説明

車両の制御装置

【課題】必要な冷房能力をより効率的に確保することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1、冷房装置の制御を含む車両の各種制御を司る電子制御ユニット9は、冷房装置の冷房能力の不足を補う冷房能力増大制御の実施に際して、冷房装置の冷房能力の目標値を算出すること、現状の制御下で将来発生可能な冷房能力の推定値を算出すること、それら目標値と推定値とを比較し、その比較結果によって冷房能力が不足すると判定されたときに冷房能力増大制御を実施すること、及び上記目標値に対する上記推定値の不足度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変とすること、を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における冷房装置の効率利用を図るための車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を炎天下で長時間駐車させておくと車室内の温度が著しく上昇する。そのため、駐車後にエンジンを掛けて冷房装置を作動させても、直ちには車室内の温度を低下させることができないことがある。そこで従来、そうした状況下で冷房装置の冷房能力を一時的に増大させるための技術として、特許文献1に記載の車両の制御装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の車両の制御装置では、無段変速機を備える車両において、冷房装置の冷房性能の増大が必要とされるときに、下記の態様で変速機入力軸の目標回転速度を設定するようにしている。すなわち、この車両の制御装置では、アクセル操作量と車速とに基づいて設定される第1の目標回転速度と、冷房能力を高めるように車速に基づき設定される第2の目標回転速度とを求めるようにしている。そしてそれら2つの目標回転速度のうちのいずれか高い方を変速機入力軸の最終的な目標回転速度として設定することで、十分な冷房性能を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−150475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした従来の車両の制御装置では、冷房能力の不足時には、変速機入力軸の回転速度が少なくとも、冷房能力を高めるべく設定された上記第2の目標回転速度以上となるため、十分な冷房能力の確保が可能にはなる。しかしながら、こうした変速機入力軸の目標回転速度の設定は、冷房能力の不足の有無に応じて実施されており、冷房能力がどの程度不足しているかについては全く考慮しておらず、冷房能力の不足の多寡に拘わらず、一律に変速機入力軸の回転速度が高められるようになっている。そのため、状況によっては、変速機入力軸の回転速度が過剰に高められることがあり、不必要な燃費の悪化を招いてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、必要な冷房能力をより効率的に確保することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、冷媒を圧縮するコンプレッサーと、その圧縮された冷媒を冷却するコンデンサーと、その冷却した冷媒を気化したものを冷却するエバポレーターとを有する冷房装置の設けられた車両の制御装置としての請求項1に記載の発明は、次の各手段を備えるようにしている。すなわち、冷房装置の冷房能力の目標値を算出する目標冷房能力算出手段、エンジンの現状の制御下で将来発生可能な冷房能力の推定値を算出する推定冷房能力算出手段、及び目標値と推定値とを比較し、その比較結果によって冷房能力が不足すると判定されたときに冷房能力増大制御を実施する増大制御実施手段、及び目標値に対する推定値の不足度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変とする制御内容可変手段と、である。
【0008】
こうした車両の制御装置では、冷房装置の冷房能力の目標値が算出されるとともに、現状の制御下で将来発生可能な冷房能力の推定値が算出されるようになる。そしてそれらの算出された目標値と推定値とが比較され、その比較結果から冷房能力が不足すると判定されたときに、冷房能力増大制御が実施されるようになる。
【0009】
更に上記の如く構成された車両の制御装置では、目標値に対する推定値の不足度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容が可変とされるようになる。具体的には、目標値に対する推定値の不足度合いが大きい程、冷房能力をより大きく増大させるように冷房能力増大制御の制御内容が可変とされる。例えば容量可変に構成されたコンプレッサーの容量を増大することで冷房能力を増大する場合には、目標値に対する推定値の不足度合いが大きい程、コンプレッサーの容量をより大きく増大させるようにする。またコンデンサーファンの駆動デューティーを増大することで冷房能力を増大する場合、或いはエンジンのアイドル回転速度を増大させることで冷房能力を増大する場合には、目標値に対する推定値の不足度合いが大きい程、駆動デューティー、アイドル回転速度をより大きく増大させるようにする。
