説明

車両の下部車体構造

【課題】簡単な構成で車体の剛性を充分に確保できる車両の下部車体構造を提供する。
【解決手段】車室の底部を形成するフロアパネルFと、このフロアパネルFに沿って車体の前後方向に延びるように設置された外側レール8と、この外側レール8に沿ってスライド自在に支持された乗員用シート2,3とを具備した車両の下部車体構造において、上記フロアパネルFの左右両側端部に、車体の前後方向に延びるサイドシル6を設置するとともに、上記外側レール8の前端部とサイドシル6とを連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置されたシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド自在に支持された乗員用シートとを具備した車両の下部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、フロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置された左右一対のシートスライドレールを有する車両において、このシートスライドレールに沿って第1後部座席および第2後部座席等からなる複数の乗員用シートをスライド自在に支持することにより、この乗員用シートの配列パターンを多様に変化させ得るように構成した自動車のシートスライド装置が知られている。
【特許文献1】特開2003−146120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されているように、車室の後部に広い空間部を設けて乗員用シートを多様なパターンに配列し得るように構成した場合には、上記シートスライドレールに乗員用シートを安定して支持させるとともに、車体剛性を充分に確保して走行安定性を向上させるために、剛性の高い車体フレーム等をフロアパネルに設けて強固な補強を行う必要がある。しかしながら、補強効果を高めるために上記のような車体フレームをむやみに設けると、車体の重量が増大するとともに、構造の複雑化を招くといった問題がある。
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で車体の剛性を充分に確保できる車両の下部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置されたシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド自在に支持された乗員用シートとを具備した車両の下部車体構造であって、上記フロアパネルの左右両側端部には、車体の前後方向に延びるサイドシルが設置されており、上記シートスライドレールは、その前端部が上記サイドシルと連結されていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0006】
本発明によれば、乗員用シートを安定して支持するために所定の剛性を有するシートスライドレールの前端部を、所定の剛性を有するサイドシルに連結するようにしたため、剛性の高い車体フレーム等からなる別体の補強部材を追加して設ける等の手段を講じることなく、上記シートスライドレールを利用して車体を効率よく補強することができ、車体重量や製造コストの増大を抑制しつつ車体の剛性を効果的に向上させることができる。
【0007】
上記シートスライドレールがサイドシルに対して車幅方向内側に離間して設けられている場合、上記シートスライドレールの前端部とサイドシルとの間に、両者を互いに連結する連結部材が設けられていることが好ましい(請求項2)。
【0008】
このようにすれば、サイドシルに対して車幅方向内側に離間して設けられるシートスライドレールを、連結部材を介して上記サイドシルに容易に連結できるという利点がある。
【0009】
上記連結部材は、上記シートスライドレールの前端部と、上記サイドシルの車幅方向内側の縦壁部とを連結するように構成されていることが好ましい(請求項3)。
【0010】
このように、車幅方向に互いに近接するサイドシルの車幅方内側の縦壁部とシートスライドレールの前端部とを連結するようにした場合には、両者を連結する連結部材の構造を簡単化しつつ、車体に入力される前後方向の荷重をこの連結部材を介してサイドシルからシートスライドレールに(またはシートスライドレールからサイドシルに)スムーズに伝達することができるため、上記荷重を効率よく分散支持することができ、車体の剛性をより効果的に向上させることができるという利点がある。
【0011】
上記シートスライドレールは、上記フロアパネルの上面側に配設されており、上記連結部材は、上記フロアパネルの下面側に配設されて上記サイドシルの縦壁部のうちフロアパネルより下方側の部位に端部が接続される本体フレームと、この本体フレームと上記シートスライドレールの前端部とをフロアパネルを挟んで互いに連結する連結ブラケットとを備えることが好ましい(請求項4)。
【0012】
