説明

車両ボディの塗装方法、及び車両ボディ用塗装ブース

【課題】車両ボディの塗装品質を悪化させることなく、塗装を迅速に行うことができる車両ボディ用塗装ブースを提供すること。
【解決手段】塗装ブース1は、塗装室3内の塗装ゾーンにおいて塗装機13から塗料を吹き付けて車両ボディ2の外表面の塗装を行う。塗装ブース1は、塗装室3の天井側から空調空気A1を流下させ、塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気A2を塗装室3の床側に排気する。塗装時には、エアポンプ21から塗料を含まないエアを圧送し、エア配管22、フレキシブルホース27、及び分岐管23を介して車両ボディ2の底部にエアを吹き付ける。その結果、底部の貫通穴を通してボディ内部空間38にエアを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両ボディを塗装するための車両ボディの塗装方法、及び車両ボディ用塗装ブースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗装ブースの塗装室内において自動車の車両ボディに対する霧化塗装を行うと、オーバースプレーにより、塗料ミストを含んだ汚染空気が塗装室内に充満してしまう。また、その塗装ブースには、塗装色の異なる車両ボディが混在して搬送される。そのため、塗装室内に塗料ミストが残存したまま次の車両ボディの塗装を行うと、色カブリによって塗装品質が損なわれるといった問題が発生する。この問題を解決するために、従来の塗装ブースでは、天井部に形成された給気室から空調空気を塗装室内に流下させ、塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気を塗装室の下方に形成された排気室に排気するようにしている。
【0003】
また、塗装ブースにおいて、塗装ゾーンの出入口にエアカーテンを形成して塗料ミストの流出を防止する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
自動車の塗装ラインでは、複数の車両ボディが連続して搬送され、塗装ゾーンで車両ボディを一旦停止させた状態で塗装が行われる。そして、塗装が完了した車両ボディが塗装ゾーンから搬出されるとともに、次の車両ボディがその塗装ゾーンに順次搬入される。この塗装ラインの稼動効率を高めるためには、各車両ボディを塗装する時間間隔(タクトタイム)を短くする必要がある。しかしながら、車両ボディはその内部に空間(ボディ内部空間)を有するため、塗装室にダウンフローの空気が供給されることにより、塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストが車両ボディの窓部からそのボディ内部空間に入り込んでしまう。そのため、塗装の時間間隔を短くすると、ボディ内部の塗料ミストを十分に排気することができない。この場合、塗料ミストが残存した状態で次の車両ボディの塗装を行うこととなり、色カブリによる塗装不良の問題が生じてしまう。
【0005】
本願発明者は、車両ボディの下方からエアを吹き付けてボディ内部空間の塗料ミストを排気する方法を検討しているが、その方法を具体化した塗装ブースは実用化されていない。
【0006】
因みに、特許文献2には、排気室側に消音ダクトを設け、消音ダクトに供給された空気を塗装室内の車両ボディの底面に放出するようにした塗装ブースが開示されている。
【特許文献1】特開平11−309396号公報
【特許文献2】特開平5−168990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2の塗装ブースは、排気室側の消音ダクトから車両ボディの底面に空気を放出して、塗装室内の空気の偏流を制限することにより、騒音の発生を軽減するものである。この構成の塗装ブースを使用した場合でも、ボディ内部空間の塗料ミストを排気することは困難である。具体的には、車両ボディの底部には5cm程度の貫通穴が複数設けられているが、車両ボディは台車に載って搬送されており排気室側の消音ダクトから遠い位置にある。従って、消音ダクトから放出された空気は底部の貫通穴からボディ内部空間にほとんど入らない。