説明

車両操舵装置

【課題】操舵輪の転舵角を大角度とすることができる技術を提供する。
【解決手段】車両操舵装置1は、車両の操舵輪とステアリングシャフト14とに連結され、操舵輪をキングピン軸X周りに回動させて操舵輪を転舵させるための第1転舵部20と、操舵輪とステアリングシャフト14とに連結され、操舵輪をステアリングシャフト14の回動軸周りに回動させて第1転舵部20と共同して操舵輪を転舵させるための第2転舵部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵輪を転舵させるための車両操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、単一の前輪および後輪と、車両中間部の左右に配置された左右輪とを有する、いわゆる、ひし形車輪配置の車両が開示されている。この車両において操舵輪である前輪は、一端側が前輪の回転軸に連結され他端側が前輪の上方で車体側に連結された、いわゆるフォーク型の車輪支持部材によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許第1304237明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両には、旋回時の回転半径を小さくするために、操舵輪を大角度で転舵させたいという要求があった。例えば、従来の車両には、操舵輪を車両の直進状態から左右に90°近くまで転舵可能であることが求められていた。これに対し、本発明者は、操舵輪の転舵角を大角度とすることができる車両操舵装置の新たな構造を想到するに至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、操舵輪の転舵角を大角度とすることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両操舵装置は、車両の操舵輪とステアリングシャフトとに連結され、操舵輪をキングピン軸周りに回動させて操舵輪を転舵させるための第1転舵部と、操舵輪とステアリングシャフトとに連結され、操舵輪をステアリングシャフトの回動軸周りに回動させて前記第1転舵部と共同して操舵輪を転舵させるための第2転舵部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、操舵輪の転舵角を大角度とすることができる。
【0008】
上記態様において、前記第2転舵部は、前記第1転舵部と独立した操舵輪の転舵と、前記第1転舵部と共同した操舵輪の転舵とが可能であり、前記第1転舵部による操舵輪の転舵と、前記第2転舵部による操舵輪の転舵と、前記第1転舵部および前記第2転舵部による操舵輪の転舵とを切り替えるための切替部をさらに備えてもよい。この態様によれば、操舵輪の転舵操作の自由度を高めることができる。
【0009】
また、上記態様において、前記第2転舵部は、操舵輪よりも車幅方向外側に延在するフレーム体を有し、前記フレーム体が車体側に連結されてもよい。この態様によれば、操舵輪に入力される横力に対する剛性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、操舵輪の転舵角を大角度とすることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(A)は、実施形態1に係る車両操舵装置の概略構成を示す背面模式図であり、図1(B)は、車両操舵装置の概略構成を示す平面模式図である。
【図2】図2(A)および図2(B)は、第1転舵部による操舵輪の転舵を説明するための模式図である。
【図3】図3(A)および図3(B)は、第2転舵部による操舵輪の転舵を説明するための模式図である。
【図4】図4(A)および図4(B)は、第1転舵部および第2転舵部による操舵輪の転舵を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0013】
(実施形態1)
図1(A)は、実施形態1に係る車両操舵装置の概略構成を示す背面模式図であり、図1(B)は、車両操舵装置の概略構成を示す平面模式図である。図1(A)は、図1(B)の破線四角Aに含まれる部分を車両後方から見たときの図である。なお、図1(A)および図1(B)では、操舵輪を透視している。また、図1(A)では第2転舵部を構成するフレーム部の図示を一部省略し、図1(B)では操舵ハンドル、ステアリングシャフトと車体とを連結する軸受の図示を省略している。また、図1(A)および図1(B)は、車両の直進状態、すなわち、操舵輪が転舵されていない状態を示している。
【0014】
図1(A)および図1(B)に示すように、本実施形態に係る車両操舵装置1は、車両の左操舵輪WLおよび右操舵輪WRを転舵させるための装置であり、操舵部10と、第1転舵部20と、第2転舵部30と、切替部40とを備える。以下では適宜、左操舵輪WLおよび右操舵輪WRを合わせて操舵輪Wと称する。
【0015】
操舵部10は、操舵ハンドル12と、ステアリングシャフト14とを有する。操舵ハンドル12は、ステアリングシャフト14の一端に連結されている。ステアリングシャフト14は、他端が車体のボデー板2aに固定された軸受80に回転可能に連結されている。また、ステアリングシャフト14は、中間領域の所定部分が車体のボデー板2bに固定された軸受81に回転可能に連結されている。
【0016】
第1転舵部20は、ステアリングシャフト14と操舵輪Wとを連結する第1連結部材として、カム22とロッド24とを有する。カム22は、中心部に形成された貫通孔にステアリングシャフト14が挿通された状態で、ステアリングシャフト14に対して回動可能に設けられている。ロッド24は、車幅方向に延在するとともに、その中間部がボールジョイント60を介してカム22に連結されている。また、ロッド24は、その端部がナックル等の操舵輪支持部材70L,70Rに連結されている。ロッド24は、一端が左操舵輪WLを支持する操舵輪支持部材70Lにボールジョイント61を介して連結され、他端が右操舵輪WRを支持する操舵輪支持部材70Rにボールジョイント62を介して連結されている。ロッド24の端部は、操舵輪支持部材70L,70Rの車両後方側部分に連結されている。したがって、操舵輪Wは、カム22およびロッド24を介してステアリングシャフト14に連結されている。
【0017】
第2転舵部30は、ステアリングシャフト14と操舵輪Wとを連結する第2連結部材として、ハブ部材32L,32Rと、略帯状の第1フレーム部材34a〜第5フレーム部材34eで構成されたフレーム体34とを有する。ハブ部材32Lは、一端側がボールジョイント63,64を介して操舵輪支持部材70Lに連結されている。ハブ部材32Rは、一端側がボールジョイント65,66を介して操舵輪支持部材70Rに連結されている。
【0018】
第1フレーム部材34aは、車両前後方向に延在し、その延在方向の中間部に設けられた貫通孔にステアリングシャフト14が挿通された状態で、ステアリングシャフト14に対して回動可能に設けられている。また、第1フレーム部材34aは、その延在方向の中間部に、操舵輪Wが転舵されていない状態で車両左方向および車両右方向に突出する突出部34aを有する。突出部34aには、ハブ部材32L,32Rの他端側が固定されている。したがって、操舵輪Wは、ハブ部材32L,32Rおよび第1フレーム部材34aを介してステアリングシャフト14に連結されている。
【0019】
第2フレーム部材34bおよび第3フレーム部材34cは、ともに車幅方向に延在し、第2フレーム部材34bがステアリングシャフト14よりも車両前方側に、第3フレーム部材34cがステアリングシャフト14よりも車両後方側に、それぞれ配置されている。第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eは、ともに車両前後方向に延在し、第4フレーム部材34dがステアリングシャフト14よりも車両左側に、第5フレーム部材34eがステアリングシャフト14よりも車両右側に、それぞれ配置されている。したがって、フレーム体34は、ステアリングシャフト14を取り囲むように配置され、操舵輪Wよりも車幅方向外側に延在している。
【0020】
第2フレーム部材34bの車両左側の端部と第4フレーム部材34dの車両前方側の端部とは、ジョイント部36aにより相対回動可能に連結されている。第2フレーム部材34bの車幅方向の中間部と第1フレーム部材34aの車両前方側の端部とは、ジョイント部36bにより相対回動可能に連結されている。第2フレーム部材34bの車両右側の端部と第5フレーム部材34eの車両前方側の端部とは、ジョイント部36cにより相対回動可能に連結されている。第3フレーム部材34cの車両左側の端部と第4フレーム部材34dの車両後方側の端部とは、ジョイント部36dにより相対回動可能に連結されている。第3フレーム部材34cの車幅方向の中間部と第1フレーム部材34aの車両後方側の端部とは、ジョイント部36eにより相対回動可能に連結されている。第3フレーム部材34cの車両右側の端部と第5フレーム部材34eの車両後方側の端部とは、ジョイント部36fにより相対回動可能に連結されている。したがって、フレーム体34は、第1フレーム部材34a〜第5フレーム部材34eおよびジョイント部36a〜ジョイント部36fによりリンク機構を構成している。
