説明

車両周辺監視装置

【課題】カメラとレーダ装置の組み合わせにより物体の実空間位置を算出するときに、車両と物体間の距離の誤検出により、不適切な実空間位置の算出がなされることを防止した車両周辺監視装置を提供する。
【解決手段】物体距離検出部21によりレーダ装置12の測距データから検出された物体をカメラの撮像画像に投影して、該物体の画像部分を検出する画像部分検出部22と、物体距離検出部21による検出距離に基づいて、物体の実空間位置を算出する実空間位置算出部23と、前記検出範囲内に存在する格子フェンスを検出する半透過物体検出部25と、カメラ11の撮像方向で、格子フェンスと重なる位置に存在する物体については、実空間位置算出部23による実空間位置の算出を禁止する実空間位置信頼性判定部24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたレーダ装置とカメラにより、車両の周辺に存在する物体を監視する車両周辺監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載されたレーダ装置とカメラにより、車両の周辺に存在する物体の種別を判別すると共に、この物体の実空間位置を算出する車両周辺監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来の車両周辺監視装置においては、レーダ装置により車両周辺に存在する物体を検出して、この物体と車両間の距離を検出する。そして、カメラの撮像画像に、レーダ装置により検出された物体を投影することにより、物体の画像部分を検出してその種別を判別する。
【0004】
物体の種別が歩行者等の監視対象物であったときには、車両と物体間の検出距離に基づいて、撮像画像上での物体の画像部分の位置が物体の実空間位置に変換され、車両と物体との相対位置が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−264954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、上述したように、カメラとレーダ装置を組み合わせて、車両周辺に存在する物体の画像と物体までの距離を検出した場合に、カメラによる検出物体とレーダ装置による検出物体との不整合により、カメラによる検出物体までの距離が誤って検出される場合があることを知見した。そして、このように、カメラによる検出物体までの距離が誤って検出されたときには、この距離に基づく物体の実空間位置の算出が不適切なものとなる。
【0007】
本発明はかかる背景を鑑みてなされたものであり、カメラとレーダ装置の組み合わせにより、車両周辺に存在する物体の実空間位置を算出するときに、レーダ装置による車両と物体間の距離の誤検出により、不適切な実区間位置が用いられることを防止した車両周辺監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、車両に搭載されたレーダ装置により前記車両周辺の検出範囲を走査することによって、該検出範囲内に存在する物体を検出して、該物体と前記車両間の距離を検出する物体距離検出部と、前記物体距離検出部により検出された物体を、前記車両に搭載されたカメラの撮像画像に投影して、該物体の画像部分を検出する画像部分検出部と、前記物体距離検出部による検出距離に基づいて、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体の実空間位置を算出する実空間位置算出部とを備えた車両周辺監視装置に関する。
【0009】
そして、前記検出範囲内に存在し、前記レーダ装置から出力されるビームを遮蔽すると共に、前記カメラにより撮像されたときに背後の他物体が撮像される半透過物体を検出する半透過物体検出部と、前記カメラの撮像方向で、前記半透過物体検出部により検出された半透過物体と重なる位置に存在する物体については、前記実空間位置算出部により算出される実空間位置の信頼性を下げる実空間位置信頼性判定部とを備えたことを特徴とする(第1発明)。
【0010】
第1発明において、前記車両とその周辺に存在する物体との間に、前記レーダ装置から出力されるビームを遮蔽すると共に、前記カメラにより撮像されたときに背後の他物体が撮像される半透過物体(格子フェンス等)が介在する場合がある。この場合には、前記カメラにより半透過物体を通して背後の物体が撮像される一方で、前記レーダ装置により半透過物体のみが検出され、半透過物体の背後の物体は前記レーダ装置によって検出されない状況となる場合がある。
【0011】
そして、この場合に、前記実空間位置算出部により、前記物体距離検出部による検出距離に基づいて、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体の実空間位置を算出すると、この物体と異なる半透過物体の検出距離に基づく誤った実空間位置が算出されてしまう。
【0012】
