説明

車両の前部構造

【課題】 ダッシュパネルと1対のエプロン部との結合を強化し、エプロン部の剛性を高め、ダッシュパネルやエプロン部等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を十分に高めることができる車両の前部構造を提供する。
【解決手段】 ダッシュパネル10の車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部21cを一体的に夫々設け、これら拡大部21cの前端部を1対のサスペンションタワー5に夫々連結し、各拡大部21cをエプロン部13に接合し、この拡大部21cとエプロン部13とで閉断面構造を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前部構造に関し、特に、ダッシュパネルの車幅方向両端部分に設けた1対の拡大部を、1対のエプロン部に連結すると共に1対のサスペンションタワーに連結するようにした構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な車両(自動車)の前部構造において、エンジンルームと車室とを仕切る部位にダッシュパネルが車幅方向に延設され、このダッシュパネルの上側付近(フロントウインドウの前端部分の下側)にカウル部材が車幅方向に延設されている。ダッシュパネルとカウル部材は互いに連結され、そのカウル部材に沿って車幅方向に延びるエアボックスが形成され、このエアボックスの上側がカウルグリルにより覆われている。ところで、ダッシュパネルとカウル部材及びその周辺構造として種々の構造が実用に供されている。
【0003】
特許文献1の車両の前部構造では、ダッシュアッパパネルの水平部の車幅方向各端部には、その上面にカウルアッパプレートとエプロンアッパレインフォースメントの下端が接合され、その下面にカウルサイドパネルとエプロンロアレインフォースメントの上端が接合されている。また、カウルアッパプレートとエプロンアッパレインフォースメントの上端同士が接合され、カウルサイドパネルの外面にエプロンロアレインフォースメントの下端が接合されて、閉断面構造が構成されている。
【0004】
特許文献2の車両の前部構造では、ダッシュパネルの上端部にカウルトップが接合され、そのカウルトップはインナパネルとアウタパネルとロアパネルとを互いに接合した閉断面構造に構成され、カウルトップの車幅方向各端部がサイドアッパパネルに接合されると共に、その端部の前端部分がサスペンションタワーのストラットハウスに連結されている。尚、カウルトップのロアパネルは前方且つ上方へ張出し、そのロアパネルが断面凹形に形成されて、所謂オープンカウル構造が構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開平1−215679号公報
【特許文献2】特開2000−280935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車両の車体構造のように、ダッシュアッパパネルとサスペンションタワーとが連結されていない構造では、ダッシュアッパパネル等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を十分に高めることができない。従って、コーナリングの際等、サスペンションタワーに大きな負荷が加わると、車体側の変形を抑制できず、車両のサスペンション性能を十分に発揮させて操縦安定性を高めることができないという虞がある。
【0007】
また、特許文献2の車両の車体構造のように、カウルトップの車幅方向各端部がサイドアッパフレームに単に接合されているだけでは、カウルトップとサイドアッパフレームとの結合強度を高めることができない。しかも、サイドアッパフレームは閉断面構造に構成されていないため、カウルトップがサスペンションタワーのストラットハウスに連結されているものの、サイドアッパフレームやカウルトップ等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を十分に高めることができないため、前記同様の問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、車両の前部構造において、ダッシュパネルと1対のエプロン部との結合を強化すること、エプロン部の剛性を高めること、しかも、ダッシュパネルと1対のサスペンションタワーを連結し、更に、ダッシュパネルとヒンジピラーとを結合することにより、ダッシュパネルやエプロン部等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を十分に高めること、等である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両の前部構造は、車両のエンジンルームと車室とを仕切る部位に車幅方向に延設されたダッシュパネルと、エンジンルームの左右両端部に配置され且つダッシュパネルの車幅方向両端部が連結される1対のエプロン部とを備えた車両の前部構造において、前記ダッシュパネルは、ダッシュロアパネルと、このダッシュロアパネルに接合されたダッシュアッパパネルとを有し、前記ダッシュパネルの車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部を一体的に夫々設け、これら拡大部の前端部が1対のサスペンションタワーに夫々連結され、前記各拡大部が前記エプロン部に接合され、この拡大部とエプロン部とで閉断面構造が構成されたことを特徴とする。
【0010】
車両のエンジンルームと車室とを仕切る部位にダッシュパネルが車幅方向に延設され、このダッシュパネルの車幅方向両端部が、エンジンルームの左右両端部に配置された1対のエプロン部に連結されている。ダッシュパネルは、ダッシュロアパネルと、このダッシュロアパネルに接合されたダッシュアッパパネルとを有する。ダッシュパネルの車幅方向両端部分に前方へ延出する(張出す)1対の拡大部が一体的に夫々設けられ、これら拡大部の前端部が1対のサスペンションタワーに夫々連結され、各拡大部がエプロン部に接合されている。この拡大部とエプロン部とで閉断面構造が構成されている。
【0011】
このように、ダッシュパネルの各拡大部をエプロン部に接合して、この拡大部とエプロン部とで閉断面構造を構成したので、ダッシュパネルとエプロン部との結合を強化することができ、エプロン部の剛性を高めることができ、しかも、ダッシュパネルの1対の拡大部の前端部をサスペンションタワーに夫々連結したので、ダッシュパネルやエプロン部等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性(車体剛性)を十分に高めることができる。
【0012】
請求項1の発明においては、次の構成を採用可能である。
前記エプロン部は、エプロンアッパパネルとこのエプロンアッパパネルに接合されたエプロンアウタパネルとを有し、前記拡大部がエプロンアッパパネルの下端に接合されると共にエプロンアウタパネルの内面に接合される(請求項2)。前記各拡大部の後端部がサイドドアを支持するヒンジピラーに接合される(請求項3)。
【0013】
前記エプロン部は、エプロンアウタパネルに接合されたエプロンインナパネルを有し、前記拡大部がエプロンインナパネルに上端に接合され、この拡大部によりエプロン部の閉断面を上下に分割して連続閉断面構造が構成される(請求項4)。前記サスペンションタワーの近傍において、エプロンインナパネルが上方へ延長されてエプロンアッパパネルの前端部に接合される(請求項5)。
【0014】
前記ダッシュパネルに後端部が連結されて前方へ張出し且つ車幅方向に延設され且つ車幅方向両端部が1対の拡大部に連結されたカウルフロントパネルと、このカウルフロントパネルとダッシュアッパパネルとを含む部材で囲まれた車幅方向に延びるエアボックスとを設け、前記ダッシュアッパパネルにエアコン用のエア導入口が形成されると共に、カウルフロントパネルの後端部分に車幅方向に延び上方へ立ち上がる縦壁部が一体的に形成される(請求項6)。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の車両の前部構造によれば、特に、ダッシュパネルの車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部を一体的に夫々設け、各拡大部をエプロン部に接合し、この拡大部とエプロン部とで閉断面構造を構成したので、ダッシュパネルとエプロン部との結合を強化すると共にエプロン部の剛性を高め、しかも、1対の拡大部の前端部を1対のサスペンションタワーに夫々連結したので、ダッシュパネルやエプロン部等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を十分に高めることができる。つまり、車体剛性を高め、コーナリングの際等、サスペンションタワーに大きな負荷が加わっても、車体側の変形を抑制でき、車両のサスペンション性能を十分に発揮させて操縦安定性を高めることができる。また、こうした連結構造を、別部材を設けることなく、ダッシュパネルに1対の拡大部を一体的に設けることにより達成したので、連結構造の強度を高め製作コスト的に有利になる。