【0021】
また、フレーム体34は、車体側に連結されている。本実施形態では、フレーム部材34を構成する第4フレーム部材34dがボデーマウント38aを介して車体側に回動可能に連結され、第5フレーム部材34eがボデーマウント38bを介して車体側に回動可能に連結されることで、フレーム体34が車体に対して変位可能に連結されている。ボデーマウント38aおよびボデーマウント38bは、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eの延在方向の中間部に設けられており、ボデーマウント38a,38bおよびステアリングシャフト14は、同一直線上に位置するように配置されている。
【0022】
このように、本実施形態にかかる車両操舵装置1は、操舵輪Wよりも車幅方向外側に延在するフレーム体34が車体側に連結されている。また、フレーム体34の車体側への連結位置は、操舵輪Wよりも車幅方向外側、言い換えれば操舵輪Wの側方である。そのため、本実施形態に係る車両操舵装置1によれば、車両の旋回時に操舵輪Wに入力される横力に対する車両の剛性を高めることができる。また、フレーム部材34は、車体側への連結箇所が操舵輪Wを挟んで車幅方向に間隔を開けて配置されている。そのため、操舵輪Wに入力される横力に対する剛性をより高めることができる。
【0023】
車体側には、フレーム体34の変位を規制するための係止部材39が設けられている。係止部材39は、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eに対して当接した状態と離間した状態とを切り替えることができる。係止部材39が第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eに当接することで、フレーム体34の変位が抑制され、フレーム体34が車体に対して固定された状態となる。係止部材39が第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eから離間することで、フレーム体34の変位が許容される。
【0024】
切替部40は、ステアリング板42と、フレーム体用クラッチ板44a,44bと、カム用クラッチ板46とを有する。ステアリング板42は、ステアリングシャフト14に固定されており、ステアリングシャフト14の回動にともなって回動する。
【0025】
フレーム体用クラッチ板44a,44bはそれぞれ、中心部に形成された貫通孔にステアリングシャフト14が挿通された状態で、ステアリングシャフト14に対して回動可能に、かつステアリングシャフト14の軸方向にスライド可能に設けられている。また、フレーム体用クラッチ板44aはステアリング板42と第1フレーム部材34aとの間に配置され、フレーム体用クラッチ板44bは第1フレーム部材34aとボデー板2bとの間に配置されている。フレーム体用クラッチ板44aおよびフレーム体用クラッチ板44bはそれぞれ、第1フレーム部材34aを貫通して車両上下方向に延在する連結部材45の端部に接続されている。連結部材45は第1フレーム部材34aに対して、ステアリングシャフト14の軸方向にスライド可能であり、かつステアリングシャフト14の軸周り方向に係止されるように設けられている。
【0026】
カム用クラッチ板46は、中心部に形成された貫通孔にステアリングシャフト14が挿通された状態で、ステアリングシャフト14に対して回動可能に、かつステアリングシャフト14の軸方向にスライド可能に設けられている。また、カム用クラッチ板46は、ステアリング板42とカム22との間に配置されている。カム用クラッチ板46には、カム22を貫通して車両上下方向に延在する連結部材47の端部が接続されている。連結部材47はカム22に対して、ステアリングシャフト14の軸方向にスライド可能であり、ステアリングシャフト14の軸周り方向に係止されるように設けられている。カム用クラッチ板46は、ステアリング板42を挟んでフレーム体用クラッチ板44a,44bとは反対側に配置されている。
【0027】
切替部40は、たとえば操舵ハンドル12側に設けられた切替操作部(図示せず)の操作に応じて、ステアリングシャフト14から第1転舵部20および第2転舵部30への入力の伝達と切断とを切り替える。たとえば、フレーム体用クラッチ板44aおよびカム用クラッチ板46がともにステアリング板42から離間している状態(図1(A)に示す状態)において、連結部材47が車両上方へスライドしてカム用クラッチ板46がステアリング板42に当接することで、ステアリングシャフト14の回動を第1転舵部20側に入力させることができる。
