説明

車両のシートベルト装置

【課題】係合部材と被係合部材との係合時(または該係合状態における急減速時もしくは衝突予知時)に、拘束手段により一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する簡単な構成により、シートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止する車両のシートベルト装置を提供する。
【解決手段】係合部材15は、間隔を設けシートベルト7を摺動可能に支持する一対の支持部35,36を備え、係合部材15と被係合部材16との係合時に係合部材15の一対の支持部35,36間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状にシートベルト7を拘束する拘束手段16bを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のシートベルト装置に関し、詳しくは、乗員の上半身を拘束するショルダベルトと、乗員の腰部を拘束するラップベルトとからなるシートベルトと、該シートベルトを引出し可能に巻取るリトラクタと、タングと、バックルとを備えたような車両のシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両のシートベルト装置としては3点式シートベルト装置が知られているが、近年、乗員の腰部を拘束するラップベルトの拘束力を高め、乗員の上半身を拘束するショルダベルトについては、乗員の胸部へのダメージを回避するために、その拘束力を高めない方がよいことが明らかとなった。
【0003】
従来の車両のシートベルト装置においては、シートベルトに摺動可能に支持されて該シートベルトを、ショルダベルトとラップベルトとに区画する移動タングを設け、この移動タングを車体側のバックルに係合することで、3点式シートベルト装置となるように構成されている。
【0004】
そこで、車両の衝突時に乗員の安全性を高めるためには、ラップベルトの一端にプリテンショナを取付けて、車両の急減速時または衝突予知時において、ラップベルト用プリテンショナを作動させて、ラップベルトによる乗員腰部の拘束力を高めることが考えられるが、上記シートベルトは移動タングをスルー可能に構成されているので、ラップベルト用プリテンショナの作動時に、乗員腰部の拘束力のみならず、ショルダベルトにも拘束力が付加されて、乗員の上半身に対する拘束力も同時に高められる問題点がある。
このような問題点を解決するために、従来、特許文献1、特許文献2に開示された構造が既に発明されている。
【0005】
特許文献1に開示された構造は、車体側に設けたバックルと、シートベルトに移動可能に設けたタングとを備え、バックルに取付けたラチェット機構の爪部を一旦起こして、タングをバックルに差込んで装着した後に、上記爪部をシートベルトに食い込ませて、該シートベルトの移動を阻止するようにしたものである。
この特許文献1に開示された構造においては、上記爪部によりシートベルトの移動を阻止することができる利点がある反面、該爪部がシートベルトに食い込むため、シートベルトが劣化もしくは損傷する問題点があった。
【0006】
また、特許文献2に開示された構造は、車体側にバックルを設け、シートベルト側にタングを設けると共に、車体側からバックル内に挿入されたプレートを立設固定し、車両の急減速時にバックルに設けたプリテンショナで該バックルを下方に引き込み、このバックルの下動により上記プレートの上端をバックル上方へ相対移動させ、バックルに係合したタング部のシートベルトをプレート上端にてタングとの間で挟持拘束して、シートベルトの摺動を制限するものである。
【0007】
この特許文献2に開示された構造においても、上述のプレートのタングとの間でシートベルトを挟持して、その移動を阻止することができる利点がある反面、タングとプレートとの間でシートベルトを挟持するので、シートベルトが劣化する問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第2590094号
【特許文献2】特開2004−230992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、シートベルトをショルダベルトとラップベルトとに区画する係合部材と、この係合部材が係合可能な被係合部材と、を設け、上記係合部材が、間隔を設けシートベルトを摺動可能に支持する一対の支持部を備え、上記係合部材と被係合部材との係合時、または、係合部材と被係合部材との係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束手段を設けることで、係合部材と被係合部材との係合時(または該係合状態における急減速時もしくは衝突予知時)に、拘束手段により一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