説明

車両前部構造

【課題】車両前面衝突時等にフードリッジを変形させることでより適切に衝撃を吸収することが可能な車両前部構造を得る。
【解決手段】フードリッジ20の内部空間を長手方向に分割する二つのガセット7,8を、それら二つのガセット7,8間の中央部Mがエアボックス2より前方かつストラットハウジング3より後方に位置するように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のフロントピラー間に架設されるエアボックスと、フロントピラーのエアボックスと略同じ高さ位置から車両前方に伸びる閉断面構造のフードリッジと、フードリッジの車幅方向内側に隣接して設けられるストラットハウジングと、を備える車両前部構造が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−203413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の車両前部構造では、フードリッジの剛性および強度が高く、車両前面衝突時等にフードリッジの折れや変形が生じずに、比較的大きな荷重がフロントピラーまで伝達されてしまうため、フロントピラーの剛性および強度を高くする必要が生じ、結果的に車両の重量増を招く場合があった。
【0004】
そこで、本発明は、車両前面衝突時等にフードリッジを変形させることでより適切に衝撃を吸収することが可能な車両前部構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にあっては、一対のフロントピラー間に架設されるエアボックスと、フロントピラーのエアボックス取付部近傍から車両前方に伸びる閉断面構造のフードリッジと、フードリッジの車幅方向内側に隣接して設けられるストラットハウジングと、を備える車両前部構造において、前記フードリッジの内部空間を長手方向に分割する二つのガセットを、それら二つのガセット間の前後方向中央部が前記エアボックスより前方かつストラットハウジングより後方に位置するように設けたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、二つのガセットによってフードリッジのエアボックス近傍位置とストラットハウジング近傍位置とをそれぞれ補強し、車両前面衝突時等に、相対的に剛性および強度が低くなったそれら二つのガセット間の中央部付近でフードリッジを変形させることで、衝撃をより効果的に吸収することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる車両前部構造の斜視図、図2は、車両前部構造のフードリッジ内部を示す斜視図、図3は、図1のIII−III断面図、図4は、フードリッジ内部を示す平面図、図5は、車両前面衝突時等に変形したフードリッジを示す斜視図、図6は、車両前面衝突時等に変形したフードリッジを示す平面図である。なお、図中、FRは車両前方、INは車幅方向内側、UPは上方を示す。
【0008】
左右両側に配設された一対のフロントピラー1(各図中では、片側のみ示す)の上下方向略中央部間には閉断面構造のエアボックス2が架設(接合)されている。そして、このフロントピラー1のエアボックス取付部近傍(エアボックス2と略同じ高さ位置)からは、閉断面構造を備えるフードリッジ20が車両前方に向けて延設されている。また、ストラットハウジング3は、フードリッジ20の車幅方向内側に隣接して設けられている。なお、図1、図2および図5中の12は、ダッシュロアパネルである。
【0009】
フードリッジ20は、フロントピラー1の上下方向略中央部を車両前方に向けて張り出させたフードリッジインナ後部10と、その前側に接続したフードリッジインナ前部4と、それらフードリッジインナ後部10およびフードリッジインナ前部4に対して車幅方向外側に設けられるフードリッジアウタレインフォース後部6およびフードリッジアウタレインフォース前部5と、を備えている。これらフードリッジインナ後部10、フードリッジインナ前部4、フードリッジアウタレインフォース後部6およびフードリッジアウタレインフォース前部5は、スポット溶接等によって接合されて一体化されている。
【0010】
車幅方向内側に配置されるフードリッジインナ後部10およびフードリッジインナ前部4は、側内壁10a,4aと底壁10b,4bとを有する略L字状断面を備えるとともに、車幅方向外側に配置されるフードリッジアウタレインフォース後部6およびフードリッジアウタレインフォース前部5は、側外壁5a,6aと天壁5b,6bとを有する略L字状断面を備えており、フードリッジ20は、長手方向のほぼ全区間に亘って略矩形断面の内部空間を有する閉断面構造を備えている。なお、内部空間の前端側の断面は、フードリッジアウタレインフォース前部5の端壁5cによってほぼ塞がれている。
