説明

車両におけるシートベルト装置

【課題】車体の後上部を構成するリヤヘッダパネルにシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置において、車両の前突時、シートベルト装置による良好な拘束性能が確保されるようにすると共に、これが簡単な構成で達成されるようにする。
【解決手段】車両におけるシートベルト装置に係り、車体2の後上部を構成し、車体2の幅方向に延びて車体2の左右側壁4に両端支持されるリヤヘッダパネル5を設け、リヤヘッダパネル5の車体2の幅方向における一側部にシートベルト33掛吊用のショルダーアンカー26を取り付ける。車体2の幅方向で、リヤヘッダパネル5の一側部におけるショルダーアンカー26の取付部の近傍部分に剛性断点39を形成し、リヤヘッダパネル5の他側部に他の剛性断点40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の後上部を構成するリヤヘッダパネルにシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置に関するものであり、より具体的には、前突時、上記シートベルト装置による良好な拘束性能が確保されるようにするためのものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両におけるシートベルト装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車体の後上部を構成し、車体の幅方向に延びて車体の左右側壁の各後部に両端支持されるリヤヘッダパネルが設けられている。そして、このリヤヘッダパネルの車体の幅方向における一側部にシートベルト掛吊用のショルダーアンカーが取り付けられている。
【0003】
上記構成において、車両の走行時、車室におけるシート上への着座者は、通常、上記シートベルトによりシート上に拘束された状態とされる。そして、車両の前進走行時に、その前方に位置する何らかの物体に車両が衝突(前突)したときには、着座者はその慣性力により上記シート上から前方に移動しようとする。すると、まず、上記慣性力に基づき、上記シートベルトに対して前方に向かおうとする引張力が与えられる。そして、この引張力は上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛吊するアンカーを介し上記リヤヘッダパネルにより支持される。これにより、上記シート上からの着座者の前方移動が阻止され、着座者は上記シート上に拘束されたままに維持されて保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−168498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように、前突時には、上記シートベルトに与えられる引張力はシートベルトとショルダーアンカーとを介しリヤヘッダパネルにより支持されるが、上記引張力が大きい場合には、このリヤヘッダパネルにおけるショルダーアンカーの取付部には上記引張力に基づく応力集中が生じがちとなる。そして、この応力集中により、上記リヤヘッダパネルにおけるショルダーアンカーの取付部が前方に向かって大きく屈曲し、車体の平面視で、上記リヤヘッダパネルがくの字形状に変形するおそれを生じる。
【0006】
そして、上記したように、リヤヘッダパネルにおけるショルダーアンカーの取付部が前方に向かって突出するよう、リヤヘッダパネルがくの字形状に変形する場合には、上記ショルダーアンカーとこのショルダーアンカーに掛吊されているシートベルトとが共に大きく前方移動しがちとなり、この結果、上記シート上への着座者に対する上記シートベルト装置による拘束性能が低下するおそれを生じる。
【0007】
そこで、上記従来の技術のようにリヤヘッダパネルに補強パネルを設けたり、また、これに加えてこの補強パネルの板厚をより大きくしたりして、このリヤヘッダパネルの強度や剛性の向上を図ることとし、もって、前突時に、リヤヘッダパネルが容易には屈曲変形しないようにすることが考えられる。しかし、単にこのようにした場合には、上記シートベルト装置の部品点数が増加して構成が複雑になったり、質量が重くなったりして、好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体の後上部を構成するリヤヘッダパネルにシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置において、車両の前突時、上記シートベルト装置による良好な拘束性能が確保されるようにすると共に、これが簡単な構成で達成されるようにすることである。