する簡単な構成により、シートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止することができる車両のシートベルト装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による車両のシートベルト装置は、乗員の上半身を拘束するショルダベルトおよび乗員の腰部を拘束するラップベルトからなるシートベルトと、該シートベルトを引出し可能に巻取るリトラクタと、上記シートベルトに摺動可能に支持されショルダベルトおよびラップベルトを区画する係合部材と、車体に取付けられて上記係合部材が係合可能な被係合部材と、を備えた車両のシートベルト装置であって、上記係合部材は、間隔を設けてシートベルトを摺動可能に支持する一対の支持部を備え、上記係合部材と被係合部材との係合時、または、係合部材と被係合部材との係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束手段を設けたものである。
上記構成によれば、シートベルト側の係合部材を車体側の被係合部材に係合した係合時(または、該係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時)に、上述の拘束手段により一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する簡単な構成によりシートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止することができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記拘束手段は、係合部材と被係合部材との係合時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束突部を、上記被係合部材に設けたものである。
上記構成によれば、係合部材と被係合部材との係合時に、被係合部材に設けた拘束突部により、一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する簡単な構成によりシートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記拘束手段は、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束部を備え、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部と拘束部とを相対移動させて上記シートベルトを車両前方視で略W字状に拘束する移動機構を備えたものである。
上記構成によれば、係合部材と被係合部材との係合状態下においては、シートベルトを拘束せず、該シートベルトの調整操作を可能とし、車両の急減速時または衝突予知時には、移動機構が係合部材の一対の支持部と拘束部とを相対移動させて、シートベルトを車両前方視で略W字状に拘束して、シートベルトのずれを確実に防止することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記ラップベルトの車体への取付け部に、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、該ラップベルトに張力を与えるプリテンショナを備えたものである。
上記構成によれば、シートベルトを略W字状に拘束した状態下において、ラップベルトのプリテンショナを作動させることにより、該ラップベルトによる乗員拘束性、特に、乗員腰部の拘束性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、係合部材と被係合部材との係合時(または該係合状態における急減速時もしくは衝突予知時)に、拘束手段により一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する簡単な構成により、シートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の車両のシートベルト装置を示す斜視図
【図2】センタピラー下部周辺構造を示す斜視図
【図3】バックルとタングの非係合時の外観図
【図4】図3の正面図
【図5】バックルとタングの係合状態を示す側面図
【図6】図5の正面図
【図7】シートベルト取外し時の説明図
【図8】車両のシートベルト装置の他の実施例を示すバックルとタングの非係合時の外観図
【図9】図8の正面図
【図10】タングをバックルに係合した状態で示す側面図
【図11】図10の正面図
【図12】移動機構の作動状態を示す側面図
【図13】図12の正面図
【図14】タングの斜視図
【図15】(a)はプリテンショナ非作動時の断面図、(b)はプリテンショナ作動時の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
