説明

車両用エンジニアリングプラスチック部品及び車両用エンジニアリングプラスチック部品の製造方法

【課題】ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を車両用部品に適用した場合に、上記車両用部品に対して塗膜を形成することなく、さらに、走行中に問題となる飛び石等が車両用部品に衝突しても樹脂材料を含む部分が露出しづらい、耐酸性、耐アルカリ性等の問題を解消するための技術を提供する。
【解決手段】車両組み付け時に外気に曝される露出部と、外気に曝されない非露出部と、を有する車両用エンジニアリングプラスチック部品における、エンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂からなる保護層を有する車両用エンジニアリングプラスチック部品及び当該車両用エンジニアリングプラスチック部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用部品に適用される材料は、高強度、高靭性であること等を求められる場合が多々ある。また、燃費節減等につながる軽量化指向から車両用部品に適用される材料は、軽量であることも求められる。
【0003】
上記のような求めに応じるために車両用部品に適用される材料は、金属から樹脂材料へ代替している趨勢にある。具体的には、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料が用いられている。これらの樹脂は、機械的特性、熱的特性等に優れるからである。
【0004】
ポリアセタール樹脂は、剛性、強度、靭性、耐クリープ寿命、耐疲労性、耐薬品性及び摺動性、耐熱性等のバランスに優れ、且つその加工が容易であることから、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品に特に好ましいものの耐酸性が低いという問題を抱えている。ポリブチレンテレフタレート樹脂もポリアセタール樹脂と同様に車両用部品として特に好ましい物性を備えるものの耐アルカリ性が低いという問題を抱えている。ポリアミド樹脂は、機械的強度等には優れるもののポリアセタール樹脂と同様に耐酸性が低いという問題を抱えている。
【0005】
最近では、自動車用の下回り部品に適用される材料も金属から樹脂材料に置き換えられる傾向にある。自動車用下回り部品は、主に自動車床面下部において、ボディ下部、足回り等、車外に露出される形で配置される。このため、自動車下回り部品は、極めて過酷な環境に曝される。また、自動車用下回り部品は、路面からのしぶき、洗浄薬液等が付着し洗い難い箇所にある。
【0006】
自動車用下回り部品は、車体の安全性に直接関係する。このため、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を車両用部品に適用した場合に、耐酸性、耐アルカリ性等の問題を解消させなければ、上記のような樹脂材料を自動車用下回り部品に好ましく適用することができない。薬液等の付着により樹脂が劣化してしまうからである。そこで、上記のような問題を解決するための技術が求められている。
【0007】
上記の通り、自動車用下回り部品には、充分な機械的強度等の物性の他に防食性が求められる。そこで、自動車用下回り部品に対して、高耐食性を付与する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術によれば、特定の熱硬化性粉体塗料組成物を用いて、自動車用下回り部品の車外に露出する部分に塗膜を設けることで、自動車用下回り部品の耐食性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−313475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば、ポリアセタール樹脂を用いて作製した部品は、塗料組成物を用いて形成した塗膜との密着性が低い場合が多い。このため、所望の塗料組成物が使用できるとは限らず、ポリアセタール樹脂等を適用した自動車部品では、特許文献1に記載されている塗膜を形成する方法を用いて、耐酸性等の問題を解消することは非常に難しい。
【0010】
また、ポリアセタール樹脂等を用いて作製した車両用部品に所望の塗膜を形成できたとしても、自動車用下回り部品の場合には、走行中に飛び跳ねた小石や砂利が塗膜に衝突して塗膜が剥がれ、ポリアセタール樹脂の表面が露出してしまう可能性がある。樹脂表面が露出すると、この露出した部分に薬液等が付着し樹脂が劣化するおそれがある。このため、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を用いた車両用部品に対して塗膜を形成することなく、耐酸性等の樹脂材料に起因する欠点を解消する方法が求められている。