【0010】
こうした車両の制御装置では、冷房能力の不足度合いを確認し、その不足の度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容が可変とされるため、必要な冷房能力を過不足無く確保することができる。そのため、本発明の車両の制御装置では、必要な冷房能力をより効率的に確保することができるようになる。
【0011】
乗員の快適性を確保するには、何時までにどの程度の冷房能力を確保するかを目標として明確に規定することが望ましい。その点、請求項2によるように、記目標冷房能力算出手段が、冷房能力の目標値とその目標値の冷房能力が必要となる時期とを算出し、推定冷房能力算出手段が、上記時期における冷房能力の推定値を推定するように構成すれば、必要な時期に、必要な冷房性能を確保することが可能となる。
【0012】
なお冷房能力の指標値としては、請求項3によるように、エバポレーター温度を用いることができる。ちなみにこうした場合のエバポレーター温度の目標値の算出は、例えば請求項4によるように、車室内外の状況からエアコン吹出口温度の目標値を算出するとともに、その算出した値からエバポレーター温度の目標値を算出するように、目標冷房能力算出手段を構成することで行うことで可能である。
【0013】
ところで、最も効率的な冷房能力増大制御が何であるかは、車両の走行状況によって変化する。冷房能力増大制御は、例えば容量可変に構成されたコンプレッサーの容量の増大やエンジンのアイドル回転速度の増大、コンデンサーファンの駆動デューティーの増大などにより行うことができる。このうち、コンプレッサーの容量の増大及びエンジンのアイドル回転速度の増大には、燃費の悪化が伴われる。そこで車載バッテリーが過充電状態にある場合には、コンデンサーファンの駆動デューティーの増大により冷房能力増大制御を実施し、そうでないときには、それ以外の方法で冷房能力増大制御を実施するといったようにすれば、冷房能力増大制御を効率的に行うことができる。したがって、請求項5によるように、車両の走行状況に応じても冷房能力増大制御の制御内容を可変とするように制御内容可変手段を構成することで、冷房能力増大制御を効率的に行うことが可能となる。
【0014】
最も効率的な冷房能力増大制御は、車両の走行速度によって変化する。そこで請求項6によるように、車両の走行速度に応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変とするように制御内容可変手段を構成することで冷房能力増大制御を効率的に行うことが可能となる。例えば車両が高速走行しているときには、エンジンの稼働率(回転速度、負荷)がそもそも高く、冷房能力の増大のため、エンジンの稼働率を多少増大しても、それに伴う燃費の悪化は限られたものとなる。一方、車両が低速走行しているときには、エンジンの稼働率が低く、冷房能力の増大のためのエンジン稼働率の増大に伴う燃費の悪化は顕著となる。そこで車両の高速走行時には、エンジン稼働率の増大による冷房能力増大制御を実施し、低速走行時には、それ以外の手段による冷房能力増大制御を実施する、といったことが考えられる。
【0015】
また最も効率的な冷房能力増大制御は、車載バッテリーの充電度合いに応じても変化する。そこで請求項7によるように、車載バッテリーの充電度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変とするように制御内容可変手段を構成することでも、冷房能力増大制御を効率的に行うことが可能となる。例えば車載バッテリーが過充電状態にあるときに、電動コンデンサーファンの駆動デューティーの増大といったような、電力消費の増大による冷房能力増大制御を実施しても、燃費の悪化は無い。そこでバッテリーが過充電状態にあるときには、電力を用いた冷房能力増大制御を実施し、そうでないときには、電力以外のソースを用いた冷房能力増大制御を実施する、といったことが考えられる。
【0016】
