説明

車両制御装置

【課題】車両の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合におけるドライバビリティの低下を抑えることのできる車両制御装置を提供する。
【解決手段】この装置は、車両の後進走行時に車速SPDを所定速度V1以下に制限する車速制限制御を実行する。車速SPDが所定速度V1より高い所定速度V2以上である状況でシフト位置がR位置になったと判断されたときには(S101:YES、且つS102:NO)、車速制限制御の実行を禁止する(S103)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後進走行時において同車両の走行速度を制限する車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の後進走行に際しては、前進走行時と比較して乗員の姿勢が不自然になったり視野が狭くなったりするために、その運転操作が前進走行時における運転操作と比べて難しくなる。そのため、車両の運転操作を容易に行うためには、後進走行時において車両の走行速度が高くなり過ぎないようにその走行速度を制限することが望ましい。
【0003】
特許文献1には、車両の後進走行が選択されているときに同車両の走行速度を所定速度以下に制限する車速制限制御を実行することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−155545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、乗員による操作状態が前進走行および後進走行のいずれを選択している状態であるのかは、例えば変速機の作動状態を検出するためのセンサや変速レバーの操作位置を検出するためのスイッチなど、車両に取り付けられたセンサやスイッチによって検出される。そのため、そうしたセンサ(またはスイッチ)の出力信号にノイズが重畳したり、センサの出力信号を取り込む制御装置や同センサそのものが故障したりした場合に、実際には後進走行を選択する運転操作がなされていないにも関わらず、後進走行が選択されたと誤って判断されてしまうおそれがある。
【0006】
特許文献1に記載の装置では、そうした誤った判断が車両の前進走行時において生じると、車速制限制御によって走行速度が制限される状態になるために、車両走行速度の不要な低下を招いたり、走行速度が高い状態である場合に同走行速度の低下度合いが大きくなって車両にショックが発生したりして、ドライバビリティの低下を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合におけるドライバビリティの低下を抑えることのできる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明では、車両の後進走行に際して同車両の走行速度が徐々に上昇して第1速度に達すると、車速制限制御の実行を通じて車両の走行速度が第1速度以下に制限される。これにより、車両の走行速度の過度の上昇が抑えられるために、車両の走行速度が第2速度以上になることもない。しかも、車両の前進走行に際して、同車両の走行速度が第2速度以上になった状態で検出手段によって車両の後退走行が選択されたと誤って検出された場合であっても、このとき車速制限制御の実行が禁止されるために車両の走行速度の不要な低下が抑えられる。そのため車両の走行速度の急低下を招くことがなく、車両の減速に伴うショックの発生を招くこともない。このように請求項1に記載の発明によれば、車両の後進走行時に同車両の走行速度を制限する車速制限制御が実行されるとはいえ、同車両の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合における走行速度の不要な低下やショックの発生を抑えることができ、ドライバビリティの低下を抑えることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、車両の走行速度が前記第2速度未満まで低下したこと、言い換えれば車速制限制御を実行した場合であっても大きなショックが発生しない程度に車両の走行速度が低くなったことを条件に、同車速制限制御の実行禁止を解除することができる。したがって、車速制限制御の実行禁止の解除に伴うショックの発生を抑えることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、車速制限制御の実行禁止の解除が、車両の走行速度が第1速度以下まで低下したことを条件に行われる。そのため、車速制限制御の実行が禁止された後において車両の走行速度が第2速度未満になった場合であっても、このとき後進走行を選択した操作自体の信頼性が低いとして、同走行速度が第1速度以下になるまでの期間にわたって車速制限制御の実行禁止が継続される。したがって請求項3に記載の発明によれば、車速制限制御が誤った判断をもとに実行されることを的確に抑えることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、前記検出手段によって車両の後進走行を選択する運転操作がなされていないと検出されたこと、すなわち車速制限制御を実行する必要がない状況になったことを条件に、同車速制限制御の実行禁止を解除することができる。
【0012】