【0011】
また、このフードリッジ20の後部の内部空間には、二つのガセット7,8が設けられており、これらガセット7,8によって内部空間が長手方向に三分割されている。
【0012】
二つのガセット7,8のうちフロントピラー1に近い側(後側)のガセット7は、内部空間の断面をほぼ塞ぐ略矩形状の遮蔽壁部7aと、この遮蔽壁部7aの周縁(四辺)にそれぞれ設けられる接合フランジ部7bとを備えており、各接合フランジ部7bがフードリッジ20の側内壁10a、側外壁6a、天壁6b(補強板11)、および底壁10bに接合されることで、フードリッジ20の閉断面内に固定されている。本実施形態では、図4に示すように、遮蔽壁部7aがエアボックス2の前壁2aの車幅方向外側に隣接するように配置されている。なお、このガセット7の上部には、矩形板状の天板部11aと接合フランジ部11bとを有する補強板11が設けられている。
【0013】
前側のガセット8は、内部空間の断面をほぼ塞ぐ略矩形状の遮蔽壁部8aと、この遮蔽壁部8aの周縁(四辺)にそれぞれ設けられる接合フランジ部8bとを備えており、各接合フランジ部8bがフードリッジ20の側内壁10a、側外壁6a、天壁6b、および底壁10bに接合されることで、フードリッジ20の閉断面内に固定されている。本実施形態では、図4に示すように、遮蔽壁部8aがストラットハウジング3の後端部3aの車幅方向外側に隣接するように配置されている。
【0014】
また、本実施形態では、フードリッジインナ後部10とフードリッジインナ前部4との境界部分(相互接合部分)に、ブレース9が配置され、フードリッジ20内に接合されている。このブレース9は、フードリッジ20内に固定される底壁部9a、側壁部9b、および接合フランジ部9d、ならびに、車幅方向内側の上部と車幅方向外側の下部とを繋ぐ傾斜壁部9cを備えており、フードリッジ20の剛性および強度を向上させている。
【0015】
ここで、本実施形態においては、図3に示すように、略平行に配置される二つのガセット7,8のうち高さが大きい方(後側のガセット7)の高さLvを、これら二つのガセット7,8間の距離(最短距離)Lhより長くしている。このような構成とした場合、図5および図6に示すように、フードリッジ20の側外壁6aおよび側内壁10aには、縦方向の皺(車幅方向の凹凸を生じさせるように湾曲する皺)Wが生じる。これは、側外壁6aおよび側内壁10aのうち二つのガセット7,8間に位置する部分が前方からの荷重によって座屈するためであり、さらに高さLvを長さLhより長くすることでこの部分で縦方向の皺Wが寄り易くなることを利用している。
【0016】
そして、この皺Wにより、フードリッジ20(図6ではフードリッジアウタレインフォース後部6)は、側方、例えば、図6に示すようにストラットハウジング3側に折れ曲がり、このストラットハウジング3の変形によって、衝撃を吸収することが可能となる。
【0017】
なお、フードリッジ20は、図6に示すように、ストラットハウジング3と干渉する方向に折曲させるのが好適であるが、これと逆方向、すなわちストラットハウジング3から離間する方向に折曲させた場合も、フードリッジ20に接続されるストラットハウジング3の変形(車幅方向外側への伸び変形)によって衝撃を吸収させることができる。
【0018】
また、本実施形態では、二つのガセット7,8が、それぞれフードリッジ20の内部空間の断面をほぼ塞いでいる。このため、図3に示すように、側外壁6aの貫通孔6cからフードリッジ20の後部の内部空間に進入した熱気(矢印A)が当該内部空間内で前方に流れるのをガセット7によって防ぐことができるとともに、フードリッジ20の前部の内部空間から熱気(矢印A)が後方に流れるのをガセット8によって防ぐことができる。すなわち、本実施形態では、二つのガセット7,8の双方とも、遮熱板として機能している。
【0019】
以上説明したように、本実施形態によれば、フードリッジ20の内部空間を長手方向に分割する二つのガセット7,8を、それら二つのガセット7,8間の前後方向中央部(図4中のM)がエアボックス2より前方かつストラットハウジング3より後方に位置するように設けたため、この中央部M付近でフードリッジ20の剛性および強度を相対的に低くして、車両前面衝突時等に前方から入力された荷重によって、この部分を変形させることができる。このため、前方から荷重が入力された場合にも、当該荷重がフロントピラー1へ伝達されるのを抑制することができ、フロントピラー1の剛性および強度をより低く設定することができ、以て、車体の重量増を抑制することができるようになる。