そのため、ボディ内部空間の塗料ミストを排気することはできず、塗装不良の問題を解消することができない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両ボディの塗装品質を悪化させることなく、塗装を迅速に行うことができる車両ボディの塗装方法、及び車両ボディ用塗装ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、塗装室内の塗装ゾーンにおいて塗装機から塗料を吹き付けて車両ボディの外表面の塗装を行うとともに、前記塗装室の天井側から空調空気を流下させ、前記塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気を前記塗装室の床側に排気するようにした車両ボディの塗装方法において、塗料を含まない気体を前記車両ボディの底部を介してボディ内部空間に供給することにより、前記車両ボディの窓部から前記ボディ内部空間への塗料の侵入を抑制しながら、前記車両ボディの外表面の塗装を行うことを特徴とする車両ボディの塗装方法をその要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、塗装室内の塗装ゾーンにおいて塗装機から塗料を吹き付けることで、車両ボディの外表面の塗装が行われる。この車両ボディの塗装時において、塗料を含まない気体が車両ボディの底部を介してボディ内部空間に供給される。これにより、ボディ内部空間が陽圧となり、そのボディ内部空間の空気が車両ボディの窓部から押し出される。そのため、塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストが車両ボディの窓部からボディ内部空間に侵入することが抑制される。また、塗料ミストがボディ内部空間に入ったとしても、ボディ内部空間に気体を供給することにより、その塗料ミストが車両ボディの窓部から外側に排出され、さらに塗装室内に作用するダウンフローの空調空気によってその塗料ミストが塗装室から排出される。このようにすれば、塗装室において塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを短時間で確実に塗装室から排出することができる。従って、車両ボディの塗装品質を悪化させることなく、塗装を迅速に行うことができ、塗装効率を高めることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、塗装ゾーンに車両ボディの外表面を塗装するための塗装機が設けられた塗装室を備え、前記塗装室の天井側から空調空気を流下させ、前記塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気を前記塗装室の床側に排気するようにした車両ボディ用塗装ブースにおいて、塗料を含まない気体を圧送する気体供給源と、前記気体供給源から圧送された気体を前記塗装ゾーンまで導く配管と、少なくとも塗装時に前記配管に対して直接的または間接的に接続される導入口を有し、前記塗装室の床面よりも上方に突出した位置に配置可能な吐出口を有し、前記車両ボディの底部に設けられた貫通穴に向けて前記気体を吹き付ける気体吐出部材とを備えたことを特徴とする車両ボディ用塗装ブースをその要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、塗装室内の塗装ゾーンにおいて塗装機から塗料を吹き付けることで、車両ボディの外表面の塗装が行われる。この車両ボディの塗装時において、気体供給源により塗料を含まない気体が圧送され、配管を介して塗装ゾーンまで導かれて気体吐出部材の導入口に導入される。この気体吐出部材の吐出口は塗装室の床面よりも上方に突出した位置に配置され、その吐出口から車両ボディの底部の貫通穴に向けて気体を吹き付けることで、その気体が貫通穴を通してボディ内部空間に確実に供給される。これにより、ボディ内部空間が陽圧となり、そのボディ内部空間の空気が車両ボディの窓部から押し出される。その結果、塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストが車両ボディの窓部からボディ内部空間に侵入することが抑制される。また、塗料ミストがボディ内部空間に入ったとしても、底部の貫通穴からボディ内部空間に気体を供給することにより、その塗料ミストが車両ボディの外部に排出され、さらに塗装室内に作用するダウンフローの空調空気によってその塗料ミストが塗装室から排出される。このようにすれば、塗装室において塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを短時間で確実に塗装室から排出することができる。