説明

車両用サイドシル構造

【課題】ドア下方の車両の底に取付けられていたガーニッシュを廃止し、サイドシル本体内への水、泥の侵入を抑制し、一方、サイドシル本体内に侵入した液体(例えば水)を排出する車両用サイドシル構造を提供する。
【解決手段】車両用サイドシル構造11は、アンダボデー17に連なり、インナパネル38とアウタパネル37とで閉断面形状を形成するとともに、下の互いのフランジ51同士を接合することでサイドシル本体32が形成され、下のフランジ51に連なるシル底部53に、アウタパネル37の下部を見たときに見えて、下のフランジ51に沿っている下端縁線部55が、下のフランジ51の下端56の地上高Hfと同等に形成され、下端縁線部55の近傍(第3アウタ底本体73)に泥や水の侵入を遮る遮蔽部61を有する穴14が開けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の床の左右に配置されている閉断面形状の車両用サイドシル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用サイドシル構造は、ドアの下方に位置し床の左右の端をなし、一般的に閉断面形状に形成したサイドシル本体が採用されていることから、製造工程でサイドシル本体の内部に入った液体を抜くために、サイドシル本体に水抜き用の穴が開けられている。そして、サイドシル本体は、安定感など車両の横、特に下部の外観を向上させるために、下方へはりだした形状としているものがある(例えば、特許文献1(図3)参照)。
なお、サイドシル本体には、車両横の下部の外観を向上させるために、サイドシル本体に沿って別部材のガーニッシュを下に提げたものがある。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)では、下方へのはりだし量が少なく、サイドシル本体を下方へさらにプレス成形で膨出させると、製造工程で入った液体や走行時に溜まった水や泥が水抜き用の穴から抜けなくなるおそれがある。
仮に、水抜き用の穴の形状やサイドシル本体の形状をそのままにして、ガーニッシュを取付けることで、下方へのはりだし量を確保することも可能であるが、ガーニッシュが必要になり、結果的に生産コストが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−59647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両の横、特に下部の外観を向上させ、サイドシル本体に取付けるガーニッシュを廃止し、サイドシル本体内に入った液体(例えば水)を排出し、サイドシル本体内への液体(例えば水)、固体(例えば泥)、気体(例えば走行風)の侵入を抑制した車両用サイドシル構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両の床をなすアンダボデーに連なり、乗降用ドアの下方に設けられて、インナパネルとアウタパネルとで閉断面形状を形成するとともに、車両の上方及び下方に向け突出している上の互いのフランジ同士、下の互いのフランジ同士を接合することでサイドシル本体が形成されている車両用サイドシル構造において、下のフランジに連なるシル底部に、アウタパネルの下部を見たときに見えて、下のフランジに沿っている下端縁線部が、下のフランジの下端の地上高と同等に形成され、下端縁線部の近傍に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部を有する穴が開けられていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、穴は、遮蔽部をサイドシル本体内へ向け突出させているとともに、穴の縁のうち車両後方側の縁に連ねて形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明では、車両の床をなすアンダボデーに連なり、インナパネルとアウタパネルとで閉断面形状を形成するとともに、上の互いのフランジ同士、下の互いのフランジ同士を接合することでサイドシル本体が形成されている車両用サイドシル構造において、アウタパネルの下部を見たときに見えて、下のフランジに沿っている下端縁線部が、下のフランジの下端の地上高と同等に形成され、下端縁線部の近傍に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部を有する穴が開けられているので、下端縁線部によって車両の横、特に下部の外観を向上させることができ、サイドシル本体に取付けるガーニッシュを廃止することができるという利点がある。
従って、車両重量の低減、生産コストの削減を図ることができる。
【0009】
また、下端縁線部の近傍に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部を有する穴が開けられているので、サイドシル本体内に入った液体(例えば水)を穴から排出することができる。
【0010】
さらに、下端縁線部の近傍に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部を有する穴が開けられているので、遮蔽部によって、サイドシル本体内への液体(例えば水)、固体(例えば泥)、気体(例えば走行風)の侵入を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、穴は、遮蔽部をサイドシル本体内へ向け突出させているとともに、穴の縁のうち車両後方側の縁に連ねて形成しているので、車両走行時に車両の底を後方へ向かって流れる水、泥、風切り音が穴を通ると、遮蔽部によって遮られ、サイドシル本体内への水、泥、風切り音の侵入を防止することができる。