シートベルトの拘束力を高め、ショルダベルトがラップベルト側へずれ込むのを確実に防止するという目的を、乗員の上半身を拘束するショルダベルトおよび乗員の腰部を拘束するラップベルトからなるシートベルトと、該シートベルトを引出し可能に巻取るリトラクタと、上記シートベルトに摺動可能に支持されショルダベルトおよびラップベルトを区画する係合部材と、車体に取付けられて上記係合部材が係合可能な被係合部材と、を備えた車両のシートベルト装置において、上記係合部材は、間隔を設けてシートベルトを摺動可能に支持する一対の支持部を備え、上記係合部材と被係合部材との係合時、または、係合部材と被係合部材との係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束手段を設けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0017】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は車両の3点式シートベルト装置を示す斜視図、図2はセンタピラー下部周辺構造を示す斜視図である。
【0018】
この実施例では、シートの一例として右側のフロントシート1を示している。該フロントシート1は、乗員の着座面を構成するシートクッション2と、乗員の背もたれ面を構成するシートバック3と、乗員の頭部を保持するヘッドレスト4と、乗員の肘掛け部を構成するアームレスト5とを備えている。
【0019】
図1に示すように、上述のフロントシート1には、3点式シートベルト装置6が取付けられている。この3点式シートベルト装置6のシートベルト7は、乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダベルト8と、乗員の腰部を跨いで横方向(車幅方向)掛け渡されるラップベルト9とから構成される。
ここで、上述のショルダベルト8とラップベルト9とは一体に連なって構成されている。
【0020】
ショルダベルト8の上端部は、センタピラー10の上部に取付けられたベルトガイド11に吊り下げ支持されている。また、ショルダベルト8の車室外側端部は、ショルダベルト用プリテンショナ付きのリトラクタ12(または、ロードリミッタ内蔵型のリトラクタ)に引出し可能に巻取られている。
このショルダベルト用プリテンショナ付き、またはロードリミッタ内蔵型のリトラクタ12は、ショルダベルト8の先端部を巻取るリトラクタ本体と、ショルダベルト8を引き込むショルダベルト用プリテンショナ部(または所定荷重以上でショルダベルトを繰出すロードリミッタ)とが一体になって構成されている。
【0021】
図2に示すように、上述のリトラクタ12は、センタピラーインナ13に形成した開口部を利用して、センタピラー閉断面内に位置するように該センタピラーインナ13に取付けられ、かつセンタピラー10の車室内側を覆うピラートリム14により車室内側から覆われる。
【0022】
図1に示すように、シートベルト7には係合部材としてのバックル15を摺動可能に支持し、このバックル15で、シートベルト7を、乗員の上半身を拘束するショルダベルト8と、乗員の腰部を拘束するラップベルト9とに区画すべく構成している。
上述のバックル15は、車体に取付けられた被係合部材としてのタング16に係合固定されるものである。
【0023】
上述のラップベルト9の車室外側端部は、図2に示すように、下部支持部材としての下部アンカ17に固定されたラップベルト用プリテンショナ18に取付けられている。これにより、ラップベルト9の車室外側端部は、ラップベルト用プリテンショナ18を介して下部アンカ17に支持される。
このラップベルト用プリテンショナ18は、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、ラップベルト9を引込んで、該ラップベルト9に張力を与えるものであって、この実施例では、インフレータ型の装置を採用している。
【0024】
図2に示すように、インフレータ型のプリテンショナ18は、略円筒形状のシリンダ19(いわゆる、プリテンショナケース)と、該シリンダ19の内部に収容されたピストンと、シリンダ19の内部に収容された火薬等のガス発生剤と、ガス発生剤に点火する点火装置20と、一端がピストンに連結され他端がラップベルト9に連結されるワイヤ21と、を有する。
このワイヤ21は、ラップベルト9からラップベルト用プリテンショナ18へ掛け渡されるカバー部材22により覆われている。
【0025】
車両の急減速時もしくは衝突予知時(急減速は減速度センサ、いわゆるGセンサで検出することができ、また、衝突予知は自車と他車あるいは障害物との間の車間距離をレーザで検出し、この車間距離の変化量をCPUで演算して検出することができる)に、CPUから点火装置20へ信号が送られる。
【0026】