具体的な例としては、請求項8によるように、車載バッテリーが過充電で低車速のときには、電力消費の増大による冷房能力増大制御を実施し、そうでないときには、エンジン稼働率の増大による冷房能力増大制御を実施することなどが考えられる。こうした場合、車載バッテリーの充電状況や車速によって、次の2つの冷房能力増大制御が切り替えられるようになる。第1の冷房能力増大制御は、例えば電動コンデンサーファンの駆動デューティーの増大といったような電力消費の増大による制御である。こうした制御では、車載バッテリーが過充電の状態にあって、その実施に必要な電力を新たに作り出す必要が無ければ、燃費の悪化を伴うことなく冷房装置の冷房能力を増大することができる。また第2の冷房能力増大制御は、例えばコンプレッサーの容量の増大やエンジンのアイドル回転速度の増大、車載変速機のシフトアップの遅延といったようなエンジン稼働率の増大を伴う制御である。こうした制御は、必然的に燃費の悪化を伴うが、高車速時のようにエンジン稼働率がそもそも高い状態では、制御の実施による燃費の悪化は、あまり顕在化しないようになる。そのため、上記のように車載バッテリーの充電状況、車速に応じて冷房能力増大制御の制御内容を切り替えるようにすれば、車両の走行状況に応じて最も効率的な冷房能力増大制御を選択して実施することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の車両の制御装置の一実施形態についてその全体構造を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態での冷房能力増大制御の実施判定に係る制御態様を模式的に示すブロック図。
【図3】同実施形態での冷房能力増大制御の実施判定に係る電子制御ユニットの処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態での冷房能力増大制御に係る電子制御ユニットの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両の制御装置を具体化した一実施形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態の適用される車両の冷房装置の構成を示している。同図に示すように、この車両の冷房装置は、車載されたエンジン1の動力を受けて駆動して、圧縮により冷媒を高温高圧の半液体の状態として吐出するコンプレッサー2を備えている。このコンプレッサー2は、容量可変に構成されており、その容量の増大を通じて冷房装置の冷房能力の増大が可能とされている。
【0019】
コンプレッサー2により加圧された半液状の冷媒は、コンデンサー3に送られる。コンデンサー3に送られた冷媒は、電動コンデンサーファン4の送風により冷却されて、更に液化が進んだ状態でレシーバータンク5に送られる。
【0020】
レシーバータンク5では、液化できなかった僅かな冷媒が液冷媒と分離され、乾燥剤やストレーナにより水分や不純物が取り除かれる。レシーバータンク5で分離された液冷媒は、エキスパンションバルブ6の微小なノズル穴からエバポレーター7内へ噴射され、一気に気化される。
【0021】
気化した冷媒は、エバポレーター7の周囲の熱を奪い、それによりエバポレーター7を冷却する。そこにブロワーファン8の風を通過させることで、冷風を起こす。こうした冷風を車室内に開口する吐出口より送風することで、車室内の冷房が行われる。
【0022】
エバポレーター7を出た冷媒は、再びコンプレッサー2に戻される。こうして冷媒を循環させることで、冷房装置のサイクルが構成されている。
こうした冷房装置を備える車両には、そのエンジン1や冷房装置、変速機等の制御を司る電子制御ユニット9が設けられている。電子制御ユニット9は、中央演算処理装置(CPU)、読込専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)、入出力ポート(I/O)を備えて構成されている。CPUは、車両の各種制御に係る演算処理を実施し、ROMには、制御用の各種プログラムやデータが記憶される。またRAMには、CPUの演算結果やセンサーの検出結果等が一時的に記憶され、I/Oを通じては外部との間で信号の入出力が行われる。
【0023】
こうした電子制御ユニット9には、車両の走行状況等を検出する各種センサーの検出信号がそのI/Oを通じて入力されている。こうして電子制御ユニット9に入力される信号としては、冷房装置の設定温度Tset、室内温度TR、外気温度Tam、日照量TS、バッテリー容量、車速SPDなどがある。
【0024】
さて、こうした本実施の形態では、車両の起動後、冷房装置の冷房能力を増大させるための冷房能力増大制御が必要に応じて実施されるようになっている。こうした冷房能力増大制御の実施可否の判定は、冷房装置の冷房能力の目標値とその推定値との比較を通じて行われる。なお、このときの冷房能力の推定値は、現状の制御下、すなわち上記増大制御の非実施の状態において将来発生可能な冷房能力を推定したものとなっている。そして冷房能力の推定値がその目標値を下回り、冷房能力が不足すると推定されるときに、冷房能力増大制御が実施されるようになっている。
【0025】
なお、本実施の形態では、冷房装置の冷房能力の指標値として、冷房装置のエバポレーター温度を用いるようにしている。ここでのエバポレーター温度とは、エバポレーター7の表面温度を指している。ちなみに、エバポレーター温度が低いほど、冷房装置の冷房能力は高くなる。