そこで、前記実空間位置信頼性判定部は、前記半透過物体検出部により検出された半透過物体と重なる位置に存在する物体については、前記実空間位置算出部により算出される実空間位置の信頼性を下げる。これにより、前記半透過物体検出部により検出された半透過物体と重なる位置に存在する物体について、不適切な実空間位置が用いられることを防止することができる。
【0013】
また、第1発明において、前記画像部分検出部により検出された画像部分のぼけ度合を算出するぼけ度合算出部を備え、前記実空間位置信頼性判定部は、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体について、前記ぼけ度合算出部により算出された該画像部分のぼけ度合と、前記物体距離検出部により検出された該物体と前記車両間の距離との関係が、予め設定されたぼけ度合と距離との基準関係から第1所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする(第2発明)。
【0014】
第2発明によれば、前記画像部分検出部により検出される物体の画像部分のぼけ度合は、この物体と前記車両間の距離に応じて変化する。そこで、前記実空間位置信頼性判定部は、前記ぼけ度合算出部により算出された物体の画像部分のぼけ度合と、前記物体距離検出部により検出された該物体と前記車両間の距離との関係が、予め設定されたぼけ度合と距離との基準関係から第1所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による物体の実空間位置の算出を禁止する。これにより、画像部分と検出距離の対応が誤っているときに、前記実空間位置算出部により不適切な実空間位置が算出されて、不適切な実空間位置が用いられることを防止することができる。
【0015】
なお、このように、実空間位置算出部による物体の実空間位置の算出を禁止する処理は、実空間位置算出部により算出される物体の実空間位置の信頼性を下げることに相当する。
【0016】
また、第1発明又は第2発明において、前記カメラによる時系列の撮像画像から、前記画像部分検出部により検出された同一物体の画像部分の変位状況を算出する変位状況算出部を備え、前記実空間位置信頼性判定部は、前記変位状況算出部により算出された前記変位状況が、前記同一物体について前記物体距離検出部により検出された前記車両との距離の変化と、前記車両の走行速度とに基づいて算出した推定変位状況から、第2所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする(第3発明)。
【0017】
第3発明によれば、前記変位状況算出部により算出された前記変位状況が、前記推定変位状況から前記第2所定レベル以上乖離しているときには、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体と、前記物体距離検出部により検出された距離との対応が誤っていると判断することができる。そのため、前記実空間位置信頼性判定部は、この場合に、前記実空間位置算出部によるこの物体の実空間位置の算出を禁止する。これにより、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体について、前記実空間位置算出部により不適切な実空間位置が算出されて、不適切な実空間位置が用いられることを防止することができる。
【0018】
また、第1発明から第3発明のうちのいずれかにおいて、前記カメラによる時系列の撮像画像から、前記画像部分検出部により検出された同一物体の画像部分の大きさの変化率を算出し、該変化率と前記車両の走行速度とに基づいて、該同一物体と前記車両間の推定距離を算出する推定距離算出部を備え、前記実空間位置信頼性判定部は、前記同一物体について前記物体距離検出部により検出された前記車両との距離が、前記推定距離算出部により算出された前記推定距離から、第3所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該同一物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする(第4発明)。
【0019】
第4発明によれば、前記物体距離検出部により検出された距離が、前記推定距離算出部により算出された推定距離から前記第3所定レベル以上乖離しているときには、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体と、前記物体距離検出部により検出された距離との対応が誤っていると判断することができる。そのため、前記実空間位置信頼性判定部は、この場合に、前記実空間位置算出部によるこの物体の実空間位置の算出を禁止する。これにより、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体について、前記実空間位置算出部により不適切な実空間位置が算出されて、不適切な実空間位置が用いられることを防止することができる。
【0020】