このように、連結部材の本体フレームをフロアパネルの下面側に配設するとともに、フロアパネルの上面側に配設されたシートスライドレールと上記本体フレームとを連結ブラケットを介して連結するようにした場合には、連結部材の本体フレームがフロアパネルの上面側に突出して車室内空間が阻害されるのを防止しつつ、フロアパネルを挟んで上下反対側に設置された上記シートスライドレールと本体フレームとを上記連結ブラケットを介して容易に連結できるという利点がある。
【0013】
上記フロアパネルには、左右のサイドシルどうしを連結するように車幅方向に延びるクロスメンバが設置されており、上記シートスライドレールの前後方向中間部がこのクロスメンバに接続されていることが好ましい(請求項5)。
【0014】
このようにすれば、車体の前後方向に延びるシートスライドレールと車幅方向に延びるクロスメンバとを介して、車体に入力される荷重を車体前後・左右の各方向に効率よく分散させて支持することができ、車体剛性をさらに効果的に向上させることができる。
【0015】
また、本発明において、上記シートスライドレールは、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールを有し、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたベンチシートタイプの乗員用シートが上記ロングレールに沿ってスライド自在に支持されていることが好ましい(請求項6)。
【0016】
このように、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールからなるシートスライドレールを設置するとともに、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたベンチシートタイプの乗員用シートを上記ロングレールに沿ってスライド自在に支持した場合には、上記ベンチシートタイプの乗員用シートを車体の前後方向へ広範囲に亘って移動させることができるとともに、前後方向に長い上記ロングレールにより車体の前後方向における剛性を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0017】
この場合、前後に配列された複数列の乗員用シートがそれぞれ上記左右一対のロングレールに沿ってスライド自在に支持されていることが好ましい(請求項7)。
【0018】
このようにすれば、複数の乗員用シートをロングレールに沿って車体の前後方向にスライド変位させることにより、簡単な構成でシートの多様な配列パターンが得られるとともに、上記ロングレールを有効に利用して車体の広範囲を効果的に補強できるという利点がある。
【0019】
さらに、上記左右一対のロングレールの間に、左右一対のショートレールが配設されるとともに、上記ベンチシートタイプの乗員用シートの前方側に、左右に分割されたセパレートタイプの乗員用シートが配設され、このセパレートタイプの乗員用シートを構成する左右の分割シートが、それぞれ相隣接するロングレールおよびショートレールに沿って個別にスライド自在に支持されていることが好ましい(請求項8)。
【0020】
このように、左右一対のロングレールの間に、左右一対のショートレールを配設するとともに、上記ベンチシートタイプの乗員用シートの前方側に、左右に分割されたセパレートタイプの乗員用シートを配設した場合には、このセパレートタイプの乗員用シートを構成する左右の分割シートを、それぞれ上記ロングレールおよびショートレールに沿って個別にスライド変位させることにより、さらにシートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の車両の下部車体構造によれば、簡単な構成で車体の剛性を充分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1および図2は、本発明に係る車両の下部車体構造の実施形態を示している。この車両の車室底部を形成するフロアパネルF上の前後方向中心部には、互いに独立した右側シート2aおよび左側シート2bからなる中列の乗員用シート2が配設されているとともに、その後方側には、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたいわゆるベンチシートタイプからなる後列の乗員用シート3が配設されている。また、上記中列の乗員用シート2の前方側には、運転席シート1aおよび助手席シート1bからなる前列の乗員用シート1が配設されている。
【0023】
図3は、上記乗員用シート1〜3を取り外した状態におけるフロアパネルFを上側から見た状態を示している。この図3および先の図1、図2に示すように、上記フロアパネルFの左右両側端部には、車体の前方部からその前後方向中間部に至る範囲に亘って前後方向に延びる左右一対のサイドシル6,6が設置されているとともに、上記フロアパネルFの下面には、その左右両側辺部に沿って前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム4,4が、車体の前後方向中間部からその後端部に至る範囲に亘って設置されている。
【0024】