【0009】
請求項1の発明は、車体2の後上部を構成し、車体2の幅方向に延びて車体2の左右側壁4に両端支持されるリヤヘッダパネル5を設け、このリヤヘッダパネル5の車体2の幅方向における一側部にシートベルト33掛吊用のショルダーアンカー26を取り付けた車両におけるシートベルト装置において、
車体2の幅方向で、上記リヤヘッダパネル5の一側部における上記ショルダーアンカー26の取付部の近傍部分に剛性断点39を形成し、上記リヤヘッダパネル5の他側部に他の剛性断点40を形成したことを特徴とする車両におけるシートベルト装置である。
【0010】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明による効果は、次の如くである。
【0012】
請求項1の発明は、車体の後上部を構成し、車体の幅方向に延びて車体の左右側壁に両端支持されるリヤヘッダパネルを設け、このリヤヘッダパネルの車体の幅方向における一側部にシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置において、
車体の幅方向で、上記リヤヘッダパネルの一側部における上記ショルダーアンカーの取付部の近傍部分に剛性断点を形成し、上記リヤヘッダパネルの他側部に他の剛性断点を形成しており、次の効果が生じる。
【0013】
即ち、シート上に着座者がシートベルト装置により拘束されている場合において、車両の前突時に上記シート上に拘束された着座者が、その慣性力により上記シート上から前方に移動しようとすると、上記慣性力に基づき、上記シートベルトには前方に向かおうとする引張力が与えられる。そして、この引張力は、上記シートベルトとショルダーアンカーとを介し、上記リヤヘッダパネルに対するショルダーアンカーの取付部で支持される。すると、この際、上記引張力によって、上記リヤヘッダパネルにおけるショルダーアンカーの取付部の上記剛性断点の形成部分に応力集中が生じて、この剛性断点の形成部分が前方に向かって屈曲しようとする。また、この剛性断点の形成部分が屈曲しようとするのと同時に、上記引張力によって、上記リヤヘッダパネルにおける他の剛性断点の形成部分でも応力集中が生じて、この他の剛性断点の形成部分も前方に向かって屈曲しようとする。
【0014】
この結果、上記リヤヘッダパネルにおける各剛性断点の形成部分がいずれも前方に向かって屈曲することから、車体の平面視で、上記リヤヘッダパネルは前方に向かって台形の山形状に変形しがちとなる。
【0015】
よって、前突時、前記従来の技術では、リヤヘッダパネルにおけるショルダーアンカーの取付部のみが前方に向かって大きく屈曲し、車体の平面視で、上記リヤヘッダパネルがくの字形状に変形することにより、上記ショルダーアンカーとこのショルダーアンカーに掛吊されているシートベルトの部分とが大きく前方移動するおそれがあったが、これに比べ、上記発明によれば、上記したように、リヤヘッダパネルが台形の山形状に変形することにより、上記ショルダーアンカーとこのショルダーアンカーに掛吊されているシートベルトの部分との前方移動が比較的小さく抑制される。この結果、上記シート上への着座者に対するシートベルト装置による良好な拘束性能が確保される。
【0016】
また、上記したシートベルト装置による良好な拘束性能の確保は、上記リヤヘッダパネルを別途の補強材等により単に補強するのではなく、前記したように車体の幅方向で、上記リヤヘッダパネルの一側部における上記ショルダーアンカーの取付部の近傍部分に剛性断点を形成し、上記リヤヘッダパネルの他側部に他の剛性断点を形成したことにより達成される。よって、上記した良好な拘束性能の確保は、シートベルト装置の部品点数の増加を防止して簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ安価に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車体後部の平面図である。
【図2】車体後部の側面図である。
【図3】車体後部の斜視図である。
【図4】図1のIV−IV線矢視拡大断面図である。
