説明

車両の骨格構造

【課題】 車両の前方から衝突荷重が入力した際に、骨格部材全体としてスライドする距離を長くすることにより、荷重の吸収性能を高いものとすることができる車両の骨格構造を提供する。
【解決手段】 フロントサイドメンバ1における下方位置にアンダーメンバ8が設けられている。アンダーメンバ8は、車両の前後方向に沿って配設された前段部21、中段部22、および後段部23を備えている。前段部21と中段部22および中段部22と後段部23とはそれぞれ溶接で接合されている。また、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力された際、前段部21と中段部22の間における溶接が破断して前段部21が中段部22および後段部23に対してスライドする。また、中段部22と後段部23との間における溶接が破断して中段部22が後段部23に対してスライドする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の骨格構造に係り、特に、車両におけるアンダーメンバに用いて好適となる車両の骨格構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車体部分前方においては、フロントサイドメンバが設けられているものがある。フロントサイドメンバは、後方位置における略水平部分となる下段水平部と、前方位置において、後方部分よりも高い位置に配置され、略水平となる上段水平部とを備えている。また、上段水平部と下段水平部との間には、前方に行くにしたがって上方に延びる傾斜部分が設けられている。
【0003】
さらに、フロントサイドメンバにおける下段水平部の前方位置であって、フロントサイドメンバにおける上段水平部の下方位置には、アンダーメンバが設けられているものがある。このアンダーメンバは、先端部がラジエータサポートに接続され、後端部がサスペンションメンバを介してフロントサイドメンバにおける下段水平部の先端位置に接続されている。車両に前方からの前方から衝突荷重が入力された際には、フロントサイドメンバにおける上段水平部とともにアンダーメンバに分散することにより、衝突荷重を吸収するようにしている。
【0004】
また、この種のアンダーメンバとしてアンダーメンバ本体に対して相対的にスライド移動するアンダーメンバスライド部材を備えるフロントアンダーメンバがある(たとえば、特許文献1参照)。このフロントアンダーメンバでは、車両前方から荷重が作用した際、アンダーメンバスライド部材がアンダーメンバ本体に対して相対的にスライド移動することにより、アンダーメンバへ作用する荷重を吸収する。このため、アンダーメンバへ作用する荷重を効果的に吸収することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−37112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示されたフロントアンダーメンバでは、アンダーメンバ本体に対してアンダーメンバスライド部材が相対的にスライド移動するのみである。このため、フロントアンダーメンバ(骨格部材)の全体としてはスライド距離をさらに長くする余地があるので、荷重の吸収性能をさらに高めることができる可能性があるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、車両の前方から衝突荷重が入力した際に、骨格部材全体としてスライドする距離を長くすることにより、荷重の吸収性能を高いものとすることができる車両の骨格構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係る車両の骨格構造は、車両の前後方向に沿って延在する骨格部材を備える車両の骨格構造であって、骨格部材は、中空部を備える主長尺部材と、主長尺部材における中空部に進入可能とされた複数の副長尺部材とを備え、主長尺部材と複数の副長尺部材とが、車両の前後方向に沿って配設されており、隣接する主長尺部材と副長尺部材および副長尺部材同士の間に接合部が形成されており、骨格部材に対して、車両の前後方向に対する荷重が入力された際に、接合部の接合状態が解消されることにより、複数の副長尺部材が主長尺部材に対して順次スライド可能とされていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る車両の骨格構造は、主長尺部材における中空部に進入可能とされた複数の副長尺部材を備えており、車両の前後方向に対する荷重が入力された際に、複数の副長尺部材が主長尺部材に対して順次スライド可能とされている。このように、複数の副長尺部材が主長尺部材に対して順次スライドすることにより、入力された荷重に対する骨格部材の抵抗を変化させることができる。この結果、入力された荷重を段階的に制御することができる。また、複数の副長尺部材を備えることにより、骨格部材全体としてのスライド距離を長くすることができる。その結果、車両の前方から衝突荷重が入力した際における荷重の吸収性能を高いものとすることができる。