無段変速機が搭載された車両では、前進走行および後進走行のいずれを選択する運転操作がなされている場合であっても、同車両の運転状態に応じて変速比が自動的に且つ無段階に変更される。そのため、後進走行用の変速段を有する多段式の変速機が搭載された車両と比べて、車両の後進走行時における変速比が小さくなり易く走行速度が高くなり易いために、車速制限制御の実行に対するニーズも高いと云える。
【0013】
請求項5に記載の構成によれば、そうした無段変速機が搭載された車両において車速制限制御が実行されるとはいえ、同車両の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合におけるドライバビリティの低下を好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態にかかる車両制御装置が適用される車両の概略構成を示す略図。
【図2】第1の実施の形態にかかる実行禁止処理の処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実行禁止処理の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図4】同実行禁止処理の実行態様の他の例を示すタイミングチャート。
【図5】同実行禁止処理の実行態様のその他の例を示すタイミングチャート。
【図6】本発明を具体化した第2の実施の形態にかかる実行禁止処理の処理手順を示すフローチャート。
【図7】同実行禁止処理の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態にかかる車両制御装置について説明する。
図1に示すように、車両10には駆動源としての内燃機関11が搭載されている。この内燃機関11の吸気通路12にはスロットルバルブ13が取り付けられている。車両10は、このスロットルバルブ13の開度制御を通じて内燃機関11の出力トルク(詳しくは、吸入空気量)を調節可能な構造になっている。内燃機関11の出力軸11Aは無段変速機14を介して車軸15および車輪16に連結されている。この無段変速機14としては、内燃機関11の出力軸11Aに連結されたプライマリプーリ14Aと、車軸15に連結されたセカンダリプーリ14Bと、それらプーリ14A,14Bに巻き掛けられたベルト14Cとを備えたもの、いわゆるベルト式のものが採用されている。車両10は、この無段変速機14の作動制御を通じて変速比を無段階に変更可能な構造になっている。
【0016】
車両10には、無段変速機14の作動状態を変更するためのシフト装置17が搭載されている。車両10の運転操作に際しては、上記シフト装置17(詳しくは、そのシフトレバー17A)が、乗員による操作を通じて、前進位置(D位置)、後進位置(R位置)、パーキング位置(P位置)、およびニュートラル位置(N位置)の何れかの位置に操作される。具体的には、D位置は車両10を前進走行させる際に選択され、R位置は車両10を後進走行させる際に選択され、P位置は車両10の駐車に際して選択され、N位置は内燃機関11から車軸15への動力伝達を遮断する際に選択される。
【0017】
車両10には、その運転状態を検出するための各種センサ類が取り付けられている。具体的には、各車輪16の近傍には、車輪16の回転速度を検出するための速度センサ21が、車輪16毎に一つずつ取り付けられている。これら速度センサ21としては、回転方向を検出不能なもの、すなわち車輪16の回転速度の絶対値を検出可能なものが採用されている。本実施の形態では、それら速度センサ21の出力信号に基づいて車両10の走行速度(車速SPD)が求められる。ちなみに車速SPDとしては、例えば速度センサ21により検出される各車輪16の回転速度の平均値を採用したり、それら回転速度の最大値を採用したりすることができる。
【0018】
またシフト装置17には、その操作位置を検出するためのスイッチ22,23,24,25が設けられている。詳しくは、D位置に操作されたことを検出するためのDスイッチ22や、R位置に操作されたことを検出するためのRスイッチ23、P位置に操作されたことを検出するためのPスイッチ24、およびN位置に操作されたことを検出するためのNスイッチ25が取り付けられている。
【0019】
その他、車両10にはアクセルペダル18の操作量ACを検出するためのアクセルセンサ26や、ブレーキペダル19の踏み込み操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ27なども取り付けられている。
【0020】
車両10には、例えばマイクロコンピュータを中心に構成される電子制御ユニット20が取り付けられている。この電子制御ユニット20は、各種センサ類の出力信号を取り込むとともに各種の演算を行い、その演算結果に基づいて内燃機関11の運転制御や無段変速機14の作動制御などの各種制御を実行する。
【0021】
無段変速機14の作動制御は次のように実行される。すなわち先ず、アクセルペダル18の踏み込み操作量ACや、車速SPD、ブレーキペダル19の操作状態に基づいてプライマリプーリ14Aの回転速度についての制御目標値(目標回転速度Tpr)が設定される。そして、この目標回転速度Tprと実際のプライマリプーリ14Aの回転速度とが一致するように、同プライマリプーリ14Aの有効径が調節される。これにより、変速比が車両10の運転状態に応じて自動的に且つ無段階に変更されるようになっている。
【0022】