【0028】
また、図1(A)に示す状態において、連結部材45が車両下方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42に当接することで、ステアリングシャフト14の回動を第2転舵部30側に入力させることができる。また、連結部材45が車両上方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44bがボデー板2bに当接することで、ステアリングシャフト14の回動によるフレーム体34の変位を抑制することができる。
【0029】
さらに、図1(A)に示す状態において、連結部材47が車両上方へスライドしてカム用クラッチ板46がステアリング板42に当接するとともに、連結部材45が車両下方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42に当接することで、ステアリングシャフト14の回動を第1転舵部20側および第2転舵部30側に入力させることができる。
【0030】
すなわち、第2転舵部30は、第1転舵部20と独立した操舵輪Wの転舵と、第1転舵部20と共同した操舵輪Wの転舵が可能である。そして、切替部40は、第1転舵部20による操舵輪Wの転舵と、第2転舵部30による操舵輪Wの転舵と、第1転舵部20および第2転舵部30による操舵輪Wの転舵とを切り替えることができる。これにより、操舵輪Wの転舵操作の自由度を高めることができる。
【0031】
続いて、上述の構成を備えた車両操舵装置1の動作を説明する。図2(A)および図2(B)は、第1転舵部20による操舵輪Wの転舵を説明するための模式図である。図3(A)および図3(B)は、第2転舵部30による操舵輪Wの転舵を説明するための模式図である。図4(A)および図4(B)は、第1転舵部20および第2転舵部30による操舵輪Wの転舵を説明するための模式図である。図2(A)、図3(A)および図4(A)は、車両操舵装置1の背面模式図に相当し、図2(B)、図3(B)、図4(B)は、車両操舵装置1の平面模式図に相当する。なお、各図における部材の図示省略等は、図1(A)および図1(B)と同様である。
【0032】
(第1転舵部20による操舵輪Wの転舵)
図2(A)および図2(B)に示すように、切替部40は、連結部材47が車両上方へスライドしてカム用クラッチ板46がステアリング板42に当接し、連結部材45が車両上方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42から離間し、フレーム体用クラッチ板44bがボデー板2bに当接した状態となっている。また、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eには係止部材39が当接している。この状態で、例えば操舵輪Wが左方向に転舵されるように操舵ハンドル12が操作されると、ステアリングシャフト14およびステアリング板42が平面視で反時計回り方向に回動する。ステアリング板42にはカム用クラッチ板46が当接しているため、ステアリング板42とともにカム用クラッチ板46および連結部材47が反時計回り方向に回動する。そして、連結部材47の回動によってカム22が反時計回り方向に回動する。
【0033】
カム22が反時計回り方向に回動すると、ボールジョイント60を介して連結されたロッド24が車幅方向右側に変位する。これにより、ボールジョイント61,62を介してロッド24に連結された操舵輪支持部材70L,70Rが操舵輪Wのキングピン軸X周りで反時計回り方向に回動する。その結果、操舵輪Wが左方向に転舵される。左操舵輪WLのキングピン軸Xは、たとえばボールジョイント63,64を通る軸であり、右操舵輪WRのキングピン軸Xは、たとえばボールジョイント65,66を通る軸である。
【0034】
フレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42から離間しているため、フレーム体34にはステアリングシャフト14からの入力が伝達されない。また、フレーム体用クラッチ板44bがボデー板2bに当接し、係止部材39が第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eに当接しているため、フレーム体34が車体側に固定され、ステアリングシャフト14の回動によるフレーム体34の変位が確実に抑制される。
【0035】