【図5】図4で示したものの部分斜視展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の車両におけるシートベルト装置に関し、車体の後上部を構成するリヤヘッダパネルにシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置において、車両の前突時、上記シートベルト装置による良好な拘束性能が確保されるようにすると共に、これが簡単な構成で達成されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0019】
即ち、車両におけるシートベルト装置では、車体の後上部を構成し、車体の幅方向に延びて車体の左右側壁に両端支持されるリヤヘッダパネルが設けられる。また、このリヤヘッダパネルの車体の幅方向における一側部にシートベルト掛吊用のショルダーアンカーが取り付けられる。車体の幅方向で、上記リヤヘッダパネルの一側部における上記ショルダーアンカーの取付部の近傍部分に剛性断点が形成され、上記リヤヘッダパネルの他側部に他の剛性断点が形成される。
【実施例】
【0020】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0021】
図において、符号1は自動車で例示される車両であり、また、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記車両1の前方に向かっての車体2の幅方向をいうものとする。
【0022】
上記車両1の車体2は板金製で、この車体2は、不図示の車体フレーム上に支持されるフロアパネル3と、このフロアパネル3の各側部側から上方に延出する左右側壁4と、車体2の後上部を構成し、車体2の幅方向に直線状に延びて上記左右側壁4の各後部にスポット溶接S1により結合されて両端支持されるリヤヘッダパネル5と、上記各側壁4の上端縁部およびリヤヘッダパネル5に支持されるルーフパネル6とを備えている。上記各側壁4の後部は、リヤピラーといわれるもので、上記リヤヘッダパネル5と共に車体2の骨格部材を構成している。また、図1中の符号7は、車体2の幅方向における車体中心である。
【0023】
上記フロアパネル3、各側壁4、リヤヘッダパネル5、およびルーフパネル6で囲まれた車体2内部の空間が車室9とされる。車体2の後壁に、上記車室9と車体2の後方域とを互いに連通させるバックドア開口10が形成され、このバックドア開口10を開閉可能に閉じるバックドア11が設けられている。上記リヤヘッダパネル5とルーフパネル6の後端縁部とはスポット溶接S2により互いに結合されており、これらリヤヘッダパネル5とルーフパネル6の後端縁部とは上記バックドア開口10の上部開口縁部を形成している。
【0024】
上記リヤヘッダパネル5は、上下方向で互いに対面してスポット溶接S3,S4により互いに結合される補強パネル14とインナパネル15とを備え、上記補強パネル14はインナパネル15を補強している。また、上記リヤヘッダパネル5の長手方向(車体2の幅方向の)各部横断面は中空閉断面形状とされている。
【0025】
車体2の側面視(図4)で、上記補強パネル14は、その前部を構成してほぼ水平に延びる前部パネル14aと、上記補強パネル14の前後方向の中途部を構成して上記前部パネル14aの後端縁部から下方に向かって一体的に延出する中途部パネル14bと、上記補強パネル14の後部を構成して上記中途部パネル14bの下端縁部から後方に向かって一体的に延びる後部パネル14cとを備えている。上記補強パネル14は、車体2の幅方向の一側方(右側方)に偏って設けられている。
【0026】
車体2の側面視(図1)で、上記インナパネル15は倒立ハット形状とされ、前後方向の中途部を構成してほぼ水平に延びる底部パネル15aと、この底部パネル15aの前端縁部から前上方に向かって一体的に延出する前部パネル15bと、上記底部パネル15aの後端縁部から後上方に向かって一体的に延出する後部パネル15cと、上記前、後部パネル15b,15cの各上端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジ15d,15eとを備え、外向きフランジ15dの長手方向の中央部には、上方に向かって膨出するよう屈曲する複数(3つ)の台座15fが所定ピッチで形成されている。上記インナパネル15は、その長手方向(車体2の幅方向)の各端部が前記スポット溶接S1により左右側壁4の各後部に結合されて、両端支持されている。
【0027】