また、図1および図3に示すように、上記サイドシル6よりも後方側に位置する車体の側方部には、車室内側に膨出するリヤホイールハウス5が設けられている。また、上記フロアパネルFの後方部には、図略のスペアタイヤまたはバッテリ等が収容されるスペアタイヤパン7が下方に向けて凹入するように形成されている。
【0025】
上記フロアパネルF上には、車体の左右両側辺部に沿って前後方向に延びる左右一対の外側レール8,8(本発明にかかるロングレールに相当)と、この外側レール8,8の間において前後方向に延びる左右一対の内側レール9,9(本発明にかかるショートレールに相当)とからなるシートスライドレールが設置されている。このうち外側レール8,8は、前列の乗員用シート1の後端部に近接した位置から車体後端部まで延設されている。一方、内側レール9,9は、その全長が上記外側レール8よりも短く設定されており、前列の乗員用シート1の後端部に近接した位置から上記スペアタイヤパン7の設置部近傍まで延設されている。
【0026】
上記外側レール8および内側レール9は、図4および図5に示すように、上面が開口した所定の強度を有する断面C字状の溝型鋼等から構成されている。また、上記外側レール8および内側レール9は、後上がりに傾斜した状態で設置されることにより、略水平に設置された上記フロアパネルFとの離間距離が、後方に至るに従い大きくなるように設定されている(図1参照)。そして、これら外側レール8および内側レール9に沿って、上記中列および後列の乗員用シート2,3が、それぞれ前後方向の所定範囲に亘りスライド可能に支持されている。具体的には、中列の乗員用シート2を構成する右側シート2aが、車体右側の外側レール8およびこれに隣接した内側レール9に沿ってスライド可能に支持されるとともに、左側シート2bが、車体左側の外側レール8およびこれに隣接した内側レール9に沿ってスライド可能に支持され、かつ後列の乗員用シート3が、左右一対の外側レール8,8に沿ってスライド可能に支持されている。
【0027】
図1および図3に示すように、車体の後端部にはリヤバンパー10が設置されており、このリヤバンパー10を構成するバンパーレインフォースメント11の上方部に、上記外側レール8の後端部に設けられた取付プレート8aが取付ボルトを介して固定されている。
【0028】
上記リヤサイドフレーム4は、図4および図5に示すように、上面が開口した断面コ字状の本体部4aと、その内側辺部および外側辺部の上端部に突設されたフランジ部4b,4bとを有し、上記外側レール8の設置部に対応する側方位置でフロアパネルFの下面に沿って車体の前後方向に延びるように設置されている。また、リヤサイドフレーム4の後端部は、図1に示すように、上記バンパーレインフォースメント11の下方部に接合されることにより、上記外側レール8の後端部よりも所定距離Sだけ下方側に位置するように配設されている。
【0029】
上記外側レール8の前端部は、図1および図3に示される連結部材15を介して上記サイドシル6に連結されている。この連結部材15は、上記外側レール8の前端部と平面視で重複する位置からフロアパネルFの下面に沿って車幅方向外側の斜め前方に延び、その先端部が上記サイドシル6の車幅方向内側の縦壁部6aに接合される本体フレーム41と、この本体フレーム41の後端部と上記外側レール8の前端部とをフロアパネルFを挟んで互いに連結する連結ブラケット42とを有している。
【0030】
上記連結部材15の本体フレーム41は、図6および図7に示すように、上面が開口した断面コ字状の本体部41aと、その内側辺部および外側辺部の上端部に突設されたフランジ部41b,41bとを有しており、車幅方向外側を指向して延びるこの本体フレーム41の前端部が、上記サイドシル6の縦壁部6aのうちフロアパネルFより下方側の部位Aに接合されるように構成されている。
【0031】
上記連結ブラケット42は、フロアパネルFの上側に設置された左右一対の上側部材43,43と、フロアパネルFの上側と下側とに亘ってフロアパネルFを貫通するように設置された左右一対の下側部材44,44とから構成されている。このうち上側部材43は、その上端部に形成された上下方向に延びる第1縦壁部45と、この第1縦壁部45の下端部から略水平向きに延びる横壁部46と、この横壁部46の外側端部から下方に延びる第2縦壁部47とを有している。一方、下側部材44は、フロアパネルFに形成されたスリット54に挿通された状態で上下方向に延びる(フロアパネルFを貫通する)第1縦壁部48と、この第1縦壁部48の下端部から略水平向きに延びる横壁部49と、この横壁部49の内側端部から下方に延びる第2縦壁部50とを有している。そして、上側部材43の第1縦壁部45が外側レール8の左右両側面に溶接等により固定されるとともに、下側部材44の第2縦壁部50が上記本体フレーム41の左右両側面に取付ボルト52を介して固定され、かつ上側部材43の第2縦壁部47と下側部材44の第1縦壁部48とが取付ボルト51を介して連結されることにより、フロアパネルFを挟んで上下反対側に設置された上記本体フレーム41の後端部と内側レール9の前端部とが連結ブラケット42を介して連結されている。
【0032】