(第2転舵部30による操舵輪Wの転舵)
図3(A)および図3(B)に示すように、切替部40は、連結部材47が車両下方へスライドしてカム用クラッチ板46がステアリング板42から離間し、連結部材45が車両下方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42に当接し、フレーム体用クラッチ板44bがボデー板2bから離間した状態となっている。また、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eに対して係止部材39が離間している。この状態で、例えば操舵輪Wが左方向に転舵されるように操舵ハンドル12が操作されると、ステアリングシャフト14およびステアリング板42が平面視で反時計回り方向に回動する。ステアリング板42にはフレーム体用クラッチ板44aが当接しているため、ステアリング板42とともにフレーム体用クラッチ板44aおよび連結部材45が反時計回り方向に回動する。そして、連結部材45の回動によって第1フレーム部材34aが反時計回り方向に回動する。
【0036】
第1フレーム部材34aがステアリングシャフト14の回転軸周りで反時計回り方向に回動すると、突出部34aに固定されたハブ部材32L,32Rが反時計回り方向に回動する。また、ジョイント部36bを介して第1フレーム部材34aに連結された第2フレーム部材34bが車幅方向左側に変位し、ジョイント部36eを介して第1フレーム部材34aに連結された第3フレーム部材34cが車幅方向右側に変位する。また、第2フレーム部材34bおよび第3フレーム部材34cの変位によって、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eが、それぞれボデーマウント38a,38bを中心として反時計回り方向に回動する。これにより、ボールジョイント63,64を介してハブ部材32Lに連結された操舵輪支持部材70Lと、ボールジョイント65,66を介してハブ部材32Rに連結された操舵輪支持部材70Rとがステアリングシャフト14の回転軸周りに回動する。その結果、操舵輪Wが左方向に転舵される。
【0037】
カム用クラッチ板46がステアリング板42から離間しているため、カム22にはステアリングシャフト14の回動が伝達されない。したがって、操舵輪Wはキングピン軸X周りに回動せず、ロッド24と操舵輪Wとのなす角度は操舵ハンドル12が操舵されていない状態における角度で維持される。
【0038】
(第1転舵部20および第2転舵部30による操舵輪Wの転舵)
図4(A)および図4(B)に示すように、切替部40は、連結部材47が車両上方へスライドしてカム用クラッチ板46がステアリング板42に当接し、連結部材45が車両下方へスライドしてフレーム体用クラッチ板44aがステアリング板42に当接し、フレーム体用クラッチ板44bがボデー板2bから離間した状態となっている。また、第4フレーム部材34dおよび第5フレーム部材34eに対して係止部材39が離間している。この状態で、例えば操舵輪Wが左方向に転舵されるように操舵ハンドル12が操作されると、ステアリングシャフト14およびステアリング板42が平面視で反時計回り方向に回動する。
【0039】
ステアリング板42にはカム用クラッチ板46が当接しているため、ステアリング板42とともにカム用クラッチ板46および連結部材47が反時計回り方向に回動する。そして、連結部材47の回動によってカム22が反時計回り方向に回動する。また、ステアリング板42にはフレーム体用クラッチ板44aが当接しているため、ステアリング板42とともにフレーム体用クラッチ板44aおよび連結部材45が反時計回り方向に回動する。そして、連結部材45の回動によって第1フレーム部材34aが反時計回り方向に回動する。
【0040】
カム22が反時計回り方向に回動すると、ボールジョイント60を介して連結されたロッド24が車幅方向右側に変位する。これにより、操舵輪支持部材70L,70Rが操舵輪Wのキングピン軸X周りで反時計回り方向に回動する。また、第1フレーム部材34aが反時計回り方向に回動すると、上述のようにハブ部材32L,32Rが反時計回り方向に回動し、操舵輪支持部材70L,70Rがステアリングシャフト14の回転軸周りで反時計回り方向に回動する。また、第2フレーム部材34b〜第5フレーム部材34eのそれぞれが変位する。これらの結果、操舵輪Wが左方向に転舵される。
【0041】
