料は、薬剤送達剤として用いるのに適している。これらの材料に対して広範囲の活性治療薬を結合させるための公知の方法が存在する。さらにまた、治療薬を塞栓症材料中に混合した後、拡散によって放出してもよい。
【0035】
本発明の塞栓合成物は、従来の塞栓合成物によって提供されない所望の機械的特性を提供することができる。例えば、硬化前に、液体塞栓合成物に、高い生体適合性と、上記塞栓合成物の送達環境(例えば、血液または他の体液)から独立した制御可能溶解度とを持たせることができる。さらに、上記塞栓合成物は典型的には、0.1Pa・s(100センチポイズ)以上の粘度、制御可能な疎水性、およびその環境に対する低硬化時間感受性を有する。
【0036】
硬化後、上記塞栓合成物は、その高生体適合性を維持し、血液中で安定する。硬化後の塞栓合成物は、所望の機械的特性として、例えば、1.15〜1.4を超える値の特定の重力、約2.07×10〜約3.45×10Pa(約30〜約500psi)の弾性率、約25%〜約100%以上の破壊歪み、約0〜約200%以上の硬化時の体積変化率、および5%未満〜約60%よりも高い値の含水率を提供する。上述した塞栓合成物の硬化前特性および硬化後特性は、例示に過ぎず、本発明の塞栓合成物の範囲を限定するものではないことが理解される。本発明の塞栓合成物の成分は、他の硬化前および硬化後機械的特性を所望に提供するように、改変することが可能である。
【0037】
本発明と共に用いることが可能な適切な塞栓合成物の1つの種類は、2つ以上の成分の重合が可能な条件下(強力な求核試薬と、共役不飽和結合との間の自己選択的反応、または、求核付加反応による共役不飽和基を通じて重合が発生する条件)で2つ以上の成分を組み合わせることにより形成された、マイケル付加ポリマーのファミリである。このようなポリマーおよびその反応物については、国際出願公開第00/44808号(名称:「Biomaterials Formed by Nucleophilic Addition Reaction to Conjugated Unsaturated Groups」、Hubbellに付与)、国際出願公開第01/92584号(名称「Conjugate Addition Reactions for the Controlled Delivery of Pharmaceutically Active Compounds」、Hubbellらに付与)、米国特許出願番号第09/496,231号(Hubbellらに付与、出願日:2000年2月1日、名称:「Biomaterials Formed by Nucleophilic Addition Reaction to Conjugated Unsaturated Groups」)、および米国特許出願番号第09/586,937号(Hubbellらに付与、出願日:2000年6月2日、名称:「Conjugate Addition Reactions for the Controlled Delivery of Pharmaceutically Active Compounds」)に記載がある。本明細書中、これらの出願および公開文献それぞれの全体を参考のため援用する。
【0038】
これらの参考文献中に教示されているように、例えば、これらの成分は、モノマーまたはポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン−co−アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン−co−ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン−co−マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)、またはポリ(エチレンオキシド)−co−ポリ(酸化プロピレン))ブロック共重合体であればよい。これらの成分は、強力な求核試薬あるいは共役不飽和基または共役不飽和結合を含むように、官能化すればよい。この強力な求核試薬は、チオールまたはチオールを含む基であればよく、ここで、共役不飽和基は、アクリレート、アクリルアミド、キノン、またはビニルピリジニウム(例えば、2−または4−ビニルピリジニウム)であればよい。これらの成分の機能性は、2、3以上であればよい。
【0039】
本発明において有用なマイケル付加ポリマーの特定の実施形態は、官能化ポリマー(例えば、アクリレートポリマー、およびマルチチオール求核試薬)の反応によって形成されたものである。これらの材料は、液体形態または半流動体形態で送達することができ、その後生体内架橋でき、これにより、標的身体内腔中に、「硬化した」固形状または半固形状ゲルまたはゲル状ポリマーを形成する。
【0040】
ポリマーまたはモノマーおよび求核試薬成分に、必要に応じて緩衝液を追加してもよい。緩衝液のpHは、塞栓合成物に適した硬化時間が得られるように選択すればよい。あるいは、身体内腔などの標的部位に塞栓合成物を送達できるだけの十分な時間をユーザに提供できるように、緩衝液の強度、量およびpH、量またはpHのいずれかを調節することによって硬化時間の調節を行っても便利である。
【0041】
透視および/またはその後の画像診断法(例えば、コンピュータ断層撮影(CT))下での塞栓合成物の視覚化を容易化するために、放射線不透過性物質を追加してもよい。適切な放射線不透過性物質を上げると、比較的不溶性の材料(例えば、硫酸バリウムおよびタンタル)および溶性材料(例えば、ヨウ化造影剤)がある。例えば、不透過性の散逸遅延(これは、タンタルの場合、水および血液などの流体中での溶解度が硫酸バリウムの溶解度とよりも低いために発生する)を低減するための放射線不透過性物質として、タンタル(典型的には、約20〜約50重量パーセントの範囲、好適には完全塞栓合成物の総重量の約30重量パーセント)を用いることが望ましいことが、本出願人らによって判明した。