【0016】
請求項2の車両の前部構造によれば、エプロン部はエプロンアッパパネルとこのエプロンアッパパネルに接合されたエプロンアウタパネルとを有し、拡大部をエプロンアッパパネルの下端に接合すると共にエプロンアウタパネルの内面に接合したので、このエプロンアッパパネルとエプロンアウタパネルと拡大部とで閉断面構造を形成して、ダッシュパネルとエプロン部との結合を確実に強化しエプロン部の剛性を確実に高めることができる。
【0017】
請求項3の車両の前部構造によれば、各拡大部の後端部をサイドドアを支持するヒンジピラーに接合したので、ダッシュパネルとヒンジピラーとを確実に結合して結合強度を高め、ダッシュパネルやエプロン部等のサスペンションタワー周辺の構造の剛性を確実に高めることができる。
【0018】
請求項4の車両の前部構造によれば、エプロン部は、エプロンアウタパネルに接合されたエプロンインナパネルを有し、拡大部をエプロンインナパネルに上端に接合し、この拡大部によりエプロン部の閉断面を上下に分割して連続閉断面構造を構成したので、ダッシュパネルとエプロン部との結合をより確実に強化しエプロン部の剛性(捩じり剛性)をより確実に高めることができる。
【0019】
請求項5の車両の前部構造によれば、サスペンションタワーの近傍において、エプロンインナパネルを上方へ延長してエプロンアッパパネルの前端部に接合したので、エプロンアッパパネルをサスペンションタワーの近傍までの長さとして、エプロン部をほぼ全体に閉断面構造とすることができる。そして、車両への組み付けの際、カウル部材とカウルフロントパネルとダッシュアッパパネルとエプロンアッパパネルとを結合してカウル構成部を組み立ててから、そのカウル構成部を一体的にエンジンルーム内に下降させ、予め車両に組み付けたダッシュロアパネルとエプロンアウタパネルとエプロンインナパネル等に対して組み付ける、ドッキング組み付け方式を採用することができる。
【0020】
請求項5の車両の前部構造によれば、ダッシュパネルに後端部が連結されて前方へ張出し且つ車幅方向に延設され且つ車幅方向両端部が1対の拡大部に連結されたカウルフロントパネルを設け、このカウルフロントパネルとダッシュアッパパネルとを含む部材で囲まれた車幅方向に延びるエアボックスを設け、ダッシュアッパパネルにエアコン用のエア導入口を形成したので、エアボックス内の空気を直接的にエア導入口から車室側へ導入できるようになるため、その空気の流入抵抗が小さくなり、空気を必要量スムースに車室側へ導入でき、また、カウル部材にエア導入口を形成する必要もなく、カウル部材の形状の制限を緩和することができるため、カウル部材(車体)の剛性・強度を高めつつも、フロントウインドウの配置を含むデザインの自由度を高めることができる。
【0021】
そして、カウルフロントパネルの後端部分に車幅方向に延び上方へ立ち上がる縦壁部を一体的に形成したので、このカウルフロントパネルにおいて、縦壁部の前側部分に樋部を形成し、その樋部、即ち、水が流れる部分からエア導入口を遠ざけることができ、しかも、縦壁部により、主に前記樋部を流れる水が飛散することにより発生する水飛沫等を遮蔽できるため、水飛沫等がエア導入口から車室側へ侵入することを極力防止することができる。しかも、縦壁部については、別途部材を設けることなく、カウルフロントパネルの後端部分を折り曲げることにより極めて簡単に構成できるため、制作コスト的に有利になり、組み付け負荷の増大も抑えることができ、更に、この縦壁部によりカウルフロントパネルの曲げ、捩じり剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の車両の前部構造は、車両のエンジンルームと車室とを仕切る部位に車幅方向に延設されたダッシュパネルと、エンジンルームの左右両端部に配置され且つダッシュパネルの車幅方向両端部が連結される1対のエプロン部とを備え、前記ダッシュパネルは、ダッシュロアパネルと、このダッシュロアパネルに接合されたダッシュアッパパネルとを有し、前記ダッシュパネルの車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部を一体的に夫々設け、これら拡大部の前端部が1対のサスペンションタワーに夫々連結され、前記各拡大部が前記エプロン部に接合され、この拡大部とエプロン部とで閉断面構造が構成されている。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
