説明

車両のカウルボックス構造

【課題】 入力荷重の効率的な吸収と音振性能の確保との両立を図ることができる車両のカウルボックス構造を提供する。
【解決手段】 車幅方向に沿って延設されたダッシュアッパ3と、該ダッシュアッパ3の上部に配設されたカウルトップ7とを備え、該カウルトップ7の上面33でフロントウィンドウ29の下端部29aを支持する車両のカウルボックス構造であって、前記カウルトップ7の前端部31とダッシュアッパ3との間に支持ブラケット5を介設し、該支持ブラケット5の上部側を、所定値以上の荷重が入力されたときに変形して入力荷重を吸収するエネルギー吸収部35に構成する一方、前記支持ブラケット5の下部側を、上部側よりも剛性の高い剛性保持部49に構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のカウルボックス構造に関し、更に詳しくは、入力荷重の効率的な吸収と音振性能の確保との両立を図ることができる車両のカウルボックス構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンルームと車室との境界部近傍には、車幅方向に沿って閉断面構造のカウルボックスが延設されており、該カウルボックスの上部にはフロントウィンドウの下端部が支持されている。
【0003】
近年では、カウルボックスに障害物が当たったときに該障害物に対する反力を低減させるため、カウルボックスの上面から上方に所定間隔をおいて、片持ち状態の支持パネルを取り付け、この支持パネルの先端にフロントウィンドウの下端部を支持している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−327165公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来例では、支持パネルが片持ち状態で支持されているため、フロントウィンドウの支持剛性を確保することが困難であるという問題がある。この支持剛性が不足すると、フロントウィンドウの振幅による音振性能の確保が困難になるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、入力荷重の効率的な吸収と音振性能の確保との両立を図ることができる車両のカウルボックス構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る車両のカウルボックス構造は、車幅方向に沿ってダッシュアッパを延設し、該ダッシュアッパの上部にカウルトップを設け、該カウルトップの上面でフロントウィンドウの下端部を支持する車両のカウルボックス構造であって、前記カウルトップの前端部をダッシュアッパから上方に持ち上げ、このカウルトップの前端部とダッシュアッパとの間に支持ブラケットを介設すると共に、該支持ブラケットの上部側を、所定値以上の荷重が入力されたときに塑性変形することによって入力荷重を吸収するエネルギー吸収部に構成する一方、前記支持ブラケットの下部側を、上部側よりも剛性の高い剛性保持部に構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両のカウルボックス構造によれば、入力荷重の効率的な吸収と音振性能の確保との両立を図ることができる。
【0008】
即ち、支持ブラケットの上部側をエネルギー吸収部に構成しているため、カウルボックスの上部(フロントウィンドウの下端部近傍)に衝撃荷重が入力された場合に、この入力荷重が前記エネルギー吸収部によって効率的に吸収される。一方、支持ブラケットの下部側を剛性保持部に構成しているため、フロントウィンドウに振動が加わった場合でも、この振動を剛性保持部によって確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
図1は本発明の実施形態によるカウルボックス構造を採用した車両前部の斜視図、図2は図1の車幅方向中央部を拡大した斜視図、図3は図2のA−A線による断面図である。
【0011】
図1及び図3に示すように、車両のエンジンルームの後端は、上下方向に延設されたダッシュパネル1によって画成されており、該ダッシュパネル1の上部にはダッシュアッパ3が配設されている。また、ダッシュアッパ3の上部には、支持ブラケット5及びカウルトップ7が設けられている。これらのダッシュアッパ3、カウルトップ7、支持ブラケット5及びダッシュアッパ上面パネル11によってカウルボックス2を構成している。この支持ブラケット5は、図3の一点鎖線に示すように、後方斜め上方に向けて延びている。なお、この一点鎖線の傾斜角度は、鉛直方向に対して0〜30°の範囲が好ましい。
【0012】
図2及び図3に示すように、ダッシュアッパ3は、下側に配置されたダッシュアッパ本体9と、該ダッシュアッパ本体9の上部を塞ぐダッシュアッパ上面パネル11とから構成されている。そして、ダッシュアッパ本体9には、車両前方に向けて前端フランジ13が延設されており、該前端フランジ13の上側にダッシュアッパ上面パネル11の前端部15が重なって配置され、これら13,15にエクステンションカウルトップ17の後端部19が結合されている。なお、エクステンションカウルトップ17は、上下に配置されたパネル同士を接合することによって構成された閉断面構造に構成されている。