【0042】
出願人らによれば、塞栓用途において、未硬化材料の粘度および疎水性を増加させることが望ましく、これにより、塞栓合成物から塩類液または水分を低減または除去することにより、遠位血管床の意図しない塞栓を生じること無く配置制御を容易化することが分かっている。硬化前に塩類液および水分を低減すると、身体内腔中への送達に最適な粘度が得られ、硬化したポリマーの崩壊耐性が最大化され、かつ、塞栓合成物の凝集性および疎水性が最大化されることが分かる。
【0043】
本発明の低粘度処方の塞栓合成物を用いて、上記合成物硬化前に、上記合成物を腫瘍血管床または他の標的塞栓部位に貫通させることができる。塞栓合成物が標的塞栓部位を越えて流れるのを回避するために、閉塞バルーン(例えば、Swan−Ganz二重内腔カテーテルまたはMicrotherapeutics,Inc.(Irvine、CA)製のEQUINOX(登録商標)閉塞バルーンカテーテル、あるいは他の付属フロー遮断機器(例えば、ブラシ)または他の妨害機器)を用いてもよく、これらのうちいくつかは、カテーテルまたはステント(例えば、閉塞すべき脳動脈瘤を横断して配置される場合があるもの)上に配置してもよい。
【0044】
これらの合成物の高粘度処方および/またはチキソトロピー性(ずり流動化)処方を用いて、場合によっては実質的な血流または他の力の存在下においても、送達カテーテル近隣へのフローを限定し、かつ、上記塞栓合成物が送達先の近隣で残留する傾向を容易化することができる。充填剤および/またはチキソトロピー性剤(例えば、ヒュームドシリカ)を追加することにより、粘度特性および/またはチキソトロピー特性を増加させることができる。充填剤の追加は塞栓合成物の形成中いつでも行ってよいが、典型的にはこれら成分のうち一成分で前負荷され、好適にはモノマー/ポリマーまたは緩衝液で前負荷される。
【0045】
有用な添加剤の例をいくつか挙げると、部分水和または完全水和してチキソトロピー性充填剤を形成するソルビトールまたはヒュームドシリカがある(ただし、これらに限定されない)。これらのゲルの所望の粘度の範囲は、低粘度処方(例えば、血管過剰増生腫瘍中の組織中への深い浸透のために用いられ得るもの)の場合の約5センチポイズ(cP)から高粘度処方(例えば、硬化プロセス中に塞栓合成物に対する流れ妨害が発生する可能性を最小化しつつ、側壁脳動脈瘤を治療するために用いられ得るもの)の場合の約1000cP以上である。理解可能なように、他のゲルの実施形態においてより高いかまたは低い粘度を用いてもよく、本発明は、上述したような粘度に限定されない。
【0046】
必要に応じて、本発明の塞栓合成物を用いて、薬剤を標的部位に送達させることができる。多様な方法を用いて、複数の薬剤を塞栓合成物中に混合するか、または塞栓合成物に付着させることができる。塞栓合成物に薬剤を付着させるためのいくつかの例示的薬剤および方法について、J.M.Harrisによる「Laboratory Synthesis of Polyethylene Glycol Derivatives」(Journal of Macromolecular Science−Reviews in Macromolecular Chemistry、vol.C−25、No.3、p325〜373、1985年1月1日)、J.M.Harris、Ed.による「Biomedical and Biotechnical Applications of Poly(Ethylene Glycol)Chemistry」(Plenum、New York、p.1〜14、1992)、Greenwaldらによる「Highly Water Soluble Taxol Derivatives:7−Polyethylene Glycol Carbamates and Carbonates」(J.Org.Chem.、vol.60、No.2、p.331〜336、1995)、Matsushimaらによる「Modification of E.Coli Asparaginase with 2、4−Bis(O−Methoxy Polyethylene Glycol)−6−Chloro−S−Triazine(Activated PEG.sub.2)、Disapperance of Binding Ability Towards Anti−Serum and Retention of Enzymic Activity」(Chemistry Letters、p.773〜776、1980)、およびNathanらによる「Copolymers of Lysine and Polyethylene Glycol:A New Family of Functionalized Drug Carriers」(Bioconjugate Chem.4、54〜62(1993))に記載がある。本明細書中、これらの文献それぞれを参考のため援用する。
【0047】
本発明の塞栓合成物の3つの(またはそれ以上の)成分は、任意の数の様式で混合することができる。このような様式の例として、手動、2つ以上の注射器、または混合装置(図示せず)がある。図1A〜図1Cは、本発明の塞栓合成物を形成する際に用いることが可能ないくつかの方法を示す。図1A〜図1Cは単なる例であり、本発明は、このような方法に限定されないことはいうまでもない。
【0048】