図1〜図12に示すように、車両1(自動車1)の前部構造は、エンジンルーム2と車室3とを仕切る部位に車幅方向に延設されたダッシュパネル10と、ダッシュパネル10に連結され且つその上側近傍において車幅方向に延設されたカウル部材11と、ダッシュパネル10に後端部が連結されて前方へ張出し且つ車幅方向に延設されたカウルフロントパネル12と、エンジンルーム2の左右両端部に配置され且つダッシュパネル10の車幅方向両端部が連結される1対のエプロン部13とを備えている。ダッシュパネル10、カウル部材11、カウルフロントパネル12、エプロン部13は金属製である。
【0024】
先ず、ダッシュパネル10について説明する。
図1〜図5、図9、図12に示すように、ダッシュパネル10は、ダッシュロアパネル20と、ダッシュロアパネル20に接合(溶接)されたダッシュアッパパネル21とを有する。このダッシュロアパネル20とダッシュアッパパネル21は、例えば、共に下方程前方へ移行する傾斜姿勢でほぼ同一面内に位置する。ダッシュアッパパネル21には、その下端部分を前方へ折曲げることで前側へ張出すほぼ水平な張出部21aが一体的に設けられ、その張出部21aの下面にダッシュロアパネル20の上端が接合され、張出部21aにカウルフロントパネル12が複数本(例えば、3本)のボルト(図示略)により解除可能に連結されて、張出部21aの上面にカウルフロントパネル12が当接状になる。
【0025】
ダッシュアッパパネル21には、その鉛直部の車幅方向一端側部分にほぼ矩形のエアコン用のエア導入口21bが形成され、このエア導入口21bに、車室3側に設けたエアコン部4が接続されている。ダッシュアッパパネル21の張出部21aのうち、車幅方向両端部分以外の部分は比較的狭い前後幅となっており、車幅方向両端部分に、他の部分よりも前方へ比較的大きく張出す(延出する)1対の拡大部21cが一体的に夫々設けられている。これら拡大部21cの前端部が1対のサスペンションタワー5のストラットハウス5aの上端部に夫々連結され、これら拡大部21cにカウルフロントパネル12の車幅方向両端部が連結されている。
【0026】
次に、カウル部材11について説明する。
図2〜図5、図9、図12に示すように、カウル部材11は、カウルロアパネル30とこのカウルロアパネル30に接合されたカウルアッパパネル31とで閉断面構造に構成され、カウル部材30の車幅方向両端部が左右のフロントピラー6に夫々連結されている。このカウル部材30の閉断面形状について、後半部分は平たい形状に形成され、前半部分は後半部分よりも大きな断面形状に形成されている。そして、このカウル部材30の後端部にダッシュアッパパネル21の上端が接合されている。
【0027】
次に、カウルフロントパネル12について説明する。
図1〜図5、図9、図12に示すように、カウルフロントパネル12は、後半部分に位置する水平パネル部12aと、前半部分に位置して水平パネル部12aの前端から前方斜め上側へ傾く傾斜パネル部12bを有し、カウルフロントパネル12の後端部分(即ち、水平パネル部12aの後側)に、車幅方向に延び上方へ立ち上がる縦壁部12cが一体的に形成されている。この縦壁部12cは、水平パネル部12aの車幅方向全幅に亙って形成されている。
【0028】
縦壁部12cは、カウル部材11の下側に位置し、例えば、水平パネル部12aとダッシュアッパパネル21の張出部21aの全体の前後長さのうち後端から約1/4長さ部分に位置し、縦壁部12cの上下長さは、例えば、この縦壁部12cの位置において張出部21aとカウル部材11間の長さの約2/5になる。この縦壁部12cを設けたことにより、縦壁部12cと水平パネル部12aと傾斜パネル部12bの下端部分とで囲まれた部分に、雨が降った場合等に水が流れる樋部40が形成されている。
【0029】
また、縦壁部12cのうちエア導入口21bの前側に位置する部分に、縦壁部12cよりも上方且つ前方へ延長した金属製の延長縦壁部41が設けられている。この延長縦壁部41は、縦壁部12c(カウルフロントパネル12)とは別部材で構成され、この延長縦壁部41の下端部分が縦壁部12cに溶接等で連結されている。
【0030】