【0010】
ここで、隣接する主長尺部材と副長尺部材および副長尺部材同士の間に接合部のそれぞれに対して、強度差が設定されている態様とすることができる。
【0011】
このように、隣接する主長尺部材と副長尺部材および副長尺部材同士の間に接合部のそれぞれに対して、強度差が設定されていることにより、荷重に対する抵抗力に幅を持たせることができる。したがって、骨格部材に入力される荷重を段階的にコントロールすることができる。
【0012】
また、主長尺部材および副長尺部材のうちの少なくとも一方に対してスライドすることにより、主長尺部材および副長尺部材のうちの少なくとも一方に副長尺部材が進入する構成とされており、副長尺部材が主長尺部材および副長尺部材のうちの少なくとも一方に進入する際、主長尺部材および副長尺部材のうちの少なくとも一方に進入した副長尺部材の主長尺部材に対する相対的な移動を抑止する移動抑止手段が設けられている態様とすることができる。
【0013】
このように、主長尺部材および副長尺部材のうちの少なくとも一方に進入した副長尺部材の主長尺部材に対する相対的な移動を抑止する移動抑止手段が設けられていることにより、副長尺部材のスライド距離をコントロールすることができる。このため、たとえば、副長尺部材のスライド距離をコントロールすることにより、骨格部材に入力される荷重をさらに好適にコントロールすることができる。さらには、骨格部材に入力された荷重を確実に後方の長尺部材等に伝達させることができる。
移動抑止部材による強度の増加を図ることができる。
【0014】
さらに、骨格部材がアンダーメンバであり、アンダーメンバの上方にフロントサイドメンバが配設されており、フロントサイドメンバは、アンダーメンバにおける車両の前後方向の強度差に対応する車両の前後方向の強度差を備えている態様とすることができる。
【0015】
このように、フロントサイドメンバは、アンダーメンバにおける車両の前後方向の強度差に対応する車両の前後方向の強度差を備えていることにより、フロントサイドメンバとアンダーメンバとを協働させて荷重を吸収することができ、荷重の吸収性能を高めることができる。
【0016】
さらに、上記課題を解決した本発明に係る車両の骨格構造は、主長尺部材と複数の副長尺部材との接合により形成される車両の骨格構造を有し、車両に加えられた荷重によって複数の副長尺部材がそれぞれ主長尺部材側へスライドすることを特徴とする。また、主長尺部材と複数の副長尺部材との接合により形成される車両の骨格構造を有し、車両に加えられた荷重の強度に応じて複数の副長尺部材がそれぞれ主長尺部材側へスライドすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両の骨格構造によれば、車両の前方から衝突荷重が入力した際に、アンダーメンバ全体としてスライドする距離を長くすることにより、荷重の吸収性能を高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の骨格構造の要部側面図である。
【図2】アンダーメンバの斜視図である。
【図3】(a)は、アンダーメンバにおける前段部と中段部との接続部分の拡大斜視図、(b)は、その拡大側断面図である。
【図4】フロントサイドメンバとアンダーメンバとの長さ関係を説明する図である。
【図5】アンダーメンバにおける各部材の長さ関係を説明する側断面図である。
【図6】アンダーメンバによって衝突荷重を吸収する際のアンダーメンバの変遷を示す図である。
【図7】(a)〜(c)とも、アンダーメンバの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の骨格構造の要部側面図である。図1に示すように、本実施形態に係る車両の骨格構造は、フロントサイドメンバ1を備えている。フロントサイドメンバ1は、車両の側方位置に配置されている。フロントサイドメンバ1は、上段前方水平部11、上段後方水平部12、および傾斜部13を備えている。上段前方水平部11および上段後方水平部12は、略水平方向に配設された棒状をなす部材であり、複数の切欠き孔14が形成され部分が上段前方水平部11、これらの切欠き孔が形成されていない部分が上段後方水平部12とされている。上段前方水平部11と上段後方水平部12とでは、上段後方水平部12の方が上段前方水平部11よりもその軸方向の強度が高くされている。
【0021】
また、傾斜部13は、上段後方水平部12の後端部に連続して配置されており、前方から後方に行くにしたがって下降する形状をなしている。上段後方水平部12と傾斜部13とでは、傾斜部13の方が上段後方水平部12よりもその軸方向の強度が高くされている。さらに、傾斜部13の後端部には、棒状をなし、略水平方向に配設された図示しない下段水平部が設けられている。これらの上段前方水平部11、上段後方水平部12、傾斜部13、および下段水平部は、一体的に形成されている。