この信号を受けた点火装置20がガス発生剤に点火すると、シリンダ19の内部にガスが発生し、これによりピストンが前方へ移動して、このピストンの移動によりワイヤ21が瞬時に引っ張られる。これに伴い、ワイヤ21に連結されたラップベルト9が車室外側下方へ引っ張られ、乗員の腰部がシート1なかんずく、シートクッション2に確実に固定される。
【0027】
ここで、上述のプリテンショナ18は、図2に示すように、ボディの一部23に凹設された溝部24に嵌め込まれており、このプリテンショナ18の溝部24への嵌め込み部分は、ブラケット25により該ボディの一部23の上面に固定されている。
【0028】
なお、図1、図2において、26はフロントドア開口、27はリヤドア開口、28はフロアパネル、29はクロスメンバ、30はサイドシルである。
図3はバックル15とタング16の非係合時の外観図(図1の各要素15,16を車外側から見た状態で示す側面図)、図4は図3の正面図、図5はバックル15をタング16に係合した状態で示す側面図、図6は図5の正面図である。
【0029】
図3〜図6に示すように、係合部材としてのバックル15は、ボックス状のバックル本体31を有しており、このバックル本体31の側壁31a,31bには、その対向位置にベルト挿通孔32,33を開口形成すると共に、バックル本体31の底壁31cには、タング16を着脱可能に挿入するための開口部34を形成している。
また、バックル本体31の内部には、車幅方向に間隔を設けてシートベルト7を摺動可能に支持する一対の支持部としての一対のロッド35,36を、前後方向に向けて取付けている。
【0030】
そして、シートベルト7を側壁31bのベルト挿通孔33からバックル本体31内に導入した後に、このシートベルト7を各ロッド36,35の下部を通して側壁31aのベルト挿通孔32からバックル本体31外に導出し、このバックル15により、シートベルト7をショルダベルト8とラップベルト9とに区画するように構成している。
【0031】
さらに、バックル本体31内において一方のロッド35の上方部、詳しくは斜め上方部にはフック軸37を前後方向に向けて取付け、図5に示すように、シートベルト7と干渉しないようにフック軸37の前後位置には前後一対のフック38,38を枢着している。
これらフック38,38の上端部は、図4に示すように車幅方向内方に向けてL字状に屈曲形成されており、各フック38,38の屈曲部相互間を連結片39で前後方向に一体連結している。
【0032】
一方、被係合部材としてのタング16は、図3に示すように、その上方部前後の一対のコーナ部16a,16aと、このコーナ部16a,16aよりも上側の拘束突部16bとを備えており、図4に示す非係合状態から、図6に示すように、バックル15をタング16に係合した係合時に、上記拘束突部16bがバックル15の一対のロッド35,36間のシートベルト7を下方から上方に押し上げて車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束するように構成している。この拘束時には、シートベルト7はロッド35,36と拘束突部16bの上端部との合計3点で拘束支持される。
上述のフック38は、その下部に係止爪38aと傾斜面38bとを備えると共に、該フック38は図4、図6の反時計方向(タング16の拘束突部16bを係合する方向)に常時バネ付勢されており、上述のロッド35が該フック38のストッパを兼ねるように構成している。
【0033】
図4に示す非係合状態から図6に示すようにバックル15をタング16に係合させる時、拘束突部16bの上端がフック38の傾斜面38bに当接し、一旦フック38をバネ付勢力に抗して後退させた後に、拘束突部16bの下端が傾斜面38bを通過すると、フック38はバネ付勢力により係合方向へ回動して、該フック38の係止爪38aがタング16のコーナ部16aに係合され、図6に示すような車両前方視で略W字状のシートベルト拘束状態を維持するものである。
【0034】
また、図3〜図6に示すように、バックル本体31の上部には、シートベルト7の取外し時において、フック38によるタング16の係合を解徐するための解徐部材40(いわゆる押圧ボタン)を設けている。
この解徐部材40は、解徐ロッド40aを有する一方、コイルスプリング41により常時非解徐方向(この実施例では、上方)にバネ付勢されており、シートベルト7取外しに際して、解徐部材40を押圧操作すると、その解徐ロッド40aが図5に示す連結片39を介して前後一対のフック38,38を同時に解徐方向に回動するので、図7に示すように、フック38によるタング16の係合が解徐(アンロック)されて、バックル15をタング16から取外すことができる。
【0035】
なお、図中、矢印Fは車両の前方を示し、矢印Rは車両の後方を示し、矢印INは車両の内方を示し、矢印OUTは車両の外方を示す。
【0036】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