ここで図1Aを参照して、3つの化学成分(モノマーまたはポリマー、求核試薬、およびバッファ)を、滅菌注射器20、30および40中に別個に包装すればよい。これら注射器20、30および40はそれぞれ、混合装置に連結することができ、これら成分はそれぞれ、完全混合することができる。その後、得られた3種類の成分からなる液体塞栓合成物は、身体内腔中の標的部位中に導入可能な状態となる。なぜならば、この液体塞栓合成物は、導入後の数分間または他の所望の硬化時間以内において、所望の特性を持つゲル状に硬化するからである。
【0049】
図1Bに示す別の方法において、これらの成分のうち2つの成分(例えば、QTおよびバッファ(典型的にはグリシルグリシン))を、典型的には各注射器20および30間において十分な時間(例えば、約2分間)をかけて最初に混合する。その後、得られた2成分混合物と、注射器40から出された第3の成分(例えば、マイケル付加ポリマー(例えば、PEGDA))とを、混合が確実に適切に行われかつ塞栓合成物が確実に形成されるような時間(例えば、約3分間)にわたり、完全混合する。その後、その結果得られた3成分混合物は、身体内腔中の標的部位中に導入可能な状態となる。なぜならば、この3成分混合物は、導入後の数分間または他の所望の硬化時間以内において、所望の特性を持つゲル状に硬化するからである。
【0050】
図1Cに示す方法において、これらの成分のうち2つの成分(例えば、QTおよびバッファ)を組み合わせる(図1Bの例と異なる様式で混合される)。図1Cの例において、「組み合わされた」という用語は、注射器20中の内容物を注射器30中に移動させる(かまたはその逆)行為を示し、その際、撹拌は比較的少なくする(例えば、「ピンポン」)ようにし、これにより、得られた組み合わせが不必要に均質な混合物または均質に近い混合物にならないようにする。これら2つの成分を組み合わせた後、これらの組み合わされた成分と、第3の成分(例えば、モノマーまたはポリマー)とを、混合が確実に適切に行われかつ塞栓合成物が確実に形成されるような時間(例えば、約3分間)にわたり、完全混合する。その後、その結果得られた3成分混合物は、身体内腔中の標的部位中に導入可能な状態となる。この結果生じる3成分混合物は、導入後の数分間または他の所望の硬化時間以内において、所望の特性を持つゲル状に硬化する。
【0051】
上記塞栓合成物の硬化時間は、当該臨床設定の要求に従って処方、混合手順および他の変数を調節することにより、個別設定することが可能である。膨張性血管内移植片を充填する特定の用途におけるこれらの材料に関する適切な送達手順の詳細について、以下の文献中に議論が記載されている(同時係属中の米国特許第6,761,733号(Chobotovらに付与、名称:「Delivery Systems and Methods for Bifurcated Endovascular Graft」)、および公開米国特許出願番号第10/327,711号(Chobotovらに付与))。本明細書中、これらの文献の開示内容全てを参考のため援用する。出願者らは、処方を大幅に変更すること無く、これらのゲルの硬化後の機械的特性を容易に個別変更できることを発見した。例えば、これらのゲルの弾性率は、何万〜何十万Pa(何十psiから何百psi)の範囲に設定することができる。というのも、上述した処方の弾性率は、約1.21×10〜約1.72×10Pa(約175〜約250psi)であり、伸び降伏は、約30to約50パーセントであるからである。
【0052】
この塞栓用途に適した1つの特定の例示的材料としては、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)をペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオン酸)(QT)と混合することによって形成されるマイケル付加ポリマーがある。生理学的に受容可能な緩衝液(例えば、グリシルグリシン、N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N−[2−エタンスルホン酸](HEPES)または他の適切な緩衝液)を必要に応じて追加して、固化時間および/または硬化前の液体成分の粘度を調節してもよい。
【0053】
特定の例として、PEGDAを用いた低粘度処方塞栓合成物を、分子量(MW)約745およびPEGDA対QTの質量比を約2〜1から約3〜1の間で用いると特に適切であり、その際、約10重量パーセント〜約25重量パーセントの400ミリモルグリシルグリシンバッファおよび約1分〜約3分間の硬化時間(好適には、約1分〜約2分間)を用いる。図1A〜図1Cに示すように、この処方は、3つの成分PEGDA、QTおよびグリシルグリシンそれぞれが別個の容器(例えば、注射器20、30および40)それぞれの中で包装された系10として説明することができる。約30重量パーセントのタンタル粉を、これらの成分のうち任意の成分に必要に応じて追加してもよい。一実施形態において、このタンタル粉の平均粒子サイズは約5ミクロン未満である。他の実施形態において、他の放射線不透過性マーカあるいは平均粒子サイズがより大きいかまたは小さいタンタル粉を用いてもよい。これらの要求を満たすタンタル粉は、多数の商業的供給源(例えば、Sigma−Aldrich Inc.,(セントルイス、MO).)から調達可能である。
【0054】
図2は、図1Cと関連して身体内腔中への送達について上述した塞栓合成物を調製するための例示的方法を示す。先ず、図1Cに関連して上述した材料全てを1つの注射器中に交互に移動させることにより、PEGDAおよびQTを組み合わせる(工程60)。必要に応じて、放射線不透過性物質(例えば、タンタルまたは硫酸バリウム)をこれらの成分のうち1つの成分に前負荷してもよいし、あるいは、PEDGAおよびQTの混合物に追加してもよい(工程65)。