また、第1発明から第4発明のうちのいずれかにおいて、前記車両に搭載されたナビゲーション装置により、前記車両の地図上の位置を認識する自車両位置認識部を備え、前記実空間位置信頼性判定部は、前記画像部分検出部により歩行者の画像部分が検出され、前記自車両位置算出部により算出された前記車両の地図上の位置と、前記物体距離検出部により検出された距離とに基づいて認識した地図上の該歩行者の位置が、道路から外れているときに、前記実空間位置算出部による該歩行者の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする(第5発明)。
【0021】
第5発明によれば、前記物体位置検出部により検出された歩行者の位置が、前記ナビゲーション装置による前記車両の地図上の位置が道路から外れている不自然な状況であるときに、前記実空間位置信頼性判定部は、この歩行者について、前記実空間位置算出部による実空間位置の算出を禁止する。これにより、前記画像部分検出部により画像部分が検出された歩行者について、前記実空間位置算出部により不適切な実空間位置が算出されて、不適切な実空間位置が用いられることを防止することができる。
【0022】
また、第1発明から第5発明のうちのいずれかにおいて、前記半透過物体検出部は、前記半透過物体として格子フェンスを検出することを特徴とする(第6発明)。
【0023】
第6発明によれば、格子を介して前記カメラにより背後の物体が撮像されると共に、前記レーダ装置から出力されるビームが格子によって遮蔽されて背後の物体には到達しない格子フェンスを、前記半透過物体として検出することができる。
【0024】
また、第6発明において、前記半透過物体検出部は、前記レーダ装置の測距データから算出される物体の幅が、所定値以上であるときに、該物体が格子フェンスであると検出することを特徴とする(第7発明)。
【0025】
第7発明によれば、監視対象物である歩行者等よりも幅が大きくなる格子フェンスの存在を、前記レーダ装置の測距データから容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】車両周辺監視装置の車両への取付態様の説明図。
【図2】レーダ装置の左右方向の走査範囲の説明図。
【図3】車両周辺監視装置の構成図。
【図4】車両と物体との間に格子フェンスが介在する状況の説明図。
【図5】格子フェンスとその背後に存在する物体の撮像画像の説明図。
【図6】格子フェンスを検出する処理の一例の説明図。
【図7】画像部分のぼけ度合により、検出距離の適否を判断する処理の説明図。
【図8】画像部分のオプティカルフローにより、検出距離の適否を判断する処理の説明図。
【図9】画像部分の大きさの変化率に基づく推定距離により、検出距離の適否を判断する処理の説明図。
【図10】ナビゲーション装置からの情報により、検出距離の適否を判断する処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の車両周辺監視装置の実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
【0028】
図1を参照して、車両周辺監視装置10は、前側に赤外線カメラ11とレーダ装置12が装着された車両(自車両)1に搭載されている。赤外線カメラ11は、撮像物の温度が高いほど出力レベルが高くなる(輝度が高くなる)特性を有している。なお、赤外線カメラ11に代えて可視光等、他の波長領域に感度が調節されたカメラを用いてもよい。
【0029】
また、レーダ装置12により検出される物体の実空間座標系が、車両1の前部を原点0とし、X軸を車両1の左右方向、Y軸を車両1の上下方向、Z軸を車両1の前後方向として定義されている。
【0030】
レーダ装置12は、車両1の前側の赤外線カメラ11の上部位置に取付けられている。レーダ装置12は、図2に示したように、車両1の上方から見たときに、赤外線カメラ11の撮像範囲L1〜L2よりも狭い幅で広がるミリ波(電磁波)のビームBMを、車両1の前方の検出範囲が車両1の左右方向に走査されるように、一定強度のビームBMの送信角度を一定角度ずつずらして出力する。
【0031】
ビームBMの左右方向の走査範囲は、赤外線カメラ11の撮像領域L1〜L2を、水平方向について全て含むように設定されている。また、ビームBMの上下方向の幅は、赤外線カメラ11の撮像範囲L1〜L2の上下方向の視野を含むように設定されている。
【0032】
そして、レーダ装置12は、このミリ波の反射波、すなわち、車両1の前方に存在する物体により反射されたミリ波を上下方向に配列された受信アンテナ(図示しない)により受信する。レーダ装置12は、受信した反射波のうちの所定強度以上の反射波に基づいて、ビームBMの送信方向に存在する物体を検出する。
【0033】
また、レーダ装置12は、送信波と受信波との時間差に基づいて、ビームBMを反射した物体と車両1間の距離を検出する。なお、レーダ装置としてはミリ波等の電磁波(レーザー光など)のほか、超音波等の弾性振動波を用いるレーダ装置を採用してもよい。
【0034】