バックル15をタング16に係合しない状態では、該バックル15はシートベルト7に摺動可能に支持されており、乗員の体格に応じて自由な位置に摺動させることができる。
【0037】
バックル15を図6に示すように、タング16に装着すると、タング16の拘束突部16bがバックル15の一対のロッド35,36間のシートベルト7を押上げて車両前方視で略W字状にシートベルト7を拘束すると共に、該シートベルト7をショルダベルト8とラップベルト9とに区画するので、乗員を3点式シートベルト装置6で拘束することができる。
上述のバックル15とタング16の係合時において、車両の急減速もしくは衝突予知が検出されると、プリテンショナ18が作動して、ラップベルト9に張力を与えるが、シートベルト7は拘束突部16bで拘束されているので、ショルダベルト8がラップベルト9側へずれ込むことはなく、ラップベルト9により乗員の腰部の拘束力を高めることができる。
【0038】
一方、乗員に装着したシートベルト7を取外す場合には、図7に示すように、解徐部材40を押下げ操作すると、一対のフック38,38が同時に後退位置に回動し、フック38による拘束突部16bの係合を解徐するので、バックル15をタング16から抜き取って、乗員に装着したシートベルト7を取外すことができる。
【0039】
このように、図1〜図7で示した実施例の車両のシートベルト装置は、乗員の上半身を拘束するショルダベルト8および乗員の腰部を拘束するラップベルト9からなるシートベルト7と、該シートベルト7を引出し可能に巻取るリトラクタ12と、上記シートベルト7に摺動可能に支持されショルダベルト8およびラップベルト9を区画する係合部材(バックル15参照)と、車体に取付けられて上記係合部材(バックル15)が係合可能な被係合部材(タング16参照)と、を備えた車両のシートベルト装置であって、上記係合部材(バックル15参照)は、間隔を設けてシートベルト7を摺動可能に支持する一対の支持部(ロッド35,36参照)を備え、上記係合部材(バックル15)と被係合部材(タング16)との係合時に、上記係合部材(バックル15)の一対の支持部(ロッド35,36)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する拘束手段(拘束突部16b参照)を設けたものである(図1、図4、図6参照)。
この構成によれば、シートベルト7側の係合部材(バックル15)を車体側の被係合部材(タング16)に係合した係合時(図6参照)に、上述の拘束手段(拘束突起16b)により一対の支持部(ロッド35,36)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する簡単な構成によりシートベルト7の拘束力を高め、ショルダベルト8がラップベルト9側へずれ込むのを確実に防止することができる。
【0040】
また、上記拘束手段は、係合部材(バックル15参照)と被係合部材(タング16参照)との係合時に、上記係合部材(バックル15)の一対の支持部(ロッド35,36参照)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する拘束突部16bを、上記被係合部材(タング16参照)に設けたものである(図6参照)。
この構成によれば、係合部材(バックル15)と被係合部材(タング16参照)との係合時に、被係合部材(タング16)に設けた拘束突部16bにより、一対の支持部(ロッド35,36)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する簡単な構成によりシートベルト7の拘束力を高め、ショルダベルト8がラップベルト9側へずれ込むのを確実に防止することができる。
【0041】
さらに、上記ラップベルト9の車体への取付け部に、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、該ラップベルト9に張力を与えるプリテンショナ18を備えたものである(図1参照)。
この構成によれば、シートベルト7を略W字状に拘束した状態下において、ラップベルト9のプリテンショナ18を作動させることにより、該ラップベルト9による乗員拘束性、特に、乗員腰部の拘束性を高めることができる。
【実施例2】
【0042】
図8〜図15は車両のシートベルト装置の他の実施例を示すものである。
この実施例では、図8に示すように、シートベルト7側に係合部材としてのタング50を設ける一方、車体側には該タング50が係合可能な被係合部材としてのバックル60を設けている。
【0043】
図8はタング50をバックル60に係合させていない状態の側面図、図9は図8の正面図、図10はタング50をバックル60に係合させた状態の側面図、図11は図10の正面図、図12は後述する移動機構を構成するプリテンショナ70(図11、図13、図15参照)が作動した時の側面図、図13は図12の正面図、図14はタング50の斜視図、図15はプリテンショナ70の内部構造を示す説明図である。
