説明

車両の制御装置

【課題】燃料ポンプの作動を停止する制御装置の誤動作の可能性を低減し、信頼性を向上させることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置1は、車両の加速度を検出する加速度センサ12と、加速度センサ12により検出された加速度が所定値αより大きい時エアバッグ装置14を作動させるエアバッグ制御手段18と、燃料ポンプ8の作動を制御する燃料ポンプ制御手段20と、を備え、燃料ポンプ制御手段20は、加速度センサ12により検出された加速度に基づいて所定時間内の車両速度変化を算出する算出手段22を備え、算出手段22により算出された車両速度変化が所定値βより大きい場合に、燃料ポンプ8の作動を停止するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両の加速度を検出して燃料ポンプの作動を制御する車両の制御装置に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時に燃料ポンプの作動を停止する制御装置として、例えば特許文献1に記載されるようなものが提案されている。この特許文献1に記載の装置では、車体に設けられた加速度センサによって車体に強い衝撃を検出すると、高圧用電磁式プレッシャレギュレータを全開にして高圧ラインの燃料圧力を急激に低下させるとともに、フィードポンプの燃料供給動作を停止する。このような制御により、車両の衝突時に、燃料系の損傷箇所からの燃料噴出が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3133586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような制御装置では、加速度センサで検出された加速度が所定値以上であると、車体が衝突したと判断するように構成されている。しかしながら、実際の走行状況においては、例えば車両が段差に乗り上げた場合などに、加速度センサが一時的に大きな加速度を検出することがある。このような場合にも、高圧ラインの燃料圧力を低下させてしまうと、車両の走行が継続できず、かえって走行の妨げとなる。
【0005】
本発明の目的は、燃料ポンプの作動を停止する制御装置の誤動作の可能性を低減し、信頼性を向上させることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、車両の加速度を検出する加速度検出手段と、加速度検出手段により検出された加速度の絶対値が所定値より大きい時エアバッグを作動させるエアバッグ制御手段と、燃料ポンプの作動を制御する燃料ポンプ制御手段と、を備えた車両の制御装置であって、燃料ポンプ制御手段は、加速度検出手段により検出された加速度に基づいて所定時間内の車両速度変化の絶対値を算出する算出手段を備え、算出手段により算出された車両速度変化の絶対値が所定値より大きい場合に、燃料ポンプの作動を停止するように構成される、ことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明においては、算出手段が、加速度検出手段により検出された加速度に基づいて車両速度変化の絶対値を算出する。この車両速度変化の絶対値が所定値より大きい場合、燃料ポンプ制御手段は、燃料ポンプの作動を停止する。ここで、例えば車両が段差に乗り上げる場合、一時的に加速度が大きくなっても、車両速度変化は、車両が衝突した場合に比べて大きくならない。本発明では、燃料ポンプ制御手段が、車両速度変化に基づいて燃料ポンプの作動の継続、停止を判断するので、車両の衝突により加速度が大きくなる場合と、単に車両が段差に乗り上げた場合等に一時的に加速度が大きくなる場合とを区別することが可能となる。このため、本発明の車両の制御装置では、加速度が所定値以上の場合に燃料ポンプの作動を停止する従来の制御装置に比べて、適切でない場合にも燃料ポンプを停止してしまうという誤動作の可能性が低減し、より信頼性のある制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の加速度の推移の例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の速度変化の推移の例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1の構成を示す図である。この図1に示すように、本実施形態の車両の制御装置1は、燃料噴射弁2及び点火プラグ4を有するエンジン6と、エンジン6に燃料を圧送する燃料ポンプ8と、エンジン6を空冷する電動ファン10と、車両の衝突を検出するための加速度センサ12を備えたエアバッグ装置14と、エンジン6、燃料ポンプ8、電動ファン10、及びエアバッグ装置14の動作を制御する制御ユニット16と、を備える。
【0010】