【0011】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を車両用部品に適用した場合に、上記車両用部品に対して塗膜を形成することなく、さらに、走行中に問題となる飛び石等が車両用部品に衝突しても樹脂材料を含む部分が露出しづらい、耐酸性、耐アルカリ性等の問題を解消するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、車両組み付け時に外気に曝される露出部と、外気に曝されない非露出部と、を有する車両用エンジニアリングプラスチック部品であり、上記露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を設けることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 車両組み付け時に外気に曝される露出部と、外気に曝されない非露出部と、を有する車両用エンジニアリングプラスチック部品であって、前記露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を有することを特徴とする車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【0014】
(2) 前記露出部を構成するエンジニアリングプラスチックは、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、又はポリアミド樹脂である(1)に記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【0015】
(3) 前記保護層の一部が、前記露出部から前記非露出部にかけて延出されている(1)又は(2)に記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【0016】
(4) 自動車用下回り部品である(1)から(3)のいずれかに記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【0017】
(5) 前記露出部及び非露出部を一体として射出成形し、前記露出部の表面の全部又は一部に前記ポリオレフィン系樹脂を二重成形又は二色成形により形成することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を設けることで、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を用いて作製する車両用部品の耐酸性等を向上させることができる。特に、ポリオレフィン系樹脂は、柔軟性に優れるため走行中に飛び石が衝突しても非常に変形しやすく保護層は破損し難いため、長期間車両用部品の表面を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のエンジニアリングプラスチック部品を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は底面図、(c)は組み付け後の斜視図、(d)は組み付け後の底面図である。
【図2】図1に示す形態とは別形態の本発明のエンジニアリングプラスチック部品を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は組み付け後の斜視図、(c)は組み付け後の正面図である。
【図3】保護層を備えた第一部品に第二部品を組み付けたエンジニアリングプラスチック部品を示す図であり、(a)は底面図、(b)は正面図である。
【図4】図3に示す形態とは別形態の保護層を備えた第一部品に第二部品を組み付けたエンジニアリングプラスチック部品を示す図である。
【図5】保護層を備えた第三部品に第四部品を組み付けたエンジニアリングプラスチック部品を示す図である。
【図6】二重成形法による保護層の形成過程を示す図である。
【図7】図7(c)に示す第一部品に第二部品を組み付けた状態を示す図である。
【図8】図9(a)は、保護層に小石が衝突する過程を示す図である。
【図9】一般的な蓋の概略を示す図である。
【図10】スタビラーザーリンクの概略を示す図である。
【図11】実施例で作成した平板を示す図である。
【図12】実施例で作製するスタビラーザーリンクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
本発明の車両用エンジニアリングプラスチック部品は、車両組み付け時に外気に曝される露出部と、外気に曝されない非露出部とを有し、上記露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を設けることを特徴とする。
【0022】
本発明の車両用エンジニアリングプラスチック部品は、樹脂材料を用いて作製することを特徴とする。適用可能な樹脂材料としては特に限定されないが、車両用部品として用いるためには優れた機械的特性、熱的特性等が要求される。このため、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、高密度ポリエチレン等が使用される。特に、ポリアセタール樹脂は、剛性、強度、靭性、耐クリープ寿命、耐疲労性、耐薬品性及び摺動性、耐熱性等のバランスに優れ、且つその加工が容易であることから、車両用部品のあらゆる箇所の部品に好ましい。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂も、一般的な車両用部品に要求される機械的特性、熱的特性等を充分に満たす樹脂材料であり、車両用部品を作製するための樹脂材料として好ましい。
【0023】