また本実施の形態では、電子制御ユニット20により実行される各種制御の一つとして、車両10の後進走行時において同車両10の走行速度を制限する車速制限制御が実行される。この車速制限制御は以下のように実行される。
【0023】
すなわち先ず、車両10を後進走行させるべくシフト装置17が操作されているか否かが判断される。この判断は、シフト装置17に設けられた各スイッチ22,23,24,25の出力信号に基づいて行われる。本実施の形態では、Rスイッチ23がオン操作された状態であり、且つDスイッチ22がオフ操作された状態であることをもって、車両10を後進走行させるべくシフト装置17が操作されていると判断される。本実施の形態では、Dスイッチ22、Rスイッチ23、および電子制御ユニット20が検出手段として機能する。
【0024】
そして、車両10を後進走行させるべくシフト装置17が操作されていないと判断される場合、すなわちシフト装置17の操作位置(以下、「シフト位置」)がR位置以外の位置になっていると判断される場合には、このとき車両10の走行速度を制限する処理は実行されない。
【0025】
一方、車両10を後進走行させるべくシフト装置17が操作されていると判断される場合、換言すればシフト位置がR位置になっていると判断される場合には、同車両10の走行速度を制限するべく以下の処理が実行される。
【0026】
すなわち、車速SPDが所定速度V1(例えば、20km毎時)以上であることを条件に、同所定速度V1と車速SPDとの偏差に基づく内燃機関11の出力トルク(詳しくは、スロットルバルブ13の開度)のフィードバック制御が実行される。なお車速SPDが所定速度V1未満であるときには上記偏差に基づくフィードバック制御は実行されない。
【0027】
こうした車速制限制御の実行を通じて、車両10の後進走行時における車速SPDが所定速度V1以下に制限されるようになる。本実施の形態では、上記所定速度V1が第1速度として機能する。
【0028】
なお本実施の形態の無段変速機14の作動制御では、シフト位置がD位置およびR位置のいずれの場合であっても、変速比が同車両10の運転状態に応じて自動的に且つ無段階に変更される。そのため、後進走行用の変速段を有する多段式の変速機が搭載された車両と比べて、車両の後進走行時における変速比が小さくなり易い。こうしたことから上記車両10は後進走行時において車速SPDが高くなり易く、上記車速制限制御の実行に対するニーズが高いと云える。本実施の形態では、そうした車両10において車速制限制御が実行されて、後進走行時における車速SPDが高くなり過ぎないように同車速SPDが制限される。
【0029】
ここで、車速制限制御では、車両10を後進走行させるべくシフト装置17が操作されているか否かの判断が、シフト装置17に取り付けられたDスイッチ22およびRスイッチ23の出力信号をもとに行われる。そのため、それらDスイッチ22やRスイッチ23の出力信号にノイズが重畳したりDスイッチ22およびRスイッチ23が故障したりした場合に、実際には後進走行を選択する運転操作がなされていないにも関わらず、後進走行が選択されたと誤って判断されてしまうおそれがある。そして、そうした誤った判断が車両10の前進走行時において生じると、車速制限制御の実行に伴い車速SPDが制限される状態になってしまう。そのため、このとき車速SPDの不要な低下を招いたり、車速SPDが高い状態である場合に同車速SPDの低下度合いが大きくなって車両10にショックが発生したりして、ドライバビリティの低下を招くおそれがある。
【0030】
こうした実情をふまえて本実施の形態では、車速SPDが前記所定速度V1より高い所定速度V2(例えば30km毎時)以上である状況で、Dスイッチ22およびRスイッチ23を通じてシフト装置17のR位置への操作が検出されたときに、上述した車速制限制御の実行を禁止するようにしている。
【0031】
車両10の運転制御では、車速SPDが所定速度V2以上である状態でシフト装置17がR位置に操作されるといった運転操作がなされる可能性はごく低い。そのため、そうした操作がなされたとの判断は誤った判断である可能性が高いと云える。本実施の形態では、車速SPDが所定速度V2以上である状況でシフト装置17のR位置への操作が検出された場合に、これが誤った判断であるとして、車速制限制御の実行が禁止される。
【0032】
以下、そのようにして車速制限制御の実行を禁止する処理(実行禁止処理)の実行手順について、図2に示すフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。なお、このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット20により実行される。
【0033】
図2に示すように、この処理では先ず、以下の[条件イ]および[条件ロ]が共に満たされるか否かが判断される。
[条件イ]シフト位置がR位置であると判断されていること(ステップS101)。
[条件ロ]車速SPDが所定速度V2未満であること(ステップS102)。
【0034】
なお上記所定速度V2としては、以下の各要件を共に満たす一定の値が予め求められて電子制御ユニット20に記憶されている。
・車速制限制御の実行を開始した場合にドライバビリティの低下を招くことのない程度に車両10のショックが小さく抑えられる車速範囲における上限速度(あるいは、上限速度より若干低い速度)であること。
