説明

車両存在報知装置

【課題】大容量スピーカを用いることなく報知音により車両の存在を報知できる車両存在報知装置1を提供する。
【解決手段】車両存在報知装置1によれば、スピーカアレイ5を構成するスピーカ2〜4は、それぞれ報知音を超音波として空気中に放射し、マイコン6は、特定の時間ごとに、スピーカ3において正極端子と負極端子とを切り替えるための指令をリレーボックス7に出力する。これにより、スピーカ3の振動子の振動は、スピーカ2、4のそれぞれの振動子の振動に対して位相が一致した状態と、180°遅れた状態とを繰り返す。このため、大容量スピーカを用いることなく、複数の方向に、指向性の強い報知音を放射して車両の存在を報知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の存在を報知する車両存在報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッドカーのように、モータにより駆動される車両が増加している。そして、モータによる駆動走行は、エンジンによる駆動走行に比べて静粛であるため、歩行者等が車両の存在を感じない虞がある。そこで、車両にオーディオスピーカを装着して擬似エンジン音等の報知音を発生させ、車両前方の歩行者等に車両の存在を報せる車両存在報知装置が公知となっている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、単純に報知音を放射しようとすると、報知音は周囲へ拡散して減衰するため、かつ、屋外の使用になるため、大容量でかつ、防水構造のオーディオスピーカが必要となり、車両への搭載が困難になったり、コスト高になる。また、オーディオスピーカにより報知音を放射すると、車室内の乗員等、車両の存在を感じる必要のない者にまで報知音が聞こえてしまい、これらの者が不快を感じる虞がある。
【0004】
なお、特許文献3には、報知音の放射とともに報知用の電波を送信し、この電波を受信することで触覚的または視覚的に車両の存在を把握できるようにした車両存在報知装置が開示されている。しかし、この車両存在報知装置により車両の存在を把握するためには、車両に電波の送信装置を装備する必要があるとともに、歩行者等に、電波の受信装置や電波の受信に応じて作動する知覚装置等を所持させる必要があり、装置の所持忘れの虞もあるので、良い方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−201001号公報
【特許文献2】特開2006−199110号公報
【特許文献3】特開2007−182195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、大容量のスピーカを用いることなく、小型で防水構造を持ち、かつ、車室内の乗員等、車両の存在を感じる必要のない者にまで報知音が聞こえてしまい、これらの者が不快を感じる虞のないように指向性を持たせた報知音により車両の存在を報知できる車両存在報知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の車両存在報知装置は、可聴領域の周波数で振動する報知音により、車両の存在を報知するものである。
また、車両存在報知装置は、報知音を超音波領域の周波数で振動する搬送波に載せて空気中に放射する少なくとも2つのスピーカを、それぞれの振動子の振動方向が互いに同一となるように配したスピーカアレイと、2つのスピーカの内の一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする位相制御手段とを備える。
【0008】
これにより、それぞれのスピーカは、放射した音波が搬送波の周波数に応じた位置で自己復調し報知音として可聴となる、いわゆる「パラメトリックスピーカ」として機能する。このため、極めて指向性の強い報知音を得ることができ、かつ小型で防水構造も備えているので、大容量のスピーカを用いることなく報知音により車両の存在を報知することができる。
【0009】
また、位相制御手段により、報知音を指向させたい方向において、2つのスピーカから放射される音波のそれぞれの山が一致するように、かつ、それぞれの谷が一致するように、それぞれの音波の位相を制御することができる。これにより、様々な方向に報知音を放射して車両の存在を報知することができる。
【0010】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の車両存在報知装置によれば、2つのスピーカのそれぞれの振動子は、電圧の印加または電流の通電に応じて振動することで、報知音を搬送波に載せて空気中に放射する。そして、位相制御手段は、2つのスピーカの内のいずれかのスピーカの正極端子と負極端子とを切り替えることで、一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする。