【0026】
こうした本実施の形態での冷房能力増大制御の実施可否の判定は、図2に示されるような態様で行われる。すなわち、同図に示すように、実施可否の判定に際しては、まず設定温度Tset、室内温度TR、外気温度Tam及び日照量TSから目標吹出口温度TAOが算出される(S001)。この目標吹出口温度TAOは、現状の状況下で必要な冷房性能を確保するために必要なエアコン吹出口からの送風温度の目標値を指している。
【0027】
目標吹出口温度TAOが算出されると、その目標吹出口温度TAOから目標エバポレーター温度TEOと目標時期とが算出される(S002)。目標エバポレーター温度TEOは、目標吹出口温度TAOを得るために必要なエバポレーター7内の冷媒の温度であり、目標時期は、冷房を効かせることが求められる車両起動後の時間を指している。
【0028】
続いて、現在の車両の走行状況から推定エバポレーター温度TEの推移曲線が演算される(S003)。このときの推定エバポレーター温度TEの推移曲線は、現状の制御下、すなわち上記増大制御の非実施の状態においてエバポレーター温度がどのように推移するかを示したものとなっている。なお、こうした推移曲線の算出は、エンジン回転速度NEや外気温度Tamなどに基づいて行われる。
【0029】
推移曲線が演算されると、その推移曲線から上記目標時期における推定エバポレーター温度TEが算出される。そしてそうした目標時期の推定エバポレーター温度TEと上記目標エバポレーター温度TEOとの比較が行われ(S004、S007)、その比較結果に基づいて冷房能力増大制御の実施可否の判定が行われる。具体的には、上記推定エバポレーター温度TEが目標エバポレーター温度TEOを超えていれば(S004)、そのままでは、冷房能力が不足するとして、冷房能力増大制御を実施するようにしている(S006)。一方、上記推定エバポレーター温度TEが目標エバポレーター温度TEO以下であれば(S007)、冷房能力増大制御は実施されず、通常の制御が行われることになる(S008)。
【0030】
なお冷房能力増大制御は、目標エバポレーター温度TEOに対する推定エバポレーター温度TEの差分ΔTE、すなわち冷房能力の目標値に対する同冷房能力の推定値の不足度合いに応じて行われる(S005)。概念的には、上記差分ΔTEの推移を示す、同図ステップS005のグラフにおいてハッチングで示される領域を埋め合せるように冷房能力増大制御が実施されるようになっている。具体的には、上記不足の度合いが大きいとき程、冷房能力をより大きく増大させるように冷房能力増大制御の制御内容が可変とされている。
【0031】
図3は、こうした本実施の形態での冷房能力増大制御実施判定ルーチンの処理手順を示している。本ルーチンの処理は、車両の起動後、電子制御ユニット9によって周期的に実施されている。
【0032】
さて本ルーチンが開始されると、電子制御ユニット9はまず、ステップS100において、目標エバポレーター温度TEOと目標時期とが算出される。続いて電子制御ユニット9はステップS101において、推定エバポレーター温度の推移曲線を算出し、上記目標時期における推定エバポレーター温度TEを算出する。
【0033】
次に電子制御ユニット9は、ステップS102において、上記目標時期における目標エバポレーター温度TEOと推定エバポレーター温度TEとを比較する。ここで電子制御ユニット9は、推定エバポレーター温度TEが目標エバポレーター温度TEOを上回っていれば(S102:YES)、冷房能力増大制御を実施することとし(S103)、そうでなければ(S102:NO)、通常の制御を実施することとする(S104)。
【0034】
さて、以上の処理の結果、冷房能力増大制御の実施が決定された場合、図4に示されるルーチンを通じて冷房能力増大制御が実施される。このときの本実施の形態では、上述したように目標エバポレーター温度TEOに対する推定エバポレーター温度TEの差分ΔTEが大きいとき程、冷房能力の増大度合いが大きくなるように冷房能力増大制御の制御内容を可変とするようにしている。
【0035】
更に本実施の形態では、そのときの車両の走行状況に応じても冷房能力増大制御の制御内容を可変とするようにしている。そしてそれにより、より効率的に冷房能力を増大するようにしている。具体的には、本実施の形態では、電動コンデンサーファン4の駆動デューティーの増大による冷房能力増大制御と、コンプレッサー2の容量の増大、エンジン1のアイドル回転速度の増大及びシフトアップの遅延による冷房能力増大制御との2つの制御を車両の走行状況に応じて使い分けるようにしている。
【0036】