【0022】
フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11の前端部は、上段バンパリーンホースメント2が上段クラッシュボックス3を介して接続されている。また、フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11の前端部には、下方に向けて延在するラジエータサポート4が取り付けられており、ラジエータサポート4における高さ方向略中央位置には、下段バンパリーンホースメント5が下段クラッシュボックス6を介して接続されている。
【0023】
さらに、フロントサイドメンバ1における傾斜部13の下端面には、サスペンションメンバ7が配設されている。サスペンションメンバ7は、図示しないボルト等によってフロントサイドメンバ1に固定されている。また、ラジエータサポート4とサスペンションメンバ7との間には、本発明の骨格部材となるアンダーメンバ8が掛け渡されている。
【0024】
アンダーメンバ8は、図2にも示すように、車両の前方に位置する前段部21、中央に位置する中段部22、および後方に位置する後段部23を備えている。前段部21、中段部22、および後段部23は、いずれも長尺状をなしており、車両の前後方向に沿って配設されている。このうち、前段部21および中段部22は本発明の副長尺部材を構成し、後段部23は主長尺部材を構成する。また、前段部21、中段部22、および後段部23は、いずれ中空形状とされている。さらに、アンダーメンバ8の前段部21がラジエータサポート4の下端部に固定されており、後段部23がサスペンションメンバ7に対して固定されている。
【0025】
前段部21は、中段部22に対してアンダーメンバ8の延在方向に沿ってスライド可能とされており、中段部22は、後段部23に対してアンダーメンバ8の延在方向に沿ってスライド可能とされている。このため、前段部21も、後段部23に対してアンダーメンバ8の延在方向にスライド可能とされている。
【0026】
また、前段部21、中段部22、および後段部23は、いずれも断面矩形をなしている。さらに、前段部21の断面積は中段部22の断面積より小さく、中段部22の断面積は後段部23の断面積よりも小さくされ、後方に行くにしたがって徐々に断面積が大きくなるようにされている。前段部21は、中段部22に対してスライドすることにより、中段部22に形成された中空部に収容可能とされている。同様に、中段部22は、後段部23に対してスライドすることにより、後段部23に形成された中空部に収容可能とされている。
【0027】
さらに、前段部21における後端部は、図3(a)(b)にも示すように、アーク溶接による第1溶接Y1によって中段部22に固定されている。前段部21における後端部に設けられた第1溶接Y1は、上下面および左右面の4箇所に施されている。同様に、中段部22における後端部は、第2溶接Y2によって後段部23に固定されている。ここで、前段部21の後端部における第1溶接Y1による接合強度は、中段部22の後端部における第2溶接Y2による接合強度よりも弱くされている。第1溶接Y1は、隣接する前段部21と中段部22とを接合する本発明の接合部として形成されており、第2溶接Y2は、隣接する中段部22と後段部23とを接合する本発明の接合部として形成されている。
【0028】
また、中段部22における長手方向途中位置には、本発明の移動抑止手段である中段部ストッパ24が設けられている。中段部ストッパ24は、前段部21における長手方向途中位置において、上面と下面との間に掛け渡されて立設されている。前段部21が中段部22の中空部にスライド移動して進入した後、前段部21が中段部ストッパ24に当接することにより、中段部22に対する前段部21のスライド移動が抑止される。
【0029】
さらに、後段部23における長手方向途中位置には、本発明の移動抑止手段である後段部ストッパ25が設けられている。後段部ストッパ25は、中段部22における長手方向途中位置において、上面と下面との間に掛け渡されて立設されており、後段部23に対する中段部22のスライド移動を抑止している。
【0030】
ここで、図4に示すように、アンダーメンバ8における前段部21は、フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11の下方位置に配置されており、中段部22は、上段後方水平部12の下方位置に配置されている。また、後段部23は、傾斜部13の下方位置に配置されている。さらに、アンダーメンバ8における前段部21と中段部22との境目は、フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11と上段後方水平部12との境目に対応して配置されており、中段部22と後段部23との境目は、上段後方水平部12と傾斜部13との境目に対応して配置されている。