図3および図5に示すように、上記スペアタイヤパン7の左右両側方部には、このスペアタイヤパン7の設置部に近接した位置において、上記リヤホイールハウス5の車室内側縦壁部5aと、フロアパネルFの車室内側面(上面)とを接続する補強ガセット部材12が設けられ、この補強ガセット部材12に上記外側レール8が取り付けられている。上記補強ガセット部材12は、図5および図8に示すように、リヤホイールハウス5の車室内側縦壁部5aに接合される上部フランジ17と、その下端部から車体の内方側に延びる上壁部18と、その車内側部位に設けられたレール設置用の段部19と、その内側端部から下方に延びる側壁部20と、その下端部から車内側に向けて突設された内側フランジ21と、上記上壁部18および側壁部20の前面および後面を覆うように設置された前後の縦壁部22と、この縦壁部22の下端部に突設された下部フランジ23とを有している。
【0033】
そして、上記補強ガセット部材12の上部フランジ17が、取付ボルト24を介してリヤホイールハウス5の車室内側縦壁部5aに固定されるとともに、上記内側フランジ21が、取付ボルト25を介してスペアタイヤパン7の設置部に近接したフロアパネルFの所定部位およびリヤサイドフレーム4の内側のフランジ部4bに固定され、かつ上記下部フランジ23が、取付ボルト26を介してフロアパネルFの外側端部に固定されることにより、リヤホイールハウス5の車室内側縦壁部5aと、フロアパネルFの車室内側面(上面)とが上記補強ガセット部材12を介して接続されている。また、上記外側レール8が、補強ガセット部材12の段部19上に載置されてボルト止めまたは溶接等の手段で補強ガセット部材12に固定されることにより、後上がりに傾斜した状態で設置された上記外側レール8と、略水平に設置された上記フロアパネルFとの間に、補強ガセット部材12が配設されるようになっている。
【0034】
図1〜図3に示すように、上記外側レール8および内側レール9の前端部から所定距離だけ後方側に位置する部位(前後方向中間部)の下方には、フロアパネルFの上面に沿って車幅方向に延びるクロスメンバ14が設置され、左右のサイドシル6,6がこのクロスメンバ14により互いに連結されるように構成されている。また、このクロスメンバ14の前方側にはレールブラケット16が設置され、このレールブラケット16を介して上記外側レール8および内側レール9の前後方向中間部が上記クロスメンバ14に接続されている。
【0035】
上記レールブラケット16は、図9に示すように、後端部が後拡がりの台形状に形成された上壁部28と、その左右両側辺部から下方に延びる側壁部29と、その後端部に設けられた後部フランジ30と、上記側壁部29の下端部に設けられた下部フランジ31と、左右側壁部29の前面を覆うように設置された前壁部32とを有し、上記レールブラケット15の上壁部28に外側レール8および内側レール9がボトル止めまたは溶接等の手段で固定されるようになっている。
【0036】
そして、上記レールブラケット16の後部フランジ30が、クロスメンバ14の前壁面に取付ボルト33を介して固定されるとともに、上記下部フランジ31が取付ボルト34を介してフロアパネルFの上面に固定されることにより、外側レール8および内側レール9の前端部近傍部位がレールブラケット16を介してクロスメンバ14に接続されている。
【0037】
図3に示すように、上記内側レール9の前端部および後端部は、前後一対の支持ブラケット58,59を介してフロアパネルFに固定されている。このうち内側レール9の後端部を支持する支持ブラケット59は、上記スペアタイヤパン7の前端部に近接したフロアパネルF上に設置されており、図10に示すように、フロアパネルFの上面に沿って水平に延びる底壁部36と、この底壁部36の前後端部から上方に延びる前後一対の縦壁部37とを有している。そして、このうちの底壁部36が取付ボルト35を介してフロアパネルFの上面に取り付けられることにより、上記内側レール9の後端部が支持ブラケット59を介してフロアパネルF上に固定されている。なお、上記内側レール9の前端部を支持する支持ブラケット58は、上記支持ブラケット59と同様の構成を有しているためその説明を省略する。
【0038】
上記スペアタイヤパン7の前端部に近接したフロアパネルFの下面側には、図10および図11に示すように、車幅方向に延びる下面側クロスメンバ39が設置されている。この下面側クロスメンバ39は、スペアタイヤパン7の前辺周縁部を含む車幅方向の所定範囲に沿って配設されるタイヤパン対応部39aと、このタイヤパン対応部39aの左右両端部から車幅方向外側に延びる側方延出部39bとを有し、その左右両端部がリヤサイドフレーム4の車室内側壁面に接合されている。また、上記下面側クロスメンバ39の前方側であって内側レール9,9の後端部が取り付けられる部位には、補強プレート40が設置され、この補強プレート40に上記支持ブラケット38が取付ボルト35により固定されている。また、上記補強プレート40の後辺部下面には、下面側クロスメンバ39の前部フランジ39c(図10参照)が接合されている。
【0039】