【0020】
特に、中央部Mをストラットハウジング3より後方に設定したことで、前方からの荷重を、変形したフードリッジ20からさらにこのフードリッジ20に接続されるストラットハウジング3に伝達し、当該ストラットハウジング3を変形させることで、さらに効率の良い衝撃吸収が可能となる。かかる効果は、中央部Mより前方位置、特にフードリッジ20内のストラットハウジング3との接続位置に、補強部材としてのブレース9を設けることで、より一層高めることができる。
【0021】
また、本実施形態では、二つのガセット7,8のうちフロントピラー1に近い側に配置されるガセット7を、エアボックス2の前壁2aに隣接配置したため、ガセット7を設けた部分でフードリッジ20の剛性および強度を高めて、フードリッジ20を前側のガセット8との間の区間でより確実に変形させることができるようになる。
【0022】
また、本実施形態では、二つのガセット7,8のうち少なくともいずれか一方(本実施形態では後側のガセット7)の高さLvを、それら二つのガセット7,8間の距離Lhより長くしたため、前方から作用した荷重によって、これら二つのガセット7,8間のフードリッジ20の側外壁6aおよび側内壁10aに縦方向の皺Wをより確実に形成することができる。そして、これにより、フードリッジ20をより確実に側方に屈曲変形させ、ひいてはストラットハウジング3を変形させて、より効率の高い衝撃吸収を図ることができる。
【0023】
また、本実施形態では、二つのガセット7,8のうち少なくともいずれか一方(本実施形態では双方)が、フードリッジ20の内部空間の断面をほぼ塞ぐようにしたため、フードリッジ20の内部空間内で熱気が通流するのを抑制することができる。
【0024】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造のフードリッジ内部を示す斜視図。
【図3】図1のIII−III断面図。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造のフードリッジ内部を示す平面図。
【図5】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造において車両前面衝突時等に変形したフードリッジを示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造において車両前面衝突時等に変形したフードリッジを示す平面図。
【符号の説明】
【0026】
1 フロントピラー
2 エアボックス
2a 前壁
3 ストラットハウジング
7 (後側の)ガセット
8 (前側の)ガセット
20 フードリッジ
Lh 距離
Lv 高さ
M 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフロントピラー間に架設されるエアボックスと、フロントピラーのエアボックス取付部近傍から車両前方に伸びる閉断面構造のフードリッジと、フードリッジの車幅方向内側に隣接して設けられるストラットハウジングと、を備える車両前部構造において、
前記フードリッジの内部空間を長手方向に分割する二つのガセットを、それら二つのガセット間の前後方向中央部が前記エアボックスより前方かつストラットハウジングより後方に位置するように設けたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記二つのガセットのうちフロントピラーに近い側に配置されるガセットを、前記エアボックスの前壁に隣接配置したことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記二つのガセットのうち少なくともいずれか一方の高さを、前記二つのガセット間の距離より長くしたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記二つのガセットのうち少なくともいずれか一方が、フードリッジの内部空間の断面をほぼ塞ぐようにしたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一つに記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−37337(P2008−37337A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216841(P2006−216841)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】