水平パネル部12aに複数(例えば、3つ)のボルト穴部42が形成され、これらボルト穴部42に対応させて、ダッシュアッパパネル21の張出部21aの前端部に複数のボルト穴部43が形成され、対応するボルト穴部42,43同士を接近対向させ複数のボルト(図示略)により締結することにより、張出部21aにカウルフロントパネル12が連結され、この状態で、水平パネル部12aが張出部21aの上面に当接する。尚、水平パネル部12aと張出部21aとの間はシール材(図示略)によりシールされている。
【0031】
さて、カウルフロントパネル12とダッシュアッパパネル21とカウル部材11(カウルロアパネル30)、更には、1対のエプロン部13とで囲まれた車幅方向に延びるエアボックス50が設けられて、所謂オープンカウル構造が構成され、このエアボックス50の上側の開口を覆う合成樹脂製のカウルグリル51が設けられている。尚、7はフロントウインドウ、8はボンネットである。
【0032】
カウルグリル51には、複数のスリット(図示略)が形成されており、これらスリットからエアボックス50内に外気が導入され、その空気がエア導入口21bから車室3側のエアコン部4に導入される。雨が降った場合等、エアボックス51に流入した水は樋部40に流れ落ち、その樋部40を車幅方向両端側へ流れて、エプロン部13に形成された排出口52(図11参照)から外部へ排出される。
【0033】
次に、各エプロン部13と、このエプロン部13に関する連結構造について説明する。
図1、図6〜図11に示すように、各エプロン部13は、エプロンアッパパネル60と、エプロンアウタパネル61と、エプロンインナパネル62からなり、これらパネル60〜62の後端部分が、サイドドア(図示略)を支持するヒンジピラー9であってフロントピラー6が連結されたヒンジピラー9に接合されて前方へ延び、ダッシュアッパパネル21の各拡大部21cがエプロン部13に接合され、この拡大部21cとエプロン部13とで閉断面構造が構成されている。
【0034】
具体的に説明すると、拡大部21cが接合される部分のエプロン部13において、エプロンアッパパネル60は断面L形に形成され、エプロンアウタパネル61はエプロンアッパパネル60よりも上下に長い断面L形に形成され、このエプロンアッパパネル60の上部外端とエプロンアウタパネル61の上端が接合され、拡大部21cがエプロンアッパパネル60の下端に接合されると共にエプロンアウタパネル61の内面に接合され、このエプロンアッパパネル60とエプロンアウタパネル61と拡大部21cとで閉断面構造65が形成されている。
【0035】
また、エプロンインナパネル62はほぼ鉛直にフラットに形成され、このエプロンインナパネル62の外面にエプロンアウタパネル61の下部内端が接合され、拡大部21cがエプロンインナパネル62の上端に接合され、このエプロンアウタパネル61とエプロンインナパネル62と拡大部21cとで前記閉断面構造65とほぼ同じ大きさの閉断面構造66が形成されている。こうして、拡大部21cがエプロン部13に車幅方向内側から挿入された状態で接合され、この拡大部21cによりエプロン部13の閉断面を上下に分割して連続閉断面構造67が構成されている。尚、図11に示すように、拡大部21cが接合される部分のエプロンアウタパネル61には、拡大部21cをエプロンアウタパネル61の内面にスポット溶接する為のガンを挿入可能なガン挿入穴61aが形成されている。
【0036】
各拡大部21cにおいて、エプロン部13に挿入される部分は、例えば、拡大部21cの車幅方向幅の約1/4〜1/3の外端部分であり、その他の部分の前端部が、サスペンションタワー5のストラットハウス5aに上側から当接した状態で連結されている。また、各拡大部21cの後端部はヒンジピラー9に接合されている。尚、カウル部材11のカウルアッパパネル31の車幅方向両端部のフランジが、左右のフロントピラー6に夫々接合されている。
【0037】
さて、各エプロン部13は、その後端部がヒンジピラー9に接合されて、サスペンションタワー5よりも前側まで延びているが、エプロンアッパパネル60はサスペンションタワー5の近傍までの長さとなり、サスペンションタワー5の近傍において、エプロンインナパネル62が上方へ延長されてエプロンアッパパネル60の前端部に接合されている。つまり、サスペンションタワー5の近傍(エプロンアッパパネル60)の前側において、エプロンインナパネル62はエプロンアウタパネル61とほぼ同じ上下長の断面L形に形成され、このエプロンインナパネル62とエプロンアウタパネル61とが接合されて閉断面構造が構成されている。