次に、図3を参照して、車両周辺監視装置10は、CPU、メモリ、インターフェース回路等(図示しない)により構成された電子ユニットであり、赤外線カメラ11から出力されるアナログの映像信号をデジタルデータに変換して画像メモリ(図示しない)に取り込み、画像メモリに取り込んだ車両1の前方画像に対して、CPUにより各種演算処理を行う機能を有している。
【0035】
また、車両周辺監視装置10には、レーダ装置12から、物体で反射されたミリ波の反射強度を示す反射強度データと、この物体と車両1間の距離を示す距離データとを含む測距データが入力される。さらに、車両1には、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ13、車両1の走行速度を検出する速度センサ14、車両1のブレーキペダル(図示しない)の操作状態を検出するブレーキセンサ15が備えられ、これらのセンサの検出信号が車両周辺監視装置10に入力される。
【0036】
また、車両1には、音声出力装置16、画像出力装置17、制動装置18、及びナビゲーション装置19が備えられ、車両周辺監視装置10から出力される制御信号により、これらの装置の作動が制御される。なお、画像出力装置17としては、車両1のフロントウィンドウに画像を表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)、車両1の走行状況を示す表示計、ナビゲーション装置を構成するディスプレイ装置等が採用される。
【0037】
車両周辺監視装置10は、メモリに保持された車両周辺監視用プログラムをCPUで実行することにより、レーダ装置12から出力される測距データに基づいて、車両1の前方に所在する物体を検出して、この物体と車両1間の距離を検出する物体距離検出部21、赤外線カメラ11による撮像画像から、物体距離検出部21により検出された物体の画像部分を検出する画像部分検出部22、画像部分検出部22により画像部分が検出された物体の実空間位置を算出する実空間位置算出部23、及び実空間位置算出部23により算出される物体の実空間位置の信頼性を判定する実空間位置信頼性判定部24として機能する。
【0038】
さらに、車両周辺監視装置10は、赤外線カメラ11による撮像画像又はレーダ装置12から出力される測距データに基づいて、半透過物体(例えば、金網等の格子フェンス)を検出する半透過物体検出部25、画像部分検出部22により検出された画像部分のぼけ度合を算出するぼけ度合算出部26、赤外線カメラ11による時系列の撮像画像間で、同一物体の画像部分のオプティカルフローを算出する変位状況算出部27、及び、赤外線カメラ11による時系列の撮像画像間で、同一物体の大きさの変化率を算出する推定距離算出部28として機能する。
【0039】
物体距離検出部21は、所定の制御サイクル毎に、検出範囲内をレーダ装置12により走査して検出範囲内に存在する物体を検出して、物体と車両1間の距離を検出する。画像部分検出部22は、物体距離検出部21による物体の検出位置を赤外線カメラ11の撮像画像に投影して、この物体の画像部分の検出範囲を設定し、この検出範囲内でこの物体の画像部分を検出する。
【0040】
実空間位置算出部23は、画像部分検出部22により検出された画像部分の位置(座標)を、物体距離検出部21により検出された距離に基づいて実空間位置に座標変換することで、画像部分が検出された物体の実空間位置を算出する。
【0041】
なお、このように、撮像画像における画像部分の位置を、物体と車両1との距離に基づいて実空間位置に変換する処理の詳細については、上述した特開平9−264954号公報に記載されているので、ここでは説明を省略する。
【0042】
車両周辺監視装置10は、実空間位置算出部23により実空間位置が算出された物体と車両1との接触可能性を判断する。なお、車両1と物体との接触可能性の判断処理については、例えば、特開2001−6096号公報に記載されているように、検出された物体の移動ベクトルが、車両前方に設定された進入判定領域から接近判定領域に進む(物体が車両1に接近する)と判定されたときに、この物体(接近物体)と車両1が接触する可能性があると判定する。
【0043】
この物体と車両1が接触する可能性があると判定した場合に、車両周辺監視装置10は、接触回避処理を実行する。具体的には、車両周辺監視装置10は、ブレーキセンサ15の検出信号により、運転者がブレーキ操作をしているか否かを判断する。そして、ブレーキ操作をしていないときは、直ちに、音声出力装置16及び画像出力装置17による警報を出力する。
【0044】
一方、運転者がブレーキ操作をしているときは、車両周辺監視装置10は、このブレーキ操作に応じた制動装置18の作動により、接触が回避されるか否かを判断する。そして、回避されると判断したときには、警報を出力しないようにして、運転者に余計な煩わしさを与えないようにする。
【0045】
また、回避されると判断しなかったときには、車両周辺監視装置10は、音声出力装置16及び画像出力装置17による警報を出力する。さらに、車両周辺監視装置10は、必要に応じて接触が回避されるように制動装置18を作動させる。
【0046】