【0013】
また、図2及び図3に示すように、ダッシュアッパ3の上部には、カウルトップ7が配設されている。
【0014】
ダッシュアッパ3の後面21の上端は後端フランジ23に形成され、ダッシュアッパ上面パネル11の後端フランジ23と重なって接合されている。カウルトップ7は、断面逆J字状に屈曲して形成されている。よって、カウルトップ7の後壁25の下端部は、ダッシュアッパ3及びダッシュアッパ上面パネル11の後端フランジ23の車両前側の面に接合されている。また、カウルトップ7の上面33は、後方斜め上方に向けて傾斜しており、このカウルトップ7の上面33に支持部材27が設けられ、該支持部材27を介してフロントウィンドウ29の下端部29aが支持されている。さらに、カウルトップ7の前端部31は、車両前後方向に沿って延設されており、後述する支持ブラケット5の上面に載置されている。なお、支持ブラケット5は、図1に示すように、車幅方向中央部に配置されている。
【0015】
図4は図2の支持ブラケットを拡大した斜視図である。
【0016】
支持ブラケット5は、上下方向に延びるブラケット本体部37と、該ブラケット本体部37の後端から車両後方に延びる左右一対の脚部39とから一体に形成されている。このブラケット本体部37は、ダッシュアッパ上面パネル11に接合された左右一対の底面41と、これらの底面41から上方に延びる両側面43と、該両側面同士43,43を左右に橋渡す上面45とから一体成形されている。また、側面43には、左右に突出する断面矩形状のリブ47が形成されている。
【0017】
また、支持ブラケット5の上部側は、上方から下方に向かって所定値以上の荷重が入力された場合に塑性変形することにより、この入力荷重を効率的に吸収するエネルギー吸収部35に構成されている。そして、下部側は、上部側よりも剛性の高い剛性保持部49に構成されている。具体的には、ブラケット本体部37の下部側の側面43には、前記リブ47に加えて、その前端に正面視略L字状の剛性フランジ51が形成されている。この剛性フランジ51は、底面41に結合されているため、ブラケット本体部37の下部側は、上部側よりも剛性が高く構成されている。
【0018】
さらに、前記脚部39は、ブラケット本体部37の側面43の高さ方向略中央部から車両後方に延びており、後方に延びる側壁53と、該側壁53の後端から左右に屈曲する結合フランジ55,57とから構成されている。
【0019】
図5は図2を車両前方から見た正面図である。
【0020】
支持ブラケット5の脚部39に設けられた結合フランジ55,57のうち、車両左側の結合フランジ55は車両右側の結合フランジ57よりも下側に配置されている。また、結合フランジ55,57は、カウルトップ7の後壁25の下端に沿って結合されている。
【0021】
図6は図1の車幅方向の端部を拡大した斜視図、図7は図6のB−B線による断面図である。
【0022】
フロントウィンドウ29の車幅方向中央部には、前記支持ブラケット5が配置され、車幅方向の左端部には、固定ブラケット59が配置されている。この固定ブラケット59の後端フランジ61は、カウルトップ7の後壁25に結合されており、前端フランジ63の上にはカウルトップ7の前端部31が載置されている。
【0023】
図8は、車両前部に衝撃荷重が入力された場合における入力荷重の分散状態を示す概略図である。
【0024】
障害物がフロントウィンドウ29の下端部29aに当たると、後方斜め下方に向けて荷重Fが斜め方向に下端部29aに入力される。この荷重Fは、カウルトップ7を介して支持ブラケット5のブラケット本体部37と脚部39に伝達される。
【0025】
ここで、ブラケット本体部37は前方斜め下方に向けて延びており、脚部39は車両後方に向けて延びているため、ブラケット本体部37及び脚部39の双方とも、荷重Fの入力方向と異なった方向に延びている。従って、入力荷重Fは、ブラケット本体部37の長軸方向に沿ったF1と、脚部39に沿ったF2とに分散されるため、障害物に対する反力も小さく抑制することができる。
【0026】
図9は、本発明の実施形態によるカウルボックス構造を採用した車両と、比較例に係る従来のカウルボックス構造を採用した車両とに衝撃荷重が入力された場合における、反力値の相違を示したグラフである。
【0027】
このグラフに示すように、比較例の場合は、衝撃荷重が加わった直後に大きな反力が発生したが、本発明例の場合は、比較例よりも大幅に(例えば、40%程度)反力値が減少した。
【0028】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0029】
車幅方向に沿って延設されたダッシュアッパ3と、該ダッシュアッパ3の上部に配設されたカウルトップ7とを備え、該カウルトップ7の上面33でフロントウィンドウ29の下端部29aを支持する車両のカウルボックス構造であって、前記カウルトップ7の前端部31とダッシュアッパ3との間に支持ブラケット5を介設し、該支持ブラケット5の上部側を、所定値以上の荷重が入力されたときに変形して入力荷重を吸収するエネルギー吸収部35に構成する一方、前記支持ブラケット5の下部側を、上部側よりも剛性の高い剛性保持部49に構成している。