・車両10の後進走行に際して車速SPDが所定速度V1以上になったことに伴って車速制限制御の実行が開始されたときに、同車速SPDが所定速度V1をオーバーシュートした場合であっても、これを越えることのない速度であること。
【0035】
そして、[条件イ]が満たされないときには(ステップS101:NO)、このときシフト位置がR位置ではないために車速制限制御を実行する必要がないとして、車速制限フラグがオフ操作される(ステップS103)。本実施の形態では、この車速制限フラグがオフ操作される場合には、車速制限制御が実行されない。
【0036】
その後において本処理が繰り返し実行されて、[条件イ]および[条件ロ]が共に満たされると(ステップS101およびステップS102が共に「YES」)、車速制限フラグがオン操作される(ステップS104)。本実施の形態では、車速制限フラグがオン操作されると、車速制限制御が実行される。
【0037】
この場合における車速SPDの制限態様を図3に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図3に示すように、シフト位置がR位置になった状態で車両10の後進走行が開始され(時刻t11)、その後において車速SPDが徐々に上昇して所定速度V1に達すると(時刻t12)、車速制限フラグがオン操作されて車速制限制御の実行が開始される。これにより、車速SPDが所定速度V1で制限されて、車速SPDの過度の上昇が抑えられる。なお、この場合には車速SPDが所定速度V2以上にまで上昇することはない。
【0038】
一方、[条件イ]が満たされるとともに(図2のステップS101:YES)、[条件ロ]が満たされないときには(ステップS102:NO)、車速制限フラグがオフ操作されて(ステップS103)、車速制限制御が実行されない。
【0039】
この場合における車速SPDの制限態様を図4に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図4に示す例では、時刻t21より前において、シフト位置がD位置になって車両10が前進走行しており、車速SPDが所定速度V2より高い状態になっている。本処理では、この状態でRスイッチ23やDスイッチ22の出力信号へのノイズ重畳や電子制御ユニット20の誤動作などによってシフト位置がR位置になったと誤って判断されたとしても(時刻t21)、車速制限フラグがオン操作されずに車速制限制御が実行されないために、車速SPDの不要な低下が抑えられる。そのため車速SPDの急低下を招くことがなく、車両10の減速に伴うショックの発生を招くこともない。
【0040】
このように本処理によれば、車両10の後進走行時に車速SPDを制限する車速制限制御が実行されるとはいえ、同車両10の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合における車速SPDの不要な低下やショックの発生を抑えることができ、ドライバビリティの低下を抑えることができる。
【0041】
なお、[条件イ]および[条件ロ]が共に満たされて(図2のステップS101およびステップS102が共に「YES」)車速制限制御の実行が禁止された後において、車速SPDが所定速度V2未満にまで低下すると(ステップS102:YES)、車速制限フラグがオン操作される(ステップS104)。すなわち、この場合には車速制限制御の実行禁止が解除されて、同車速制限制御の実行が開始される。
【0042】
この場合における車速SPDの制限態様を図5に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図5に示す例では、時刻t31より前において、シフト位置がD位置になって車両10が前進走行しており、車速SPDが所定速度V2より高い状態になっている。そして時刻t31においてシフト位置がR位置になったと誤って判断されるとはいえ、このとき実行禁止処理を通じて車速制限制御の実行が禁止される。そして、その後において車速SPDが所定速度V2未満になると(時刻t32)、車速制限制御の実行禁止が解除されて同車速制限制御の実行が開始される。このように本実施の形態では、車速SPDが所定速度V2未満まで低下したこと、言い換えれば車速制限制御を実行した場合であっても大きなショックが発生しない程度に車速SPDが低くなったことを条件に、同車速制限制御の実行禁止が解除される。したがって、車速制限制御の実行禁止の解除に伴うショックの発生を抑えることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)車速SPDが所定速度V2以上である状況でDスイッチ22およびRスイッチ23の出力信号をもとにシフト装置17のR位置への操作が検出されたときに、車速制限制御の実行を禁止するようにした。そのため、車両10の後進走行時に車速SPDを制限する車速制限制御が実行されるとはいえ、同車両10の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合におけるドライバビリティの低下を抑えることができる。
【0044】
(2)車速制限制御を実行した場合であっても大きなショックが発生しない程度に車速SPDが低くなったことを条件に同車速制限制御の実行禁止を解除することができ、車速制限制御の実行禁止の解除に伴うショックの発生を抑えることができる。
【0045】