ここで前者の冷房能力増大制御は、電力消費を伴うものの、その実施に必要な電力を新たに作り出す必要が無いときには、燃費の悪化を伴わずに冷房能力を増大可能となっている。一方、後者の冷房能力増大制御は、エンジン1の稼動率を増加させてコンプレッサー2をより多く稼動させることで冷房能力を増大するものであり、必然的に燃費の悪化を伴うものとなっている。ただし、高車速時には、そもそものエンジン1の稼動率が高く、その実施に伴う燃費の悪化は、余り顕在化しないようになる。また後者の制御では、前者の制御に比して、冷房能力をより大きく増大することが可能ともなっている。
【0037】
そこで本実施の形態では、車速が低く、且つ車載バッテリーが過充電の状態にあってオルタネーターの発電量を増大させずとも電動コンデンサーファン4の駆動デューティーを増大することのできるときには、冷房能力増大制御として前者の制御を実施するようにしている。一方、車載バッテリーが過充電の状態に無いときや高車速時には、冷房能力増大制御として後者の制御を実施するようにしている。
【0038】
すなわち、本実施の形態では、図4に示すように、冷房能力増大制御が開始されると、電子制御ユニット9はまずステップS200において車載バッテリーが過充電の状態にあるか否かを確認する。ここで電子制御ユニット9は、車載バッテリーが過充電の状態にあれば(S200:YES)、ステップS201において、高車速であるか否かを確認し、高車速でなければ(S201:NO)、ステップS202に進む。そして電子制御ユニット9は、そのステップS202において、電動コンデンサーファン4の駆動デューティーを最大に設定して本ルーチンの処理を終了する。
【0039】
一方、車載バッテリーが過充電の状態に無いか(S200:NO)、車両が高車速で走行しているか(S201:YES)のいずれかに合致すれば、電子制御ユニット9は処理をステップS203に進める。そして電子制御ユニット9はそのステップS203において、目標エバポレーター温度TEOに対する推定エバポレーター温度TEの差分ΔTEに応じて、コンプレッサー容量の増大率、アイドル回転速度の増大率及びシフトアップの遅延率を設定する。ここでの増大率、遅延率の設定は、差分ΔTEが大きく、冷房能力の不足度合いが大きいとき程、増大率、遅延率が大きくなるように行われる。
【0040】
その後、電子制御ユニット9は、ここで設定した増大率、遅延率に応じて、ステップS204でコンプレッサー2の容量を増大し、ステップS205でアイドル回転速度を増大し、更にステップS206でシフトアップの遅延を行った上で、本ルーチンの処理を終了する。
【0041】
なお、こうした本実施の形態では、図3のステップS100の処理が上記目標冷房能力算出手段の行う処理に、同図3のステップS101の処理が上記推定冷房能力算出手段の行う処理にそれぞれ相当する。また本実施の形態では、図3のステップS102の処理が上記増大制御実施手段の行う処理に相当し、図4のステップS203の処理が上記制御内容可変手段の行う処理に相当する。そして以上の処理を行う電子制御ユニット9が上記目標冷房能力算出手段、上記推定冷房能力算出手段、上記増大制御実施手段及び上記制御内容可変手段のそれぞれに相当する構成となっている。
【0042】
以上説明した本実施の形態の車両の制御装置によれば、次の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態に係る車両の制御装置では、冷房装置の冷房能力の目標値(目標エバポレーター温度TEO)を算出するとともに、現状の制御下で将来発生可能な冷房能力の推定値(推定エバポレーター温度TE)を算出するようにしている。そしてそれらの算出された目標値(TEO)と推定値(TE)とを比較し、その比較結果から冷房能力が不足すると判定されたときに冷房能力増大制御を実施するようにしている。更に本実施の形態では、目標値に対する推定値の不足度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変とするようにしている。具体的には、目標値に対する推定値の不足度合いが大きい程、冷房能力をより大きく増大させるように冷房能力増大制御の制御内容を可変とするようにしている。こうした本実施の形態では、冷房能力の不足度合いを確認し、その不足の度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容が可変とされるため、必要な冷房能力過不足無く確保することができる。そのため、本発明の車両の制御装置では、必要な冷房能力をより効率的に確保することができるようになる。
【0043】
(2)本実施の形態では、電子制御ユニット9は、冷房能力の目標値(目標エバポレーター温度TEO)とその目標値の冷房能力が必要となる時期とを算出するとともに、その時期における冷房能力の推定値(推定エバポレーター温度TE)を推定するようにしている。そのため、必要な時期に、必要な冷房性能を確保し、乗員の快適性を確保することができるようになる。
【0044】