従って、車両ボディの塗装品質を悪化させることなく、塗装を迅速に行うことができ、塗装効率を高めることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記気体吐出部材は、前記車両ボディを前記塗装ゾーンに搬送するための台車に固定され、前記導入口から導入された前記気体を分配して複数の吐出口から吐出させる分岐管であり、可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部を前記配管に接続し、アクチュエータを用いて前記中継管の先端部を昇降させることにより、前記中継管の先端部を前記導入口に接離させるように構成したことをその要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部が配管に接続されており、車両ボディの塗装時において、アクチュエータを用いてその中継管の先端部を上昇させることで、その中継管の先端部が気体吐出部材の導入口に接続される。そして、この気体吐出部材において、導入口から導入された気体が分配されて複数の吐出口から車両ボディの底部に向けて吹き付けられる。この気体吐出部材は車両ボディを搬送するための台車に固定されているので、車両ボディの底部に設けられた複数の貫通穴に対応する位置に各吐出口を正確に配置させることができ、それら貫通穴を通してボディ内部空間に気体を確実に供給することができる。また、塗装の終了後において、アクチュエータを用いて中継管の先端部を下降させることで、その中継管に接触することなく車両ボディ及び台車を塗装ゾーンから搬出することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2において、可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部を前記配管に接続し、前記気体吐出部材の前記導入口を前記中継管の先端部に接続した状態で、アクチュエータを用いて前記吐出口を昇降させることにより、前記吐出口を前記貫通穴に接離させるように構成したことをその要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部が配管に接続されて、その中継管の先端部に気体吐出部材の導入口が接続されている。車両ボディの塗装時において、アクチュエータを用いて気体吐出部材の吐出口を上昇させることで、その吐出口を車両ボディの底部の貫通穴に接近させることができる。これにより、その貫通穴を通してボディ内部空間に気体を確実に供給することができる。また、塗装の終了後において、アクチュエータを用いて気体吐出部材の吐出口を下降させることで、気体吐出部材に接触することなく車両ボディ及び台車を塗装ゾーンから搬出することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1〜4に記載の発明によると、車両ボディの塗装品質を悪化させることなく、塗装を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
【0019】
以下、本発明を自動車の車両ボディを塗装するための塗装ブースに具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態における塗装ブースを示す概略断面図であり、図2はその塗装ブースの側面図である。
【0021】
図1に示されるように、塗装ブース1は、車両ボディ2に塗料を吹き付けることにより、その車両ボディ2の外表面に塗膜を形成させるためのものであり、タクト運転の生産ラインに設けられている。この塗装ブース1には、車両ボディ2の塗装を行うための塗装室3と、塗装室3の上側に設けられ塗装室3にダウンフローの空調空気A1を供給するための給気室4と、塗装室3の下側に設けられその塗装室3内の空気を排気するための排気室5とが設けられている。
【0022】
塗装室3の床部7は簀子状の部材(グレーチング)で形成され、その床部7には、台車8に乗せられた車両ボディ2を1台ずつ搬送するためのコンベア9が設けられている。また、塗装室3において、コンベア9の左右両側に塗装ロボット11が設けられ、該塗装ロボット11のアーム12に取り付けられた塗装機13で車両ボディ2が塗装される。
【0023】
排気室5は、塗装室3内の汚染空気A2を、排気ファン(図示略)の吸引力によって吸引するようになっている。なお、汚染空気A2には、塗装室3内の塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストが含まれている。また、排気室5の側壁には、排気室5内にて浄化された空気を外部に排出する排気ダクト15が設けられている。その排気ダクト15から排出された空気は、図示しないファンによって圧送され、給気ダクト16を介して再び給気室4に導かれるようになっている。