【0044】
図10、図11、図14に示すように、上述のタング50はアウタタング51(いわゆる外側プレート)と、このアウタタング51に対して上下動可能に内設されたインナタング52(いわゆる内側プレート)との2部材から構成されており、アウタタング51とインナタング52との間にシートベルト7の配設を許容する隙間が形成されている。
また、上述のアウタタング51の左右の側壁51a,51bには、シートベルト7を挿通するベルト挿通孔53,54を開口形成し、これらのベルト挿通孔53,54を、間隔を隔ててシートベルト7を摺動可能に支持する一対の支持部に設定している。
【0045】
図11に示すように、上述の一対のベルト挿通孔53,54と対応するように、インナタング52にもベルト挿通孔55が形成されている。
そして、シートベルト7をタング50の一側から他側に向けて各ベルト挿通孔53,55,54の順に挿通し、このタング50により、シートベルト7を、乗員の上半身を拘束するショルダベルト8と、乗員の腰部を拘束するラップベルト9とに区画すべく構成している。なお、ショルダベルト8の車室外側端部がベルトガイド11で案内された後にリトラクタ12で引出し可能に巻取られる点については先の実施例1と同様である。
【0046】
一方、バックル60は、基部61と、この基部61の上部に一体的に取付けられたバックル本体62とを備えており、図10、図11に示すように、該バックル本体62には上述のタング50の下部を挿入許容するように上方が開放された空間部63を形成している。
【0047】
図10、図14に示すように、タング50におけるアウタタング51の下部は、バックル本体62の空間部63に挿入可能となるように先細状に形成されており、この先細部51cには車幅方向に貫通する係合孔56が形成されている。
【0048】
また、上述のバックル本体62の空間部63は、その上側開放部の前後方向の幅が、図10に示すようにインナタング52のバックル本体62内への挿入を規制する大きさに形成されており、タング50をバックル本体62に装着した時、アウタタング51の先細部51cを空間部63内へ挿入許容する一方、インナタング52はバックル本体62の上側開放部の口縁と干渉するように構成している。
さらに、上述のバックル本体62の空間部63内には、アウタタング51の係合孔56に係合するフック64を設けている。この実施例では、該フック64はその下部のフック軸65と一体的に形成されており、このフック軸65はバックル本体62の下部に形成された長孔66に沿って下側へ移動可能に構成されているが、フック軸65とフック64とをそれぞれ別々に形成し、フック軸65に対してフック64を回動可能に枢着する構成を採用してもよい。
【0049】
また、上述のバックル本体62の空間部63内には、上述のフック64を常時係合方向へバネ付勢する付勢手段としての板バネ67を設ける一方、フック64を隔てた板バネ67とは反対側には、シートベルト7の取外し時において、フック64によるタング50の係合を解徐するための解徐部材68(いわゆる押圧ボタン)を設けている。
この解徐部材68は、解徐ロッド68aを有する一方、コイルスプリング69により常時非解徐方向(この実施例では外方)にバネ付勢されており、シートベルト7の取外しに際して、解徐部材68を押圧操作すると、その解徐ロッド68aがフック64を図11に仮想線で示す解徐方向に回動するので、フック64によるタング50の係合が解徐(アンロック)されて、タング50をバックル本体62から取外すことができる。
【0050】
上述のバックル60の基部61には、ワイヤ配設孔71を形成しており、このワイヤ配設孔71に配設したワイヤ72で、フック軸65とプリテンショナ70内のピストン74(図15参照)とを連結している。
上述のプリテンショナ70は図15に示すように構成している。
【0051】
すなわち、このプリテンショナ70としては、インフレータ型のものを採用し、該プリテンショナ70は、略円筒形状のシリンダ73と、このシリンダ73の内部に収容されたピストン74と、シリンダ73の内部に収容されガス発生剤への点火時にシリンダ73内にガスを発生させるインフレータ75と、を備え、上述のワイヤ72をシリンダ73の一端から該シリンダ73内に導入した後に、このワイヤ72を上述のピストン74に連結している。また、上述のシリンダ73内には、偏心カムを利用したロック部材76が、取付け軸77を中心として回転可能に配設されており、インフレータ75の作動後に、ロック部材76の周面に形成されたロック爪部76aがワイヤ72に作用して、該ワイヤ72がシリンダ73から引出されるのをロックするように構成している。
【0052】