エンジン6は、車両の前方側に取り付けられており、その前方側には電動ファン10が配置されている。
燃料ポンプ8は、燃料を貯蔵する燃料タンク(図示せず)に取り付けられており、この燃料タンクは、車両の後方側に取り付けられている。燃料ポンプ8は、燃料ライン(図示せず)を介してエンジン6に接続され、エンジン6に必要な燃料を圧送可能となっている。
【0011】
エアバッグ装置14は、運転席のハンドル(図示せず)に取り付けられており、また、加速度センサ12は、例えばフロアトンネルに取り付けられている。加速度センサ12は、本実施形態では、静電容量式のものが採用されており、可動電極及び固定電極を有する検出部を備える。このような構造の加速度センサ12では、車両に衝撃が加わることにより可動電極が移動すると、固定電極との間に静電容量の変化が生じ、これを検出部で検出して加速度を計算する構造となっている。本実施形態では、可動電極は、車両の前後方向に可動に配置されており、したがって加速度センサ12は、前方からの衝突に起因する車両の加速度、及び後方からの衝突に起因する車両の加速度の両方を1つの加速度センサ12で検出するようになっている。そして、検出された加速度は、制御ユニット16に出力されるようになっている。
【0012】
制御ユニット16は、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて、エアバッグ装置14の動作を制御するエアバッグ制御手段18と、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて、燃料ポンプ8の動作を制御する燃料ポンプ制御手段20と、を備える。
エアバッグ制御手段18は、加速度センサ12から加速度の信号を受け、この加速度が所定加速度αを超えているか否かを監視する。加速度の絶対値が所定加速度αより大きい場合には、車両が衝突を受けたと判断して、エアバッグ装置14に作動信号を出力するようになっている。
【0013】
燃料ポンプ制御手段20は、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて車両速度変化値を算出する算出手段22を備える。算出手段22は、加速度センサ12から加速度の信号を受け取るたびに、加速度を積分することにより車両速度を算出する。そして、その車両速度と前回算出した車両速度とを差を求めることにより車両速度変化値を算出する。したがって、本実施形態においては、加速度センサ12の加速度信号の頻度に応じた所定時間毎、例えば0.5ms毎の車両速度変化値が算出される。燃料ポンプ制御手段20は、算出手段22で算出された所定時間毎の車両速度変化値を監視し、この車両速度変化値の絶対値が所定速度変化値βより大きい場合には、車両が衝突を受けたと判断して、燃料ポンプ8に作動停止信号を出力するようになっている。
制御ユニット16は、エアバッグ装置14及び燃料ポンプ8の動作の制御を行う他、燃料ポンプ制御手段20から出力された燃料ポンプ8作動停止信号に基づいて、エンジン6の燃料噴射弁2及び点火プラグ4と、電動ファン10に作動停止信号を出力するようになっている。
【0014】
ここで、エアバッグ装置14を作動させる所定加速度αと、燃料ポンプ8の作動を停止させる所定速度変化値βについて説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の加速度の推移の例を示す図である。この図2に示すように、車両が衝突を受けたとき、車両の加速度は、衝突初期に大きなピーク値Aを計測し、その後増減を繰り返しながら徐々に減衰している。所定加速度αは、様々な強さ及び様々な角度等の諸々の衝突条件において予測される車両の加速度を勘案して設定される。本実施形態では、所定加速度αは、様々な条件での衝突初期の車両の加速度のピーク値Aのうちの最小値の絶対値より小さく設定されており、具体的には、所定加速度αの絶対値は、30Gに設定されている。
【0015】
図3は、本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の速度変化の推移の例を示す図である。この図3では、車両の後方から衝突を受けた場合(後突)の速度変化の推移を示している。図3に示すように、車両が衝突(後突)を受けたとき、車両の速度変化ΔVは、衝突の勢いで車両が前方に移動するため、衝突後、次第に増加する。反対に、図示はしないが、車両が前方から衝突を受けた場合(前突)には、加速度は大きな負の値を計測すると共に、速度変化ΔVも、大きく減少するため大きな負の値を計測することとなる。ここで、所定速度変化値βは、様々な条件での衝突における車両速度変化値ΔVを勘案して設定される。本実施形態では、様々な条件での衝突において、衝突以外の場合に生じる速度変化値ΔVとの区別を可能にしながら、衝突の場合には衝突後迅速に衝突判定を行えるように所定速度変化値βが設定されており、具体的には、所定速度変化値βは、4m/sに設定されている。この設定によれば、例えば後突の場合には、図3に示すように車両速度変化値ΔVが衝突後徐々に増加するので、衝突した瞬間に燃料ポンプ制御手段20が衝突判定を行うことはないが、衝突から50ms程度で車両の速度変化値の絶対値が所定速度変化値βに達し、衝突したとの判定が可能となる。