上記のように車室の底部を形成するフロアパネルFと、このフロアパネルFに沿って車体の前後方向の広範囲に亘って設置された外側レール8と、この外側レール8に対し相対的に前後長が短い内側レール9とを具備した車両において、これら外側レール8および内側レール9からなるシートスライドレールを後上がりの傾斜状態で設置するとともに、外側レール8および内側レール9に沿って中列および後列の乗員用シート2,3をスライド可能に支持した上記構成によれば、シートの多様な配列パターンが得られるとともに、快適な車室内の居住空間が得られるという利点がある。
【0040】
例えば、図12および図13に示すように、車室の前面およびルーフ部の前部に、フロントガラス56およびルーフガラス57が連続して設置されたいわゆるパノラマルーフタイプの車両において、上記のように外側レール8および内側レール9を後上がりの傾斜状態で設置した場合には、運転席および助手席からなる前列の乗員用シート1の設置高さH1に比べ、その後方側に位置する中列の乗員用シート2および後列の乗員用シート3の設置高さH2およびH3を順次大きく設定することにより、中列および後列の乗員用シート2,3に着座した乗員の視界、つまり上記フロントガラス56およびルーフガラス57等を介して外部を視認する際の視界を充分に確保することができる。
【0041】
また、上記中列の乗員用シート2を前列の乗員用シート1に近接した位置までスライド変位させるとともに、後列の乗員用シート3を最後部までスライド変位させることにより、後列の乗員用シート3に着座した乗員の前方部に広い空間を確保することができる。さらに、中列の乗員用シート2に着座した乗員の前方部に広い空間を確保するために、中列および後列の乗員用シート2,3をそれぞれ後方にスライド変位させる等により、シートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【0042】
そして、フロアパネルFの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるように左右一対のロングレールからなる外側レール8が設置されるとともに、この外側レール8に沿って乗員用シート2,3がスライド可能に支持された車両において、フロアパネルFの左右両側端部に設置されたサイドシル6に、上記外側レール8の前端部を連結した上記構成によれば、簡単な構成で車体の剛性を充分に確保できるという利点がある。
【0043】
すなわち、上記外側レール8は、乗員用シート2,3を安定して支持し得るように所定の剛性を有しており、この外側レール8の前端部を、所定の剛性を有するサイドシル6に連結したことにより、剛性の高い車体フレーム等からなる別体の補強部材を追加して設ける等の手段を講じることなく、上記外側レール8を利用して車体を効率よく補強することができる。したがって、車体重量や製造コストの増大等を防止しつつ、車体の剛性を効果的に向上させることができ、例えば車両の後突時に車体後部に入力された大きな衝撃荷重を、上記外側レール8を介して車体の各部に伝達して効率よく分散支持することができる。この結果、上記衝撃荷重に応じて車体が大きく変形するのを効果的に防止できるとともに、車両の走行時にリヤサスペンション等から入力される荷重により車体が変形し、これに応じて走行安定性が損なわれること等を効果的に防止できるという利点がある。
【0044】
また、上記実施形態のように、外側レール8の前端部とサイドシル6との間に、両者を互いに連結する連結部材15を設けた場合には、図3の例のように、ホイールハウス5の存在に起因して外側レール8がサイドシル6に対して車幅方向内側に離間して設置されるような場合においても、これら互いに離間したサイドシル6と外側レール8とを上記連結部材15を介して容易に連結でき、この連結部材15によりサイドシル6と連結された上記外側レール8を利用して車体を広範囲に亘って効果的に補強できるという利点がある。
【0045】
また、上記実施形態のように、サイドシル6のうち外側レール8に最も近接した車幅方内側の縦壁部6aと、上記外側レール8の前端部とを連結部材15を介して連結するようにした場合には、連結部材15の構造を簡単化しつつ、車体に入力される前後方向の荷重をこの連結部材15を介してサイドシル6から外側レール8に(または外側レール8からサイドシル6に)スムーズに伝達することができるため、上記荷重を効率よく分散支持することができ、車体の剛性をより効果的に向上させることができるという利点がある。
【0046】
また、上記実施形態のように、本体フレーム41と連結ブラケット42とによって上記連結部材15を構成し、このうちの本体フレーム41をフロアパネルFの下面側に配設するとともに、フロアパネルFの上面側に配設された上記外側レール8とこの本体フレーム41とを連結ブラケット42を介して連結するようにした場合には、上記本体フレーム41がフロアパネルFの上面側に突出して車室内空間が阻害されるのを防止しつつ、フロアパネルFを挟んで上下反対側に設置された上記外側レール8と本体フレーム41とを上記連結ブラケット42を介して容易に連結できるという利点がある。
【0047】