【0030】
このため、車両衝突によってカウルボックス2の上面に荷重が入力された場合、支持ブラケット5の上部側で効率的に入力荷重を吸収することができる。その一方、支持ブラケット5の下部側が剛性の高い剛性保持部49に形成されているため、フロントウィンドウ29の保持を確実に行うことができる。このように、入力荷重の吸収とフロントウィンドウ29の支持との両立を効率的に達成することができる。
【0031】
前記支持ブラケット5を車幅方向中央部に配置しているため、確実にフロントウィンドウ29の振動を抑制することができる。即ち、車両走行時におけるフロントウィンドウ29の車両前後方向の振動幅は、車幅方向中央部が最も大きくなる。よって、フロントウィンドウ29の車幅方向中央部を支持ブラケット5によって支持すれば、フロントウィンドウ29の振動を最も効率的に抑制することができる。
【0032】
前記支持ブラケット5を、上下方向に延びてカウルトップ7の前端部31を支持するブラケット本体部37と、該ブラケット本体部37から後方に延びて前記カウルトップ7の後壁25に結合される脚部39とから構成しているため、カウルボックスに入力された荷重は、ブラケット本体部37と脚部39とに分散して車体側に伝達される。従って、障害物に与える反力を小さく抑えることができる。
【0033】
前記支持ブラケット5のブラケット本体部37を、車両側面から見て後方斜め上方に向けて延設している。
【0034】
障害物が当たることによってフロントウィンドウ29の下端部29aに入力される荷重は、後方斜め下方に向けて入力される場合が多いため、荷重の入力方向に対して、ブラケット本体部37の延設方向及び脚部39の延設方向がずれていると、カウルボックス2に入力した荷重Fがブラケット本体部37への荷重F1と脚部39への荷重F2に分散される。その結果、障害物に対する反力を大幅に低下させることができる。
【0035】
前記支持ブラケット5の脚部39を左右一対に設けているため、入力荷重を左右の脚部39で均等に受け止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態によるカウルボックス構造を採用した車両前部の斜視図である。
【図2】図1の車幅方向中央部を拡大した斜視図である。
【図3】図2の支持ブラケットを拡大した斜視図である。
【図4】図2を車両前方から見た正面図である。
【図5】図4のA−A線による断面図である。
【図6】図1の車幅方向の端部を拡大した斜視図である。
【図7】図6のB−B線による拡大断面図である。
【図8】車両前部に入力された衝撃荷重の分散状態を示す概略図である。
【図9】本発明例と比較例との入力荷重に対する反力値の相違を示したグラフである。
【符号の説明】
【0037】
2…カウルボックス
3…ダッシュアッパ
5…支持ブラケット
7…カウルトップ
29…フロントウィンドウ
29a…下端部
31…前端部
35…エネルギー吸収部
37…ブラケット本体部
39…脚部
49…剛性保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って延設されたダッシュアッパと、該ダッシュアッパの上部に配設されたカウルトップとを備え、該カウルトップの上面でフロントウィンドウの下端部を支持する車両のカウルボックス構造であって、
前記カウルトップの前端部とダッシュアッパとの間に支持ブラケットを介設し、該支持ブラケットの上部側を、所定値以上の荷重が入力されたときに変形して入力荷重を吸収するエネルギー吸収部に構成する一方、前記支持ブラケットの下部側を、上部側よりも剛性の高い剛性保持部に構成したことを特徴とする車両のカウルボックス構造。
【請求項2】
前記支持ブラケットを、車幅方向中央部に配置したことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウルボックス構造。
【請求項3】
前記支持ブラケットを、上下方向に延びてカウルトップの前端部を支持するブラケット本体部と、該ブラケット本体部から後方に延びて前記カウルトップの後壁に結合される脚部とから構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のカウルボックス構造。
【請求項4】
前記支持ブラケットのブラケット本体部を、車両側面から見て後方斜め上方に向けて延設したことを特徴とする請求項3に記載の車両のカウルボックス構造。
【請求項5】
前記支持ブラケットの脚部を左右一対に設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両のカウルボックス構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−256504(P2006−256504A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77607(P2005−77607)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】