【0011】
これにより、正極端子と負極端子とを切り替えることで、2つのスピーカから放射される音波の位相は互いに逆になる。このため、正極端子と負極端子とを切り替えることで、2つのスピーカ間の距離および音波の波長から定まる所定の方向に、報知音を指向させることができる。このため、簡便に指向方向を切り替えることができる。
【0012】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の車両存在報知装置によれば、位相制御手段は、リレーまたはスイッチにより正極端子と負極端子とを切り替える。
この手段は、報知音の指向方向を簡便に切り替えることができる具体的態様を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は報知音を示す波形図であり、(b)は搬送波を示す波形図であり、(c)は搬送波を報知音に基づき変調して得られる超音波を示す波形図であり、(d)は歪み中の超音波を示す波形図であり、(e)は自己復調後の報知音を示す波形図である。
【図2】(a)はリレーボックスによる切り替え前の車両存在報知装置の構成図であり、(b)はリレーボックスによる切り替え後の車両存在報知装置の構成図である。
【図3】(a)はリレーボックスによる切り替え前の音波の増幅状態を示す説明図であり、(b)はリレーボックスによる切り替え後の音波の増幅状態を示す説明図である。
【図4】(a)はリレーボックスによる切り替え前の報知音の指向方向を示す説明図であり、(b)はリレーボックスによる切り替え後の報知音の指向方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態の車両存在報知装置は、可聴領域の周波数で振動する報知音により、車両の存在を報知するものである。
また、車両存在報知装置は、報知音を超音波領域の周波数で振動する搬送波に載せて空気中に放射する少なくとも2つのスピーカを、それぞれの振動子の振動方向が互いに同一となるように配したスピーカアレイと、2つのスピーカの内の一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする位相制御手段とを備える。
【0015】
また、2つのスピーカのそれぞれの振動子は、電圧の印加または電流の通電に応じて振動することで、報知音を搬送波に載せて空気中に放射する。そして、位相制御手段は、2つのスピーカの内のいずれかのスピーカの正極端子と負極端子とを切り替えることで、一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする。
また、位相制御手段は、リレーまたはスイッチにより正極端子と負極端子とを切り替える。
【実施例】
【0016】
〔実施例の構成〕
実施例の車両存在報知装置1の構成を、図面に基づいて説明する。
車両存在報知装置1は、例えば、電気自動車やハイブリッドカーのように、モータ駆動に起因する静粛性により歩行者等が存在を感じない虞がある車両に搭載され、例えば、車両周辺の歩行者等に車両の存在を報知するものである。
【0017】
また、車両存在報知装置1は、可聴領域の周波数で振動する報知音(図1(a)参照)を超音波領域の周波数で振動する搬送波(図1(b)参照)に載せ、超音波として空気中に放射するものであり、いわゆる「パラメトリックスピーカ」の原理を用いるものである。つまり、車両存在報知装置1から放射される音波は超音波であり、この超音波は、搬送波を報知音に基づき変調したものであり(図1(c)参照)、車両存在報知装置1は、超音波を利用することで、報知音を放射する方向に関して大きな指向性を発揮することができる。
【0018】
そして、車両存在報知装置1から放射された超音波は、空気中を伝播する間に、空気の非線形特性(「空気は、圧縮されるときよりも圧縮から復元するときの方が長時間を要する」という特性)により歪んでいき(図1(d)参照)、搬送波の周波数に応じた位置で自己復調して報知音となる(図1(e)参照)。
【0019】
車両存在報知装置1は、例えば、図2に示すように、3つのスピーカ2〜4からなるスピーカアレイ5と、スピーカ2〜4のそれぞれの振動子(図示せず)に電力を供給するとともに、各振動子の動作を制御するマイコン6と、スピーカ3の正極端子と負極端子とを切り替えるリレーボックス7とを備える。
【0020】
スピーカアレイ5を構成するスピーカ2〜4は、それぞれの振動子に入力される電圧等の電気信号を機械的な振動に変換するとともに、この機械的な振動により、超音波領域の周波数で振動する音波を発生するものである。なお、このような音波を発生する振動子は、例えば、所定の空間を隔てて配される2つの電極や、一端が自由端とされ他端が固定端とされる圧電素子等である。