また、上記実施形態のように、左右のサイドシル6,6どうしを連結するように車幅方向に延びるクロスメンバ14を設置するとともに、上記外側レール8および内側レール9からなるシートスライドレールの前後方向中間部をこのクロスメンバ14に接続するようにした場合には、車体の前後方向に延びるこのシートスライドレールと車幅方向に延びる上記クロスメンバ14とを介して、車体に入力される荷重を車体前後・左右の各方向に効率よく分散させて支持することができ、車体剛性をさらに効果的に向上させることができるという利点がある。
【0048】
また、上記実施形態のように、フロアパネルFの車幅方向両側端部に、車体側壁部から車室内側に膨出するリヤホイールハウス5の車室内側縦壁部5aと、フロアパネルFの車室内側面(上面)とを接続する補強ガセット部材12を設け、この補強ガセット部材12を介して高剛性なリヤホイールハウス5に上記外側レール8を接続するようにした場合には、この外側レール8による車体の補強効果をより高めることができ、車体の剛性をさらに効果的に向上させることができるという利点がある。
【0049】
また、上記実施形態のように、外側レール8をリヤバンパー10の設置部まで延出した場合には、車両の後突時等に、上記リヤバンパー10に入力された衝撃荷重を上記外側レール8により直接支持することができるため、車体の変形を効果的に防止できるという利点がある。特に、上記実施形態に示すように、外側レール8の後端部を、リヤバンパー10を構成するバンパーレインフォースメント11の上部に固定するとともに、上記外側レール8の設置部に対応する位置においてフロアパネルFの下面に沿って車体の前後方向に延びるように設置されたリヤサイドフレーム4の後端部を、上記バンパーレインフォースメント11の下方部に接合することにより、上記外側レール8の後端部よりも所定距離Sだけ下方側に位置するように設置した場合には、上記外側レール8およびリヤサイドフレーム4により車体の前後方向に延びる立体的な補強構造が構成されるため、車両の後突時等に入力された衝撃荷重を、より安定して支持できるという利点がある。
【0050】
また、上記実施形態のように、フロアパネルFの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対の外側レール8,8(ロングレール)を設置するとともに、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたベンチシートタイプの乗員用シート3を上記外側レール8に沿ってスライド自在に支持した場合には、上記ベンチシートタイプの乗員用シート3を車体の前後方向へ広範囲に亘って移動させることができるとともに、前後方向に長い上記外側レール8により車体の前後方向における剛性を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0051】
また、上記実施形態のように、前後に配列された中列の乗員用シート2および後列の乗員用シート3からなる複数列の乗員用シートを、それぞれ上記一対の外側レール8,8(ロングレール)に沿ってスライド自在に支持した場合には、上記複数の乗員用シート2,3を外側レール8に沿って車体の前後方向にスライド変位させることにより、簡単な構成でシートの多様な配列パターンが得られるとともに、上記外側レール8を有効に利用して車体の広範囲を効果的に補強できるという利点がある。
【0052】
なお、上記後列の乗員用シート3と同様に、中列の乗員用シート2をベンチシートタイプに構成することも可能であるが、上記実施形態に示すように、左右に分割された右側シート2aおよび左側シート2bからなるセパレートタイプのシートとして上記中列の乗員用シート2を設け、このセパレートタイプの乗員用シート2を構成する上記右側シート2aおよび左側シート2bを、それぞれ相隣接する外側レール8および内側レール9に沿って個別にスライド自在に支持した場合には、右側シート2aおよび左側シート2bの前後位置を変化させる等により、さらにシートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【0053】
また、上記実施形態では、車幅方向に離間して設けられた上記外側レール8とサイドシル6とを連結部材15を介して連結するように構成したが、車体構造上可能であれば、例えば外側レール8の設置部を上記実施形態の例よりもさらに車幅方向外方寄りにオフセットする等により、サイドシル6の車幅方向内側の縦壁部6aの直近に上記外側レール8を設置し、これら外側レール8とサイドシル6の縦壁部6aとをボルト止め等によって直接連結するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、フロアパネルFの下面側に配設されるリヤサイドフレーム4と連結部材15の本体フレーム41とを別体に構成したが、これら両部材を一体に構成してもよい。このようにすれば、上記サイドシル6、本体フレーム41、およびリヤサイドフレーム4が一体につながるため、車体の剛性をその前後方向の広範囲に亘ってさらに効果的に向上させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る車両の下部車体構造の実施形態を示す側面断面図である。