【0031】
このため、フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11の長さと、アンダーメンバ8の前段部21における中段部22から突出した位置からラジエータサポート4(図1)に固定されている位置までの長さは、略同一の長さであり、第1長さl1とされている。また、フロントサイドメンバ1における上段後方水平部12の長さと、アンダーメンバ8の中段部22における後段部23から突出した部分の長さは、略同一の長さであり、第2長さl2とされている。
【0032】
さらに、図5に示すように、中段部22における前段部21が挿入されている部位から中段部ストッパ24が設けられている部位までの長さは、第1長さl1とされている。また、後段部23における中段部22が挿入されている部位から後段部ストッパ25が設けられている部位までの長さは、第2長さl2とされている。
【0033】
次に、本実施形態に係る車両の骨格構造における作用について説明する。
【0034】
本実施形態に係る車両の骨格構造においては、車両がたとえば正面衝突を起こした場合、上段バンパリーンホースメント2から衝突荷重が入力され、上段クラッシュボックス3でその衝突荷重が吸収される。また、上段クラッシュボックス3で吸収しきれない衝突荷重がフロントサイドメンバ1に伝達される。それとともに、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力され、下段クラッシュボックス6でその衝突荷重が吸収される。また、下段クラッシュボックス6で吸収しきれない衝突荷重がアンダーメンバ8に伝達される。
【0035】
ここで、衝突荷重が伝達されたアンダーメンバ8においては、アンダーメンバ8が折れ変形を生じることなく、第1溶接Y1,第2溶接Y2が破断することによって前段部21と中段部22との接合状態が解消され、前段部21、中段部22がスライド移動してその衝突荷重を吸収する。アンダーメンバ8において衝突荷重を吸収する際には、強度が一番低い部分が破断される。強度が低い部分としては、溶接部分が挙げられる。本実施形態では、溶接部分として前段部21と中段部22とを接合する第1溶接Y1と中段部22と後段部23とを接合する第2溶接Y2とがあるが、第1溶接Y1の強度は、第2溶接Y2の強度よりも低くされている。
【0036】
このため、図6(a)に示す状態から、アンダーメンバ8に衝突荷重が伝達されると、まず、前段部21と中段部22とを接合する第1溶接Y1が破断して、図6(b)に示すように、前段部21が中段部22に対して、さらには、後段部23に対してスライドし、前段部21が中段部22の中空部に進入する。その結果、アンダーメンバ8は、全体として収縮する。
【0037】
ここで、中段部22に対する前段部21のスライド距離は、中段部ストッパ24の設置位置によって調整されている。具体的に、中段部22における前段部21が挿入されている部位から中段部ストッパ24が設けられている部位までの長さは、アンダーメンバ8の前段部21における中段部22から突出した位置からラジエータサポート4(図1)に固定されている位置までの長さである第1長さl1と略同一とされている。
【0038】
このため、前段部21の大部分が中段部22に進入すると、前段部21における後端部が中段部22における中段部ストッパ24に当接する。こうして、衝突荷重が完全に吸収されると、中段部22に対する前段部21のスライドが抑止される。
【0039】
また、前段部21における後端部が中段部22における中段部ストッパ24に当接した時点で、アンダーメンバ8に伝達された衝突荷重を完全に吸収し切れない場合には、前段部21が中段部ストッパ24を介して中段部22を押圧する。その結果、前段部21における後端部から中段部22における中段部ストッパ24に対して衝突荷重が伝達され、中段部22に衝突荷重が伝達される。
【0040】
中段部22に衝突荷重が伝達されると、中段部22と後段部23とを接合する第2溶接Y2が破断し、図6(c)に示すように、中段部22が後段部23に対してスライドし、中段部22が後段部23の中空部に進入する。その結果、前段部21に続いて中段部22が順次スライドし、アンダーメンバ8は、全体としてさらに収縮する。
【0041】
ここで、後段部23に対する中段部22のスライド距離は、後段部ストッパ25の設置位置によって調整されている。具体的に、後段部23における中段部22が挿入されている部位から後段部ストッパ25が設けられている部位までの長さは、中段部22における後段部23から突出している部分の長さである第2長さl2と略同一とされている。
【0042】