上記リヤヘッダパネル5のインナパネル15の後外向きフランジ15eと前記ルーフパネル6の後端縁部とが前記スポット溶接S2されている。また、上記補強パネル14の前部パネル14aの前端縁部とインナパネル15の前外向きフランジ15dとが前記スポット溶接S3されている。また、上記補強パネル14の後部パネル14cとインナパネル15の底部パネル15aとが互いに重ね合わされて前記スポット溶接S4されている。上記リヤヘッダパネル5のインナパネル15の各台座15fとルーフパネル6とは、これらの間に介設されるマスチック材16により互いに結合され、上記リヤヘッダパネル5上にルーフパネル6が支持されている。これにより、上記ルーフパネル6の後端縁部と上記リヤヘッダパネル5のインナパネル15との組み合わせ体(バックドア開口10の上部開口縁部)は、その長手方向(車体2の幅方向)の各部横断面が中空閉断面形状とされている。
【0028】
上記車室9後端部に左右複数(3名)の着座者17が前方に向かって着座可能なリヤシート18が設けられている。このシート18は、上記フロアパネル3上に支持されるシートクッション19と、このシートクッション19の後端部側から上方に向かって延出するシートバック20とを備えている。上記シート18の左右各側部が側部席21、車体2の幅方向の中央部が中央部席22とされている。
【0029】
上記各側部席21と上記中央部席22とには、それぞれ三点式のシートベルト装置25が設けられているが、この中央部席22のシートベルト装置25につき説明する。
【0030】
上記シートベルト装置25は、上記中央部席22の右側部の後上方における上記リヤヘッダパネル5の部分であって、補強パネル14の後部パネル14cとインナパネル15の底部パネル15aとの重ね合わせ部に固着されるショルダーアンカー26と、このショルダーアンカー26の右側方の側壁4に取り付けられる側部アンカー27と、この側部アンカー27の下方に位置して上記側壁4の下部に固着されるリトラクタ28と、上記中央部席22の右側部の後下方における上記フロアパネル3に連結されるラップアンカー29と、上記中央部席22の左側部の後下方における上記フロアパネル3に連結される他のラップアンカー30と、上記ラップアンカー29に支持されるバックル31と、上記他のラップアンカー30に支持される他のバックル32とを備えている。
【0031】
上記ショルダーアンカー26は、上下方向に延びてその上端部がリヤヘッダパネル5の上記した補強パネル14の後部パネル14cとインナパネル15の底部パネル15aとの重ね合わせ部に締結により固着される支軸26aと、この支軸26aの下端部に固着されて上記シートベルト33を貫通させて掛吊するアンカープレート26bとを備えている。
【0032】
また、上記シートベルト装置25は、一端部が上記リトラクタ28に弾性的に巻き取られ、他端部側が上記側部アンカー27とショルダーアンカー26とを順次貫通して掛吊させられた後、上記ラップアンカー29側にまで延出するシートベルト33と、このシートベルト33の延出端に取り付けられて上記バックル31に係脱可能に係止されるタングプレート34と、上記ショルダーアンカー26とラップアンカー29との間における上記シートベルト33の部分に外嵌されて上記他のバックル32に係脱可能とされる他のタングプレート35とを備えている。
【0033】
上記車体2の幅方向で、上記リヤヘッダパネル5の一側部(右側部)における上記ショルダーアンカー26の取付部の近傍部分に剛性断点39が形成されている。また、上記リヤヘッダパネル5の他側部(左側部)にも他の剛性断点40が形成されている。上記左右各剛性断点39,40は、上記車体中心7を基準とした左右対称位置の上記リヤヘッダパネル5の各部分に形成されている。
【0034】
上記剛性断点39につき、具体的に説明する。上記リヤヘッダパネル5の補強パネル14における前部パネル14aの前端縁部には、上記インナパネル15の各台座15fをそれぞれ回避するよう複数(3つ)の切り欠き42が形成されている。そして、上記剛性断点39は、上記した複数の切り欠き42のうち、上記リヤヘッダパネル5の一側部(右側部)がわの端に位置する一つの切り欠き42により構成されている。一方、上記ルーフパネル6の後端縁部(バックドア開口10の上部開口縁部)に、下方に向かって凹む水切り凹部43が屈曲形成されている。この水切り凹部43は、上記ルーフパネル6の後端縁部上で、車体2の幅方向に流動する雨等の水を集めて車体2の外部に円滑に排水させるためのものである。また、上記リヤヘッダパネル5のインナパネル15における後部パネル15cと外向きフランジ15eとにより形成される山折れ部に、上記水切り凹部43の底部を嵌入させる嵌入凹部44が屈曲形成されており、この嵌入凹部44によっても上記剛性断点39が構成されている。