ここで、上述のフック64とワイヤ72とプリテンショナ70との三者で、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、係合部材としてのタング50の一対の支持部(ベルト挿通孔53,54参照)と、拘束部(インナタング52におけるベルト挿通孔55の下部口縁が拘束部78を構成する)とを相対移動させて図13に示すように、シートベルト7を車両前方視で略W字状に拘束する移動機構79を構成している。この拘束時には、シートベルト7は一対のベルト挿通孔53,54、詳しくは、その上側孔縁と拘束部との合計3点で拘束支持される。
つまり、図15で示したインフレータ75は、車両の急減速時もしくは衝突予知時に作動するように構成されており、この急減速時もしくは衝突予知時には、ワイヤ72がピストン74で引っ張られる。
【0053】
このため、アウタタング51の係合孔56に係合したフック64は、フック軸65と共に下動し、図11に示す状態から図13に示すように、タング50のうちのアウタタング51のみを下方に引っ張る。インナタング52はバックル本体62と干渉して動かないので、結果的にインナタング52がアウタタング51に対して相対移動し、このインナタング52の拘束部78が一対の支持部としてのベルト挿通孔53,54間のシートベルト7を上方に押し上げて、該シートベルト7を車両前方視で略W字状に拘束するものである。
なお、車両の急減速は減速度センサ(いわゆるGセンサ)で検出することができ、また、衝突予知は自車と他車あるいは障害物との間の車間距離をレーザで検出し、この車間距離の変化量(または、変化率)をCPUで演算して検出することができる。
【0054】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
タング50をバックル60に係合しない状態では、該タング50はシートベルト7に摺動可能に支持されており、乗員の体格に応じて自由な位置に摺動させることができる(図8、図9参照)。
【0055】
図10、図11に示すように、タング50をバックル60に装着すると、アウタタング51の係合孔56がフック64で係止される。この状態においては、シートベルト7は各ベルト挿通孔53,54,55を介して調整可能であるため、乗員の着座姿勢に応じて、シートベルト7を調整することができる。
【0056】
また、上記タング50によりシートベルト7は、乗員の上半身を拘束するショルダベルト8と、乗員の腰部を拘束するラップベルト9とに区画されるので、3点式シートベルト構造となる。
タング50とバックル60との係合後において、車両の急減速もしくは衝突予知が検出されると、図15に示すプリテンショナ70のインフレータ75が作動し、移動機構79によりタング50のうちのアウタタング51を下方に引っ張って、一対の支持部(ベルト挿通孔53,54参照)と拘束部78とを相対移動させ、図13に示すように、シートベルト7(詳しくは一対の支持部間のシートベルト)を車両前方視で略W字状に拘束する。これにより、ラップベルト9で乗員の腰部の拘束力を高めることができる。
【0057】
図15に示すプリテンショナ70の作動後、すなわち、拘束部78でシートベルト7を拘束した後に、図1に示すラップベルト用プリテンショナ18が作動するので、上述のラップベルト9により乗員の腰部の拘束力はさらに高められる。この際、シートベルト7は拘束部78で拘束されているので、ショルダベルト8がラップベルト9側へずれ込むこともない。
【0058】
一方、図11に示す通常のタング装着状態から、乗員に装着したシートベルト7を取外す場合には、同図に示す解徐部材68バックル本体62の内方側へ押圧操作すると、その解徐ロッド68aでフック64を図11に仮想線で示すアンロック位置に回動させることができるので、フック64によるアウタタング51の係合が解徐され、タング50をバックル60から抜き取って、乗員に装着したシートベルト7を取外すことができる。
【0059】
このように、図8〜図15で示した実施例2の車両のシートベルト装置は、乗員の上半身を拘束するショルダベルト8および乗員の腰部を拘束するラップベルト9からなるシートベルト7と、該シートベルト7を引出し可能に巻取るリトラクタ12(前図参照)と、上記シートベルト7に摺動可能に支持されショルダベルト8およびラップベルト9を区画する係合部材(タング50参照)と、車体に取付けられて上記係合部材(タング50)が係合可能な被係合部材(バックル60参照)と、を備えた車両のシートベルト装置であって、上記係合部材(タング50)は、間隔を設けてシートベルト7を摺動可能に支持する一対の支持部(ベルト挿通孔53,54参照)を備え、係合部材(タング50)と被係合部材(バックル60)との係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材(タング50)の一対の支持部(ベルト挿通孔53,54)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する拘束手段(拘束部78参照)を設けたものである(図13参照)。