このため、中段部22における後段部23から突出している部分が中段部22に進入すると、中段部22における後端部が後段部23における後段部ストッパ25に当接する。こうして、衝突荷重が完全に吸収されると、後段部23に対する中段部22のスライドが抑止される。さらに、図6(c)に示すように、このときの前段部21および中段部22の後段部23に対する進入長さl3は、第1長さl1と第2長さl2とを加算した長さとなる。
【0043】
また、中段部22における後端部が後段部23における後段部ストッパ25に当接した時点で、アンダーメンバ8に伝達された衝突荷重を完全に吸収し切れない場合には、中段部22が後段部ストッパ25を介して後段部23を押圧する。その結果、後段部23からフロントサイドメンバ1における傾斜部13の下端部に衝突荷重が入力される。その後は、フロントサイドメンバ1における傾斜部13や図示しない下段水平部によって衝突荷重を吸収する。
【0044】
このように、本実施形態に係る車両の骨格部材においては、アンダーメンバ8が前段部21、中段部22、および後段部23を備えており、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力されると、前段部21および中段部22が順次スライドして中段部22および後段部23の中空部に進入する。
【0045】
このため、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重を段階的に制御しながら吸収することができる。また、前段部21、中段部22、および後段部23を備えており、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力した場合には、前段部21および中段部22が後段部23に進入する進入長さl3さを第1長さl1と第2長さl2とを加算した長さとすることができる。したがって、アンダーメンバ8の全体としてのスライド距離を長くすることができ、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力した際における荷重の吸収性能を高くすることができる。
【0046】
さらに、前段部21および中段部22を接合する第1溶接Y1と、中段部22および後段部23を接合する第2溶接Y2とでは、第2溶接Y2の方が第1溶接Y1よりも接合高度が高くされている。このため、下段バンパリーンホースメント5から衝突荷重が入力された際に、まず、第1溶接Y1が破断して、続いて第2溶接Y2が破断する。このように、第1溶接Y1と第2溶接Y2との間に接合強度の差が設定されていることにより、衝突荷重に対する抵抗力に幅を持たせることができる。したがって、アンダーメンバ8に入力される荷重を段階的にコントロールすることができる。さらに、アンダーメンバ8のスライド距離が長くなるとともに、ストッパ24,25による当接回数を増加させることができる。したがって、その分アンダーメンバ8の強度を大きくすることができる。
【0047】
また、中段部22には、中段部ストッパ24が設けられており、中段部22は、前段部21に中段部ストッパ24が押圧された後にスライドを開始する。また、中段部22における前段部21が挿入されている部位から中段部ストッパ24が設けられている部位までの長さは、アンダーメンバ8の前段部21における中段部22から突出した位置からラジエータサポート4に固定されている位置までの長さである第1長さl1と略同一とされている。このため、前段部21に入力される荷重をさらに好適にコントロールすることができる。さらには、前段部21に入力された荷重を後方の中段部22、さらには後段部23に確実に伝達させることができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る車両の骨格構造においては、フロントサイドメンバ1における上段前方水平部11の軸方向の強度は、第1溶接Y1の接合強度と略同一とされている。同様に、上段後方水平部12の軸方向の強度は、第2溶接Y2の接合強度と略同一とされている。このため、車両が正面衝突して上段バンパリーンホースメント2および下段バンパリーンホースメント5から同じように衝突荷重が入力した場合には、フロントサイドメンバ1およびアンダーメンバ8において同様の吸収力で衝突荷重を吸収することができる。したがって、フロントサイドメンバ1とアンダーメンバ8とを協働させて荷重を吸収することができ、衝突荷重の吸収性能を高めることができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態においては、アンダーメンバ8として、断面が矩形であり、後方に行くにしたがって断面積が徐々に大きくなる態様とされているが、他の態様とすることもできる。たとえば、図7(a)に示すアンダーメンバ30は、前段部31、中段部32、および後段部33がそれぞれ2枚の板金で構成されている。前段部31は、中央が突出する凸部を備える突出部材に平板を溶接固定して形成されている。中段部32および後段部33の断面形状は、前段部31の断面形状に略比例しており、後方にいくにしたがって徐々に大きくなっている。これらの前段部31、中段部32、および後段部33が、上記の実施形態と同様に並べられている態様とすることもできる。