【0038】
ここで、ダッシュパネル10、カウル部材11、カウルフロントパネル12、1対のエプロン部13、の車両1への組み付けについて説明する。先ず、ダッシュアッパパネル21から分離した状態のダッシュロアパネル20を車両1に組み付けると共に、各エプロン部13において、エプロンアウタパネル61とエプロンインナパネル62とを接合し、これらパネル61,62をヒンジピラー9に接合して車両1に組み付けた状態にする。
【0039】
その一方で、車両1への組み付け前に、カウルロアパネル30とカウルアッパパネル31とを接合してカウル部材11を構成し、そのカウル部材11とダッシュアッパパネル21とを接合すると共に、ダッシュアッパパネル21とカウルフロントパネル12とを接合し、更に、ダッシュアッパパネル21の1対の拡大部21cに1対のエプロンアッパパネル60を夫々接合してカウル構成部69(図12参照)を組み立ててから、そのカウル構成部69を一体的に車両1に組み付ける。
【0040】
この場合、図12に示すように、カウル構成部69をエンジンルーム2の上側へ搬送し、エンジンルーム2内に下降させて車両1に組み付けることができる、ドッキング組み付け方式を採用することができる。即ち、カウル構成部69をエンジンルーム2内の所定位置に下降させることにより、図1に示すように、各エプロンアッパパネル60とエプロンアウタパネル61、各拡大部21cとエプロンアウタパネル61及びエプロンインナパネル62、ダッシュアッパパネル21とダッシュロアパネル20、各拡大部21cとストラットハウス5a、カウルアッパパネル21の車幅方向各端部とフロントピラー6、等が夫々当接状態となり、そこで、必要な箇所に、溶接、ボルト結合、その他何らかの連結を施して、カウル構成部69を車両1に組み付けることができる。
【0041】
この車両1の前部構造の作用・効果について説明する。
ダッシュパネル10に後端部が連結されて前方へ張出し且つ車幅方向に延設されたカウルフロントパネル12を設け、このカウルフロントパネル12とダッシュパネル10のダッシュアッパパネル21とカウル部材11とで囲まれた車幅方向に延びるエアボックス50を設け、ダッシュアッパパネル21にエアコン用のエア導入口21bを形成したので、先ず第1に、エアボックス50内の空気を直接的にエア導入口21bから車室1側のエアコン部4へ導入できるようになるため、その空気の流入抵抗が小さくなり、空気を必要量スムースに車室1側のエアコン部4へ導入でき、また、カウル部材11にエア導入口を形成する必要もなく、カウル部材11の形状の制限を緩和することができるため、カウル部材11(車体)の剛性・強度を高めつつも、フロントウインドウ7の配置を含むデザインの自由度を高めることができる。
【0042】
そして、前記効果を維持した上で、カウルフロントパネル12の後端部分に車幅方向に延び上方へ立ち上がる縦壁部12cを一体的に形成したので、このカウルフロントパネル12において、縦壁部12cの前側部分に樋部40を形成し、その樋部40、即ち、水が流れる部分からエア導入口21bを遠ざけることができ、しかも、縦壁部12cにより、主に樋部40を流れる水が飛散することにより発生する水飛沫等を遮蔽できるため、水飛沫等がエア導入口21bから車室1側のエアコン部4へ侵入することを極力防止することができる。しかも、縦壁部12cについては、別途部材を設けることなく、カウルフロントパネル12の後端部分を折り曲げることにより極めて簡単に構成できるため、制作コスト的に有利になり、組み付け負荷の増大も抑えることができ、更に、この縦壁部12cによりカウルフロントパネル12の曲げ、捩じり剛性を高めることができる。
【0043】
カウル部材11を、カウルロアパネル30とこのカウルロアパネル30に接合されたカウルアッパパネル31とで閉断面構造に構成したので、カウル部材11(車体)の強度・剛性を高めることができる。つまり、エアボックス50の上側が開口してエアボックス50内の空気を直接的にエア導入口21bから車室1側へ導入する、従来から強度・剛性面で劣る所謂オープンカウルであっても、その強度・剛性を高めることができる。
【0044】
ダッシュパネル10に前側へ張出す張出部21aを設け、この張出部21aにカウルフロントパネル12を解除可能に連結したので、エアボックス50及び樋部40を適切な形状・サイズにて確実に形成することができ、しかも、ダッシュパネル10に対して連結されたカウルフロントパネル12を容易に取り外すことが可能になるため、このカウルフロントパネル12、ダッシュパネル10、カウル部材11、その他近傍の部材・機器を整備する際の整備性が向上する。