【0055】
その後、2つの注射器を接続することで、PEGDAおよびQTの組み合わせをグリシルグリシンバッファ(および放射線不透過性物質)と混合すればよい(工程70)。一実施形態において、3方向アダプタを介してこれら2つの注射器を接続し、1つの注射器からその他の注射器へと材料を約15〜約30秒間相互に「ピンポン」することで、これらの成分を混合する。これらの成分材料の処方が異なる場合、混合時間も異なる場合がある。これらの成分を十分な時間混合した後、これら3成分の混合物の完成直後、上記塞栓合成物を、身体内腔中の標的部位中に注入することができる(工程80)。管腔が約0.025’’未満のミクロカテーテルを通じて材料を注入する場合、材料を1ccずつ増やしながらこの材料を1cc注射器中に運搬することで、操作者の労力を低減するとよい。上述したように、身体内腔80などの標的部位に塞栓合成物を送達できるだけの十分な時間をユーザに提供できるように、緩衝液の強度、量および/またはpHのいずれかを調節することによって硬化時間の調節を行ってもよい。上記例はあくまで例示的なものであり、塞栓合成物を混合するために他の多様な従来の方法および専用方法を用いてもよいことはいうまでもない。さらに、上記の塞栓合成物の形成方法を用いて、本明細書中に記載された塞栓合成物のうち任意のものを混合することが可能である。
【0056】
図3は、本発明の別の種類の化学塞栓合成物の一例を示す。この例において、上述したように、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)をQTと混合することにより、ポリマーを形成する(工程90)。詳細には、分子量が488.7であるQTおよび分子量が956のETMPTAを用いる場合、QT/ETMPTA質量比を約0.38〜0.50にすると有用である。グリシルグリシンは、所望の硬化時間を達成するようにpHを調節すると、約10重量パーセント〜約50重量パーセントの混合物を示すはずである。
【0057】
上記と同様に、PEGDA−QT塞栓合成物について上述したように、必要に応じて水性ヨウ化造影剤液体または不溶性放射線不透過性材料(例えば、硫酸バリウムまたはタンタル粉)を追加することにより、塞栓合成物の放射線不透過性を達成することができる。この放射線不透過性物質に、これらの成分のうち任意の成分を前負荷してもよいし、あるいは、3つの成分と混合してもよい(工程100)。
【0058】
緩衝液を用いる場合、当該緩衝液をETMPTAおよびQTの混合物と混合して、塞栓合成物を形成することができる(工程110)。この塞栓合成物に適した1つの緩衝液として、所望の硬化時間が得られるようにpHを調節したグリシルグリシンがある。バッファpHをより高くすると、架橋反応がより高速になり、そのため、硬化時間が短くなる。これらの成分を混合した後、塞栓合成物を標的部位(例えば、身体内腔)に送達することが可能となる(工程120)。
【0059】
図4は、本発明のさらに別の種類の化学塞栓合成物の一例を示す。工程130において、PPODA(あるいは、ポリプロピレングリコールジアクリレート)をQTと混合することにより、ポリマー前駆物質を形成する。得られる塞栓合成物に対して放射線不透過性を付与するために、必要に応じて放射線不透過性物質をこれらの成分のうち任意の成分を前負荷してもよいし、あるいは、上記塞栓合成物に付加してもよい(工程140)。その後、緩衝液(例えば、グリシルグリシン)をPPODAおよびQTの混合物と混合して、上述したように塞栓合成物を形成する(工程150)。その後、塞栓合成物を標的部位(例えば、身体内腔)中に注入すればよい(工程160)。
【0060】
この材料の潜在的有利性として、PPODAはPEGDAまたはETMPTAよりもより高疎水性であり、所与の粘度において血液中に分散する傾向が低く、そのため、意図しない遠位塞栓を生じる可能性がより低い点がある。別の潜在的有利性としては、PPODAを用いた塞栓症材料の場合、PEGDAまたはETMPTAよりも弾性率が高いため、組織充填等の用途(例えば、より硬い材料が望まれる場合)において有用であり得る。特に有用な処方として、PPODA(例えば、Aldrich45,502,4(Sigma−Aldrich,Inc.,(セントルイス、MO)製)(分子量がおよそ900であり、QTの分子量が488.7であり、前記QT/PPODA質量比が約0.25〜0.40であり、混合物全体の約5重量パーセント〜40重量パーセントとなるようにグリシルグリシンを付加))がある。他のバッファを用いて、所望の硬化時間を達成するようにpHを調節してもよい。
【0061】
本発明の塞栓合成物は、腔内カテーテルを介して所望の塞栓部位に送達させることが可能である。あるいは、この塞栓合成物は、針または他の外部穿刺機器を介して送達することも可能である。適切なカテーテルの例をいくつか挙げると、ルーメンが約0.014’’よりも大きいカテーテル(例えば、REGATTA(登録商標)、FASTRACKER(登録商標)、PROWLER(登録商標)、TURBOTRACKER(登録商標)、TRACKER(登録商標)、EXCEL(登録商標)、RAPID TRANSIT(登録商標)、RENEGADE(登録商標)、REBAR(登録商標)、MASS TRANSIT(登録商標)、HI−FLO(登録商標)、GT LEGGIERO(登録商標)、およびEMBOCATH(登録商標))などの製品がある。
【0062】