(3)本実施の形態では、冷房装置の冷房能力の指標値として、エバポレーター温度を用いるようにしている。また、ここでのエバポレーター温度の目標値(目標エバポレーター温度TEO)の算出は、車室内外の状況からエアコン吹出口温度の目標値を算出するとともに、その算出した値からエバポレーター温度の目標値を算出することで行われている。そのため、冷房能力の目標値や推定値を的確に求めることが可能となる。
【0045】
(4)本実施の形態では、車両の走行状況(車両の走行速度、車載バッテリーの充電度合い)に応じても冷房能力増大制御の制御内容を可変とするようにしている。そのため、車両の走行状況に応じて最適な態様で冷房能力増大制御を効率的に行うことができるようになる。
【0046】
(5)本実施の形態では、車載バッテリーが過充電で車速が低速のときには電力消費の増大による冷房能力増大制御を実施し、そうでないときには、エンジン稼働率の増大による冷房能力増大制御を実施するようにしている。具体的には、車載バッテリーが過充電で車速が低速のときには、電動コンデンサーファン4の駆動デューティーの増大による冷房能力増大制御を行い、そうでないときには、コンプレッサー2の容量増大、エンジン1のアイドル回転速度の増大及びシフトアップの遅延による冷房能力増大制御を行うようにしている。ここで前者の冷房能力増大制御は、電力消費を伴うものの、その実施に必要な電力を新たに作り出す必要が無いときには、燃費の悪化を伴わずに冷房能力を増大可能となっている。一方、後者の冷房能力増大制御は、エンジン1の稼動率を増加させてコンプレッサー2をより多く稼動させることで冷房能力を増大するものであり、必然的に燃費の悪化を伴うものとなっている。ただし、高車速時には、そもそものエンジン1の稼動率が高く、その実施に伴う燃費の悪化は、余り顕著とはならないようになる。また後者の制御では、前者の制御に比して、冷房能力をより大きく増大することが可能ともなっている。そのため、本実施の形態によれば、車両の走行状況に応じて最も効率的な冷房能力増大制御を選択して実施することができるようになる。
【0047】
なお上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、車載バッテリーが過充電の状態にあり、且つ低車速であれば、電動コンデンサーファン4の駆動デューティーを常に最大とするようにしていた。もっとも、より効率的に冷房能力増大制御を行いたいのであれば、目標エバポレーター温度TEOに対する推定エバポレーター温度TEの差分ΔTEが大きいとき程、電動コンデンサーファン4の駆動デューティーが大きくなるように、上記差分ΔTEに応じて同駆動デューティーを可変制御するようにすると良い。
【0048】
・上記実施の形態では、車載バッテリーの充電度合いと車速とに基づいて冷房能力増大制御の制御内容を切り分けるようにしていたが、車載バッテリーの充電度合いのみ、或いは車速のみに基づいて制御内容の切り分けを行うようにしても良い。また車載バッテリーの充電度合いや車速以外の車両の走行状況を示す指標値、例えばエンジン回転速度やエンジン負荷、外気温度、日照量などに基づいて冷房能力増大制御の制御内容を切り分けるようにしても良い。例えばエンジン回転速度やエンジン負荷が高いときには、エンジン稼働率の増大を通じた冷房能力増大制御を行い、そうでないときには、電力消費による冷房能力増大制御を行うことで、効率的な冷房能力の増大を行うことが可能である。また外気温度が高かったり、日照量が大きかったりしてより大きな冷房能力の増大が必要なときには、大幅な冷房能力の増大を確保可能な冷房能力増大制御を選択し、そうでないときには、冷房能力を小幅にしか増大できないものの、燃費の悪化のより少ない冷房能力増大制御を選択することでも、効率的な冷房能力の増大を行うことが可能である。
【0049】
・上記実施の形態では、高車速時や車載バッテリーが過充電の状態にないときには、コンプレッサー2の容量増大、エンジン1のアイドル回転速度の増大及びシフトアップの遅延の3つの制御をセットとして冷房能力増大制御を実施するようにしていた。もっとも、十分な冷房能力の増大が可能であれば、それら3つの制御のうちの1つ或いは2つを割愛するようにしても良い。
【0050】
・上記実施の形態では、車両の走行状況(車載バッテリーの充電度合い、車速)に応じて冷房能力増大制御の制御内容を切り替えるようにしていたが、そうした車両の走行状況に応じた制御内容を切り替えは必須ではない。すなわち、そうした車両の走行状況に応じた制御内容の切り替えを行わずとも、冷房装置の冷房能力の目標値に対する同冷房能力の推定値の不足度合いに応じて冷房能力増大制御の制御内容を可変としさえすれば、冷房能力の不足の度合いに応じて過不足の無いよう、効率的に冷房能力の増大を行うことが可能である。
【0051】
・上記実施の形態では、目標吹出口温度TAOから目標エバポレーター温度TEOと目標時期とを算出するようにしていた。目標時期、すなわち車両の起動から冷房が効くようになるまでの時間の目標値は、予め固定した値として規定しておくことも考えられる。そのような場合、上記目標時期は定数となるため、その算出に係る処理は割愛することが可能となる。