【0045】
縦壁部12cのうち少なくともエア導入口21bの前側に位置する部分に、縦壁部12cよりも上方且つ前方へ延長した延長縦壁部41を設けたので、水飛沫等がエア導入口21bから車室1側へ侵入することをより確実に防止することができる。
【0046】
ダッシュパネル10のダッシュアッパパネル21の車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部21cを一体的に夫々設け、各拡大部21cをエプロン部13に接合し、この拡大部21aとエプロン部13とで閉断面構造を構成したので、ダッシュパネル10とエプロン部13との結合を強化すると共にエプロン部13の剛性を高め、しかも、1対の拡大部21cの前端部を1対のサスペンションタワー5に夫々連結したので、ダッシュパネル10やエプロン部13等のサスペンションタワー5周辺の構造の剛性を十分に高めることができる。
【0047】
つまり、車体剛性を高め、コーナリングの際等、サスペンションタワー5に大きな負荷が加わっても、車体側の変形を抑制でき、車両1のサスペンション性能を十分に発揮させて操縦安定性を高めることができる。また、こうした連結構造を、別部材を設けることなく、ダッシュアッパパネル21に1対の拡大部21cを一体的に設けることにより達成したので、連結構造の強度を高め製作コスト的に有利になる。
【0048】
エプロン部13はエプロンアッパパネル60とこのエプロンアッパパネル60に接合されたエプロンアウタパネル61とを有し、拡大部21cをエプロンアッパパネル60の下端に接合すると共にエプロンアウタパネル61の内面に接合したので、このエプロンアッパパネル60とエプロンアウタパネル61と拡大部21cとで閉断面構造65を形成して、ダッシュパネル10とエプロン部13との結合を確実に強化しエプロン部13の剛性を確実に高めることができる。
【0049】
各拡大部21cの後端部をサイドドアを支持するヒンジピラー9に接合したので、ダッシュパネル10とヒンジピラー9とを確実に結合して結合強度を高め、ダッシュパネル10やエプロン部13等のサスペンションタワー5周辺の構造の剛性を確実に高めることができる。
【0050】
エプロン部13は、エプロンアウタパネル61に接合されたエプロンインナパネル62を有し、拡大部21cをエプロンインナパネル62の上端に接合し、この拡大部21cによりエプロン部13の閉断面を上下に分割して連続閉断面構造67を構成したので、ダッシュパネル10とエプロン部13との結合をより確実に強化しエプロン部13の剛性(捩じり剛性)をより確実に高めることができる。
【0051】
サスペンションタワー5の近傍において、エプロンインナパネル62を上方へ延長してエプロンアッパパネル60の前端部に接合したので、エプロンアッパパネル60をサスペンションタワー5の近傍までの長さとして、エプロン部13をほぼ全体に閉断面構造とすることができる。そして、車両1への組み付けの際、カウル部材11とカウルフロントパネル12とダッシュアッパパネル21とエプロンアッパパネル60等を結合してカウル構成部69を組み立ててから、そのカウル構成部69を一体的にエンジンルーム2内に下降させ、予め車両1に組み付けたダッシュロアパネル20とエプロンアウタパネル61とエプロンインナパネル62等に対して組み付ける、ドッキング組み付け方式を採用することができる。
【0052】
次に、前記実施例を次のように変更してもよい。
1]カウル部材11を1部材で構成し、開断面構造に構成する。
2]ダッシュロアパネル20に前側へ張出す張出部を一体的に設け、この張出部にカウルフロントパネル12を解除可能に連結する。
3]ダッシュロアパネル20に1対の拡大部を一体的に設ける。
4]延長縦壁部41を省略する。
【0053】
5]ダッシュアッパパネル21とカウルフロントパネル12とを一体形成する。
6]縦壁部12cの車幅方向全幅に亙って延長縦壁部41を設ける。
7]延長縦壁部41を縦壁部12cよりも上方へのみ延長する。
8]延長縦壁部41を縦壁部12c(カウルフロントパネル12)に一体形成する。
9]その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成を付加可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例に係る車両の前部構造の斜視図である。