次に、実空間位置信頼性判定部24は、以下の第1条件〜第5条件のうちの少なくとも一つが成立したときに、前記物体距離検出部21により検出された物体と車両1間の距離に基づく、実空間位置算出部23による物体の実空間位置の算出を禁止する処理を行う。以下、図4〜図10を参照して、この処理について説明する。なお、このように、実空間位置算出部23による物体の実空間位置の算出を禁止する処理は、実空間位置算出部23により算出される物体の実空間位置の信頼性を下げることに相当する。
【0047】
[第1条件]格子フェンスの検出による条件
図4(a)に示したように、車両1と物体60(広告板等)との間に格子フェンス50(金網フェンス等)が介在しているときに、レーダ装置12は、手前に存在する格子フェンス50を検出する。しかし、格子フェンス50の背後に存在する物体60については、レーダ装置12により検出されない場合がある。
【0048】
そしてこの場合には、画像部分60aが検出された物体60と車両1間の距離が、図4(a)に示したように、真の距離である40mではなく、格子フェンス50との距離20mであると誤って検出されてしまう。
【0049】
そこで、実空間位置信頼性判定部24は、半透過物体検出部25により格子フェンス50が検出されたときに、車両1からみたときに格子フェンス50と重なる物体60については、実空間位置算出部23による、物体距離検出部21により検出された物体60と車両1間の距離(20m)に基づく実空間位置の算出を禁止する。これにより、物体60と車両1間の誤った検出距離(20m)に基づく、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止する。
【0050】
なお、物体60の実空間位置が、車両1から20mの位置に誤って算出されると、物体60の画像部分60aの大きさが、車両1から20m離れた歩行者を想定した大きさに近くなる場合がある。そして、この場合には、車両周辺監視装置1による接触回避処理が実行されて、運転者に違和感や不安感を抱かせるおそれがあるが、上記第1条件により、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止することによって、このような違和感や不安感を抱かせることを防止することができる。
【0051】
また、半透過物体検出部25は、図5に示したように、赤外線カメラ11の撮像画像Im2から、格子パターンを有する画像部分50bを、金網フェンスの画像部分として検出する。
【0052】
なお、レーダ装置12から出力される測距データによる反射強度の分布が、上端と下端部で強く、中間部で弱い物体について、格子フェンスであると検出するようにしてもよい。
【0053】
また、図6に示したように、赤外線カメラ11による撮像データ、又はレーダ装置12から出力される測距データにより、横方向(X軸方向)の幅が所定値(歩行者の幅よりも大きい値に設定される)以上である物体50が検出されたときに、物体50が格子フェンスであると検出するようにしてもよい。
【0054】
[第2条件]画像部分のぼけ度合による条件
図7を参照して、赤外線カメラ11の撮像画像Im3における物体50の撮像画像50cのぼけ度合は、物体50と車両1間の距離が長くなるほど大きくなる。そこで、ぼけ度合算出部26は、画像部分検出部22により検出された物体の画像部分について、ぼけ度合を算出する。なお、ぼけ度合は、画像部分の輝度分布等に基づいて算出される。
【0055】
そして、実空間位置信頼性判定部23は、物体距離検出部21により検出された物体と車両1間の距離と、ぼけ度合算出部26により算出されたぼけ度合との対応関係が、予め設定された距離−ぼけ度合の基準値(距離○○m−ぼけ度合△△%のように設定される)から第1所定レベル以上乖離したときに、実空間位置算出部23による、この物体の実空間位置の算出を禁止する。
【0056】
これにより、物体60と車両1間の誤った検出距離(20m)に基づく、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止している。
【0057】
[第3条件]オプティカルフローによる条件
変位状況算出部27は、赤外線カメラ11により制御サイクル毎に撮像された時系列画像間で、同一物体の画像部分のオプティカルフロー(本発明の変位状況に相当する)を算出する。なお、時系列の各撮像画像からの同一物体の画像部分の抽出処理については、例えば、特開2001−6096号公報に記載された同一性判定の処理を用いて行われる。
【0058】
図8(a)に示したように、車両1の赤外線カメラ11及びレーダ装置12と物体60との間に、格子フェンス50(金網フェンス等)が介在している状態で、赤外線カメラ11の時系列の撮像画像間における画像部分のオプティカルフローを算出すると、図8(b)のV1に示したようになる。
【0059】
図8(b)のV2は、物体距離検出部21により検出された距離と車両1間の距離と、速度センサ14により検出された車両1の走行速度とに基づいて算出された推定オプティカルフロー(本発明の推定変位状況に相当する)を示している。