【0021】
そして、振動子が2つの電極から構成される場合、2電極間への電圧印加と電圧印加解除とを繰り返すことにより、2電極間にクーロン力が発生したり消滅したりするので、このクーロン力の発生消滅により一方の電極を振動させて音波を発生することができる。また、振動子が圧電素子である場合、圧電素子への電圧印加と電圧印加解除とを繰り返すことにより、圧電素子自身に伸長力が発生したり消滅したりするので、この伸長力の発生消滅により圧電素子の自由端を振動させて音波を発生することができる。
【0022】
また、スピーカ2〜4は、例えば、それぞれの振動子の振動方向が互いに同一となるように、かつ、それぞれの振動子が振動方向と垂直な同一直線上に並ぶように配されている。さらに、スピーカ2〜4は、スピーカ2、3のそれぞれの振動子間の距離が、スピーカ3、4のそれぞれの振動子間の距離と等しくなるように配されている。
【0023】
マイコン6は、制御機能および演算機能を有するCPU、ROMやRAMのような各種の記憶装置、入力装置、および出力装置等を有する周知の構造を有する。さらに、マイコン6は、超音波領域の周波数で振動する電気信号を生成する発振器10、報知音の波形に基づき、発振器10により生成される電気信号を変調する変調器11、変調器11から出力される電気信号を、スピーカ2〜4を駆動可能な程度にまで増幅する増幅器12の機能を具備するように設けられている。
【0024】
また、マイコン6は、後記するように、例えば、スピーカ2から放射される音波の位相に対し、スピーカ3から放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする位相制御手段14の機能を有し、後記するリレーボックス7も、位相制御手段14の機能を有する。
リレーボックス7は、スピーカ3の振動子に電力を供給するための正極端子と負極端子とを切り替えるものであり、マイコン6からの指令に応じて動作し、スピーカ3の正極端子と負極端子とを切り替える。
【0025】
そして、位相制御手段14は、放射される音波の位相をスピーカ2、3間で異ならせるとともにスピーカ3、4間でも異ならせることで、報知音の指向性を変化させる。
例えば、スピーカ3において正極端子と負極端子とが切り替わる前では(図2(a)参照)、放射される音波の位相がスピーカ2、3間で同一であり、スピーカ3、4間でも同一であるとする。
【0026】
この場合、図3(a)に示すように、スピーカ2〜4のそれぞれの振動子が振動する方向、つまり、スピーカアレイ5の正面に向かう方向において、スピーカ2〜4のそれぞれから放射される音波の山が一致し、かつ、それぞれから放射される音波の谷が一致する。この結果、スピーカアレイ5の正面に向かう方向において、音波が増幅され、自己復調した報知音が大きく聞こえるので、報知音は、スピーカアレイ5の正面に向かう方向に指向される。
【0027】
そして、スピーカ3において正極端子と負極端子とが切り替わった後では(図2(b)参照)、スピーカ3の振動子の振動がスピーカ2、4のそれぞれの振動子の振動に対して位相が180°だけ遅れるので、放射される音波の位相はスピーカ2、3間で180°だけ異なり、スピーカ3、4間でも180°だけ異なる。
【0028】
このため、図3(b)に示すように、スピーカアレイ5の正面に向かう方向において、スピーカ2から放射される音波の山とスピーカ3から放射される音波の谷とが一致し、スピーカ3から放射される音波の谷とスピーカ4から放射される音波の山とが一致する。この結果、スピーカアレイ5の正面に向かう方向において、音波は増幅されることなく打ち消しあう。
【0029】
これに対し、例えば、スピーカアレイ5の正面に向かう方向からθだけ傾斜した方向において、スピーカ2〜4のそれぞれから放射される音波の山が一致し、かつ、それぞれから放射される音波の谷が一致する。
ここで、θは、スピーカ2、3のそれぞれの振動子間の距離(スピーカ3、4のそれぞれの振動子間の距離)をd、音波の波長をλとすれば、下記の数式1の関係を満たす。
〔数式1〕d・sinθ=λ/2
【0030】
この結果、スピーカアレイ5の正面に向かう方向からθだけ傾斜した方向において、自己復調した報知音が大きく聞こえ、報知音は、スピーカアレイ5の正面に向かう方向からθだけ傾斜した方向に指向される。
したがって、例えば、dに2の平方根を乗じて得た数値がλに一致する場合、スピーカ3において正極端子と負極端子とが切り替わった後、スピーカアレイ5の正面に向かう方向から45°だけ傾斜した方向において、自己復調した報知音が大きく聞こえ、報知音は、スピーカアレイ5の正面に向かう方向から45°だけ傾斜した方向に指向される。
【0031】