【図2】車両の前部構造の要部の分解斜視図である。
【図3】ダッシュアッパパネルとカウル部材の斜視図である。
【図4】ダッシュアッパパネルとカウル部材の分解斜視図である。
【図5】車両の前部構造の要部の縦断面図である。
【図6】ダッシュアッパパネルとカウル部材の車両組み付け時の斜視図である。
【図7】車両の前部構造のサスペンションタワー近傍の斜視図である。
【図8】エプロン部と拡大部の部分的に切り欠いた状態の斜視図である。
【図9】車両の前部構造の要部の縦断面図である。
【図10】エプロン部と拡大部の縦断面図である。
【図11】エプロン部と拡大部の斜視図である。
【図12】車両の前部構造の組み付け際の斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 エンジンルーム
3 車室
5 サスペンションタワー
9 ヒンジピラー
10 ダッシュパネル
11 カウル部材
12 カウルフロントパネル
12c 縦壁部
13 エプロン部
20 ダッシュロアパネル
21 ダッシュアッパパネル
21a 張出部
21b エア導入口
21c 拡大部
30 カウルロアパネル
31 カウルアッパパネル
40 樋部
41 延長縦壁部
50 エアボックス
51 カウルグリル
60 エプロアッパナパネル
61 エプロンアウタパネル
62 エプロンインナパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームと車室とを仕切る部位に車幅方向に延設されたダッシュパネルと、エンジンルームの左右両端部に配置され且つダッシュパネルの車幅方向両端部が連結される1対のエプロン部とを備えた車両の前部構造において、
前記ダッシュパネルは、ダッシュロアパネルと、このダッシュロアパネルに接合されたダッシュアッパパネルとを有し、
前記ダッシュパネルの車幅方向両端部分に前方へ延出する1対の拡大部を一体的に夫々設け、これら拡大部の前端部が1対のサスペンションタワーに夫々連結され、
前記各拡大部が前記エプロン部に接合され、この拡大部とエプロン部とで閉断面構造が構成されたことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記エプロン部は、エプロンアッパパネルとこのエプロンアッパパネルに接合されたエプロンアウタパネルとを有し、前記拡大部がエプロンアッパパネルの下端に接合されると共にエプロンアウタパネルの内面に接合されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記各拡大部の後端部がサイドドアを支持するヒンジピラーに接合されたことを特徴とする請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記エプロン部は、エプロンアウタパネルに接合されたエプロンインナパネルを有し、前記拡大部がエプロンインナパネルに上端に接合され、この拡大部によりエプロン部の閉断面を上下に分割して連続閉断面構造が構成されたことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記サスペンションタワーの近傍において、エプロンインナパネルが上方へ延長されてエプロンアッパパネルの前端部に接合されたことを特徴とする請求項4に記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記ダッシュパネルに後端部が連結されて前方へ張出し且つ車幅方向に延設され且つ車幅方向両端部が1対の拡大部に連結されたカウルフロントパネルと、このカウルフロントパネルとダッシュアッパパネルとを含む部材で囲まれた車幅方向に延びるエアボックスとを設け、
前記ダッシュアッパパネルにエアコン用のエア導入口が形成されると共に、カウルフロントパネルの後端部分に車幅方向に延び上方へ立ち上がる縦壁部が一体的に形成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−7981(P2006−7981A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188554(P2004−188554)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】