【0016】
このような構造の本実施形態の車両の制御装置1は、次のように動作する。
図4は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1の動作を示すフローチャートである。この図4に示すように、車両の制御装置1は、まず、ステップS1において、加速度センサ12からの加速度信号の読み込みを行う。次に、ステップS2において、算出手段22は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、具体的には加速度を積分することによって車速を算出する。ステップS3において、加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定加速度αを超えているか否かを判断する。加速度の絶対値が所定値αを超えている場合には、制御ユニット16のエアバッグ制御手段18は、車両が衝突したと判断して、ステップS4においてエアバッグ装置14を作動させる。一方、加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定加速度α以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、ステップS4をスキップしてエアバッグ装置14を作動させずにステップS5に進む。
【0017】
ステップS5において、燃料ポンプ制御手段20は、算出手段22で算出された所定時間毎の車速変化値の絶対値が、所定車速変化値βを超えているか否かを判断する。車速変化値が所定車速変化値β以下である場合には、燃料ポンプ制御手段20は、車両の衝突がないと判断し、ステップS6において燃料ポンプ8の作動を継続する。また、この場合、制御ユニット16は、車両の衝突がないとの燃料ポンプ制御手段20の判断に基づいて、ステップS7において、燃料噴射弁2の作動を継続し、ステップS8において点火プラグ4の作動を継続して燃料点火を継続することにより、エンジン6の作動を継続する。更に、制御ユニット16は、ステップS9において、電動ファン10の作動も継続させる。
【0018】
一方、ステップS5において、車両の車速変化値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段20は、車両の衝突があったと判断し、ステップS10に進み、燃料ポンプ8の作動を停止する。また、制御ユニット16は、車両の衝突があったとの燃料ポンプ制御手段20の判断に基づいて、ステップS11において燃料噴射弁2の作動を停止し、ステップS12において点火プラグ4の作動を停止して燃料点火を停止することによって、エンジン6の作動を停止する。更に、制御ユニット16は、ステップS13において、電動ファン10の作動も停止する。
【0019】
このように構成された本実施形態によれば、次のような優れた効果を得ることができる。
燃料ポンプ制御手段20が、車両速度変化値の絶対値が所定速度変化値βを超えたとき、車両が衝突したと判断して燃料ポンプ8の作動を停止すると共に、制御ユニット16がエンジン6の作動も停止する。したがって、車両の衝突時の燃料の流出、引火を防止することができるので、乗員の安全を確保することができる。
【0020】
燃料ポンプ制御手段20の算出手段22が、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて車両速度変化値を算出し、燃料ポンプ制御手段20は、この車両速度変化値の絶対値が所定速度変化値βを超えたときに、車両の衝突があったと判断する。したがって、従来加速度が所定値を超えた場合に車両の衝突があったと判断する手法に比べて、車両の衝突の判断をより正確に行うことができ、よって誤動作の発生の可能性を低減でき、信頼性を向上させることができる。
【0021】
例えば、車両が段差に乗り上げた場合、図2に点線で示すように、車両の衝突ではなくても初期の加速度が所定加速度αを超えてしまう場合がある。つまり、図2に示すように、車両が段差に乗り上げた場合の車両の加速度は、車両が衝突した場合と同様に初期に大きなピーク値Bを計測し、その後急激に減少する。このような場合に、加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値を超えた場合に車両の衝突があったと判断する手法を用いると、段差の乗り越え時の初期のピーク値Bは、車両の衝突時の加速度のピーク値Aとほぼ同じであるため、どちらの場合でも加速度が所定値を超えてしまう。したがって、燃料ポンプ制御手段20において、車両の衝突か段差の乗り上げかを区別することができないから、車両の衝突があったと判断され、燃料ポンプ8の作動が停止してしまう可能性がある。