そして、マイコン6は、特定時間ごとに、スピーカ3において正極端子と負極端子とを切り替えるための指令をリレーボックス7に出力して、報知音の指向方向を切り替える。
なお、スピーカアレイ5の正面に向かう方向からθだけ傾斜した方向は、図4に示すように、スピーカアレイ5の正面に向かう方向を対称軸として、この対称軸から時計回りにθだけ傾斜した方向と、反時計回りにθだけ傾斜した方向の2方向が存在する。
【0032】
このため、報知音の指向方向は、スピーカアレイ5の正面に向かう方向のみの1方向(図4(a)参照)と、スピーカアレイ5の正面に向かう方向から時計回りにθだけ傾斜した方向、および、反時計回りにθだけ傾斜した方向の2方向(図4(b)参照)との間で切り替わる。
【0033】
〔実施例の効果〕
実施例の車両存在報知装置1によれば、スピーカアレイ5を構成するスピーカ2〜4は、それぞれ、報知音を超音波領域の周波数で振動する搬送波に載せ、超音波として空気中に放射し、マイコン6は、特定の時間ごとに、スピーカ3において正極端子と負極端子とを切り替えるための指令をリレーボックス7に出力する。
【0034】
これにより、スピーカ3の振動子の振動は、スピーカ2、4のそれぞれの振動子の振動に対して位相が一致した状態と、180°遅れた状態とを繰り返す。このため、報知音の指向方向を、スピーカアレイ5の正面に向かう1方向と、スピーカアレイ5の正面に向かう方向からθだけ傾斜した2方向(θは数式1の関係を満たす)との間で切り替えることができる。
【0035】
以上により、大容量スピーカを用いることなく、指向性の強い報知音により車両の存在を報知することができるとともに、少なくとも3方向に報知音を放射して車両の存在を報知することができる。
また、リレーボックス7による正極端子と負極端子との切り替えのように、簡便な構成により、報知音の指向性を変化させることができる。
【0036】
〔変形例〕
実施例の車両存在報知装置1によれば、リレーボックス7により正極端子と負極端子とを切り替えていたが、スイッチにより正極端子と負極端子とを切り替えるようにしてもよい。また、リレーやスイッチにより正極端子と負極端子とを切り替えるのではなく、マイコン6単独で位相制御手段14を構成し、スピーカ2〜4それぞれの振動子へ与える電気信号の位相を制御することで、報知音の指向性を変化させるようにしてもよい。
【0037】
また、スピーカアレイ5の構成は実施例の態様に限定されず、例えば、2つのスピーカ2、3のみでスピーカアレイ5を構成してもよく、4つ以上のスピーカを直線状に配列してスピーカアレイ5を構成してもよく、複数のスピーカを2次元的に配列してスピーカアレイ5を構成してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 車両存在報知装置
2 スピーカ
3 スピーカ
4 スピーカ
5 スピーカアレイ
7 リレーボックス
14 位相制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可聴領域の周波数で振動する報知音により、車両の存在を報知する車両存在報知装置において、
前記報知音を超音波領域の周波数で振動する搬送波に載せて空気中に放射する少なくとも2つのスピーカを、それぞれの振動子の振動方向が互いに同一となるように配したスピーカアレイと、
この2つのスピーカの内の一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりする位相制御手段とを備える車両存在報知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両存在報知装置において、
前記2つのスピーカのそれぞれの振動子は、電圧の印加または電流の通電に応じて振動することで、前記報知音を前記搬送波に載せて空気中に放射し、
前記位相制御手段は、前記2つのスピーカの内のいずれかのスピーカの正極端子と負極端子とを切り替えることで、前記一方のスピーカから放射される音波の位相に対し、前記他方のスピーカから放射される音波の位相を進ませたり、遅らせたりすることを特徴とする車両存在報知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両存在報知装置において、
前記位相制御手段は、リレーまたはスイッチにより前記正極端子と前記負極端子とを切り替えることを特徴とする車両存在報知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−35553(P2011−35553A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178147(P2009−178147)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】