本発明の塞栓合成物を送達させるためのカテーテルの所望の特性を挙げると、塞栓対象となる標的部位中の所望のポイントにおけるカテーテル先端の配置を容易化する特性(例えば、非侵襲的な可撓性先端、押圧可能で、トルク付加可能でありかつ追跡可能なシャフト、適切な放射線不透過性など)がある。ここで開示される塞栓合成物は概して、臨床用途において広範囲のカテーテルと適合し、また、特殊なカテーテル材料の使用(特定の代替的塞栓症技術(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO))を用いた技術の使用)も必要としない。塞栓合成物を身体内腔中に注入するのに必要な作業を最小限にするために、カテーテル長さは、塞栓標的部位に到達できる長さでかつできるだけ短い長さを選択すべきである。
【0063】
上述したような材料は典型的には、使用直前に混合される。この混合は、例えば3方向栓によって接続された2本の注射器中で交互に材料を行き交わせることにより、1分以内で容易に達成可能である。混合量を例えば5mlよりも多い量が要望されている場合、共同所有されている、同時係属中の米国特許出願番号第10/658,074号(名称「Fluid Mixing Apparatus and Method」、出願日:2003年9月8日)に記載されているような混合機器を用いて、混合を達成すればよい。本明細書中において、同文献の開示内容全体を参考のため援用する。しかし、所望ならば、塞栓合成物の硬化時間が長くなるように塞栓合成物の成分を選択してもよいことが理解される。その結果、ユーザは、塞栓合成物成分を事前混合することで、塞栓合成物を標的部位中に送達させる時間を長くすることができる。
【0064】
より多量の塞栓合成物が必要となる多くの状況において、複数のキットそれぞれから本発明の材料を徐々に混合および注入して、各注入後に血管造影を行って、治療の増分進展を評価し、さらなる塞栓合成物の配置が可能な場所が有ればその場所を強調表示すると有用である場合がある。
【0065】
上述した、塞栓合成物の粘度または補助機器(例えば、閉塞バルーン)のいずれかを用いて、塞栓合成物の意図しない遠位フローを回避するようなアプローチを用いると、硬化時間を個別変更して、(混合後でかつ硬化が同時発生する混合物の粘度増加に起因して送達が困難になるポイントまで進展する前に)臨床医が当該材料を標的塞栓部位に送達させるための十分な時間を提供することができる。このアプローチの有利点は、送達システムが簡単である点と、より多量の塞栓合成物を容易に送達可能である点である。
【0066】
本発明の塞栓合成物の有用な量としては、小規模神経血管動脈瘤用途向けの場合に少量の約0.5ml〜約1.0mlから、ステントグラフトエンドリークの治療向けの場合の約30mlまでにわたる。さらには、例えばステントグラフトエンドリークの治療の場合(例えば、動脈瘤嚢全体を塞栓合成物で充填する場合(例えば、AAAの場合))、100ml以上の量を用いてもよい。塞栓合成物が放射線不透過性である場合、治療目的を達成するために塞栓合成物をさらに多量にする場合にその必要性および標的位置を評価するために用いられる血管造影法を用いて、材料を段階的に堆積させてもよい。
【0067】
あるいは、上述したように成分を生体外で混合する代わりに、送達システムの遠位端部に配置された混合機器(例えば、静的ミキサー)に当該成分を別個のカテーテルルーメンを通じて送達することにより、塞栓合成物の成分を使用時に混合してもよい。いくつかの例示的静的ミキサーは、ConProTec Inc.(セーレム、ニューハンプシャー)によってSTATOMIX(登録商標)の名称で製造されている。ポリマー塞栓合成物の成分は、塞栓合成物の別個の成分をカテーテルを通じて押圧した直後に塞栓対象となる標的部位に送達して、この混合機器中で混合すればよい。
【0068】
このような場合、静的ミキサーを、図1D中に模式的に示すように例えば送達カテーテルの近位端部に配置すればよい。この例示的構成は、例えば、(少量の塞栓材料を当該部位に徐々に注入した後、その中に造影剤を注入し、これにより臨床医が塞栓材料の送達経路および送達範囲(この例では、AVMの血管網)を決定できるようにすると有用である)AVMを閉塞する際に、多数の臨床有利点を持つ。このように、必要なだけの塞栓材料が用いられたと臨床医が満足するまで塞栓材料および造影剤を交互に注入するパターンを繰り返すと、臨床結果をより安全かつより有効にすることができる。
【0069】
図1Dの模式的かつ例示的構成において、システム12が塞栓合成物成分のソース(この場合、容器または注射器35および45)を含んで図示されている。この例において、注射器35の内容物は、2つの成分(例えば、QTおよびバッファ(典型的にはグリシルグリシン))を含み、注射器45は、第3の成分(例えば、マイケル付加ポリマー(例えば、PEGDA))を含む。注射器35および45は、4方向バルブ44に接続される。4方向バルブ44も、放射線不透過性造影剤(例えば、血管造影を行う際に用いられる造影剤)のソース50に接続される。バルブ44の出力は、静的ミキサー60に到達する。静的ミキサー60は、送達カテーテル(図示せず)に接続される。本明細書中記載されるような、多方向バルブに接続された3個以上の塞栓合成物成分容器または注射器を用いてもよい。
【0070】
近端部技術の静的ミキサー装置の図1Dの実施形態を例えばAVMの治療目的に用いる方法の一例において、臨床医は、従来の技術を用いて、塞栓合成物を導入すべき場所であるAVM部位へ接近する送達カテーテルを得る。バルブ44の設定は、ソース50からのいかなる造影剤もミキサー60中に導入されないようにしつつ、注射器35および45のみの内容物がバルブ44を通じてミキサー60に運搬できるように、設定される。注射器35および45の内容物は、静的ミキサー60を通じて送達カテーテル中に運搬可能であり、その後、身体中の標的部位中に運搬可能である。