この構成によれば、シートベルト7側の係合部材と(タング50参照)を車体側の被係合部材(バックル60参照)との該係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時)に、上述の拘束手段(拘束部78)により一対の支持部(ベルト挿通孔53,54)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する簡単な構成によりシートベルト7の拘束力を高め、ショルダベルト8がラップベルト9側へずれ込むのを確実に防止することができる。
【0060】
しかも、上記拘束手段は、上記係合部材(タング50参照)の一対の支持部(ベルト挿通孔53,54参照)間のシートベルト7を押して車両前方視で略W字状に該シートベルト7を拘束する拘束部78を備え、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材(タング50参照)の一対の支持部(ベルト挿通孔53,54)と拘束部78とを相対移動させて上記シートベルト7を車両前方視で略W字状に拘束する移動機構79を備えたものである(図11、図13参照)。
この構成によれば、係合部材(タング50)と被係合部材(バックル60)との係合状態下においては、シートベルト7を拘束せず、該シートベルト7の調整操作を可能とし、車両の急減速時または衝突予知時には、移動機構79が、係合部材(タング50)の一対の支持部(ベルト挿通孔53,54)と拘束部78とを相対移動させて、シートベルト7を車両前方視で略W字状に拘束して、シートベルト7のずれを確実に防止することができる。
【0061】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の係合部材は、実施例1のバックル15と、実施例2のタング50に対応し、
以下同様に、
被係合部材は、実施例1のタング16と、実施例2のバックル60に対応し、
支持部は、実施例1のロッド35,36と、実施例2のベルト挿通孔53,54に対応し、
拘束手段は、実施例1の拘束突部16bと、実施例2の拘束部78に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
なお、上記実施例においては車両のシートベルト装置を右側のフロントシートに適用した場合を例示したが、これは左側のフロントシートやリヤシートにも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
7…シートベルト
8…ショルダベルト
9…ラップベルト
12…リトラクタ
15…バックル(係合部材)
16…タング(被係合部材)
16b…拘束突部(拘束手段)
18…プリテンショナ
35,36…ロッド(支持部)
50…タング(係合部材)
53,54…ベルト挿通孔(支持部)
60…バックル(被係合部材)
78…拘束部
79…移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の上半身を拘束するショルダベルトおよび乗員の腰部を拘束するラップベルトからなるシートベルトと、
該シートベルトを引出し可能に巻取るリトラクタと、
上記シートベルトに摺動可能に支持されショルダベルトおよびラップベルトを区画する係合部材と、
車体に取付けられて上記係合部材が係合可能な被係合部材と、を備えた車両のシートベルト装置であって、
上記係合部材は、間隔を設けてシートベルトを摺動可能に支持する一対の支持部を備え、
上記係合部材と被係合部材との係合時、または、係合部材と被係合部材との係合状態における車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束手段を設けた
車両のシートベルト装置。
【請求項2】
上記拘束手段は、係合部材と被係合部材との係合時に、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束突部を、上記被係合部材に設けた
請求項1記載の車両のシートベルト装置。
【請求項3】
上記拘束手段は、上記係合部材の一対の支持部間のシートベルトを押して車両前方視で略W字状に該シートベルトを拘束する拘束部を備え、
車両の急減速時もしくは衝突予知時に、上記係合部材の一対の支持部と拘束部とを相対移動させて上記シートベルトを車両前方視で略W字状に拘束する移動機構を備えた
請求項1記載の車両のシートベルト装置。
【請求項4】
上記ラップベルトの車体への取付け部に、車両の急減速時もしくは衝突予知時に、該ラップベルトに張力を与えるプリテンショナを備えた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−201412(P2011−201412A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70371(P2010−70371)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】