【0060】
ここで、物体距離検出部21による検出距離が物体60と車両1間の距離であるときには、V1とV2はほぼ等しくなる。それに対して、物体距離検出部21による検出距離が格子フェンス50と自車両1間の距離であるときには、V1がV2と異なるものとなる。
【0061】
そこで、実空間位置信頼性判定部24は、変位状況算出部27により算出されたオプティカルフローV1が、推定オプティカルフローV2から第2所定レベル以上乖離したときに、実空間位置算出部23による物体60の実空間位置の算出を禁止する。これにより、物体60と車両1間の誤った検出距離(格子フェンス50と車両1間の検出距離)に基づく、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止している。
【0062】
[第4条件]画像部分の大きさの変化率による条件
推定距離算出部28は、赤外線カメラ11により制御サイクル毎に撮像された時系列画像間で、同一物体の画像部分の大きさの変化率を算出する。なお、時系列の各撮像画像からの同一物体の画像部分の抽出処理については、例えば、特開2001−6096号公報に記載された同一性判定の処理を用いて行われる。
【0063】
図9(a),図9(b)は、図8(a)に示したように、車両1の赤外線カメラ11及びレーダ装置12と物体60との間に、格子フェンス50(金網フェンス等)が介在している状態で、時刻t1で撮像された画像Im5と時刻t2(t2=t1+Δt)で撮像された画像Im6を示している。
【0064】
この場合、推定距離算出部28は、Im6における物体60の画像部分60fの高さh2を、Im5における物体60の画像部分60eの高さh1で除して、物体60の画像部分の大きさの変化率(=h2/h1)を算出する。
【0065】
そして、実空間位置信頼性判定部24は、物体60の画像部分の大きさの変化率と、速度センサ14により検出された車両1の走行速度とに基づいて、物体60と車両1間の距離を推定する。
【0066】
ここで、物体距離検出部21による検出距離が物体60と車両1間の距離であるときには、この検出距離は上記推定距離とほぼ等しくなる。それに対して、物体距離検出部21による検出距離が格子フェンス50と自車両1間の距離であるときには、この検出距離は上記推定距離と異なるものとなる。
【0067】
そこで、実空間位置信頼性判定部24は、物体距離検出部21による検出距離が、推定距離算出部28により算出された物体60と車両1間の推定距離から第3所定レベル以上乖離したときに、実空間位置算出部23による物体60の実空間位置の算出を禁止する。これにより、物体60と車両1間の誤った検出距離(格子フェンス50と車両1間の検出距離)に基づく、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止している。
【0068】
[第5条件]ナビゲーション装置の情報による条件
実空間位置信頼性判定部24は、画像部分検出部22により画像部分が検出された物体が歩行者であると識別したときに、図10に示したように、ナビゲーション装置19からのデータにより得られる地図データMa上の車両1の位置71と、物体距離検出部21により検出された歩行者と車両1間の距離に基づく、地図データMa上の歩行者の位置72を算出する。
【0069】
そして、地図データMa上の歩行者の位置72が道路から外れているときに、実空間位置信頼性判定部24は、実空間位置算出部23による歩行者の実空間位置の算出を禁止する。これにより、歩行者と車両1間の誤った検出距離に基づく、不適切な実空間位置の算出が行われることを防止している。
【0070】
なお、本実施形態では、実空間位置信頼性判定部24は、上記第1条件〜第5条件の成否を判断して、実空間位置算出部23により、誤った検出距離に基づく実空間位置の算出が行われることを防止したが、必ずしも全ての条件を判断する必要はなく、少なくとも上記第1条件の成否を判断することにより、本発明の効果を得ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、実空間位置信頼性判定部24は、上記第1条件〜第5条件の成否を判断して、実空間位置算出部23による物体の実空間位置の算出を禁止したが、判断結果に応じて実空位置算出部23により算出される物体の実空間位置の信頼性を下げるようにしてもよい。そして、信頼性の程度に応じて、実空間位置算出部23により算出される物体の実空間位置を採用するか否かを決定するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態では、レーダ装置12から出力されるビームを遮蔽すると共に、赤外線カメラ11により撮像されたときに背後の他物体が撮像される半透過物体として、格子フェンスを検出する例を示したが、他の種類の半透過物体についても本発明の適用が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…車両(自車両)、10…車両周辺監視装置、11…赤外線カメラ、12…レーダ装置、16…音声出力装置、17…画像出力装置、18…制動装置、19…ナビゲーション装置、21…物体距離検出部、22…画像部分検出部、23…実空間位置算出部、24…実空間位置信頼性判定部、25…半透過物体検出部、26…ぼけ度合算出部、27…変位状況算出部、28…推定距離算出部、50…格子フェンス(半透過物体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたレーダ装置により前記車両周辺の検出範囲を走査することによって、該検出範囲内に存在する物体を検出して、該物体と前記車両間の距離を検出する物体距離検出部と、