【0024】
給気室4には、塗装室3の天井面に沿ってフィルタ18が配設されている。そして、その給気室4に圧送された空気が、フィルタ18を介して所定の風速(例えば、0.3m/sec)を有する空調空気A1として塗装室3に向けて流下させられる。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施の形態における排気室5内には、塗料を含まないエア(空気)を圧送する気体供給源としてのエアポンプ21と、エアポンプ21から圧送されるエアを塗装室3における車両ボディ2の塗装ゾーンR1まで導く配管としてのエア配管22とが設けられている。なお、エアポンプ21は排気室5の内部ではなく外部に設けられていてもよい。また、エア(空気)に代えて不活性ガス(窒素やアルゴン等)などの気体を用いることもできるが、コスト性の観点からやはりエアが好ましい。
【0026】
また、車両ボディ2を搬送するための台車8には、気体吐出部材としての分岐管23が固定されている。分岐管23は、エアを導入するための導入口24と、その導入口24から導入されたエアを分配して吐出させるための複数の吐出口25,26とを有する。この分岐管23の導入口24は、可撓性または伸縮性を有する中継管としてのフレキシブルホース27を介して排気室5のエア配管22と間接的に接続される。
【0027】
詳しくは、図3に示すように、フレキシブルホース27は、その基端部がエア配管22に接続されており、先端側がアクチュエータとしてのエアシリンダ28のピストンロッド29に連結されている。このエアシリンダ28は、図示しないバルブを介してエア配管22からエアが供給されることで駆動される。そして、エアシリンダ28が駆動されると、そのピストンロッド29の上下動によってフレキシブルホース27の先端部が昇降される。なお、図3(a)は、フレキシブルホース27の先端部を下降させた状態を示し、図3(b)は、フレキシブルホース27の先端部を上昇させた状態を示している。エアシリンダ28を駆動してフレキシブルホース27の先端部を上昇させることにより、フレキシブルホース27の先端部が台車8側の分岐管23の導入口24に接続される。
【0028】
本実施の形態では、分岐管23の導入口24とフレキシブルホース27との接続部には、それぞれの開口部を密着させてエア漏れを防止するためのガイド部材31,32が設けられている。これらガイド部材31,32は、樹脂やゴムなどからなる柔らかい部材であって、端部にいくほど開口面積が拡大するよう形成されている。また、エアの供給側となるフレキシブルホース27側のガイド部材31は、分岐管23の導入口24側のガイド部材32よりも小さく形成されている。これにより、フレキシブルホース27側のガイド部材31を導入口24側のガイド部材32に押し付けて密着し易くしている。
【0029】
図2に示されるように、分岐管23の複数の吐出口25,26は車両ボディ2の底部に向けて突設されており、内側に配置されている吐出口25は、車両ボディ2の底部(フロア)に設けられた貫通穴34の縁部(フロア面)に当接されている(図4参照)。この吐出口25の先端には、車両ボディ2(フロア面)との密着性を確保するために樹脂やゴムなどからなる柔らかいガイド部材35が設けられている。さらに、分岐管23において外側に位置されている吐出口26は、車両ボディ2のホイールハウジング36に向けて突設されている。なお、分岐管23の各吐出口25から吐出されるエアA0の流量は、車両ボディ2の窓部37からボディ内部空間38に塗料ミストを含む汚染空気が入り込まないように、その窓部37の開口面積と塗装室3におけるダウンフローの空気流量とに基づいて適宜設定される。
【0030】
次に、本実施の形態における車両ボディ2の塗装方法について説明する。
【0031】
先ず、コンベア9を駆動して台車8に乗せられた車両ボディ2を搬送し、塗装室3内の塗装ゾーンR1で車両ボディ2を一旦停止させる。その後、エアシリンダ28を駆動して伸縮させ、フレキシブルホース27の先端を上昇させて分岐管23の導入口24に接続する(図3(b)参照)。これにより、エアポンプ21からエア配管22に圧送されたエアA0がフレキシブルホース27を介して分岐管23に導入され、さらに分岐管23の各吐出口25,26からエアA0が吐出される。
【0032】