上記のような樹脂材料は、車両用部品に要求される様々な物性を満たすものであるが、欠点がある場合が多い。例えば、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂は、耐酸性が低いことが問題である。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は耐アルカリ性が低いことが問題である。本発明は、これらの欠点を解消することで、さらに多くの種類の車両用部品に対して、上記のような樹脂材料を適用可能にする。
【0024】
特に問題となる車両用部品として、自動車用下回り部品がある。自動車用下回り部品は、充分な機械的強度等の物性の他に防食性等が求められる。加えて、自動車用下回り部品は、車体の安全と直接関係するため耐酸性不足、耐アルカリ性不足等の欠点を解消する必要性が高い。本発明の車両用エンジニアリングプラスチック部品は、外気に曝されるエンジニアリングプラスチック表面の少なくとも一部にポリオレフィン系樹脂からなる保護層を設ける。ポリオレフィン系樹脂からなる保護層は、耐酸性、耐アルカリ性に優れる。その結果、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂の耐酸性不足、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ性不足を補うことができる。
【0025】
このように、柔軟なポリオレフィン系樹脂からなる保護層を設けることで、耐酸性不足、耐アルカリ性不足の他にも様々な問題を解消することができる。
【0026】
保護層形成前のエンジニアリングプラスチック部品は、従来公知の方法で所望の形状に成形することができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。このような方法で成形されたエンジニアリングプラスチック部品(第一部品1)は、図1(a)に示すように、車両組み付け時に外気に曝される露出部Aと、外気に曝されない非露出部Bとを有する。図1(b)は、図1(a)に示すエンジニアリングプラスチック部品1の底面図である。図1(a)、(b)に示す部品は、幅x1、縦y1、高さz1の第一直方体11の端面の中央部と、幅x2(x1>x2)、縦y2(y1>y2)、高さz2の第二直方体12の端面の中央部とを連結した形状である。直方体を連結した形状であるため第一直方体11の裏面は、図1(b)に示すように、x方向の幅(x1−x2)/2、y方向の幅(y1−y2)/2の環状の面になる。図2(a)に示す第三部品3は、幅x3、縦y3、高さz3の直方体形状である。
【0027】
「非露出部」とは、車両に組み付け後、他の部品に覆われる等して外気に曝されない部分を指す。図1(c)には、非露出部Bを貫通可能な開口部を備えた筒状の第二部品2に取り付けられた第一部品1が示されている。組み付け時は、第二部品2の上端面と第一直方体11の裏面とが当接する。したがって、部品1の非露出部は、第二直方体12の側面及び第一直方体11の裏面と第二部品2の上端面とが当接する部分である。
【0028】
図2(b)には、第二部品2が、第二部品2を貫通可能な開口部を備えた筒状の第四部品4に組み付けられた状態を示す図である。図2(c)は、第二部品2が第四部品4に組み付けられた状態を示す正面図である。組み付けられた状態では、第二部品2の側面の一部と第四部品4の内側面とが接している。したがって、第二部品2の非露出部は、第二部品2において第四部品4の内側面と接する部分である。
【0029】
即ち、図1(b)、図2(b)、(c)に点線で示すように、非露出部Bは他の部品と繋げる際に、他の部品等に覆われる結果、外気に曝されない部分である。
【0030】
本発明は、車両組み付け時に外気に曝される露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を形成する。この保護層により、耐酸性不足、耐アルカリ性不足等の樹脂材料の欠点を補うことができる。
【0031】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂としては、従来公知のものを使用することができる。好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンを挙げることができる。
【0032】
上記のようなポリオレフィン系樹脂は、ポリアセタール樹脂等の表面に密着しづらい。即ち、エンジニアリングプラスチック部品の露出部の表面に保護層を形成しても保護層と露出部とは密着しない。このため、保護層とエンジニアリングプラスチック表面とが離れないようにする必要がある。
【0033】
エンジニアリングプラスチック部品が、保護層を引っ掛け可能な引掛部を備える場合には、保護層をエンジニアリングプラスチック部品の引掛部に引っ掛けるようにして形成することで、保護層が外れエンジニアリングプラスチック表面が露出することを防ぐことができる。また、車両用部品は上記の通り、一般的に他の部品等に連結する。上記エンジニアプラスチックス部品と他の部品との連結する部分に保護層を挟み込むことで、保護層がエンジニアリングプラスチック部品表面から剥がれ落ちることを防ぐことができる。
【0034】