【0050】
また、図7(b)に示すアンダーメンバ40のように、前段部41、中段部42、および後段部43がいずれも断面矩形であり、後方に行くにしたがって徐々に面積が小さくなる態様とすることもできる。さらに、図7(c)に示すアンダーメンバ50のように、前段部51、中段部52、および後段部53がいずれも断面矩形であり、前段部51よりも中段部52の方が断面積が大きく、中段部52よりも後段部53の方が断面積が小さい態様とすることもできる。
【0051】
さらに、上記実施形態では、アンダーメンバ8として、前段部21、中段部22、および後段部23の3本の棒状部材を備えるものを用いているが、4本、さらにはそれ以上の数の棒状部材を備え、これらが同軸状に配置されている態様とすることもできる。また、上記実施形態では、前段部21、中段部22、および後段部23の接合部を溶接によって接合しているが、ボルト等の他の接合態様で接合することもできる。
【0052】
あるいは、中段部ストッパ24や後段部ストッパ25などのストッパの設置位置としては、衝突荷重が入力した際の荷重の大きさ等を想定して、適宜の位置に設定することができる。この場合も、ストッパの設定位置を調整するのみで衝突荷重に対する対応を行うことができ、衝突荷重に対する対応を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1…フロントサイドメンバ、2…上段バンパリーンホースメント、3…上段クラッシュボックス、4…ラジエータサポート、5…下段バンパリーンホースメント、6…下段クラッシュボックス、7…サスペンションメンバ、8…アンダーメンバ、11…上段前方水平部、12…上段後方水平部、13…傾斜部、14…切欠き孔、21…前段部、22…中段部、23…後段部、24…中段部ストッパ、25…後段部ストッパ、l1…第1長さ、l2…第2長さ、l3…進入長さ、Y1…第1溶接、Y2…第2溶接。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に沿って延在する骨格部材を備える車両の骨格構造であって、
前記骨格部材は、中空部を備える主長尺部材と、前記主長尺部材における中空部に進入可能とされた複数の副長尺部材とを備え、
前記主長尺部材と前記複数の副長尺部材とが、前記車両の前後方向に沿って配設されており、
隣接する前記主長尺部材と前記副長尺部材および前記副長尺部材同士の間に接合部が形成されており、
前記骨格部材に対して、前記車両の前後方向に対する荷重が入力された際に、前記接合部の接合状態が解消されることにより、前記複数の副長尺部材が前記主長尺部材に対して順次スライド可能とされていることを特徴とする車両の骨格構造。
【請求項2】
前記隣接する前記主長尺部材と前記副長尺部材および前記副長尺部材同士の間に接合部のそれぞれに対して、強度差が設定されている請求項1に記載の車両の骨格構造。
【請求項3】
前記主長尺部材および前記副長尺部材のうちの少なくとも一方に対してスライドすることにより、前記主長尺部材および前記副長尺部材のうちの少なくとも一方に前記副長尺部材が進入する構成とされており、
前記副長尺部材が前記主長尺部材および前記副長尺部材のうちの少なくとも一方に進入する際、前記主長尺部材および前記副長尺部材のうちの少なくとも一方に進入した前記副長尺部材の前記主長尺部材に対する相対的な移動を抑止する移動抑止手段が設けられている請求項2に記載の車両の骨格構造。
【請求項4】
前記骨格部材がアンダーメンバであり、前記アンダーメンバの上方にフロントサイドメンバが配設されており、
前記フロントサイドメンバは、前記アンダーメンバにおける前記車両の前後方向の強度差に対応する前記車両の前後方向の強度差を備えている請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の車両の骨格構造。
【請求項5】
主長尺部材と複数の副長尺部材との接合により形成される車両の骨格構造を有し、前記車両に加えられた荷重によって前記複数の副長尺部材がそれぞれ前記主長尺部材側へスライドすることを特徴とする車両の骨格構造。
【請求項6】
主長尺部材と複数の副長尺部材との接合により形成される車両の骨格構造を有し、前記車両に加えられた荷重の強度に応じて前記複数の副長尺部材がそれぞれ前記主長尺部材側へスライドすることを特徴とする車両の骨格構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−240808(P2011−240808A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114276(P2010−114276)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】