(3)無段変速機14が搭載されているために後進走行時の車速SPDが高くなり易く車速制限制御の実行に対するニーズが高い車両10において同車速制限制御が実行されるとはいえ、車両10の前進走行中に後進走行が選択されたと誤って検出された場合におけるドライバビリティの低下を好適に抑えることができる。
【0046】
(第2の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施の形態にかかる車両制御装置について、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。なお以下では、第1の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、同構成についての詳細な説明は省略する。
【0047】
本実施の形態にかかる車両制御装置と第1の実施の形態にかかる車両制御装置とは、実行禁止処理の実行態様が異なる。以下、本実施の形態にかかる実行禁止処理について具体的に説明する。
【0048】
図6は、実行禁止処理の具体的な実行手順を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット20により実行される。
【0049】
図6に示すように、この処理では、禁止フラグがオフ操作されていることを条件に(ステップS201:YES)、前記[条件イ]に基づく判断(ステップS101)および[条件ロ]に基づく判断(ステップS102)が実行される。なお禁止フラグは、初期状態においてオフ操作されるフラグである。
【0050】
そして、[条件イ]が満たされ(ステップS101:YES)、且つ[条件ロ]が満たされない場合には(ステップS102:NO)、禁止フラグがオン操作されるとともに(ステップS202)、車速制限フラグがオフ操作されて(ステップS103)車速制限制御の実行が禁止される。このように本処理では、車速制限制御の実行を禁止するタイミングで禁止フラグがオン操作される。
【0051】
そのようにして禁止フラグがオン操作された後においては(ステップS201:NO)、以下の[条件ハ]および[条件ニ]のいずれかが満たされない限り(ステップS203:NO)、禁止フラグがオン操作された状態のままで保持される(ステップS204の処理がジャンプされる)。そのため、このときステップS101〜ステップS104の処理が実行されずに、車速制限フラグがオフ操作された状態のままで保持されて、車速制限制御の実行禁止が継続される。
[条件ハ]シフト位置がR位置以外の位置であると判断されていること。
[条件ニ]車速SPDが前記所定速度V1以下であること。
【0052】
その後、本処理が繰り返し実行されて[条件ハ]および[条件ニ]のいずれかが満たされると(ステップS203:YES)、禁止フラグがオフ操作される(ステップS204)。これにより以後において(ステップS201:YES)、ステップS101〜ステップS104の処理が実行されるようになる。すなわち、このとき車速制限制御の実行禁止が解除される。
【0053】
以下、上記実行禁止処理を実行することによる作用について、図7に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。
図7に示す例では、時刻t41より前において、シフト位置がD位置になって車両10が前進走行しており、車速SPDが所定速度V2より高い状態になっている。そして時刻t41においてシフト位置がR位置になったと誤って判断されるとはいえ、このとき実行禁止処理を通じて車速制限制御の実行が禁止される。また、このとき禁止フラグがオン操作される。その後において車速SPDが低下して所定速度V2未満になっても(時刻t42)、禁止フラグがオン操作されているために、車速制限制御の実行禁止が継続される。
【0054】
その後に車速SPDがさらに低下して所定速度V1以下になると(時刻t43)、禁止フラグがオフ操作されて車速制限制御の実行禁止が解除される。このように本実施の形態では、車速制限制御の実行禁止の解除が、車速SPDが所定速度V1以下まで低下したことを条件に行われる。
【0055】
ここで車両10の運転制御では、車速SPDが所定速度V2以上である状態でシフト装置17がR位置に操作されるといった運転操作がなされる可能性はごく低い。そのため、そうした操作がなされたとの判断は、誤った判断である可能性が高いと云える。
【0056】
この点、本実施の形態によれば、車速制限制御の実行が禁止された後において車速SPDが所定速度V2未満になった場合であっても、このときシフト位置がR位置であるとの判断自体の信頼性が低いとして、同車速SPDがさらに低下して所定速度V1以下になるまでの期間にわたって車速制限制御の実行禁止が継続される。これにより、シフト位置がR位置であると誤って判断された場合に、その判断をもとに車速制限制御が実行されることを的確に抑えることができる。
【0057】
また本実施の形態では、車速制限制御の実行が禁止された後においてシフト位置がR位置以外の位置になったと判断された場合にも、禁止フラグがオフ操作されて、車速制限制御の実行禁止が解除される。そのため、車速制限制御を実行する必要がない状況になったことを条件に、同車速制限制御の実行禁止を解除することができるようになる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態によれば、先の(1)および(3)に記載の効果に加えて、以下の(4)および(5)に記載する効果が得られるようになる。