【0071】
次に、バルブ44は、(注射器35または45からのいかなる材料も導入されないようにしつつ)ソース50からの造影剤だけがミキサー60を通過して送達カテーテルを通じてAVM中に導入されるように、調節すればよい。このモードにおいて、混合作業は不要であるため、静的ミキサー60は、単に導管として機能する。この機能により、臨床医は、当該AVM部位を調査して、特に、臨床的に適切な量の塞栓合成物がAVM中に導入されている否か、AVM血管系を通じた上記合成物の経路、およびさらなる塞栓合成物をAVM中に注入する場合にその注入量を決定することができる。このような様式で造影剤を用いると、バルブ44から遠位にあるシステム12中に塞栓合成物が残っている場合に、この合成物が硬化可能状態になるか、または、臨床医が必要と判断した場合に後述するようにミキサー60および送達カテーテルがさらなる塞栓症材料を導入できるのを遮断する前に、その残留量が確実に分かるという、さらなる利点が得られる。
【0072】
臨床医が、さらなる塞栓症材料をAVM中に導入する必要があると判断した場合、バルブ44をその元の位置に切り換えて、容器35および45(または新規容器)からさらなる材料を上述したようにAVM中に導入した後、やはり上述したようにバルブ44の位置を調節して、バルブ44、ミキサー60および送達カテーテルを通じた造影剤のAVM中への注入のみが行われるようにする。このような、既知量の塞栓症材料の標的部位中への注入後に標的部位中に造影剤を注入を交互に行うプロセスは、所望の臨床結果が得られるように、必要な回数だけ繰り返せばよい。
【0073】
図1Dの構成は多数の様式のうちの1つに過ぎず、本明細書中に記載されたような身体内腔の標的部位を閉塞させるためのこの処理技術が達成可能であることが理解される。よって、本発明は、この特定の構成に限定されない。
【0074】
一貫した硬化時間でゲルを形成する場合、生体内混合が一般的に適していると考えられる。不適切な混合は典型的には、混合物がゲル状に凝固しないことで判明する。このような混合物がゲル状に凝固しない事態は、通常、複数の当該成分を維持するだけの十分な架橋形成が行われる前に親水性成分および疎水性成分が分離したり、所与の処方に対して硬化時間が大幅に変化したり、かつ/または、架橋時の非均質性および/または最適以下のポリマー形態に起因するゲル分解速度が上昇したりする場合に、発生する。生体内混合は、臨床医による事前混合を必要とせず、硬化時間が非常に短くてすむ(例えば、約5秒〜約60秒)ため、材料が送達システムの端部を越えて遠方に流れる事態を回避することができる。また、この生体内混合から、塞栓目的のために現在広範囲に用いられているn−ブチルシアノアクリレート材料の硬化挙動と同様の硬化挙動を示す材料が得られる。
【0075】
上述したように、上述したような塞栓合成物は、治療薬により、特定の病状を治療する際のその有効性を改善することができる。このような実施形態において、この塞栓合成物は、内腔中を通る流体流れを低減するかまたは遮断するための機械的妨害としての機能と、標的塞栓部位の当該領域への局所的送達のための治療薬の収納場所としての機能とを両方行う。この場合、上記塞栓合成物を配置し、上述したように硬化させる。その後、当該治療薬を放出させ、血栓症を促進して、上記塞栓合成物周囲の漏出のリスクを低減し、かつ、/または、当該機器周囲の組織に対する他の治療的有利点が得られるように、当該治療薬を選択することができる。
【0076】
この2機能の実施形態において、最初に塞栓合成物の量全体中に治療薬を含ませ、この治療薬を、懸濁液として含ませるか、混合物として含ませるか、または、上記塞栓合成物の成分の1つに化学結合させればよい。この治療薬は、上記塞栓合成物の成分の主鎖またはアームに結合させればよい。例えば、治療薬をPEG主鎖に結合させることができる。目的速度での送達のために治療薬をPEGに結合させる方法が公知である。治療薬は、製造時に当該成分のうちの1つと混合するか、または、別個に保存し、使用前に他のポリマー成分と混合すればよい。
【0077】
この2機能の実施形態の特に有用な用途として、腫瘍治療がある。このような場合、使用前に、液体ポリマーに化学治療薬を結合させるか、または、液体ポリマーを化学治療薬と混合する。その後、当該腫瘍に養分を供給している主要動脈中に、カテーテルを介して塞栓合成物を送達する。その後、上記塞栓合成物は、当該腫瘍の血管系全体中に流れ、固形化する際に本来的に「鋳造物」を形成し、これにより、(微粒子的な塞栓症技術が用いられた場合に発生し得るような)当該腫瘍が再疎通する可能性が極めて低くなる。配置後のポリマーは、化学治療薬を当該腫瘍組織内に放出し始め、これにより、組織壊死および/または収縮を向上させる。上記塞栓合成物特性(例えば、粘度およびチキソトロピー)は、当該液体ポリマーの腫瘍の毛細血管床内の通過および静脈循環中への退出を回避するように、選択される。
【0078】
上記塞栓合成物を治療薬と共に用いる1つの例示的用途として、血管過剰増生腫瘍の治療がある。上記塞栓合成物は、(悪性腫瘍の細胞をさらなる標的としてこれらの細胞を殺す)化学治療薬を局所的に送達しつつ、当該腫瘍への血液供給を遮断することにより、当該腫瘍を殺す機能を持つ。候補となる薬剤としては、腫瘍内に送達されると有効性を発揮するものがあり、例えば、従来からの薬剤(例えば、シクロホスファミド、フルオロウラシルおよびメトトレキサート)およびより新規な抗癌剤(例えば、ドキソルビシン、シスプラチン)などがある。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1A】塞栓合成物の別個の成分を混合する方法を模式的に示す図である。