そして、このように分岐管23の各吐出口25,26から車両ボディ2の底部にエアA0が吹き付けられている状態で、塗装機13から車両ボディ2の外表面に塗料を吹き付けて塗装を行う。この塗装時には、天井部に形成された給気室4から空調空気A1を塗装室3内に流下させることで、塗装室3内において塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストを含む汚染空気A2が塗装室3の下方に形成された排気室5に排気される。ここで、分岐管23の各吐出口25から吹き付けられたエアA0はボディ底部の貫通穴34を通してボディ内部空間38に供給されるので、塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストがボディ内部空間38に入り込むことが抑制される。さらに、塗装室3のダウンフローの空調空気A1が作用しにくいホイールハウジング36にも分岐管23の各吐出口26からエアA0が吹き付けられるので、ホイールハウジング36の空間に入り込んだ塗料ミストが確実に排気される。
【0033】
そして、塗装の終了後には、エアシリンダ28を駆動して収縮させることにより、フレキシブルホース27の先端を下降させて分岐管23の導入口24から離間させる(図3(a)参照)。その後、コンベア9を駆動して、塗装された車両ボディ2を塗装室3の塗装ゾーンR1から搬出するとともに、未塗装の車両ボディ2を塗装室3の塗装ゾーンR1に搬入して、その車両ボディ2の塗装を行う。
【0034】
このように、本実施の形態の塗装ブース1では、塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストが短時間で排出されるので、色の異なる各車両ボディ2を早いタクトで順次塗装することが可能となり、色カブリによって塗装品質が損なわれるといった問題が解消される。
【0035】
因みに、塗装の色カブリを防止する別の方法としては、吸引装置を用いて、ボディ内部空間38に入り込んだ塗料ミスト(汚染空気)を吸い込んで排気する方法も考えられるが、ボディ内部空間38に広がった塗料ミストを短時間で完全に回収することは困難である。さらに、吸引装置の吸い込み口に塗料が付着するため、回収効率を維持するためにはその吸い込み口の清掃処理が別途必要になってしまう。従って、吸引装置を用いて車両ボディの内側の塗料ミストを回収する方法は実用的ではない。
【0036】
以上詳述したように、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0037】
(1)本実施の形態の塗装ブース1では、車両ボディ2の塗装の開始時から終了時までの期間の全般にわたり、台車8に固定された分岐管23の各吐出口25から車両ボディ2の貫通穴34に向けてエアA0が吹き付けられ、エアA0が貫通穴34を通してボディ内部空間38に供給される。これにより、ボディ内部空間38が陽圧となり、そのボディ内部空間38の空気が車両ボディ2の窓部37から押し出される。その結果、塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストが車両ボディ2の窓部37からボディ内部空間38に侵入することが抑制される。また、塗料ミストがボディ内部空間38に入ったとしても、ボディ内部空間38にエアA0を供給することにより、その塗料ミストが車両ボディ2の外部に排出され、さらに塗装室3内に作用するダウンフローの空調空気A1によってその塗料ミストが塗装室から排出される。このようにすれば、塗装室3において塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストを短時間で確実に塗装室3から排出することができる。従って、塗装品質を悪化させることなく、車両ボディ2の塗装を迅速に行うことができる。具体的には、塗装ブース1において、タクトタイムを1分程度に短縮することが可能となり、車両ボディ2の塗装効率を高めることができる。
【0038】
(2)本実施の形態の塗装ブース1では、車両ボディ2の塗装の開始時において、エアシリンダ28を用いてフレキシブルホース27の先端部を上昇させることで、その先端部が分岐管23の導入口24に接続され、その導入口24から導入されたエアA0が分配されて複数の吐出口25,26から車両ボディ2の底部に吐出される。この分岐管23は車両ボディ2を搬送するための台車8に固定されているので、車両ボディ2の底部に設けられた複数の貫通穴34に対応する位置に各吐出口25を正確に配置させることができ、それら貫通穴34を通してボディ内部空間38にエアA0を確実に供給することができる。そして、塗装の終了後には、エアシリンダ28を用いてフレキシブルホース27の先端部が下降されるので、そのフレキシブルホース27に接触することなく車両ボディ2及び台車8を塗装ゾーンR1から搬出することができる。