【0035】
上記他の剛性断点40は、具体的には、上記リヤヘッダパネル5のインナパネル15に形成される上記嵌入凹部44と同構成の他の嵌入凹部45により構成されている。また、上記リヤヘッダパネル5の補強パネル14の一側部(右側部)の端部は右側部の側壁4に結合されているが、上記補強パネル14の他側部(左側部)は、上記インナパネル15の前部上面に接合されてその端部14dは、車体2の幅方向で上記他の嵌入凹部45の近傍部分に位置させられている。これにより、上記リヤヘッダパネル5における補強パネル14の他側部の端部14d周りでの剛性が、車体2の幅方向で大きく変化することとされて、これも上記他の剛性断点40を構成している。
【0036】
上記シート18の中央部席22上に上記シートベルト装置25によって着座者17を拘束する場合には、まず、上記ショルダーアンカー26からラップアンカー29に至るまでのシートベルト33の部分を、上記着座者17の前方に配置して他のタングプレート35を他のバックル32に係止させ、上記シートベルト33を全体的に上記リトラクタ28により弾性的に引張させる。すると、上記シートベルト装置25によって、上記中央部席22上に着座者17が拘束される。
【0037】
上記シート18の中央部席22上にシートベルト装置25により着座者17が拘束された状態で、車両1が前突したとする。この場合、上記中央部席22上の着座者17は、その慣性力により上記中央部席22上から前方に移動しようとする(図2中一点鎖線)。すると、まず、上記着座者17の慣性力に基づき、上記シートベルト33に対して前方に向かおうとする引張力Fが急速に与えられ、この急速な引張力Fにより、上記リトラクタ28によりこのリトラクタ28からのシートベルト33の繰り出しがロックされる。そして、上記引張力Fは、上記シートベルト33とショルダーアンカー26とを介し、リヤヘッダパネル5に対する上記ショルダーアンカー26の取付部で支持される。これにより、上記シート18上への着座者17のシートベルト33による拘束状態が維持される。
【0038】
ここで、上記引張力Fが大きい場合には、この引張力Fによって、上記リヤヘッダパネル5におけるショルダーアンカー26の取付部の上記剛性断点39の形成部分に応力集中が生じて、この剛性断点39の形成部分が前方に向かって屈曲しようとする。また、この剛性断点39の形成部分が屈曲しようとするのと同時に、上記引張力Fによって、上記リヤヘッダパネル5における他の剛性断点40の形成部分でも応力集中が生じて、この他の剛性断点40の形成部分も前方に向かって屈曲しようとする。
【0039】
この結果、上記リヤヘッダパネル5における各剛性断点39,40の形成部分がいずれも前方に向かって屈曲することから、車体2の平面視で、上記リヤヘッダパネル5は前方に向かって台形の山形状に変形しがちとなる(図1中一点鎖線)。
【0040】
よって、前突時、前記従来の技術では、リヤヘッダパネル5におけるショルダーアンカー26の取付部のみが前方に向かって大きく屈曲し、車体2の平面視で、上記リヤヘッダパネル5がくの字形状に変形することにより(図1中三点鎖線)、上記ショルダーアンカー26とこのショルダーアンカー26に掛吊されているシートベルト33の部分とが大きく前方移動するおそれがあったが、これに比べ、上記構成によれば、上記したように、リヤヘッダパネル5が台形の山形状に変形することにより、上記ショルダーアンカー26とこのショルダーアンカー26に掛吊されているシートベルト33の部分との前方移動が比較的小さく抑制される。この結果、上記シート18上への着座者17に対するシートベルト装置25による良好な拘束性能が確保される。
【0041】
また、上記剛性断点39は、上記リヤヘッダパネル5の一側部の前、後縁部がわにそれぞれ形成された切り欠き42と嵌入凹部44とにより構成され、また、上記他の剛性断点40も、上記リヤヘッダパネル5の他側部の前、後縁部がわにそれぞれ形成された補強パネル14の端部14dと他の嵌入凹部45とにより構成されている。
【0042】