【0052】
・上記実施の形態では、車室内外の状況(設定温度Tset、室内温度TR、外気温度Tam及び日照量TS)からエアコン吹出口温度の目標値を算出するとともに、その算出した値からエバポレーター温度の目標値(目標エバポレーター温度TEO)を算出するようにしていた。もっとも、エアコン吹出口温度の目標値を算出することなく、車室内外の状況から目標エバポレーター温度TEOを直接求めるようにすることも可能である。また目標エバポレーター温度TEOの算出に用いるパラメーターは、上記のもの(設定温度Tset、室内温度TR、外気温度Tam及び日照量TS)に限らず、適宜変更しても良い。
【0053】
・上記実施の形態では、冷房装置の冷房能力の指標値としてエバポレーター温度を用いるようにしていたが、それ以外のパラメーター、例えばエアコン吹出口温度などを冷房能力の指標値として用いることも可能である。
【0054】
・上記実施の形態では、推定エバポレーター温度TEの推移曲線をまず求め、その推移曲線から目標時期における推定エバポレーター温度TEを求めるようにしていた。もっとも、推移曲線を求めることなく、目標時期の推定エバポレーター温度TEをピンポイントで求めることも可能である。そうして目標時期の推定エバポレーター温度TEを求めることとしても、同様に効率的な冷房能力増大制御を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…エンジン、2…コンプレッサー(冷房装置)、3…コンデンサー(冷房装置)、4…電動コンデンサーファン(冷房装置)、5…レシーバータンク(冷房装置)、6…エキスパンションバルブ(冷房装置)、7…エバポレーター(冷房装置)、8…ブロワーファン(冷房装置)、9…電子制御ユニット(目標冷房能力算出手段、推定冷房能力算出手段、増大制御実施手段、制御内容可変手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮するコンプレッサーと、その圧縮された冷媒を冷却するコンデンサーと、その冷却した冷媒を気化したものを冷却するエバポレーターとを有する冷房装置の設けられた車両の制御装置であって、
前記冷房装置の冷房能力の目標値を算出する目標冷房能力算出手段と、
現状の制御下で将来発生可能な冷房能力の推定値を算出する推定冷房能力算出手段と、
前記目標値と前記推定値とを比較し、その比較結果によって冷房能力が不足すると判定されたときに冷房能力増大制御を実施する増大制御実施手段と、
前記目標値に対する前記推定値の不足度合いに応じて前記冷房能力増大制御の制御内容を可変とする制御内容可変手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記目標冷房能力算出手段は、前記冷房能力の目標値とその目標値の冷房能力が必要となる時期とを算出し、
前記推定冷房能力算出手段は、前記時期における前記冷房能力の推定値を推定する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記冷房能力の指標値としてエバポレーター温度を用いる
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記目標冷房能力算出手段は、車室内外の状況からエアコン吹出口温度の目標値を算出するとともに、その算出した値からエバポレーター温度の目標値を算出する
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御内容可変手段は、車両の走行状況に応じても前記冷房能力増大制御の制御内容を可変とする
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御内容可変手段は、車両の走行速度に応じて前記冷房能力増大制御の制御内容を可変とする
請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御内容可変手段は、車載バッテリーの充電度合いに応じて前記冷房能力増大制御の制御内容を可変とする
請求項5又は6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御内容可変手段は、車載バッテリーが過充電で低車速のときには、電力消費の増大による冷房能力増大制御を実施し、そうでないときには、エンジン稼働率の増大による冷房能力増大制御を実施する
請求項5に記載な車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84160(P2011−84160A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237967(P2009−237967)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】