【0039】
(3)本実施の形態のように、複数の吐出口25,26を有する分岐管23を用いれば、エア供給路を共通化できるので、吐出口25,26毎にエアシリンダ28を設ける必要がない。従って、塗装室3内の設備の複雑化を回避することができる。
【0040】
(4)本実施の形態の場合、分岐管23の吐出口26から車両ボディ2のホイールハウジング36に向けてエアA0が吹き付けられるので、そのホイールハウジング36の空間に入り込んだ塗料ミストを確実に排出することができる。
【0041】
(5)本実施の形態の場合、アクチュエータとしてのエアシリンダ28は、エアポンプ21から供給されるエアに基づいて動作するので、エアシリンダ28用の気体供給源を別途用意する必要がない。なお、アクチュエータとしては、エアシリンダ28以外に油圧シリンダや電動モータなどを用いてもよい。ただし、一般的な塗料は可燃性溶剤を含むため、本実施の形態のようにエアシリンダ28を用いれば、電動モータを用いる場合のような防爆構造が不要となるため、実用上好ましいものとなる。
【0042】
(6)本実施の形態の場合、エアシリンダ28やフレキシブルホース27は、車両ボディ2の真下となる位置に配置されているので、それらには塗料が付着しにくく、汚れを除去するための清掃作業などのメンテナンス費用を低減することができる。
[第2の実施の形態]
【0043】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図5及び図6に基づき説明する。
【0044】
本実施の形態の塗装ブース1は、エア配管22の下流側の配管構成が上記第1の実施の形態と相違し、それ以外の構成は上記第1の実施の形態と同一である。以下、その配管構成について詳述する。
【0045】
図5に示されるように、車両ボディ2側の貫通穴34に対応する位置、及びホイールハウジング36に対応する位置において、複数のフレキシブルホース(中継管)41,42の基端部がエア配管22に接続されている。図5及び図6に示されるように、貫通穴34に対応する位置のフレキシブルホース41は、ホイールハウジング36に対応する位置のフレキシブルホース42よりも短く、その先端部がエアノズル(気体吐出部材)43の導入口44に接続されている。このフレキシブルホース41には、エアシリンダ28のピストンロッド29が連結されており、このエアシリンダ28を駆動してエアノズル43の吐出口45を昇降させることにより、その吐出口45が貫通穴34に接離されるようになっている。なお、図6(a)は、フレキシブルホース41の先端部を下降させた状態を示し、図6(b)は、フレキシブルホース41の先端部を上昇させた状態を示している。また、エアノズル43の吐出口45には、車両ボディ2(フロア面)との密着性を確保するために樹脂やゴムなどからなる柔らかいガイド部材46が設けられている。
【0046】
ホイールハウジング36に対応する位置のフレキシブルホース42にもエアシリンダ28のピストンロッド29が連結されており、エアシリンダ28を駆動することにより、フレキシブルホース42の吐出口47が昇降されるようになっている。
【0047】
このように構成された塗装ブース1において、塗装室3内の塗装ゾーンR1で車両ボディ2が停止された状態で、各エアシリンダ28によって各エアノズル41の吐出口45を上昇させることで、その吐出口45を車両ボディ2側の貫通穴34の周縁に当接させる。これにより、エアノズル43の吐出口45から貫通穴34を通してボディ内部空間38にエアA0が確実に供給される。また、各エアシリンダ28によって各フレキシブルホース42の吐出口47を上昇させることで、その吐出口47をホイールハウジング36に接近させる。これにより、フレキシブルホース42の吐出口47からホイールハウジング36の空間にエアA0が確実に吹き付けられる。
【0048】
そして、各吐出口45,47から車両ボディ2の底部からその内部にエアA0が吹き付けられている状態で、塗装機13から車両ボディ2の外表面に塗料を吹き付けることで塗装が行われる。その塗装の終了後に、エアシリンダ28を駆動することにより、各吐出口45,47を下降させる。これにより、フレキシブルホース42やエアノズル43に接触することなく車両ボディ2を塗装ゾーンR1から搬出することが可能となる。
【0049】