例えば、図1(a)に示すようなエンジニアリングプラスチック部品(第一部品1)の場合には、引掛部13とは、図1(d)に示すような、第一直方体11の裏面の外気に曝される環状の部分を指す。引掛部13はx方向の幅(x1−x2)/2−Wであり、y方向の幅(y1−y2)/2−Wである。図3(a)には、部品1に保護層が形成された状態を示す。保護層5はドット模様で示した。図3(a)、(b)に示すように保護層5を第一直方体11の表面から側面、そして裏面の引掛部13に回り込むようにして形成することで、保護層5と、第一部品1との密着性が不十分であっても、保護層5が第一部品1から剥がれ落ちることは無い。
【0035】
第一部品1の場合には上記の通り、第一直方体11を包むようにして保護層5を形成することにより、保護層5が第一部品1から剥がれ落ちることを抑えることができるが、第一部品1の場合には図4(a)に示すように、保護層5を第一直方体11の裏面の第二部品2の上端面との接する部分まで形成することがさらに好ましい。図4に示すように、保護層5を第一部品1の裏面の第二部品2の上端面と当接する部分まで設けることにより、保護層5の形成後、第一部品1と第二部品2とを組み付けると、保護層5が第一部品1の裏面と第二部品2の上端面に挟み込まれ、保護層5が第一部品1からさらに剥がれ落ち難くなる。また、上記のように保護層5を第一部品1の裏面と第二部品2の上端面との間に挟み込む方法を用いれば、+x方向、−x方向、+y方向、−y方向の四方向から保護層5を回り込ませなくても、保護層5が第一部品1から剥がれ落ちることを防止することができる。例えば図4(c)に示すように、+y方向、−y方向の二方向から保護層5を回り込ませても、保護層5を第一部品1の裏面と部品2の上端面との間に挟みこませておけば、保護層5と第一部品1との間の密着性が不十分であっても、±x方向に保護層5が移動し第一部品1から外れることを防ぐことができる。
【0036】
図2に示すようなエンジニアリングプラスチック部品3(第三部品)の場合には、図5に示すように、第三部品3の側面の第四部品4の内側面と接する部分まで保護層5を設けることで、保護層5と第三部品3との密着性が不十分であっても、保護層5が第三部品3から外れることを抑えることができる。図2に示すような引掛部を備えないエンジニアリングプラスチック部品の場合には、他の部品との接続部分に保護層を挟み込む必要があるが、通常、部品は他の何らかの部品と組み付けられる。したがって、保護層5とエンジニアリングプラスチック表面との間の密着性が低くても、部品と部品との間に保護層を挟み込み、保護層が部品から外れることが無ければ問題にならない。
【0037】
エンジニアリングプラスチック部品に対して、上記のような保護層を形成するための方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、露出部及び非露出部を一体として射出成形し、露出部の表面の全部又は一部にポリオレフィン系樹脂を二重成形又は二色成形により形成することが好ましい。
【0038】
一般的に車両用部品は、複雑な形状をしている。車両用部品は、他の部品と連結される場合が多く、連結するための部分等が複雑になったり、狭いスペースに多くの部品を詰め込むために複雑な形状になったりする。
【0039】
二重成形とは、上記樹脂材料からなるエンジニアリングプラスチック部品を成形し、このエンジニアリングプラスチック部品にポリオレフィン系樹脂を二次成形して一体に固定するものである。例えば、先ず、図6(a)に示すように、図1(a)に示したものと同様のエンジニアリングプラスチック部品(第一部品1)を成形する。次いで、図6(b)に示すように、第一部品1を金型6に収容する。金型6は、溶融状態のポリオレフィン系樹脂を金型6内に流し込むためのゲート61を備える。溶融状態のポリオレフィン系樹脂は図6(b)に示す矢印の方向に流れる。最後に流し込んだポリオレフィン系樹脂を固化させて第一部品1を取り出す。取り出した第一部品1を図6(c)に示した。部品1には、保護層5が形成される。
【0040】
二色成形とは、異なる樹脂材料を同時に成形する技術であり、一つの金型に対して二つの射出機構とゲートとを備えた専用の成形機を用いて成形する方法である。一つの金型に対して二つの射出機構を備える点で二重成形とは異なるが、先ずエンジニアリングプラスチック部品を成形した後に、溶融したポリオレフィン系樹脂を流し込み保護層を形成する点では上記二重成形と共通する。
【0041】
上記のような二重成形、二色成形であれば、複雑な形状の部品に保護層を形成する場合であっても、塗布により形成する場合と異なり塗り残し等の問題が生じず、容易に保護層を形成することができる。
【0042】
上記のような方法で得られた保護層を有するエンジニアリングプラスチック部品は、最後に他の部品と組み付けられる。例えば、図6(c)に示すエンジニアリングプラスチック部品組み付け後を図7に示した。図7に示すように、保護層5が第一部品1と第二部品2に挟まれることで保護層5が第一部品1の表面から外れ難くなる。
【0043】
さらに図8(a)には、図7の部品の側面図を示した。図8(a)に示す矢印方向から小石が飛んできて、小石が位置Xに衝突したとする。保護層5は、第一部品1の表面と密着しない場合が多い。また、保護層5は、ポリオレフィン系樹脂からなり非常に柔軟である。したがって、保護層5の衝突を受けたX部分は、図8(b)に示すように、X+δXずれることが可能である。その結果、保護層5は、外部からの衝撃に対して非常に強い。一方、従来の塗装による塗膜を形成する場合には、部品表面と塗膜とは密着している。このため、衝撃を受けた際に塗膜は、柔軟に変形することができず容易に破れてしまい充分に部品表面を保護することができない。