【図2】車室内の構造を示す平面図である。
【図3】フロアパネルの上部構造を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図3のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図3のVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】補強ガセット部材の構成を示す斜視図である。
【図9】レールブラケットの構成を示す斜視図である。
【図10】図3のX−X線に沿った断面図である。
【図11】フロアパネルの底面図である。
【図12】本発明に係る下部車体構造を有する車両の外観図である。
【図13】本発明に係る下部車体構造を有する車両の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
2,3 乗員用シート
6 サイドシル
6a (サイドシルの)縦壁部
8 外側レール(ロングレール)
9 内側レール(ショートレール)
14 クロスメンバ
15 連結部材
41 本体フレーム
42 連結ブラケット
F フロアパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置されたシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド自在に支持された乗員用シートとを具備した車両の下部車体構造であって、
上記フロアパネルの左右両側端部には、車体の前後方向に延びるサイドシルが設置されており、
上記シートスライドレールは、その前端部が上記サイドシルと連結されていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両の下部車体構造において、
上記シートスライドレールは、上記サイドシルに対して車幅方向内側に離間して設けられており、
上記シートスライドレールの前端部とサイドシルとの間に、両者を互いに連結する連結部材が設けられていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の車両の下部車体構造において、
上記連結部材は、上記シートスライドレールの前端部と、上記サイドシルの車幅方向内側の縦壁部とを連結するように構成されていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項4】
請求項3記載の車両の下部車体構造に
上記シートスライドレールは、上記フロアパネルの上面側に配設されており、
上記連結部材は、上記フロアパネルの下面側に配設されて上記サイドシルの縦壁部のうちフロアパネルより下方側の部位に端部が接続される本体フレームと、この本体フレームと上記シートスライドレールの前端部とをフロアパネルを挟んで互いに連結する連結ブラケットとを備えたことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、
上記フロアパネルには、左右のサイドシルどうしを連結するように車幅方向に延びるクロスメンバが設置されており、上記シートスライドレールの前後方向中間部がこのクロスメンバに接続されていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載に車両の下部車体構造において、
上記シートスライドレールは、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールを有し、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたベンチシートタイプの乗員用シートが上記ロングレールに沿ってスライド自在に支持されていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項7】
請求項6記載の車両の下部車体構造において、
前後に配列された複数列の乗員用シートがそれぞれ上記左右一対のロングレールに沿ってスライド自在に支持されていることを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項8】
請求項7記載の車両の下部車体構造において、
上記左右一対のロングレールの間に、左右一対のショートレールが配設されるとともに、上記ベンチシートタイプの乗員用シートの前方側に、左右に分割されたセパレートタイプの乗員用シートが配設され、このセパレートタイプの乗員用シートを構成する左右の分割シートが、それぞれ相隣接するロングレールおよびショートレールに沿って個別にスライド自在に支持されていることを特徴とする車両の下部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−110636(P2008−110636A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293692(P2006−293692)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】