【図1B】塞栓合成物の別個の成分を混合する方法を模式的に示す図である。
【図1C】塞栓合成物の別個の成分を混合する方法を模式的に示す図である。
【図1D】塞栓合成物の別個の成分を混合する方法を模式的に示す図である。
【図2】図1Cと関連して身体内腔中への送達について上述した塞栓合成物を調製するための例示的方法を示す図である。
【図3】本発明の別の種類の化学塞栓合成物を調製するための一方法を示す図である。
【図4】本発明のさらに別の種類の化学塞栓合成物を調整するための一方法を示す図である。
【図5】身体内腔を閉塞させる1つの方法を示す図である。
【図6】血管内移植片周囲のエンドリークを閉塞させるための1つの方法を示す図である。
【図7】動静脈奇形(AVM)を閉塞させるための1つの方法を示す図である。
【図8】本発明のキットを示す図である。
【実施例】
【0080】
本発明の塞栓合成物は、典型的には、身体中の所望の塞栓標的位置に配置されることで、使用される。その後、当該材料は、身体内腔中の流体流れを遮断または低減する。いくつかの特定の例について、以下に説明する。
【0081】
本発明を用いれば、動脈中の血流を閉塞または遮断することができる。図5に示すように、これは、所望の塞栓部位から遠隔位置にある動脈樹中に送達カテーテルを導入し、このカテーテルをガイドワイヤを介して標的部位に前進させることにより、達成することができる。例えば、送達カテーテル160を総大腿動脈に挿入し、内腸骨動脈を閉塞させるためにその先端を配置すべき位置まで送達カテーテル160を進展することができる。その後、上述した複数の混合方法のうち任意の方法を用いて、上記塞栓合成物を混合すればよい。その後、当該液体塞栓症材料を含む注射器165を送達カテーテルに取り付け、当該液体塞栓症材料を透視下で当該内腸骨動脈中に直接注入する。(典型的な場合のように)内腸骨の巣状塞栓が所望される場合、対側大腿骨からのアクセスから総腸骨動脈中に閉塞バルーンカテーテル170を配置し、膨張させることで、当該液体塞栓合成物が硬化している間に当該塞栓部位中への血流を一時的に停止することができる。あるいは、上記塞栓合成物の十分な粘性またはチキソトロピー性の形状を用いて、流れ閉塞を不要とすることができる。
【0082】
本発明の別の用途において、図6に示すように、経腰部針180、シースまたはミクロカテーテル190を、塞栓合成物が充填された腹部大動脈瘤および動脈瘤嚢のsac AS中に直接配置して、大動脈ステントグラフト185が動脈瘤にわたって配置されたときに、当該sacの逆行性かん流(例えば、「II型エンドリーク」)を回避または除去することができる。所望ならば、閉塞部材195を大動脈中に配置して、塞栓手順の間に動脈瘤嚢を通過する血流を遮断することができる。経腰部塞栓に適した多数のキットが市販されている。その一例としては、6 Fr translumbar arteriography puncture kit(Cook Inc.、ブルーミントン、インディアナ)がある。動脈瘤嚢中への塞栓合成物の送達に関するより完全な記載については、同時係属中でありかつ共同所有されている米国特許出願番号第10/691,849(出願日:2003年10月22日)中に発見することができる。本明細書中、同文献の開示内容全体を参考のため援用する。
【0083】
別の例において、本発明を用いて、末梢血管床または神経血管床中のAVMを閉塞することができる。図7に示すように、送達カテーテル200がAVM210への動脈入口に配置され、塞栓合成物がゆっくり注入されて凝固して、AVM中を流れる流れを遮断する。ここでも、当該材料が硬化するまで、AVM中を流れる流れを閉塞させることで、当該材料が意図せずに遠位まで流れるのを回避することが望ましい。あるいは、流入を閉塞する必要無くAVM中に留まるような、より高粘度の処方を用いてもよい。
【0084】
AVMの塞栓のためには、2種類のアプローチを用いることができ、関連付けられた塞栓合成物に対して若干異なる最適条件が存在する。1つのアプローチにおいて、塞栓手順の間にAVM中を流れる血流を(典型的には近位閉塞バルーンの使用を通じて)実質的に低減または停止させる。低粘度塞栓合成物処方は、このアプローチにとって理想的である。なぜならば、低粘度塞栓合成物処方は、ほとんどまたは全てのAVM茎中に容易に流れることができ、再疎通に対して耐性を持つ完全塞栓を提供するからである。粒子塞栓技術を用いた場合、このレベルの塞栓を達成するのは特に困難である。第2のアプローチにおいて、AVM中を流れる血流は、手順中において顕著に限定されず、特定の塞栓合成物がAVM中を流れてしまうことで意図しない遠位塞栓が生じる可能性を低減するために、より高粘度の塞栓合成物処方が好ましい。このアプローチのため、約500cP〜約3000cPの粘度が好ましい。
【0085】
さらに別の例において、本発明を用いて、脳動脈瘤を治療することができる。透視下で小径カテーテルを通じて送達された塞栓合成物を動脈瘤嚢中に充填して、血流圧からこのカテーテルを除去し、この方法により破裂リスクを無くす。所望の特性は、(この用途の場合は、混合されかつ未硬化の塞栓合成物を疎水性とすることで、当該塞栓合成物が動脈瘤嚢中で凝集性を以て残留し、硬化前に分散しないようにすることが得に望ましい点以外は)AVM塞栓について上述したものと同じである。
【0086】
本発明は、また、血管塞栓について上述したような様式とほぼ同じ様式で、(上述したように)非血管身体内腔用途および組織充填用途の塞栓に対しても用いることができる。例えば、送達導管(これは、カテーテルまたは針あるいは経腰部針と共に用いられるシースであればよい)を配置する際、その遠位端部を標的塞栓部位に配置する。この塞栓合成物は、事前混合(ただし、必要な場合)によって調製され、その後、この塞栓合成物を透視下で標的部位に送達させればよい。