【0012】
一方、サイドシル本体内に侵入した水、泥や、製造工程でサイドシル本体内に入る化成液等を穴から排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例に係る車両用サイドシル構造の側面図である。
【図2】本発明の実施例に係る車両用サイドシル構造の斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図2の4矢視図である。
【図5】図2の5矢視図である。
【図6】図5(b)の6−6線断面図である。
【図7】本発明の実施例に係る車両用サイドシル構造の排出機構及び侵入抑制機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。なお、図4(b)は図4(a)のb部詳細図である。図5(b)は図5(a)のb部詳細図である。
【実施例】
【0015】
実施例に係る車両用サイドシル構造11は、図1に示しているように、車両12に採用され、車両12の乗降口13の下に水などの液体を排出する貫通させた穴14が開けられている。以降で具体的に説明していく。
【0016】
車両12は、2ドア車で、2ドア用の車体15を有し、車体15は車体15(車室16)の床をなすアンダボデー17と、車室16の前に設けたフロントボデー21と、車室16の後に設けたリヤボデー22と、車室16の側壁をなすサイドボデー23と、を備える。なお、車両12を2ドア車としたが、車両は2ドア以外でもよく、車両の形態は任意である。
【0017】
サイドボデー23は、乗降口13の前枠をなすフロントピラー26と、後枠をなすリヤピラー27と、屋根側のルーフレール28と、下枠となる部位31を含むサイドシル本体32と、備え、フロントピラー26に乗降口13のドア33(図3)が支持されている。
ドア33には、図3に示しているように、ドア33を閉じた状態でサイドシル本体32などの枠に密着するシール材35が取付けられている。
【0018】
サイドシル本体32は、図1〜図3に示しているように、サイドボデー23のアウタパネル37と、インナパネル38と、サイドシル本体内補強部材41と、からなり、アウタパネル37とインナパネル38で閉断面を形成している。そして、底43に穴14が開けられている。
穴14は、図4、図5に示しているように、立体形で、三角錐状に塑性加工したもので、外穴45、内穴46を有する。詳しくは後述する。
【0019】
車両用サイドシル構造11は、既に図1〜図5で説明したように、車両12の床をなすアンダボデー17に連なり、乗降用ドア33の下方に設けられて、インナパネル38とアウタパネル37とで閉断面形状を形成するとともに、車両12の上方及び下方に向け突出している上の互いのフランジ48同士、下の互いのフランジ51同士を接合することでサイドシル本体32が形成されている。そして、下のフランジ51に連なるシル底部53に、アウタパネル37の下部を見たときに見えて、下のフランジ51に沿っている下端縁線部55が、下のフランジ51の下端56の地上高Hf(地面Gからの高さ)と同等(下端縁線部55の地上高Hs)に形成され、下端縁線部55の近傍(第3アウタ底本体73)に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部61を有する穴14が開けられている。
下端縁線部55の地面Gからの高さである、地上高はHsであり、下のフランジ51の下端56の地上高Hfよりわずかに高い。
【0020】
「アウタパネル37の下部を見たときに見えて」とは、御辞儀を深くしたときの一般的な目の高さや、かがんだときの一般的な目の高さからドア33の下方を見たときに見える、という意味である。
【0021】
穴14は、図4〜図6に示しているように、アウタパネル37に遮蔽部61をサイドシル本体32内へ向け(矢印a1の方向)突出させているとともに、穴14(外穴45)の縁のうち車両後方(矢印a2の方向)側の縁63に連ねて形成している。
【0022】
アウタパネル37は、シル底部(シルアウタ底部)53と、シルアウタ底部53に連ね立設しているシルアウタ側壁部65と、を有し、シルアウタ底部53は第1アウタ底本体71、第2アウタ底本体72、第3アウタ底本体73と、下端縁線部55とからなる。
シルアウタ側壁部65は、第1側壁本体75と第2側壁本体76とからなる。
【0023】
シル底部(シルアウタ底部)53は、詳しくは、断面視(図3の視点)において、下のフランジ51がほぼ垂直に形成され、下のフランジ51に連なり車両12の外側(矢印a3の方向)へ向かって第1アウタ底本体71が延びているとともに下のフランジ51に対して略直交(わずかに傾斜)させて形成され、第1アウタ底本体71に連ね第2アウタ底本体72が斜め下方(水平に対して角度δ)へ向けて延び、第2アウタ底本体72に連ね第3アウタ底本体73がほぼ水平に形成され、第3アウタ底本体73の外側の縁が下端縁線部55として形成されている。なお、下端縁線部55はシルアウタ側壁部65の下側の縁でもあり、言い換えると、第3アウタ底本体73の外側とシルアウタ側壁部65の下側との境界である。
【0024】
第1アウタ底本体71には、排出開口部74が開けられ、排出開口部74は、化成液を排出する孔で、化成処理後、下流の工程において、ゴム製の栓を嵌めることによってふさがれる。
第3アウタ底本体73は、第1アウタ底本体71より地上高が低く第1アウタ底本体71に対して下流の位置となり、下流から液体を排出する(図7(a)参照)ように第3アウタ底本体73には穴14が設けられている。
【0025】