(4)車速SPDが所定速度V1以下まで低下したことを条件に車速制限制御の実行禁止を解除するようにしたために、シフト位置がR位置であると誤って判断された場合に、その判断をもとに車速制限制御が実行されることを的確に抑えることができる。
【0059】
(5)車速制限制御を実行する必要がない状況になったことを条件に、同車速制限制御の実行禁止を解除することができる。
(その他の実施の形態)
なお、上記各実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0060】
・車速制限制御の実行禁止に合わせて、車室内に取り付けた警告灯を点灯させたり、実行禁止の履歴を電子制御ユニット20のメモリに記憶させたりしてもよい。
・車速制限制御の実行態様は、スロットルバルブ13の開度をフィードバック制御することに限らず、例えば燃料噴射量をフィードバック制御したり燃料噴射を一時的に停止したりするなど、任意に変更することができる。要は、車両10の後進走行時において同車両10の走行速度を所定速度以下に制限することができればよい。
【0061】
・車速SPDを、各速度センサ21の出力信号に基づき検出することに代えて、車軸15の回転速度を検出する速度センサを設けるとともに同速度センサの出力信号に基づき検出したり、無段変速機14の出力軸の回転速度を検出する速度センサを設けるとともに同速度センサの出力信号に基づき検出したりしてもよい。
【0062】
・無段変速機14の作動状態を検出するためのセンサ(あるいはスイッチ)を設けるとともに、同センサの出力信号に基づいてシフト装置17の操作位置を検出するようにしてもよい。
【0063】
・車速制限制御の実行を禁止する条件は、[条件イ]および[条件ロ]により定まる条件に限らず、任意に変更することができる。例えば、所定周期毎に実行される処理の前回実行時において以下の[条件ホ]が満たされるとともに、同処理の今回実行時において以下の[条件ヘ]が満たされることといった条件を設定することができる。
[条件ホ]シフト位置がDレンジであると判断されており、且つ車速SPDが所定速度V2以上であること。
[条件ヘ]シフト位置がRレンジであると判断されていること。
【0064】
要は、車速SPDが所定速度V2以上である状況で車両10の後進走行を選択する運転操作がなされたと検出されたときに、車速制限制御の実行を禁止することができればよい。
【0065】
・ベルト式の無段変速機14が搭載された車両10に限らず、トロイダル式の無段変速機が搭載された車両にも、上記各実施の形態にかかる車両制御装置は適用することができる。
【0066】
・本発明は、無段変速機が搭載された車両の他、多段式の自動変速機が搭載された車両にも適用可能である。また自動変速機が搭載された車両に限らず、手動変速機が搭載された車両にも適用することができる。要は、後進走行の選択時において車両の走行速度を所定速度以下に制限する車速制限制御が実行される装置であれば、本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…車両、11…内燃機関、11A…出力軸、12…吸気通路、13…スロットルバルブ、14…無段変速機、14A…プライマリプーリ、14B…セカンダリプーリ、14C…ベルト、15…車軸、16…車輪、17…シフト装置、17A…シフトレバー、18…アクセルペダル、19…ブレーキペダル、20…電子制御ユニット、21…速度センサ、22…Dスイッチ、23…Rスイッチ、24…Pスイッチ、25…Nスイッチ、26…アクセルセンサ、27…ブレーキスイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後進走行時に同車両の走行速度を第1速度以下に制限する車速制限制御を実行する車両制御装置において、
前記車両の後進走行を選択する運転操作がなされているか否かを検出する検出手段を備え、
前記車両の走行速度が前記第1速度より高い第2速度以上である状況で、前記検出手段によって前記運転操作がなされたと検出されたときに、前記車速制限制御の実行を禁止する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
当該装置は、前記走行速度が前記第2速度未満まで低下したことを条件に前記車速制限制御の実行禁止を解除する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
当該装置は、前記走行速度が前記第1速度以下まで低下したことを条件に前記車速制限制御の実行禁止を解除する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両制御装置において、
当該装置は、前記検出手段によって前記運転操作がなされていないと検出されたことを条件に前記車速制限制御の実行禁止を解除する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両制御装置において、
前記車両は、変速比を連続的に変更する無段変速機が搭載されてなる
ことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197748(P2012−197748A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63200(P2011−63200)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】