【0022】
しかしながら、本実施形態では、速度変化値の絶対値が所定速度変化値βを超えるか否かによって燃料ポンプ8の作動停止を制御する。このとき、図3に示すように、車両が段差に乗り上げた場合の車両速度変化値は、初期に或る程度のピーク値Cを計測するものの、その後の車両速度の変化はほとんどない。本実施形態では、燃料ポンプ制御手段20において所定車速変化値βを、ピーク値Cより高く設定しているので、燃料ポンプ制御手段20が、車両の衝突と段差の乗り上げを区別することができ、段差の乗り上げ時に燃料ポンプ8が作動停止してしまうという不具合を防止することができる。
【0023】
エアバッグ装置14の作動のために設けられた加速度センサ12を用いて、燃料ポンプ8の作動の継続、停止を決定しているので、燃料ポンプ制御手段20のための追加の加速度センサを車両に設ける必要がない。したがって、車両の制御装置1の構造を簡略化でき、部品点数を低減することができる。
【0024】
燃料ポンプ制御手段20の算出手段22での計算に必要な加速度として、エアバッグ装置14の加速度センサ12の検出値を利用しながら、エアバッグ制御手段18とは異なる判断手法を用いている。つまり、エアバッグ制御手段18では加速度の絶対値が所定加速度αを超えたか否かで車両の衝突を判断するのに対して、燃料ポンプ制御手段20は、加速度から車両速度変化値を計算し、その車両速度変化値の絶対値が所定車両速度変化値βを超えたか否かで車両の衝突を判断する。
エアバッグ装置14においては、車両の衝突時、瞬時にエアバッグが開く必要があるため、加速度を監視して加速度が所定値を超えた時点でエアバッグ装置14を作動させることによってその機動性を確保している。その一方で、前述のように、車両の衝突以外の理由によっても加速度が所定値を超えることも考えられ、この場合にはエアバッグ装置14が誤動作する可能性がある。
【0025】
これに対して、燃料ポンプ制御手段20においては、燃料の流出を防止するために迅速性は求められるものの、エアバッグ装置14ほどの短時間で作動しなければならないわけではない。そこで、本実施形態では、エアバッグ装置14の加速度センサ12を用いつつ、加速度から車両速度変化値を計算して、車両速度変化値が所定値を超えた時点で燃料ポンプを停止する。この判断手法により、エアバッグ装置14で発生する可能性のある誤動作を防止して、確実性を高めることができる。
このように、本実施形態では、同じ加速度センサ12を用いながら、別々の判断基準を用いているので、エアバッグ装置14の迅速な作動と、燃料ポンプ20の確実な作動停止の両方を確保することができる。
【0026】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、例えば、加速度センサは、1つで2つの方向の加速度を計測できるものに限らず、1つの方向の加速度のみを計測できるものでもよい。この場合には、エアバッグ装置に加速度センサを2つ取り付ければ、前突及び後突の両方の衝突時の加速度を測定することができる。また、加速度センサの取り付け個数は、1つに限らず、2つ以上設けてもよいし、前後方向の加速度を計測するものに限らず、車両の幅方向(横方向)の加速度を計測するものを採用してもよい。加速度センサは、静電容量式のものに限らず、任意のタイプのセンサを採用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 車両の制御装置
6 エンジン
8 燃料ポンプ
12 加速度センサ(加速度検出手段)
14 エアバッグ装置
16 制御ユニット
18 エアバッグ制御手段
20 燃料ポンプ制御手段
22 算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加速度を検出する加速度検出手段と、加速度検出手段により検出された加速度の絶対値が所定値より大きい時エアバッグを作動させるエアバッグ制御手段と、燃料ポンプの作動を制御する燃料ポンプ制御手段と、を備えた車両の制御装置であって、
前記燃料ポンプ制御手段は、前記加速度検出手段により検出された加速度に基づいて所定時間内の車両速度変化を算出する算出手段を備え、前記算出手段により算出された車両速度変化の絶対値が所定値より大きい場合に、前記燃料ポンプの作動を停止するように構成される、
ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15116(P2013−15116A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149930(P2011−149930)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】