穴14は、図4〜図6に示しているように、膨出した立体形で、第3アウタ底本体73に三角錐状に塑性加工したもので、第3アウタ底本体73に外穴45が三角形に開けられ、外穴45の第1縁63、第2縁63に連ねて中空の内方へ向け突出した遮蔽部61が車両12の前方(矢印a4の方向)の斜め上方(矢印a5の方向)へ向け傾斜した状態で形成され、サイドシル本体32を断面で見たときに(図3の視点)、遮蔽部61のくの字の縁78を縁とするとともに外穴45の残りの第3縁81を縁とする三角形の内穴46が外穴45に連通して、略車両12の前方(矢印a4の方向)へ向け形成されている。
【0026】
シルアウタ側壁部65は、図3に示しているように、ドア33との間に隙間を設けて、車両12の外面に含まれる第1側壁本体75が形成され、第1側壁本体75に連ね第2側壁本体76が下端縁線部55(第3アウタ底本体73の縁)に連なり、面取り状に形成されている。
【0027】
次に、本発明の実施例に係る車両用サイドシル構造11の作用を図1、図3、図7で説明する。まず、図3で見栄えを向上させる機構を説明し、図7で液体を排出する機構及び侵入抑制機構を説明し、図3で既存と同等の生産効率を確保している点を説明する。
【0028】
車両用サイドシル構造11では、図3に示しているように、車両12の外観の下方を矢印a6のように見ても、下端縁線部55を下げたことによって、サイドシル本体32の下のフランジ51は見えない。つまり、車両12の横(側面)、特に下部の外観を向上させることができる。
【0029】
サイドシル構造11は、下端縁線部55によって、サイドシル本体32の下のフランジ51を死角に入れるため、下のフランジ51を死角に入れるためのガーニッシュを廃止することができる。従って、車両重量の低減、生産コストの削減を図ることができる。
【0030】
図7(a)は液体の排出の機構を説明する図、図7(b)は液体や泥などの固体の侵入抑制の機構を説明する図である。
【0031】
(a):車両用サイドシル構造11は、塗装(防錆塗布)工程でサイドシル本体32内に入れた化成液Qを必要に応じて穴14から矢印a7のように排出することができる。
【0032】
(b):逆に、サイドシル構造11は、外穴45を通過した水、泥、音は、進行方向(矢印a8の方向)に隔たる遮蔽部61に当接するので、下方へ矢印a9のように向かわされ、侵入を遮られる。従って、水、泥、音の侵入を抑制することができる。
【0033】
なお、条件によっては、穴14は、水、泥の侵入を許すこともあるが、サイドシル構造11は(a)に示しているように侵入した水、泥を流下させて穴14から排出することができる。従って、腐食を防止することができる。
【0034】
また、(b)に示したように、サイドシル本体32内に液体、固体、走行風が侵入するのを遮蔽部61によって抑制するので、従来用いられている逆流防止弁付き部品を廃止することができる。
【0035】
アウタパネル37では、図3に示しているように、下端縁線部55を含めてシル底部(シルアウタ底部)53を形成することで、下端縁線部55の成形を含めてアウタパネル37のプレス成形作業は容易になる。すなわち、プレス成形作業に用いるプレス成形金型(図に示していない)とワーク(アウタパネル37)との干渉を防止したプレス成形金型の構造は簡単になり、結果的に、下端縁線部55の塑性加工は容易になる。
【0036】
また、このように下端縁線部55を含めてシル底部(シルアウタ底部)53を形成することで、下のフランジ51を既存のフランジと同様の形状とすることができる。つまり、下のフランジ51のスポット溶接作業に既存の溶接装置を使用することができ、且つ、既存のスポット溶接のスポット数を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の車両用サイドシル構造は、車両のサイドシル本体に好適である。
【符号の説明】
【0038】
11…車両用サイドシル構造、12…車両、17…アンダボデー、32…サイドシル本体、33…乗降用ドア、37…アウタパネル、38…インナパネル、45…外穴、48…上の互いのフランジ、51…下の互いのフランジ、53…シル底部、55…下端縁線部、56…下のフランジの下端、61…遮蔽部、63…車両後方側の縁、73…第3アウタ底本体、Hf…下端の地上高、Hs…下端縁線部の地上高。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床をなすアンダボデーに連なり、乗降用ドアの下方に設けられて、インナパネルとアウタパネルとで閉断面形状を形成するとともに、前記車両の上方及び下方に向け突出している上の互いのフランジ同士、下の互いのフランジ同士を接合することでサイドシル本体が形成されている車両用サイドシル構造において、
前記下のフランジに連なるシル底部に、前記アウタパネルの下部を見たときに見えて、前記下のフランジに沿っている下端縁線部が、前記下のフランジの下端の地上高と同等に形成され、前記下端縁線部の近傍に車外からの泥や水の侵入を遮る遮蔽部を有する穴が開けられていることを特徴とする車両用サイドシル構造。
【請求項2】
前記穴は、前記遮蔽部を前記サイドシル本体内へ向け突出させているとともに、前記穴の縁のうち車両後方側の縁に連ねて形成していることを特徴とする請求項1記載の車両用サイドシル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−195077(P2010−195077A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39386(P2009−39386)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】