このように構成しても、上記第1の実施の形態と同様に、貫通穴34を通してボディ内部空間38にエアA0を確実に供給することができ、塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストがボディ内部空間38に侵入することが抑制される。また、ホイールハウジング36に向けてエアA0を吹き付けることにより、そのホイールハウジング36の空間に入り込んだ塗料ミストを確実に排出することができる。従って、塗装室3内の塗料ミストを短時間で確実に塗装室3から排出することができ、塗装品質を悪化させることなく、車両ボディ2の塗装を迅速に行うことができる。
【0050】
また、本実施の形態の塗装ブース1の場合、台車8に分岐管を設けていないので、台車8の製造コストを抑えることができる。すなわち、第1の実施の形態では、車種に応じて車両ボディ2のサイズや貫通穴34の位置などが異なる場合、台車8の分岐管23の配管構成を変更する必要があり、その変更を複数の台車8について行わなければならない。これに対し、本実施の形態では、車種に応じてエアシリンダ28やフレキシブルホース41,42の設置位置を変更すればよく、車種変更に容易に対応することができる。
【0051】
さらに、本実施の形態の場合、貫通穴34毎にエア供給路(フレキシブルホース42とエアノズル43とからなる通路)が設けられているので、いずれかのエア供給路が詰まったりエアシリンダ28が故障したりした場合でも、別のエア供給路からボディ内部空間38にエアA0を確実に供給することができる。
【0052】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0053】
・上記第2の実施の形態では、エアシリンダ28によりフレキシブルホース41を上昇させて、エアノズル43の吐出口45を貫通穴34に密着させる構成であったが、これに限定されるものではなく、貫通穴34に近接した位置にエアノズル43の吐出口45を配置させてもよい。すなわち、塗装室3の床面よりも上方に突出した位置であって、貫通穴34を通してボディ内部空間38にエアA0を供給可能な位置にエアノズル43の吐出口45を配置させるものであればよい。これとは逆に、エアシリンダ28によってフレキシブルホース41を上昇させることで、エアノズル43の吐出口45を貫通穴34内に挿入し、ボディ内部空間38にてエアA0を吐出するよう構成してもよい。ただし、この構成の場合、
フレキシブルホース41の上昇量を多くする必要があることから、上記実施の形態の構成のほうが実用性が高いといえる。
【0054】
・上記各実施の形態では、中継管としてフレキシブルホース27,41を用いたが、これに代えて、蛇腹構造の配管やスリーブ状の伸縮可能な配管などを用いてもよい。
【0055】
・上記実施の形態では、エアノズル43の吐出口45を貫通穴34に接続するために、エアシリンダ28を使用してフレキシブルホース41の先端部を上昇させる構成であったがこれに限定されるものではない。具体的には、エアシリンダ28などのアクチュエータを使用して、倒れて床部7に接している中継管を起立させ、床部7に対して垂直にすることで、吐出口を貫通穴34に接続するよう構成してもよい。
【0056】
・上記各実施の形態では、気体供給源としてのエアポンプ21を排気室5に設けるものであったが、これに限定されるものではない。例えば、気体供給源としてのガスボンベを台車8に固定し、さらに台車8に固定した分岐管23を通して各吐出口25から貫通穴34に気体を吹き付けるよう構成してもよい。つまり、気体供給源は固定式であっても可動式であってもよい。
【0057】
・上記各実施の形態では、自動車の車両ボディ2を塗装する塗装ブース1に具体化したがバスや電車などの車両ボディを塗装する塗装ブースに具体化してもよい。
【0058】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0059】
(1)請求項1において、前記塗装の開始時から終了時までの期間の全般にわたり、前記吐出口から前記気体を吹き付けるようにしたことを特徴とする車両ボディの塗装方法。
【0060】
(2)請求項2において、前記気体吐出部材は、さらに前記車両ボディの底部にあるホイールハウジングに向けて前記気体を吹き付けることを特徴とする車両ボディ用塗装ブース。
【0061】
(3)請求項3において、前記アクチュエータは、前記塗装を開始する前に動作して前記中継管の先端部を上昇させ、前記塗装が終了した後にその中継管の先端部を下降させることを特徴とする車両ボディ用塗装ブース。