【0044】
上記の通り、本発明は柔軟に変形しやすい保護層を用いることを特徴とする。変形しやすく且つ敗れ難いポリオレフィン系樹脂からなる保護層を得るためには、厚さ0.3mmから3mmにする必要がある。厚みが0.3mm以上であれば、小石等により外部から保護層へ衝撃が与えられても非常に敗れ難いため好ましい。保護層を単独の射出成形品として考えた場合、ボイドを発生させないため、又コストの面から、保護層の厚さは、3mm以下が好ましい。本発明において、より好ましい厚みの範囲は0.5mmから1.0mmである。
【0045】
本発明は、様々な車両用エンジニアリングプラスチック部品に対して適用可能であり、特に自動車用下回り部品に対して、好ましく適用することができる。自動車下回り部品は、極めて過酷な環境に曝される。具体的には、上記下回り部品は、ボディ下部、足回り等、路面からのしぶきや洗浄薬液が付着し洗い難い部分に存在する。このため、自動車用足回り部品は、保護層による保護の必要性が高いからである。自動車用下回り部品の中でも特に蓋、スタビラーザーリンク等に対して好ましく適用することができる。
【0046】
蓋とは、取り付ける他の部品等への取り付けの便宜のためにフランジの付いた形状をしたものを指す。例えば図9(a)、(b)に蓋7の概略斜視図を示す。
【0047】
蓋7の表面は、外気の過酷な環境に曝される。したがって、従来、上記のような蓋7は、金属を用いて製造していた。しかし、保護層を備える本発明のエンジニアリングプラスチック部品であれば、自動車用下回り部品に要求される性能を充分に満足できる。例えば、ポリアセタール樹脂を用いて保護層形成前の蓋7を作製し、その後、保護層71を形成することで、ポリアセタール樹脂により付与される充分な機械的特性、熱的特性、さらに保護層71により付与される非常に優れた耐酸性等により、軽量であり且つ非常に優れた蓋7を得ることができる。なお、保護層71を形成した蓋を図9(c)、(d)に示す(保護層71は図中のドット模様部分)。
【0048】
また、蓋7は、複雑な形状をしていても、本発明のように、樹脂材料を用いることで、容易に成形、製造することができる。また、保護層71は上記の通り二重成形又は二色成形法により形成することで、容易に保護層を備えた蓋を作製することができる。
【0049】
保護層は、外気に曝される部分の少なくとも一部に形成されていれば良い。蓋が他の部品に枠で組み付けられる場合、枠で挟みこまれる部分は外気に曝されることを防ぐことができるからである。
【0050】
スタビラーザーリンクは、自動車に採用されるサスペンション機構において、スタビライザーとサスペンションアームとを連結するリンク部材である。スタビラーザーリンクは、車体の走行安定性を図るための部材である。スタビラーザーリンクの概略を示す斜視図を図10に示した。スタビラーザーリンク8は、アーム部材81の両端に略凸状に形成されたボールジョイント部82を備える。上記ボールジョイント部82は、ゴム材により構成されたカバー821、ボールスタッド822を備える。アーム部材81の両端は、ボールスタッドのボール部分を収容可能になっている。そして、アーム部材81の両端の先端部がカバー821に覆われるようにして、アーム部材81とボールジョイント部82とは接続されている。
【0051】
スタビラーザーリンクは、自動車の下回り部品に含まれ、非常に苛酷な環境に曝される部品である。したがって、アーム部材81にも優れた機械的特性、熱的特性等が求められる。さらに、スタビラーザーリンクは自動車用部品であるため軽量であることも求められる。これらの要求に応えるためにはポリアセタール樹脂を用いてアーム部材81を作製することが好ましい。本発明のエンジニアリングプラスチック部品は、部品表面に保護層を設けているため耐酸性も非常に優れることから、充分に過酷な環境に耐えることができる。保護層は、外気に曝される部分の少なくとも一部に設けられていればよいが、耐酸性をアーム部材81全体にくまなく付与するためにはアーム部材の外気に曝される部分全体を保護層で覆うことが好ましい。なお、アーム部材81において、外気に曝される部分は図中の網目模様で示した部分である。
【0052】
また、保護層とアーム部材表面とは密着しない場合も多いことから、保護層をアーム部材81のカバー821に覆われる部分まで設けることで、保護層はカバー821とアーム部材81との間に挟まれ、たとえアーム部材81と保護層との間に隙間が生じたとしても樹脂表面が外気に曝されることがなくなるためさらに好ましい。
【0053】
図10(b)には、図10(a)で示したスタビラーザーリンク8の分解図を示した。先ず、射出成形法等によりアーム部材81を成形する。アーム部材81の網目模様部分は、外気に曝される部分である。その後、上記の二色成形又は二重成形等により保護層を形成する。保護層は図10(b)に示すアーム部材81のドット模様部分まで形成する。次いで保護層が表面に形成されたアーム部材81とボールジョイント部82とを接続する。具体的には、ボールスタッド822のボール部分をアーム部材の両端に収用し、その後、カバー821の開口部にボールスタッド822のねじ部分を貫通させてカバーを取り付け、アーム部材81とボールジョイント部82とを接続する。保護層の一部は、ボールジョイント部82のカバー821とアーム部材81とに挟まれるように形成されているため、上述の通り保護の効果が高まる。なお、より強くアーム部材81とボールジョイント部82とを接続するため、とめ具を用いてもよい。とめ具を用いれば、保護層がアーム部材81とカバー821との間から抜けることも無くなりさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0055】