【0087】
別の側面において、本発明は、塞栓合成物を身体内腔に送達するためのキットを提供する。上記キットは、上記した塞栓合成物のうち任意のものを含んでよい。典型的には、これらの塞栓合成物を別個の注射器/バイアル中に保存すればよい。例えば、図8に示すように、キット220は、塞栓合成物の別個の成分を含むことができ、これらの別個の成分は、別個の注射器230、240および250中に保存することができる。キット220はまた、使用方法260を含むことができる。使用方法260は、上述した方法のうちいずれかの方法を説明したものである。1つ以上の送達機器270(上述したもの)を上記キット中に設けて、塞栓合成物を所望の身体内腔中に送達する作業を容易化することができる。この送達機器は、内蔵型混合装置を含むことができる。あるいは、上記キット220は、別個の混合装置280(上述したもの)を含むこともできる。
【0088】
キット220は、キット220の成分を保持するためのパッケージ290を含むことができる。パッケージ290は、任意の従来の医療機器包装体(例えば、小袋、トレイ、箱、チューブ)であればよい。使用方法260は、通常は別個の紙に印刷されるが、パッケージ290の一部上にその全てまたは一部を印刷してもよい。必要に応じて、キット220は、(カテーテル送達機器、塞栓合成物、血管内移植片および/または血管内移植片を送達するための送達システム(図示せず)の配置を支援するための)ガイドワイヤ(図示せず)を含んでもよい。
【0089】
本発明の特定の形態について例示および記載してきたが、本発明の意図および範囲から逸脱することなく多様な改変が可能であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)塞栓合成物であって、
(a)ポリプロピレングリコールジアクリレート(PPODA)、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)、およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)からなる群から選択される官能化アクリレートモノマー成分、ならびに
(b)マルチチオール求核試薬成分を含み、
前記塞栓合成物の別個の成分は、別個の容器に保管される塞栓合成物と、
(ii)使用説明書と、
(iii)送達機器と、を含むキット。
【請求項2】
前記キットは、バイアルを含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記別個の容器は、別個の注射器である請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記送達機器は、カテーテルである請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記送達機器は、内蔵型混合装置を含む請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記キットは、混合装置を含む請求項1に記載のキット。
【請求項7】
前記キットは、前記キットの構成要素を保持するためのパッケージを含む請求項1に記載のキット。
【請求項8】
前記パッケージは、小袋、トレイ、箱、又はチューブである請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記キットは、ガイドワイヤを含む請求項1に記載のキット。
【請求項10】
前記キットは、閉塞アセンブリを含む請求項1に記載のキット。
【請求項11】
前記閉塞アセンブリは、膨張性バルーンである請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記キットは、血管内グラフトを含む請求項1に記載のキット。
【請求項13】
前記塞栓合成物の身体内腔中での硬化時間は5秒〜3分である請求項1に記載のキット。
【請求項14】
塞栓合成物を含む送達機器であって、
前記塞栓合成物は、
(a)ポリプロピレングリコールジアクリレート(PPODA)、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)、およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)からなる群から選択される官能化アクリレートモノマーと、
(b)マルチチオール求核試薬と、を含み、
前記塞栓合成物の身体内腔中での硬化時間が5秒〜3分である送達機器。
【請求項15】
前記送達機器は、カテーテル又は注射器である請求項14に記載の送達機器。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−120919(P2011−120919A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1520(P2011−1520)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【分割の表示】特願2006−549463(P2006−549463)の分割
【原出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(508225004)トリバスキュラー インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】