すなわち、本実施形態に係る車両操舵装置1は、第1転舵部20によるキングピン軸X周りの操舵輪Wの転舵と、第2転舵部30によるステアリングシャフト14の回転軸周りの操舵輪Wの転舵とを重畳することができる。そのため、操舵輪の転舵角を大角度とすることができる。たとえば、車両操舵装置1は、第1転舵部20により操舵輪Wのキングピン軸X周りに操舵輪Wを45°転舵させ、第2転舵部30によりステアリングシャフト14の回転軸周りに操舵輪Wを45°転舵させることで、操舵輪Wを約90°転舵させることができる。
【0042】
本実施形態に係る車両操舵装置1が搭載される車両としては、例えば、上述したひし形車輪配置の車両や3輪あるいは4輪の自転車等を含む軽量車両などを挙げることができる。特に、車両操舵装置1は、車体を積極的に傾けることなく旋回する車両に対して好適である。なお、上述の車両に限定されず、一般的な自動車等の他の車両に搭載されてもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る車両操舵装置1は、操舵輪Wをキングピン軸X周りに回動させて操舵輪Wを転舵させるための第1転舵部20と、操舵輪Wをステアリングシャフト14の回動軸周りに回動させて第1転舵部20と共同して操舵輪Wを転舵させるための第2転舵部30とを備える。これにより、操舵輪Wの転舵角を大角度とすることができる。また、車両操舵装置1は、2つの転舵部を組み合わせて操舵輪Wを転舵させるため、より小さい操舵ハンドル12の操舵角でより大きい操舵輪Wの転舵角を得ることができる。
【0044】
また、上述の特許文献1に開示された従来の車両では、車輪支持部材が操舵輪の上方で車体側に連結されていた。したがって、車両の旋回時に発生する横力の操舵輪への入力位置(操舵輪の接地点)から、車輪支持部材の車体側への連結位置までの距離が長く、横力に対する剛性が低かった。これに対し、第2転舵部30のフレーム体34は、操舵輪Wよりも車幅方向外側に延在してボデーマウント38a,38bを介して車体側に連結されている。また、フレーム体34を車体側に連結することで、従来に比べて横力の入力位置からの高さがより低い位置で操舵輪Wを車体側に連結することができる。そのため、本実施形態に係る車両操舵装置1は、従来の車両に比べて横力に対する車両の剛性を高めることができる。
【0045】
特に、車体を積極的に傾けることなく旋回する車両では、旋回時に発生する横力を車輪支持部材で受けることができないため、車両操舵装置1は、そのような車両において横力に対する剛性をより高めることができる。また、本実施形態に係る車両操舵装置1によれば、操舵輪Wの転舵角を大角度とすることと、操舵輪Wに入力される横力に対する剛性を向上させることとの両立を図ることができる。
【0046】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の実施形態と変形との組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0047】
1 車両操舵装置、 14 ステアリングシャフト、 20 第1転舵部、 22 カム、 24 ロッド、 30 第2転舵部、 32L,32R ハブ部材、 34 フレーム体、 40 切替部、 42 ステアリング板、 44a,44b フレーム体用クラッチ板、 45 連結部材、 46 カム用クラッチ板、 47 連結部材、 70L,70R 操舵輪支持部材、 W 操舵輪、 WL 左操舵輪、 WR 右操舵輪、 X キングピン軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵輪とステアリングシャフトとに連結され、操舵輪をキングピン軸周りに回動させて操舵輪を転舵させるための第1転舵部と、
操舵輪とステアリングシャフトとに連結され、操舵輪をステアリングシャフトの回動軸周りに回動させて前記第1転舵部と共同して操舵輪を転舵させるための第2転舵部と、
を備えることを特徴とする車両操舵装置。
【請求項2】
前記第2転舵部は、前記第1転舵部と独立した操舵輪の転舵と、前記第1転舵部と共同した操舵輪の転舵とが可能であり、
前記第1転舵部による操舵輪の転舵と、前記第2転舵部による操舵輪の転舵と、前記第1転舵部および前記第2転舵部による操舵輪の転舵とを切り替えるための切替部をさらに備える請求項1に記載の車両操舵装置。
【請求項3】
前記第2転舵部は、操舵輪よりも車幅方向外側に延在するフレーム体を有し、前記フレーム体が車体側に連結される請求項1または2に記載の車両操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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