説明

車両ホイールの製造方法

【課題】 安価で強度が高く塗装も良好な車両ホイールを製造する。
【解決手段】 工程S1で軽合金製車両ホイールを低圧鋳造する。次の工程S2で鋳造により生じたバリを取る。次の工程S3で熱処理を行なう。次の工程S4で寸法出し,穴明けを含む加工を行なう。次の工程S5で加工により生じたバリを取る。次の工程S6で、バレル研磨を行ない車両ホイールに残留する引張応力を圧縮応力に変える。次の工程S7〜S9で粉体塗装を含む塗装を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミ等の軽合金製の車両ホイールを鋳造により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ製の車両ホイールを鋳造により製造することは周知である。また、鋳造されたホイールにショットブラストを施して疲労強度を高めることは、特許文献1,2に開示されているように公知である。ショットブラスト後に粉体塗装を施すことも特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平9−262770号公報
【特許文献1】特公平6−73937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ホイールを軽合金で鋳造する場合、巣が生じ易く、特に表層に生じた巣はピンホールとなって残る。特許文献1,2に示すようにショットブラストを施すと、この表層部のピンホールは除去される。しかし、より深い部位の巣がピンホールとなって現れる。そのため、塗装工程において、このピンホール内のガスが熱膨張して塗装面が局所的に膨らんでしまう不都合があった。また、ショットブラストに続いて寸法出しや穴明けのための加工を行なった後に、エッジ処理を行なう必要があり作業性が悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明の車両ホイール製造方法では、
(a)軽合金製車両ホイールを低圧鋳造する工程と、
(b)鋳造により生じたバリを取る工程と、
(c)熱処理する工程と、
(d)寸法出し,穴明けを含む加工を行なう工程と、
(e)加工により生じたバリを取る工程と、
(f)バレル研磨を行ない車両ホイールに残留する引張応力を圧縮応力に変える工程と、
(g)塗装を行う工程と、
を順に実行することを特徴とする。
【0005】
この方法では、低圧鋳造であるので、安価な設備で車両ホイールの鋳造を行なえる。また、ショットブラストを行なわず、その代わりにバレル研磨により鋳造ホイールの面に残っている引張応力を圧縮応力に変えて、鋳造ホイールの疲労強度を高めることができる。低圧鋳造の場合にはホイールの表層部に多くのピンホールが残されているが、バレル研磨によりピンホールを微小空洞として残すことなく開放された凹部にすることができる。また表層部より深いところにある巣がピンホールとなって現れることもない。その結果、塗装工程において塗装面の局所的な膨れが生じるのを防止することができる。また、バレル研磨は穴明けや寸法出しの加工工程の後に行うため、バレル研磨がエッジ処理を兼ねることができ、エッジ処理を省略ないしは軽減することができる。
【0006】
上記車両ホイールは、バレル研磨工程の前にディスクの表側の面に圧縮応力が残留し、裏側の面に引張応力が残留しており、バレル研磨工程において、この裏側の残留引張応力を圧縮応力に変えるとともに、表側の残留圧縮応力を増大させる。
【0007】
好ましくは、上記塗装工程では、車両ホイールの金属面に厚さ100ミクロン以上の粉体塗装を行なう。上述したようにバレル研磨によりピンホールを開放した凹部に変えるが、この凹部を比較的厚い粉体塗装で埋めるため、滑らかな塗膜面を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低圧鋳造した後にバレル研磨することにより、安価で疲労強度の高い車両ホイールを得ることができる。しかも、エッジ処理を省略ないしは軽減できるとともに、塗装を良好に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は車両ホイールの製造方法を工程順に示す。まず、工程S1で、アルミ溶湯を鋳型に鋳込んで低圧鋳造を行なう。この低圧鋳造は、ほぼ大気圧下(約0.01〜0.05メガパスカル)で行なう鋳造である。
【0010】
次の工程S2で、鋳造により生じたバリを取る。
次の工程S3で、熱処理を行なう。
次の工程S4で、図2に示すように、ホイール10にハブ穴11やボルト穴12等の穴明け加工と、寸法出しのための旋盤加工を行なう。この旋盤加工は、飾り穴13の縁取り加工を含む。なお、この工程S4で、エア漏れ検査も行なう。
次の工程S5で、前工程の加工で生じたバリをへら等で削り取るとともに、ペンシルグラインダ等を用いてエッジの面取りを行なう。
【0011】
次の工程S6で、バレル研磨を行う。本実施形態では湿式のバレル研磨を行なう。詳述すると、図3に示すようにタンク20には数mm程度のセラミック球等からなる研磨材21が収容されている。ホイール10は、回転シャフト25の先端にチャックを介して固定され研磨材21中に埋没されている。回転シャフト25は、回転されるとともに(周期的に正転と逆転を繰り返す)、振動を付与される。また、回転シャフト25は、回転と振動と同時に上下動したり揺動する。
【0012】
上述したように加工工程S4,バリ取り工程S5の後にバレル研磨を行なうため、バレル研磨はエッジ処理をも兼ねることができ、例えば図4(A)から図4(B)に示すように、飾り穴13の周縁等のエッジを丸めることができる。なお、必要に応じてバレル研磨の前にブラシ処理を行なってもよい。このブラシ処理では回転したブラシをエッジに当ててエッジを丸める。
【0013】
上記バレル研磨により、下記表1に示すようにホイール10のディスクの表側の面の残留圧縮応力を増大させることができ、裏側の面での残留引張応力を残留圧縮応力に変えることができる。その結果、疲労強度を高めることができる。このように残留圧縮応力を高めることができるので、その目的で行なわれるショットブラストを省くことができる。
【表1】