このため、前記したように、前突時に、シートベルト33からショルダーアンカー26に前方に向かう引張力Fが与えられるとき、上記したリヤヘッダパネル5の一側部と他側部とのそれぞれ前、後縁部がわに形成された各剛性断点39,40にそれぞれ応力集中が生じることから、上記リヤヘッダパネル5は、より確実に、車体2の平面視で、前方に向かって台形の山形状となるよう変形することとなる。よって、上記ショルダーアンカー26とこのショルダーアンカー26に掛吊されているシートベルト33の部分との前方移動が、より確実に小さく抑制され、この結果、シートベルト装置25による良好な拘束性能が、より確実に確保される。
【0043】
しかも、上記各剛性断点39,40は、上記車体中心7を基準とした左右対称位置の上記リヤヘッダパネル5の各部分に形成されている。
【0044】
このため、前記したように、前突時に、シートベルト33からショルダーアンカー26に前方に向かう引張力Fが与えられて、車体2の平面視で、上記リヤヘッダパネル5が前方に向かって台形の山形状に変形するとき、この台形の山形状は、より確実に左右対称形となる。よって、上記ショルダーアンカー26とこのショルダーアンカー26に掛吊されているシートベルト33の部分との前方移動が、より確実に小さく抑制され、この結果、シートベルト装置25による良好な拘束性能が、より確実に確保される。
【0045】
また、上記構成は、車室9の余剰空間が狭くて、リヤヘッダパネル5の長手方向の各部断面を大きくは採り難い小型、軽自動車にとって有益である。
【0046】
また、上記したシートベルト装置25による良好な拘束性能の確保は、上記リヤヘッダパネル5を別途の補強材等により単に補強するのではなく、前記したように車体2の幅方向で、上記リヤヘッダパネル5の一側部における上記ショルダーアンカー26の取付部の近傍部分に剛性断点39を形成し、上記リヤヘッダパネル5の他側部に他の剛性断点40を形成したことにより達成される。よって、上記した良好な拘束性能の確保はシートベルト装置25の部品点数の増加を防止して簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ安価に達成できる。
【0047】
なお、以上は図示の例によるが、剛性断点39は、上記切り欠き42と嵌入凹部44とのうち、いずれか一方のみで構成してもよい。また、他の剛性断点40では、他の嵌入凹部45を設けなくてもよいが、リヤヘッダパネル5の補強パネル14を車体2の幅方向に長く延ばして左右側壁4に架設させ、上記した他の嵌入凹部45のみで構成してもよい。また、上記各剛性断点39,40は、上記リヤヘッダパネル5の補強パネル14および/もしくはインナパネル15に形成される凹部、ビード、他の切り欠き、もしくは薄肉で構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 車体
3 フロアパネル
4 側壁
5 リヤヘッダパネル
6 ルーフパネル
7 車体中心
9 車室
14 補強パネル
14a 前部パネル
14b 中途部パネル
14c 後部パネル
14d 端部
15 インナパネル
15a 底部パネル
15b 前部パネル
15c 後部パネル
15d 外向きフランジ
15e 外向きフランジ
15f 台座
16 マスチック材
17 着座者
18 シート
22 中央部席
25 シートベルト装置
26 ショルダーアンカー
33 シートベルト
39 剛性断点
40 剛性断点
42 切り欠き
43 水切り凹部
44 嵌入凹部
45 嵌入凹部
F 引張力
S1〜S4 スポット溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後上部を構成し、車体の幅方向に延びて車体の左右側壁に両端支持されるリヤヘッダパネルを設け、このリヤヘッダパネルの車体の幅方向における一側部にシートベルト掛吊用のショルダーアンカーを取り付けた車両におけるシートベルト装置において、
車体の幅方向で、上記リヤヘッダパネルの一側部における上記ショルダーアンカーの取付部の近傍部分に剛性断点を形成し、上記リヤヘッダパネルの他側部に他の剛性断点を形成したことを特徴とする車両におけるシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201354(P2012−201354A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70996(P2011−70996)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】