<実施例>
ポリアセタール樹脂(「ジュラコンM90−44」、ポリプラスチックス社製)を用いて、50mm×50mm×2mmtの図11(a)に示すような平板を成形した。得られた平板の4辺を図11(b)に示すように加工した。また、図11(b)に示すように、加工後の平板は、45mm×45mm×1.5mmtの平板と40mm×40mm×0.5mmtの平板とが連結した形状になった。この加工後の平板を50mm×50mm×3mmtの平板キャビティを入れ図11(c)に示すようなPE層を形成した。PE層に保護されたポリアセタール樹脂を成形してなる平板が得られた。なお、PE保護層の形成には、高密度ポリエチレン(ハイゼックス、プライムポリマー社製)を用いた。
【0056】
PE保護された平板のPE層に塩酸10%水溶液を1ml/1日滴下、滴下後の平板を80℃の温度環境下に放置を10日繰り返した。PE層、ポリアセタール樹脂ともに変化が見られなかった。耐酸性の低いポリアセタール樹脂に変化が見られなかったことから、ポリアセタール樹脂を成形してなる平板がPE層によって保護されていることが確認された。
【0057】
以下、スタビラーザーリンクに本発明を適用した例について以下説明する。
【0058】
<スタビラーザーリンク>
ポリアセタール樹脂(「ジュラコンM90−44」、ポリプラスチックス社製)を用い、スタビラーザーリンクの製造に用いるアーム部材を作製する。アーム部材の両端は半径20mmの球を収納可能な形状になっており、後述するボールスタッドのボール部分が、ここに収納される。本実施例で作製したアーム部材を図12(a)に示す。アーム部材の全長は100mmである。
【0059】
次いで、図12(b)に示すように、上記アーム部材中のカバーに覆われる位置まで保護層を形成する。保護層は、ポリオレフィン系樹脂(「ハイゼックス2110JH」プライムポリマー社製、及び「エボリューSP10710」プライムポリマー社製)を用いて、下記の成形条件にて形成する。
【0060】
図12(c)に示すように、ボールスタッドとカバーをアーム部材に組み付け、スタビラーザーリンクが得られた。このようにして得られるスタビラーザーリンクを図12(d)に示す。
【0061】
本発明のスタビラーザーリンクはポリアセタール樹脂を用いて製造したアーム部材を用いている。このため、充分な機械的特性、熱的特性を備える。さらに、本発明のスタビラーザーリンクは、ポリオレフィン系樹脂からなる保護層を備えるため、耐酸性も極めて高く、主にポリアセタール樹脂からなるため軽量である。したがって、非常に優れたスタビラーザーリンクになる。
【符号の説明】
【0062】
1 第一部品
11 第一直方体
12 第二直方体
13 引掛部
2 第二部品
3 第三部品
4 第四部品
5 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両組み付け時に外気に曝される露出部と、外気に曝されない非露出部と、を有する車両用エンジニアリングプラスチック部品であって、
前記露出部を構成するエンジニアリングプラスチック表面の全部又は一部に、厚さ0.3mmから3mmのポリオレフィン系樹脂からなる保護層を有することを特徴とする車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【請求項2】
前記露出部を構成するエンジニアリングプラスチックは、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、又はポリアミド樹脂である請求項1に記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【請求項3】
前記保護層の一部が、前記露出部から前記非露出部にかけて延出されている請求項1又は2に記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【請求項4】
自動車用下回り部品である請求項1から3のいずれかに記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品。
【請求項5】
前記露出部及び非露出部を一体として射出成形し、
前記露出部の表面の全部又は一部に前記ポリオレフィン系樹脂を二重成形又は二色成形により形成することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用エンジニアリングプラスチック部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−214619(P2010−214619A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61037(P2009−61037)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】