前記物体距離検出部により検出された物体を、前記車両に搭載されたカメラの撮像画像に投影して、該物体の画像部分を検出する画像部分検出部と、
前記物体距離検出部による検出距離に基づいて、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体の実空間位置を算出する実空間位置算出部と
を備えた車両周辺監視装置において、
前記検出範囲内に存在し、前記レーダ装置から出力されるビームを遮蔽すると共に、前記カメラにより撮像されたときに背後の他物体が撮像される半透過物体を検出する半透過物体検出部と、
前記カメラの撮像方向で、前記半透過物体検出部により検出された半透過物体と重なる位置に存在する物体については、前記実空間位置算出部により算出される実空間位置の信頼性を下げる実空間位置信頼性判定部と
を備えたことを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両周辺監視装置において、
前記画像部分検出部により検出された画像部分のぼけ度合を算出するぼけ度合算出部を備え、
前記実空間位置信頼性判定部は、前記画像部分検出部により画像部分が検出された物体について、前記ぼけ度合算出部により算出された該画像部分のぼけ度合と、前記物体距離検出部により検出された該物体と前記車両間の距離との関係が、予め設定されたぼけ度合と距離との基準関係から第1所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両周辺監視装置において、
前記カメラによる時系列の撮像画像から、前記画像部分検出部により検出された同一物体の画像部分の変位状況を算出する変位状況算出部を備え、
前記実空間位置信頼性判定部は、前記変位状況算出部により算出された前記変位状況が、前記同一物体について前記物体距離検出部により検出された前記車両との距離の変化と、前記車両の走行速度とに基づいて算出した推定変位状況から、第2所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該同一物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の車両周辺監視装置において、
前記カメラによる時系列の撮像画像から、前記画像部分検出部により検出された同一物体の画像部分の大きさの変化率を算出し、該変化率と前記車両の走行速度とに基づいて、該同一物体と前記車両間の推定距離を算出する推定距離算出部を備え、
前記実空間位置信頼性判定部は、前記同一物体について前記物体距離検出部により検出された前記車両との距離が、前記推定距離算出部により算出された前記推定距離から、第3所定レベル以上乖離したときに、前記実空間位置算出部による該同一物体の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の車両周辺監視装置において、
前記車両に搭載されたナビゲーション装置により、前記車両の地図上の位置を算出する自車両位置算出部を備え、
前記実空間位置信頼性判定部は、前記画像部分検出部により歩行者の画像部分が検出され、前記自車両位置算出部により算出された前記車両の地図上の位置と、前記物体距離検出部により検出された距離とに基づいて認識した地図上の該歩行者の位置が、道路から外れているときに、前記実空間位置算出部による該歩行者の実空間位置の算出を禁止することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の車両周辺監視装置において、
前記半透過物体検出部は、前記半透過物体として格子フェンスを検出することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両周辺監視装置において、
前記半透過物体検出部は、前記レーダ装置の測距データから算出される物体の幅が、所定値以上であるときに、該物体が格子フェンスであると検出することを特徴とする車両周辺監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−20295(P2013−20295A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150708(P2011−150708)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】