【0062】
(4)請求項4において、前記アクチュエータは、前記塗装を開始する前に動作して前記吐出口を上昇させ、前記塗装が終了した後にその吐出口を下降させることを特徴とする車両ボディ用塗装ブース。
【0063】
(5)請求項3または4において、前記アクチュエータは、前記気体供給源の気体が供給されて動作するエアシリンダであることを特徴とする車両ボディ用塗装ブース。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施の形態の塗装ブースを示す概略断面図。
【図2】第1の実施の形態の塗装ブースの側面図。
【図3】(a)はフレキシブルホースの先端部を下降させた状態、(b)はその先端部を上昇させた状態を示す説明図。
【図4】車両ボディの底部の貫通穴及び吐出口を示す説明図。
【図5】第2の実施の形態の塗装ブースの側面図。
【図6】(a)はフレキシブルホースの先端部を下降させた状態、(b)はその先端部を上昇させた状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0065】
1…塗装ブース
2…車両ボディ
3…塗装室
8…台車
13…塗装機
21…気体供給源としてのエアポンプ
22…配管としてのエア配管
23…気体吐出部材としての分岐管
24…導入口
25,26…吐出口
27…中継管としてのフレキシブルホース
28…アクチュエータとしてのシリンダ
34…貫通穴
37…窓部
38…ボディ内部空間
41,42…中継管としてのフレキシブルホース
43…気体吐出部材としてのエアノズル
44…導入口
45,47…吐出口
A0…気体としてのエア
A1…空調空気
A2…汚染空気
R1…塗装ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装室内の塗装ゾーンにおいて塗装機から塗料を吹き付けて車両ボディの外表面の塗装を行うとともに、前記塗装室の天井側から空調空気を流下させ、前記塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気を前記塗装室の床側に排気するようにした車両ボディの塗装方法において、
塗料を含まない気体を前記車両ボディの底部を介してボディ内部空間に供給することにより、前記車両ボディの窓部から前記ボディ内部空間への塗料の侵入を抑制しながら、前記車両ボディの外表面の塗装を行うことを特徴とする車両ボディの塗装方法。
【請求項2】
塗装ゾーンに車両ボディの外表面を塗装するための塗装機が設けられた塗装室を備え、前記塗装室の天井側から空調空気を流下させ、前記塗装機からオーバースプレーされた塗料ミストを含んだ汚染空気を前記塗装室の床側に排気するようにした車両ボディ用塗装ブースにおいて、
塗料を含まない気体を圧送する気体供給源と、
前記気体供給源から圧送された気体を前記塗装ゾーンまで導く配管と、
少なくとも塗装時に前記配管に対して直接的または間接的に接続される導入口を有し、前記塗装室の床面よりも上方に突出した位置に配置可能な吐出口を有し、前記車両ボディの底部に設けられた貫通穴に向けて前記気体を吹き付ける気体吐出部材と
を備えたことを特徴とする車両ボディ用塗装ブース。
【請求項3】
前記気体吐出部材は、前記車両ボディを前記塗装ゾーンに搬送するための台車に固定され、前記導入口から導入された前記気体を分配して複数の吐出口から吐出させる分岐管であり、
可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部を前記配管に接続し、アクチュエータを用いて前記中継管の先端部を昇降させることにより、前記中継管の先端部を前記導入口に接離させるように構成したことを特徴とする請求項2に記載の車両ボディ用塗装ブース。
【請求項4】
可撓性または伸縮性を有する中継管の基端部を前記配管に接続し、前記気体吐出部材の前記導入口を前記中継管の先端部に接続した状態で、アクチュエータを用いて前記吐出口を昇降させることにより、前記吐出口を前記貫通穴に接離させるように構成したことを特徴とする請求項2に記載の車両ボディ用塗装ブース。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−117938(P2007−117938A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315990(P2005−315990)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】