【0014】
低圧鋳造の場合には、図5(A)に示すようなピンホール50がホイール表層部に多く残っている。しかし、上記バレル研磨によりピンホール50は図5(B)に示すように開放された凹部51となり、さらにバレル研磨を続けると、比較的なだらかな凹部52となる。なお、表層部より深い巣がピンホールとなって現れることはない。
【0015】
次の工程S7では、粉体塗装により下塗り塗装を行なう。粉体塗装なので、図5(D)に示すように、樹脂塗膜60の厚さは100〜200ミクロンと厚くすることができ、上記ホイール表面の凹部52を埋めて塗膜60の表面を滑らかにすることができる。本実施形態ではこの塗膜60は透明である。
【0016】
次の工程S8では、上記下塗り塗膜60の上に溶剤を用いてカラー塗装(例えばシルバー色)を行なう。このカラー塗装による塗膜は、上記下塗り塗膜60より遥かに薄く、例えば10〜40ミクロン程度である。そして最後の工程S9で、溶剤による上塗り塗装を行なう。本実施形態では、この上塗り塗膜は透明である。上記のように、厚い下塗り塗膜60で凹部52を埋めているので、カラー塗膜や上塗り塗膜は滑らかで、良好な外観を呈する。また、上記バレル研磨でピンホール50が無くなるので、塗装の際にピンホール50内のガスの熱膨張により塗膜面が局所的に膨らむことがない。
【0017】
上記塗装工程において、カラー塗装工程S8の後に工程S10で仕上げ旋盤加工をしてから、上塗り塗装工程S9を実行してもよい。この仕上げ旋盤加工工程S10では、局所的に例えばホイールのスポーク15の一部を旋盤加工して塗膜を削り、アルミを露出させる。このアルミ露出面は透明な上塗り塗膜で覆われ、金属色を発揮し、光輝処理となる。
【0018】
また、上記塗装工程S7〜S9の代わりに、1工程の塗装工程S11を実行してもよい。この塗装工程S11では、粉体塗装によりカラー塗装を行う。この場合でも塗膜が厚く凹部52を埋めることができるので、塗膜面を滑らかにすることができる。
【0019】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の形態を採用可能である。例えば、鋳造時の湯口が中央にある場合、工程S2において、中央にハブ穴を形成することにより押湯部を除去するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態をなす車両ホイールの製造方法を工程順に示す図である。
【図2】低圧鋳造工程,加工工程を経た車両ホイールの正面図である。
【図3】バレル研磨工程を示す概略断面図である。
【図4】車両ホイールの飾り穴のエッジを示す断面図であり、(A)はバレル研磨前,(B)はバレル研磨後の状態を示す。
【図5】(A)は低圧鋳造により車両ホイールの表面に数多く生じたピンホールの拡大断面図であり、(B)はバレル研磨によりピンホールが開放された状態を示す拡大断面図であり、(C)はさらにバレル研磨を続けることにより開放されたピンホールがなだらかな凹部に変わった状態を示す拡大断面図であり、(D)は粉体塗装により上記凹部を埋めた状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 車両ホイール
50 ピンホール
51,52 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)軽合金製車両ホイールを低圧鋳造する工程と、
(b)鋳造により生じたバリを取る工程と、
(c)熱処理する工程と、
(d)寸法出し,穴明けを含む加工を行なう工程と、
(e)加工により生じたバリを取る工程と、
(f)バレル研磨を行ない車両ホイールに残留する引張応力を圧縮応力に変える工程と、
(g)塗装を行う工程と、
を順に実行することを特徴とする車両ホイールの製造方法。
【請求項2】
上記車両ホイールは、バレル研磨工程の前にディスクの表側の面に圧縮応力が残留し、裏側の面に引張応力が残留しており、バレル研磨工程において、この裏側の残留引張応力を圧縮応力に変えるとともに、表側の残留圧縮応力を増大させることを特徴とする請求項1に記載の車両ホイールの製造方法。
【請求項3】
上記塗装工程では、車両ホイールの金属面に厚さ100ミクロン以上の粉体塗装を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の車両ホイールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−1515(P2006−1515A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183030(P2004−183030)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】